言挙げ 

2007年06月22日(金) 13時45分
「おーいロロノアよぅ。」
モリアの居城の中までの急な階段を上る皆の足に勢いが付いている。
チョッパーは獣の形だしサンジなど鼻息の荒さがよく目立つ。
「なんだ?」
後ろから息も切らさず声をかけてきたフランキーに速度をおとすことなくゾロは答える。
「いーのかい?」
「何がだ?」
「俺としちゃぁよぉ、おめぇが一番慌てるんじゃねぇかと思ってたんだぜ?」
「何のことだ?」
正面を向いたままゾロは上を目指す。
「あのお嬢ちゃんよ。おめぇのだろ?  なのに他の奴らに憤慨させといて良いのか?」
ゾロは足を少し緩めた。何も答えずちらりと自分の斜め後ろを見る。フランキーが少し不思議そうに、そして少し含みを持った笑顔で脇に上がってきた。

おめぇのだろ?

そう言う微笑みだ。

「・・・・いつ判った?」
「サニーに乗ってすぐだ。おめぇら黙ってりゃ判らねぇと思ってたのか?」
「いや。隠したつもりもねぇ。」
堂々と言ってのけるゾロにフランキーは一度天を仰いだ。
「だろうな。あれじゃぁな。  で?」
「でってのは?」

フランキーは自慢の自前の歯を見せてにんやり笑った。
「俺はよ、まだおめぇの口からお嬢ちゃん助けに行くって聞いてねぇように思うが。」
おうどうなんよ?と言いたげなフランキーにゾロは肩を落とした。
「・・・阿呆くせぇ。言えばナミが助かんのか?」
「いやーーだがよぉ・・」
「それより俺の影を取り戻すのが先だ。あの敵相手に本調子じゃねぇってのは言い訳にならねぇ」
フランキーは肩をすくめた。少し気落ちしたと見せたいらしい。だがゾロは全く相手にしなかった。声色に乱れはない。冷静に、全くいつもの通りのゾロの声だ。

「おいおい待て待て。良い方法だと思うぜ?それがベストだとな。けど、それ聞いたら嬢ちゃん泣かねぇか?」
「ばーーか。あいつはそんな簡単にやられるタマじゃねぇよ。逃げるって事にかけちゃウソップより上だ。それに・・」
「?」
「中途半端にあいつを助けに行けるか。どんな罵倒されるか判ったもんじゃねぇ。誰が助けたって助かりゃいいんだ。影四体にナミ一人。俺たちぁどれ一つ取りこぼす気なんて無いぜ。」
そう言い捨てて速度を上げる。後ろから見ているからこそ判ったが、ロロノアの耳だけがうっすら赤い。
嘘を言う男ではないようだ。だとすると船長と同じ、自分の女よりも全部助けるって奴なのだろう。




島に漂う臭うようなねっとりした空気が彼らの周りで少し動き出す。二人の勢いが少し弛んだ。

「あーあー意地っ張りな男と頭のいい女の組み合わせってのはどうしてこうも頑なかねぇ?」
「フランキー。それはお前に言われたかねぇぜ。」
今度はゾロが足を止め溜息をつき、含みを持った笑顔をフランキーに向けた。
「・・・・・何のことだ?」
「黙ってりゃ判らねぇと思ってたか?」
ゾロはちらりとロビンの方へ視線をながす。
「やられっぱなしみてぇじゃねぇか」
ゾロはくっくっくと白い歯を見せた。
フランキーがその頭上から睨み付ける。
二人で時が止まったかのように感じた。


「まいった」
破顔一笑でフランキーは溜息をついた振りをする。
「言ってくれるじゃないのよ若造が。」
「いい年こいたおっさんが下らんことを言わせようとするからだ。」
「ま、俺としちゃ前よりおめぇが好きになったぜ。もっとガチガチのアゴ野郎だと思ってたからな。」
「・・俺もお前は気に入ってるぜ。」
「だろ?」



