祈り W

September 06 [Thu], 2012, 12:06
「こんにちは」

公園で座っていると、挨拶された。
会釈を返しつつ相手を見ると、まだ若い女性だった。

「あなた、どんな顔をしているの?」

目が見えない人なのだろうか。
白杖も持っておらず、近くに知り合いらしい人影もない。
足取りはしっかりしているように思う。
どう答えたらいいものか、困った。

「ああ、ごめんなさい。変な質問をして。
あなたがそこにいることは見えるのに、顔や輪郭がぼやけてはっきり見えないの」

それは、なおさら変な話であるように思う。
とりあえず目は見えるようなので、安心だが。

「ごくごく一般的な顔です。知り合いに似ていると親近感で声をかけられることが多いくらい」

いつからか覚えていないが、多いのだ。
初対面の人に誰かに似ているといわれることが。
そしてその相手への思い入れを聞かされたりする。
もしくはその人の代わりに甘えられたりする。

「あなたは、あなたですか?」

分からない質問だ。
自分は自分だ、そんなの当たり前すぎて質問されたこともない。

「・・・だと思いますが」

答えに窮して、そう言った。
自分以外の何かになった覚えはない。

「そうかな?」

考えるように小首をかしげてこちらを見ている。
なんとなく、目を合わせていることがはばかられて、視線をそらした。

「あなたは、どんな人?」

どんな人、と問われて何を返せばいいのだろう。
ただ毎日を繰り返しているだけで、特に人と違うことをしているつもりもない。
じゃあ、目の前のこの女性はどんな人だと言うのだろう。
聞いてみようか、という気もしたがそれは何だか怖い気もした。
相手の得体が知れない、女性なので逃げる時間くらい作れるとは思うが。
それでも何もないに越したことはない。

「すみません、ちょっと用事があるので、失礼」

そう言って立ち去ることにした。




「自分をどこに置いてきちゃったの?」




去り際彼女の言葉がかすかに聞こえた。








寡黙な永江君と初デート(相合傘から半年後くらい)

July 24 [Tue], 2012, 22:01

 昨日の夜は眠れなかった。
明日は何を着て行こうか、靴はどうしようか。
髪型はどうしようかって考えることはいっぱいあって。
気付けば1時半で、寝不足のブサイク顔でいけないと思ってベッドに入ったけれど。
そこから1時間は寝れなかった。
しばらくゴロゴロして、時計を見てもまだ10分しかたっていない。
2時を過ぎた辺りで泣きたくなった。
こんなんで明日ぐったりしてたらどうしよう、私。
せっかく、永江君との初デートなのに。



見え透いた嘘だったかもしれない。
3日前いつも通り図書室に来た永江君にこう言った。

「水族館の券もらったんだけど、良かったらいかない?」

永江君は私の手の中を覗き込んだ。

「ああ、リニューアルオープンしたとこ」

そう、最近朝の地方ニュースとかでやってた。
知っててくれてよかった。

「そう。評判いいみたい」
「行ってもいいよ」

「え」

私の手の中の券は2枚。
事前に買いにいった。
お小遣いをためて、永江君が一緒に出かけてくれるかもしれないところ。
図書館と本屋はデートじゃない気がしたので、唯一思い浮かんだのが水族館。

「いつ?今度の日曜ならとりあえず空いているけど」
「じゃあ、日曜で…」
「わかった、近くの南公園で待ち合わせるか」
「う、うん」
「10時で?」

急展開について行けなくなって、私はもう頷くのが精一杯。
コクコクと首を縦に振る。

「じゃあ、そういうことで」

永江君が図書室を出ていく。
戸が閉まった瞬間、山田がヒューゥと口笛を吹いた。
マジですか!
もうドキドキで、緊張して、それから3日間永江君の姿を見るたびビクビクした。
あの無表情で「なかったことに」って言われる夢まで見た。
むしろこっちの方がリアルだよ!




