星に願いを    :西浦っこ 

July 07 [Sat], 2007, 3:05
7月7日は七夕の日

彦星と織り姫が一年に一度だけ出逢える運命の日に、願いをする
笹の葉に、短冊

誰が思いついたのか、本当に人間って面白いなぁと花井は思った


そして折角だからと、野球部一同はどこかから百枝がもってきた笹と短冊を目の前に風流を楽しもうということになったのだ

中でも一番はしゃいでるのは田島をはじめとする9組トリオである
そこに水谷がくわわりいつもより賑やかだ


なにかく〜?
俺はね〜

などなど聞こえてくる会話に花井は自分の分の短冊をまえに何をかこうか迷う
隣りにいる阿部は何やらもう書き終わったらしく、椅子にゆったりと座っていた


「お前何かいたんだ?」
「ん〜、べつに三橋の体重がこれ以上へりませんようにって」
「まじか?」
「おう」

阿部は本当に三橋のことに関しては人が変わる
悪い意味で「鬼」、良い意味で「親切」だろうか


「田島〜、お前なんてかいたんだよ〜。もしかして甲子園?」

水谷ががばっと田島の背中から田島の短冊をみた
一件水谷が田島を後ろから抱きしめるような形に、花井はむっとする
田島の両となりにいた泉と三橋は水谷に少しうざそうな顔をしつつも何も言わない

「俺?俺はひいじいちゃんたちがちゃんと長生きしますようにって書いたぞ」
「え〜、意外!絶対野球関係だと思った」

水谷はちらっと三橋と泉の短冊をみる

「泉も三橋…はある意味野球関係だな。泉はぜんっぜん違うけど」
「まぁな」
「あ、う。。。俺、野球、好き、だ」

そっけない泉と、三橋らしい受け答えに水谷は笑う
傍にいた栄口たちも笑う
なごやかなムードはいいことだ、しかし問題は水谷だ
いい加減田島から離れろよ

言いたくて言えない言葉にイライラが募る


「なんで田島甲子園じゃねぇの?」
「だって、甲子園は祈るものじゃねぇだろ」

田島の言葉にし〜んとなる


「それに俺ゲンミツに行くもん」
「お、おれも、いき、たい」
「な!」
「うん!」

三橋と田島がきゃいきゃいと騒ぎ出す
その風景を、花井たち8人がただ見る
一番初めに我にかえったのは誰だったろう

阿部と泉は息を吐き出して笑っている
栄口と沖は多少顔を青くしている
西広はすごいな〜と笑っているし
巣山はすご、と呟いた
水谷は田島の背後からそろりと離れてはははと乾いた笑いを零している
花井ははっと我にかえり、田島と三橋を見る

そこにはやはりきゃいきゃいと騒ぐ無敵の4番と驚異のコントロールピッチャー

花井はまだ何も書かれていない短冊にキレイな字で書き殴った

それをみた阿部はただ苦笑を零した


”前向き!!花井梓”



END



相性抜群?   :9組+応援団トリオ 

July 04 [Wed], 2007, 4:07
ときどきだけど、最近9組に応援団の人がやってくる
最初は応援団団長である浜田のところに梅原と梶山が打ち合わせにきていたのだが、次第に9組である浜田をはじめ、泉、田島、三橋ともよく話すようになり、弁当も一緒にたべるようになった
もともと打ち合わせをするのが昼休みが多いからなので自然とそうなったのだ

三橋は最初慣れない梅原と梶山に対しビクビクしていたのだが、今では話かけられれば話をするようにまでなった
田島はもともとなつっこい性格なため、普通に話す
しかも、ため口で
きっと栄口や花井などがその場にいたら冷や汗をかきそうだな、と内心泉は思ったりもする
しかし、泉もあまり田島とかわらず普通に話をするのであまりひとのことは言えないのである

