僕らの時間が止まってしまうその前に 

2007年09月21日(金) 20時48分
それは、僕の我侭への第一歩。


「マズイ」
「……そ、そうか?」

君の出してくれた料理を一口食べて、突っ返す。
眉を寄せて味見をして、首を捻る。

うん、そりゃなんでか分からないだろうね。
だって、君の料理はいつもと同じように美味しいから。

違うのは、もう僕にはあまり食欲もないっていう、事だけ。

「もういっかい作り直してよ」

まるで意地悪な姑みたい。
苦笑しそうになる顔を無表情で固定する。
僕の言葉に顔をしかめた相方さんが、それでも食事を持って台所へと降りていく。

酷いことしてるのは、わかってる。
けど、仕方ない。

「あ、この本買って来て?」

なんて、ありもしない本を探させて。
装飾品を買わせては、気に入らない、と彼の目の前で投げ捨てて。
わざと壊したものの責任を、彼に擦り付けて。
思いつく限りの嫌がらせ。

 ……心が、痛まないわけじゃない。

君に辛辣な言葉を向けるたび。
君を傷つけることをするたびに、僕はいつだって胸が痛くて。
何度も何度も、心の中で謝って。

泣きそうな顔の君が、見たいわけじゃない。

君に、傷ついた顔をさせたいわけじゃない。
怒りを我慢する君を見るのは、辛い。

でも。

そんな自分の気持ちを、見てないフリをする。


だって、僕は。

 彼に嫌われなきゃ、ならないんだから。




お題提供:いちいちく。

ごめんね。 

2007年09月21日(金) 0時30分
気持ち悪い。

天井が回る。吐き気がする。おまけに、体も痛い。
最近は、ずっと息苦しい。


そんなんだからここ数日、僕はずっとベットから離れられなくて。
心配してあれこれと気を使ってくれてる相方様は、今も僕の隣に居ます。

「うー……」
「……大丈夫か?なんか欲しいモンあったら言えよ」

熱はあんまりないんだけれど。
気持ち悪さに呻く僕の背中を、彼がさすってくれる。
ほしいもの、ねぇ。

グラグラする頭を揺らさないように体を返す。
降ろされた手を、じっと見つめる。
僕よりずっと固くて、大きい手。

「……、……」

 ―― 君が、欲しい。

「あ?なんだって?」
「……。なんでもない」

思わずもれそうになったコトバを飲み込んで、首を振る。
君への想いは、日ごとにどんどん膨らんで。

あーあ、困っちゃうね。

苦笑する僕に、相方がいつものように顔をしかめる。
ソレだよ、ソレ。
そんな顔するから、誤解されるんだ、いつも。

「君さー、もっと自分に自信、もちなよ?」

それで、眉間に皺寄せるのやめてさ。
口調も少し、丸くしたほうがいいかもね。

こんな顔して、すっごくいい奴なんだから。
料理は出来るし、掃除もマメだし、財政管理もきっちりしてるし。
支援の腕も一流。立ち回りも最高。
うん、こんな旦那様もらう人は、幸せだよねぇ。

