春が来て 

April 04 [Sun], 2010, 15:14
 40歳になったらマンションを買おう、と考えるようになったのがいつからか、
ウミコは覚えていてない。
いつの間にかそう思うようになっていたので、Mにもそう言ったつもりでいた。
 だから、モデルルームを見始めて、それをMに言ったとき、
Mが驚いたことに驚いたのだ。
 だが、とにかくそこではきちんと告げた。
 それに対しMがどう反応しようが、どうでもよかった。

 買うのだから、管理組合みたいなものに入り、住民みんなで共同で暮らしていくのだろう、
とは思っていた。
だから賃貸暮らしのときのように、大家にはひとり暮らしとして届出し、
実際にはふたりで暮らし、周りの近所には夫婦者ですと挨拶する、
ということを、新居でするつもりはなかった。
 誠意がないというか、防犯上も問題があると感じたというか…
 だからとにかくひとりで越すつもりだった。
収納に限界があって、Mの荷物なんか持っていけない、ということもあった。
宅配便用に箱詰めしたら8箱にもなった。当然だ。

 新居に両親が遊びに来たときに、ものめずらしいのだろうが、
なんの遠慮もなくあちこち開けるので、
身綺麗にしておいてよかったと本当に思った。
 ベッドがダブルサイズであることと、買ってもらったテレビが42インチもあったことは
不思議がられたが、笑ってごまかすしかなかった。

 マンションを買ったことは、大きなおもちゃを手に入れたようなものだ。
あちこち手を入れるのが楽しくて仕方がない。
そんなとき、荷物が自分のものだけであることは実にシンプルで気楽で、いい。

 週末でなければ、着替えもないし、来ても泊まらない。それもシンプルでいい。
 それで疎遠になっていくならそれでかまわない。
 さびしいと思うか、不便だと思うかわからないが、事実なんだから仕方がない。

 Mがツイッターにはまったのは意外だった。
 そういうタイプではないと思っていたのだ。
 ツイッターを使っていたのはウミコのほうが先だったため、
いろいろ教えたりする関係上、サイトも知った。
 それで知ったのだが、Mは妻子と毎年春に記念写真を撮っているらしい。

 アホちゃうか、と正直思った。
 まったく形骸化している家族の記念写真をただただ儀式として撮り続けていることの不毛さに
気づいていない鈍感さが嫌だ。
 翻って、ウミコとMはなんの約束もしていないし儀式もしていない。
 初めてデートしたバレンタイン・デーと、ウミコの誕生日には外食するが、
それだって、仕事が忙しい場合は日をずらすくらいのこだわりのなさだ。
 なのにこれはなんなのだ?

 マンションを買い、ひとりで越す、と言ったあと、
Mは再び「きちんとするから」と言うようになった。
 ところで妻と話をするにも、その母の痴呆がひどく、
家庭内で介護していることもあって、話どころではないらしい。
 というわけで、やっと施設を探すことにしたらしい。
 それは事態が進んでいるといえば言えるのかもしれない。
 お試しのお泊りから正式に移る段階の途中であるらしい。
おちつけば、息子も大学に入学したことでもあるし、話をするらしい。

 すれば?
 ウミコが欲しいのは結果である。

 この夏の誕生日は、このままなら、祝ってもらわなくてもいいや、とウミコは思っている。
 もともとウミコは中途半端なものはいらないというタイプだ。
 これだけだらだら中途半端につきあったんだから、もういいだろう、と思うのだ。

9月になれば僕は 10 

October 02 [Fri], 2009, 11:14
 正直、ウミコは、Mとの将来が見えない不安も半分あって、
家くらい持っておくか、と思った部分も大きいのだ。
 Mと別れてひとりでも暮らしていけるように、ということだ。

 それなのに、こんなふうに混ぜっ返されても、困るんですけれど…

 単に、「現状を変えなくていいよ」というような意味で言ってるんだとしたら、
バカにするなと言いたい。

 ウミコが最初に見た物件は、方角というか日当たり以外はほとんど問題がなかった。
 暮らしやすそうな町の駅近に建つ、大仰でないマンションだ。
 本当に契約するとなったら、期限は一月後だ。
 もちろん他にもまだまだ見てみるつもりなので、
それがデッドということではないが、
そのとき、Mの方が結果が出せているかどうか、
その方が問題なのではないのか?

