■ 最終リアクション <アルティメット・エンジェル・クラウン>編・プロローグ ■

December 31 [Tue], 2013, 0:19
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■ 最終リアクション <アルティメット・エンジェル・クラウン>編・プロローグ ■
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かつて新女で行われていた、新人王決定戦<エンジェル・クラウン>。
それをひときわ大規模にし、新女以外の団体からも新人選手が参加可能としたのが

<アルティメット・エンジェル・クラウン>(UAC)

である。
その内容は、

(1)シングルマッチによる1dayトーナメント戦
(2)タッグマッチによる1dayトーナメント戦

であり、日にちは別々なため、両方に出場することも可能である。
ここで結果を残せば、海外遠征やタイトル挑戦のチャンスが得られることになっている。
当然、野心に燃える若手レスラーにとっては垂涎のイベントといえよう。

現時点でエントリーを表明しているレスラーは――
(※リングネームはリアクション06終了時のもの)


【新日本女子プロレス】

《サキュバス真鍋》
《榎本 綾》
《ストロベリー香澄》
《ウィッチ美沙》
《小縞 聡美》
〈フランケン鏑木〉:<ニューフェイスカップトーナメント>優勝者
〈シャイニー日向〉:<プロレス大賞>新人賞受賞者
《木村 華鳥》


【ジャッジメント・サウザンド】

〈アトラス・カムイ〉
〈ランダ八重樫〉:<フィスト・アンド・ツイスト>準優勝者
〈高倉 ケイ〉:初代TWP世界タッグ王者


【WARS】

《永沢 舞》
《ジ・アプリコット(野村 つばさ)》
〈ティーゲル武神(武神 玲蘭)〉


【東京女子プロレス】

《星野 ちよる》:アイアンメイデン王者
〈アイリス吉野〉
〈南奈 るい〉
〈ぬるっち高橋〉


【JWI】

《金森 麗子》
〈紫乃宮 こころ〉:<EXトライエンジェルサバイバー>優勝者


【プロレスリング・ネオ】

《楠木 悠里》
〈ブラッディ・マリー〉


【日本海女子プロレス】

〈ルカ湖ノ宮〉:初代TWP世界タッグ王者


【激闘龍】

〈ブレイヴ・レイ(結城 零)〉


【パラシオン】

〈坂林 玲〉
《ソニア稲垣》


【VT‐X】

〈ルーチェ・リトルバード〉:初代<最汁レスラー>
〈オースチン・羊子〉
《草薙 ひよこ》


【Panther Gym】

《ハルク本郷》


【IWWF】

《ジェナ・メガライト》
《エレナ・ライアン》


【WWCA】

《グレース・ハン》


【TWWA】

《ソフィア・リチャーズ》


【AAC】

《ターニャ・カルロス》


【フリー】

〈アークデーモン〉
〈イレス神威〉
〈Σリア〉
〈水上 美雨〉
《ジョディ・ビートン》
《ジーナ・デュラム》


なお、最終的な出場者の決定や、シングル部門・タッグ部門いずれへの参戦なのか、といった詳細は後日発表される予定。

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■ 新日本女子プロレス SIDE
■ ジャッジメント・サウザンド SIDE
■ WARS SIDE
■ 東京女子プロレス SIDE
■ JWI SIDE
■ プロレスリング・ネオ SIDE
■ 日本海女子プロレス SIDE
■ 激闘龍 SIDE
■ パラシオン SIDE
■ VT‐X SIDE
■ フリー
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■ 新日本女子プロレス SIDE
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「これだけ雁首並べたあげく、ヨソに勝たれちゃ洒落にならんな」

《ボンバー来島》でなくとも、そう思うのは道理であろう。
参戦人数は新女が圧倒的に多い。
それでなくても主催は新女であるから、優勝を逃そうものなら、

「島流し、とか?」

とは、《マッキー上戸》でなくとも笑えない冗談というものであった。



「優勝は絶対条件なのです!」

大会を控えた決起集会で、ウィッチ美沙は気炎をあげた。
新ユニット【レッスルエンジェルス・ドリーム】の船出として、これに勝るものはないであろう。
逆に不覚をとろうものなら、

