
あれから1ヶ月、雪はあっという間に降り積もり、この世界は白でおおわれた。
彼女はまだ学校に通っていた。このまま変わらず居て、と願っているが、やはり僕の中で響くだけで届かないようだ。
僕はもう決心している。
こんな何も無かった僕を暖かくしてくれた彼女の目が光を失っていく。
彼女の視界に明かりを灯してあげたい。僕も映る様に。
それが叶わないのなら、せめて雪と白く消えてしまいたいと思った。
土曜日、今日も相変わらずの雪だ。
外では、子供達が寒さも忘れて楽しそうに遊んでいる。
僕は明日探しに行くことに決めていた。
一つ気がかりなのはこの天候だ。
明日だけはどうしても晴れしてください、と星にお祈りをした。これぐらいはあの彼も聞いてくれるだろう。
次の朝、空は透き通る様に晴れていた。
僕はカイロを出来るだけポケットに詰め込んで家を出た。
確かここだ。
辺り見回すと本当に何も無い。道も目印も。ただ何処までも真っ白な雪だ。
雪は深く、歩くのも大変だ。
それでも僕はじいさんが指差した方向へひたすら歩いていった。
冷たい風がビュービュー僕のほっぺを刺して痛い。
ふと、今までの人生を思い返してみた。
楽しかった思い出も、辛かった思い出も、結果的には色とりどりの綺麗な思い出になっていた。
あの時はあんなに辛かったのに...可笑しなものだ。
でも、何故か四年生以前の思い出は空白だった。
少し悲しかった。
彼女は今、何をしてるだろうか...僕が今、桜を探してるなんて思っても見ないだろうな...
もう少しだから...
僕はいろんなことを考えながら長い時間歩き続けた。
もう何時間歩いただろう...辺りは暗くなり始め、気温も下がり、空からは雪が降ってきた。足の感触はとっくに無くなっていた。
このまま見つからないのかな...
不安が僕を押し潰す。
辛かった思い出の様に今の不安も和らげば良いのに...彼女の顔が浮かんだ。
このまま消えるのはやっぱり悲しすぎる。
焦りを感じながら、前に進んでいると真っ白な雪の上を桜の葉が風に乗って飛んできた。
僕に居場所を知らせているようだ。
辺りを見回しても、それらしき物は見あたらない。
そうしてる間に辺りは完全に暗くなり、月の光だけが頼りになった。
もうすでに体力は無い。溢れてくる涙と体の震えを必死にこらえながら前へ進んだ。
もう、このくらいで良いかなと思えてくる。
もう、消えてしまった方が楽だ。
頭の中の彼女がぼやけ始めた、その時向こうの方に淡い桜色がかすかに映った。
やっぱり有ったんだ。
僕は精一杯、前へ進んだ。上手く進めない自分に、もう少し、もう少し、と言い聞かせながら必死に歩いた。
徐々に近づいてきた。
あと少し、あと少し。
でも、もう体がいう事を聞かない。
目の前には白い雪の上に咲いた桜。
綺麗な白桃。
冷たいのに優しくて暖かい光景に泣いた。
僕はその場に倒れ込んだ。
もう動けない。
冷たい雪が降り積もる。
僕は泣きながら笑っていた。
こんな僕でも、思い出は苦しい程、綺麗に色づいていたから。
僕はこのまま、雪と白く消えていく。
思い残した事は、僕の声を響かせられなかった事。
口の無い僕には、彼女に思いを見つけてもらうすべも無い。
だから、僕は雪と白く...
んぅ...
気付くと、消えてるはずの僕はまだ生きていた。
何時間たったのだろう...
すっかり雪は止んで、微かな光りが僕を包んでいた。
視界には桜の枝が入り込み、星空に桜が咲いている様に見えた。
ふと気づくと、僕の横には彼女が居た。
彼女は僕を心配そうに見下ろしていた。
何故、ここに居るのだろう...
僕は起き上がろうとしたが力が入らない。
もう、僕の体は動かない様だ。
そして、彼女が「あの大きな星が光りを照らしてここだと知らせてくれたの」
僕は直ぐにわかった。
彼はずっと見守ってくれていたんだ。
嬉しすぎて、また涙が溢れてきた。
彼女「ありがとう。でも、もう良いの...」
僕は何故、彼女がそんなことを言うのか理解が出来なかった。
もう、桜の木は目の前なのに...
彼女「私はずっと前からあなたのことを知ってるの。あなたは、あの時も私を助けてくれた。今度は私があなたを助ける番なの」
彼女はそう言って、僕の首の後ろに有るスイッチに触れた。
「ありがとう、また会えると良いわね。私のこと忘れないでね」と、涙目で微笑みながら、そう言って僕のスイッチを落とした。
ブツッ . . . ッ . . . 。
今日も母さんに起こされ僕の一日が始まった。
いつもと変わらない一日だ。
朝ご飯を急いで食べ、母さんに「行ってきます」
外は、すっかり春らしくなった。
もう桜が満開に咲いて、春風に揺れていた。
こんなに綺麗なら、ずっと咲いていれば良いのに。
僕は桜が大好きだ。
桜を見てると大切な人が僕を包んでいる様で...
暖かくなれるから。
おわり。