99 君在りて、至福。 

March 24 [Thu], 2005, 23:01
夕飯の時間を大幅に過ぎた10時過ぎ。
この時間帯じゃ空いている店もそう多くはなく、適当に目に入ったファミレスに入ることにした。
2人、と告げると、笑顔が結構好みな店員さんは禁煙席へ案内してくれる。
時間が時間だからか俺ら以外に客はあんまいないんだけど、一応気を使ってくれてるらしく、さらにポイント高い、かも。
そんな些細な事で気をよくする俺と、向かい側にゆったりと脚を組みながら座る相手。
メニューを広げ、腹が減っていた所為かさっさと注文の品を決めてしまうと料理が運ばれて来るまで、とりとめのない話をしていた。


「ごちそーさま」
「あー食った食った」
食事も終え、明日も早いしそろそろ出ようかという時間になった頃。
「あ、俺トイレ行ってくるわ」
「ン、いってらっしゃいー」
ひらひらと振られる手に見送られながら、席を後にする。
その時、相手の唇に笑みが刻まれていたことなんか、背を向けていた俺は気づくことはなかった。


「…あれ?」
トイレから出てきた俺が目にしたのは、席に案内してくれた店員さんと何やら愉しげに話す姿。
何か頼むように顔の前で手を合わせると、おまけとばかりに片目を瞑ってみせる。

……珍しい。
俺とコイツと、好みが被ることは滅多にないはずなんだけど。

そんなことを考えつつも、まぁいっか、と思い直している内に、彼女はバックに消えていった。
それを見届けると席に戻り、伝票を手に取りレジに向かいかける。
「じゃあ出るか」
「あ、ちょい待って。座って座って」
俺を制し再び座るよう促し、お願いしまーす!と声をあげる。
微笑ましげな笑みを浮かべた、先ほどの店員さんによって運ばれてきたのは数本のロウソクが立てられた、ケーキ。

90 据え膳食わぬは何とやら。 

February 17 [Thu], 2005, 12:03
「ハイどうぞ」
「…ン、ありがと」

リビングで、部屋の主よりも先に寛いだ様子を見せる彼の元へと向かい、カップを手渡す。
部屋の中央に位置する大きなソファは彼のお気に入りの場所で、定位置でもある。
2人腰掛けても十分なゆとりのあるそこに、少しばかりの間隔を空けながら俺は腰掛けた。

「……美味しー」
両手で挟むような状態で持ちながら一口啜るとほんわりと広がる甘さに、少しばかりきつめの目を細め零す。
「よかった。ココア、俺が好きだから」
猫舌らしく何度も息を吹きかけながらゆっくりと飲んでいく姿に微笑ましさを覚え、表情を和らげた。


「……あ」
何ともまったりとした空気が漂っていた中、急に何か思い出したのか小さく声を上げる。
手にしていたカップをサイドテーブルに置くと、身体ごと向き直された。
「何?どうし…」
どうしたの、と続けようとした言葉は軽く押し当てられた唇に遮られる。

「………え?」
実際に触れたのは一瞬のことながら完全に不意打ちのキスに動揺隠し切れず、間が抜けた声を発してしまう。
そんな俺とは対照的に彼は、笑みを唇に乗せて。
「ちょい、遅いけど。バレンタインデーキッス〜♪」
そして実に愉しげに懐かしい歌を口ずさみながら、呆然とした状態の肩を、ポンと押した。
咄嗟のことに反応することも出来ず、情けなくもそのまま後ろに倒れ込んでしまう。

「ちょ…っ…!?」
反転する世界。
焦ったように軽く目を見開き見上げれば、いつのまにか自分を跨ぐように上に乗っかっている相手。
「ココアも、チョコの内。お前の気持ちはしっかりと受け取りました。って事で…」
にっこりと、何とも綺麗に笑ってみせる。
「据え膳食わぬは何とやら、ってね」
ワザとらしく軽く小首を傾げさせながら、そんな言葉を返される。

…食われるのは、俺の方?

