【執事】三日月×鈴木[クリスマス] 

December 24 [Wed], 2014, 3:18
クリスマスに休みなんてない。
興信所の仕事は、世間が浮かれている時ほど忙しい。
特にクリスマスなんて、絶好の浮気発見日だ。
朝から浮気調査対象の動向を探り、漸く決定的瞬間を写真におさめることが出来た。
データを会社に送り、一段落ついたと大きく息を吐く。

「…で、何でここに居るんデスカ」
「あー、バレちゃった」

後をつけられていることには気付いていた。
特に気にも止めなかったのは、その相手がトーリだったからだ。
俺の指摘にも悪びれることはなく、ふわふわした足取りで近づいてくる。

「仕事終わった?」
「見てたならわかるだろ」
「ふふ…じゃあ、遊び行こ?」
「断る」

断ると言っているのに、聞こえなかったのか聞いていないのか、俺の手を握り歩き出す。
離そうともがいても、トーリの細い指は離れてくれない。

「世界、手、冷たい。凍えそう」
「嫌なら離してくれませんかね」
「ダメ、離したら更に冷えちゃう」

ホテル街から繁華街へ抜けると、イルミネーションが飛び込んでくる。
街のあちこちから流れてくるクリスマスソングに、トーリが機嫌良さそうに鼻歌をかぶせる。

「…トーリ」
「なーに?」
「何であんなところに居たの」
「んー?」

聞こえているはずなのに答えない。
かわりに、俺の手を握る手が強くなり、歩く速度が速まる。

「ねー、世界。サンタさんにお願い事した?」
「は?」
「俺はねえ、お願い事したよ」
「…サンタなんて居るわけない」
「わからないよお。人魚だっているんだから」

冗談めいた言葉だけど、やけに説得力がある。
確かに、不思議体験を色々している身としては、そう言われると居てもおかしくないと思ってしまう。
それでも…

「居るわけない、そんなもの」

いい子にしていたって、どうしたって、願い事は、欲しいものは、手に入らない。
そんなことは、とうの昔に知っている。

「ねー、世界」
「何」
「サンタさんに、何をお願いしたと思う?」
「興味ない」

手を握ったまま、ずんずんと進んでいく。
トーリが止まった先は、大きなクリスマスツリーの前だった。

「あのね、」

トーリは振り返ると、握っていた手を強く引き、俺をその胸に閉じ込めた。

「世界と一緒に過ごせますように、って、お願いしたんだ」

冷えた耳に当たる、トーリの温かい息。
あれだけ賑やかだったクリスマスソングなのに、今はトーリの声しか聞こえない。

「ほら、叶ったでしょ?」

そう言って笑ったトーリは、イルミネーションなんかよりずっと眩しくて。
泣きたいような、笑いたいような、わけがわからない感情が押し寄せてくる。

「…離せよ…人前だぞ」
「誰も見てないよ」

そうして更に強く抱きしめられる。
確かに周りのカップルは自分達のことでいっぱいで、俺達のことなんて見ていない。
目に入るのは、目の前の想い人だけ。

「メリークリスマス、世界」

耳元に降ってくる声に言葉を返すかわりに、トーリの背中を抱きしめ返した。

【HQ】眼鏡【うかたけ】 

October 31 [Fri], 2014, 23:04
「大丈夫か、先生?」
「はい、何とか…」

部活動の最中、バレーボールが勢いよく武田の顔めがけて飛んできた。
咄嗟に烏養が庇い、幸い怪我はなかったのだが、武田がかけていた眼鏡が飛ばされ、フレームが歪んで使い物にならなくなってしまった。
泣きそうな顔で謝り倒す生徒に武田は大丈夫と笑いかけ、眼鏡をジャージのポケットに仕舞う。
心配をかけさせたくはなかった。
生徒にも、烏養にも。

大丈夫、と言ったはいいが、視界はぼんやりとしていてよく見えない。
平気な振りをしていたつもりだが、それでも気付かないうちに目を細め、武田の目付きは悪くなっていた。

