アラスカ直行、家族専用便…なぜ増える? 「チャーター便」ツアーの仕組み

May 20 [Thu], 2010, 14:54

国内航空会社の定期便減便が話題になるなか、存在感を増しそうなのが「チャーター便」だ。毎週決まった曜日・時間に決まった区間を飛んでいる「定期便」に対し、不定期に運行されている臨時便を指す。

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 パッケージツアーの広告を見ていて「チャーター便で行く旅」といった言葉を目にすることは多い。しかし、チャーター便とは、どういう仕組みで飛んでいるのか、誰が飛ばしているのか、意外と知らないことに気づかされる。チャーター便とはどういうものなのだろうか。

 チャーター便には、大きく分けて4つの種類がある。

1.個人や法人が航空機を貸し切る「1週間無利息キャッシング
オウンユース・チャーター」2.修学旅行のように同じ目的を持ったグループが貸し切る「アフィニティ・チャーター」3.航空機と宿泊などがセットになった旅行会社が主催する観光旅行向けの「インクルーシブ・ツアー・チャーター(ITC)」4.被災地への救援活動など、社会貢献

 一般に旅行に使われている、いわゆる“チャーター便”とは、3の「ITC」に相当するものだ。今回は、主に旅行会社が主催するITCについて解説する。

「人気路線の供給対策」がメイン

 旅行各社がチャーター便を使ったパッケージツアーを出しているが、狙いは何か。最も数が多いのが、「人気路線の年末年始や盆など需要が多い時期の供給対策」(JTB)だという。

 日本は、年末年始など長期の休暇を取れる時期が決まっていて、この時期に旅行に行くケースが多い。このような繁忙期には、定期便だけでは希望の日程の便が取りにくくなる。そこで、定期便のほかにチャーター便を飛ばすことで、利用者のニーズに応えるわけだ。行き先はハワイ、グアム、サイパンといった人気観光地が中心。確実に売れる時期なので、主催する旅行会社が企画しやすいチャーター便といえるだろう。

 最近では、地方空港から海外に直行するチャーター便が増えている。背景にあるのは、定期便の廃止。旅行会社や航空会社にとっては定期便よりもリスクが少ないのは魅力だ。

ユニークな行き先、家族専用機…新たな需要を狙う

 新たな需要の創出という側面もある。

 旅行会社は、これまで日本から直行便が飛んでいなかった国や地域にチャーター便を飛ばし、観光地を開発するなどしてニーズを掘り起こす。旅行業界でも低価格競争が進んでいるが、チャーター便を利用することで旅行会社は目的地やツアー内容に工夫をこらして差別化を図り、内容で勝負することができるからだ。

 例えば、近畿日本ツーリストの「直行便で行くポーランド8日間」は、ショパンゆかりの地でプライベートコンサートが見たり、美術館のギャラリーを貸し切って楽しんだりするといった独自の内容を盛り込んでいる。

 利用者としては、乗り継ぎがなくラクなことが一番のメリット。移動時間が短縮されるので、目的地での滞在時間も増える。例えば、日本航空(JAL)が運航しているパラオ行きの便は、グアム乗り継ぎで6時間かかるところ、直行便なら4時間で行ける。クロアチアに行く場合には、乗り継ぎで20時間のところ、直行便なら12時間で到着できる。行きにくかったり、行ったことのある人が少なかったりする珍しい地域に手軽に行けるのは魅力だ。

 また、JALの「家族専用機ファミリージェットで行くハワイ」は、12歳未満の子供とその家族の限定ツアー。授乳専用ゾーンやオムツ替えのスペースを用意するなど、ファミリーが気兼ねなく楽しめるように工夫されている。このようなユニークな企画ができるのもチャーター便ならではといえるだろう。

03年のSARS流行をきっかけに増加

 そもそも、日本で国際チャーター便が増えたのは、「03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行がきっかけ」(JAL)という。定期便の運休が増え、余った機材の活用方法として誕生したのがJALのアラスカ行きチャーター便だった。