それに、梅原と梶山はさして気にした風もないので泉はあえてその姿勢を崩さない


「あれ、今日田島弁当少ないな」

田島の弁当をみて首を傾げたのは梅原だ
その言葉に田島はしゅんとしながら、残り少ないご飯を食べる
そんな田島に笑いながら浜田が梅原に説明をした


「こいつ、早弁しちゃったんだよ。やめとけっていったのにさ」
「だってさ〜。すんげぇ〜腹へっちゃったんだもん」

早朝練習をこなし、学生の本分である勉強をする
しかし勉強嫌いな田島にとって、その学生の本分こそ拷問に近い
唯一の救いが早弁なのだ
その田島的論理をきいた浜田はよく田島らしいと笑いながらよく田島の頭を撫でていた


「じゃぁしょうがねぇ」


ほれっといって梅原はポケットから小さな長細い箱を田島に放った
それを難なくキャッチした田島はきょとんとしてから、いっきに目を輝かせた

「もらっていいの!?」
「おう、やる。」
「わ〜〜!!!!」

きらっきらしながら田島は長細い箱をあけ、中にはいっている一口サイズのチョコをとりだした
そしてあ〜んと口の中に放り投げる


「うんめぇ〜」
「そうかそうか」

美味しそうに食べる田島に梅原は笑う


「ほれ、三橋と泉も!」
「あ、ありが、と」
「さんきゅ」


三橋も泉も早弁組だ
残り少ないご飯では事足りない
そのことを田島はちゃんとわかっていて、梅原からもらったチョコを全部とりだし、三等分にわけた
大家族の末っ子な田島はちゃんとみんなでわけるということを当たり前のように行う
梅原は度々よく田島や泉、三橋などにこうして菓子を恵んでいるのだが
田島のこの行動に最初は驚いたのを覚えている
5人兄弟の末っ子
それを聴いていたから、きっと独り占めでもしてしまうんじゃないか
そう思って最初にあげた菓子は三人分ちゃんとあるものにして、まずは田島にあげてから三橋、泉にあげる予定だった
けれども、田島は自分の分からさらに三等分したのだ
みんなでわけよ〜ぜ、といって
それがさも当然のように

その日から梅原は結構田島を気に入っていたりもする


「梅はほんと田島びいきだな〜」
「まぁあいつはとことん兄ちゃん気質だし、田島は弟気質だからな」
「懐いてくれる田島が可愛くてしょうがねぇんだな」
「ま、9組はみんな弟気質がそろってるしな」
「お前以外な」
「ま、そうゆうこと」

泉、三橋、田島、梅原がじゃれている中、梶山と浜田はあっはっはと笑った





END

それでもいい   :阿+田 

June 30 [Sat], 2007, 3:12
もしも俺たちの間にしっくりくる言葉があるとすれば


それは




ポツポツを降り始めたはずの雨は一晩のうちに大雨にかわった
おまけに強風大雨洪水波浪警報なんてものまでついてきた
流石にそんな状態で練習なんて、まして体育館がつかえるといっても学校までいくのが至難の業だ
雷までなっているこの大荒れの天気に田島ははぁ、と息を重く吐いた
ベットの上に片膝たてて座る
壁にある出窓のむこうは灰色の景色
ザーザーというかなり乱暴なBGMつき

もう一度息をはいた


雨は嫌いだ


野球ができる程度の雨なら構わない
けれど、野球ができない雨を田島はどうしても好きになれないのだ

こんなにもこんなにも野球が好きなのに
こんなにもこんなにも野球がしたいのに


なのに、この天気がそれを許さない
まるで家に閉じこめられた気分になる


「すっげユウウツ〜」

ごろんとベットに転がる
見慣れた天上が視界に広がる


けれど身体はさきほどからずっと疼いたままだ
野球がしたい


思ったが負けだ
田島はいきおいよく起きあがりかけだした
玄関をあけるとき遠くで家族の誰かが何かを言っていた気がしたけれど、それどころではない



早く
早く
早く

強い雨が田島を叩く
服も靴も髪も顔も雨が容赦なく濡らしていく
道路にできた水たまりを弾きながら田島はただただ走った


行く先は一つしかない


自転車で一分の道程
走って約3分くらいだろうか

ついた場所はしぃんとしていて、まるで世界には自分だけしかいないのかと一瞬田島は寂しく思った

いつもならここにみんながいる
いつもなら



グランドにゆっくり足を入れる
ぐじゅっといやな音がする
それでも一歩一歩進んで、ホームベースの一歩後ろにたつ
いつもムスっとしているくせに、周りをちゃんと見ている阿部が守っている場所


