怖い夢(その10:「お楽しみもほどほどに」)

2010年06月06日(日) 0時05分
怖い夢(その十:「お楽しみもほどほどに」)

僕は高校の剣道部の若きエース。
一年生ながら無敵の強さを誇っている。
中学校時代は三年連続で県大会の個人戦を制し、
全国の強豪校から誘いを受けたが、全部断って
地元の県立高校に進学した。
高校でも早速頭角を現した僕は、
団体戦のメンバーにも選ばれ、対外試合でも活躍を続けた。

夏を迎え、恒例の遠征シーズンが訪れた。
県下の高校の選抜メンバーで、全国でも昔から圧倒的な強さを誇る、
九州の△△県まで武者修行を兼ねて出掛けるのだ。
メンバーは神戸まで電車で移動し、そこかあら九州へはフェリーで渡る。
関係車両や荷物類の運搬などもあり、フェリーが便利という判断であった。
神戸から九州までは丸一日ちょっとの船旅だ。

一行は神戸に到着した。
フェリーに乗り込むと、あらかじめ、選手の部屋割りが定めてあった。
参加している選手は、団体戦と個人戦のメンバーを合わせて二十名ほど。
もちろん僕も両方のメンバーに名を連ねている。
同行する学校関係者や女子マネージャーたちの部屋も別に用意されている。

フェリーが出発するまでの手持ち無沙汰な時間に、
僕は同期の仲間何人かと誘い合わせ、女子の部屋に
遊びに行ってみることにした。
女子だって我々のような男子選手と交流するのは楽しみだろう。

好奇心旺盛な僕は、先頭を切って女子の部屋を訪ねた。
すると・・・
(あれ?何だか随分と賑やかだぞ)
中を伺うと、他の高校の女の子だろうか、たくさんの人数が集まり、
国際色豊かな交流が始まっているではないか。
どう見ても日本人ではない、褐色の肌をした女子や、
白人系の女の子、それから、タガログ語のような言語をしゃべる
アジア系の女子など・・。

「何だか妙な雰囲気だね。異文化交流会をやっているみたいだよ。
そういえば、このフェリーには、夏休みを利用して
各国からの交換留学生が多く同船しているって、
引率の先生が言ってたよな。」
と、僕が言いながら後ろを振り返ると、
一緒に来ていたはずの同級生が誰もいないではないか。
(何だよ。怖気づいて引き帰しちゃったな。まったく、根性なしの連中だな!)
僕は、そのまま勢いに任せて、そして興味本位も手伝って、
思い切って声を掛けた。
「やあ、お嬢さんたち。楽しそうにやっているね。
僕、■■高校剣道部の○○っていうんだけど、
良かったら一緒に雑談でもしない?」
すると、そこにいた女の子たちは、
とても嬉しそうに笑顔を向けるではないか。
「キャー、あの有名な○○くんが来てくれるなんて、最高だわ!」
「うそみたい!剣道のホープって、マスコミでも騒いでいるわよね。」
「ほんとだ!甘いマスクに清楚な雰囲気の美少年剣士って、
聞いていたとおりだわ!」
女の子たちは口々に言って嬌声を上げるではないか。
(へえ?僕ってそんなに有名だったの?全然知らなかった。
田舎だし、テレビや雑誌もあんまり見ないからなあ。そういえば時々、
出版社とかテレビ局とかのマスコミが取材したいと
学校に来ていたみたいけど、そういうことだったのか。)
あまりの反応に少したじろいでいると、
その中にいた褐色の肌の美人高校生が、
流暢な日本語で話しかけてきた。
おそらくブラジルからの留学生だろう。
「ねえ、○○くん!せっかくだから私と外でデートしてよ!
こんなチャンス、めったにないわ。日本に来た思い出に、
一度でいいから経験しておきたいわ!
ねえみんな、ちょっとだけ、いいでしょ?」
すると、他の女の子たちも同調して言った。
「ええ、いいわよ!楽しんでらっしゃい。こうなったら順番だわ。
一人ずつ順番にお相手してもらいましょう!」
(ええ?いいのか?こんな展開で・・。
でも、デートって言っても、ここは狭いフェリーの中だし、
行くところがないじゃないか。周りに同じ学校の人間も沢山いるのに・・)
呆然としていると、誰かがそれを察して言った。
「あ、○○くん、場所を気にしているんでしょ。
そうか、知らなかったのね。今日は海上が荒れ模様だから、
念のためフェリーは欠航。一晩ここに停泊して、
明日の午後に出発するってさっき引率の先生から連絡があったのよ。」
 そしてその子は続けた。
「だから、今日は外に出掛けても大丈夫。
明日の朝までに戻ってくればいいの。せっかくのチャンスだから、
遠慮せずに楽しみましょう!」
予期せぬ展開に戸惑うばかりの僕だったが、
ここまで来たら、後戻りするのも男がすたる。
彼女たちの言うとおりだとすると、
今日はこのままフェリーに残っていても仕方がない。
どうせ各自が思い思いに外出したり、部屋に残ってゴロゴロしたりと、
適当に時間を過ごすに違いない。
であれば、せっかくのお誘いだ。こんなチャンスは珍しいし、
お相手するとしよう。
度胸を決めた僕は、ご指名にあずかり、
まずはブラジル人の彼女と一緒に出掛けることにした。
するとその子は嬉々として、皆にウインクを投げながら手を振り、
僕の腕に腕をからめて、颯爽と外へと出掛けるのだった。

外へ出ると、繁華街までは目と鼻の先だった。
多くの飲食店や遊興施設が、
街の中心部から山の手にかけて広く展開されている。
神戸の街といえば、昔から外国人が多く集まる場所としても有名だ。
貿易港でもあるので、多くの船員や関係者が街に溢れている。
そのせいもあるのだろうか、
若い男女二人が腕を組んで街を歩いていても、全く違和感はない。
それにしても、女の子の行動の大胆で洗練されていることといったら・・・。
とても、日本の、それも片田舎の高校生には考えられない行動だった。
近くのカフェで軽く食事を済ませると、未成年なのにビアホールへと誘われて、
無理やり飲めないビールを飲まされて・・。

ふと気がつくと、周りにはさっきフェリーにいた外人の女子たちが集まって、
僕を取り囲んでいるではないか。
「あ・・あれ?みんな来ちゃったの?そうか、
ひとりずつだと時間がとっても足りないもんね。
それで、待ち合わせて集合したのか。」
酔いが回ってきた僕は、だんだんと舌がもつれ、
呂律がまわらなくなってきた。
気がつくと、彼女たちの手が僕の体のあちこちをタッチしている。
誰だ?強引にキスしたやつは!うっ・・・苦しい。あ、そこは。
や、やめてー。

どのくらい時間が経ったのだろう。
ふと気がついて我に返ると、
僕は見慣れない安モーテルの部屋に一人残されていた。
急いで起きようとすると、頭がひどく痛い。
(痛あ!何だ、この頭痛は。)
しばらく呆然としながら、考えを巡らせていると、
だんだんと状況を思い出してきた。
急いで時計を見ると、翌日の夕方になっているではないか。
(うわ、まずい!丸一日経っちゃっている。しかも、酷い二日酔いだ。
未成年飲酒だぞ、これは・・。こりゃ大変なことになった。
どうしよう。そうだ、フェリーはどうした?とっくに出航している時間だ。)

焦った僕は、ともかくすぐに学校へ連絡しようと、
フロントまで駆け下りて、状況をかいつまんで説明した。
居合わせたフロントの従業員は、驚いた様子で僕の報告を聞くと、
思わずそばにあったテレビを指差すではないか。
「あの、あなたですね。今、テレビのニュースで
大騒ぎになっていたとこですよ。
『遠征途中の高校生、外出したまま行方不明。目撃証言から、
不良外国人グループに拉致されて金品を揺すられた挙句、
人身売買容疑で訴えられており、警察が全力で行方を捜している』って。」

ええ?そんなバカな。
何でフェリーに不良外国人が乗り合わせているんだ?
そうか、不良女子留学生が、獲物に狙いをつけて
仕組んだ行動だったんだな?
僕が有名人だと知っていて、たかった挙句に因縁をつけて・・。
いいなりにさせて、そのうち親からも巻き上げるつもりなんだ。
道理で、同級生の女子マネはそこに居なかったはずだ。

嵌められた。どうしよう。学校や親に話しても、
状況を知ったら素直には信じてくれないだろう。
飲酒は事実だし、記憶にはないけど未成年売春まで・・。
学校は退学、剣道の道もアウト、それどころか、犯罪者扱いになっちゃう。
そんな。誰か、助けて!事情を話すから、誰かわかって、助けてー!

・・と騒いでいたら目が覚めた。ああ、怖かった!