 ……ダメだなぁ。

僕はまだ、迷ってる。
言えば、君を苦しめるだけだって分かってるのに。

ああ、でも。
このままでも、同じだろうか。

今のまま――君が僕を好きなまま、僕が居なくなったら。君は。

「なんだよ、いきなり」
「別にぃー」

くすくすと笑えば、相方さんが不機嫌そうな顔をする。
あ、短気な所も治したほうがいいかもね。

お前はもうちっと分かりやすくどうのこうの、とかブツブツと文句を言ってくる彼。
その説教にへらへらと笑ってるふりをして。
じっと、その顔を見つめる。

うん、格好いいね。

惚れた欲目、ってやつかもしれないけれど。
切れ長の鋭い目元。端正な顔立ち。綺麗な目には強い意志の色が見える。
格好よくて、いい奴で、大好きな、僕の相方。

ごめんね。


 僕は、君を裏切る。


言えなかったコトバ 

2007年06月18日(月) 23時15分
余命、三ヶ月。


……長くないな、とは思ってたけど。
覚悟も、それなりにしていたつもりだったけど。

やっぱり直に言われたら結構、クル。

「読みたい本とか、あるか?」
「うーん……。……なんでも、いいよ。
適当に借りてきて」

前より、僕はぎこちない笑みを浮かべて。
前より、君はぎこちない態度になって。

なんか。
変な感じ。

頷いて部屋から出て行く相方さんの背中を見送って。
小さくため息をつく。

もうすぐ、僕は動かなくなる。

なにもできなくなって。君と居る事もできなくなって。
もう君と触れる事も、君と話す事もできなくなる。

そんな事を考えたら、なんだか少し辛くなって。
頭からシーツをかぶった。

困ったね。
言わないって、決めてたのに。
……求めないって、覚悟したのに。

死を目前にして。今まで堪えてた気持ちが溢れてしまいそうになる。


きっと君も僕も、この胸に抱える気持ちは同じ。
自信は、ある。
だから断れるのが怖いんじゃない。


いやなのは、君を縛ること。
君に辛い思いをさせること。

……僕がこの想いを告げたら、君はどうなる?
晴れて両想いになって。
今までの分、お互いもっと距離を詰めて。
笑い合って。幸せになって。

 そして、僕は居なくなる。

君を独りにするんだ。


そんなのは、嫌だ。

――だから、僕は言わない。
言いたい……けど、言わない。絶対に。

だけど、ねぇ。せめて心の中でくらいは。
……この気持ちを叫ばせて。


ねえ、相方さん。
いつも仏頂面で、真っ直ぐで優しい僕の相方。

僕は。


 ―― 君が、 好きです。





いちいちく。

優しい君のために 

2007年06月11日(月) 12時41分
彼の元へ通い続けて早十日。
やっぱり今日も、返答はない。

だけど少しだけ。
ほんの少しだけど、進展があった。

「ルファードー」

いつものように彼の名前を呼んで、扉を叩く。
ふと感じた気配に上を見上げれば。固く閉ざされていたカーテンに、ほんの僅かな隙間があった。
その向こうにいるのは、オレの目当ての相手だ。

彼は疲れた顔で、無表情にオレを見下ろしていた。
――あんな顔をするようなヤツじゃなかったのに。
それは、あの日々でどれほどアイツが傷ついていたのかを、示しているようで。
少しずきりと痛んだ胸に泣きたくなって。

それでも、僅かでも反応してくれたあいつに嬉しくなって。
笑顔で腕を振って声をかける。

けど、すぐに引っ込んでしまった彼に肩を落とした。
うーん。中々手強いねぇ。

諦めて帰ろうとして、ふと気配を感じて立ち止まる。
扉の、向こう。
かすかな人の気配があるのに気づいて、扉の前へと歩み寄る。

「……ルファード」

声をかけても、反応はない。
けど、確かにそれは見知った彼の気配で。

「ねぇ……やっぱりまだ、時間かかるかい?」

友人同士が憎み合うようになって。
どんなに頑張っても仲直りさせる事が出来なくて。
どっちにつく事も出来ずに、互いの愚痴に何時間でも付き合って。
……優しい君のことだから。
友達を貶される事は、友達が憎まれる事は、どんなに辛かっただろうね。
二人の間で、どんなにか苦しかっただろうね。

なのに君は、ギルドのために無理して、ギクシャクしてる皆の間も取り持って。
君は一体、どれくらい無理を重ねてきたんだろうか。

オレには、君がどうして心を閉ざしてしまったかなんて、そりゃ分からないけどさ。
きっと、緊張の糸が切れたんだろうな、とか。
疲れた反動で、もう何もかも面倒になったのかな、とか。
想像する事しかできないけど。

「時間、かかってもいいよ。……というより、今までの分ゆっくり休んでさ」

そう言う自分の声に、苦笑を含んで。
あんだけ頑張った君に、「すぐ出て来い」なんてのは酷な話だ。
だから、急がなくてもいいけれど。

「オレは、待ってるからね」

だから、いつかは。
君の元気な顔。見せてくれよ?

戸惑ったようにじっと動かなかった気配が、離れる。
……どうやら、今日もまたフラれたらしい。
残念だ、と軽いため息をついて。
それでも、頬がにやけてくるのは進展があったから。

なにしろずっとウンともスンとも言わなかったあいつが、わざわざ下まで降りてきてくれたんだから。
あいつの顔を直に見られるのも、遠い話じゃないかもしれない。


願わくば、今度は君の声が聞けるように。

僕はここにいる 

2007年06月11日(月) 3時40分
ギルドが解散した。

まあ、それは別にいい。
オレにとってギルドなんてのは宿と同じで、特に執着するモンじゃない。
大体随分前からあのギルドはガタガタだったし。
今更驚くようなことでもないし。