「…先生、無理すんな」
「…え…」
「ろくに見えてないんだろ? あいつらは俺が責任持って見とくから、あんたはそんなしかめっ面しなくていい」

烏養の言葉に、随分と眉間に皺が寄っていることに気付く。
慌てて眉間の皺を取るように指で解した。

「す、すみません…」

そう言って、烏養を見上げる。
ぼんやりとした視界でも、烏養が笑ったのが判った。

(不思議だな…)

眼鏡がないだけで、こんなにもはっきりとしない、曖昧な世界が広がるのに
烏養のことだけは、はっきりと見える。
ぼんやりとした中でも、どこか眩しい存在。
眼鏡がなくても、人混みでも、きっと、烏養のことだけは見つけられる気がする。
そんな妙な自信が、武田にはあった。


「予備の眼鏡はあるのか?」
「はい、大丈夫です」

部活も終わり、その帰り道。
そのままでは危ないからと、烏養が送っていくと申し出た。
日も暮れた薄暗い道を、二人並んで歩く。

「転びそうなら、手でも繋いで帰るか?」
「な…っ…そんな、悪戯っ子みたいな顔で何を言うんですか」

切り返した武田の言葉に、烏養は目を見開く。

「先生、見えるのか?」

眼鏡もなく、日も暮れた道で、普通の状態でさえ、視界が悪い筈なのに。

「見えなくても、烏養くんがどんな顔をしているかはわかります」

そう言うと、武田の方から烏養の手を握る。

「…本当、あんたには敵わねえよ、先生」

握り返される烏養の手の熱に笑みをこぼし、きっと烏養も同じような顔をしているんだろうと思った。

【執事】三宮×山野井 

October 15 [Wed], 2014, 2:56
「何をぼんやりしている?」

多少の天然はいつものことだが、今日はいつも以上にぼんやりしている。
暫く様子を見ていたが、このままでは頼んだ珈琲がとんでもない味になって出てきそうな予感がして、三宮は山野井に声をかけた。

「あっ…ごめんね、万里」

謝りはするものの、相変わらず気もそぞろで。
三宮は小さく嘆息し、何があったのか話すよう促した。

「実は今日、ホテルで披露宴があって」

山野井の勤めているホテルは、日本屈指の高級ホテルで、披露宴会場に使われることもある。
勤務中に、新郎新婦を見かけたのだと言う。

「花嫁さん、すごく綺麗で幸せそうで…なんだか思い出したらぽーっとしちゃった。ごめんね」

純白のドレスに身を包み、キラキラと輝く笑顔で会場に向かっていた。
最愛の人と結ばれる晴れの日。
山野井はいつの間にか。新婦の姿を自分に重ねていた。
隣を歩く新郎は、勿論…

ソファに座る三宮を盗み見る。
きっとタキシードもよく似合うだろう。
ベールを上げると、不遜な笑みが飛び込んできて
二人は誓いの口付けを交わす。
あり得ないとわかっていても、そんな馬鹿げた想像をしてしまう。

「お前、ドレスが着たいのか?」
「そ…ういう、わけじゃ、ない、けど…」

サイフォンの側から三宮の隣に移動し、ソファに腰掛ける。

「…ドレスとかはどうでもいいけど…万里のお嫁さんだったら、なってみたいかな、なんて…」

こんなことを言ったら呆れられるだろうか。
ちらりと三宮を見上げると、口付けが降ってくる。
そのままソファに押し倒され、三宮の手がシャツの中に忍び込む。

ーこのまま返事もなく誤魔化されるのだろう、そう思いながらも
三宮と結婚が出来るならという未来を、想わずにはいられないのだった。

【執事】[栄養補給]アルバート×丸山 

September 20 [Sat], 2014, 6:06
「アルバート! お前も来てたのか」
「…こんにちは、リン」

呼び止められたその声に振り返り、努めて自然に笑顔を作る。
普段ならばそんなことをしなくても、彼の顔を見れば笑顔になるのだが、今日は勝手が違う。

暫く原稿に掛かりきりで、まともに休んでいなかった。
漸く〆切を片付け、少しでも彼の顔が見たいと、休んでいない身体をおして三宮邸へとやって来た。
一目でも見られたら。
しかし、体調のことを知られれば、きっと心配をかける。
それだけは避けたかった。
だがー