それがいよいよ明日、初めてのデートなのだ。
向こうがどんなつもりかは知らないけど、これはデートだ。
ドキドキするでしょうよ。
私服なんか見たことないけど、何着てくるんだろう。
どうしよう、超オシャレだったら。
私どうしよう、気合入れすぎたら笑われちゃうかな。
それとも呆れられちゃうかな。
滅多に着ないお気に入りのワンピースを何度も眺める。
空が明るくなりはじめた頃、やっと私は眠りについた。



待ち合わせ場所にいた永江君は、まぶしかった。
思わず目をそらしてしまうほどだった。

「おはよう」

何でもないことのように挨拶される。
私は制服を着ていて、彼も制服で、ここが図書室かのように。

「おはよう。いい天気でよかった」
「うん。行こうか」

先を歩く彼の、少し後ろを歩く。
水族館はリニューアル効果か、少しこんでいた。
思ったより永江君はゆっくり歩いてまわった。
大きな水槽に大きな魚がいるのは迫力があるし、クマノミみたいな魚も綺麗だ。
「きれいだね」とか「大きいね」とかそんなことしか言えない。
なのに、いちいち「そうだね」とか返事してくれた。
それだけですごく嬉しい。
一通り全部見て外に出ると、日差しが強くて暑かった。
暑かったから、どっかおかしくなってたのかもしれない。

「ねぇ、これデート?」

何の前触れもなしに聞いてしまった。

「何のつもりで誘ったの」

いつも通り冷静な顔で聞かれる。
ここまできて女の子に言わせようなんてずるいと思う。
永江君を睨むと、そのままの表情で視線が帰ってくる。

「デートのつもりでっ!」

色気も何もないけれど、睨みつけながら叫ぶように答えた。
周りの人が驚いたようにこちらを見る。
そんなもんかまってられるかっ!
私のこと好きなのは分かっている。
心を許してくれたのも。
けど、決定的なひとことがない。
彼が、息をすって少し緊張した面持ちで言った。



「オレも、そのつもりだったけど」



彼が私に歩み寄る。

「それでいい?」

私は返事の代わりにそっぽを向いて、彼の手にはじめて触れた。




おてがみ

June 17 [Sun], 2012, 21:05
「私、あの時しんどかったんだぁ」

いつも通りにこやかにあなたが言った。
うん、知ってたと私は頷いた。
そう、私は知っていたのだ。
あなたが、自分もつらいのに私の心配をしてくれていたこと。
私は自分のつらさでいっぱいだった、あの時に。
もしかしたら私よりもしんどかったこと。
ごめん、ごめん、ごめん。

「本も借りっぱなしにしててごめんね」

そんなことは、どうでもいいことだ。
私は首を横に振る。
私はあなたがくれる優しさやあたたかさを、きっとほとんど返せていない。
一緒にしんどいねって、言うだけできっと良かったのに。
側にいれば、きっと違ったのに。
私、自分の心配ばかりしてた。
苦しくて、自分のことばかりになっていた。
だからあなたからのメール、後でいいやって思ってしまった。
あの時、すぐメールを返したら何か変わった?

「しんどいこと、忘れたかったんだよね」

私はあなたを見つめるだけでせいいっぱい。
見逃さないように。
あなたのサインを、見逃さないように。
どうしてそんなに穏やかに話せるの。
これは私が見ている幻?
そんなことはないはず。
そんなことはないはず。

「心配かけてごめんね」

それは私のセリフだ。
じわりと目がうるんできた。
泣くもんか、私が泣くもんか。
「私こそ、心配かけてごめん」
私の言葉に笑って首をふる。
なんもだよ、と。
そんなあなただから、きっと色んな痛みが降り積もってしまった。
私は気付いてあげられなかった。
その痛みが自分の背丈よりも降り積もって、苦しいあなたの悲鳴に。
「1番しんどい時に、力になれなくてごめん」
私は頭を下げた。
多分、あなたは首をふり微笑んで私を見ているのだろう。
けれどその微笑を見れば、私はきっと心を少し軽くしてしまうだろうから。
その微笑みはみないでおこうと思う。