ただ、そこに居る『人間』ってやつはやっぱり別で。 


「ルーくんー?おおーい、聞こえてるんでしょー?」

静かな家。
物音一つ聞こえないそこに、オレは声を張り上げる。

生活の気配はなくても、別に主がいないわけじゃない。
そんで、オレの美声が聞こえてないわけもない。
ただ、中にすんでいる人間が反応しないだけ。

「今日はいい天気だよぉー。ねぇ、遊びにいかないかいー?」

ここに住んでいるのは、ルファードって名前のアサシンだ。
彼はオレと同じギルドに居た仲間同士で。うん、結構仲もよかった。
けど。
ギルドが解散した原因。
その人間関係のゴタゴタってヤツに、こいつは思いっきり巻き込まれてて。
終わりの方なんか、トラブル起こしてる本人達より、彼はずっと限界に近かった。

そして、その重圧から解放された日。
あいつは、家から一歩も出ようとしなくなってしまった。


……薄情なモンだね。
あれだけこいつに愚痴言って、頼りきって、縛り付けてたあいつらは。
ギルドが解散するなり他人みたいな顔をして。
コイツがこんな状態になっても、何にもしようとはしなかった。

あいつらはただ。彼を利用していただけだった。


別に悪意があったわけじゃない。
それでも、釈然としないのもまた事実。

だからオレはこうして一週間、この扉を叩き続けてる。
せめてオレぐらいは、お前を見捨てたくはないから。
――もっとも、元より見放すつもりなんかないんだけども。

「ルファードー」

なあ。返事、してくれよ。
あんなヤツの為に、君が傷つくことはないんだから。
全部背負い込んだ真面目で優しい君に、悪い事なんかないんだから。

それとも。
もう君は、オレすら信じてくれなくなったのかい?

「……ルファード」

何度目だろうか。
扉を叩き続けて感覚のなくなった手を、止めた。
これは今日も駄目そうだ。

ため息をついて肩をすくめて。
固くカーテンの閉められた二階の窓を、見上げる。

……諦めないよ、オレは。
じっと見つめた窓から視線を剥がし、踵を返した。


さぁて。今日は、なにをしようか。


お題提供:Sanatorium.

笑いとばせることができたならどれだけ、 

2007年06月09日(土) 23時39分
血を、吐いた。


その日は少し調子が悪くて。
いつものように咳き込んで。

なんか、しつこい咳だなァ、なんて考えてただけだったのに。
視界に入った鮮血に、思わず少し動きが止まった。

あーあ。
とうとうここまで来ちゃったか。

驚きはしたけど、思うのはそんなことで。
考えたのは、このシーツ買い換えないと駄目かなぁ、とか。
またアイツが大げさな顔して騒ぐんだろうな、とか。

うん、でも。
確かに心臓には悪いよね。

こうして"現実"を見せられると、やっぱり結構動揺してる自分がいる。
でもやっぱり、受け止めないわけにもいけないし。

なんとなくぼーっとべっとりついた血を眺めてると、タイミング悪く相方様が入ってきました。
予想通りというかなんというか。

目を見開いて。硬直して。蒼褪めて。
大きな足音を立てて、駆け寄ってきて。

大声で心配して、泣きそうな顔でうろたえる君が可笑しくて、笑いがもれた。
血だらけの顔で笑っても、怖いだけかもしれないけど。
それでも少しは冷静さを取り戻せたのか。
ただ単に呆れただけなのか。

相方様は盛大に肩と頭を落としてくれました。
疲れた顔をして。それでも物凄く心配そうな顔で。
僕が大丈夫そうなのを確認して、医者に連絡をとってくれた。

けれど、そこで言われたのは聞きたくも無いことで。


――……『余命、三ヶ月』。


とうとう、来た。
残された時間の宣告だった。



いちいちく。

ささやかな望み 

2007年06月09日(土) 3時58分
最近、なんだか相方さんが痩せてきました。

食事は少し質素になって。
「俺は後で食うから」と絶対一緒に食べようとしない。
あげく、時々財布の中身を見つめては、ため息をつく。

そういえば。
ふと 思い出した。


ねえ、と話しかければいつものようにぶっきら棒な返事が返ってくる。
その顔は前より少しやつれて。心なしか、筋肉も少し落ちたんじゃないかな?
ねえ。君さ。

「オカネ、尽きた?」
「!!」

ズバリと言えば、あからさまに強張る君の顔。
なんていうか、まあ。分かりやすい、ねえ。

そうだよねぇ。
僕から病気の事聞いて、君、それからずっと僕につきっきりだもんね?
せっかくギルドに入ってるのに、メンバー達と狩りにすら行かないじゃないか。
それで二人分の生活費に、僕の薬代。
そりゃあお金も無くなるってもんだね。

言ってくれればいいのに、この分じゃ自分の食費削って頑張ってたかな。
自分が倒れちゃ意味ないのに、ねえ?

