始めに 

2009年08月01日(土) 21時59分
このブログはオリジナルBL小説サイトワタカナのGW期間限定企画用ブログです。
管理人がGW期間中ネット環境から離れてしまう為、携帯にて更新する為に使用しています。
番外編の短編をちまちま更新していきたいと思っていますので、本編をお読みになってからご覧下さい。

※更新終了いたしました!(5月6日22:50)後日こちらの番外編は、サイトのTextページへと移行致します。

小さな願い番外4 

2009年07月06日(月) 22時47分
連れて行かれた宿は予想に違わぬ、非常に豪華な宿だった。
案内された部屋も広く、豪華で置かれた家具や調度品には触れるのも恐いくらいで。
ルシュにとってみれば、予想も出来ないような豪華さで、宿の者達が至れり尽くせりに何もかもしてくれようとするのに戸惑い、身の置き場に困ってキールの後ろに小さくなっている姿に微笑ましげな視線が集り、感じる視線に一層身を小さくしてキールにぴったりと身を寄せる。
そんなルシュの様子に小さく笑い、荷物を運びお茶の準備をしてくれた宿の者達に礼を言いつつ、それ以上構わなくて良いと告げ、広い部屋の中二人きりになると、漸く少し肩の力を抜いた。
「…ルシュ、座れよ」
綺麗な革張りのソファーに腰を降ろすキールに、隣へ座れと促されて恐る恐るソファーの端に腰を降ろす。
「…わぁ…っ」
思いもよらない柔らかさに、座ったとたんにバランスを崩してグラリと倒れかけた体を、横から伸びてきたキールの手が支えてくれた。
「なにやってんだ」
「…だって、こんなに柔らかいと思わなかったから…」
笑い含んだ声で言われると、恥ずかしそうに俯いて言葉返す。
「誰もいねぇんだ、そんな硬くなってる必要ねぇだろ?」
固まって座っているせいで、余計にバランスが悪くなるのだと言われても、気になるのは人目だけではなくこの宿のそこここに漂う高級感で、慣れない雰囲気にとてもリラックスなど出来るはずもない。
飲め、というように渡されたお茶のカップも、薄く繊細な作りでちょっと力を入れれば割れてしまいそうな気がして、持つ手が震えそうになってしまう。
「んな簡単に壊れやしねぇよ」
言いつつ自分の分のカップ手にお茶を飲むキールの様子は、自分が知っているキールと何ら変わらず、少しだけホッとしてやっとお茶に口を付けた。
「…美味しい…」
「そりゃ良かったな」
今まで自分が飲んでいたお茶とはまるで別物のような味に思わず呟くと、笑み浮かべたキールが優しく頭撫でてくれる。
「さて、んじゃあ早速入るか」
自分のカップをテーブルに戻し、ルシュの手からもカップ取り上げてしまうと並べてテーブルに置いて、ルシュの腰抱くように立ち上がったキールに、つられて立ち上がりながら首を傾げる。
「…入るって…、温泉、ですか…?」
「あぁ、せっかく来たからな。とりあえず、とっとと入ってサッパリするぞ」
先程言っていた通り慣れた宿なのだろう、迷うことなく歩き出すキールに連れられて室内にあった扉の一つへと歩み寄る。
開けた扉の先に見たことのない温泉というものがあるのか、と少しわくわくとしながら開かれた扉の中覗き込むも、そこは少し小さな部屋のようになっていて、突き当たりにもう一つ扉があった。
