<読書>宮部みゆき「魔術はささやく」

2011年07月12日(火) 11時16分
チョイおひさの宮部みゆき。1989年の日本推理サスペンス大賞受賞作。
暑い季節に読むと、スーッと寒気がして、ちょうどいいタイミングだ。
相変わらず、宮部みゆきの文章の「形容力」は、他の追随を許さない感じ。

(Source: Amazon)

(おはなし:Amazon紹介文より)
それぞれは社会面のありふれた記事だった。一人めはマンションの屋上から飛び降りた。二人めは地下鉄に飛び込んだ。そして三人めはタクシーの前に。何人たりとも相互の関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。さらに魔の手は四人めに伸びていた…。だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。


ついでに、手抜きをして、読者コメントを少し抜粋。

(読者A氏)
宮部さんならではの盛りだくさんの構成と登場人物で読者を満足させてくれます。
法の網を潜り抜けて、犯罪などとは全く関係ないと言うような顔で過ごしている人たちにも、罪悪感という下意識に刻み込まれているものまでは、消し去ることがでずきないというのも業だと思いました。そんな罰されない犯罪者をその下意識に働きかけることによって自殺という形で罰してしまうのだから、これはまさに魔術でしょう。
 自殺の謎が明らかになるにしたがって、も一つの真相が分かってきます。お楽しみに・・・。


(読者B氏)
初期の作品であり、都合の良い設定や未熟な部分もありますが、
何と言っても宮部さんの長所である登場人物の描写が秀逸です。
登場人物が物語の中で生きています。

最初は、ミッシングリンク物か、なかなか魅力的だけど、
ちょっとありきたりかな、と思って読み進めました。
ところが、事件そのものは作品の中盤でほぼ解決してしまうんですね。
そして、それからがこの作品の本題となります。
単なる謎解きのミステリーでは無く、人間を書こうという作者の思いが
伝わってきます。


初期の作品でもあり、読者からの評価も「絶賛」とまではいかず、
ボチボチいい作品、という感じ。
全盛期の名作ばかり読んでいると、多少肩透かしを感じる読者もいるか。

でも、「模倣犯」も「理由」も、どこか重大なプロットの欠陥を感じたが
この作品にはそうした「穴」は感じられない。
よくコンパクトにまとまっている印象も受けた・・・。

トリックとなる「魔術」そのものは、うーん、その道専門のハナシじゃないから
まあ、こんなもんかしらん。


<読書>筒井康隆「大いなる助走」

2011年06月30日(木) 6時30分
すごく久ーし振りに筒井康隆を読んだ。
前々回取り上げた「消えた受賞作(直木賞編)」で、この筒井作品が
語られており、正に、直木賞を取っていない大作家・筒井康隆の
「私怨小説」とも言える、発表当時(1982年)文壇を激震させた
直木賞選考を巡る、舞台裏の暴露小説といったおそるべき問題作!

(Source: Amazon)

あーコワ・・・。こりゃ怒られるわ。
松本清張が「出版やめさせろ!」と激怒して出版社に殴りこんだとか。
この小説に、しっかりとそれらしいモデルの直枡(木)賞選考委員として
登場させている。

それにしても・・・
リアル過ぎて、小説が世に出されるカラクリって・・こうだったのね、
という、それは恐ろしい現実が生々しく描かれて(告発されて)おり、
まず架空の絵空事であるはずもなく、

あー、道理で、小池真理子とか、田渕久美子とか、
村山由佳とか。男性作家なら東野圭吾とか・・。
なんで文壇には意外に美男美女も多いのかな、という
素朴なギモンに対する謎が解けたような気になってしまった。
(ちょっと穿ち過ぎだろうけど・・・)

あーコワ。

でも、めちゃ面白かったけど、後半一気にシリアスになって、
全体としてのしまりにちょっと欠けたきらいもあるかなあ。

筒井康隆、さすがにタダモンじゃない。



<読書>「セカンドバージン」(大石静)

2011年06月22日(水) 6時04分
「えー?、アンタみたいなオジサンが読むような本じゃないでしょ!」
関係者から容赦ない突っ込みが聞こえて来そうな(汗)・・・。