私の足元にうずくまって、ジタバタしたあなた。
朝抱きついてくるあなた。
思い出せば私も笑顔になれる。
おうちに呼びたいと思っていてくれたんだってね。
私も遊びに行きたかったよ。
夜通しおしゃべりをしてみたかった。
あなたのこと、他の呼び方をしてみたかった。
もっと仲良くなりたかった。
仲良くなれる予感がしていた。
あの漫画続き出たよ、面白かったよ。
貸してーなんて会話が、ずっとできると思ってた。
いっぱい本を読むよ。
いつかあたなに会えたとき、こんな面白い本があったよとたくさん話をしよう。
いっぱいお土産話を持って、いつか会いに行くから。
待っていてね、もう少し。

祈り V

June 07 [Thu], 2012, 21:07
ぼんやりと歩いていた。
手に何かが触れた。
振り返ると、小さな男の子。

「お母さん?」

ふるふると首を横にふるときょとんとされる。

「お母さん?」

「……ごめんね、違うんだ」

みるみる涙がわいてきた。
迷子だ。
辺りに母親らしき人影は見えない。
涙は何とかとどまって、転がり落ちてはいない。
住宅街の近くなので、その辺の子どもだろうか。
触れた手があたたかい。
何となくしゃがみこんだら、目線が近くなって、目が合った少年はしがみついてくる。
力加減がわからなくて、へっぴり腰で腕をまわしてみる。
やわらかくて、すぐに壊れてしまいそうだ。
けれど、こうしてひとりで歩いてきて、泣くのを必死にこらえている。
この小さな体のどこにそんなエネルギーがあるんだろう。

身体を離してどこから来たのか問うてみる。
あっち、と指差したのは住宅街の方だ。
家の近くで遊んでいたつもりが、離れてしまったのだろうか。
しかし、住宅街だけあって小道も多いし行き違うかもしれない。
困って、すぐ近くにあった公園の目のつくところで遊ぶことにした。
きっとそのうち探しに来るだろう、もう夕方だ。
それほど離れた場所から来たようには見えない。

「ぶらんこー」

あぶなっかしく駆けていく。
隣のブランコに腰掛ける。
少年は楽しそうにぶらんこをこいでいる。
あまり大きくはこいでいないから、安心だ。
小さい時はあまり大きくこげなかっただろうか。
ジャンプしたりして遊んでいたことがあったような気もしたけれど、果たしてそんなことがあったのかも定かでなく、あったとしていくつの時かなんて記憶にあるはずもない。
眩しい気持ちで隣のぶらんこを眺める。
屈託のない笑顔で笑っている。
さっきこらえた涙は引っ込んだようだ。
涙は乾くのが早いのか、それともぶらんこで風を受けるからだろうか、等と考える。

「たっくん!」

公園の入り口に女性の姿。
ぶらんこをぱっと降りて、またあぶなっかしく駆けていく。
何とか転ばずに女性へとたどり着いた。

「お母さん!」

先ほどよりべったりとしがみついた少年は、こちらを指さし「遊んでくれた」と言う。
女性は頭を下げて少年と手を繋いだ。
きっとあたたかい手だといい。
公園を出ていく後姿。
少年がこちらを振り返って手をふる。
小さく手をふりかえし、姿が見えなくなるまで見つめていた。
驚くほどやわらかく小さな身体で、何を吸収していくのだろうか。

羨ましいと思うのは、何故なんだろう。
少年の帰るのは、きっと明かりのついたあたたかい家だ。

帰る場所なんてない。
どこへ行けるのかなんて、わからない。

わからない。


祈り U

June 07 [Thu], 2012, 20:43
別れの場面に出くわしてしまった。
彼女は、だらしなく服を着崩した男の人を睨んだ。
男の人はへらへらと笑って、じゃあとか何とかごにょごにょと言いながら去っていく。
その出て行ったところを見届け、たっぷり30秒は出口を睨んだままでいた。
そして、全身の力を抜くように大きくため息をついた。
店の端と端にいるというのに、ここまではぁと聞こえそうなため息だった。
通路が一直線でなければ、見えなかったはずなのに。
気になってチラチラ見ていると、彼女と目が合ってしまった。
ぱっと目をそらすも、彼女が近づいてくる。

