競合他社との連携は“ARブラウザ”への第1歩――KDDI「実空間透視ケータイ」の未来 

April 08 [Thu], 2010, 23:03
 現実空間に電子情報を重ね合わせるAR(拡張現実)の技術は、2009年後半ごろからさまざまなメディアに取り上げられ、注目を集めている。「セカイカメラ」や「Layar」など、スマートフォンのGPSや6軸センサー(地磁気センサー+加速度センサー)を活用して、位置情報を持ったコンテンツをあたかも現実空間に浮かんでいるように見せるARサービスが、話題に火を付けた。

 こうした状況の中、スマートフォンではなく日本の“ケータイ”に対して、通信キャリアとして積極的にARサービスを提供してきたのがKDDIだ。同社はKDDI研究所の開発したARアプリ「実空間透視ケータイ(β版)」を2009年6月に公開し、写真をその場に投稿するサービスや、周囲の観光情報を表示するサービスをユーザーに提供してきた。そして2010年、同社はセカイカメラの開発元である頓智ドットとAR事業で連携し、セカイカメラのコンテンツをauケータイで閲覧できるアプリ「セカイカメラZOOM」を6月に提供すると発表した。期間限定で提供する実験的なアプリであり、KDDIは同アプリの成果を踏まえて今後のAR事業を検討していく考えだ。従来提供してきたβ版アプリはサービスを停止し、セカイカメラブランドの新アプリにコンテンツをいったん集約する格好になる。

 「KDDIのARはセカイカメラに吸収されるのか」――そう思う人もいるかもしれないが、そうではない。セカイカメラZOOMは、実空間透視ケータイの目指す「相互運用性のあるAR世界」の構築に向けた第1歩であり、アプリの中では実空間透視ケータイのエンジンが動いている。つまり、実空間透視ケータイはアプリというより、その下で働くエンジンであり、同社のARプラットフォーム全体を指すブランド名なのだ。このプラットフォームは、セカイカメラにとどまらず、さまざまなARサービスのコンテンツを横串で閲覧できる“ブラウザ”としての役割を目指している。同社はセカイカメラZOOMの公開と同時期に、アプリにコンテンツを表示するためのSDKを公開し、さまざまなCP(コンテンツプロバイダー)の参加を募る考えだ。

●“ブラウザ”を目指す実空間透視ケータイ

 「頓智ドットさんのセカイカメラや、ドコモさんの直感ナビなど、いろんなサービスとプリミティブなレイヤーで相互連携を取らないと市場が育たないと感じ、実行の機会を探っていました」――KDDI研究所で実空間透視ケータイの開発を担当する小林亜令氏はそう語る。同氏はかねてからARコンテンツの相互運用性を重要視し、他社との連携に積極的な姿勢を見せてきた(参考記事1:http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0907/22/news065.html)(参考記事2:http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/0909/28/news068.html)。

 一方、KDDIのコンテンツビジネスの検討部門では、コンテンツを配信し流通させるためのメディアとしてARに注目しており、さらにAndroid端末の企画開発の部門では、スマートフォンならではの新しいコミュニケーションツールの提供に関心を寄せていた。こうした事業戦略的な背景と小林氏の思いとが重なり合って実現したのが、ユーザー参加型ARとして大きな求心力を持つセカイカメラとの連携だった。

 セカイカメラZOOMは、実空間透視ケータイの独自機能や軽快な動作性と、セカイカメラの豊富なコンテンツと洗練されたデザインが融合した、“いいとこ取り”のアプリといえる。機能面は、2009年のCEATECで公開された実空間透視ケータイの開発版に近く、現実空間の位置や向きと連動するCGマップ上にコンテンツを浮かべる「透視モード」と、カメラ映像にコンテンツを重ねる「ライブビュー・モード」という2種類の画面モードが用意されている。透視モードでは遠くのコンテンツを表示するズーム機能を搭載するほか、コンテンツの密集度に応じて画面の表示範囲を自動で調節するなど、これまでKDDI研究所が培ってきたARのノウハウがそのまま生きている。アプリの開発は富山県立大学と共同で2010年に入ってから開始。Android端末の発表会で展示した開発版は、わずか2カ月半で作りあげたという。