「…ここは?」
「脱衣所だ。ここで服脱いで中入るんだ」
何も知らないルシュに楽しげに教えてくれながら背中を押す手に、素直に脱衣所という部屋の中へ入る。
ただ服を脱ぐ為だけに部屋を用意するなど、ルシュの常識ではとても考えられなくて、ただぽかんとした様子で見回すのを笑って見ながら、キールが服を脱いでいく。
「ほら、ルシュも脱げ」
「…あ、はい…っ」
早々に服を脱ぎ、腰に布巻いた格好のキールに促され、言葉だけでなくボタンを外そうと伸ばされた手に、自分で出来ると慌てて服を脱ぎ始める。
少し高い場所に作られた窓から明るい日差しが入ってきていて、明るい中で裸になることに恥ずかしさ覚えつつ、俯きながら服を全て脱いでしまって裸になる。
「…わ…っ、キ、キールさん!」
裸になった途端、伸ばされた手に抱き上げられて思わず悲鳴のような声を上げた。
触れ合う素肌が温かいのが一層恥ずかしい。
「暴れると落とすぞ?」
楽しげな声に脅されて仕方なく身を固くするルシュに小さく笑ったキールが、温泉へを続く扉を開ける。
「…わぁ…っ」
途端にもわっ、と暖かく湿気含んだ空気が体包むのに、思わず声を上げた。
中には、どこかの岩場に湧く泉をそのまま切り取ってきたような、そんな作りの温泉があった。
「凄い、あれが温泉ですか?」
「あぁ、浸かると気持ちいいぞ」
初めて目にするものに少しはしゃいで言うルシュに答えながら湯の傍へと足を進めると、脇に置いてあった桶で二人の体に一気に湯を掛けてしまう。
「わっ、な、なに?」
突然湯を掛けられてルシュが驚いている間に、その体抱えたまま湯に入り体沈める。
「…ふわぁ…、…あったかい…」
湯の温かさに一瞬身を固くして、すぐにホッと力抜くとくったりとキールに身を預けて思わずと言った様子で声を零す。
「…気持ちいいだろ?」
「…はい…」
ルシュを膝の上乗せたまま温泉に浸かり、しばしの間その心地よさを楽しんで、二人で静かな時間を過ごす。
時折、湯を掬いルシュの肩に湯を掛けていたキールの手が、それまでとは動きを変えてルシュの滑らかな肌を撫でた。
「…キールさん……」
背を滑り降り、尻へと掛かろうとしていた時にルシュが小さく名を呼ぶのに手を止める。
「…なんだ?」
邪な狙いなどおくびにも出さず返事返しながらルシュの顔覗き込めば、頬が赤く火照っていた。
「…なんか、ぐらぐらします…」
「…お前それ、のぼせてるだろ!」
真っ赤な顔で言われた言葉にルシュを抱えたまま慌てて立ち上がり、裸であることなど気にもせずに部屋へと戻ると、濡れたルシュの体だけ大きな布で包み水気とってソファーに寝かせた。
テーブルの上に置かれていた水差しからグラスに水を移し、ルシュに飲ませる。
「……のぼせるって、なんですか…?」
「温まり過ぎたんだ。ルシュは慣れてねぇからな…」
少し落ち着いたらしい様子にホッとしながら、思わず苦笑浮かべつつ説明し、自分の格好を思い出すと少し大人しく寝ているようにルシュに言い置いて、脱衣所へと戻る。
「…当分無理っぽいな、あれは…」
濡れたままだった体拭きながら、少し残念そうに呟かれたキールの声は、幸いにもルシュの耳に届く事はなかった。