怖い夢(9)「限界だあー」

2010年06月04日(金) 0時04分
書き溜めて出版社に持ち込もう。

怖い夢「その9.・・(限界だあー)」

私は新進気鋭のルポライターだ。
足を使った現場取材と、事件に隠された裏側の人間模様を
綿密な取材で掘り起こす手法には定評がある。

今日は、ここ最近日の出の勢いで事業を拡大している、
ベンチャー系の情報管理会社が
大規模なイベントを催すと聞き、勇んで駆けつけてきた。
というのも、この会社は世間から
色々と良からぬ噂が囁かれているのだ。
何故こんな短期間で脅威の収益を上げることが出来たのか?
出所不明な巨額の資金や、仕手筋、
また政財界との不透明な癒着まで囁かれている。
今日は、このイベント会場に
その会社の首脳陣が集まってきていると聞く。
幸い、この会社の企画担当者とは
学生時代からの長いつきあいだ。
会場への出入りや、要人へのインタビューなど、
色々と便宜を図ってくれるはずだ。
気合を入れて内幕を探ってやるぞ。

会場に到着すると、早速その担当者が出迎えてくれた。
「やあ、○○君。お出ましだね。
今日はひとつお手柔らかに頼むよ!」
と愛想を言うその友人に、
「ああ、もちろんだよ。君のお陰で色々と
便宜を図ってもらっているんだから、おたくの会社の
有利になるような提灯記事を探して書いてあげるよ。」
と私が返して言うと、
「ハハ、そりゃ有難い。最近マスコミには変な噂を立てられて
困っていたところだ。業界でも腕に評判の君が当社に
フォローの記事を書いてくれたら、いい宣伝になるし、
イメージアップにもつながるからね。是非よろしく頼むよ。」
「わかった。君とは長いつきあいだ、そこは心得ているよ。」
と答えながら、私は内心思っていた。
(そうしてやりたいのはやまやまだけど、こっちも商売だ。
裏を探ってスクープ記事をものにするのがルポライターの
腕の見せ所と言うものだ。彼には悪いが、仕事は仕事と
割り切ってやらせて貰う。
不義理をした分だけは後で帳尻を合わせればいいさ。)

さて、どこから取材しようか、と考えていると、少し尿意を催してきた。
「悪いんだけど、ちょっとトイレを借りていいかな?」
と聞くと、彼は親切に案内してくれた。
「この会場を抜けて、裏手の階段の上り口を右に折れたところに
男女のトイレがあるよ。ちょっとゴチャゴチャしているけど、
行けばすぐに判ると思うよ。」
「有難う」
気軽に礼を言った私は、言われたとおりトイレを探して歩いて行った。

トイレはすぐに見つかったが、入り口の周りが何だかザワザワしている。
何かあったのかな?と様子を伺うと、何だか柄の悪い、
黒の礼服に身を包んだ、いかにもその業界とおぼしき連中が、
中と外を固めて何かの作業をしているようだ。
(何だか知らないけど、巻き込まれるのはいやだな・・。場所を変えよう。)
と、会場入り口に戻ってみると、さっきの担当者は
別の対応があるのだろう、もうその場にはいなかった。
困ったな、どうしようか、と回りを見回していると、
近くにいた初老の婦人が私を見て何かを指差している。

「ひょっとして、トイレをお探しじゃないのかしら?」
声を掛けられた私は、一瞬おどろいたが、
(そうか。このご婦人も同じような状況だったに違いない。
たまたま私がトイレから出てくるのを見かけたので、
親切にその場所を教えてくれているんだろう)と思い、
「あ、ああ、そうなんですよ。え?あちらにありますか?」
指を指された方角を見やると、その婦人は言った。
「ここからだとちょっと遠いですけどね、あちらの方向に
歩いて五分ばかし行かれると、公衆トイレがあったわよ。
そこへ行かれたらいいですよ。」
「それは、ご親切に有難うございました。助かりました。」

そのイベント会場は東京の臨海部を埋め立てて造った
場所にあるのだが、一旦イベント会場から外に出ると
周囲は閑散としており、これといった施設などが見当たらない。
だだっ広い駐車場が広がり、モノレールの駅までは
歩くと十五分もかかってしまう、不便なところだ。
周りにはまだのどかな田園風景が多く残っている。

(こんな所まで来て、公衆トイレかよ・・。まあ、
えらく不便そうな所だから仕方ないか。ともかく、急いで用を済まそう)
と、歩いて行くと、あるはずのトイレが
なかなか見えてこないではないか。
(おかしいなあ・・。確か、さっき指差された方には
それらしい建物があったと思うけど)
またしばらく歩くと、公衆トイレではなく、
場違いな感じでポツンと一軒だけ建っている民家に行き当たった。
(何だ、トイレと違うじゃないか。ただの民家だ。
知らない家だし、玄関は閉まっているようだから、
突然ドアをノックしてトイレを借りるのもはばかられる。
どうしようか・・。ああ、キツクなってきたぞ。まずい。)
その民家はモノレールの駅とは反対の場所にあったが、
こうなれば我慢してでも駅まで戻って確実に用を足した方が安全だ。
「クソー。さっきのおばさん、何ワケのわからない、
いい加減なこと教えてくれたんだろう、全く腹が立つ!」
と文句を言いながら、引き返そうとすると、
その婦人が、玄関を開けて外へ出てきたではないか。

「あれ?さっきのご婦人じゃないですか。
ここは貴方のおうちだったのですか。でも、
公衆トイレじゃないですよね。一体どういうことですか!」
と、臨場感に迫られた私がやや切迫した声で訊ねると、
「あら、公衆トイレじゃないけれど、言ってくれれば
家のトイレくらい貸してあげようと思ったのよ。
だから急いで車で戻ってきたんじゃないの。」
「え?そうだったんですか。
だったら最初からそう言ってくだされば良かったじゃないですか。」
「フフ、そうね。ごめんなさいね。」
何を茶化しているのかと腹が立った私だったが、
ともかく、尿意はだんだんと限界に近づいてきたので、
「あの、この際だからお願いします。
今から駅まで戻って用を足そうと思っていたんですけど、
そろそろ限界っぽいです。こういう状況なので、
お宅のトイレを貸していただけませんか?」
「そうねえ。この辺ではうちの家くらいしか場所がないものねえ。
まあ、私もあの会社の関係者だから、何かのご縁かしらねえ。」
「え?あ、そうなんですか。
あの、今イベントを主宰している情報管理会社の?」
「ええ。私も大口の株主なのよ。
この土地を提供するとき口を利いたのも私なのよ」
そうだったのか。
道理で、小奇麗な身なりをした婦人が、
なぜこんな場違いなビジネス会場に一人で佇んでいるのか、
ちょっと不思議に思ったけれど、そういう訳だったのか。

それはともかく、もう限界だ。この急場を何とか凌いで、
あとはゆっくりとこの婦人に取材してみよう。
凄く面白そうな裏話が聞けるに違いない。
変な出会いだけれど、その甲斐はあったかも知れない。

急に勇気が湧いてきた私は、その婦人に重ねて懇願した。
「では、お言葉に甘えて早速、小用をお借りします。
その後、色々と雑談がてら、会社のお話など
お聞かせくださいませんか?もちろんお礼は差し上げます。」
すると婦人は、急に態度を豹変させて言い放った。
「あなたでしょ、小ざかしいルポライターっていうのは。
息子から聞いているわよ。あることないこと書き立てて、
取材対象をひどい風評被害に貶めて、
場合によっては立ち行かなくする、悪名たかい業界ゴロだって。」
「え?息子さんって・・・」
と私が訪ねると、
「さっきあなたを親しげに案内していた担当者よ。
学生時代のお友達らしいわね。だけど、
それとこれとは話が別よ。
ウチの関係する会社の仕事に嘴を入れるのは許さないわよ!」
「・・そんな。そうか、さっき会場内のトイレに群れていた連中は・・」
「そうよ。不都合な奴が来たら、トイレに連れ込んで・・・。
あんたはラッキーだったわね。直前にちょうど、
あんたの同業者が入ってきたから、始末していたところだったのよ。
あんた、悪運が強いわねえ。
でも、家の中には手下が大勢待機しているから、
タダでは帰さないわよ。覚悟しておきなさいね。」
「やっぱり、そうだったのか!でも、そんなひどいことを・・。
何とか冷静に話し合わせてください。お願いです・・。
ああ、限界だ、モレる!何とかして!
トイレだけでも貸してください!た、助けて!限界だあー」

と叫んでいたら目が覚めた。ああ、怖かった。

怖い夢(8)「異空間」

2010年05月31日(月) 0時05分
最近夢見がいい(??)
またまた続いて「怖い夢」を見ちゃった・・・・


■怖い夢(その八・・「異空間」)


私は都内の大学に通う4年生である。
この就職氷河期にあって、
幸運にも有名な総合家電メーカーへの内定をもらっている。

元来、自分でもずいぶん要領のいいタイプの人間だと思う。
大して努力も勉強もせずに、そこそこのレベルの高校に進み、
また一応名前の通った大学にもすんなりと合格した。
人づきあいも全く苦にならない。
そのせいか、各種の面接試験は昔から得意中の得意だ。
だから就職活動にはとても有利で、
4年生になる前の年明けには早々に内定が出て、残りの1年間は余裕で
バイトと卒論に精を出せば良かったというわけだ。

季節はそろそろ晩秋を迎えている。街路樹も散り始めて、
肌寒さが募ってきた。
私は、手持ちぶさたな時間をつぶそうと、家の近くの図書館に足を運んだ。
すると、駅前の公会堂で著名人の講演会があるという
案内ポスターが掲示されているのが目にとまった。
その著名人というのは、最近ラジオの東京キー局で
軽妙なトークが話題の中堅パーソナリティだ。
何かの話題のネタにも使えるだろう。

講演は、なかなかに洗練された内容だった。
私はそれなりに満足して、帰ろうとしていると、
急に場内アナウンスが流れてきた。
「本日はご来場いただき誠に有難うございます。
突然のご案内ですが、本日たまたまこちらにお越しになっている、
映画監督の南野様のご好意により、今から特別に
講演会を実施させていただくことになりました。
ご興味のある方は是非その場にお残りになって、お聴きくださいませ」
すると、会場は大きなどよめきに包まれた。
私も突然のことにびっくりした。
南野監督と言えば、元々はお笑いタレント上がりだけれど、
海外で凄く評価が高く、多くの賞を受賞している超有名人じゃないか。
彼の映画そのものにはそれほど興味はないけど、
こんなチャンスは珍しい。もちろん残って聴いてやろう。