「…アル、こっち。ちょっとこの部屋に居て」

リンは私の顔を見るなり、空いている客間に押し込めて部屋を出て行く。
絶対に部屋から動くなと付け加えて。
一体どうしたというのか。
わけがわからぬまま、それでも彼の言葉を無視するわけにもいかず、ただ部屋で待つ。

暫くすると、彼が戻ってきた。
手には、何やら器の乗ったトレーがある。

「あっ 何で寝てないんだよ!」
「…す、すみません…?」

寝ていろと言われた覚えはないのだが。
彼の言葉には何故か素直に謝ってしまう。
布団に入ると、彼は満足そうに頷き、ベッドの端に座る。

「はい、これ食べて休んでな」

彼の持っていた器には、リゾットのようなものが入っていた。

「これは…?」
「お粥。お前、具合悪いんだろ? ご主人様にも許可貰って来たから、今日はここでゆっくり休みな」

彼の顔と、湯気が立つ器ーお粥を見比べる。
どうして気付いたのだろう。
隠し通せる自信はあった。
ポーカーフェイスは得意だし、彼は普段鈍い方だ。
いつも以上に気を付けていたはずなのに。

「お前、気付かれないと思ってただろ。具合悪いのなんて、見ればすぐにわかるんだよ」

拗ねたような、怒っているような口調。
唇を尖らせ、こちらを見つめる瞳には心配の色が滲んでいる。
そんな顔をさせたくなかったから、気付かれないようにしていたのに。
見たかったのはそんな顔ではなくてー

「…リンの、笑顔が見たくて…」

思わず口をついた言葉。
嗚呼、なんて情けない。
こんな姿を見せるくらいなら、来なければ良かった。
そう思うけれど、彼に会えるチャンスを一日でも延ばしたくなかったのは事実で。
どうしても会いたかったのだと続けると、彼はきょとんとした後、頬を染めて小さく「馬鹿」と言った。

「いつでも会えるし…お前が元気になったら、いくらでも笑ってやるから…」

だから今は休めと、まるで子供をあやすように頭を撫でてくる。
知られたくないことを平気で見破ったり、ちょっとした言葉に照れたり、急に兄ぶったり
そんな貴方だからこそ、こんなにもこんなにも惹きつけられ、こんなにも焦がれるのだろう。

「リンの言う通りにします。だからーお粥、食べさせてくださいませんか?」

病人の顔で甘えてみせると、少しはにかみ、仕方ないなと笑った。
嗚呼ーやっぱり貴方の笑顔が、私には一番の栄養補給のようです。

【執事】十条×松木  

August 19 [Tue], 2014, 20:57
どうしてこうなったんだろうか。
ろくに働かない頭をフル回転させる。
床に転がったビール缶。
その床に両手をついて自分の身体を支える俺。
両手の間には候星の頭。
つまり、床に押し倒しているような姿勢になっている。

「…拓哉…?」

驚いたような顔で見詰めてくる。
そんな候星を見詰め返したまま、動けなくなっていた。

いつものように一緒に夕飯を食べて
いつものように適当にだらだらしていた。

「拓哉、お酒飲みすぎ。明日休みだからって身体に悪いよ」
「たまの休みなんだから飲ませろよ」

ビール缶を何本か空けた頃、候星にたしなめられた。
二人でのんびり出来る時間は久々で。
こいつが居れば大丈夫だろうと飲み過ぎた自覚はあった。
それでも、ふわふわと心地よい気分を持続させていたくて、まだ開けていないビール缶に手を伸ばす。

「だーめ。これはまた今度ね」
「いいだろ、あと一本だけ」
「それはさっき聞きました。もう駄目」

そこで引けばいいのに、やけにむきになってしまった。
候星が持つ缶を奪い返そうと手を伸ばした。
俺の手からビール缶を遠ざけようとした候星が、バランスを崩す。
そのまま押し倒すように、候星の上に覆い被さっていた。

退かなくては。
そう思うのに、自分の下―腕の中にすっぽり収まるところに候星が居る。
その事実が、このまま閉じ込めてしまいたい衝動に駈られる。

「拓哉…?……酔っ払っちゃった?」

心配そうに呟いた候星が、俺の頬に手を伸ばす。
さっきまでビール缶を持っていた指先はひんやりとして、熱を持った頬に心地好い。

―このまま、口付けてしまおうか。
細い首筋に吸い付いて、白い肌を紅く染めてやりたい。
細い腰を掴んで思いきりナカを揺さぶったら、どんな声を出すのだろうか。
首筋を指でなぞると、候星が身動ぎした。

