梅咲けば(三十) 風間→千鶴

July 21 [Sun], 2013, 21:26
風間現代転生話。
ノーマルED前提。
土方さん視点。


《設定》
風間 男女共学高校三年生。生徒会長。
千鶴 他校の女子高一年生。
新選組の面々 近藤道場に通う。



−−−梅咲けば(三十)

通い慣れた道場の、感じ慣れた熱気の中に、土方は佇んでいた。
その目は試合が進む道場を抜け、陽光溢れる庭に向けられている。

練習試合をするから良ければ来てくれと、旧知の道場主から連絡があったのは少し前。
それならばと少し遅れつつも顔を出したここに、不思議な男がいた。


鋭い眼をした男だった。
武道に長けたこの道場にいる誰よりも鋭い目で、土方を見ていた。
探るような、確かめるような視線で。


見たことがあるのか、ないのか。
記憶力は悪いほうではない自分が断言できないことは珍しい。

ただこうして男の双眸と相対したことがあったような、そんな気がした。


土方は昔から、そういう感覚に陥ることがあった。

それは不意のことで、ひどく曖昧な感覚だ。
近藤と酒を酌み交わすとき。
道場に通う弟分たちを叱り飛ばすとき。

何か途方もない、例えるなら青空の中に放り出されたような心もとなさと安心感を覚えることがあった。
知っているようで知らない、まるで己ではないものが何かを語りかけてくるような。


男のほうはどう感じたのかわからない。
何も言わず庭へと降りて行った。
その後すぐを、連れらしい雪村千鶴が結んだ髪をぴょこぴょこ揺らしながら追っていった。

「雪村が来るのは珍しいな……」

「平助くんが誘ったら、オーケーしたらしいよ」

もっとも、妙なおまけ付きだけど。

ぽつりとこぼした土方のつぶやきに、すぐ横の壁にもたれる総司が反応した。
試合を待つ彼は、まだ防具も着けていない。

つまらなさそうに言う総司は、庭の床几に腰を据えた男と千鶴を見ている。
庭の二人は何事かを話し合い、試合を見守っているようだった。

友人という関係にも見えないが、恋人同士でもなさそうな距離。
しかし流れる空気は親密だ。

不思議な二人連れだった。

しかし見れば見るほど土方は喉から言葉が出そうになる。
何かを言いたくなるけれど、それが何かがわからない。


「あの男、何て名だ」


焦燥を言葉に変えて、土方は総司に問うた。
知った名が返ってくるような気がしていた。

総司は少し考えるように首を傾げる。


「ええと、風間……って言ったかな」


「かざま」



「知ってるの? 土方さん」

「……いや、」

知らねぇな。

呟いてから、土方は記憶の糸を手繰る。
先の途切れたそれからは何も見つけられない。
知らない。
知らないはずだ。

それでも影のように張り付く違和感が無視できない。


「左之さんには、絡むなって言われたんだけどなぁ」


愉しげにそう言ったかと思うと、総司が凭れていた壁から背を離した。
試合場とそれを取り巻く門下生たちを迂回して、壁沿いに歩き出す。

総司が何をするつもりかを悟った土方の口から、思わず重い溜め息が出た。

総司が唯一素直に言うことをきく道場主は、上座に座して試合を見守っている。
ここは気づいてしまった自分が行くしかないのだろう。


総司の後を追って庭に下りると、背中から拍手が起こった。
試合がまたひとつ決したようだ。

「ねえ、そうやって見てるだけじゃ暇でしょ」

ちょうど、総司が床几に座った男にそう持ちかけるところだった。
土方からは見えないが、総司の頬には面白いことを見つけた子供のような笑みが浮かんでいるはず。
うんざりするほど見てきたそれは、土方には容易く想像できた。

「今日は飛び込みも歓迎の日なんだ」

男と並んで床几に腰かけている千鶴の目が大きくなって、総司と男の間を行ったり来たりしている。
土方は吐き慣れた溜め息を吐いた。

「総司」

「ねえ、やろうよ」

土方の諌め声を無視して、総司が嗤った。

総司は昔から、土方の言うことは聞かない。
わかっていた反応に眉間の皺は深くなる。

本格的に総司を止める前に、土方は男のほうはどんな反応かとそちらを見た。
不愉快そうにしていたなら、仮にも客人相手なのだ、道場主に変わって頭のひとつでも下げなければならないだろう。

「……」

予想外に、男の、風間の顔には不快げな表情は浮かんでいなかった。
ただ黙って視線だけを総司に向けている。

「あ、あの、沖田さん」

「千鶴ちゃんは黙ってて。ただの試合のお誘いなんだから」

間に入ろうとした千鶴を両断して、総司は風間を見下ろした。

「勝つ自信がありそうな顔、してるし」

その総司の言葉に、ふん、と気のない様子で道場に道場に戻りかけた風間の視線が、土方の顔で止まる。

まただ。
吟味するような風間の視線に、土方はまっすぐ向き合った。

この、胸の内をざらついたやすりで擦りあげられるような感覚は何なのか。

剣道試合のときの純粋な静謐とはまた違う。
まるで。


まるで、斬り合いのような。


「総司」


俺にやらせろ。


そう言ってしまったのは何故か。

わからないままに、土方は見慣れないはずの男の双眸と対峙した。


【終】

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ながしん
い、いよいよですね……!!!(ごくり)
July 29 [Mon], 2013, 1:31
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