注目の起業家ドン・ヒュン・キム氏のコリアン・ファストフード店オープン

May 15 [Thu], 2014, 10:30
予約を一切受け付けないのも「キムチー」の大きな特徴だ。このポリシーにより、ランチタイムや週末のディナーには入り口付近に行列ができ、この行列は新たなお客を呼び込む格好のパブリシティとなっている。このように、入念に店のコンセプトが練られ、ルイヴィトン ベルトディテールにこだわった完璧なブランディングが光る「キムチー」。その仕掛人とは、韓国人起業家のドン・ヒュン・キム氏であり、彼こそが、2002年にスシ・チェーン店「ワサビ」を立ち上げ、今では同店をロンドンで最も活気のあるファスト・フード・ブランドに成長させた人物だ。

 自国の料理であるコリアン・フード・レストランをオープンすることは長年の夢だったというキム氏だが、2000年初頭は、まだ英国における韓国の知名度は低く、まずは日本食で勝負に出たという。「そして4年前、『ワサビ』の経営も順調に伸び、長年温めてきたコリアン・フード・レストランをロンドンで展開する、機は熟したと感じました。そして2011年に 『キムチー』を立ち上げました。モダンなイメージを前面に出し、プレゼンテーションをできるだけカラフルに仕上げました。そして何よりも、オーセンティックな料理を手ごろな値段で提供する。高すぎない値段の設定は、ブランド成功への大きなキーです」とキム氏。

 2013年4月、同氏は「キムチー」のファスト・フード版ともいえる、テイクアウトを中心にした「キムチー・トゥー・ゴー」を立ち上げ、現在はロンドンの一等地に2店舗を展開している。ファスト・フードとはいえ、「キムチー」のラグジュアリーな雰囲気を踏襲する洗練されたインテリア、ビビンバやトシラク(韓国風ベントー・ボックス)などのパッケージ・デザインも美しく、こちらもキム氏の卓越したブランディングの才を感じざるを得ない。メニュー構成も、プルゴキなど伝統的な料理にフレッシュな野菜をふんだんに使い、ヘルシーさを強調。オープンしてまだ1年とはいえ、ランチタイムには毎日長い行列ができるほど人気だ。「NYやLAでは、コリアン・フードは既に大きなブームになっている。常に新しい味を求めているここ英国でも、今後大きく成長していくと予想される。「キムチー」グループとしては2015年までに、新たに5店舗オープンさせる予定」とはキム氏の弁だ。
ストリート・マーケット人気上昇中の、韓国風ブリトー「コリトー」って何?

 「キムチー」グループの快進撃により、コリアン・フードは、そのテリトリーをロンドン市内に確実に拡大しつある。なぜこれほど早急に、この新しい味はロンドナーの心をとらえたのだろうか?

 「コリアン・フードは、素朴でありながらスパイシー、かつ甘味とのバランスがうまく調和している。バラエティーに富んだ食材がふんだんに使われ、ダイナミックな味わいがある。多様な文化が混在し、斬新で躍動感あふれるヤング・カルチャーが常に発信されているロンドンは、そんな刺激性の強い個性を持ったコリアン・フードを容易に受け入れる土壌がもともとあった」と語るのは、今人気のコリアン・ストリート・フード「コリトー」の創始者であるジュー・リー氏。コリトーとは、 プルコギやキムチライス、野菜を入れた韓国風ブリトーがウリのストリート・フード・ブランド。2013年6月にスタートしたばかりにもかかわらず、既に多くの常連客を抱えている。

 「キムチ、コチュジャン、プルコギ、ポーク焼き肉をはじめ、ほとんどの料理は家に代々伝わる特製レシピで作っています。うまみ調味料や砂糖は一切使わず、肉もフリーレンジ(放し飼いで育てられた肉)のものをスミスフィールド精肉市場から仕入れます。当初ロンドナーは、極度にスパイシーなものを好まないと思い、辛味をマイルドに抑えていましたが、みじん切りの韓国産の唐辛子をトッピングのラインアップに加えたら、これがとてもウケている……。この国の人は、本格的な辛いインドカレーに慣れていることを、すっかり忘れていました(笑)」と語るリー氏。また、昨今のコリアン・フード・ブームの背景には、2012年に「江南スタイル」で世界的な大ヒットを飛ばした韓国のスター、PSY(サイ)の影響もとても大きいという。PSY はプロモーションでロンドンを訪れ、コリアン・レストランとコラボレーションして、韓国カルチャー/フードの広告塔として重要な役割を果たした。

 リー氏もまた、「コリアン・フードを通して、自国の文化も大いにプロモーションしていきたい」と語る。実際に彼女は、クラウド・ファウンディング・サービス「キックスターター」で資金を集め、最近「ガストロノミック・コリアン・アドベンチャー」と題したドキュメンタリーを製作した。今後はコリトーブランドを、東ロンドンやロンドン郊外に広げるだけでなく、韓国文化のプロモーション、ビジネスを通して地域の活性化にも貢献していきたいとのことだ。

 インタビューの中で、「異文化を理解するにあたり、“食べ物”は常にその玄関口となる。これは私の家族がいつも家で口にしていた言葉です」と語るリー氏の言葉がとても印象的だった。つまり育った文化が違っても、その国の食べ物を食べれば、お互いに分かち合える何かが見えてくるということ。様々な人種、文化、言語共存するコスモポリタンなロンドンは、混沌の中にも彼女の言葉がまさに具現化され、常に新しいエネルギーを生んでいるダイナミックな街なのだと、改めて実感した。そして、これからさらに大きく羽根を広げていくであろうコリアン・フードにも大きな期待がかかる。

(文/長谷川ゆか)長谷川 ゆか(はせがわ・ゆか) ジャーナリスト兼エディター 大学の芸術学部を卒業後、女性ファション誌の編集などを経て1991年に渡英。以来、食やインテリア、エコロジー関連など、ロンドナーのライフスタイルをテーマに、ヴィトンコピー ベルト日本の女性誌を中心に寄稿。特に最近はフード・ジャーナリストとして、ロンドンのバラエティー豊かな”食”事情を各誌に執筆している。大のお酒好きが高じて、2007年に日本で利き酒師の資格を取得。Twitter :@yukaha1612  リアルタイムなロンドンの食情報を発信している。
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