花のにおいでこれほど感動したことはない。

2006年04月01日(土) 14時28分
4月1日
 与えられた仕事と云うのは、北条駅へ行って、小林曹長の指示を受けよと云うことであった。自転車で行けと云ったが、なかったので歩いた。
 1中隊の藤井と云う1等兵と二人であった。部隊へよって、大便をした。
 北条へ着いたのが十一時まえであった。おそいと云って曹長に叱られるかと思っていたが、曹長はまだ来ていなかった。
 駅前の運送屋で火鉢にあたって、新聞を読みながらたばこを吸っていたら、すぐひるになった。飯盒をさげて、うどん屋へ行って、めしにした。
 帰って来ても、まだ曹長は来ていなかったので、も一度ぶらつきに出かけて、本屋をのぞいた。貧弱な本屋で、中学生の本箱ほどの本しかならべてない。料理の作り方の本があったり、略図の書き方があったり、経済学全集の六巻だけがあったりした。その中に、徳永直の『光をかかぐる人々』と云う本があった。小説かと思ったら、日本の活字と云う副題どおり、その歴史を、随筆風に書いた本であった。それは面白そうだと思って買った。装幀は青山二郎で、なかなかしゃれたものであった。青山二郎は、現在、装幀ではもっともすぐれた人であろうと思う。『ミケランジェロ伝』と云う立派な本があったが、こんな立派な本は軍隊で読むのはおしい気がして、買うのをやめた。
 運送屋へ帰ってくると、曹長が来ていた。兵隊が着いたら、渡してくれと云って、地図をおいて又出て行った。駅前へ出張しているガイドの役であった。
 十六時ころ引きあげた。曹長が自転車を一台おいて行ったので、じゃんけんで勝った方がそれに乗って帰ることにきめた。ぼくが勝った。
 甘いにおいが流れていた。
 梅であった。花のにおいでこれほど感動したことはない。なぐさめられるようなにおいであった。
 道のわきに梅があるたびに、自転車をその方へくねらせて、においをかぎながら帰った。
 夜は、火にあたりながら、三島少尉とわい談をした。
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