――全然、夢を見せられていない。

と見なされ、会社から解散を命じられても文句は言えぬ。

「かがりちゃんは、シングル得意だよね?」
「さぁて……どんなものやら」
「だって、<ニューフェイスカップトーナメント>で優勝したじゃない」
「? あぁ……そういえば、そんなこともあったような、なかったような」

小縞に言われ、ハタと思い出す鏑木。
せいぜい半年ほど前の話だが、もう何年も前のことのようである。

「あのっ、私も……っ」

と参戦を直訴する日向であったが、

「おやおや、わざわざ赤っ恥を晒しに推参とは、とんだ物好きなことで――」
「……っ!」

火花を散らす鏑木と日向……
ほどなく、UACを前に、両者の間で一つの“決着”がつくことになるのである。

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■ ジャッジメント・サウザンド SIDE
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「UAC? ……それが何か関係があるの? 今の私たちに」
「いえ、特には」

《南 利美》の問いに、《内田 希》は肩をすくめた。
【ジャッジメント・サウザンド】と日本マット界との“最終決戦”が迫る今を思えば、それは大事の前の小事。

「古巣の若手に、興味があるかと思っただけです」
「……あぁ、そういう意味」

エントリーされた選手のリストに目をやりつつ、南はふと眉をひそめた。
それは古巣【JWI】の欄ではなく、フリーランスの選手の項目において。

「誰かに、興味でも?」
「いいえ、別に。そんなことより――」

南利美は話題を変えた。

(……いずれまた、手を合わせる時が来るかもね)

水上美雨の名は、彼女にとって、そういうものであった。



《寿 千歌》の周辺は、こんにち何かと騒がしい。
【寿千歌軍団】は【ジャッジメント・セブン】と合併、【ジャッジメント・サウザンド】となったものの、実際問題、イニシアチブは旧J7側に握られている。
もっとも、仕方ない面もある。
《ライラ神威》を始めとして子飼いの面子が次々と離脱。
更に、一度は傘下におさめた【ワールド女子プロレス】や【太平洋女子プロレス】には実質離反されている。
この状況下では、千歌の発言権が弱まるのは是非もなかった。

そんな中での、UAC……

(……やるしかないようですわね)

既に、打つ手はいくつか用意してある。
後は、それを為すべきか否か、決断するだけ。
……もっとも、それが一番困難なことなのだけれど。



その点、彼女は既に決意を固めている。

――これ以上、手をこまねいているわけにはいかない。

〈アトラス・カムイ〉……いや、〈大空 ひだり〉。
これ以上、現状に甘んじていては、何も変わらない。
何も、取り戻すことはできない。

――それなら。

どんな手を使ってでも、己の求めるものを、手に入れてみせる。
それがきっと、己の肉体だけで全てを掴み取る、プロレスラーとしての流儀に違いなかった。



突如、浪速の地に出現した【ワールド女子プロレスZ】――
それは八重樫や高倉らにとっては、看過できない存在である。
さればといって、易々と動くことはできないのが、組織の一員の辛いところ。

「任せてください! アタシに秘策があります!」
「そうか。頑張れよ」
「ヒイッ!? そっけないにもほどがある対応!?」

どだい彼女たちにできるのは、リングで己を表現すること、それのみ。
その先に、あるいは新たな答え、新たな道が見えるのか?
それは、誰も教えてはくれないことなのだった。

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■ WARS SIDE
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「……凪は間に合わない、か」
「無理をすれば可能かも知れないけれど?」
「いや。……」

WARSの総帥、《サンダー龍子》は首を振った。
欠場から復帰を目指している〈上原 凪〉は、<アルティメット・エンジェル・クラウン>に出場を果たすのは困難のようであった。