ご丁寧にも添えられた、完璧なウィンクにくらりと何処か眩暈を覚えながらも、結局は小さく笑ってしまい。
いまだ緩く笑みを浮かべたまま此方を覗き込んでくる相手をさらに引き寄せるべく、背に腕を回した。

* 唇、1つ分の。 

December 03 [Fri], 2004, 18:10
「あ。ちょっとコッチ、おいで」

次の衣装に着替え、再び現場に戻ろうとした所。
すれ違いざまに急に呼び止められ、脚を止めた。
「……ン?」
「ネクタイ、曲がってる」
示される、胸元の黒のネクタイに視線を落とすと、確かに。
たとえ後に動き回って崩れたとしても、最初位はきちんとしておくべきだろうと。
短く礼を述べ、俯き加減にネクタイとの格闘に取り掛かる。

鏡がない所為か、どこか覚束ない手つき、に。
彼の動きに合わせ、ぴょこぴょこと跳ねる髪、に。

知れず、微笑ましげに目を細める。
誘われるように。ごく自然な、流れるような動作で。
少しばかり下に位置するその頭上に、口付けを落とした。

「何?」
下を向いていた彼には、ただ何かが触れた、ということしか分からない。
「丁度いい所にあった、から」
「……は?ごめん。訳、分かんね」
何処かかみ合わない会話に首を傾げるも、向けられるのは緩い笑みで。
「ううん。何でもないよ」
「………ならいい、けど」
何処か納得がいかないが、本人にそう云い切られてしまえば、これ以上追求する訳にもいかない。
……だって相手がコイツ、だし。

* 不覚の遅刻 

November 14 [Sun], 2004, 19:00
「……あれ?」

しんと静まり返った控え室に、ドアを開けた彼は軽く眼を丸めた。
いつもなら、それなりに…いや、むしろかなり、騒々しいはずなのに。
荷物を鏡の前の台に置き、視線を彷徨わせる。
と。部屋の真ん中に、どん、と位置しているソファに身を預け。
何とも気持ちよさそうに眠りこける、ある姿が目に入った。
撮影まではまだ、時間がある。
並ぶ椅子の1つを手に、ソファの前に腰掛けた。

「起、き、ろー」
軽く肩を揺らしても、目覚めのあまりよくない人物は、一向に目覚める気配は見せない。
規則正しく繰り返される呼吸に合わせ、ふわふわの髪が小さく揺れる。
「………」
さて、どうするか。
薄めの唇をつい、と笑みの形に歪め。
彼はおもむろに、何も知らずに眠る相手の鼻を抓んだ。
待つこと、数十秒。

「――…ッ!?」
さすがにコレには寝続けることは出来ずに。
息苦しさにようやく目を開ければ、そこにあるのは。
「オハヨ」
悪びれた様子もなく、けらけら愉しげに笑う彼の姿で。

少しばかり、ムカつきもしたのだけれど。
それよりも。

「―――、たい」
キス、したい。

間近に位置する顔に、急に。
そんな衝動に、駆られて。
すっと手を伸ばし相手の腕を掴むと、自分の方へと引き寄せる。
完全に不意をつかれ、大した抵抗もなく腕の中に納まる、彼。

「……何?」
笑みを消し、じっと怪訝そうに見つめる。

やっぱこの顔、好きかも。

彼の眼の中に、自分の姿が映っているのを確認すれば、満足げに緩く笑い。
微か触れるだけの、掠め取るようなキスを。
後はあっさりと開放してやる。

何も云わず、互いに見詰め合うのは一瞬だけのこと。

「……あ。もう時間、だわ。行ってくる」
「おう。行ってらっしゃい」

まるで何事もなかったかのように、言葉を交わし。
ひらと手を振ると、彼は部屋を後にする。

残るのは、自分だけ。
「あっさり流されてる、し」
何処かつまらなさそうに、残念そうに。ぽつり、零して。
「………寝よ」
眼に掛かる程度に長くなってきた髪を軽く掻きあげ、再びソファに寝転んだ。