「あのさ、僕も一応商人の端くれだから。
そういう面なら、気にしないで大丈夫だよ?」

だいたい、僕の薬代が一番の圧迫だろうしね?
けど相方様は目一杯嫌そうな顔をする。

「いや、だが」
「病人に払わせるわけにはいかないって?
……いっとくけど、君よりはお金もってる自信はあるよ?」
「う……」

なんで僕の為に君が我慢しなきゃならないんだよ。
ただでさえ、君には僕の看病なんかさせてるのにさ。
言葉に詰まった相方に、戸棚の奥に仕舞っておいた木箱を取り出す。
まあ、のんびりしすぎて資金面の事すっかり忘れてた僕も、悪いんだけど。

「これ、使っていいよ。……というより、僕の生活費と薬代。
ついでに君のもここから出して」

そう言って見せた箱の中身に、相方様が目を見開いて硬直しました。
中身はざっと一千万。
ちまちま装備そろえて三減盾が精一杯のこいつには、かなりの大金に映ったんでしょう。

「お、おま……う、受け取れねェよこんな大金ッ!!」
「駄目。拒否不可」
「だ!んな……」

ブンブンと首を振って絶対に受け取ろうとしない。
何言ってるんだか、そっちだってずーっと自分のお金で生活費出してたくせに。

どうせ篭りっきりの僕には使い道もないし。
今までの分含めたらこの中からでも大分消えるんじゃないかな?

「いいの、これが全財産ってわけじゃないんだし。
……どうせ症状悪化したら、これからもっとお金かかるんだから。
先払いとでも思っといてよ」

そう言って無理矢理押し付けると、勢いに押し切られるように複雑そうな顔で受け取った。
きっと先の事なんか、考えたくないんだろう。
僕がこの先どうなるか、なんて。

って言っても、これは不治の病だし。
突き詰めれば死ぬしかないわけだけど。
でも、やっぱり。

「……ワリィ」

壊れ物でも扱うみたいにしっかり木箱を抱えて。
呟くように礼を言う君に、頬を緩めた。
本当なら、それはこっちの台詞なんだけどね?

けど、まあ、いいや。

「気にしないで。
利子はトイチでいいからさ」


言ってやると、相方様の顔が見る見る引き攣りました。

「イラネェよっ!」と突っ返してくる相方に、背中を向けて。
聞こえないフリしてベットに潜れば、なんだか凄い勢いで揺さぶられる。
半泣きの声に、こっそり笑った。

本気で言ってるとでも、思ってるのかね?

取れる宛もないのに。
そんな利子かける気なんかないってば。

一千万のトイチ、って。

正直、君が生きてる間に利子払い終えるかどうかも疑問だね。

ああ、でも。

そうしたら僕は、君とずっと居られるのかな。
返せる宛もない君を、せっついて。
借金返すまでは、死ねないなんて言いながら。


それも少し。
幸せなのかもしれない。

クスクスと漏れた笑い声は、どうやら相方様にも聞こえたらしい。
止まった声と揺さぶりに、少しだけ顔を覗かせて。
見上げた相手は、どうにも呆れたような、困ったような顔をして。


意地悪く笑ってやると、盛大なため息をついた。

殴るフリなんかするから、「恋人みたいだね」って言ってやる。
とたんに顔を真っ赤にして挙動不審になる君が可笑しくて、僕はまた笑った。

本当。楽しいね。


君と居る毎日は――こんなにも、最高だ。

あたかも神の如く 

2007年03月14日(水) 1時14分
切れ切れのネガフィルムみたいに混乱する視界。
激痛。
迷いも無く俺に向けられた、槍。
動かない体の前に、現れたのがあいつだった。


――「ついて来い」


そう手を差し伸べられた時から。
あいつは、俺の全てになった。





「……あー」

目を覚まして。いつものように頭を掻いて、呻く。
隣で寝ていたはずの恋人は、いつも通りすでに出かけたようだった。
いや、あいつの仕事が忙しいのは分かってっけど。
けどなんか、なあ?