常に相棒である三橋をまっすぐにみつめ、すぐ近くにいる敵を負かすために頭をつかっている


そこにたって田島は上を向いた
いつもはそこに青が広がる
けれど今は絶え間なく落ちてくる雫が視界を遮る

田島は視線を足下に戻してから、ゆっくりと前を見る
マウンド
ファースト
セカンド
サード
ショート
センター
ライト
レフト

最後にベンチ


視線の中に仲間の顔が浮かぶ
野球ができればよかった
でも、このチームでよかった、このチームじゃなきゃ嫌だと今は思う


なんだか誰かの声が聴きたくなって、ポケットにいれていた携帯を取り出す
誰でもいい

いや



『なんだよ』


数回きこえたコール音のあとに響いた少し不機嫌な声
その声になんか夢中になってやっていたんだな、と田島は思った
それでも律儀にでてくれるのだ、この男は


「阿部〜」

田島の声に電話の向こうでもう一度、なんだよ、と呟く阿部に田島は笑う


「今なにしてたんだ?」
『弟と野球ゲーム』
「へぇ」
『田島は?』
「俺は阿部んとこにいるよ」
『は?』


ここからならなんでも見れる


「キャッチャーってさ、みんなのこと見えるけど、少しだけ寂しいよな」
『田島?』
「俺、西浦ですんげ〜よかったって思ってんだ!!」



ゲンミツに!
そうつけたす田島に、阿部は何も言わない
ただ無言で田島の言葉を待っている


「甲子園いこうな!!!」
『ったりめ〜だ』

阿部の言葉に田島はへへっと笑う
少しだけ照れくさかった


『ってか、お前もしかしてグランドにいるのか?』
「おう!阿部んとこ」
『ばかやろう!!!今台風きてんだぞ!!!早く帰れ!!』
「だって」


わかるだろ?
じっとしていられない
野球がしたくてしたくて


『風邪ひいたら元も子もねぇだろ〜が』
「俺風邪ひかねぇ〜もん」
『そうゆう問題じゃねぇ』


はぁ、と電話越しに阿部は息を吐く


「なぁ、阿部はキャッチャー好きか?」
『おう』
「誰にも渡したくないくらい?」
『あぁ』
「俺が今阿部の場所にたってて、むかつく?」
『少し、な』
「俺も」

一つ息を吸う
そして灰色の空をみあげた
やっぱりそこには何もなくて、視界をうめるのは無数の雨だだ




「ここに阿部がいないの、すんげぇむかつく!」



田島の言葉に阿部が笑う
くっくと笑う
そして、ざまぁみろ、そんな言葉が返ってきた


「早く野球やりてぇ」
『その前にお前はやく帰れ』
「うん」
『ぜってぇ風邪ひくなよ』
「だいじょ〜ぶ!ゲンミツに!」


笑って、バイバイを言った
きっと親友の三橋でも泉でも電話をするのは誰でもよかった
でも、阿部が一番適役だと思ったのだ


きっとわかってくれる



そう思ったから

すごいだけでは語れない   :栄+巣 

June 28 [Thu], 2007, 3:40
桐青戦がおわった翌日

球技大会で自分たちのクラスである1組のバスケの試合を応援しながら、ふと巣山が隣で同じように応援している栄口に話かけた

なぁ、で始まった会話に栄口は別段気にした風もなく、なに?と返す
二人とも視線はずっと絶え間なく動き回るクラスメートたちにむけられたままだ


「田島ってさ」
「うん」
「すげぇよな」
「うん」


天真爛漫というか、猪突猛進というか、破天荒というか
何をどう言えば伝わるだろう?と思いながら二人は昨日の試合を思い出していた
雨が降り始め、それでも行われた去年の覇者への挑戦状
抽選会では会場にいる誰もが、はたまたテレビで見ていたものたちも負けるのは西浦だと思っただろう
ほかならぬ三人を除いては…