また、部屋の外では。
「……何なんだよ、一体」
口を手で覆い。
「寝ぼけてて、すんな」
吐き捨てるように零すも、微かながら染まった目許はいまだ引かない。

どうやら、撮影には少しばかり遅刻する羽目になりそうだった。

10 ささやかな不完全変態 

October 02 [Sat], 2004, 22:02
どうも、はじめまして。
数日前にこの場所にやってきました、炊飯器です。
と云っても…まだ、お目に掛かってはいない状態なのですが。
どうやらココのご主人さんは、色々と変則的に仕事か何かがある、らしくて。
朝遅く出て、早く帰ってきたり。またその逆だったり。
箱に入ったままでもその位のことは、分かるんですよ。
でも…そろそろ、お役に立ちたい頃なんですけどね。
使われてこそのボクたち、ですから。
そんな事を思っていたら、何やらガサゴソと音が聞こえてきました。
あ、明かり。やっとご主人さんとのご対面、ですね。

…ふむ。思ったよりも若い、それも男性ですか。
まぁ最近では男性も厨房に立つ時代ですからね…いいことです。
くっきりとした印所的な目を軽く細め、ヨロシク、と小さく笑うとボクは台所に。
大先輩・電子レンジさんの上に置かれました。
さあ、さっそく。活動開始です。

ボクに水やら米やらをセットすると、そのままご主人さんが夕飯の準備に取り掛かります。
……慣れてますね、この人。
手際がよく、普段からちょくちょくと何かと作っているんでしょう、きっと。
その割には、ボクのような物が今までなかったのはちょっと不思議な気もしますけど…まぁそれは人それぞれですかね。

そうこうしている内に、食事の用意ができました。
今日の献立は焼き魚にお味噌汁、それに煮付け、ですか。
あぁ忘れてはいけません。ボクが炊き上げた、仄かに湯気のあがるふっくらとしたご飯も。

きちんと手を合わせ、イタダキマスと口にすると食事に取り掛かったのですが、ふと。
顔を上げた瞬間、ぴたと箸が止まってしまいました。
そして何処か困ったような、戸惑ったような表情を浮かべます。
その視線の先には向かい側に位置する、今は誰も座っていない椅子、が。
どう…したんでしょうか。

* 愛の仕組み 

August 29 [Sun], 2004, 0:46
ある日、突然。
それなりに親しくしている知人…というか、よくつるんでいる友人の1人から。
恋愛相談をされてしまったら、アナタならどうしますか?

いや別に相談される事自体は普通なんだけどさ。
まだ若いし、そういう年頃なんで。
その対象が同性って云うのも…まぁ。百歩譲っていいとしよう。
好みって人それぞれだし。
なら、何が問題なのかと云うと…。

「どうしよ…俺、アイツのコト好きじゃないのかも知んね…」
「……ハイ?」

普段から本人のみならず、他の連中にまで鬱陶しがられる程に、好きだと連発して。
何かにつけて抱きついたりしているコイツが、その相手を好きじゃないとか。
云いますか、普通?
あー…何か、頭痛くなってきた。

「それ、笑えない冗談なんだけど…?」
本当に。
時折口にする駄洒落で、全員を凍らせたことのある俺が云うのもどうかと思うけど。
それ以上に笑えない、から。

「……俺は真剣だっての…」
呆れを大いに含んだ、少しばかり低くなった俺の声に反応してか。
さらにしゅんと項垂れる、目の前の男。
椅子の上に体育座りになって、身を丸めてもあんまり可愛くないからさ。
お前がやっても。