 同アプリは、セカイカメラのデータベースにアクセスし、「エアタグ」と呼ばれるセカイカメラのコンテンツを画面に表示する。また、当然ながらセカイカメラZOOM上で投稿したエアタグは頓智ドットのセカイカメラにも反映され、コンテンツの相互運用性が確保されている。

 さらに、KDDIは独自にエアタグ用の「KDDIエアタグサーバ」を持ち、そこにKDDIが既存事業で関係を築いてきたCPのコンテンツや、ECへの導線、あるいは広告などを載せ、セカイカメラZOOMに表示する考えだ。こうしたKDDI側のエアタグは、頓智ドットが公開したAPIによってセカイカメラにも反映することができる。

 構造が少々複雑だが、両社の関係を端的に言うと、KDDIにとって頓智ドットは豊富なCGMコンテンツの提供元であり、セカイカメラという求心力のあるブランドでARを推進するパートナーということになる。一方、頓智ドットにとってKDDIは、日本で圧倒的な数を占める“ケータイユーザー”へのリーチを手助けしてくれる存在であり、APIを通じてコンテンツを配信するCPの1つでもある。

 そして、セカイカメラZOOMを語る上で重要なのが、KDDIと頓智ドットのサーバだけでなく、不特定多数のARデータベースにアクセスすることを想定している点だ。「不特定多数のサーバにアクセスできないとWebブラウザ的な役割を果たせません。ですので、CPさんがAR用のサーバを構築するためのSDKを公開し、レイヤーを切り替えるような感覚でさまざまなサーバにアクセスできる環境を整えます」(小林氏)。同氏によれば、オーサリングツールを使って手動でコンテンツを配置する静的なサーバに加え、動的な高機能サーバを構築するための仕様も公開する予定だという。同社はこうしたCP主導のARチャンネルを増やしてコンテンツの充実を図る考えで、幅広い企業からの参加を募っているという。

 また、KDDIはこうした多くのARチャンネルを「EZwebでいうトップページのようなポータル画面」(小林氏)から選択できるようにする考えだ。開発版のアプリの画面には、アクセスできるチャンネル(ARデータベース)の一覧画面が設けられ、セカイカメラのAR空間だけでなく、これまで実空間透視ケータイで提供してきた観光情報などのAR空間が選択できるようになっていた。人気のあるARチャンネルが分かるランキング機能なども実装し、利便性を高めていくという。

●トライアルを通じてビジネスモデルのあり方を検討

 このようにARプラットフォームの構築に取り組むKDDIだが、収益化についてはどのような戦略を持っているのだろうか。同社がセカイカメラZOOMで取り組む試みの1つは、先述したKDDIエアタグサーバを使った広告コンテンツの配信だ。広告主に対して専用のエアタグ配置ツールを提供し、EZwebやPCサイトへのリンクを設定することで、自社サイトへの誘導が図れるようになっている。「ユーザーがセカイカメラZOOMからリンクを選択すれば、EZwebのサイトに飛ぶことができます。つまり、EZwebの課金システムを使ったECサービスなどの窓口として、エアタグが利用できるのです」(小林氏)。また、頓智ドットのセカイカメラからこれらの広告エアタグにアクセスした場合は、PCサイトに飛ぶようになるという。

 広告の配信だけでなく、プラットフォーム利用料やユーザーに対する何らかのコンテンツ課金など、ARのマネタイズ手法はさまざまな可能性がある。サービス企画に関わるKDDIの伊藤盛氏は、利用者を増やすためにも「まずはプラットフォームを整備し、CPさんにコンテンツを出してもらえる環境を構築することが先決」と説明する。「プラットフォームの利用料という点では、CPさんもコンテンツをARに対応させるためにリソースを使いますので、成果報酬型などビジネスモデルに何らかしらの工夫が必要と感じています。現状で決まっていることは少なく、セカイカメラZOOMのトライアルを通じて、ビジネス的に成り立ちうるモデルを見極めていきたい」(伊藤氏)