「そのぶん、(永沢)舞や(野村)つばさ……」

そして、

「あの子が頑張ってくれるのではないかしら?」
「――そう願おう」

《フレイア鏡》が挙げたティーゲル武神こと、武神玲蘭。

「こちらも、色々と忙しくなりそうだし……」

役に立って欲しいものだわ、とフレイア鏡は微笑をたたえる。
その横顔を一瞥し、サンダー龍子は無言でグラスを空けた。……



UACへの参戦には心惹かれないでもなかったが、上原凪にはもっと為すべきことがあった。
それは、自分の大事なものを守ること。
そして、取り戻すこと。
祈っても、願っても、かなわないのなら。
己の拳と己の肉体で、奪い返す以外にはないのだから。



<ニューフェイスカップトーナメント>に続き、<フィスト・アンド・ツイスト>でも思うような結果を残せなかった武神玲蘭。
だが、それを悔いることはなかった。
なるほど敗北は恥ずかしく、惨めだ。
だが、その現実から目をそらして生きていくことの方が、どれだけ情けなく、みっともないことか!

――笑いたい奴は、笑えばよか。

どれだけ泥にまみれようと、どれだけ蔑みの視線にさらされようと。
己に恥じぬ生き方を貫くことができるなら。
それが、もっとも肝要なことなのだ。

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■ 東京女子プロレス SIDE
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「うちからは、若いの4人か。順当かな」
「そうですね。まぁ、シングル・タッグ両方とも優勝が義務ですけれど」
「あっさり言うねぇ。ちなみに、しくじったら?」
「ブッ殺します」
「……あ、そ」

《メイデン桜崎》の微笑みに、社長は苦笑するほかなかった。
実際、苦笑する以外にないであろう。

「例の“お笑いコンビ”も出場するようですし……ちょうどいいですわ」
「あぁ、初代タッグ王者(〈高倉 ケイ〉&〈ルカ湖ノ宮〉)か」
「いやですわ社長。ただの“ベルトの持ち主”ですよ?」
「……そうだな。そうだった」

そういうことにしておいた方が、何かと良さそうだった。



「タッグの奪還、任せるね!」
「う、う……ん、がんばる。……カナさんが」
「人任せ!?」

タッグ部門に出場の高橋と星野を激励する南奈。
できれば自分がタッグに出たかった南奈だが、めぼしいパートナーがいなかったのである。
また、吉野はシングルでの出場を図っている。

「――ご武運を」
「は、はい……っ」

《草薙 みこと》との修行の中、吉野のうちに芽生えたのは闘志か、あるいは――

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■ JWI SIDE
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「狙われますよ、こころさん」
「え……っ?」

《小川 ひかる》の言葉に、〈紫乃宮 こころ〉は目を丸くした。
<アルティメット・エンジェル・クラウン>の出場にまつわる話題のさなかである。

「そりゃ〜そうだよ。こころっち、実質、新人王みたいなものなんだから」

《金森 麗子》の言は、軽口のたぐいではない。

「新女のシャイなんとかってコはただのゴリ押しだけど、こころっちは実力でタッグ賞獲ったんだし」
「はぁ……」

確かにプロレス大賞のタッグ部門で賞は獲ったけれど、あれはあくまで

――おまけみたいなもの。

という気持ちが強い。
市ヶ谷と十六夜の影に隠れて、こっそり貰ってしまった、といった感覚。

「そんなことありませんよ。実力あってのことです」
「……っ」

《グリズリー山本》にフォローされても、いまひとつ実感がない。

「こころさんの気持ちはともあれ、」

彼女の“首”の価値は、高まっている。

「前夜祭では、バトルロイヤルもあるそうですし……」

そこで集中して狙われても、おかしくはない。
用心するにこしたことはないであろう。

「っ、大丈夫です! 誰がどれだけ立ちふさがっても!」

どんな壁も障害も、避けるのではなく、叩き壊して前進する。
それこそが、彼女が敬ってやまない、市ヶ谷イズムというべきもの。

(……そこは、真似しないほうがいいと思うけれど)