「ひとりなのー?隣いいー?」
声をかけられた。
綺麗な色の髪、膝丈のスカート、細い体。
返事をする前に隣に座られてしまう。
「あたしねーふられちゃったのー」
騒がしい音楽に負けない大きな声で、話しかけてくる。
またか、今日は失恋によく行き会う日らしい。
「ふられたっていうかねー2股発覚でコッチからふってやったんだけどー」
ケラケラと笑いながら話す。
先ほどの大きなため息が頭をよぎった。
「カノジョはー?」
さらりと嘘をつける性質ならよかったのだが。
いない、と正直にアッサリ答えてしまった。
きゃあと盛り上がる。
「カッコイイのにもったいなーい」
どんどん身体の距離が近づいてくる。
元彼より全然かっこいい、スタイルもいい、と褒められる。
大した反応もしてないのに、よく喋り続けられるものだ。
少し身を引くと、少し距離をつめられる。
「いいじゃなーい、お互いひとりなんだし。楽しくいこーよ」
上目遣いに身体をさらにすり寄せてくる。
「誰かと付き合う気はないんだ」
そっと肩を押し戻して、手を放す。
彼女の目が縋るようになって、少し間が空く。
ちょっとだけうつむいて、長いまつげが何度か上下した。
そしてぱっと顔を上げる。
「付き合ってなんて言ってないしー」
ケラケラとまた笑う。
笑い終わって、小さくつぶやく。
「誰かと一緒にいたいだけだよ」

「誰か、でいいの」

いいの、と返ってきた。
「いくつ?」
気を取り直したように聞かれる。
「さぁ、忘れた」
そんなわけないじゃーんと背中を叩かれる。
本当に覚えてないんだけど、とは言わずに曖昧に笑う。
「何か昔好きだった人に似てるー初めての彼氏!」
またか、と思った。
誰もが誰かを重ねて自分を見ている。
それから元彼の二股相手のことを彼女は話した。
「私と同じタイプなの、やんなっちゃうでしょー」
似てようが似てまいが嫌だと思うが、そこは触れてはいけないだろう。
「でもまー、早めに分かって良かったよね?」
やっぱりケラケラと笑いながら言う。
目が潤んでいても、見ないふり。
慰める言葉なんて持ってないから。
「さ、そろそろ帰ろーか!聞いてくれた御礼におごっちゃう!」
別にいいよ、と言ってみたのだが、頑として譲らなかった。
少しでもスッキリしたんだろうか。
笑っている。

店を出て、彼女と向かい合う。
「ごちそうさま」
「ううん、こっちこそありがとー!」
元気良くぶんぶんと手をふる彼女。
小さく手をあげて、彼女とは反対方向へ。
しばらくして振り返ると、彼女の背中は人ごみに紛れて見つけられなかった。
まっすぐ帰っただろうか。
いっぱい食べたから、きっと明日は元気だと、思うことにした。

祈り T

May 02 [Wed], 2012, 13:55
「あなたはどこからいらしたの?」

その人はそう訊ねた。
どう答えたものか、私は遠くから来た。
長い間旅をしすぎて、私は自分がどこから来たのか、
自分が誰なのか忘れかけていた。

「失礼かもしれないけれど、あなた私の旦那さんに似ているわ」

と目を細めてその人は言った。
そう?と曖昧に笑うことしか出来ない。
否定するのは可哀想。
けれど、自分が何かも忘れかけた私には誰に似ていてもどうでもいいことかもしれなかった。
その人の旦那さんの顔も知らないので、否定する根拠も持たない。
そもそも私はどんな顔をしていただろうか。
先ほどのどこから来たかの問いは、もう終わったようでほっとする。
自分のことを聞かれると、何を話して良いのかわからない。