END

小さな願い番外3 

2009年07月05日(日) 17時52分
「……ルシュ、起きろ…もうすぐ着くぞ」
軽く肩を揺らす手と、耳元告げる声に促されるように意識が浮上する。
「…ん…」
目を擦りながら完全に寄り掛かっていた体を起こし、眠そうに辺りを見回す。
「……なんか…、…変な匂い、します…」
眠そうに目を瞬かせつつ、辺りに漂う匂いに鼻を鳴らし思わず眉を寄せる。
「あぁ、硫黄の匂いだな。すぐ慣れるさ」
「硫黄…?」
話していると馬車が止まり、乗っていた人たちが次々に馬車から降りていく。
荷物を背負い後に続いて馬車を降りると、見たことが無いような景色にルシュは目を見張ったまま固まった。
「この町は、温泉で有名なんだ。ここらじゃ結構な観光地なんだぜ?」
町の大きさに対して、立ち並ぶ建物は素朴な雰囲気のものが多い。
手前の建物は簡素な物が多く、屋根だけがあって掘った地面に湯を流し、縁に置かれた椅子に座り足だけを湯に浸けている人たちも居る。
町の奥に行くほど大きな建物が多くなっていて、利用者の質も変わるのだろうと思わせた。
何よりも、どの建物からも湯気らしきものが上がっているのが見えて、沢山の湯気が揺らぎながら空へと上っていく様が不思議なものに見えた。
「…温泉って…なんですか…?」
「…そうか、ルシュの住んでた辺りには無いんだよな。まぁ、簡単に言えば湯が湧く泉だな。体に良い成分が色々溶け込んでて、その湯に浸かると疲れが取れたり、肌が綺麗になったりするらしい」
「お湯の泉…」
はぁ、と解ったような解らないような返事を返して、世の中には本当に色々あるのだなぁ、とボンヤリと思う。
裕福な家庭では体を洗う際に湯に浸かることもあると聞いたことがあったが、ルシュにとってはそんな勿体無い事はありえない話で、村に住んでいた頃は沸かした湯で体を拭くのが精々で、殆ど水浴びで済ませていた。
そのために、ルシュは温泉どころか湯に浸かったことすら無かった。
「ま、入れば解るだろ」
気持ちいいぞ、と笑ったキールが、ルシュの手を取り町の奥の方へと向かい歩き出す。
「…行くところ、決まってるんですか?」
立ち並ぶ建物に掛けられた看板を見れば、宿が多くあるらしいことがわかるのだが、迷う事の無い足取りに決めた宿があるのだろうか、と首を傾げる。
「あぁ、うちの母親が特に贔屓にしてる宿があってな。俺が来ていて他の宿に泊まったとバレると後が面倒だから、そこに行く」
先程聞いた話からも、キールは母親に弱いらしいと思わず笑み零しながらも、騎士の妻が贔屓にする宿では随分良い宿なのではないか、と気付いて気が引けた。
「…キールさん…」
「諦めろ。まぁ、たまにはいいだろ?」
言おうとした言葉を察したのだろうキールにきっぱりと言われてしまって、その上会ったことの無いキールの母の意向があると思えば、分不相応な思いはあっても、仕方ないと溜息を零すしかなかった。

小さな願い番外2 

2009年07月03日(金) 23時13分
山道を乗合馬車が登っていく。
山道、と言っても綺麗に土が均されて、二頭引きの大きな馬車が二台ほどすれ違っても余裕がありそうな広い道が作られていた。
ここまでの旅の間に山を越えることはあったけれど、どこも道は狭く道の所々に馬車がすれ違う為の空間が作られていて、道もでこぼことしていた為にかなり馬車も揺れるような道だった。
それだけ、この道はかなりの人が行き交うのだろう、と解る。
山の中に道を通し、道を広げて多くの人たちが行き交える様にするには相当な労力だろう。
それだけの事をして、行くだけの価値がその山の中にあるという町にはあるのだという。
そもそも、山の中にも拘らず町がある、というだけでも驚く。
山や森には魔獣が出現し易く、その魔獣たちから守る為にそれなりの強さの護符を必要とするから、山や森の幸を求め近くに作られる事は多くあっても、その中には村や町はあまり作られない。
その場所に、多くの人たちが集まるだけの何かあるのだろうとは思う。
実際に、乗合馬車も満員で、日帰りで隣町まで行くような、そんな気安さの人たちが半分を占めていた。
どこか華やいだような雰囲気で楽しそうに馬車に乗っている人たちを見ながら、本当に何があるのだろう、と首を傾げる。
馬車の行き先からレノン、という町に行くらしいことは解ったけれど、そこに何があるのかは全く解らない。
実際に行く段になってやはり行く先に何があるのか気になり聞いてみても、結局キールは何も教えてくれずにただ楽しみにしてろ、と言うばかり。
人気の場所、と言うからには何かがあるのだろう、と思ってみても全く想像がつかなかった。
「…キールさん」
「ん?なんだ?」
「キールさんは、レノンに行った事あるんですか?」
隣に座るキールに小さく声を掛けるとすぐに返事をくれるのに、興味津々に問い掛ける。
「あぁ、王都に住んでた時に何回か、な。母親が結構好きで、良く連れてこさせられた」
「お母さんが…?」
返答に、一層何があるのだろうと疑問が湧いてしまう。
「あぁ、あの人も結構良い家の出な癖に、乗合馬車で行くのが好きだったから、俺とか兄貴とか、たまに親父とかをを付き合わせてたんだよな」
「乗合馬車で?」
肩竦めつつ言ったキールの言葉に思わず聞き返してしまった。
裕福な家の女性が、乗合馬車に乗るなど聞いたことが無かったから。
「ぶっ飛んでる、って言っただろ?」
笑って言うキールに確かに聞いたけど、と驚いた気持ちのままに頷く。
「ま、俺も嫌いじゃないからいいんだけどな。…ルシュと行くなら、一層楽しみだ」
本当に楽しげに笑いながら言われて、結局行く先にあるものは全く解らない事に唇尖らせ不満表す。
「僕はまだ、楽しくないです…」
ふて腐れた風に言ったら、楽しげに頭撫でられた。
「もうすぐ着くから、すぐに解る」
やっぱり教えてくれる気はないらしい。
溜息付いて諦めると、体重を思い切りかけてキールに寄り掛かる。
ルシュが全体重をかけた所で、キールにとっては全く負担ではない事は解っていても、それくらいでしか不満を訴えられなかった。
「…少し寝てると良い」
「でも、すぐ着くんでしょう?」
「寝てたらな」
それはすぐに着くとは言えないのではないだろうか、とまた溜息吐き出して、進められるまま瞼を閉じた。