そう思う小川だったが、口には出さない。
市ヶ谷リスペクトは紫乃宮こころの根幹であり、それはマイナスにもなればプラスにもなる。
いい部分だけ残す、などといった器用なことは、簡単ではないのだから。

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■ プロレスリング・ネオ SIDE
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「出るからには、最高の結果を期待している」
「ヘッ。言われるまでもねーーよ」

《霧島 レイラ》の言葉に鼻を鳴らす〈ブラッディ・マリー〉。
<アルティメット・エンジェル・クラウン>……
そこで結果を出せば――
要は優勝すれば、文句はないだろう。

「ボクも、優勝以外は目指してません。マリーちゃんには負けていられないですし」

《楠木 悠里》も腕を撫す。
<覆面ドラゴンリーグ戦>で奮闘したマリーの姿に、刺激を受けたとみえる。

「ま、せいぜい頑張りなさい。万が一優勝できたら、ベルトに挑戦させてあげてもいいけど?」
「フン、その時は、そんな安ぴかおもちゃじゃなくて、もっと値の張る奴を頂きに行くっての」
「ホント、口だけは新人王クラスなんだけどねぇ〜」

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■ 日本海女子プロレス SIDE
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「そういえば――もう返事はあったのですか?」
「ん? 何の話だ?」
「UACの件ですよ。打診したのでしょう?」

《杉浦 美月》の言葉に、日本海女子のリーダー・《ロイヤル北条》はポンと手を打ち、

「あぁ、その件か。どうも、何かと忙しいようでな。まだ返答はない」
「忙しいのは結構なことですが……あまり猶予はありませんよ」

日本海女子のルーキー〈ルカ湖ノ宮〉は、現在渡米中。
当地のプロレス団体【TWWA】を中心に、あちこちで活動しているらしい。
巡業はもとより、PPV大会に出場するなど、なかなかの売れっ子っぷりだとか。
“湖ノ宮”は発音しづらいためか、“HND”(“Heel next door”)ルカ・コーニャと呼ばれ親しまれているという。

「もともとアメプロ好きだとは聞いていたが、これほど水が合うとは思わなかったよ」
「そうですね。……正直、早々に舞い戻ってくるかと思っていました」
「半年前の彼女だったら、そうだろうな」

以前の湖ノ宮遥華は、のどかな地方都市で平穏に暮らす、ちょっと引っ込み思案な女の子。
だがこの一年間で、そんな彼女は、はなはだしく変わった。

「なにせ今や、先輩方を飛び越してタイトルホルダー(初代TWP世界タッグ王者)ときている」
「…………」

その点、杉浦としては一言もない。

「……おっと、ちょうどメールが帰ってきた。なになに……フム。出場したいそうだ」
「そうですか。シングルで?」
「そのへんはまだ調整中、といった所のようだ。相手のあることだからな」
「……なるほど」
「どうした? 自分が出場したかったのか?」
「いえ。私たちには、私たちの道がありますから」

それでいいのさ、とロイヤル北条は微笑んだ。



アメリカラストマッチに臨んだ“HND”ルカ・コーニャの前に立ちはだかったのは、因縁の相手――

『コーニャ! 日本に帰るんですって? 勝ち逃げは許さないんだからねっ!!』
『うぅ……しつこいなぁ』

因縁の《ソフィア・リチャーズ》との決着は、どうやら日本でつけることになりそうだった。

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■ 激闘龍 SIDE
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「そっか〜、出るよね、やっぱり」

〈ブレイヴ・レイ〉こと結城零がUACに名乗りをあげたと聞き、《渡辺 智美》はうんうんとうなずいた。

「そうですねー、せっかくのチャンスですし……モノにして欲しいですけれど」

《AGEHA》がやや心配顔なのは、

「……彼女、責任感が強過ぎるから?」
「そうですねー……」

まだ彼女は新人にすぎない。
もとより、団体の看板を背負う気持ちは大事だけれど、

「もっと自由にやればいいと思うのですけどねー……せっかく、“ルチャ・リブレ”(自由な闘い)を学んでいるのだから」

結城零にとって、プロレスとは何なのだろう?
それはもちろん、本人にしか……あるいは本人にも分からぬことであるが。

「はぁ、はぁっ、はぁ……っ」

リングの上で汗を流す彼女を見守りつつ、先輩たちはあれこれと思いをめぐらせていた。……

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■ パラシオン SIDE
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「プロレスラーにとって……」