南野監督の講演は、講演というよりも、さながらトークショーのようであった。
観客を巻き込んで爆笑の渦。
きわどい下ネタなども交えて、正に爆弾トークが炸裂した。
圧倒されて聴き入っていると、監督が言うには、
「折角だから、今回xx映画祭に出展した映画の撮影現場を
隣の公園に再現しています!良かったら、
映画の登場人物になりきって堪能して行ってください」
ええ?そんな演出まで用意されているのか。すごいなあ。
確かその作品は、戦前の東京を舞台に、貧しい中にも希望に溢れた
庶民の生活を活き活きと描いたもので、
画面に溢れる多彩な色彩感覚が国際的に賞賛されていると
何かの映画批評で書いてあったような気がする。

外に出ると、昼下がりの西日が長く延びていた。
私は早速、その公園に足を運んでみた。
確かに、そこには昭和初期の東京と思しきセットが再現されている。

どうやら、川が流れる下町の風景のようだ。
安普請の平屋や商店街が並んでいる。
駅前の噴水らしいセットもあり、そこには若い人たちが集まって
スナック菓子を食べながら語り合っていた。

「あれ?」
良く見ると、大学の同級生の女の子たちじゃないか。
「あれれ、君たちじゃないか。ここで何してんの?」
と聞くと、
「あ、○○くん。何言ってるの。私たち一緒の会社に内定貰ったじゃないの。
今日はここでこれから新人研修があるから全員集合って言われたでしょ?」
咄嗟に言っている意味が判らなかった私が、
何のことかと問いただそうとすると、そこに誰かが来たのを察したらしい。
その子たちはそそくさと身なりを正してその場から去っていった。
よく見ると、彼女たちはきちんとリクルートスーツに身を包み、
清楚な新入社員の格好をしていた。
(一体何のことだろう。それにあの格好。
新人研修?そんな馬鹿な。新人研修は来年4月に入社してからだよ。
それに、あの子たちと一緒の会社に入ったなんて全然聞いてないし。
第一、これは映画のセットじゃないか。ははあ。
彼女たちもさっきの講演を聞きに来ていたんだな。
それで、セットを見学しながら休憩していたら僕を見かけたので、
いい加減な冷やかしを言ったに違いない。やれやれ。)

我に返った私は、その後もあちこちとセットを見て回った。
特に民家のセットは非常に精巧に再現されていて、興味深かった。
試しに、と思って玄関を開けると、当然ながら中には誰もいない。
玄関から居間に上がり、奥の寝室まで覗いてみると、
さすがに家の裏側は木材と梁がむき出しになった骨組みが露になっている。
(やっぱり。いくら精巧に作っていても、
セットの裏側まで完全に再現するはずないよな。)
と、独り言をつぶやいて、少し疲れてきたから休もうと、
和風の寝室に敷かれている布団の上に横になった・・。

「おい、コラ!君は誰だ!」
突然、耳元で大声がしたので飛び起きた。
「・・は?な、何でしょう?」
 気がつかないうちに、私は布団の上ですっかり寝入ってしまったらしい。
ぼんやりとした頭で目をこすって見上げると、怒りで血相を変えた、
会社の人事課長が私を睨みつけているではないか。
面接の時に優しい笑顔で対応してくれたので、良く憶えている。
何だ、これは?一体どういうことだ?

「君。ひょっとして○○くんだな!」
「あ、はい・・。そうですけど・・」
「そうですけどじゃないよ!ここで何してるんだ。
今日から全員集合して研修開始ということは判っているよね。
君だけが見当たらないから、どうしたのか、と研修課長から連絡があったので、
急いで駆けつけてきたんだよ。同じ大学出身の子たちに聞いたら、
ここに来ているのは見かけたというから、
少し遅れてでも参加すると思っていたら、夕方になっても現れない。
心配になって家に連絡したら、
朝からそちらへ伺っているはずですと言われるじゃないか。
まさかと思ったが、割当の宿舎に紛れ込んでいるかもしれないと、
人事部の職員が皆で手分けして探していたら・・・。
案の定、こんなところで高イビキか。」

・・とすると、さっき女の子たちが言っていたことは本当だった?
今日は会社の集合研修だったのか。
自分だけそれを忘れて、こんなところで寝入ってしまって・・。
まてよ。でも、おかしいぞ。そんなはずはない。
ここは映画のセットの中だろう?
それに今はまだ前年の秋でしょ?
一体どうなってるんだ?
わからない。でも、これは現実らしい。
どうすればいい?何だか進退窮まっているぞ。
た、助けて!誰か弁解してくれー!


・・と叫んでいたら目が覚めた。ああ、怖かった。



怖い夢:その7「新規営業」

2010年05月29日(土) 5時05分
またまた久しぶりにショート・ショートを。
この「怖い夢」シリーズ、本当に筆者が見た夢を
そのまま寝起きに憶えている範囲でメモした題材です・・・。

■怖い夢:その7「新規営業」

私は外資系トップ企業の役員である。
先日、ライバル会社から強引なヘッドハントを受け、
営業部門の責任者として、恵まれた条件で移籍してきたばかりだ。
移籍する際には、元所属の企業から強く引き止められたし、
業績も上げていたので、かなり悩んだが、
移籍先の経営層や同僚幹部は昔からの知り合いでもあり、
人となりも良く把握している。
何より、自分を必要としてくれている熱意に応えたかったことが、
大きな決め手となったことは間違いない。

着任すると、予想どおりの大歓迎を受けた。
役員専用の個室や、いかにも利発そうな秘書がついている。
ひととおりオフィスを回り、挨拶を交わす。
おそらく前評判が広まっているのだろう、
行くところ行くところで社員が寄ってくる。

「ヘッド(そう呼ばれているようだ)、この事務室ご覧になって如何ですか?
ヘッドに失礼がないよう、部員総出で綺麗に準備したんですよ」
と、総務を取り仕切ると見られる
「お局様」系ベテラン女子社員がアピールしてくる。
「ほう、なるほどね。気を利かせてくれてるみたいで恐縮だね」と、
こちらも軽く愛想を返す。
確かに、白を基調にした清潔なオフィス空間が用意されていた。
初心に帰って営業頑張るぞ!という意気込みの表れだろうか、と思った。

「よーう!来てくれましたね!楽しみにしてますよ。」
直属の上司となる常務は、
私よりも年齢的には若干下の、バリバリのやり手だ。
前職時代には各種プロジェクトを通じて激戦を交わした好敵手だった。
「やあ、今度は身内として一緒にやれることになりましたね。
どうぞお手柔らかに!」と挨拶を返し、別の部署へ回ろうとすると、
「そうだ、ヘッド。貴方には何でもないことだけど、
一応ね、通信回線を当社へ切り替えてもらう契約を2週間以内に30件、
お願いしますね。別途事務方から説明させます。
過去に何百万回線を獲った実績のある貴方なら、
たわいもないお遊びでしょうけど、ハハハ」
よく要領を得なかったが、まあ何とでもなるんだろうとタカを括った私は、
「そうですか。では、別途事務方から連絡をお待ちしていますね」
と気軽に返事をして、挨拶回りを続けた。

廊下や事務室で、以前からの顔馴染みの人間と多くすれ違う。
企画部門のM君もその一人だった。
「ヘッド、ついに来てくれましたね。勇気百倍ですわ」
とM君が言うので、
「よお、久しぶりだねえ。その節はオフタイムでも随分世話になったね。
今後とも力を貸してくれ。頼りにしてるよ。」
と応じると、満面に笑みをたたえたM君は言った。
「もちろん、こちらこそお願いします。
ところでヘッド、聞いておられると思いますが、移籍ご祝儀ノルマ30件、
是非お願いしますね!」
・・・また同じことを言っている。シャレにしては少々くどいようだ。
「ああ、聞いたよ。まあ30件ならどうとでもなる数字だから・・・じゃ、またね」

こちらは営業責任者として、大手企業からそれこそプロジェクトごとに
何万件単位の契約を視野に活動しているのだ。
個人向けの、たかだか30件のお土産なんて・・・
一体何を求めているのか、腑に落ちないまま、
就任挨拶やら営業戦略立案やら、お得意先訪問やらと、
多忙な日々が早速始まったため、
そのことはすっかり意識から消えてしまっていた。

そして入社後2週間が経った。
業界でも少しは顔を知られた人間として、
今回の移籍は顧客筋からも同業他社からも、
かなりのインパクトを持って受け止められたようだ。
もちろん、同業他社は警戒のまなざしで。大手顧客からは、
歓迎と失望の入り混じった複雑な感情で。
ともかく、「貴方が移籍された以上、ウチの取引もおたくの会社に
切り替えざるをえませんなあ」という力強い発言も多く聞いて、
勇気百倍の心境であった。