小さな願い番外1 

2009年07月02日(木) 22時45分
「ルシュ、ちょっと寄り道するぞ」
唐突なキールの言葉に、ルシュは思わず目を大きく開いて瞼を瞬かせた。
二人で王都への旅に出て、既に一月半ほど。
王都へ真っ直ぐ向かえばあと三日ほど、という目前の町へと着いて宿に落ち着いた途端に言われた言葉に驚いた。
王都へと近づいて行くほど整備された町が多くなり、王都へ行くということへの実感煽られるようで、楽しみではあるけれど本当に自分などが王都へ行っても良いのかと、不安な気持ちが湧き上がるのを持て余していたところで、更に王都への到着を遅らせる言葉告げられて返事に困る。
キールがそんな事を考えるはずがない、と解っていても、もしかして王都へ連れて行くのが嫌になったのでは、などと思ってしまって思わず視線を伏せた。
「…ルーシュ、何考えてる?」
俯いた頭がしがしと少し乱暴に撫でられて、手付きとは違い優しい声音に恐る恐る視線を上げる。
「お前を連れてってやりたい所があるんだ。王都からも近いから、またにしても良いんだけどな、一度帰ったらなかなか出られないかもしれねぇし、急ぐ旅でもないから、寄っていく事にしただけだ」
目が合えば優しい眼差しで丁寧に説明してくれて、ホッと肩から力が抜ける。
「…ごめんなさい」
何を不安に思っていたのか解っているだろうに、何も言わず今度は優しい手で乱した髪の毛梳きながら頭撫でてくれるキールに小さく謝る。
「…ま、お前が不安になる気持ちも解らなくはねぇよ。なんせ、あの辺境から王都だからな。ここらの町ももうかなりデカイのばっかりだし、段々王都に行くって言う実感湧いてきたんじゃないか?」
「実感、ですか?」
確かに、ここへ来て段々と立ち寄る町の雰囲気が華やかになっていくにつれ、夢の中の存在のようだった王都というものが、確かにあるものなのだと肌で感じられるようになってきた気がした。
キールが王都の騎士である、ということは全く疑いなく信じていて、それでも、心の中でどこか遠い存在だったのだ。
確かに、実感していなかったのだろう、と思う。
「…ホントに、僕なんかが王都に行っても良いんでしょうか…」
目の前のキールに手を伸ばし、広い背中に腕回して抱きつきながら、胸の奥に凝るような不安口にする。
「なんか、とか言うな。ルシュが来てくれなきゃ、俺が困る」
キュッと広い胸へと抱き込んでくれながら言われた言葉にも不安は消えてくれなくて、暖かな胸に頬を摺り寄せる。
「…王都へ行くんじゃねぇ、俺の家に一緒に帰るんだ。…そう、思えないか?」
「…キールさんの家に、ですか…?」
大きな手で背中をぽんぽん、と叩いてくれながら言われた言葉に顔を上げた。
「あぁ、俺の家に、だ。家がある場所なんて考える必要ねぇよ。ルシュは、王都の騎士だから俺と来てるわけじゃねぇだろ?」
「…はいっ」
言われて、キールだから一緒に行きたいと思った事に気付いた。
胸の奥に溜まっていた不安がスッと消えていくようで、嬉しくてまた強く抱きつく。
「…そういえば、寄り道って何処に行くんですか?」
不安が消えてしまったら、漸く行く先に興味が湧いた。
「…そりゃ、行ってからのお楽しみ、だな。山ん中だけどな、ここらじゃ結構人気な町だぜ?」
「人気な町、ですか…」
キールの返答に首を傾げつつも、それ以上聞くことはせず行く先をただ楽しみにすることにした。