栄口、巣山自身たちでさえ、だめだと、勝てないと思った試合に田島は『かてねぇかな』と言った
勝ちたいとか勝とうとか、そんな夢見る言葉でなく
もうかつこと前提なのである
阿部も監督も
そしてそれは現実となった
埼玉中を震撼させたであろう勝利

「あれだけ打てなかったシンカーをさ、たった一試合のうちにうてるようになるって、すげぇよな」
「しかも、9回2アウトの場面で」

言ったとたんにぶるっと栄口は身震いをした
もしも、その場面で自分に回ってきていたら…
阿部と泉を三塁と二塁におくるためのバントをするだけでも緊張したのに
なのに

「俺、あのシンカーをみた瞬間、なんにもできなかったんだ」

あの球で打てないんならしょうがない、とさえ巣山はあのとき思った
あんなシンカーは中学時代みたことない
そんな球にずっと田島は抑えられていたのか、とか
そんな球にずっとマークされていたのか、とか
ベンチに帰る短い距離でたくさんのことを考えた
ネクストボックスに控えていた花井はただぽんと巣山の腕をたたいたのをおぼえている

大丈夫、田島にまかせろ


なんだかそういわれた気になった
ベンチにもどり、振り向いた先にはただ一人ピッチャーと向き合う田島がいて
その目は真剣で
いつもの天真爛漫な田島はいなくて
いつもの破天荒な田島もいない
気を研ぎ澄ませて、ただただ打つことだけを考えている

9回2アウトの場面で


「瞑想でさ、サードランナーみておちつこうって」
「あぁ。でも田島がサードランナーみてることってないんだよな」
「ない、な。三橋がピッチャーに執着してるように田島も打つことに執着とかしてんのかな」
「そうかもな」


『9回に活躍しなよ』

長い死闘の末に打てずにもどってきた田島に栄口はそう声をかけた
あれはただ、はげますためにいった言葉だ
その言葉に田島は子供ように、うれしそうに、必死そうに食いついていた
打ちたくて、打ちたくて、打ちたくて



「田島はさ、”すごい”だけじゃ語りつくせないな」
「そうだな」


きっと今まで出会った誰よりも、これから出会う誰よりも無敵の4番なんだろう
そしてその無敵の4番をより多くバッターボックスに送るためには栄口も巣山もたくさん打たなければならない


「俺らもがんばんないとな」
「おう!」


チームのために
目指すはテッペン!!!



逆らえないのは    :阿部+田島 

June 25 [Mon], 2007, 3:15
快晴続く梅雨あけの日だった
あまりにも気持ちのいい青空だから、昼は屋上で食べるか、なんていいながらむかったそこに先客がいた

「おい〜す」

一番に気付いた泉が片手をあげる
その泉につられるように、9組トリオといわれている三橋と田島そしてその三人のおにいちゃんだと自分でいっている浜田がふりかえる


「なに、お前らも屋上きたんだ」


あははと笑いながら言う浜田が少しずれてスペースをつくる
そこに阿部、花井、水谷の7組トリオがすわった
瞬間視線を感じて阿部は顔をあげる
一瞬だけ田島と視線があい、けれどすぐに田島は隣りにすわった花井にはなしかける
今日の弁当は何がはいっている?とか、今日は体育があったから楽しかった、とか
田島が一方的にしゃべりながら花井はそれに相づちをうつ
阿部は阿部で三橋と今日の投球練習について話しをはじめる

そんないつもの風景


ただ阿部は気付いていた
ときおり感じる視線に


それが田島のものだということも





****



夜の九時で練習がおわる
皆つかれきった身体で家路につくなか、おい、と阿部は田島を呼び止めた

「ん?阿部どうした?」

人のいないとこまできて阿部は足をとめた
それと同時に田島がといかける
振り向いた阿部に田島はいつもの顔で、なんかあった?と目でうったえてくる


「お前さ、俺になんか言いたいことあんじゃねぇの?」


阿部の言葉に田島はへ?ときょとんとした顔をむけたあと


「阿部が俺をよんだんだろ?なんで俺が阿部に言うことがあんだ?」

至極もっともなことを言う
それに内心阿部はちっと舌打ちをした


「お前、最近俺んことみてるだろ?」
「うん」
「それで、俺はお前が何かいいたいことあんじゃねぇのかなって思ったんだよ」


田島も三橋もストレートに物事をいわないと伝わらない
否、田島の場合遠回しでも伝わるものは伝わるけれど、理解しないのだ
皆は田島のことを馬鹿だと思っているけれど、阿部は決して田島のことをバカだとは思っていない
勉強云々のことはおいといてだ
人間としてバカではない