明日は経営トップ以下役員全員が集まる最高経営会議が開催される。
まずは上々のスタートが切れたと、
充実した気持ちで活動成果を発表するつもりだ。

すると、秘書室の若手男性社員が近寄ってきて、言った。
「ヘッド、明日は最初の最高経営会議です。何分宜しくお願いいたします。」
私は、
「ああ、了解しているよ。頑張って出足の好調さをアピールするつもりだ。」
というと、ちょっと顔を曇らせてその社員が言うには、
「・・・それはともかく、ヘッド。例の、個人ノルマ30件はどうなさいましたか?」
唐突感を憶えた私が
「え?あ、ああ、個人ノルマか。そう言えば忘れていたよ。ごめんごめん、ハハ」
と帰すと、ますます真っ青になったその社員は、
「・・・ヘッド、まさか、未達ということはないでしょうね?」と言うではないか。
少し狼狽した私は、
「いや・・。そんなものはいつでも何とでもなることじゃないか。たった30件。
ちょっと知り合いに電話すればわけない数字だよ。それよりもこっちは、
就任2週間で、多くの法人企業から数万件の契約内定を取り付けているんだよ。
そちらの方がよほど会社に対する貢献度は高いでしょ?問題にならないよ」
「いや、ヘッド。それとこれとは全く次元が違う話なんです。
ともかく、期日である今日中に何としても30件、
耳を揃えて提出しないと、とんでもないことになります!」
そこでようやく、このノルマが冗談ではないことに気付いた私は、
「た、確かに事務方からも一応の説明は受けていたけど・・。
正直、どうでもいいやと放って置いたんだ。そんなにマズかったかな。」
「この施策は、移籍してこられた方の本気度や忠誠度を測る
最大のモノサシとして、創業者会長とその息子である現社長が
最も重視しているものなんです。
趣旨をお聞きになっていないんですか。それは残念です・・。」
「そうだったのか?それは残念ながら承知していなかったが」
「それは残念でした。常務からも説明はなかったのですか。
・・・ひょっとすると、敢えて詳しい背景を言わずに、冗談めかして・・・。
まあ、常務の立場からすれば、
貴方は自分の地位を脅かす最大のライバルでもありますからね・・」
「何?そんな裏があったのか!そこまではまさか、想像もしてなかったよ」
「ともかく、まだ今日一日あります。何としても、今日中に30件、契約しましょう!
それしか、貴方がこの会社に残れる道はありません。」
背中に冷や汗が流れた。何と言うことだ・・・。
「わかった。やってみよう。でも、今から急に・・。
しかも今日中に、となると大変だ」
「私がお手伝いします。私の立場としましても、
ヘッドに失脚されると色々と社内力学上、非常にまずいことになりますので。」
「すまない。宜しく頼むよ。ええと、身内の親戚筋に電話攻勢かけるか」
「ヘッド。それは甘いです。連絡がつかなかったら終わりじゃないですか。
ともかく今から街に飛び出すんです。飛び込み営業しかありません」

秘書は、背広を脱ぐと私に先導して駅のホームへと向かった。
そして、いきなり、改札で順番待ちの人々に低姿勢に声を掛け始めるではないか。
「突然恐れ入ります、●●会社の△△サービス契約のご案内です!」
うわー、こんな営業を・・・。厳しいんじゃないか。と見ていると
「ヘッド!何してるんですか。自分でもやってください!」
「わ、わかった・・・。」
と、躊躇を続けていると、秘書の姿が見えない。
あれ、どこへ行った?と探すと、何としゃがみこんで、
子どもの団体に声をかけているではないか。
「ねえボク、お母さんにさ、●●会社の△△サービス買って、って
お願いしてくれる?キャンデーあげるからさ」
すると子どもたちは、「おじちゃんかわいいー。わかったー。
あ、キャンデーありがとう、ママー、おじちゃんの買ってあげてー」
すごい販売戦略だ。
回りにいた母親たちがたちまち群がって、
サービス契約書にサインを始めているではないか。

「・・・す、すごい。これなら30件はあっという間だ。」
救われた思いで秘書に感謝しようと近寄ると、秘書は
「あ、ヘッド。申し訳ないですけど、これは私の獲得ポイントになります。
今、私は身をもって営業事例をお見せしただけですよ。
そうそうたる実績と前評判をひっさげて入社されたんですから、
秘策をお持ちだと思っていたら、そうでもないようですね。
ですから、同じやり方で、今からご自分で獲得してください」
「ええ?そんな。支援してくれるんじゃなかったのか?
同じように今からやれって?そりゃ急には無理だ!
やっぱり親戚に電話して助けてもらおう。ええと、電話・電話・・・
ああ、手帳を忘れて番号が判らない!だめだ。おい、秘書くん、
そう冷たい事いわずになんとか援助してくれよ。頼む!助けてくれー」

・・・と焦っていたら目が覚めた。ああ怖かった。














久しぶりのショートショート 「怖い夢」その6:プロジェクト

2010年02月16日(火) 9時20分
最近また、よく夢を見る。
夢占いは全く知らないので、これがどういう心理状態なのか
よく判らないが、
今朝、久しぶりにストーリーをバッチリ記憶している怖い夢を見たので、
ショートショートに仕立ててみた。
なんだか、正夢みたい・・・。


怖い夢 その6「プロジェクト」

私は大手外資系IT企業の営業である。
昨年、超大型競合案件獲得に失敗し、その後半年ほど、
会社で非常につらい目に遭ってきた。
ところがここへきて風向きが大きく変わり、大手クライアントに
新規プロジェクトを提案する機会が回ってきたのだ。
千載一遇のチャンスだ。今度こそ万全の準備をして、
必ずプロジェクトを成功させるぞ!

話を聞きつけて、早速本社から担当チームがヒアリングにやってきた。
期待してその顔ぶれを見ると、おや?見慣れた顔ばかりじゃないか・・。
本社のA課長は、辣(らつ)腕で将来を大いに嘱望されていたのだが、
やはり前回のプロジェクト失敗の責めを負わされたのだろう、
私と同じく不遇だとは聞いていたが、それを裏付けるように
何だか終始、覇気のない顔つきで、エヘラエヘラと笑ってばかりいる。
前回はこの課長と完全にタッグを組んで、一生懸命やったので、
個人的には太い絆で結ばれていると信じていたし、
今回もまた一緒にやれるのか、と、一瞬喜んだのだが・・。
何だか様子がおかしい。

一緒に来ているBは、非常に評判の悪いやつで、
前回もともとラインを外されて、年齢的には次長からとっくに
部長に昇格しても良かったはずが、完全にオフラインとなった。
と、思っていたら、何と今回、部長に昇格し、
しかもこのプロジェクトの総責任者に抜擢されたという。
どうやら、裏工作を上手くやって役員に取り入り出世したらしい。
そして、自分に反旗を翻していたA課長を部下に収め、
理不尽な仕打ちをしつつイジメているようだ。
「ハハーン。わかったぞ。それでA課長の様子がおかしいんだ。
そうか・・。A課長、さぞや屈辱だろうな。
というよりも、ちょっと心身に変調を来たしているんじゃないだろうか。」
と、心配になった。
先行きの不安が暗雲となって心に広がった・・。

今日はクライアントのキーパーソンと重要な打合せを設定している。
午後2時のアポを取り付け、早速A課長と、
他のスタッフ2名と、合計4名でいざ出陣だ。
時間節約のため、タクシーに相乗りしよう。
流しのタクシーを素早く拾って、A課長に声をかける。
「さあ、タクシーが来たよ。急いでみんな乗って」
すると、どうしたことか、A課長も他のスタッフも、何故か動きが緩慢だ。
どうしたのかと見ていると、A課長がタバコをふかし始めるではないか。
「・・? A課長、何してんの?早く乗ってよ。他のみんなも。
あまり時間がないよ?」

するとA課長はニタリと笑い、他のスタッフと目配せをしながら、
「まあー、そんなに張り切らなくてもいいんじゃないですか、Mさん。なあ。」
他のスタッフもニタニタ笑って頷いているではないか。
こ、こいつら一体、何考えてんだ?
瞬間、怒りがワナワナと湧いてきた私は、A課長に言った。
「おい、A課長、何だその態度は!ちょっとおかしいんじゃないか?」

タクシーを待たせて、A課長をちょっと道端に引っ張っていった私が、
その肩をゆすって問いただすと、
A課長はうっすらと目に涙を浮かべているではないか。
「・・ごめんなさい、Mさん。でも本社では私とあなたの評判は最悪なんですよ。」
「・・え? そうなのか。
やはり前回のプロジェクト失敗の評価が尾を引いているんだね。
わかった・・。でも、今そんな場合じゃないだろ。ともかく急ごう」
「・・わかってます。でも、ああいう態度でも取らないと、
スタッフに示しがつかないんです。
それに、今回の企画も、本当にMさんで大丈夫か?って、
本社は疑心暗鬼で、信用していないんですよ。」

私はそれを聞いて、目の前が真っ暗になる思いだった。
そんなにひどい評価になっていたとは・・。

ここ一年ほどの経過が、瞬間的に走馬灯のように蘇り、心に浮かんできた。
あれだけ頑張ったのに、この仕打ちか。
進退を考えなければいけないな・・。

そんなことを思いながらも、ともかく、急がなければ。
ともあれ、我に返った私は、急いでA課長を車に押し込み、出発した。
フト時計を見ると、まずい。約束の時間より10分ほど遅れそうだ。
先方の担当者に急いで電話しなくては。
携帯電話を取り出して、登録してある電話番号を探す・・。
あれ?何だか画面がおかしいぞ。
ゲームの画面になっている。何だこれ。急いで番号押さなきゃ。
・・・何度やっても、なぜか変な画面ばかり出てくる。全然番号が押せない。
ダメだ。諦めてA課長に架けてもらおう。
「A課長、悪いけど、先方に電話してお詫びしてくれないかな。
何故か僕の携帯、調子が悪くて番号が打てないみたいなんだよ・・」

A課長は、またしても無気力に煙草をふかしながら、けだるそうにダイヤルした。
「こいつ・・。もうメンタルが壊れてるな。もう駄目だろうな」
と思いながら電話を替わり、先方に連絡すると、快く了解していただけた。
「ああ、10分程度なら大丈夫ですよ。ご心配なく。お待ちしています」
暖かい言葉に安堵し、あらためて自分にやる気を起こさせて、
「よし、頑張ってみよう」と気合を入れた。


少し走ったところで、急に車が停止した。
怪訝に運転手を見ていると、どうやらエンジンの故障らしい。
ボンネットを開けて様子を見始めた。
(え?故障かよ!この急いでるときに!)
「運転手さん、故障ですか?何とかならないの?」
「あー、今、整備士呼びましたから。部品変えないと無理ですわ」
「はあ?じゃ時間が全然間に合わないじゃないか。もういい、乗り換えるから、
事故証明みたいなのを出してくれるかな」
「事故証明?そんなもん出ないっすよ。こっちのせいじゃないし。
たまたまの故障であって、ミスじゃないんだから、知ったこっちゃないよ」
「・・な、何? あんた何言ってんの。そんな言い草ないだろが!
とにかく、これじゃお金も払えないよ。後で会社に通報するからな。」
ああ、困った!時計はとっくに30分遅刻だ!先方も今度は怒り出すだろう。
代わりのタクシーも全然来ないじゃないか!
おい、みんな、なにタバコ吸ってヘラヘラしてるんだよ、助けてくれよ!
おい!


