大人なわたし、子供なあなた。

May 29 [Sat], 2010, 19:18



大人なわたし、子供なあなた。

Written by Yuzu Misaki


周りの人が

すごくすごく子供に見えた。


初めてあなたに会った時も、

とても……。




≪最初から読む≫





… 目次 …

(1)子供っぽいことなんて、大嫌い
----

(2)ナイスキャッチ
---

(3)最悪
----

(4)絡まる視線
----

(5)帰りたくない

(6)二人っきりの夜

(7)夢

(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
(18)



総ページ数
原稿用紙 130枚弱

1-5

October 31 [Sat], 2009, 19:34

大人なわたし、子供なあなた。
1-5



 なんだかんだで生徒に受け入れられたようで、その後佐々木先生がいなくなった後もうまく話が進んでいった。


 少し緊張しているのか、あまり要領は良くなさそうだけど。


「先生彼女はー!?」


「年はー!?」


「どこに住んでるのー!?」


「え、いや、俺……じゃなかった、僕」


 しどろもどろになっている姿は、もはや高校生にも見えない。

 小学生だ。

 つまりは子供。


「あ、ヤベェ! もうこんな時間だ!」


 遠野先生は腕時計を見て叫ぶ。

 50分はあっという間に過ぎ去った。

 ちなみに授業はまったく進んでいない。


「えっと、このクラスは現文係とかっている?」


 シーン。


 遠野先生の言葉に答えはない。

 少し焦ったように続く。


「じゃあ国語係!」


 シーン。


 少し涙目になる姿はチワワを想像させる。

 じゃあ、と遠野先生はチャイムを聞きながらぽつりとつぶやいた。

 タイムオーバーである。


「……クラス委員は放課後僕のところに来て下さい」


 クラス委員?

 そんな係あったっけ?


 私がぼんやりとその言葉を聞いていると、


「横山、お前じゃん!」


 突然私の苗字が呼ばれ、意識が明確になる。


「え? わ、私!?」


 驚いて、素っ頓狂な声が出てしまう。

 すると遠野先生と目が合う。

 先生は一瞬目を細めた後、にっと笑った。


「君が横山ね。放課後よろしく!」


 と言い放ち、私の文句を聞かずに「日直、号令!」と声を張る。

 それを合図に、日直が号令をかけ、教室が再び喧騒の渦に飲み込まれた。


 私は現状にまったくついていけず、何が何だか分からないまま、しばらく目を白黒させていた。



back≪≫next

1-4

October 31 [Sat], 2009, 19:34

大人なわたし、子供なあなた。
1-4



 私は杏奈に「知らないよ」と答える。

 すると待ってました! というようにニヤリと笑う。


「……めっちゃ、かっこいいらしいよ」


 耳元で、杏奈はささやいた。


 杏奈はイケメン大好き。

 三度の飯よりイケメンが好き。

 三時のおやつには負けるけど。



 本鈴が鳴ると、杏奈は不敵な笑みをたたえたまま席へと戻っていく。



 しょうがない子だな、と思いつつも私は期待していた。



 イケメンに期待してるのかって?



 冗談じゃない。

 期待っていうのは、漢字テストがなくなるかもっていうこと。





 間もなく、学年担任の佐々木先生と、その後ろに続くように若い男の先生が入ってくる。



 女の子の、至福のため息。

 男の子の、イケメンへの敵視。



 教室中が複雑な思いが入り混じった、不思議な空間になる。


 そんな雰囲気に気づくこともなく、佐々木先生はずり落ちてくるメガネを直し、少ない毛を整えながら話し始めた。


「えー、2年5組のみなさん、こんにちは。えー、聞いている人もいるようですが、えー現代文の先生が昨日事故にあわれまして、えー、入院することになってしまいました」


 女の子たちはその言葉に「よくやった!」と事故にあったことを盛大に喜ぶ。


 それにしても佐々木先生の「えー」が多い。


「えー、そのため今日からしばらくの間代わりの先生を招くことになりました。遠野先生です」


 そう言って、隣に立つ先生を紹介する。


 目を伏せっていた遠野先生は、その言葉にようやくにっこりとほほ笑んだ。


 年頃はまだ若い。

 というか、大学生?