「ひゃっ…拓哉、くすぐったいよ」

クスクスと笑う無垢な笑顔に我に返る。
―まだ始まりもしていない関係を、馬鹿な過ちで終わりにするなんて出来ない。

「…悪い」

慌てて候星の上から退く。
候星は、さして気にする様子もなく起き上がると、「大丈夫?」と俺の心配をしてきた。
真っ直ぐな目で覗き込まれ、本心を隠すことが難しくなる。

「…あー、大丈夫………酔ってるみてえだ」

こういう時は、全て酔いのせいにしてしまおう。
水を取ってくると立ち上がる候星を見送る。
―今はまだ。もう少しこのまま。
生温い関係のままでいい。

「はい、拓哉」

冷たい水を飲み干すと、頭も冷えてきた。
深く息を吐くと、まだ心配そうに顔を覗き込む候星と目が合った。
あまり見られると、また変な気を起こしそうだ。

「もう大丈夫だから…風呂入って酒抜いてくる」
「駄目、余計にお酒回るよ」
「大丈夫だっての…」
「だーめ。今日はもう休んで、明日にしなよ」

そしてまた、堂々巡りのやり取り。
きっとこれから先も、こいつは俺の気持ちなんて気付かずに、こうして傍にいるのだろう。
―もしも、いつか。
候星が俺の気持ちに気付いて、この関係が友達以上になることがあるなら。
その日までは、このまま。
いつものように二人で休んで、起きたら二人で食事をする。
当たり前の―だけど、幸せな日常を繰り返す為に。

「おやすみ、候星」
「おやすみ、拓哉」

【執事】三宮←斉藤[ご主人様の誕生日] 

August 10 [Sun], 2014, 0:27
三宮邸の大広間。
いつもは静かなお屋敷も、今日はとても賑わっていた。

今日はご主人様の誕生日。
今年は執事達を集めての誕生日パーティーが開かれていた。

「……華やか…」

思わず呟く。
執事―とは言え、お屋敷に集まっているのは、有名なアーティストさんやスタイリストさん、若手俳優さんなど、テレビや雑誌で見るような人達だ。
ボクのような一介の学生とは違い、スーツを着てそこに居るだけで、すごく華やかに見える。
そんな華やかな執事達の中にいても、一際輝いて見えるご主人様。
改めて、遠い存在なんだと再認識する。

あの日、偶然ご主人様に出会い、どういう気まぐれか執事として雇って頂いた。
はじめは戸惑いしかなかったけど、今はご主人様の為に、ボクに出来ることは、出来る限り尽くしたいと思っている。
だけど―新聞やテレビでご主人様を見かける度
他の執事が活躍しているのを見かける度
ボクなんかがお側に居るのはおこがましいんじゃないか―なんて思えてくる。
今だって…近付くことすら出来ず、大広間の端でご主人様の様子を眺めるしか出来ない。

「……はぁ…」

小さく溜め息をついて、大広間を出た。
せっかくのお祝いなのに、こんな気持ちでいたらダメだ。
ちゃんと、明るい気持ちでご主人様のお祝いをしなければ。

渡せずにずっと持っていた、ご主人様への誕生日プレゼントに視線を落とす。
綺麗にラッピングして貰ったそれは、新聞配達で稼いだお小遣いで購入した、アロマセット。
朝刊を届ける時、ここ何日か寝不足気味なようだったから、安眠効果のあるものを選んだ。
けれど…

「渡せる、かなあ…」

華やかな人達に囲まれた、より華やかなご主人様。
あの人達を掻き分けて近付く勇気が持てない。
もう一度溜め息を吐いた時―

「何やってんだ、斉藤」

背後から、凛と響く声が聞こえた。

「……ごしゅじん、さま…」

振り返ると、先程まで大広間にいたはずのご主人様が居た。

「どうして…」
「御園が鬱陶しいから抜けてきた。で、お前は何やってんだ」

思わず声に出ていたらしい呟きに、ご主人様がそう答える。
さっき、ご主人様の隣にべったりと張り付いていた御園さんが思い出された。

「……その…」

どうしよう。
こんな鬱々とした気持ち、ご主人様には言えない。
誤魔化そうにも言葉が出てこない。
何も答えないボクに、少し苛立ったように再度何をやっていると聞いてくる。
どうしよう。どうしよう。