「旦那さんは一緒じゃないのですか」

そう聞くと、その人は寂しげに微笑んで「私の旦那さんは先にいってしまったのよ」と言った。
そう、とうつむいた。

「早くお迎えに来てくれたらいいのにねぇ」

そんなことをいう。
毎日がつまらないからそんなことを言うのかしら。
どうしてそんなことを言うのだろう。

「一緒に過ごす人はいないの?お子さんとかお友達とか」

お友達の多くは、お子さんと同居のために地方へ行ってしまった、という。
どうにも子どもと一緒に暮らすことが、私には楽しそうに思えなくて、と。

「旦那さんともっと一緒に暮らしたかった?」

「何気ない毎日が1番幸せなものです」

旦那さんはガンという病気になり、手術したものの再発して、亡くなってしまったという。
丈夫な人だったそうで、まだ体がビクビクと痙攣している最中に医師は死亡を確認したという。
心臓はもう止まっています、と。
痙攣がなかなか治まらない身体を見ながら、祈る思いで手を握り続けた、とその人は言った。
その手が徐々に体温を失い、見かねた看護士や子どもたちに引き剥がされるように離れたそうだ。

「本当に、心臓は止まっていたのねぇ。
 少しずつ動かなくなっていった。
 私の隣にいつもいてくれた人が、箱に入れられて焼かれてしまった。
 どこか近くにあの人はいるんだろうと思っても、どうしても姿がないのが悲しくて……」

泣かないで、と言うのは酷だと思った。

「あなたがあの人に似ているから、こんな話をしてしまったのね」

そう微笑む。
私はその微笑に応えて、小さく微笑んだ。

「あら、笑い方なんて本当にそっくり」

私が似ているのがいいことなのかどうか。
余計辛い思いをさせるだけではないのか。
考えても、私は答えを出すことは出来ない。
ただ、胸が切なくなるだけ。

「向こうで旦那さんと会えることを、願っています」

私はそう伝えて、歩き出す。

「ありがとう」

後ろから満足そうな声が聞こえた。
頼むから、私にそんなものを背負わせないでと言いたくなる気持ちを抑える。
どうぞ、あの人がこれから先の人生に楽しみを見出せますよう。
いつか旦那さんと再会できますよう、祈る。

一緒に

April 25 [Wed], 2012, 20:09
目の前の人を眺めた。
私は、その人のことを知りたかった。
何を見て、何を考えているのか。

「あなたは、何が好き?」

「                」

そうなんだ。
そんな時間が好きなんだ。
私は少し嬉しくなった。

「あなたは、どんなことが嬉しいの?」

「                           」

私は、たくさんあなたが嬉しいことをしてあげたいんだ。
一緒に、楽しいことをしよう。
春になったら、黄色い花の咲く野原に行こう。
お茶と好きなお菓子を持って。

「あなたは、どんなことに怒るの」

「                」

私もそれは嫌だ、と思う。
嫌だ、怒るというよりも嫌悪する。
どうしてそんなことがあるのかな、ね?

「あなたは、どんなことを悲しむの?」

「       」

そういったあなたの表情が、泣いているようだった。
涙なんてないけど、泣いているようだった。
私はあなたの頭を胸に抱いた。
まぶたの裏に浮かんでいるであろうその景色を、消してあげたかった。
涙を流さないあなたのかわりに、私が泣きましょう。
私のからだのあたたかさが、あなたに届きますように。
あなたの心が、少しでも軽くなりますように。
あなたと同じものを、これからは見ていきましょう。
2人で震える心を、抱えていきましょう。
つらいことがあれば、手を繋いでいましょう。

お互いのぬくもりを確かめあって。

一緒に泣きましょう。

書くこと

April 12 [Thu], 2012, 21:49
私は昔から本が好きで、中学生のころから文章を書き始めた。
書き溜めたノートは15冊以上ある。
中学から高校くらいまでがノートで、大学からはルーズリーフだったりネット上で書いたりしている。
最初のころのものは、今読み返すと読むに耐えない。
そろそろ思い出にとっておこうよりも、焼いてしまおうかの気持ちが勝つ気がする。
中学生が書いた詩なんて、大体において読めたもんじゃない。
本人がそう思うのだから、他人ならなおさらだろう。
けれど、とパソコンのディスプレイから視線をはずして考える。
あの時から続けてきたのだなぁ、と。
15年くらい、間が空いてもずっと書き続けてきたのだな、と。
それは、自分と向き合う時間でもあった。
ふと何気なく読み返すと、その時自分が何に悩んでいたか、そして何をきっかけにそれを脱したかが読み取れたりする。
何となくはじめたことが、こんなに長い間自分を支えてくれることになるとは思わなかった。