と、騒いでいたら目が覚めた。
ああ怖かった!








怖い夢(その5:「あの男だ!」)

2007年11月13日(火) 17時26分
ある日私は、ヒット上映中の映画を観に出かけた。映画館は満員だった。「うわあ、混んでるなあ。」と思いながらも、その映画を観終わって、座席から立ちあがり、ざわざわとした映画館を出ようと入り口の方を振り返った。その時だった。観客席のどこかから、何だか強い視線のようなものを感じた。そして、その視線が消えないのだ。最初は何かの思い過ごしだろうと思って無視していたのだが、しばらく経ってもその違和感が消えない。「何だろう?」と、さすがに気になったので、視線を感じる方向に目を向けると、わあっと驚いた。
そこには人がいて、明らかに、こちらを注視している。いや、注視しているどころの騒ぎではない。観客席を隔てて、50メートルほども先のほうだろうか、離れた客席に、立ち上がってこちらを凝視している大柄の男がいるではないか。そしてその表情は、目を大きく見開いたまま、両手で耳のあたりを被い、何か恐ろしいものを見てしまったかのような恐怖を顔面に浮かべながら、口も大きく開けて、今にも何かを叫びだしそうな雰囲気である。
男は薄いフレーム枠の眼鏡をかけており、丸顔で、180cm以上は楽にあるほどの大柄で、ひどく肥っている。チェック模様のシャツに、オーバーオールのジーンズを履いているように見える。
気味が悪くなった私は、しかし、その男について全く心当たりがなかった。以前に会った記憶もないし、もちろん知り合いでも何でもない。
「誰だ?一体誰なんだろう?全く心当たりがないぞ。なのに、何故あんなに、こっちを見て怯えているんだろう。訳がわからない。何なんだ??」
あまりのことに動転してしまった私であったが、何度冷静に考えても全く心当たりがない。「何かの間違いだろう。いずれにせよ、自分には言われもないことだ。ここは無視するに限る。とにかく、早くここから出ちゃおう。」
そう気を取り直した私は、何だかモヤモヤした気持ちを抱いたまま、そそくさと映画館を後にした。
その日は、何だか一日中変な気分だった。


Source:rakuten

しばらくして、その日の妙な体験がだんだんと記憶から遠のいてきたある日のこと。何気なく、思い立って家の整理をしているうちに、最近、書庫も雑然としてきているのに気づいたので、古い本や雑誌の整理を始めた。本や雑誌に紛れて、これも古いノートやメモのたぐいや、知人・友人からの手紙、また年賀状などもあちこちに散らかっていた。
「ああ、面倒くさいな。古い手紙や手帳なんかが結構あるもんだなあ。捨てるのも気が引けるし、大事な物も多く残っているはずだ。ちゃんと目を通しながら整理してみよう。」
と思い直した私は、床に座り込んで、古い書類を順番にめくって目を通しはじめた。
すると、その書類の中に、私の日記に混ざって、母が昔に書き記していた、備忘録のようなメモ帳が何冊か出てきた。
「あれえ、こんなところに母親の日記がある。気がつかなかったなあ。たしか結婚してこっちに引っ越す時、慌しく昔の書類を片っ端から段ボールに詰め込んで送った記憶があるから、その時にでも紛れ込んだんだろうな。へえ、どれどれ?色々と書いてあるなあ。ちょっとばかし、昔を懐かしんで覗いてやるとしよう」
と、好奇心に駆られた私は、整理の手を休めて、母親の日記をめくって中身を読み始めた。

<○○年△△月▲▲日、トシ(私のことである)が熱を出して救急に駆け込む。心配ないとお医者に言われ、安心する>
「これは自分がまだ赤ん坊の頃だな。初めての子供で、親としては勝手がわからず慌てたんだろうな。ハハハ」
<○○年xx月■■日、今日も仕事で遅くなり、夕食は母に頼む。子供が不憫で可哀想だ>
「そうか・・。夫婦共稼ぎで家ではいつもおばあちゃんが食事や家事の面倒を見ていたっけ。子供心に冷たい母親だと思っていたけど、苦労していたんだな。大変だったんだ。」
などと、少し感傷に浸りながら、続けてめくっていると、何だかぼんやりと記憶に残っているような人物の名前らしいものを記したメモが目についた。
<○○年▲▲月△△日、今日も職場でX氏にそれとなく言い寄られて、当惑した。X氏は以前から私に色目を使ってきて、困っている。こちらは家族持ちだと言うことを重々承知しているくせに・・。何だか怖くなってくる。はっきりさせないといけない。>これを読んで、私はそのX氏の名前を見ながら、考えた。
「X氏・・。確か、母親の職場の同僚だったよな。小学校の低学年の頃だったか、職場の慰安旅行に自分が母親に同行して参加した時、えらく可愛がってくれた人だったような気がするぞ。何となく覚えているぞ。へえ、あの人、ニコニコと愛想が良かったけど、裏では母親にこんなやましいことをしていたのか。まったくひどいもんだ。大変だったろうな、母親も・・・。でも、結果的に何事もなくて良かったな・・・。」
と、ここまで考えていて、先日あの映画館でこちらを見て恐怖におののいていた男の顔をはっきり思い出した。
「まてよ・・・。あっ、あいつだ!そうか、思い出したぞ。あの男だ!昔、自分が子供の頃、母親に横恋慕を仕掛けたやましい男だ、間違いない!」
そうだ。あの男だ。しかし一体どうしたことだ。あれからもう何十年も経っているではないか。私はすっかり中年になり、あの男も健康であれば70歳をとうに超えた老人のはずだ。何故、あの男はまったくそのまま当時と同じ風貌と体型で、私と出くわし、しかも、外形などすっかり変わって、そうと言われなければ昔のことなどとても思い出せない私の現在の姿を見て、あんなに動揺し、恐怖していたのだ??

またパニックに陥った私は、すこし呼吸を整えて、気持ちをなるべく落ち着けて、当時のことをもう一度よく思い出してみようと試みた。だが、あの男のことは、その旅行の時のことしか記憶にないのだ。


Source:Yuzawa city

翌日、私は田舎の実家で弟夫婦と暮らす母親に、何気なく電話をかけた。日々のよもやま話や家族の近況などについて差し障りのない報告をした後、「あの男」について聞き出そうと試みたのだ。
「そういえばさ、もう随分昔のことで、覚えてないかも知れないんだけどね、ほら、職場で一緒だった、なんだかとても人なつっこい男の人がいたじゃない?慰安旅行に僕がついていったら、やけに親しく面倒を見てくれた人。たしか、Xさんって言ったっけ?あの人ってさ、今どうしてるんだろう。知ってる?あ、いやいや、何ということはないんだけどね、年賀状を整理していて色々と昔の知り合いの名簿を整理しているうちにちょっと思い出したもんだからね。」

それを聞いた母親の回想は衝撃的なものであった。
その後、日記にあるように、あの男からの執拗なつきまといは段々エスカレートし、とうとう父親の知るところとなった。激怒した父親は早速あの男と談判に及んだ。最後には「二度とつきまとわない」よう念書を書いて、示談としたが、あの男の行為は職場をはじめとする地域社会に知れ渡り、結局職場には居れなくなって、退職した。一方、当時あの男も家庭を持っており、私と同年輩の男の子供もいたようだが、妻がこの一件を気に病んで、自殺してしまったらしい。
自分が撒いた種とはいえ、自らの手で一家を崩壊させたあの男は、結局、残された男の子を連れて、どこかへ消えた。そしてその後の行く先は誰も知らないとのことだ。

あの、映画館でこちらを見て恐怖していた男。あの男の長男が、どういう因果か、私の近くに暮らしていたのだ。この広い日本で、そしてまさかあんなところで、かつて自分の父親がしでかした事件の因果が巡って、その長男を偶然見かけてしまい、間違いなく初対面のはずなのに、直感的にそれが私、すなわち母の長男だと悟ってしまったに違いないのだ。そうとしか説明できないのだ・・・。

そうであれば、是非本人にもう一度会って、事実関係を確認しなければならない。だが、その術はない。どうすれば良いのだろう・・・

と考えているうちに目が覚めた。ああ、怖かった!

怖い夢(4)

2007年11月02日(金) 12時12分
怖い夢(その4:「修羅場」)
2007年5月22日


開業医として成功し、首都圏のベッドタウンに広い家を構えた私は、家族とともにそれなりに幸せな日々を過ごしていた。地元の名士としても多忙を極め、地域の寄り合いやら相談事、学校のPTA活動や、子供のサークル活動の役員など、休まる暇のない生活ながら、それなりに充実感を覚えて毎日を過ごしていたのである。

その日は、大学時代のサークルの集まりが久しぶりに催されたので、わざわざ都心の会合場所へと出向いていった。用向きはといえば、毎年開催されるOB総会の準備打合せである。卒業してからもうかれこれ四半世紀にもなり、自分の同期は何故か地方出身者が多かったため、会合に出席できるメンバーも東京近郊在住者に限定されてしまう。そして今年は、とうとう、自分の卒業年次が全体の幹事をつとめる役割として回ってきてしまった。
この会合には毎年、かなり年配のOB連中が多数参加しており、これが自分にとってもっとも嫌な点であるのだが、今でも先輩ヅラをして、横柄な態度であれこれと細かい指図をするのである。
「おーい飛魚」
「はい」(呼び捨てかよ・・。あんた、現役時代の直接の先輩じゃないでしょうに。)
「AとBは来てないのか?Cも居ないな。」
「はい、それぞれ地元に帰ってしまっていますので。Aは広島、Bは京都。Cは神戸、ああ、今は確かマレーシアに赴任していると聞いています。」
「ふーん。何だ、そうか。主力が揃って不参加じゃないか。困った年代だなあ。だから運営が上手く行かないんだよなあ、全く」
「・・申し訳ありません」(何だよ。俺はゴミかよ。まったく、腹が立つ!)