ああ、もう―

「あのっ…これ…!」

頭が真っ白になって
気付いたら、プレゼントを差し出していた。

「…あ?」
「ご、ご主人様に…お渡ししようと思ってた、けど…その…………緊張、して……それで……少し、落ち着こうと…」

声が震える。
こんな情けない渡し方するつもりなかったのに。
もっと、他の人達みたいに、堂々と
笑顔で渡したかったのに。
声だけじゃなく、プレゼントを持つ手も震える。

ボクはまだ子供で。
他の人達みたいに、立派な職業に就いているわけでも、天才的な才能があるわけでもないけど
それでも

「…ああ、ありがとな」

それでも、少しでもご主人様のお役に立ちたいから。
ご主人様のお側に居たいから。
まだ自分に、何が向いているのかもわからないけど
どんなことでも、ご主人様のお役に立てるなら。

「誕生日…おめでとう、ございます…」

震える声でそう言ったボクの、震える手からプレゼントを受け取ると
もう一度「ありがとう」と言って、優しい手で頭を撫でられた。

【執事】菅原×三宮 

August 09 [Sat], 2014, 5:49
「は?」
「ですから、本日の予定は無くなりました」

ペット帝国との騒動もおさまった頃。
屋敷のバーで酒が飲みたいからと、出勤を命じられた菅原が屋敷へ行くと、待ち構えていた橘にそう言われた。

「ご主人様が言い出したことなんですがねえ」
「事情が変わりました。本日はもう帰宅なさい」

三宮の横暴には散々振り回されてきたが、わざわざ稀少な酒を要求され、苦労して手に入れてきた菅原は、橘の言い分に納得がいかない。
本人が姿を見せずに一方的に断るというのも三宮らしくない。

「あんたじゃ埒があかねえ。いいから通せよ」

橘の制止も聞かず、ずかずかと三宮の私室に向かう。
ノックもせずに開けると、ベッドにだらりと横になる三宮の姿があった。
だが―

「…あんた、それ…」

三宮の頭には、あるはずのない獣の耳がついていた。
それは先日まで、屋敷の執事達に付いていたものによく似ている。
つけ耳ではなく、実際に「生えて」いる獣耳。

「申し訳ありません、ご主人様。止めたのですが」

後ろから追い掛けてきた橘が、三宮に謝罪の言葉を投げる。
三宮は気だるげに上体を起こし、菅原を一瞥してから橘だけ部屋から出ていくよう指示する。
残された菅原は、三宮の頭を無遠慮にじろじろ見た。

「まさか、こんな面白いことになってるとはな」

菅原の視線に、三宮は不機嫌そうに眉を寄せる。
そして、断りを入れた顛末を話した。

気付いたら獣耳と尻尾が生えていた。
以前、同じような目に遭った執事達を思い出すに、どんな身体的変化があるかわからない。
この身体で酒を飲んでも平気だという確証がない為、急遽断りを入れることにしたという。

「だったら最初からそう言えば良かっただろ」
「言ったら面白がって見に来るだろうが」

どのみち同じ結果になってしまったが。
三宮はそう呟いて嘆息する。
不機嫌そうな三宮と連動して、長い尻尾がゆらゆら動く。
尻尾の形からして、どうやら獅子のようだ。
百獣の王とは、いかにも三宮らしい―声には出さないが、菅原はそう思った。

「知られたからには、元に戻るまで監視下に置かせてもらう。いいな」
「ハ、俺がハイわかりましたって言うこと聞くと思ってんのか?」

菅原はベッドに上がると、三宮との距離を詰める。
上に跨がり肩を掴むと、そのままベッドに押し倒した。

「あんたを独占したいと思わせてくれないと、うっかり他の奴に言っちまうかもなあ?」

口端を上げてそう言う菅原に、三宮は舌打ちする。
眉間に皺を寄せ菅原を睨むと、尻尾が大きく揺れた。
菅原は尻尾に視線を向け―それを根元から先端まで撫で付ける。
と、三宮の身体が強張るのがわかった。

