ある日の事であった。

January 03 [Fri], 2014, 18:48
 ある日の事であった。まだ時間は早い。文士卓にはもう大勢団欒まといをしていて、隅の方には銀行員チルナウエルもいた。そこへ竜騎兵中尉が這入って来て、平生の無頓着な、傲慢ごうまんな調子でこう云った。
「諸君のうちで誰か世界を一周して来る気はありませんか。」
 ただこれだけで、跡はなんにも言わない。青天の霹靂へきれきである。一同暫しばらくは茫然ぼうぜんとしていた。笑談じょうだんだろうか。この貴族先生の顔色を見るに、そうは受け取れない。世界を一周する。誰一人それを望まないものはない。しかしどんな条件があるのだろうと、誰も猶予する。
「僕がしましょう。」興奮の余りに、上うわ調子になった声で、チルナウエルが叫んだ。
「その日数だけ休暇が貰もらえるかね。半年は掛かるよ。」中尉はこう云って、小さい銀行員を、頭から足まで見卸した。
「ええ。僕がいないと、銀行で差支えるのですが、どうにかして貰えないことはなかろうと思います。」実はこれ程容易な事はない。自分がいなくても好いことは、自分が一番好く知っているのである。
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