「ああ、阿部は気付いたんだ」

なんだ〜、そっかそっか


1人で納得したような田島にだんだんと阿部はイライラとしてくる
何がいいたいんだ、と怒鳴りたくなった


「でも最初に人のことみてたのは阿部だろ?だから俺も阿部のことみたんだぜ」
「は?」
「阿部はさ、人のこと見る癖だんじゃん。それなんかすげぇことだろ。だから俺もやってみた」
「…」
「案外たのし〜よな。人のいろんなとこ見えてきてさ」

泉はすんげぇ負けず嫌いなんだぜ
三橋は〜、あ阿部のが知ってるか
浜田は泉のことすんげぇ〜大事にしてるくせに、泉に頭あがんねぇの
水谷は女にこくられてると落ち込むの。きっと好きなやついるんだぜ〜!

とか、野球部のいいとこをどんどんあげていく
嬉しそうに花井のいいとこをあげたあと、真剣な瞳で目の前の阿部に視線をむけた
その目はどんな誰のものよりも強い

「阿部はさ、ときどき人をためすようなことするよな」
「…」
「最近はそうゆうの野球部の中じゃなくなったけど、あんまやらねぇ〜ほうがいいと思う」


阿部は何もいわない
ただ、田島の言葉を聞いていた


「三橋の誕生日に阿部が三橋に指示だして投げさせたあと、俺にできるか?ってきいたじゃん」
「あぁ」
「あのとき、俺をつかっただろ」
「まぁな」
「別に俺のことはどう使ってくれても構わないんだけどさ、他のやつらはそうゆうの嫌がる奴もいるだろうからさ、やるなよ」
「…」
「俺、この野球部好きだからさ。誰かが嫌われるのとかすげ〜嫌なんだよ」


あぁ、田島らしいな


不意に阿部はそんなことを思った
誰かに注意されるのはプライドが傷ついて嫌いだった
自分自信も納得のいくような注意ならまだしも、頭ごなしに怒るような大人を阿部は嫌っていた
けれども、同じ年齢の田島の言葉に阿部は笑って、わかった、と了承をした
それに田島はいつものような笑顔で阿部の了承をうけとった



「あいつは人を嫌わないよ」


いつだか花井が言っていた
田島も三橋と同じだ
人を嫌いにならない
人を信じてやまない

ただ違うのは、田島はいけないことはいけないと言えること

まっすぐな人間だけに、言葉に目に力をもつ



「ほんと、お前はすげぇな」




ぽつりとでた言葉に田島は首をひねったけれど、阿部は満足そうにわらった

強者 :西広+田島 

June 22 [Fri], 2007, 3:16
花井、阿部、栄口が監督である百枝とミーティングをおえてメンバーのもとへ戻ってきた
すると、きゃらきゃらと笑う声
そちらに視線をむけて、花井は一瞬目をみはった

西広が田島の頭をわしわしと撫でていたのだ
撫でられている田島は楽しそうにわらっている


「何してんだ?あいつら」


一番近くにいた泉にかけより、花井は尋ねる
そんな花井に泉はん?と呟いたあとははっと笑った


「田島の扱いうまいんだよ。西広」
「そうみたいだな」
「ほら、あいつお前いないとぶ〜たれるだろ。そんなときはもう西広にまかせることにしてんだよね。おれら」
「そうそう!西広も面倒見いいんだぜ?」