煩わしい準備作業をひととおり終えて、飲み会の誘いを体よく断って外へ出ると、夕方とはいえ季節が夏に向かっているこのシーズン、あたりはまだ薄暮の状態であったが、涼しげな雨がしとしとと降っていた。
さて帰ろうか、とゆっくり足を進めていると、見知らぬ女性が傍に近づいてくるではないか。
「ちょっとあの・・。飛魚先生ではありませんか?xx市で内科を開業なさっている?」
「ハ?ああ、そうですが?どなたでしたか?」
「いやあ、偶然ですわね。たまたま休日出勤でこちらの近くに出てきていましたのよ。先生の病院の近くに住んでいる者ですわ。飛魚先生らしい方が歩いていらっしゃったので、お声を掛けてみましたの。」
「・・そうですか。ご近所の方なんですね。奇遇ですね。」
「そうですわね、先生。でも、私、嬉しいわ。こんなところで、普段はゆっくりお話も出来ないような方と直接、それも二人きりでお会いできるなんて!」
「そうですね・・。」
随分と馴れ馴れしい仕草に、やや私は戸惑ったのだが、よく見ると、かなりの美貌であり、また、おそらく水商売系の仕事と思われるようなドレスの着こなしであったが、とても肉感的にそそられる女であった。
「先生、ひょっとして、今日はこれからおヒマかしら?もしお時間あるんでしたら、折角だから二人で何処かに寄って行きませんこと?ここいらの地理には私詳しいのよ。ね、ちょっとだけ行きましょうよ。」

さっきまでのOB会合で気持ちがクサクサしていた私は、(ちょっとならいいか。珍しいことだし、気晴らしにもなるしな。ちょっと遅くなるけど、ちゃんと帰れば問題ないよな)などと自己弁護を考えた後、
「そうですね。奇遇な展開だし、私もちょっと気晴らしにでもどこかに寄ろうかとちょうど考えていたところなので・・。じゃ、軽く行きますか。軽く、ですよ。」


軽く、のつもりが、どこでどうなってしまったのか、気がつけば、ホテルで翌朝を迎えてしまっていたのであった。土日の日曜なので、病院の仕事には支障はないものの、完全に「朝帰り」になってしまった。まずい・・。そう言えば、昨日はあれから、最初にスナックを紹介されて、二人で小さな店のカウンターに座り、いきなり濃いカクテルを飲まされているうちに、だんだん酩酊していったのを覚えている。たしか、二軒目だか三軒目だか、場所もはっきりとは覚えていないが、女が自ら脱ぎ始めて、自然の成り行きで・・・
最後はホテルで朝を迎えてしまったという訳だ。

「先生起きたの?朝帰りさせちゃったわね。奥様大丈夫かしら。帰らなきゃ、ね。とりあえず服を着て、早く出ましょう」
(そんなこと、言われなくてもわかってるさ)
私は、後悔と焦りが入り混じった気持ちで、そそくさと衣服を整えると、急いでエレベーターに乗り込み、女と一緒にロビーへ出た。するとそこには、我が目を疑う光景が展開されているではないか。
何故かそのホテル、といっても、いかがわしいラブホテルのたぐいではなく、近くのそれらしいビジネスホテルのようであったが、ロビーには、小旅行の格好を整えた、我が家族が揃っており、私とその女を、刺すようなまなざしで射すくめているではないか。

「あ・・・あれ?ママ?わっ子供たち、みんな、ここで何してるの?」
「・・・何言ってるの。昨晩遅くに、自分で電話を掛けてよこしたじゃないの!明日は気晴らしに家族で日帰り旅行にでも行こうって、ここのホテルの場所まで指定したくせに。どうしたのかと思ってたずねたら、OB会のあと、同期の連中と遅くまで飲んでしまって終電が無くなったから泊る、朝早くみんなで電車に乗りたいから、前もって準備してホテルまで来るようにって。」
「そうだよ。みんなそれぞれ学校やサークルの用事があったんだけど、珍しくパパが旅行なんかに連れて行ってくれるっていうから、無理して集まったんだよ」
家内や長男の言葉に、呆然とするばかりの私であった。
「あなた、ところでその一緒にいる女のひと、どういうことなの?一緒にエレベーターから降りてきたけど、まさか、ご一緒だったんじゃないでしょうね。」
「え?ああ、この人?全然知らない、知らない。たまたまエレベーターで乗り合わせただけの人だよ。ねえ?」
女に同意を求めると、その女は、いかにも収拾つかない、という表情を浮かべ、視線をロビーの一角に移した。
何だろうと、女の視線を追うと、その先には、昨晩OB会で一緒だった同期の女性が、困ったような顔をして座り込んでいるではないか。
「あれ、D子じゃない?・・・なんで君、ここに居るの?」
「・・あらあら、お忘れかしら?昨晩、遅くに携帯電話で、ここのホテルのxxx号室に来るように連絡してきたのはどこのどなたでしたっけ?私も、色々とあったけど、昔のよしみで、それとちょっとの好奇心で、たずねて来てみたんじゃないの。昔話に花を咲かせようっていうから。私も同期と会うのは久しぶりだし、情報交換も悪くないかと思ったから・・。で、ドアを開けたら、その女性とお楽しみの最中だったというわけよ。おかげさまで、ここで朝まで、仕方なく過ごしておりましたよ。そのまま帰るのもくやしいじゃないの。ねえ。そしたら、ついさっき、受付にご家族がいらしたようなので、あ、飛魚は宿泊しておりますかと確認されてたからわかったんだけどね、大学の同期のD子です、結婚披露宴でお目にかかって以来ですねえってお声をかけて、ご挨拶をしてたところなのよ。」

会話は、すべて家族に筒抜けとなっている。
そんな、馬鹿な。全く、記憶にない。酩酊していたのか?そんな記憶は全くないのだ・・。
絶体絶命だ。修羅場だ。本当にそんなことをしてしまったのか?わからない!信じられない!でも、自分でも潔白の自信もない・・。た、助けて、神様・・

・ ・・と心で叫んでいるうちに目がさめた。ああ、怖かった!
(もちろん、これは完全なフィクションであり、架空の物語に過ぎない。作者注)

怖い夢(3)

2007年11月02日(金) 12時11分
怖い夢(その3:「電話」)
2007年5月20日


貿易商社を経営する私は、ここ最近、業績が絶好調だ。生来の動物的カンが冴えに冴え渡り、世界の商流や相場を読む目がズバズバと的中し、売上は毎年急速に拡大している。
念願のIPO(株式上場)も視野に入ってきた。従業員も一気に増やし、つい最近、六本木に新しく出来たシンボルタワーに引っ越したばかりである。周囲の部下も会社の好業績に熱気を帯びており、朝から夜中まで職場に活気が溢れている。

その日は、オーストラリアの取引先と重要な電話会議が予定されていた。今日も気合を入れて先方と交渉し、キッチリ商談をまとめてしまおう。私は朝から気合が入っていた。今日の交渉は先方のCEO(経営トップ)との最終交渉である。交渉がまとまれば、新たに100億円規模の新規商談が確定する。テーマは、地球温暖化に関するオーストラリアと日本との共同資源開発案件である。世界的な注目度も高いプロジェクトだ。一躍、政府関係者へのアピールにもつながり、またマスコミも大きく取り上げるにちがいない。
あわよくば、将来の更なるステップアップにもつながるだろう。頑張っていくぞ!

電話会議は日本時間の午前10時に設定されている。いつも電話をかけるのは秘書に任せている。そろそろ時間だな・・。と時計を確認していると、経営企画部の若手社員が困ったような顔をして社長室に入ってきた。
「社長、誠に申し訳ございませんが、緊急のお知らせです。実は、たった今秘書から電話が入りまして、朝の通勤電車で乗客トラブルに巻き込まれたそうです。何とか処理を終え、大至急会社に向かっているとのことですが、10時からの電話会議には若干遅れてしまいそうです・・。如何いたしましょうか?」
(ん・・?マズイな。電話はいつも秘書にかけさせているのに。)
私は一瞬躊躇したが、冷静を装って言った。
「ん?ああ、そうか。困ったもんだな。だが事故なら不可抗力だから仕方ないな。」
「社長、お電話は大丈夫でしょうか?秘書の携帯電話に、先方への直接ダイヤル番号がメモとして貼ってありますので、お電話いたしましょうか?」
その社員のひとことで私は安心した。電話番号さえわかれば、自分でダイヤルすればよい。
「おお、そうか。そこに相手の番号が書いてあるんだね。よし、心配するな。こう見えても僕はその昔、国際電話の交換手をやっていたことがあるんだよ。世界の国番号や地域番号なんか、今でもはっきり脳みそにインプットしてあるよ。ハハッ。じゃあ、その携帯電話を持ってきてくれ。」
「え?社長、国際電話のオペレーターをやっていらっしゃったんですかあ?へえー、それは意外ですねえ。」
若手社員は、ちょっと見当がつかないといった顔つきで、しかし安心したような馴れ馴れしい物言いで返事をした。それはそうだろう、全自動ダイヤルが当たり前のご時世である。昔はアメリカ宛3分が3千円以上もしたものだが、今では何十円の世界である。昔と比べれば料金は100分の1だ。こんなに値段が下がったサービスは、世界広しといえども、国際電話料金くらいのものだろう・・。

