松本清張 「男たちの晩節」(続)

2010年04月17日(土) 0時05分
<遺墨>

これも初老の美術評論家と、アシスタントの中年女性の
年齢差を超えた不倫愛とその顛末を描いた作品。

どうも、「筆写」といいこの「遺墨」といい、
清張の、老成してからの自分の姿とその隠れた欲望を
告白小説的に描いたように思えて仕方がない。

この作品も読後感は後味が悪い。
不倫顛末の挙句、妻に攻め立てられて、女のせいにして逃げる初老の男。
主人公としての人間的な魅力など全くないではないの。
作者の懺悔録じゃあるまいし。

だいたい、こんな年配の男性においそれと恋心を寄せる
中年熟女が居るものだろうか。
作者の願望だよね、潜在的な。

ああ、気持ち悪い・・・・・。
グロテスクといえばグロテスク。
生々しいといえば生々しい。
いちいちの描写には凄く臨場感があって、流石の筆力だけど、
そもそも、こんなお爺ちゃんの色恋話なんて、興味ないよー、先生。
助けてー・・・  オエッ

<延命の負債>

うん。一転、これは面白い!秀作。
清張の本領発揮にようやく戻った。

舞台は、これも清張が長年実体験を積んだ、印刷会社である。

若い頃から心臓弁膜症という難病を抱え、
手術する金も時間もないためひたすら堪えながら
小さな印刷会社を経営する主人公・末吉。

奮闘努力が実って、大手の系列会社の下請け仕事が内定し、
これで事業が安定して拡大出来る!と喜んだときに、
大きな発作に襲われて、手術をしなければ命の保証がないと
告げられる。
「こんな大事な時に死んでたまるか!死にたくない!」との一念で、
莫大な治療費を、親戚などから借金して再起をかける。

手術は無事成功した。
しかし、手術費用や謝礼、事業拡大のための投資などで、
大きな資金調達が必要となった。
「どうせ一度は死んだような身だ。資金はなんとかなる!」


・・・そのわずか一年後。
手術を担当した名医に、別の患者が尋ねるシーンが結末となっている。
「あの患者はその後元気でやっているのでしょうね?」
「いや、亡くなりましたよ。」
「え?では、術後の経過が良くなかったんですか?」
「そうではなくて、無謀な借金を街金業者などから重ねたので、
借金で首が回らなくなって、首吊り自殺したんですよ」
・・・・

何のための延命手術だったのか。
中小企業経営者の悲哀を描いた秀作である。
途中から、何となく物語の顛末は予想できたけどね。

  • URL:http://yaplog.jp/tosihiro/archive/695
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