弓月城太郎が『神秘体験』で見せてくれた新しい文学のカタチ

September 27 [Mon], 2010, 17:58


科学が目覚しい進歩を遂げている現代社会、しかしだからこその問題も発生しています。環境破壊などの社会的な問題、あるいは遺伝子操作などの倫理的な問題など。科学の進歩が負の財産をもたらしてしまっている例も少なくありません。

また、科学万能といわれている世の中だからこそ、精神世界に対する関心も高まっています。それは日常生活を科学にがんじがらめにされてしまったわたしたちの心が科学を超えた世界に魅力を感じているからです。

弓月城太郎の『神秘体験』ではそんな現代社会が抱えている科学を巡る問題を正面からとりあげています。

この作品では「精神波量子脳理論」というものが登場します。主人公の恭司が完成させることになるこの驚くべき理論ではあらゆる生命現象や生命の進化の謎などを解明できるだけでなく、精神現象や神秘体験、超常現象の解明までが可能となっています。

科学と精神世界は古くから対立する関係でした。とくに近代化以降の歴史は幽霊などの精神世界の現象を科学が暴き立てることによって成り立っています。しかしこの作品ではそのような安直な形での説明ではなく、深いメカニズムによって理論化されています。それは作者、弓月城太郎の博学ぶりがまざまざと発揮されたもので、読んでいるとぞくぞくしてくるような知的興奮を味わうことができます。

科学と精神世界、超常現象は決して対立するものではないことをこの作品は証明しているのかのようにも思えます。

そして作品を通して貫かれているヒューマニズム。とくに生命操作という究極の禁断の技術に手を出してしまった恭司の父条太郎を巡る恭司たちの行動は読んでいて感動の念を禁じえないでしょう。

SFならではの知的興奮と、優れた小説が持つ生理的感動の両方を兼ね備えた作品となっています。

また、作品を彩るさまざまなエピソードも非常に魅力的。恭司と恭子が活躍することになるフィギアスケートの華やかなシーン、あるいは恭司が生み出したコンピューターで将棋の竜王戦を争うシーンなど。読者をこの作品の世界観にひきつける役割を果たしています。

本来相反するジャンルであり、そのゆがみが現代社会に大きな問題をもたらしている科学と精神世界。この二つのテーマと向き合い、両者の本質を歪めることなく文学として魅力的な内容に仕上げることに成功した『神秘体験』。SF界に新たな傑作が誕生しただけでなく、より幅広く文学界にも大きな一歩を示すことになる作品となることを期待しています。


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