ミツカイ番外4 

2009年06月06日(土) 13時42分
「…綺麗だろう?」
そっと優しく問い掛ける声に、やっと我に返ってフェルを見下ろす。
「あ、ゴメン俺、ずっと乗っかってて!」
慌てて背中から降りると、隣に並んでまた湖に目を向けた。
「ホント、凄い綺麗だよね…。俺が初めて来た時も、すっごく綺麗な水の湖だなぁ、って思ったけど…夜見ても、こんなに綺麗だとは思わなかった」
ほう、と感嘆の溜息吐き出しながら、素直に思ったままを伝える。
「昼間でも充分に美しいが、ここは月夜の晩が一番美しいと俺は思う」
素直な感想に気を良くした様子で、湖の方に顔を向けているフェルが教えてくれる。
「…もしかして…、だから今日散歩に誘ってくれた?」
月夜の晩だから。
そういえば、最近はあんまり綺麗に晴れる日って無かったかもしれない。
雨期が近い証拠なのかなぁ?とか勝手に思っていたんだけど、薄曇りでも雲が掛かっちゃってたら、こんなに綺麗には見えないし。
「…この景色を、見せたくてな」
視線を合わせないままに言うフェルに、珍しく照れてるんだろうか、なんて思ってみたりして。
いやだって、フェルって実は凄い恥ずかしい人なんじゃないですか?と最近ちょっと思ってたんだよ!
普通、真正面から口説く宣言とかしないしさ!
…でも、今日のは結構嬉しい。
ここに来て城に入って以来始めて外に連れてきてもらって、こんな綺麗な景色見せてもらって。
「…ありがと、フェル」
「…あぁ」
嬉しくて思わず頭撫でながら言ってしまったら、気のない返事が返ってきたわけですが……、尻尾、凄い振ってるけどね、フェル…。
なんだろう、いいなぁ、動物って!
フェルなのに、凄い可愛いんですが。たまに狼姿のフェルはどうしてくれよう、と思うときがあったりしてねー。
まぁ、仕方ないよね、動物だもんね、見た目。