私はずっと本が好きだった。
小説を読んでいる時間が、漫画を読んでいる時間が大好きだった。
いじめられっこだった私は、ピアニカに落書きされるより、プール授業でパンツなくなるより、段差で転ばされるより、悪口を言われるより、図書室で読みかけの本を隠されるのがつらかった。
もっと小さいころは、ひとりで家まで帰る時間が大嫌いだったけれど。
幼稚園から中学卒業まで、いじめられていない期間があっても友達がいた時間はほとんどない。
私は嫌われる生き物なんだと、思っていた。
あの体の中を冷たいものが走るような感覚を何度味わっただろう。
悪口を聞こえよがしに言われたとき、昨日まで普通に話してくれた相手が今日こちらを向いてもくれないとき、机にスプレーのりが吹き付けられていたとき、段差のあるところで後ろから押されるとき、本を隠されたとき、石で頭を殴られたとき。
すっと体の中心を、冷たいものが走るんだ。
そして時間差で、怒りが来る。
私に非がないとは言わない。
けれど、こんなことをされる理由なんて何もない、と。
こんな卑怯なことをするやつに、負けてたまるかと。
悔しくて悔しくて、ひとりでいっぱい泣いた。
そういう時間に、私を支えてくれたのは、本だった。
親、そしてほんのごく一部の理解者を除いて、当時私の周りは敵ばかりだった。
教師も敵だった。
味方のふりをした、理想的な正義を振りかざした敵。
その悪夢のような現実から私を救ってくれたのは、物語の力だった。
色んな世界で、色んな経験ができ、色んな感情を経験した。
悲しいことや悔しいことがあっても、頑張る人達がいた。

「負けてたまるか」

私は休まずに学校へ行くこと、極力相手の攻撃にダメージを受けないふりでいること、無事に卒業すること、そのために努力しようと思った。
文章を書くことをはじめた。
私の世界を作りたいと思った。
何度も唇をかんでこらえた。
心を支えてくれる人が、後輩に数人、クラスメイトにも数人。
表立って助けてくれはしないけど、それでもいたんだ。
それも大きかった。
人と話す時間に飢えてもいたから。
それでもやっぱり、しんどかった。
私にダメージの大きいやり方も、相手は心得ていた。
卒業まで、明確な終わりはなかった。
卒業式、静かな達成感があった。
卒業アルバムには、怖い顔で卒業証書を受け取る私がいる。

高校に入学したら、いじめは一切なくなった。
「合わなかった」
それだけだったんだと思う。
今なら、そう思う。
友達が出来た、恋人が出来た。
時々、トラウマが顔を出した。
人と楽しい時間を過ごした後に、ひとりでワンワン泣いた。
溶け込めないと感じたからだ。
大勢の人とワイワイ何かをすることに耐性がなく、無理して過ごし「浮いている」とひとりで思った。
少しずつ、人の中にいることになれた。
誰かとケンカすることが、とても苦手だった。
明日から声をかけても振り向いてもらえないのじゃないか、と怖くて仕方なかった。
「嫌われる生き物」なんだという思い込みが顔を出す。
それでも、合わない人と過ごして時間を無駄に過ごすのはごめんだという、冷淡な一面もあった。
自分にとって「価値がない」と思う人との関係はばっさりと切っていった。
もちろん、社会人になってからは必要な付き合いはしている。
胸のうちを明かす人はごく一部だけれど、それで私は幸福なのだ。
結婚をした。
遠出をした帰りに、少しずつ泣きながらいじめの話をした。
「大丈夫」と言ってくれる存在が、とても有難い。

