共泣き(檜木×蒼白) 

2005年12月12日(月) 2時16分
大切な人を思い出した。
名前を呼ぼうと口を開く。
…手が震えた。
唇を開いたまま動けなくなった。
「……。」
誰だったか。
散々呼んでいたせいで意識したことも無かった。
名前。
確かアルファベットの中の名前に似ていた。
老人のような呼ばれ方をしてからかわれていた。
あぁ誰だったか。
大切だったはずなのに、それすら思い出せなかった。
大好きだった微笑を向けられても、"裏切り者"といわれてる気がして急いで顔をそらした。

共泣き2(檜木×蒼白) 

2005年12月12日(月) 1時22分
そのうち

オルゴール(諌女+鏡/青×諌女) 

2005年12月11日(日) 23時50分
オルゴールが止まった。
軽快だったテンポが
ゆっくり速度を落として
―――止まった

「あ、…止まってしまったね。」
音が止まって始まった沈黙が酷く居心地悪かった。
暫くして無音になっていたことに気づいた鏡が、ぱたんと本を閉じる。
背中を預けていた鏡の背中が無くなって、背筋が凍るような感覚に襲われる
「ぜんまい巻いて来るから、
 すぐ戻るよ。」
離れた事を諫める様に掴んだ手を鏡がやんわりと制する。
糸が切れたように再び俯いた諌女に苦笑を洩らしながら、鏡は色素の薄い諌女の髪を撫でた。

床をスリッパがたたく音と、オルゴールのぜんまいを巻く音。
そしてことりという音と共に、再び軽快なメロディが流れ始める。

青の部屋にも同じ曲のオルゴールが置いてあった。
諌女が二人に贈ったものだった。
青がそのオルゴールを回している姿など渡したその時しか見たことが無かったけれど、諌女はそれで満足だった。
でも。
彼と離れた今、
彼が聞いてくれているといいと考えていた。
捨てないで欲しいと
どうか手にして欲しいと…―――

戻ってきた鏡の背に寄りかかりながら、諌女は涙を流し、曲が止まる時を静かに待った。

泣(篠女×香月) 

2005年12月10日(土) 23時19分
そして 泣けてきた。
何となく気が沈んで。
何となく淋しくなって。
悲しくて。
そして 泣けてきた。
「…何て顔してんだ。」
ボロボロと垂れ続ける涙を止めるすべもないまま、声のするほうを振り返る。
『…し、のめぇ…。』
酷く歪んだ視界で何とか篠女をとらえる。
屈んで視線を合わせる動作に優しさを覚えて、また涙があふれた。
「なに、泣いてんだよ。
 ガキじゃねぇんだろう?」
出会った当初"ガキンチョ"と呼ばれて、反発した事を言っているのだろう。
意気良く"ガキじゃねぇ"と叫んだのを覚えている。
『っ…な、んか…しのっめが…』
「あ?
 俺のせいかよ。」
口に出す言葉はきつくても、待とう雰囲気が酷く優しい。
男らしく骨ばった篠女の手が頭を撫でる。
自分の無骨な手で自分を撫でるのとは、まったく違う感じがするのが不思議だった。
『何かっ…淋しくて、悲しくて…
 篠女が、優しいからなく、んだ…』
「で?」
泣き止まない事に痺れを切らしたのか、篠女の腕がゆっくり自分を抱きしめる。
篠女を優しく叩かれると、胸がほわほわして涙が止まらなくなった。
『しのめがもっとやさしいから、
 止まらないんだっ』
はいはい、悪かった。と悪びれもない声を上げて、篠女の手が俺の背中を叩き続けた。

手(香月×篠女×香月) 

2005年12月07日(水) 3時05分
「あんたの手がすき。」
香月にそういわれた。
嬉しいと感じたわけでもなかったけれど、嫌だと思ったわけではなくて。
たぶん嬉しかったんだと思う。
『どうも。』
そう答えた。
『髪、ぐしゃぐしゃ。』
好きといわれた手で乱れた銀糸をすいてやると、顔がほにゃりと緩む。
その顔に、自分の顔も自然と緩むのがわかった。
『俺はその顔がすき。』
そう言うと、少し驚いて…またほにゃりと緩ませた。


『疲れた?』
事のすんでまだ熱を含む頬を篠女の手になでられていた。
「つかれた。」
気遣う声に閉じていた目を開ける。
自分が想い人を見るような目で見られていることに気づく。
「あんたの手がすき。」
恥ずかしくなって脈絡もなくそういった。
『どうも。』
触れられていたところが快楽のように熱くなった。
少し声が掠れていた。

ポケット2(香月×篠女×香月) 