トレーニングの合間に、ふいに《葛城 早苗》が口を開いた。

「必要不可欠なものは、何だと思う?」
「貴方がそんなことを口にするとは、思いませんでした」

汗をぬぐいながら応じる《桜井 千里》。

「おかしいか?」
「いえ。ただ……」

パラシオンはプロレス団体ではあるが、いわゆる“純プロレス”を標榜しているわけではない。
さりとて、いわゆる総合格闘技=MMAを行なっているわけでもない。
その中間点、格闘プロレスともいうべき曖昧な存在である。
どっちつかずともいえるし、格闘技とプロレス、双方の良さを併せ持っている……とも、いえる。
少し前まで、古武術出身の《カンナ神威》がチャンピオンとして君臨しえたのも、そのグレーさのなせるわざであったろう。
葛城もまた、どちらかといえば格闘技寄りの存在であったはずだが。

「かもしれん。しかし」

人は、変わる。
良きにつけ、悪しきにつけ。

「それで、どう思う?」

プロレスラーとして、必要不可欠なもの。

「……闘志、でしょうか」

あるいは、リングに立つ覚悟。

「もちろん、それもある」

だがそれ以上に必要なのは、

「諦めの悪さ、かもしれん」
「…………」

もっとましな物言いがありそうだったが、つまるところ、

「彼女たちのこと、ですか」
「そうだな。……」

リング上で激しくスパーリングを重ねている二人の若手。

「そんな調子じゃっ、また勝てないわよっ!」
「っ、分かってる……っ!!」

新人の稲垣と坂林。
彼女たちは<ニューフェイスカップトーナメント>、<Top of the Cruiser Girls>、<EXトライエンジェルサバイバー>、いずれにおいても、結果を残せていない。
にも関わらず、また新たな闘いに臨もうとしている。

「戦場(いくさば)を選ばないのは、戦士の美徳です」
「……もっともだな」

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■ VT‐X SIDE
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「<ジャッジメント・ショウダウン>への対策はどうなっている?」
「問題ないわ。全て――順調」

【VT‐X】社長の問いに、《十六夜 美響》は悠々とした面持ちで応じた。

「そうあって貰いたいものだな。何しろ……」

これで、全てが定まるのだから。
彼らの未来、更に言えば、日本マット界の未来が。

「ふふっ。心配ご無用よ」
「期待しよう。ところで……」

続いて社長が話題にしたのは、<アルティメット・エンジェル・クラウン>の件。
VT‐Xからも、出場に名乗りを上げている若手がいる。

「あぁ……そのこと」

そっけなくうなずき、大勢に影響はない、と答える十六夜。

「でも――そうね」

十六夜美響は、微量の笑みを口元にたたえた。

「あの子たちには、いい“思い出作り”にはなるのではないかしら?」
「…………」



「ぜぇ、ぜぇ……っ」

因縁の宿敵(ただし一方通行)たる《永沢 舞》打倒に執念を燃やす〈オースチン羊子〉。
UACに彼女が参戦すると聞き、稽古にも更に熱が入っている。
そんな彼女に引っ張られるように、〈ルーチェ・リトルバード〉もトレーニングに精を出す。

「少し、入れ込み過ぎじゃないの?」

と《真壁 那月》などは案じるが、一度ついた炎は、そうそう消えるものでもないようだった。
願わくば、その炎が。
己の身すら焼くことがないよう、祈るのみ。

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■ フリー
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「う、上原さんっ! これ、見てくださいっ!」
「っ? どうした、はるみ?」
「こ、これっ!」