そこに水谷も話しにくわわり、泉、とな〜、なんて言い合っている
少しだけ面白くなくなってきた花井は眉間に皺をよせながらその話をきいていた
すると


「あ!花井!!!おっせ〜よ!!!」


犬のようにかけよってくる田島
その行動に、花井は自然と微笑んだ
きっと無意識なのだろうけど、その表情をみていた阿部をはじめ泉たちは内心苦笑するしかない


「楽しそうだったな」
「おう!西広楽しいんだぜ!!」
「そうか」


ぐりぐりと田島の頭をなでる
それだけで田島は笑う
花井はその笑顔が好きだといつも思う


「それにしても西広がこんなに面倒見いいなんてな」

阿部の言葉に泉たちがうんうんと頷き、西広をみる
みんなの視線に少しだけ照れ笑いをうかべる

「いや〜。俺小さい妹いてさ。その妹と田島が似てるんだよ」
「へ〜、西広妹いるんだ〜」
「何歳?」

次々とくりだされた質問に、西広はいつものおっとりした物言いでこたえた


「妹は5才だよ。来年小学校にはいるんだ」






その言葉に誰も何もいえなかった
言えるはずがないのだ

仮にも、一応かりにもだ
田島は15才の高校生であり、我等が西浦の無敵の4番
その田島をまるで来年小学校にあがる4才の子供と同じ扱いができるなんて…


「へ〜!!西広の妹4才なんだ!!」
「す、すごい、ね!!」


ある程度の常識をもつ面々は、この無敵なのか馬鹿なのかもうどちらかもわからない2人の台詞にすら頭痛を覚える


お前は4才児と同じにみられてるんだぞ!!!



勇気があるのならばいいたい
あぁ、おおいにいいたいさ!!!

けれど誰がいえる?
いえるわけがないのだ
と、いうよりも、言っても意味がない


そして新たな強者がいることに、なにを思えばいいのだろう?


おそらく、田島、三橋、西広をのぞく7人が思うことは同じだっただろう。。。


鈴なりの秘密   :阿部→田島→花井 

June 19 [Tue], 2007, 4:46
欲しい物はあるか?

そう尋ねれば、目の前の男と呼ぶにはまだ幼さの消えない男がきょとんとする
その表情がいっそう幼くみえることに阿部は小さく笑った


「なんでもやるよ」
「え…なんで俺?」

基本この目の前の男、田島も三橋と同じで人を嫌うことはない
相当のことがない限り
そして破天荒にみえて、田島は周りのことをよくみているのだ
それが無意識だとしても、空気や雰囲気を潰すとかそういう行為をしないし、むしろよい方向へと導いていく
そんな田島に何度ピンチを救われただろう
ピンチというには大袈裟かもしれない出来事も、いつだってこの男がいい方向へと導いた
そのこと阿部はちゃんと理解していた

だから



「なんかいえよ」
「阿部ってすぐ怒るよな〜。そんなんじゃ三橋がまたこわがっちまうだろ〜」
「今んなこと関係ねぇだろ」


少しきつめに言えば、田島は黙る
少しだけむっとした表情をつくったかと思えば、次の瞬間ふっと表情がきえる


「田島」
「…ほんとにくれる?」


じっと見つめてくるおおきな目
大家族の末っ子
それ故に甘えん坊な面もあるくせに、ワガママを言っていい場面よ悪い場面、遠慮することも知っている

ほしいと思うものが全て手にはいるなんて思ってない


ちゃんとわかってるよ、と田島の行動が訴える


だからこそだ



「やるよ」



迷いのない阿部の声に、一瞬ふたりの視線が交差する


そして、ゆっくりと田島の唇がうごいた




嫌いじゃない、むしろ   :オタカノ 

June 18 [Mon], 2007, 4:18
「お前はまっすぐやな」


不意にでた言葉に、目の前のコイツはなんのことだかわからんって顔してきょとんとしとる
ほんま、顔に感情がでやすいやっちゃ
敵をつくりやすいんやろうけど、せやけどこいつはまっすぐやから
むしろ先輩らにもすかれとる

「急に何いってんだ?」

ぶっきらぼうな口調も、むしろすがすがしい


「ほんま、お前はまっすぐやかなぁ〜」
「意味わかんねぇって」

不機嫌そうに眉をしかめるコイツに、くくって笑う


「嫌いやないで、自分」
「…そりゃどぉも」

さっさと踵をかえして歩きだしたコイツ
その腕とって強引にでも唇うばってやろうか?
俺のもんになるんやったら、なんぼでもアイシテやってもえぇで?