城の中まで後数歩。
さぁ奪還劇の始まり。

綸言と微笑 

2007年06月22日(金) 13時50分
コビー曹長は入隊時から変わらない穏和な性格と身につけた技で徐々にガープの配下の中でも名を挙げつつある。
一緒にいるヘルメッポ軍曹のたまに出る毒舌も軽くいなし、いつでも笑みを忘れない。たまに涙もろいとも言われて隊内でもその目撃証言は絶えない。
着実に技術も身につけてゆく彼ではあるがその穏和さ故に見くびられやすいと言う欠点はいつでもついて回る。
先ほど船長に当たるガープ中将が指名付きで陸に連れて行った理由が判らず残された海兵の間では大騒ぎになっていた。

(中将の血縁がらみのコネがあったのか)

やっかみも含めたあまり芳しくない意見の方が多かった。
どうしてという疑問ばかりが声を大にする。


ただ今日のニュースはそれよりももっと衝撃的だった。
中将ガープの息子と孫についてである。
ボガート以外の船員皆に衝撃は走り、興奮は退かなかった。


中将ガープの船ともなれば上は佐官から下は海兵まで乗員も多い。一致団結したガープの強さと子供のような魅力に魅了された船員達で構成されていて他の船よりも独自性が強い。
それ故に先ほどのニュースはほとんど全員の度肝を抜き、それに伴う一種の酩酊感が船の中にあった。だが出航命令が出てロープを結び、帆げたを整える。少し日常に戻った出航準備の中で徐々にでも本来のペースを取り戻す当たり猛者揃いといえる。

だがそれでも、今回の衝撃は大きかったようだ。

甲板なら声はかき消されるとばかりに作業しながらひそひそ声で会話している海兵がいた。
「しかし・・・今売り出し中の麦藁のルフィが孫だっただけじゃなくてドラゴンがその父親で息子だったなんて中将の所はいったいどういう家系なんだよ?」
「鷹は鷹を生むんだろう」
「竜が竜を産むといった方が確かかもな」
「上の方はこのこと・・」
「さすがに知らないだろう。」
「何処に出したってトップニュースは間違いないんだけどなぁ」
「新聞なら金になるし、軍の中なら出世の足がかりだったりして・・・・・。」

話しに夢中になりひそひそ声が少しずつ大きくなるのをこらえていたその瞬間、背筋が凍り付いたようにゾクッとした。
二人ともいきなり背後に猛獣のそれに似た殺気を感じた。しかもこの気配、一気に体内の血が凍り付いたように動けない。
その刹那、鋭いかまいたちの早さにも似た衝撃が腰から背中を駆け上る。
紙一重の距離を滑るその衝撃。振り向く隙を与えない信じられない速度。

「手よりも口が動いているなどいけませんよ」
「「コビー曹長!?」」
柔和な微笑みはいつもと同じ柔らかさだ。
目尻が下がった笑顔も同じ。見つかった相手が上官であっても彼ならば造作もない。
先ほどの気配はおそらく気の錯覚だろうそう思うと先ほど聞いた小さい方のニュースが二人の胸に浮かんできた。
「はっ」
「曹長にはおめでとうございます。」
「何がですか?」
「中将閣下のお孫さんとお知り合いだったそうで。」
「そのおかげで一兵卒の頃からこちらに配属されてそのまま出世とは・・コネのある方は違いますな。いや、羨ましい。」

後ろに立っていたヘルメッポの口元が一瞬ゆがんだ。
コビーはいつもと変わらずにこにことして笑顔のままなのだが、今はその背後でカチャカチャ言わせていたククリ刀が静かになる。
「はいびっくりしました。おかげで鍛えていただきましたからちょっとは使えるようになったと思いますし。」

にこにこしているコビーの顔は変わらない。
なのに海兵達は何故か自分の周囲の気温が下がり始めたことを肌で感じた。
島の気候は一定のはずのここで、いきなり気候が変わるなんてあり得ない。周囲を凍らせるなど大将青キジの能力くらいしか聞いたことがない。
だが確実に彼らの周囲の気温は氷の島のように冷え込んでいた。
悪寒に近い震えを感じる。海兵の二人はその震えが止まらない。
そんな中、微笑みは全く変えないままいつもの穏和なコビーの声が甲板の風にもかかわらず良く通って聞こえる。