「……そういやアンタ、俺に尻尾が生えた時も散々触ってくれたよなァ」

逃げられないように体重をかけ、ゆっくりと尻尾を撫でる。
それまで味わったことがない感覚が、三宮の全身を駆け抜けた。
もっと触ってと腹を見せたいような、喉を鳴らしたいような、不思議な感覚。
だが、そんな姿を晒すことなど出来るはずもなく、菅原の大きな掌に耐えるしかなかった。

「……アンタのその顔…」
「…あ?」
「すげえ…イイ」

ペットとしての本能に逆らおうと耐えているだけで、自分がどんな顔をしているかもわからない。
菅原の手は、尻尾から次第に身体のあちこちに触れてくる。

「…てめぇ…それ以上触んじゃねえよ」
「聞こえねーなァ」

愉しそうに笑う菅原の方が、まるで獲物を捕食する獰猛な獣のようだと思いながら
三宮はもう一度、忌々しげに舌打ちをして目を閉じた。

【執事】[縁日]三日月×鈴木 

July 22 [Tue], 2014, 5:59
「せかいー、こっちこっち」

カラコロと下駄が音を鳴らす。
ろくに着方も知らない癖に浴衣を着たがったトーリは、おかしな帯の締め方をしていてもやけに様になっていた。
呼ばれるままに近付くと、手を繋がれる。

「世界も浴衣着たら良かったのに」
「面倒くさい」
「似合うと思うよー」
「似合いマセン」

遠くから音頭が聞こえる。
今日は縁日。
出店が並ぶ賑やかな通りを、はぐれないよう手を繋いだまま歩く。
トーリは出店に興味津々で、きょろきょろと落ち着きがない。

「あ。」

何か目当ての出店を発見したらしく、人混みを掻き分けて進んでいく。
向かった先は、金魚すくいだった。

「よーし、トーリくん頑張っちゃうぞー」

鼻歌まじりに金魚すくいをするトーリ。
結果、一匹だけ掬って店を後にした。

「ふふ、可愛いねえ」

ビニールの袋の中で泳ぐ金魚を見て、機嫌よく笑う。

「そんなの持ち帰ってどうするんデスカ」

―どうせすぐ死なせてしまう癖に―

出かかった言葉を飲み込む。
トーリはそんな俺に気付いているのかいないのか、ふとこちらを見て笑った。

「この子、世界に似てるよね」

小さな袋の中、息苦しそうにひらひらと泳ぐ金魚。
一体どういう意味だろうか。
睨むようにトーリを見詰めると、更に機嫌良さそうに目を細めた。

「ねー、世界」
「何ですか」
「この子、大事に育てるね」
「……、…そうですか」
「うん。……ねー、世界」
「何」
「来年はさあ、世界も浴衣着ようね」

今年の縁日もまだ終わっていないのに、そんなことを言う。
先の約束なんてしたって、トーリはいつも自由で、どこかに飛んでいってしまう癖に。
金魚だってどうせ、すぐに飽きて死なせてしまう癖に。
きっとすぐに忘れてしまうだろう約束に、それでもすがりたくなる自分が居るのは確かで。

「…………そう、デスネ」

小さく返した言葉に、トーリの握る手が強くなる。
トーリの手の中で泳げるのなら、狭く息苦しい中で泳ぐのも悪くないかも知れない―
夏の暑さと縁日の喧騒に目が眩みながら、そんなことを思った。

【執事】十松 

July 12 [Sat], 2014, 15:45
頭を撫でる優しい手。
暖かくて、心地よいこの手を、俺はよく知っている。
まだこの温もりを感じていたい―そんな想いもあったが、いつまでもこの手を煩わせるわけにもいかない。
瞼を上げると、予想通りの顔がこちらを見ていた。
見慣れた、けれど決して飽きることのない、いつもの笑顔。