2005年11月20日(日) 13時14分
寒さが酷くなってきた。
日に日に冷える風に篠女は苛々しそうに胸に溜まった息を吐き捨てる。
前に見たときよりも確実に白くなったそれにまた寒さが増した気がして首もとに巻いたマフラーに口元を埋める。
「お、しのめー」
この寒さにもかかわらず寒さを感じさせない香月の声に、篠女はポケットの中にあるぬくもりをきゅっと拳の中に閉じ込める。
『あぁ、一昨日ぶり?』
「一昨日ぶりー!」
嬉しそうにパタパタと駆けてきた薄着姿のBSを振り返りながら篠女は片手で軽く返す。
温まったポケットの中からいきなり冷気にさらされて、指先から小さな震えが起こる。
「しのめーさむいー。」
先日、自分がしてやったようにポケットの中に冷え切った手を押しこまれる。
『っ…つめてぇよ、がきんちょ。』
押し込まれた手を、ポケットの中で握られた自分の手ごと引き出してぽいっと捨てる。
再びポケットに手を戻しても先のようなぬくもりはえられず、篠女は不機嫌そうに眉間を寄せて見せた。
後についてくる事が当然と思って篠女は歩き出すが、その後を香月が追ってくる気配は無い。
不審に思い、香月の方を振り返ると、拗ねたようにゆがめた顔が目に入って篠女は思わず口元に笑みを浮べた。
『ったく。…ほれ。』
「…?…ぶっ。」
べチンとまではいかないまでも、勢い良く飛んできたものが顔面にあたり慌てて広げた掌にぱさりとおちる。
「…な、に?」
目を白黒させながら掌の上のものと、篠女の顔を交互に見る。
その様子が面白くて、篠女がくすりと笑った。
『手袋。寒いならつけておけばいいだろう。』
真っ黒な毛糸で出来た手袋をつけることなく、表を見たり裏を返してみたりして香月が目を見開く。
「なに、これタグついてない。
 篠女が編んだの?」
痺れを切らしたようにいそいそと手袋に手を突っ込みながら、驚いたように声を上げる。
『あぁ、香月のサイズに編んでやったんだ、ありがたくつかえ。』
その言葉に驚いていた表情が次第に緩み、へにゃりと心底嬉しそうな表情に変わる。
「ありがとうしのめ。
 すごい嬉しい!」
『どうたしまして。』
香月が飛びつかんばかりの勢いで走りより、満面の笑みを篠女に向ける。
ホクホクとした笑みを見て、篠女も嬉しそうに笑い寒さで寄っていた眉を少し緩めた。

眼(篠女×茴香) 

2005年11月15日(火) 1時42分
たまに、気まぐれで、左目を閉じてみる。
『やっぱ、みえないや。』
左目を閉じると直ぐ近くに居たはずの篠女の輪郭すらぼやけて見えない。
ぼやけるというよりは酷く暗い部屋に移ったかのように、白い色だけがぼんやりと輪郭を現しているだけで。
分かっているのに、幼いころから見えなかったせいか、見えないという実感も見えるという実感も無くて、突拍子も無く見えるようになるのではと、本当は見えているのではないのかと思えてしまう。
「またそれか?」
苦笑を浮べながら閉じた瞼をゆるりと撫でながら、篠女は茴香の髪を撫でる。
『だって、なんか見えないって感じがしないから。』
むーと子供のように口を尖らせて見せる茴香に苦笑を濃くした顔で笑う。
「"距離感もつかめるし、両目開けてれば普通に見える"って?」
『聞き飽きたみたいな言い方するなよ。』
不機嫌そうに眉を寄せながら、紙を梳く篠女の手に擦り寄る。
治ったらいいと思ったことは無い。
別に不自由はないし、20年近く機能していないものが動くとは到底思っていないから。
閉じていた片目をゆっくりと開いて、何度かしばたかせれば、暗かった視界が一気に明るくなる。
クリアになった視界の中で優しく笑う篠女の顔を見て、茴香はへらりと笑って見せた。

されるという事(香月×篠女) 

2005年11月13日(日) 18時31分
自らの吐いた息が幾度と無く手の甲に当たる。
その荒さに、熱さに興奮を覚えてきりと奥歯を噛み締めた。
『っく、ぁ…はぅ…』
それでも刺激を与えられれば、噛み締めていたはずの奥歯もあっけなく離れ、自らを煽る自らの甘い声が漏れる。
「アンタの中、相変わらずすげぇ気持ちいのな」
そんなに体重が軽いというわけでもないのに、自らを翻弄する香月の躯に軽々といった感じに揺らされる。
躯につられて、頭が激しく揺れてただでさえ靄のかかった頭に白い光に似たものを感じさせられる。
『ぁ、や…っんんぅ…あっ!』
その白い光に翻弄されて居る時に、香月の指が自身に絡んでビクリと腰を揺らす。
一層強くなった光を見ながら、果てる感じに背中が緊張して、背中が付いていたはずの布団から少し浮いた。
その間に香月の手が滑り込んできてきゅっと抱きしめられる。
「気持ちよかったんだ?だったら俺嬉しい」
耳元で聞こえた声に、自分が果てた事を再確認させられて酷い羞恥心に襲われる。
それと同時に、ふと誰かの果てた顔が一瞬頭に浮んで、更に頭に血が上った。
自分もそんな顔をしているのだろうと。
眉を寄せて、眉尻を酷く下げて、目をきつく瞑って、口は閉じることなく開いて。
なぜか鮮明に目に浮んできたそれに、篠女はきゅっと唇を噛む。
追い詰められてるわけでもないのに、時間が経つ度に膨れ上がる羞恥心に、篠女は、自らの後穴が絞まるの快楽の中で感じていた。