綸言と微笑2 

2007年06月22日(金) 13時55分
「僕の噂は何を言われても構いませんが、中将は現場で『いまのなし』と言われましたよね。」
知らない、そこまでは・・聞いていないと思う。二人は思わず首を思い切り横に細かく振った。振らずにはいられなかった。
「あなた方が聞いていない話をしていたのですか?ではどなたからお聞きになりました?」
「や・・その・・誰とは・・」
「判らないのですか?困りましたねぇ。」
コビーは困った顔をして見せてもその周囲の冷却した空気は変わらない。
「では・・・『剃』」
いきなりコビーがその姿を消した。二人の周囲の空気が削られる音がする。ほんの数ミリ動いただけでそのかまいたちに似た鋭い衝撃に吹っ飛ばされてしまうだろう。そう言う削りを十数発掛けられていることだけを感じて海兵は身動きなど出来なかった。

「ではこれを耳にした方全員にこの蹴りで粛正されていただかなくては。」
コビーはにっこり汗一つかいていない。
「中将の命令は絶対です。無しと言われた以上そのような事実はないのです。」
「・・・・はっ」
「上の命令に背くなら僕の手であなた方を『今のなし』にしないといけませんね。」

口元の笑みはいつもと同じだ。
目尻が下がった笑顔も同じ。
声も、いじめたら泣き出しそうな顔も変わらない。

だが。
瞳の輝きが違う。微笑みの下に鋭い刃物をちらつかせている。

「確かに中将が拾ってくださったのは僕らの事件にルフィさんの名前があったからですけどね。」
肩をすくめてもう一度構えの腰を深くした。
「でもそれとこれは別です。
中将の命令を理解できない者は降りていただいた方が良いでしょう。いっそ人生ごと」

六式の中でも一番鋭利な蹴りとコビーは相性が良かった。剃で鍛え上げた足がいつでも動ける俊敏さを漂わせた。
「最初の警告は済ませました。心配しないでくださいね。次は外しませんからあっという間ですよ」
「い・・・いえっ!!!」
「めっそうもない!」
「待って下さいっ!」
変わった気配に慌てて彼らの上官に当たる軍曹が飛び出してきた。
「済みません、私が言い聞かせますから。」
その姿を見てコビーは微笑んで構えを解いた。
「ではお願いしましょう」




「ビビらせちまったな」
「当たり前のことを言っただけなんですけど」
「あっちは冗談のつもりだったんじゃねぇか?」
「ヘルメッポさんも判ってるくせに。アレはやっちゃいけないことでしょう?ゆるみは禁物ですよ」
「まあな、お前がやらなきゃ俺がやってたよ。・・けどこんな所はあいつに見せるわけにはいかねぇよなぁ。」
くっくっくと笑うヘルメッポの動きに合わせてサングラスが揺れている。二人ともさっきルフィと話した興奮がまだ身体の中で冷めやらない。

海賊なら仲間を守るのかもしれない。
ルフィならこんな粛正は認めないのかもしれない。
僕には海賊の論理は判らない。
だがここは、自分が身を置くところは海軍で、上からの命令は絶対。どんな些細でも不条理でも逆らうことは許されない。
上もその言に責任を持てない者は粛正を受け入れねばならない世界だ。

「そうですか?こんな事当たり前ですよ。僕は海軍大将になるのだから。」
一度口にした誓いを次に口にするのは案外簡単だった。
だがその言葉は汗のごときもの。もう二度と引っ込みは付かない。
「じゃー俺その横でコネで中将にしてもらおう。」
「ええ、いいですよ。思う存分こき使わせてもらいますからね」

コビーの微笑みはいつもと同じ。昔から全く変わらない。


end
P R
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