 ヨーロッパの航空会社の場合は、冬場は暖かい地域へ数多く運航しているが、夏場は機材に余裕がある。そこで、日本のピークである夏休みにチャーター便として運航すれば、効率よく機材を利用できるというわけだ。

 このほか、日本への定期便での就航を考えている航空会社にとっては、需要予測という意味もある。チャーター便のニーズが大きければ、定期便への検討することもある。また、海外の航空会社の場合、日本進出への足がかりとするケースもあるそうだ。

 航空機マニアにとっては、珍しい飛行機に乗れるのも魅力の1つだろう。例えば、チャーター便専用航空会社であるスイスの「エーデルワイズ航空」の飛行機には、チャーター便でしか乗れない。発着時には、ファンが機体の写真撮影に訪れるという。

JALが多く、ANAが少ない理由は?

 国際チャーター便(ITC)は誰がどのようにして作っているのだろうか。

 まず利用する航空会社が国内の場合、主体は旅行会社もしくは航空会社となる。

 日本国内で国際チャーター便を運航しているのは、ほとんどが日本航空(JAL)だ。特にヨーロッパなど長距離を直行便で飛ばしたいときには、ある程度大きな航空機が必要になる。チャーター便に大型機材を回せる余裕があるのがJALだけというのが現状。

 現在、JALは機体270機を所有しており、その中の予備機材をチャーター便に回しているという。また、片道4時間程度の方面なら、空港に夜間駐機している機材を使うこともある。日本を夜出発して、利用客を現地に下ろして帰国し、朝からは定期便として運航するという。

 現在、JALは大型機材から燃費効率の高い中小型機材への転換を進めており、「中型機材の活用により、大都市以外からのチャーター便拡充による新規需要創造も視野に入れている」(JAL)。一方、全日本空輸(ANA)は、06年まで年間100便以上のチャーター便を運航していたが、数年前から合理化を進めて機材の余裕がほとんどなくなっていることもあり、ここ数年は年数便程度しか運航していない。

 JALのチャーター便の場合、新しい目的地を開発するときには、需要の伸びていて定期便がない地域や、日本にあまり紹介されていないが顧客に喜ばれそうな地域などを分析。その地域のベストシーズンにチャーター便を設定するという。

 07年からはJTBとチャーター便の共同企画を実施。この夏は、ショパン生誕200周年のポーランドに初めて飛ぶほか、定期便のないチェコのプラハやハンガリーのブタペスト、クロアチア、スロベニアなど14本のチャーター便を運航する予定だ。また、パラオやアラスカへの運航も計画している。

 「初めて国際チャーター便を運航する国や空港があるときには、入念に事前調査を実施する」(JAL)。例えば、その空港に乗り入れ予定の飛行機が発着できるか、機体の牽引機やタラップが使えるか、貨物の積み下ろしができるかなど空港の諸元を調査しなくてはならない。もし、機体が降りられないなら近隣の別の空港を調べる。牽引機がないときには、近くの空港から調達するなど、チャーター便のために設備の整備をすることもあるそうだ。

 さらに、現地の空港から目的地までのバスや鉄道などによる移動手段、宿泊施設、魅力的な観光スポットの調査、帰りの便の機内食の用意など、やるべきことは数え切れないほどあるという。

海外航空会社のチャーター便で活躍する「GSA」とは?