図書館でブラブラと「次は何読むかなー。」と文庫本コーナーを眺めていて
フト、書き下ろしの新刊っぽく、装丁もまだ新しくて本も綺麗だったから
手に取ってみて、何となく読みやすそうだったのと、裏表紙の解説が
面白そうだったので、たまには、何となく恋愛小説っぽいのでも読むか、と
借りてきた次第。

(Source: Amazon)

実は、(嘘じゃないけど)あの、今年NHK連続ドラマでブームになったお話の
原作だって、ちっとも気がつかなかったのだ。
作者も、何となく聞いたことがあるような・・・という程度の認識(浅いー)。
著名な大河ドラマの原作者だったりして、有名作家なんだよね。

さて、ストーリーは・・・
筆者はNHKドラマも全く観てないので比較できないし、
何となく主人公が鈴木京香で、相方役の可愛い妻役が深田恭子と
いうことで、少しは投影しながら読んだけど・・。

まあ、結構ストーリー展開は早く、読み飽きないし、文章も平板なので
スラスラとストレスなく読めるけど、
あり得ない偶然の一致的な状況設定が繰り返されるのは、
(読んだことないけど)ハーレクイン・ロマンスみたいでいささか食傷。

後半はまるで刑事モノかサスペンスドラマ、或いはアクション系。
真面目に小説として読むにはいささか鼻白んでしまったこと・・・。

しっかし、この鈴木行という若い男の主人公、
男の立場から言わせてもらえば、優柔不断で芯のない・・・
大人の女性にモテるとも思えないが。女性の評価はまた違うのかな。

ストーリーとしてはいかにもミーハー読者を意識した三流どころと
思っていたけど、最後の最後、主人公・行が遺した、るい宛の手紙が
全体をキッチリと締めくくって、非常にいいフィナーレだったことは評価。

日頃のストレスから一時、心身を開放するために何も考えずに
読むには、まあ気晴らしになることでしょう。

<読書>「天正女合戦」(海音寺潮五郎)、「執行猶予」(小山いと子)

2011年06月18日(土) 12時02分
会社近くの図書館で見つけた「消えた受賞作・直木賞編」に掲載の2佳作。
編者曰く、諸事情で世の中に残っておらず探せない、かつての直木賞作品を
丹念に探し出して、9編ばかりを再録したもののうち2作品である。



■天正女合戦
大家・海音寺潮五郎と言えば、「天と地と」や「平将門」をはじめ、
著名な大作も多く、文壇の大御所というイメージが強い。
その作者が、昭和11年の第三回直木賞受賞作としてこの「天正女合戦」を
発表したのだが、本人曰く、初期の作品のせいもあって
非常に自己評価が低い作品なんだと。

いやいや、一読、素晴らしい筆力と切れ味鋭い展開に引き込まれっぱなし。
太閤秀吉と千利休との深遠な確執と悲劇。
利休の長女・お吟と、父との深い親子愛。
側室・茶々と正室・北政所の修羅の確執。
海音寺の快刀乱麻といった作品。素晴らしいこと。

■執行猶予
戦後間もない昭和25年発表の社会派サスペンス系。
小山いと子という作家は知らなかったが、気が強く九州から
単身上京して小説家への道を歩み、戦後は長く読売新聞で
人生相談のコラムを担当したそうな。
ストーリーにやや難があるような気もするが・・・
でも面白い。
第一線弁護士の貞淑な妻の、夫の弟子との道ならぬ不倫。
で、いきなり最後の方で全然別件の弁護で救った女性の悲運。
前後がつながらないんだけどな・・・。

<読書>永遠のゼロ

2011年06月02日(木) 0時02分
うーん。かなり辛い物語だった。しかも、ほぼ「実録」ぽい。
太平洋戦争におけるゼロ戦(霊式戦闘機)を中心とした戦いの記録。
あまりにリアルで細部を抉るように記述されている。迫真。



TBSラジオ「Dig」で竹内アナが絶賛していたので、
興味を抱いて読んだが・・・。
読後感として率直に言えば、うん、判る。この物語は
圧倒的に女性に受ける。母性に訴えかける。
これほどまでに女性、愛する人のためにわが身を挺した男。

・・・でも男が読むと、ちょっと温度差を感じる。
主人公・宮部は、男として本当に立派だけど、それほど涙の大感動でもない。
素晴らしいけど、生涯一というほどでもない。でも、素晴らしい話ではある。