それから少しの間、二人で無言のまま景色を堪能して。
二人で居ても何も喋らなくっても良い、ゆったりした空気って良いよねぇ。
で、このままずっと見てたいくらいだったんだけど。自分では意識してなかったんだけど、森の中でしかも水辺の空気に冷えたのか、突然寒くなって身を震わせたら、それに気付いたフェルが身を寄せてきてくれつつ、風邪を引いたら大変だと部屋に戻る事になった。
「…また、連れてきてやる」
名残惜しくて、フェルの背に乗ってからも振り返ってみていたら、宥めるみたいに言われてしまった。
「…うん。約束だからね?」
頷いて、念を押しておく。
いやだって、ホント綺麗だからまた来たいんだよ!
かといって、城から一人で歩いて来るにはちょっと大変そうな距離っぽいし。
「あぁ、解った」
なんだよー、笑いながら頷かなくたっていいじゃないか。
フェルがお勧めした景色なくせに。
ちょっとムッとしたので、森を駆けるフェルの首にぎゅうぎゅう抱きついてやる事にした。
少し苦しがるといいと思う。
…ちょっと冷えた体には、狼なフェルは暖かくて丁度良かったです。
っていうか、首絞める勢いで抱きついたのに全然利いてなくてガッカリですよ。
しかもやったら嬉しそうなのは何ででしょう。
塀の前に戻って背中から降りた時に見たら、尻尾がブンブン揺れてました。
…まぁ、俺も楽しかったからいいや。
次の夜のお散歩にも連れてきてもらおう!と思う。
また一つ、俺のこの世界での楽しみが増えました。


END

ミツカイ番外3 

2009年06月04日(木) 18時14分
で、壁の向こうに出たら、空気の匂いが変わった。
何だろう、元々こっちの世界の空気は凄く美味しくて、自然の匂いが満ちてるんだけど。
そりゃ、排気ガスなんてないし、科学的な物質とかなんて漂ってたりしないから当然なんだけどね。
塀を一枚越えただけで森の匂いが一層濃密になった感じ?
いや、まぁ出たそこは森の中、って感じだったから森の匂いが濃くて当たり前なんだろうけど。
「…ナガレ、そこで止まられると出られないんだが…」
思わず深呼吸とかしちゃってたら、また背中を鼻面で押されてしまった。
「あ、ごめん」
慌てて脇に避けてフェルが出てくるのを待つ。
出て来たフェルが、壁のどこかをタシタシと前脚で叩いたら、ズズッと壁が動いて穴が埋まる。
…はぁ、凄いよねぇ〜。
綺麗に塀の柄っていうか、積み上げた煉瓦風にうっすら線が入ってるんだけど、その溝に縁が擬装されてどこが切れ目なのかさっぱり解らない。
これも職人技って言うのかね?
「それで、どこに行くの?」
辺りを見回しても、見えるのは月明かりにボンヤリ照らされた木々だけ。
あとは、はっきり言って暗い中にこんもり木々が見えててちょっと恐い…かもしれない。
「…そうだな、ナガレと初めて出会った、あの湖の畔に言ってみるか?」
湖か〜。
あそこ、森の中って言っても湖があるから開けてるし、月明かりの中で見たら綺麗そうだよね!
「うん、行きたい」
素直に頷くと、ちょっと笑ったっぽいフェルにまた背中に乗るように促されて、地面に伏せて乗りやすいようにしてくれるフェルの背中に腰を降ろす。
「少し走るから、しっかり掴まっていろよ?」
「え?う、うん」
走るって…?と思いつつとりあえず頷いたわけですが。
「…ッ…!」
少しじゃないですよフェル…!!
走り出した勢いに後ろに倒れそうになって、慌ててフェルの首にしがみ付く。
いやだって、ホントにしがみ付かないと落ちそうなんだもん!
あー、絶対跨いで乗せてもらう方が安定すると思うんだけど!!
…しっかし、狼って走るの早いよねぇ…。
普通の狼より体も大きいし余計かね?
俺のこと乗せてるなんて思えない身軽さで、木々の間を駆け抜けていくわけですが、結構なスピードが出ております。
落ちたら死ねるかもしれない。
なんて、ちょっと不安になってみたりもしたけど、周りの景色を見る余裕なんてないままに――まぁ、余裕があったとしても暗い森の中だから楽しくもないだろうけど――運んでもらい、また空気の匂いが変わった、と思ったら広い場所に出ていて、ゆっくりとフェルが脚を止めた。
「…うわぁ…!」
凄い、綺麗。
いや、なんて言うんでしょう、目の前に広がる湖の水に月が映ってて、微かな風に水面が揺れるのに任せ白い月もゆらゆら揺れてる。
どんより暗く沈んで見えた森が、ここから見ると神秘的に見える。
素直に、あぁ、聖域って言われる場所なんだなぁ…、って思える感じ。
その景色に暫く見入ったまま、俺はフェルの背中の上でぽかんと口を開けていた。