なぁ、叶





意外でもなんでもないけれど   :阿部+田島 

June 17 [Sun], 2007, 3:37
めずらしい組み合わせだなと、阿部は思った
目の前には無敵の4番、田島が部室の長机に頬杖をついて、阿部と対面してすわっている

どういう偶然か、阿部と田島以外のメンバーは日直やら掃除やらでまたきていないのだ
既に着替えおわった田島は手持ちぶさただと言いたげに、じぃっと阿部をみる
その視線を軽くシカトしながら阿部は本日のバッテリー投球の予定を組み立てる



「なぁ」
「ん?」
「阿部って誤解されやすいよな」
「は?」


無敵の4番はいつも唐突に物事を言う
そしてだいたいが理解しがたい言葉をつかうのだ
言葉というよりも、文節
主語がほぼないため、阿部はこの4番との会話をあまり好まない
今も眉がより、眉間に皺ができた
たいがいの人間はその人相の悪さに押し黙ったり、顔を青くさせるものだが、この4番は無敵だった

そう
文字通り無敵なのだ


「阿部は言葉たんね〜くせに、言葉がランボーだからさ〜。三橋がビクビクするんだぜ」
「あいつがビクビクしてんのはいつもだろ」
「まぁ、そーかもしんねぇ〜けどさ」

唇をとがらせながら田島はぐでんと机に顔をもたげる


「なんか、やじゃん。そうゆうの。ホントーは優しいくせに」
「…」
「まぁ、三橋はそんなことしってんけどさ〜」


な!

と自信満々に言い顔を再びもちあげて真正面の阿部をみる
ニッと満面の笑みで

そんな田島に返事をすることを一瞬阿部は忘れた
この無敵の4番は破天荒に見えて、よく周りをみている
人の性格を理解するのがうまいのだ、と阿部は思う
きっと本人は頭をつかって理解してはいないのだろう
鋭い第六感といえば、それは阿部にでも容易に納得できた

おもわず、ふっと笑みが漏れる


「お前はバカだけど馬鹿じゃねぇから、時々驚くよ」


囁いた言葉に無敵の4番は首をひねる
それでもいいと思った



はやく花井こねぇかな〜、と呟いている田島をみながら、阿部は小さく笑った

空き箱2   :笠井+設楽 

May 02 [Wed], 2007, 0:51
電話がなった
うとうととソファの上で眠りに片足をつっこんでいた設楽は手探りで携帯をさがしだし、通話ボタンを押した


「もしもし」


眠気眼な声
そこに心地良い声が聞こえてきた



『兵助』
「竹巳?」
『うん、起こしちゃったね』


ごめん、と謝る竹巳に設楽は微笑みを浮かべた
いつだって、この従兄弟は設楽を気にかけてくれる
そして設楽がのばした手を払うことなく受け止めてくれるのだ
そのことに竹巳の彼である藤代は時にもやもやしてはいるものの、切り離したりはしないのだ

「竹巳、どうしたの?」
『ん、ちょっと気になったことを誠二がいってて…』
「そう」
『どうなの?』
「さぁ、あいつのことなんて知らない」

くすくすと笑いがでてきた
きっと電話のむこうで従兄弟は眉をしかめているのだろう
心優しいから


「心配しなくていいよ、竹巳」
『兵助…』


先ほどより沈んでしまった従兄弟の声に、設楽は心の中でごめんとつぶやいた


「大丈夫。竹巳、俺大丈夫だよ」
『そう』
「でも、だめになったら、また竹巳に頼るかも」


そんな都合のいい話本当はありえない
けれど、設楽と従兄弟の場合は、違う
二人は大事な存在だから…


『兵助、限界になるまえにおいで』
「ありがと」



そこで会話は終わる
従兄弟は設楽の意思を尊重してくれる
それに甘えていることも設楽は知っている
けれど、けれど…





「鳴海のばかやろぉ」


自己嫌悪に陥り、設楽は諸悪の根源である男に毒づいた