早速、若手社員が運んできた携帯電話には、次のようなメモが貼り付けてあった。
「66」「1」
(ウン、先方の国番号と地域番号だな)
続いて、
「88」「66」「52」「37」
と、2桁ずつの数字が、携帯電話のスペースの関係だろう、左上、右上、左下、右下、の順にパズルのように並べて貼ってある。
(・・・?わかりにくいなあ。でも通常、数字は左から右に順に読むのだから、素直にそのままダイヤルすればいいだろうな。)
と自分を納得させた私は、電話をかけるタイミングを見計らった。10時までにはあと2分ほどある。自分の流儀として、キッカリ時間ちょうどに電話を入れよう。ビジネスの正確さは、約束時間にも反映される。先方にもストリクトなイメージが伝わるだろう・・。

その時、急に社長室を大げさにドンドンとノックする音が聞こえた。
「誰だ?これから重要な会議が始まるというのに、どうしたんだ!」
私が言うと、乱暴にドアを開けて部屋に入ってきたのは、つい先日、高額な移籍金を払ってライバル企業からヘッドハントした、有望なトレーディング社員だった。
「社長、お忙しい中恐縮ですが、たった今、キューバ筋のディーリング話が飛び込んで来ました!動く前に是非、社長のお耳に入れておきたいのです。お時間は取らせません、1分だけ聞いてください!ご判断の後、すぐに交渉します。ナマモノですから、瞬間が勝負です。お願いします!」
わたしはこの社員には格別の思いを寄せている。やり方は強引だが、彼が仕掛けた数々のトレーディング話は伝説となっている。私は、その手法を自社に持ち込み、やや官僚的な気風と言われはじめた社風に、新たな活性化とバイタリティを植えつけることを期待して、強引にスカウトを進めたのであった。
「そうか・・。よしわかった。なるべく手短に話してくれ。もうすぐ電話会議なんだ。資料はあるか?電話しながら目を通そう」
「社長、有難うございます!資料はまだ用意できておりません。今朝の現地情報短信をWebで入手した原稿のコピーがここにあります.現地語ですが、この内容を手短にご説明いたします。」
ふと腕時計を見ると、ちょうど10時になっていた。
「よし。早速概要を説明してくれ。今からダイヤルしながら聞こう。」
時間だ。正確な予定時間に電話をしよう。さあ、ダイヤルだ。
(ええと。国際識別番号が001で、国番号が1で、確かシドニーだったから、地域番号が66で、と。)
ダイヤルすると、電話局から「そのお電話番号ではおつなぎ出来ません」とのアナウンスがすぐに帰ってきた。
(あれ?間違えたか。そうか。国際番号は002だったな。)
「そのお電話番号では・・・」
また違うようだ。私はやや焦った。そのそばでは、熱血社員が熱心にプロジェクトの背景を説明し始めた。
「社長、キューバの政権がクーデターで転覆しつつあるようなんです。それがここの記述です」
「うん、それで?」
と話を合せながらも、気が気でなくなってきた。
(違う。国際番号は010だった。で、あそうか、国番号は66で、シドニーが1か。逆だ。)
ピポパ・に続いて相手の番号である。
(ええと?何だこりゃ。まいいか、ダイヤル「88、52、37、66」と。)
「そのお電話番号は・・」
(あれ?またダメか?大体、なんだこの番号の並び方は!わかんないじゃないか!)
私はだんだんパニックに陥った。相手の番号が全く把握できない。焦った私は無闇やたらにダイヤルを押しまくった。
「そのお電話では・・」
「そのお電話では・・」

傍らでは、熱血社員がますます熱を帯びてプロジェクトの解説を続けている。
「・・という訳です、社長。すごいスクープネタでしょう!どうです、ご賛同いただけますね?是非ご裁可をお願いします!・・・・あれ?社長、どうなすったんですか?お顔が真っ青ですが・・。額には大汗かいていらっしゃいます。お具合でも悪く・・」
「うるさい!!バカヤロー。こっちはそれどころじゃねえんだ!何度掛けても電話がつながらない!・・ああ、もう10時15分だ!いかん、先方の信用を無くしてしまう!ああ、ダイヤル方法がわからない!助けてくれ、誰か、電話の正しい掛け方を教えてくれーっ!」

・・・と叫んでいるうちに目が覚めた。ああ、怖かった。

怖い夢(2)

2007年11月02日(金) 12時09分
怖い夢(その2:「幼少時代」)
2007年5月9日


それはいつ頃の時代風景だっただろうか。随分と田舎の、辺鄙な街はずれのような記憶がある。私は、父親・母親と弟を含めた、女の子も混じった何人かの子供と一緒に、小さな、まるでウサギ小屋のような住まいで暮らしていたのだった。
その日は朝から暴風雨となった。私たちが住むその家は、激しい雨と風に晒されて、今にも吹き飛ばされそうであった。皆、家の中で膝を寄せ合い、じっとうずくまって嵐が去るのを待っていた。ところが、夕刻になっても風雨は止まない。それどころか、一層激しく打ちつけるようになった。
「うわあ大変だ。屋根や外壁が飛ばされそうだよ!」
私が叫ぶと、父親は、何故かすっかり憔悴し切った様子で、必死に家のあちこちを修繕して回った。母親は、家財道具が散らかったり飛ばされたりしないように、おろおろと様子を見守っていた。
夜半、ふと気がつくと、外壁の一部が吹き飛ばされていた。そして、屋根も一枚づつはがれてきて、雨風が容赦なく家の中に舞い込んできてしまう。
「こりゃあ・・いよいよ駄目かなあ、よしみんな、一旦外に出なさい!」
父がそう命じると、家族の皆は近くの雑木林へと走って移動した。降り続く雨の中、大きな杉の根元にうずくまり、じっと嵐の過ぎるのを待つのであった。
翌朝早く、うとうととしたまどろみから目覚めると、嵐は止み、あたりはすっかり晴れあがっていた。皆ぐったりと疲れた様子であった。そして、身なりといえば、昔の田舎のことでもあり、全員が肌着一枚であった。季節は夏の終わり頃だったのだと思う。
皆がぞろぞろと家に戻ってみると、前にあったはずの家は暴風雨ですっかり飛ばされてしまっていた。そして、そこには俄か仕立ての藁葺小屋が建っていた。おそらく、父親が、嵐が去った直後から、寝ずに作業してこしらえたものであろう。とても小さくて狭くて窮屈な代物であったが、ともあれ寝起きする場所が確保されて、ホッと一息ついた。
そしてその晩は、藁葺小屋の中で、ひとつの小さな鍋を囲んだささやかな夕餉が始まった。皆、口数少なく汁を啜っていたが、どこか平穏な空気がそこには流れていた。
「お前たち、うちは貧乏だけどな、明日にはきっと何とかしてやるから、心配せずにメシ食いなさい。真面目にさえやってれば、そのうちきっといいことあるからな」と父親は寂しげな笑いを浮かべながらつぶやいた。私は、きっと真面目に頑張って、いつか家族のために大きな家を建ててやろうとひそかに心に誓った・・。


私はその後、長じて地元の公立高校を優秀な成績で卒業し、最難関と呼ばれる大学へ進学することとなった。無類の激しい競争を勝ち抜いて得た栄冠であり、地元では大騒ぎとなった。貧乏だった両親だが、その時ばかりは乾坤一擲の決心をし、親戚縁者はおろか、近所の住人を大勢招き、地元の一流中華レストランを借り切って盛大な祝宴を催した。しかし、確かに、裕福な地主や資産家、上流階級に属する家庭ではそうした行事もめずらしいことではなかったが、こんな貧乏暮らしの家庭にあっては、そんなことをする者はまずいない。
私は、そんな気恥ずかしいことは嫌だからどうか止めてくれるよう懇願したが、両親は「けじめだから」と言って聞かなかった。一世一代の見栄を張り、普段近所からバカにされている恨みつらみをこの際、一気に晴らす魂胆もあったのだろう。

祝宴当日、無理やりに主賓席に座らされた私は、実はそれどころの心境ではなかった。進学先の大学から早速難解な宿題が出されており、提出期限が迫っていたのである。その宿題は、昔の中国における科挙登題(最難関の上級国家公務員試験のようなもの)にも匹敵する難題とされており、全学生をその成績順にランキングするものであった。ここで上位に入っておれば、卒業後、主要エリート官庁への入省が約束されるのである。一方、成績が下位だと、最悪の場合入学が取り消され、来年また入試のやり直しという、非常に厳しいものであった。

主賓席を巡るテーブルには、何故か近所のおばさん連中が7〜8人と、その子供が数人、私を取り囲んで座っていた。父親の音頭で祝宴が始まり、人々はそれぞれに飲み、食べ、宴たけなわとなってきた。ところが私は宴会そっちのけで、ひたすら頭をひねりながら宿題と葛藤していた。時々お酌をしに来てくれる従姉妹は、私の様子を見かねて、
「ボク、何してんの。勉強もほどほどにしいや。今日はアンタのお祝いの席なんだから、周りの人にお酌でもして、楽しくやりなさいよ。」
私は、そう言われてやっと、「それもそうだな」と我に帰った。ふと気がついてテーブルを見渡すと、何だか周りの様子がおかしいのだ。
私の左隣に座った、どこかで何回か見かけた程度の近所のおばさんは、何だか横柄な態度で、私に背を向けてその隣のおばさんとかったるそうに世間話をしている。そのうちにそのおばさんは、私の席のまん前に手と体を伸ばしながら、私を完全に無視したまま、私の右隣の少年と大声で雑談を始めた。おそらく少年はそのおばさんの息子なのだろう、母親の態度にやや恥じ入っている様子で、うつむき下限に話を合わせているようだった。
私は、しばらく黙っていたが、延々とこういう状況が続いたのである。同じテーブルにいる他のおばさん達も、特に咎めるわけでもなく、何もなかったように黙々と食事を口に運んでいる。
腹が立った私は、
「あの、ちょっとおばさん。ここは私のテーブルの前ですよ。食事が出来ないじゃないですか。少し遠慮してもらえませんか?」

