第一話。洗礼と鎮魂歌... 

May 05 [Sun], 2013, 5:00
 

...今日もこの時間が来た。午前4時3分...
煌びやかな夜の蝶が羽根を休め、タバコに火を付け、息を吐く。
赤紫の空が映す静寂は、ほんの何時間か前を一瞬にして包み込む。〜喧騒に生きる者への鎮魂歌〜に聴こえる。
時折響き渡るカラスの声が、現実の世界へと誘う。そして...また始まる。

「充電してなかったぁ...」緋都はボサボサの髪を束ね、鏡越しで呟いた。
昨夜帰宅した姿のままソファで朝を迎えた。携帯電話の充電器をカバンに入れる。
タバコに火を付け、お気に入りのバンドの曲を流す。
缶コーヒーとタバコ。朝はいつもそんなものだ。

緋都...24歳、肩書きは風俗嬢。自分が生活する分だけをただ稼ぐ。
親兄弟には言えない仕事だが、プライドがそこにあった。5年間もしていれば、それが一番楽で何にも干渉されない。
この世界に入ったきっかけ...
何も目標がなかった、生きることですら疑問に感じていたある日
街でよく見かける光景、スカウトに話しかけられたひと言。

『お金いっぱい稼ぎたくないですか?』こんなひと言。

今振り返って考えれば、怪しい言葉。それでもそのスカウトの巧みな言葉に
乗せられていた。見た目もカッコよかった。ただそれだけ...

「何の仕事があるん?」口を開いた言葉がこれだった。

本当に乗ってくるとは思ってなかったんだろう。拍子抜けしたスカウトが告げた一言は
風俗の仕事だった。しかも一番誰もが敬遠する『ソープ』の世界。

スカウトはスカウトバックというマージンで金を稼ぐ。これは場所によって様々だが
大抵は、店とスカウト会社で協定を組み、スカウトマンがスカウトした人間を店に送る。
送り込まれた人間を店側が査定し、査定に見合ったマージンをスカウト会社に支払う。
スカウト会社から報酬としてスカウトマンに支払われる...という流れだ。
容姿端麗の人間をスカウトできれば需要と供給の世界なだけにスカウトバックも大きくなる。

緋都は誰もが認めるほどの容姿端麗ではないが、サバサバした性格と負けん気の強い所を見抜かれていた。
それでも化粧をすれば見違えるほど美人になる...と読んで声をかけた。

「いいで。ソープで。ちまちま考えるくらいならその世界に行ったるわ。」
緋都の言葉とスカウトの読みは大きく当たった。
入店1ヶ月にして指名予約が取れないほどの人気嬢となった。月に稼ぐ金額が100万円を超えた月もあった。もちろん世界観も価値観も変わっていく。
スカウトも送り込んだ人間が長く続けていくだけマージンがかすり取れる。
もちろんそんな事情を緋都が知る由もない。

『元気そうじゃん?てっきり辞めたのかと思ったよ』あの時のスカウトが話しかけてきた。
もちろん続けていることを知ってた上で、今の環境を続けさせるために近づいてきた。
3ヶ月経ったこのタイミングを見計らって...

『そういえば彼氏いるの?』スカウトは世間話で空気を和ませた。

「いるわけないやん。居たらこんな仕事してへんわ」緋都が投げかけた。

『そうなんだ。緋都ちゃん可愛いからいるのかと思ったよ、じゃあ俺、候補として手挙げるね』
冗談交じりな言葉にして頭をクシャクシャと撫でた。
『軽い気持ちじゃないんだよ、これでも。もしOKなら連絡してよ。』
名刺の裏にアドレスを書いて渡した。
緋都に気持ちを変えさせず継続させるための手段なんて微塵も感じさせなかった。


・・・緋都が生きる場所・・・


P R
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風俗の世界で生きる緋都(ひと)。緋都が生きる場所と取り巻く人間の物語。
登場人物ならびに店舗名等はすべてフィクションです。
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