『……ブレイス?』
『よぉ。起きたか』

Wisを送れば、笑いを含んだ声が返ってくる。

『今日はどうするんだ? ……出掛けるなら、気をつけろよ?
 いつ何が起きるか分かんねえんだからな』
『お前、俺の事子供してないか?』

少しふてくされて言い返すと、向こうから楽しそうな笑い声が届く。
クソ、人の事からかって楽しんでやがる。
……いくらなんでも俺だってそこそこ高レベルのBSだ。ちょっとやそっとじゃ死にゃあしねえし。

『なぁ。次、いつ会える?』

普通の冒険者ならいざ知らず。聖堂の仕事に従事しているこいつは中々忙しい。
昨日だって仕事が詰まっている所を無理して来てくれたんだ。
分かっててもやっぱ、会いたい。

『悪い、やっぱなんでも』

会いたい、けど。
迷惑はかけたくない。困らせたくも無い。
沈黙したあいつが困っているようで、焦って言葉を撤回する。
だけど、その前にあいつからの答えが返ってきた。

『……さァな。分からないが』

 ――会いに行く。

「……っ!」

囁かれるように言われた台詞に、一気に顔が熱くなる。
ああ。本当、俺はこいつに惚れてんなぁ。
そんな当たり前すぎる気持ちを確認するのには十分で。

『だから、大人しくしていろよ?』
『……うん』

子供をあやすような物言いに、不思議と腹は立たなくて。
俺は大人しく返事を返した。

……やっぱり、あいつには適わない。



御題提供:クラクション

再会 

2007年03月08日(木) 3時31分
ばったり会ったのは、随分と懐かしい顔だった。


「あっはっはっはっ! まさかお前と出くわすなんてなぁー」
「そうだな……お前と会うのも久しぶりだ」

強い酒を水のように飲んでいる赤い髪のウィザードは、昔からの知り合いだ。
気紛れで自分勝手な男だが、『魔術による医療』を研究し成果を上げるただ1人の魔術師だ。
と、上機嫌で飲んでいた相手が声を落とした。

「……お前、あれからどうなんだ? 追っ手はかかってないか?」

珍しくも他人を心配しているらしい彼に苦笑して頷いた。
私は昔、ギルドを抜けた。――それも、"殺人"を生業とする裏のアサシンギルドから、だ。
どんな目的があろうが、本来そういった人間は追っ手に消される運命。
だが、私はなんとかそれを免れている。
ウィザードとして冒険者をやっていられるのもそのおかげだ。

「まぁそれならいいけどよ。……幸せか?」
「そこそこは、な」
「――そりゃいい。上出来だ」

一口。酒をすすって答えた私に、彼が笑う。

「んじゃま、今日は再会祝い&あん時の駄賃代わりって事で!
酒はおごってやるから、後で俺の研究に付き合えよー?」
「飲んでからか?」
「当ったり前じゃねーか! 宴会が先だ宴会がっ!
研究なんざ酔ってもできーる!!」

そう叫び出す彼には、すでに十分酒が入っているようだ。
やたらとテンションの高い相手に苦笑して、頷く。

久々の再会。
こういうのも、いいだろう。

ああ彼女は朽ちようとしている 

2007年03月08日(木) 3時07分
一目見た瞬間理解した。

アレはもう、手遅れだ。




「娘は……娘は治るでしょうか。
医者にはとうに見離され、神父様のお力でも救う事は出来ないと……」

そういった父親が、顔を覆う。
俺の目の前にはベットに寝かされた、小さな少女。
静かに眠っている子供のシーツをめくると、石のように乾き、白く変色した腕が現れる。
僅かに触れれば、触れた場所が崩れた。

「薬も、神の力でも駄目でした……もう、頼れるのは貴方しか居ないのです。
魔術による治療しか……」

いままで苦労した為か。
痩せ、疲れきった男はいっそ哀れだった。
後ろで泣き続けている母親も、そうだ。
……だが。

「悪いが、手遅れだな。ここまで進行すればもう元には戻らない」

手足から徐々に石化していく病。
ほぼ全身が石に覆われている少女は、この分じゃ内臓までやられてるだろう。
むしろ生きてる方が不思議だと言ってもいい。

「眠らせてやれ。それがアンタ達にできる、こいつへの最善だ」

俺の言葉に、少女の両親が泣き崩れた。
……同情はしない。
生きる命があれば死にゆく命もある。それが世の定めであり、摂理。
ならば少しでも苦しみを和らげてやるのが慈悲。

「……」

子供が、僅かに目を開いた。
余り動かないだろう口元が緩んで、言葉を紡ぐ。

 『     … … 』

「ああ。……頑張ったな」

頭を撫でてやると、少女が嬉しそうに笑った。
それを最後に、瞼が落ちる。

もう苦しむ事はないから。

  おやすみ。



お題提供:失踪宣告