ミツカイ番外2 

2009年06月03日(水) 14時42分
庭を抜けて辿り着いたのは、城の端っこでした。
…って言ってもさ、端ってのがどこなのかってのもまた微妙なんですが。
まぁとりあえず、この塀の向こう側はお城の外ですよ、ってことで。
「…どこ行くの…?」
塀沿いに木々が茂ってるわけですが、そっちに向かい真っ直ぐ進むフェルになんだか不安を覚えて聞いてみる。
いや、だって。
流石に城を囲む塀は当然かなりの高さで、まさか俺の部屋の庭の塀みたいに身軽に越えられるわけはないでしょう、と思うわけですよ。
「…一度、降りたほうが良いか…。…ナガレ、その植え込みの隙間が解るか?」
独り言みたいに呟いた後に、植え込みの前で足を止めたフェルに聞かれて、呟き通りフェルの背から降りると植え込みを良く見てみる。
…確かに、暗くてよく解らないけど、隙間みたいのが見える。
で、そんなものがあったら覗き込んでみたくなるわけで。
「…あ!これ…!」
丁度人一人が通れそうな植え込みの隙間を覗いてみたら、その先が微妙に道みたいになってる!
月明りが丁度木の隙間から差し込んでるから、通れる場所が解る。
なんというか、秘密の通路とかですか?という雰囲気にわくわくしてきましたよー。
「解ったか?」
「うん!隠し通路?」
振り返り聞いてみたら、入ってみろ、とでも言うように鼻面で背中を押された。
…口で言えばいいと思うんだけど、狼姿のフェルは時々こうやって動物的な行動を取ったりする。
思わず鼻筋撫でてあげてみたり。
うーん、月明りに銀の毛が綺麗だよねぇ。
撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めてくれたりするから、ちょっといい気になってしまったり。
で、気分良く木々の隙間を抜けてみたら、突き当りは壁でした。
…まぁ、塀に向かって歩いてたから当たり前かもなんですが。
でも、隠し通路みたいな道は狭くて一人が何とか通れるくらいだったんだけど、塀の前は少し広くなってる。
「…フェル?」
横に並んだフェルが、なにやら怪しい動きをしております。
いや、なんか足踏み…か…?
「…わ…っ!」
なんだこれ、なんだこれ!
フェルのおかしな動きに気を取られていましたら、突然ガコッという音と共に目の前の壁に穴が…!
えー、って言うかなに?本気でコレ隠し通路とか言う?
「なに今の!」
「この地面の下にここを開けるためのボタンが隠してあるんだ。一度踏んでも開かないが、数回繰り返し踏むと開くようになってる」
足元示しながら言うフェルに、しゃがみ込んでフェルが足踏みしてた辺りを良く見てみる。
うーん、暗くてさっぱり解らない。
まぁいいや、なんにしてもコレってばやっぱり隠し通路ってことだよね!
「隠し通路だよね?これ」
「あぁ、本来は有事の際に使うものだがな。ここのは裏の森へ散歩に出るのに丁度いいから、良く使ってるんだ」
なんというか、王様だから出来ること、みたいな。
他の人がやったら相当まずいよね、それ…。
ま、俺的にはとっても楽しいので良し!ですが。
「通っていい?」
「…あぁ、暗いから足元に気をつけろよ?」
わくわくと聞いたら、ちょっと笑いを含んだみたいな声で言われました。
むむ、見た目は狼な癖に。
まぁ結局うきうきと、壁にぽっかり開いた穴を通り抜けるんですけどね。
言われたとおり、足元には細心の注意を払ってね!
これでこけたりしたら恥ずかし過ぎるので。