 位置情報サービスは、これまでIT分野があまりリーチしていなかった小規模な実店舗の広告メディアとしても注目されている。KDDIもこうした小規模店舗をターゲットに、地図サービス上で店情報をルート案内とセットで訴求する広告商品を発売した。そして実空間透視ケータイでも、こうした方向性は意識されていると小林氏は話す。「例えば、農家の方のお茶畑を通りかかった人がお茶畑にケータイをかざすと、そこで採れた茶葉が購入できるようなサービスを実現したい。それが広告なのかECなのかは分かりませんが、実空間上で出会ったものを“かざせば買える”というリテラシーを普及させたいと思っています。そのためにはコンテンツが充実していることが不可欠で、『商品が1つしかない』といった方でも参加できるようにする必要があると感じています」(小林氏)。

 一方の伊藤氏は、KDDIが協業モデルで運営している「auショッピングモール」などの各種サービスとの連携も選択肢として検討していきたいと話す。また「au one」の広告事業を手掛けるmedibaと協力して広告を獲得していくようなシナリオも考えられるという。

●KDDIのAR事業、今後の課題と計画は?

 こうした戦略の下、6月にサービスを開始するセカイカメラZOOMだが、開始までに解決すべき課題があるという。「セカイカメラに比べてセカイカメラZOOMが弱いのは、ユーザーがアプリに触れる“導線”だと思っています。現状では待受け画面上に起動アイコンがあるわけでもなく、何回かキーを押さないとアプリを使えない。いろいろと試行錯誤の最中ですが、別のメディアからの誘導など、アプリを使いたくなるような手前の導線を工夫することに注力したいと考えています」(小林氏)。そのため、発表会で披露した開発版からさらにアプリの内容が変更される可能性もあるようだ。

 また、6軸センサーを搭載した端末が少ないことも課題だ。現状では、セカイカメラZOOMの“かざした方角のエアタグが自動で表示される”機能を楽しめるのは、カシオの「G'zOne」シリーズなど一部の機種に限られる。今後、ケータイの6軸センサー搭載率がどう変化するのかは分からないが、実空間透視ケータイのプロジェクトでは太陽光を認識して方位を検出する技術なども研究されており、こうした機能が将来的に実装される可能性はあるという。また、位置の把握という点では、GPSでは正確に把握できない“ラスト10メートル”の距離をどう検出するかも「なんとか解決したい課題」だという。これには画像認識をはじめ、さまざまな手法が検討されている。

 また、サービス開始後はCPなどのパートナーの要望を聞きながらアプリの機能をバージョンアップしていきたいと小林氏は意気込む。「SDKを公開するだけでなく、パートナーと一緒に魅力的なコンテンツを作っていきたいと考えています。例えばですが、実空間透視ケータイを使った位置ゲーの提供など、SDKだけでは実現できない機能の要望にも積極的に応えていきたい」(小林氏)。また、小林氏によれば、セカイカメラZOOM以外のアプリケーションの提供も検討されているようで、“ブラウザ”としての役割を果たすセカイカメラZOOMとは違った体験を提供するアプリになる可能性があるという。

 日本のケータイで、ARがどう受け入れられるのか――β版として提供されてきた実空間透視ケータイの真価が問われるのはこれからだ。単なる目新しさにとどまらないARの利便性や体験性を各社が模索している中、小林氏も「最初の5秒は目新しさで切り抜けられるが、その後の5分をいかに使ってもらえるようにするかが重要」と話す。通信キャリアならではの多彩なコンテンツやサービスとの連携を通して、KDDIならではの魅力的なAR空間を生み出せるかどうかが、大きな鍵になるだろう。【山田祐介】 4月8日14時38分配信 +D Mobile
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