作品の紹介
日本軍敗色濃厚ななか、生への執着を臆面もなく口にし、仲間から「卑怯者」とさげすまれたゼロ戦パイロットがいた...。人生の目標を失いかけていた青年・佐伯健太郎とフリーライターの姉・慶子は、太平洋戦争で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べ始める。祖父の話は特攻で死んだこと以外何も残されていなかった。元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の姿は健太郎たちの予想もしないものだった。凄腕を持ちながら、同時に異常なまでに死を恐れ、生に執着する戦闘機乗り―それが祖父だった。「生きて帰る」という妻との約束にこだわり続けた男は、なぜ特攻を志願したのか?健太郎と慶子はついに六十年の長きにわたって封印されていた驚愕の事実にたどりつく。はるかなる時を超えて結実した過酷にして清冽なる愛の物語。
「Google ブック検索」より


それよりも何よりも、全編を通じて、改めて感じざるを得ない現実。
当時の軍部、首脳中枢がいかに大ばか者の集団だったかということ。
大ばか者などという軽い表現ではとても済まされない。

それについて、続けて記述したい。


つづく

<読書>東電OL殺人事件「誰が私を殺したの」

2011年05月13日(金) 0時02分
今話題の東電だけど、たまたま偶然図書館でタイトルに惹かれて
手に取ったルポの一遍が、東電OL(エリート女性社員)殺人事件だった・・・。
殺された女性(故・渡邊泰子氏)の、何という哀しい人生。

(Source: Amazon)

東電のエリート社員だった父親をとても尊敬しながら育った女性(ファザコン系か)。
小学校5年生の時に運動会で一等賞になり、父親から褒められたら
その嬉しさと、期待に応えたいというプレッシャーから努力を続けて
6年生でも一等賞をとる。
威厳のある父親に喜ばれることを最大の生き甲斐に成長し、
慶応女子高ー慶応大学経済学部へ進み、東電にエリート入社を果たす。

しかし常に孤独で、周囲に人を寄せ付けない雰囲気を持つ人格。
会社でも主流の企画部署に配属され、専門家が舌を巻くほどの経済通となるが
上司や同僚が無能に見えて仕方がない。

どんどん孤独になっていく彼女。
ストレスが嵩じて拒食症になってしまうが、本人はそれを意識しようとしない。
残業に次ぐ残業。

そこからが常人には信じられないのだが、
最初はスナックのホステスに始まり・・・
ホテトル、そして渋谷の円山町を拠点にいわゆる「たちんぼう」の娼婦となる。
毎日4人の男に抱かれる生活。
そして情交の相手は、自分より10歳から20歳以上も年上の熟年男性が中心。
大学教授やマスコミ関係者、会社経営者など、上質の男性が多かった。
若くして亡くなった父親への憧憬だったのか・・・。

会えば情交の前に何時間でも会社と上司の愚痴を吐き続ける。
辟易として引いていく男性たち・・・。
この辺があまりにも哀れというか、切ない。つらい。

そして、ネパール人が犯人に仕立て上げられるが、間違いなく冤罪。
この本が書かれた時点では上告中で最終結審は見ていない。

何という切ない人生とその結末・・・。

事件概要はここクリックどうぞ


他に2編あるが、インパクトとしてはこの事件が最大のように思える。

<読書> 松本清張 「月」

2011年05月09日(月) 0時06分
宮部みゆきオリジナルセレクション(新潮社)に収録の一遍。
(宮部みゆきは、清張の大ファンなのだ。)
1967年に文芸春秋別冊に掲載された、切ない短編。

(Source: Amazon)

(解説より↓)

うだつの上がらぬ歴史学者の悲劇を描いた一遍。歴史学者・伊豆享の師匠は碩学をもって知られる「官学の大御所」であったが、真面目なだけで才能に乏しく、人づき合いも下手な伊豆がその恩恵に浴することはなかった。
ある女子大の「最も目立たない教授」として、彼は細々と地方史の研究に当たっていたが、やがてひとりの女子学生に清書や資料の引き写しを手伝ってもらうことになる・・・・・・。

表題は、その女子学生が書く「月」という文字がいつも斜めになっているのを伊豆が気にすることに因る。その斜めの字を見ていると、「不安定な自分の位置がその字に表れているような気がする」というのだが、ご承知のとおり、月は古来から人間の精神に深い影響を与えているといわれ、英語でもルナシー(lunacy)やルナティック(lunatic)という言葉は精神異常や狂気を意味する。