 学ランでも着たら、高校生にでもなれるんじゃないだろうか。

 スーツとネクタイが、まるで作り物のように映る。



「遠野大地(とおの だいち)です。みなさんの現代文を担当します。」



 遠野先生は犬のような人懐っこさで笑う。

 その笑いに、女の子たちが無駄に拍手を送る。



「趣味はずっと続けているテニス。あとは最近弟に借りてやってるポケモンです」



 そう言うと、男の子たちが「俺もー!」と次々に手を挙げる。

 ウケが良かったようだ。


「よろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀する姿が、なんとも可愛らしい。

 周りに合わせて、私も拍手を送る。


 けれど私は心の内でこう思う。


 残念。

 私のタイプと正反対。



back≪≫next

1-3

October 31 [Sat], 2009, 19:32

大人なわたし、子供なあなた。
1-3



「今日の放課後さ、デートしよ」

「デート?」

「そう。テスト前の最後の息抜き」



 律は言って、笑った。

 私も一緒にほほ笑む。



 そっか、もうテストの時期か。

 私としたことが、すっかり忘れてた。



「うん、いいよ」



 デートなんて、正直めんどくさかったけど。

 断るのは、もっとめんどくさい。



「由真何かしたいことある?」

「んー…本屋さん行きたい。東野圭吾の新刊買わなきゃ」

「あはは、ちゃんと分かってるよ。他には?」

「……他? そうね。他……他には、」



 キーンコーンカーンコーン



 言葉をさえぎるように鳴る予鈴。

 

 よくやった、チャイム。



 律のしかめっ面とは反対に、私は心の中でガッツポーズ。

 デートなんてどこでもいいじゃない。

 本屋に寄れればあとはどうでもいいもの。



「ごめん、漢字テストの勉強したいから」



 そう言って律にバイバイした。

 名残惜しそうに彼は私の手を引いたけど、気付かないフリをして軽くスルー。

 学校でいちゃつくようなバカには絶対になりたくない。



 律はそんなことも分からないの?

 まさか。

 彼は私のことをよく分かっているし、私も彼のことをよく分かっている。

 にこりと笑って「またね」と言えば彼が手を離してくれるのを、私は知っていた。



 教室に戻る。

 外でサッカーをしていた生徒、隣の教室で友達と語り合っていた生徒がばらばらと戻ってくる。

 その中で、私に手を振ってくる女子生徒がいた。



「由真! 聞いた? 現代文の先生変わるんだって!」



 とても明るい。心底明るい。底抜け明るい。

 けど、この子だけは特別。

 中学校からの同級生で、いつも一緒にいる、私の親友だから。


 岡本杏奈(おかもと あんな)。


 それがこの子の名前。



back≪≫next

1-2

October 31 [Sat], 2009, 19:31

大人なわたし、子供なあなた。
1-2



「…――?」


「……ま」


「由真!」


 聴覚が戻る。

 私は一気に現実に引き戻された。



 学校。

 お昼休み。

 廊下。

 

 頭に浮かんだ単語の断片で、今の現状を思い出す。



「ごめん、聞いてなかった。なんだっけ?」



 ほほ笑んで、返す。

 話していた相手は少し眉間にしわを寄せたけれど、文句をため息に変えるだけで何も言わなかった。



 ああ、嫌ね。

 これくらいで怒るなんて、子供じゃない。



 話を聞いていなかった私が悪いのは分かっているけど、内心どうしてもこう思ってしまう。

 相手が、今つき合っている人であっても。


「怒らないで」


 だから私はそう言う。

 子供っぽい自分なんて、大嫌いだから。

 怒りに怒りを返すようなみっともない真似、したくないじゃない。



 彼、長谷川律(はせがわ りつ)はふっと笑って、「怒ってないよ」と言った。



 嘘。

 でもそう言ってくれる律だから、3カ月も付き合っていられるのかもしれない。



「で、なんだっけ?」



 私は嫌な雰囲気を振り払うように、努めて明るく問いかけた。

 そうすれば、律は必ず答えてくれる。

 いつも、いつも。

 今回も、律は機嫌を直して話を続けてくれた。




back≪≫next

1-1

October 31 [Sat], 2009, 19:31

大人なわたし、子供なあなた。
1-1



 子供のころ、高校生のお姉さんってすごく大人に見えた。

 物語の中でもそうでしょう?


 料理ができて、

 親の面倒も見て、

 たくさんバイトしてお金を稼いで。


 だからすごく楽しみにしていたの。


 だって私は横山由真(よこやま ゆま)だから。

 子供っぽいことが大嫌いな、横山由真だから。



back≪≫next
プロフィール
  • アイコン画像 ニックネーム:水崎ゆず
読者になる
はじめまして♪〃
水崎ゆず(みさき ゆず)と申しますッ!!
地道に小説書いてます^^*
よろしくお願いします
カテゴリアーカイブ
P R