私の苦言がまるでスタートの合図だったかのように、テーブルにいた全員が、一斉に私を睨みつけてきた。
(え・・?何だ、この雰囲気は?何か俺、悪いことでも言ったか?)
すると、そのおばさんが言うには、
「あんた、何エラそうに人に意見してんの!何だよその態度は!今日は来たくもない席だったけど、タダで久しぶりに豪勢な食事にありつけるから、しぶしぶ来てやっただけじゃないかい。」
呆気にとられる私に、そのおばさんは重ねて言った。
「なあ、太郎。この男にどんだけ嫌な思いさせられたか、なあ!」
少年は、せつなそうに頷いたまま下を向いた。
「ええっ?私がこの子に何かしましたっけ?済みません、全くそんな記憶はないのですが?」
すると、向かいに座っていたおばさんが追い討ちをかけるように言った。
「アンタ、なにとぼけたこと抜かしてんのよ。あんた、昔この近所でどれだけ始末に終えない悪ガキだったか、自分で覚えてないんかい?その子と遊ぶたんびに、何だかんだと因縁ばかりつけていじめ倒してたの、ホントに覚えてないんかい。それにさ、うちに来たら来たでよ、そのたんびに、何が楽しいのか、わざと立小便ひっかけて、注意するとアッカンベーして逃げてばっかりいやがったし。」
すると他のおばさんたちも、2人につられて、堰を切ったように、我も我もと私の少年時代の悪行を口汚く罵りはじめたのであった。
私は、思いもよらないその場の展開に、目の前が真っ暗になった。
「そんな・・。そんな、そんな記憶は全くないぞ!ただ貧乏で一途な少年だった記憶しかないぞ。そんな、嘘だろ!! おい、親父、お袋、弟、従姉妹のみんな、助けてくれ!何だこの仕打ちはあー」

・・・と叫んでいるうちに目が覚めた。ああ、怖かった。

怖い夢(1)

2007年11月02日(金) 12時05分
怖い夢(その1:「遅刻」)
2007年3月26日


その日は朝から大事な会議が予定されていた。私は、いつものとおり、自宅から東京メトロ丸の内線に乗り、大手町駅に着いた。
「あと5分で9時か。急がないと間に合わないな・・。でも、駅を降りてから歩いて5~6分かかるから、ギリギリだな」
そして、改札をくぐったその瞬間、ふと何かに背中を押されるような感じで、乗り換えの千代田ホームに入ってしまった。瞬間的に錯覚を起こし、千代田線の改札を使えば会社まで直通で行けば近いように思ってしまったのである。もちろん、そんなはずはなかった。千代田線のホームに入って暫くしてから、
「何でこのホームに入っちゃったんだろう。何を血迷ったかな?間違えた、時間をロスした。早く駅から出て会社に行かなくちゃ」
そして、改札出口を探すが、何故かどうしても出口が見つからない。
「おかしいな。出口はどこにあったっけ?」
構内を暫くウロウロしているうちに、10分ほどが経過してしまった。
「まずい。もう会議が始まっている。急がなきゃ。近くの駅員に聞いてみよう」
近くにいた駅員にたずねると、またこれがどうにも要領を得ない。
「ええ?出口ですか?えーっと、私に聞かれても・・」
「何?あんた駅員でしょ?何で判らないの!」
「でも、私にもよく判らないんで・・」
「・・・ハア?あんた何言ってんだよ。・・もういいよ!」
そばにいた他の駅員にたずねると、
「ああ、あの駅員はちょっとまともじゃなくって、申し訳ありません。出口はあちらです」
おかしな駅員に平気で仕事させるなよ、と内心憤りながら、ようやく出口にたどり着いた。地上にでると、何だか全く見たこともない景色がそこに広がっていた。

「あれえ。普段と全然違う景色じゃないか?どこなんだ、ここは・・?まあいいや、ともかく急いで会社に着かなくちゃ」
腕時計を見ると、既に20分も遅刻している。そろそろ遅れてごまかせるリミットも限界だ。とにかく急ごう。
あたりをウロウロと歩き回っているうちに、どんどん見慣れない風景に吸い込まれていってしまう。中華料理店の厨房に入り込んだり、小高い丘の上に出たり、砂利工場の敷地内に迷い込んだり・・・。

焦燥感にかられた私は、タクシーを呼ぶことにした。もはや、自力で会社を探すことは不可能だと悟ったのだ。ふと周りを見渡すと、普通の四輪タクシーが何台か走っている。
「おおいタクシー!」
声をかけた瞬間、何故か、東京では見かけないはずのバイクタクシーがスッと近寄ってきた。
「お急ぎのようですね。さ、早く乗ってください」
見ると、若い女性のドライバーであった。
「え?バイクタクシー?珍しいな・・。いいよ。普通のタクシーを拾うから」
「でも、普通のタクシーは小回りが効かないし面倒ですよ。すぐに会社に着くにはこちらの方が早いですよ」
もう、9時を30分も回ってしまっている。一刻も早く会社に着きたい。そのためならバイクに乗って直ぐに移動した方が早いだろう。私は納得し、とりあえずそのバイクの後部座席に跨った。

「運転手さん、なかなか着かないけど、住所はわかってるの?さっきから随分くねくねと走っているけど、全然会社のそばに近づかないじゃないか?」
するとその女性ドライバーは、蓮っ葉な感じで言った。
「お客さん、そんなこと言われたってさあ、ちゃんと住所を見ながら行っているんだよ。でも、ここいらにはお客さんの言うような住所は見当たらないよ。」
そんな馬鹿な、と思いながら、ふとバイクのメーターを見ると、「初乗り料金8千円」と表示されているではないか。まずい。非合法のいわゆる「白タク」に引っかかってしまった!
「うわ、運転手さん、何だこの料金メーター。ぼったくりじゃないか。もういいよ、すぐに降ろしてくれ。と言っても、8千円の持ち合わせが今ちょうど無いな、クソ!」
「え?お客さん、お金持ってないの。そりゃ困るわ。無賃乗車じゃんか。しょうがないね。クレジットカードは持ってる?」
「ああ、持ってるよ。じゃすぐに引き出すから、とにかくどこか近くのATMの前で降ろしてくれ。」
運転手は、無言でバイクを進めた。
ところが、あたりには何故か全くATMらしきものがないのである。不思議だ。どうしたんだろう。
「運転手さん、どうしてこの辺にはどこにもATMがないんだ?どこか知らないか?」
「・・ATMならどこのでもいいの?」
「ああ、この際、どこの銀行のでも構わないよ。こうしている間にもどんどんメーター上がっちゃうんだろ?」
もはや会社の会議は諦めた。かれこれ10時を回ってしまっている。今さら携帯電話で連絡するにもバツが悪い。急遽体調不良ということにして、後でゆっくり連絡しよう。私は、すっかり観念して、ともかく精算だけは何とか終わらせ、この場を脱出したかった。
「じゃあ、知り合いがやってる雑貨店にATMがあるから連れてってあげるよ」

連れていかれた雑貨店は、アジア系の布製品や物産を羅列して販売している小さな店であった。店番の女店員に、タクシードライバーが話しをすると、私は店の奥にある布で覆われた、何だか通常のものとは違う形状のATMに案内された。
「じゃあこのATMで操作してください」と女店員は言った。
私は、何だかその機械の異様な感じに不安を抱きながら、ともかくも操作を始めた。
手持ちのクレジットカードを機械に挿入し、暗証番号を入力し、・・・すると、暗証番号がきちんと入力できないのだ。何だか、見たことがない外国語の表示が羅列してあり、操作方法がわからない。
「あの、何て書いてあるのかわからない。暗証番号はどうやって入力すればいいの?」
私がたずねると、女店員は、
「ああ、日本人にはわからないよね。じゃあ私が代わりに入力してあげるからカードを貸してごらん」
そういって私の手からカードを取り出すと、ATMに挿入してから、
「暗証番号は何番?」
とたずねた。
私が暗証番号を告げると、女店員はそのまま入力をはじめた。
私は、ふと不安に襲われた。今、カードは他人に渡っており、暗証番号も知られてしまった。このまま操作を任せておけば、勝手に私の口座からお金を引き出されてしまうのでは?

焦って操作を見守っていると、いきなりそばに見知らぬ男性が現れた。
「おいオカミ、金が入用だからカードで急ぎ百万ほど引き出してくれ」
「はいよ」
その女店員は、私のカードをそのまま使い、キャッシュを引き出そうとしている。
「おい!それは私のカードじゃないか!何するんだ!やめろ! おい、誰か止めてくれ。運転手さん、ボケッと見てないで何とか助けてくれ!」
「そんなこと言ったっておじさん。これ全部最初から仕組んだウチらの罠だもん。バカだねえ。諦めな!」
「うわ、ウソだろ!そうか、最初からグルだったんだ、チクショー。何か変だと思ったら、こんなことか!ともかく、止めてくれ!おい!!」

・ ・・焦って叫んでいるうちに、目が覚めた。ああ怖かった!!

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