私はもちろん今でも同じく本が好きだ。
本はいつでも私に物語の力を痛感させてくれる。
リアルさに驚いたり、その芯の強さに驚いたり。
やさしい気持ちにしてもらったり。
そして文章を書く、ということがこんなに自分と向き合う作業だということは、書いてみなければわからなかったと思う。
読むこと、そして書くことは私を成長させてくれた。
私は、もうひとりで泣くばかりの女の子ではないのだ。
下手くそな詩を書いていた私を思い出す。
もう少しの間、このノートをこっそりと残しておこう。
私の小さな闘いの、相棒として。

勝負の日

January 13 [Fri], 2012, 10:42


今日は、勝負の日だ。



髪型は少しだけ、サイドのみつあみとかしてみて。
仕事中は目立たない程度に、ピンで横に留める。
これを仕事終わってから、全体をアップにするとかわいくなるはず。
というか、私の技術ではその辺が限界。
器用な子が羨ましい。
制服がある会社なので、私服は多少はりきっても大丈夫なのが有難い。
制服なんて面倒だとずっと思っていたけど、今日だけは制服のある会社だったことに感謝する。
約束は余裕を持って午後19:30。
特に大きな仕事もないから、余裕で18時には終わるはず。
ふぅ、と息を吐く。
何だか気が張って、時々息を吐かないと緊張ばかり募ってもたない。
まだ午前中だというのに、今日は時間がなかなかたたないような、でも時間が近づくにつれて焦る。
ドタキャンされたりしたらどうしよう。
そんな人じゃない、と思うのにもう思考がマイナス方向へ行って仕方がない。
「今日なんかため息おおくないですか?」
隣の後輩ちゃんに指摘され、笑ってごまかす。
いい返しなんか浮かぶはずもなく、そんなことないよーと言うのが精一杯。
やっとお昼になって「ご飯行きましょう」と誘ってくれる後輩ちゃんと一緒にパスタを食べる。
そういえば夜もイタリアンじゃなかったっけ、と思ったのは半分以上食べてからだった。
緊張しすぎだから、自分。
今日は何度心中冷や汗をかけばよいものやら。
会社に戻って、午後からの仕事スタート。
流石に5分ごとに時計を見ているのは挙動不審だろうな、でも我慢できない。
あー、今日は仕事なくてよかった。
これで仕事があったら能率低すぎて遅刻するかもしれない。
いや、もしかしたら仕事に集中して時間があっという間だったかも。
今さらそんなこと考えてみても、どうしようもないんだけど。
やっと3時、もう早退したい、そして家に帰って布団かぶっていたい。
そんでもってそのまま寝て朝になればいい。
いや、約束すっぽかしてんじゃん。
何のためにこんな緊張しているんだよ。
頑張れ、自分。
うだうだ過ごさないために決心したんでしょ。
「ふぅー」と大きく息をつく。
隣の後輩ちゃんがコピーに立っていたおかげで突っ込まれずに済んだ。
斜め向かいの席の人がちらっとこっちを向いたのは気付かないフリでスルーだ。
だから、今日の私は余裕がないんだってば!
そんな思考を何度も繰り返して、やっと5時。
今日は予定通り定時で上がれたけど、落ち着かないので30分くらい机の上とか給湯室の整理をしてロッカールームに引き上げた。
着替えをして、化粧を直して。
鏡を見て、髪をアップにして、息を吐く。
告白とか、学生のとき以来なんですけど。
今さら小娘のようにドキドキしたって、誰も可愛がってなんかくれないんだから。
きもがられることはあるかもしれないけど、と自分で思ってへこむ。