 女は男よりずっとリアリストなのだ。
 そのことを男はもっとよく知っていた方がいいと思うのだが。

9月になれば僕は 9 

September 28 [Mon], 2009, 19:41
 マンションをいざ買うときには、
こんな感じの間取りでいい?程度のことは
一応は聞こうかと思っていた。
 そのときふたりの関係がどうなっているかまったくわからないが、
とりあえずこのまま生活していくとして、
礼儀としても一応の承諾を得た方がいいかとも思わなくはなかったからだ。

 ただしやっぱり基本的には自分主導で行くつもりだった。

 だってMとは別れるかもしれないのだから。
 だとしたらその先自分がひとりで暮らして行きやすい家を
自分が考えて買うのは当然ではないか?
 Mではない誰か別の恋人がその先できたとしても、
ひとりくらいならそのサイズの家で収められるではないか?

 だが、もしかしてMには、もっと「家」というものに、
何か理想の形のようなものを思い描いていたのだろうか?
 そんな話は長いつきあいの中で今まで一度も聞いたことがなかったが?

 たとえば、本当にずっと一緒にふたりで暮らして行くにあたって、
Mがどうしても自分の書斎が必要だ、だから3LDKにしよう、というのなら。
 あるいは、たとえば、庭が持ちたいとか犬を飼いたいとかがあって、
どうしても一軒家にしよう、というのなら。

 だとしたら、探す条件が全然ちがうものになってくるし、
そうなるとそれは完全に結婚が前提の話である。
 そんな家は私ひとりには要らないからだ。

 それに、そんな大きさのものとなると、気に入るものはかなり高くなって、
それこそ私ひとりでは手が出ないだろう。
 Mの出資が必要になる。

 だが、そんな話が出来る状態か?
 Mはまだ離婚すらできていないのだ。

9月になれば僕は 8 

September 27 [Sun], 2009, 13:18
 だがその話になったすぐ次の週末、
Mは熱心に新聞のチラシを読んでいた。

 Mがブルーレイデッキを買いたがっているのを
ウミコは知っていた。
 ちなみに、話が進まず同棲をやめるのであれば、
Mがこの家にデッキを買ってくれても
ウミコはおそらく使わないし(今あるHDDレコーダーで十分なのだ)、
だからウミコは買うのをやめさせるつもりでいた。
「もっと安いのがあるね、考えた方がいいね」
 とMが言うので、ウミコは
「ブルーレイのこと?」
 と答えたのだが、実はMは家のことを言っていたのだった。
 ウミコの予算からすると、地域を選ばなければ、
そして新築ではなく中古なら、一軒家だって買えるではないか、と言うのだ。

 一軒家?
 そんなビジョンはウミコにはまったくなかった。
 そんなもの、絶対に持て余すに決まっている。

9月になれば僕は 7 

September 25 [Fri], 2009, 15:58
 とりあえず、条件で見る分には傷はまったくない、という物件に当たり、
現地とモデルルームを見に行く予約ができた日、
ウミコがMにそう言うと、Mはひどく驚いていた。
 そういえば、ウミコは実家の母親に
「買うかも」程度のことは言ったが、
Mにはまったく話しもしていないことに、そのとき気づいたのだった。
 なんとなく、どこかで、うっすらとは話した気になっていた。
 どちらにせよ、一軒見ただけですぐさま
契約とか購入とかにはなるわけないと思っていたので、
ウミコはけっこうのんびりしていたのだが、
Mはずいぶんと現実的にとらえたようだった。

 だとしても、ではどうだというんだろう。
 今のマンションに越したときと同じではないのか?
 ウミコが見て、決めて、契約し、荷造りし、引っ越しした。
 Mは引っ越しの日の夜に新たな最寄り駅で降り、
ウミコに迎えてもらい、ウミコの新たなマンションに来て、
そのまま居着いた。

 今回だって同じではないか?
 ウミコは基本的には自分ひとりで買うつもりだったし、
自分ひとりでローンも払うつもりだったし、
だから物件も自分ひとりで決めるつもりだった。
 Mの離婚が成立して、ウミコと結婚した後は、
ローンの半分くらいはMにも持ってもらってもいいのかもしれない。
 でもそれでも家は所詮自分のもの、というつもりだった。
 おそらくMの方が先に死ぬのだし、
そうしたらその先ウミコはそこでひとりで暮らしていく、
そういう終の棲家となるのだと思っていたからだ。
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プロフィール
  • アイコン画像 ニックネーム:ウミコ
  • アイコン画像 性別:女性
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好きなものは、犬と、読書と、おいしいものを食べること。
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