息せき切って《大高 はるみ》が差し出してきたのは、近々開催されるという新女主催のイベント<アルティメット・エンジェル・クラウン>に関するプレスリリース。
新人レスラーによるイベントということで、《ブレード上原》ひきいる【極東女子プロレス】からの参加は予定していない。

「これがどうした?」
「こ、ここ、見てください!」

と、はるみが指した先には、

「な……っ!?」

ブレード上原は、瞠目した。
そこには、ありうべからざる名前があったのである。

――〈イレス神威〉

上原らの同志である彼女だが、先の試合において深手を負い、現在はリハビリ中のはず。
その彼女の名が、なぜここにあるのか?
あわててイレスに連絡を取ろうとする上原たち……
しかし、それは無駄な努力に終わった。
イレス神威は数日前に、身を寄せていたリハビリ施設から姿を消していたのだ。

(イレス……お前は……)

これ以上無茶をすれば、レスラー生命の危機……いやそれどころか、最悪の事態すらありうるのに。

(いいのかっ? 燃え尽きてしまっても……っ!)

あるいはそれが。
イレス神威のサガであり、避けようのないさだめなのか?
ブレード上原の煩悶は、止む所を知らなかった……



「そうそう、頼まれていた件だけれど」

スパーリングを終えた後、《パンサー理沙子》がいった。

「エントリーできたわよ。お望みどおり、シングル部門でね」

それは、ありがたい。

「それと、これは提案なのだけれど……」

え?

「タッグ部門のリザーブチームに、エントリーしてみない?」

提案という名の命令、ですか?

「ふふ。まさかね。でも……」
「経験を積むのは大事なことよ。まして、注目される大会での試合を経験することは、ね」

まぁ、やれと言うならやりますよ。
リザーブチームなら、そもそも試合もないかもしれないのだし。
もちろん、いざ試合となったら、真剣にやりますけれど。

「そう? 助かるわ」
「さてそれじゃ、お礼にもう少し付き合ってあげるわね」

…………。
〈水上 美雨〉はリングに突っ伏したまま、うめき声をもって返答に代えた。……



「――そうね。貴方たちがタッグを組めば、まず、敵はいないでしょうね」

自室で寝酒をたしなみながら、《フレイア鏡》はスマートフォン片手に愉しげにいった。

「――他の面子? ふふっ、目ぼしい輩はいないわ。お笑いレスラーや、格闘技くずれの半端な連中ばかり」

貴方たちなら、優勝なんて瓶(かめ)からすっぽんを取り出すより簡単なことよ、と請け合う鏡。

「――えぇ。しかるべき処遇は約束するわ。首尾よく結果を残してくれたら、だけど」

「――では、期待しているわ。“Q.A.D”」

電話を切った鏡は、

「クイーン・アンド・デーモン……ね」

と、誰にともなくつぶやいた。
“女王”と“悪魔”……
なるほどこのタッグチームは、他チームの脅威となること疑いなし。
もっとも、

(ちゃんと機能すれば……の話だけれど)

毒と毒が混ざり合い、更なる致命の猛毒となるか。
はたまた、無害な苦汁へと堕すのか。
それはまったくもって、試してみるほか確かめようはない。

――果たしてまもなく、

「一丁、実戦テストといこうじゃねーか」
「せやな。本番前に“試し斬り”しとかんとな」

〈アークデーモン〉と〈Σリア〉の酷薄非情コンビが目をつけた“獲物”とは果たして……?。



「そういえば、あのコは出ないのかい?」
「さぁ。……いろいろ考えてるようですがね」

《ヴァーミリオン岸岡》の問いに、《オーガ朝比奈》は肩をすくめた。
あのコとは、ただいま猛練習の果てに失神し、道場の隅でブッ倒れている〈古城 桃子〉に他ならない。

「ま、いざとなりゃあ……」

ヒールらしい“参戦”も可能であろう。
乱入、闇討ち、入れ替わり。
それもまた、プロレス力のうちというものなのだから。



さまざまな思惑が交錯する中……
<アルティメット・エンジェル・クラウン>の開催は、迫っていた。



(Continued on‘Ultimate Angel Clown’)