18時、会社を出て待ち合わせ場所の近くで時間をつぶすことにした。
雑貨屋さんを見て、服を見て、本屋に行く。
どこでも何も買う予定はないのだけど。
うろうろと挙動不審だったかもしれないけど、何とか19時。
そろそろ早めについたってメールしても大丈夫だろうか。
待たせるのはイヤだし。
けどあまり待った感も出したくないし。
ドキドキしすぎて気持ち悪くなってきた。
近くのベンチに座り、バッグの中に入っていた小さなペットボトルのお茶を飲み、携帯を開いたところに「早いね」と声をかけられた。
顔を上げると、待ち合わせをした彼が目の前に。
なんで、ここ待ち合わせ場所じゃないんですけど。
「早く来たから、本屋に寄ろうと思ったんだけど、いたから声かけちゃった」
そうだった、この人本好きだって聞いていたのに。
不意打ちくらって、逃げ出したい。
ただでさえ逃げ出したかったのに。
ああもう、情けない。

「あの場の勢いだったとはいえ、律儀に誘ってくれなくても良かったのに」
彼はそんなことを言う。
仲間うちで集まる中に、友達の友達の友達で参加するようになったのが彼だ。
この間みんなで飲んだときに、3連休何も予定ない人が私と彼だけだと判明した。
というのも、お互い仕事がシフト制でカレンダーの連休はあまり関係ないからだけど。
「そこ2人で遊べば良いじゃん」ということになり、私はバカ正直に飲み会の次の日メールしたのだ。
『もしよければ、本当に遊びませんか?日曜の夜でもいかがでしょう』
『いいね!オレ映画みたい』
そう返事をもらい、浮かれて次の日服と靴を買って何度かメールのやり取りをして今日に至る。
まず彼が美味しいからとパスタ屋さんに連れて行ってくれ、人の少ない遅い時間で映画を見て、お酒を飲んだ。
映画館のイスってあんなに隣近かったっけ。
気遣い上手の彼のおかげで楽しく、映画鑑賞中以外のほとんどの時間を笑って過ごせたけど。
そろそろ言わなきゃ、と思うと手に汗をかき始めた。

「あの、ね」
ん?とこちらを見る彼はお酒のせいか少し距離が近い。
「今日、一緒に遊んでくれてありがとう。すごく楽しかった。・・・・・・あの、今日聞いて欲しいことがあって。
 突然何だって思うかもしれないけど、私あなたのこと前から気になってて、好きな、のね・・・・・・」
お酒に伸ばしかけた手を、テーブルの上に置いてこちらを見る彼。
「うん」
うんって何だー、告白されても自然体か、コラ。
「だから、良ければまたこうやって会えないかな?・・・・・・私のこと知って欲しいんだ」
付き合ってと言えるほど、近い距離だとは思えなかった。
でも何も言わなければ、またみんなの中のひとりになっちゃうと思った、から。
言うだけでも言おうと、決めてきたんだ。
少しずつでも、距離を縮めたい。
ダメならダメで、みんなの中のひとりとして仲良くなれたら嬉しい。

「・・・・・・ありがとう。だけどごめん、好きな子がいるんだ」

ああ、やっぱりいい人だった。
私の勝負の日は、こうして終わった。


October 22 [Sat], 2011, 7:57
日差しのあたるところで、ころんと横になった。
気持ち良さそうだったからだ。
眠気はすぐに訪れる。
たまにはいいよね、こんな時間の過ごし方も。
もうお昼になるけれど、今はご飯より眠い。
クッションに顔をうずめる。
気持ちよくて頬が緩んだ。
私の胸元で、何かが動いた気がした。
うっすらと目を開けると、猫が丸まっていた。
手を伸ばして撫でると、気持ち良さそうにのどをならした。
いいなぁ、猫ってなんでこんなに気持ち良さそうなんだろう。
名前を呼ぼうにも、眠くて口を開くのが億劫だ。
私の手も、眠気でどんどん動かなくなる。
私の手に顔をのせるようにして、猫も眠る。
気持ちいいね。
幸せだね。

きっと同じような顔をして、眠っているのだろう、と寝ぼけた頭で思う。
起きたら掃除と、洗い物・・・・・・あ、ご飯食べてない。
ひとまず忘れて眠ろう。
こんなに気持ちがいいのだから。
起きてから、後のことは考えよう。
何とでもなるのだから。
ニャーと、鳴き声を聞いた気がしたが夢だったか現実だったか。
2012年09月
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