「起きた?」
「……ああ」

上体を起こすと、そこが玄関先であることに気付いた。
さっきまで寝ていた俺の頭があった場所は、こいつの膝の上。

「…何で、こんなとこで…」
「玄関開けたら寝てたんだよ。覚えてない?」

言われて思い出す。
昨日まで会社にカンヅメで、睡眠もろくにとっていなかった。
ふらふらになりながらも何とか家までは帰れたが、玄関をあがったところで力尽きた。
そこに訪ねて来たのが、こいつ―松木候星だ。

せめてベッドまで俺を運びたかったが無理だった為、それならばせめてと膝枕をしていたらしい。
そこで膝枕という発想になる辺りが、天然というか、こいつらしいというか…。
呆れた溜め息と共に、笑いが込み上げてしまう。

「悪かったな。…足、痺れただろ」
「大丈夫だよ。拓哉は心配性なんだから」

いつ起きるかもわからない人間にずっと膝枕をしていて、大丈夫なはずがない。
それを笑って大丈夫と言えてしまうところが、こいつのすごいところだ。

「それより拓哉、また無茶したんでしょ。頑張りすぎだよ、もう」

文句を言いながらも、勝手知ったる様子で部屋に進み、うちに置きっぱなしになってるこいつのエプロンをつけ始めた。
おそろく何か栄養のあるものでも作ろうとしているのだろう。
部屋に入り、料理を始める背中を眺める。

今まで、何度こうして、同じような時間を過ごしただろう。
これから先、何度こうして、同じように二人で過ごせるだろう。
どんなに仕事が忙しくても、疲れて倒れるようなことがあっても、こいつと過ごす時間があれば何でも乗り越えられる気がするから不思議だ。

もうすぐ出てくるだろう美味い料理を想像し、忙しく料理を続ける背中に笑みを向けた。

【執事】斉藤正一[キスの日] 

May 23 [Fri], 2014, 23:47
いつもの日常。
この行為を、そんな風に思うようになったのはいつからだろう。
ご主人様にとって、ボクは大勢いる執事の一人で。
こんな行為にも大した意味はなくて。
だから、ご主人様を想うその痛みを忘れるように行為に没頭する。
それでも。
時にはもっと…こんな、躾やお仕置きなんかじゃなく。
もっと、甘い関係を築きたいと…夢を見てしまう。



「躾」が終わると、ご主人様がそっとボクの頭を撫でる。
うまく出来たご褒美なのか、時折こうやって優しい手を与えてくれる。
まだ気だるさの残る身体を横たえたまま、ご主人様を見つめる。

身体だけでも繋がれるのは嬉しいけど―でも、本当は…

ボクの視線に気付いたのか、怪訝な顔をする。
身体を起こすと、頭を撫でていた手が頬に触れた。

「何か言いたいことがあるようだな、斉藤」
「………い、いえ…」
「――斉藤。」

あんまりじっと見つめられると、顔を逸らしたくなる。
けれど、ご主人様が頬を押さえているのでそれも出来ない。
困ったまま視線をさ迷わせると、咎めるようにご主人様が強くボクの名を呼んだ。

「隠し事をするな。…今ならお前の望みを叶えてやってもいいが?」

機嫌がいいのか、口端を上げてそんなことを言う。
ご主人様の形のいい唇が弧を描く。
そこから紡がれる凛とした声も、熱く絡めとる舌も、綺麗に並んだ歯も。
どれも、ボクを捕らえて離さない。

衝動的に、ご主人様の唇に自分のそれを重ねる。
ただ触れるだけのキス。
それなのに、ボクの全身は幸せで満たされていく。

「……すみ、ません……き、キス…したく、て…」

自分で自分の行動に驚く。
唇を離すと同時に謝る。
―いくらご主人様が綺麗だからって、何をしてるんだろう…。
けどご主人様は、そんなボクの行動にくつくつと笑い出す。

「謝らなくていい。叶えてやるって言っただろう?」

そう言うと、ボクの腰に腕を回して引き寄せてくる。
咄嗟にご主人様の胸元にしがみつくと、顎を掴んで上向かせた。

「まさか、あれだけでキス…なんて言ってんじゃねえだろうな?」

噛み付くように口付けられ、唇を割って舌が入り込んでくる。
くらくらする程に熱く、甘い時間。
唇から伝わり熱を帯びていく身体を全て預け、降り注ぐキスを受け入れていった。

P R
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