その点、表題からして不気味なものを感じさせずにはおくまい。清張小説にはまた、アカデミズムの閉鎖的な体質を批判する作品が少なくない。本シリーズでは、浅田次郎/編「悪党たちの懺悔録」に収録された「カルネアデスの舟板」や海道尊/編「暗闇に哂うドクター」収録の「皿倉学説」がその系列に当たる。

才能にも学閥にも恵まれぬままこつこつと研究を続ける老学者・伊豆の悲哀からもそうしたメッセージは汲み取れようが、本編を印象不覚しているのはやはり強烈な”とどめの一撃”ではあるまいか。

伊豆のキャラクターには、暗い半生を強いられた著者自信のそれが二重写しにされていようが、表題に相応しい残酷な結末は、まさに私小説的は素材を仮構お世界につくり変える清張流ならではのものというべきだろう。


清張の作品を貫く「様々なコンプレックスによる苦悩とと相克」。
学究ジャンルにも造詣が深いが、読むたびに「学窓」の深遠さや
ヒエラルキーの厳しさ、信賞必罰の世界、男芸者の世界を
見せつけられて、辟易としてしまう。サラリーマンの世界も似たものだけど。

(宮部みゆきのミニ解説↓)
ぎょっとする結末の三本立て(の最初の一遍)。
ラストで「ええええええ!」と絶句してしまう三作品です。特に「月」は痛くて辛い。何でこんな残酷なことを、こんなにサラリと書けるのでしょう。でも、ほかの結末は考えられないんですよね。
終盤、ある人物が登場した瞬間に、このラストがあることは予期できるのです。


<読書>松本清張「空(くう)の城」 〜安宅産業崩壊〜

2011年05月06日(金) 0時02分
1978年に文芸春秋に連載された超大作。
総合商社・安宅産業の崩壊を渾身のノンフィクションノベルとして
描き切った経済小説で、清張の執念の一作。
凄まじいリアリティ。詳細な取材と見識に裏打ちされた記述。
もう、他を圧倒するばかり。
またひとつ、おそろしい現実社会を勉強させられた。

(Source: Amazon)

(Amazon評)
石油部門への進出を焦って熾烈な国際商戦の渦に巻き込まれ、倒産するにいたった巨大総合商社。石油という国際的な商品の“魔性”に命運を賭けた大企業の野望は、いかにしてついえたのか。日本経済に大きな衝撃を与えた安宅産業の崩壊を題材に、徹底した現地取材と卓抜な洞察力で真相に迫る、企業小説の傑作。

(Amazon読者レビュー)
安宅産業の崩壊を描いた企業サスペンス的な大筋とは別に、企業が危機に瀕している中、大量の高価な骨董を自分の審美眼で蒐集し続けた二代目社主の在り様になぜか惹きつけられます。社員からすると迷惑な御仁だし、やることは二代目ドラ息子以外の何ものでもないのですが、事実なのか松本清張氏の筆によるものなのか、話の要所要所に時々現れては強い印象を残す不可思議で奇怪な老人。清張作品は女性キャラクター中心に映像化されることが多いですが、老優の名演技が見られそうです。でも映像化は確かNHKドラマ「ザ・商社」1回のみであったような。忘れがたいキャラクターです。

清張の博学・筆力とキャパシティは空前絶後で、常に驚嘆させられる。
比較的手軽に読めるサスペンス系小説とは一線を画す、経済小説。

プライベートカンパニーでもある総合商社。
社主(オーナー)派と、それに反目する派閥、そして中間派の抗争。
あまりに生々しく描かれており、サラリーマンとしては身につまされる。

中東の政商に翻弄される日本企業。
社運を賭けた一大プロジェクトの、あっけない崩落。
ノンフィクションだけに、身を切られるように臨場感がある。

ああ恐ろしい・・・。
でも、中身を精査しながら読むと、技術解説などに難解な部分もあり、
少し骨が折れること。でもそれこそが清張の執念と薀蓄そのもの。

読後、Wikiで安宅産業倒産の事実(*)を追うと、
本書の内容が全く詳細にまでわたって史実どおりに語られているのに驚く。
(*)ここクリックどうぞ。




読書:「燃えよ剣」(司馬遼太郎)