ミツカイ番外編1 

2009年06月02日(火) 13時08分
あれ以来、夕飯を食べた後寝るまでのまったりした時間に、狼姿のフェルがたまに遊びに来るようになった。
なんでその姿?と聞いたら、表から来ると侍従や侍女を通さないといけなくて、面倒臭いから、らしい。
…だからってさぁ、王様がコソコソ忍び込んで来るってどうなの?と思うんですが。
いいのか、それで…。
まぁ、元々フェルはこの時間帯、仕事が無い時は気晴らしに、狼の姿であちこち散歩したりしてたらしい。
その散歩の中に俺の部屋が加わった、ってことみたいなんだけどね。
ま、狼姿のフェル見るの好きだからいいんだけど。
でもって、来て何をするのかといえば、特に何をするわけでもないという。
他愛ない話とかして帰ってく。
あ、あとはフェルのもふもふな体に触らせて貰ったりね!
つやつやふわふわな毛並みは、撫でるだけでも超気持ち良いんですよ…!
毎回そんな感じで、適当な時間になるとまたコソコソと庭から帰っていくフェルを見送っていたのですが。
今日は、一緒に散歩に連れてってくれる事になったよ…!
神殿に行った後、お披露目の日までまた外に出れない、って言われてブチブチ言ってたのを気にしてくれたらしい。
いやぁ、言ってみるもんだよね!
しかも、フェルの散歩コースってば城の外も入ってるらしいよ!
…と言っても狼姿じゃ当然城下町に行ける筈はなく、裏の森とか人気の無い辺りを回って帰るらしいんだけど。
あ、ちなみに裏の森っていうのは、俺が来た時に居た湖のあるところで、調度森の真ん中辺りにあの湖があるらしい。
森自体が聖域にもなってるんだって。
出来れば普通に人が居る場所を見てみたい、っていうのが本音だけど、我が儘は言うまい。
ま、外に出られるってだけで充分嬉しいからね!
夜だから狼なフェルはともかく、俺には景色も殆ど見えなくても気にしない!

で、部屋から出てみたわけでございますが。
月明りが結構明るくて、思ったよりも暗くない。
そしてなんと!
俺ってばフェルの上に乗せてもらっちゃってますよー!
いいのか、王様に乗っちゃって…、と躊躇したらば、最初に俺がここに来たときもフェルが上に載せて運んでくれたらしく、今更だ、と言われてしまいました。
左様でございますか…。
まぁ、俺的には楽だしいいんだけどさ。
…ちょこっと不満があるとすれば、俺の寝巻きってばちょっとネグリジェっぽい感じで、簡素なワンピースみたいなんだよね…!
だから、当然かっこよく跨いで乗る、なんて出来ないわけでして。
横向きに女の子みたいに乗らないといけないという。
なんだかねぇ…、と思いつつも折角だから楽しまないとね!ときっぱり諦めることにいたしましたよ。
「…重くないの…?」
俺を乗せてるにも関わらず、軽い跳躍で俺の部屋の外の庭を囲む塀を飛び越えたフェルに、思わず聞いてみる。
っていうかさ!飛び越えるなんて思ってなかったから凄い驚いたんですけど!
「…いや、軽いくらいだ。…痩せ過ぎじゃないか?ナガレ」
「…痩せ過ぎってことはないと思うけど…」
食べてもあんま太れないしね。
そもそも、フェル達とは根本的に体の作りが違いすぎるのが悪いと思う!
よって、俺が痩せてるわけじゃない!…と思う。
コソコソと小さく言葉を交わしながら、見回りしてたりする衛兵さん達の目を掻い潜り、庭を抜け塀を越えて敷地内を進む。
…しかしフェル…、ホントよく部屋抜け出してたみたいだね…。
なんでそんなに人目につかないようにするのが上手いんですか、みたいな。
だってさ、夜って言っても深夜ってわけじゃないし、まだ殆どの人が起きてる時間で、働いてる人たちもそこそこ居るんだけど。
でも誰もフェルと俺に気付かないという。上手く死角を抜けて歩いているらしい。
隠密行動が得意な王様って…どうなんでしょうね?
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