ポケット(香月×篠女×香月) 

2005年11月12日(土) 0時02分
『…寒い。』
薄暗くなった裏通りに香月の白い息が流れる。
微かに震えを含んだ声に、半歩先を歩いていた篠女がゆっくりと振り返った。
振り返った篠女からもほわりと白い息が漏れる。
「んな格好、してるからだろう。」
白い息を盛大に吐きながら篠女が香月の冷風にさらされた肌を見る。
『うるせぇな、職業服なんだからしょうがないだろうが…』
微かに口を尖らせて、横目で白い息の消える先を見つめる。
目に見えて深くなる闇に飲まれているかのように消えていく白から、篠女の呆れた顔に視線を移してじっと視線を合わせる。
「寒いのにその格好しろとか言うやつがいたら、同じ格好でルティエに篭って来てみろと言ってやれ。」
未だ呆れた様子を含んだままの篠女が苦笑を洩らし、手袋を取った手を香月に向かって軽く差し伸べる。
『自分でやってみろってか!』
篠女の言葉に心底楽しそうに香月が笑いを洩らす。
ひとしきり笑ってから、まだその笑みが残ったままの顔で差し出された手に自らの手を重ねる。
と、突然引き寄せられ、篠女の肩に引き寄せられたほうの肩がガツンと当たった。
「ったく、手袋くらいしたっていいだろうに。」
再び呆れを強くした声色で冷えたカヅキの手を包むと、自らのポケットにその手ごと突っ込む。
『…あったけ。』
「だろう?」
落ち着いたような香月の声を直ぐ近くで聞いて、篠女は満足そうに白い息とともにそう呟いた。
同じ高さから同じ速度で吐き出される白い配列が灯り始めた街の明かりに浮んでいた。

思い出(篠女(×雷)) 

2005年11月04日(金) 4時37分
腕をめいいっぱい上に伸ばしても微かに届かない手。
よくズボンを握り締めてついて歩いて苦笑した顔で見下ろされた。
頭をなでるときに降ってくるように真上からゆっくり降りてくる手。
くしゃくしゃと撫でられる手は、少し乱暴だけど凄く心地よかった。
いくら乱暴になでてもその後横から伸びてきた優しい手が乱れた髪を整えてくれた。
覚えてる、とても昔のとても幸せだったときの思い出。
乱暴な手も、優しい手も持ち主の顔はまったく覚えていないし夢にも出てこないけれども。
幸せだった。

「篠兄!」
突然呼ばれた自分の名に、ぱっと伏せていた目を開ける。
「もー、何度呼んでも起きないからさ、死んだかと思ったよ。」
「あ、おはようございます、篠女さん。」
横になっていたソファの前に仁王立ちになりながら、茴香が篠女を見下ろしていた。
その肩越しににこりと笑う篠芽にかけられた言葉で、いつのまにか寝ていたのだと教えられる。
『なんだよ。』
「なんだよじゃないよ、今日雷とどっか行くって言ってなかった?」
『あぁ、来たら直ぐ分かるから平気だろ。』
横で何か言っている茴香を尻目に、再び睡眠を貪ろうと目を伏せた瞬間、玄関のほうから響いてきた爆発のような音に篠女は一度伏せた目を開ける。
「わっ、ちょ…雷希さん大丈夫ですか!」
「うん、分かりやすいね。」
勢い良く振り返って篠芽が玄関に向かって走っていくのを見送って、篠女はゆっくり躯を起こし玄関に足を向ける。
『…だろう?』
心底楽しそうな篠女の笑みに、茴香は溜息をついて玄関の修理費に考えを馳せた。

「おっさんっ!おはよう!」
『あぁ、おはよう。雷。』
腰に巻きついてくる一つ頭余り低い頭を手で撫でながら、篠女は優しく笑った。
ふと、あの乱暴な手と優しい手を無意識に意識している自分がいることにきづいて、篠女の笑みが微かに寂しそうなそれに変わる。

幸せを失う悲しみは、随分昔に味わった。
乱暴な手も、優しい手もいずれ無くなったのだろうけれど。
自分にはそのときすべてだったから。
二度と失う悲しみは味わいたくないと思った。
夢に見た手に撫でられている様な感じにまだ夢心地なのだろうと篠女は苦笑を洩らして先を歩く雷希の背を追った。