2011年04月08日(金) 0時05分
司馬遼太郎のファンのくせに、何故か今まで手をつけていなかった。というか、
余りにも著名な作品なので、逆に敬遠してきた感があるのかな・・・。ヘンなの。
ご存知、新選組副長・土方歳三の魅力を余すところなく描ききった大作。

土方ファン(元タイガースの江夏豊さんの愛読書としても有名)なら
一度は必ず読んでいないと、ハナシにならない快作でもある。

(Source: Amazon)

司馬遼太郎の「新選組血風録」が若干オムニバス形式的で超・面白いし、
その他の多くの著作や映画などでの取り上げ方を見でも、土方といえば
泣く子も黙る、新選組の鬼の副長であり、近藤勇や沖田総司と並ぶ
京都での活躍の印象が一番強い。

鳥羽伏見の戦いから函館・五稜郭に至るまでの敗走は
土方の晩年の苦悩の時期と捉えるイメージが強いと思うし、
筆者も今まで、そんな印象が強かった。

しかし、本書ではむしろ、京都の新選組の躍動を前半に辿ると同じくらいの
ボリュームで、大政奉還・王政復古から官軍と幕軍の攻守を連綿と記述している。

その中で、最後の最後に単騎、官軍本陣へ切り込んで壮絶な最期を遂げるまで
土方がいかに「百戦全勝」「連戦連勝」「無敵の鬼神」であったかの様子が迫真に迫る。

唯一心を通わせた愛人・お雪との交情には心を打たれること。

また、最期の出撃直前に土方がめずらしく夢を見るシーンで、
先に逝った仲間たち(近藤、沖田、井上源三郎、諜報の山崎など)が
夢枕に出てきて、親しく懐かしく語り合うシーンには泣けた。

本書のクライマックスだろう。

読書:「山谷崖っぷち日記」(大山史朗著)

2011年04月03日(日) 14時26分
ふと目に留まって、近くの図書館で手に取って読んだ。
「現代の方丈記」という評価まである、開高健賞を受賞した
ルポルタージュ風エッセイ。
作者の西成や山谷の労務者生活を綴ったノンフィクションで、
やっぱり、体験をベースに底辺の生活を語られると迫真だ。



多くの書評のうち、核心とも言える部分の記述を引用。

「少年期から、自分がまともな大人の世界の中で生きていけるとはどうしても思えなかった。社会に出て仕事をもち、一人の女性と家庭をつくって子供をもうけるというような生活が、私にも訪れて来るだろうとは、心の深い部分ではどうしても信じられなかった。そういう生活がしたいかどうかというよりも前に、そういう生活が自分にはどうしても現実感をもっては感じられなかった。
 自分は人生に向いていないという深い確信があった。この確信を振り払うように、ある時期までは社会への(つまり会社への)過剰な適応努力を続けたこともあったわけだが、結局その努力も生理的に限界があったことがわかり、むしろホッとした気分になった。そうなのだ。あんなところ(会社や社会)が私の生きる場所であるわけはないのだと、深く納得するところがあった。(p187)」


作者は大卒のインテリながら、
社会に出てどうしても周囲と馴染めずドロップアウトした経験から、
自分の「医学的には鬱病」と認識しつつ、
家族を持つことなど到底考えられない人格だと自分を認定し、
日雇い労務者としての人生を選択する。

そして、毎日の自己洞察を通じて残した記述は、
おそろしく丹精で達者な文章力の裏づけがあり、
なかなかの達人である。

大なり小なり、文章を書いて暮らしている人たちって
この作者に似たような資質を持っている人たちじゃないかしらん。
2011年07月
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
最新コメント
トビウオ
» 哀悼。超ナイスガイ・伊良部投手 (2011年07月31日)
一ノ瀬貴子
» 哀悼。超ナイスガイ・伊良部投手 (2011年07月31日)
一ノ瀬貴子
» 宮里藍ちゃんも!おめでとう、なでしこに続いた。 (2011年07月25日)
トビウオ
» 「なでしこ革命」 空前の盛り上がりやー!! (2011年07月25日)
一ノ瀬貴子
» 「なでしこ革命」 空前の盛り上がりやー!! (2011年07月25日)
トビウオ
» またツイッターか。どうかしてるよ (2011年07月24日)