 一方、国際チャーター便においては、実は海外の航空会社の機材を利用するケースが圧倒的に多い。08年度の場合、国内航空会社が560便なのに対して海外航空会社は3942便も飛んでいる。

 そして、海外の航空会社を利用するチャーター便で活躍しているのが、「GSA(General Sales Agent)」だ。一般にはあまりなじみがないGSAだが、海外の航空会社と旅行会社の間をつなぐのが役割。航空機の輸入やリースを行う商社や航空会社OBなどが関わっていることが多いという。

 GSAはニーズがありそうなエリアを探し、海外航空会社に使える機材があるか、航空会社が運航するエリアの上空通過許可ライセンスを持っているかなどを調査。その結果をもとに、チャーター便を旅行会社に提案する。そして、旅行会社が航空会社と契約を結び、ユーザーにパッケージツアーを販売するのだ(もちろん、旅行会社がGSAを介さずに海外の航空会社と直接コンタクトを取る場合もある)。

 なお、海外チャーター便では、1つの旅行会社が1機まるごと契約することはまれ。複数の旅行会社で座席を分け合うのが一般的だ。その際の、エコノミーとビジネスクラスの座席配分調整・集約もGSAの役割だ。

 ちなみに海外の航空会社を利用したチャーター便では、旅行中にトラブルが発生したケースもある。マカオの航空会社「ビバ・マカオ」が突然資金難に陥り、2010年3月末に破綻したことは記憶に新しい。このときには、日本人のツアー客160人がマカオから帰国できなくなった。それ以前には、日本へのチャーター便を運航していたカンボジアの航空会社「アンコール航空」が08年に倒産して機材を差し押さえられ、運航できなくなったこともある。「特にアジアの航空会社を利用する場合には、慎重にならざるを得ない」と話す旅行会社もある。

相次ぐルール改正で変わる国際チャーター便

 国際チャーター便は、ここ数年、続けて規制が緩和されている。

 07年には、ITCで手配しなければならない宿泊施設が日程の「100%」から「半分以上」に緩和されたり、チャーター便を運航する航空会社が属する国に50%以上宿泊しなければならない(50%ルール)が撤廃されたりなどの規制緩和が行われた。

 さらに、08年12月にも大きなルール改正が行われている。まず、個人にチャーター便の航空券のみを販売する「個札販売」が可能になったのだ。また、発着地国以外の第3国の航空会社を利用したチャーター便を運航できるようになり、成田空港発着で国際定期便が就航している路線でも国際チャーター便の運航が可能になっている。

 この規制緩和で、例えば日本から欧州に行く路線でも割安なアジアの航空会社を使えるようになり、航空運賃を大きく下げることが可能に。「欧米の航空会社を使って欧州に行くと45万円かかるツアーがアジアの航空会社を使うと25万円でできてしまう」(旅行会社関係者)ほど差が出るのだ。

 背景には、世界的な不況で旅行需要が低下し、定期便が減少している点があげられる。定期便が減ることで余った航空会社の機材は、チャーター便で活用することができる。国際チャーター便を促進することで、旅行市場全体を浮揚させようというわけだ。

 ただ、個札販売については、今のところ積極的に行われているとはいえない状況だ。理由の1つは、使い勝手が良くない点。あらかじめ申請しておいた席数のみ、販売できるルールになっているからだ。よって、旅行会社がITC用に100席を押さえた場合、売れ残ったぶんを個札販売に回すことはできない。これ以外にも、路線によって個札販売できる席数に制限があるなど細かいルールが多数あり、容易に販売できないのが現実だ。

国際チャーター便のこれから

 規制緩和の影響もあり、旅行会社も航空会社も、今後、チャーター便を増やしていきたいと積極的だ。例えば、JTBは09年度に比べて販売座席数を約4割増の12万席、近畿日本ツーリストは約1割増の3万席販売する計画。日本航空も年間500便(片道換算)を運航する予定だ。

 というのも、欧米を中心とした多くの国では、旅行に使われる航空機の19〜20%がチャーター便と言われている。しかし、日本は4〜5%とかなり少なく、伸ばせる余地があると見られている。最近は定期便の廃止が相次いでいるが、トップシーズンだけチャーター便を運航すれば、リスクは少なくなる。地方空港だけでなく、羽田、成田などの都市部で発着枠が拡大しているのも追い風になっている。国際チャーター便は、今後、どんどん身近な存在になりそうだ。

P R
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