「…で。一体また何でそんなバカ考えに至った訳?」
ヒデェだの、バカじゃないだの、恨みがましく文句を垂れるのだけれど。
明らかに作った笑みを、無言で浮かべてやったら、ピタと大人しくなった。
そしておずおずと、切り出す。
「だって、さー…好きなヤツってやっぱ大事に大切にしたいって思うじゃん?
泣かせたくない、とか」
「まぁ…普通はそうだろうね。でも、それが何か?」

* 幸せのカタチ 

August 20 [Fri], 2004, 22:24
「なーなーなー。これ、あげる」

雑誌の撮影で訪れた、キャンプ場。
当然といえば当然の如く、メンバーはそれぞれ好き放題。
急遽決まった班長とやらの言葉も、『好き勝手やれ』、だし。
バーベキューの準備に取り掛かってる感心なヤツらの傍らで、どこから取り出したのか。
涼しげな顔をして椅子に座り込んでるヤツが。中には釣りをしてるヤツも…ってこれは俺、か。
ま、この統一のなさ、ってのも俺らのウリの1つ、なんだろうけど。

つか俺は、みんなの為に魚を釣ってやろうって思ってんの、コレでも。
……の割には全然釣れてないんだけど、さ。

流石にちょっとへこんできて、そろそろ止めるか、と思った頃。
先程の言葉と共に、ひょい、と。突然、何かが目の前に差し出される。
焦点が合わず、緑の物体、としかまだ分からない。

「何、お前さっきまで『焼きそば作るー!』とか張り切ってなかったっけ?」
「作ってたんだけどさ。コンロの足元でコレ、見つけたからあげようと思って」
コレ、と今度は少し離れた距離で翳されるモノ。

「……四つ葉のクローバー?」
「そ。珍しくね?都会じゃあんま見かけないっしょ?」
にこにこと満面の笑みを浮かべる相手。

あー……何か、大型犬、っての?
褒めて、とばかりに。
尻尾でもあったら勢いよく振ってそうな。うん、そんな感じ。

「…ありが、と?」
「どういたしましてー。つか、何で微妙に疑問系なんだよ」
微妙にヤンキー座りの俺の目線に合わせるべく、隣に。
片手を後ろに付いて腰掛けながら、ふざけて唇を尖らせる相手に、俺は軽く肩を竦ませる。
「や、何で俺に?って感じで」
俺がいるココ、に来るまで他のメンバーの前を通っただろうし。
つか、すぐ隣で料理を手伝ってたヤツもいた訳だしさ。

09 放物線の翼(彼side) 

August 17 [Tue], 2004, 11:36
いい感じに程よく焼けている、褐色の肌。
最近短く切られた、少し固めの黒髪。小さい頭。
今は、自分の顎を支えるために使われている、すらっとした腕。
本人は苦手だと云うけれど。やっぱり猫めいた印象を与える、少しキツめの眼。
それがさっきから、じっと。
観察でもしているかのように、俺へと向けられている。

下を向いてるからって、気付いてないとでも思ってんの?
んな訳ない、じゃん。

「……あの。何かさっきから、視線が痛いんですけど…?」
「ン。だって見てる、し」
……即答、ですか。
「あー…うん。いや、そうじゃなくて、ね…?」

もしかしなくても、これは。構って欲しい、とか?
確かに俺はさっきからずっと、コレに取り掛かっていた訳だし。

「何か退屈、だよな…やっぱ。ごめん、後にするわ」
ホント、何のお構いもしてなかったんだよね。今更、って感じもするけど。
取り合えず、まずは飲み物か何かでも。
そう、思って立ち上がり掛けた俺だったんだけど。

「や、別に?いいよ続けなよ。だってさ、仕事中のお前とプライベートのお前、どっちも見れるのってさ…」
俺だけの特権、だし。

本人に云ったら、普通に否定されるだろうけれど。
そんな、無防備な笑みを浮かべて云われちゃったら。

「……、ッ…」
一瞬、全ての動きを止めてしまったのも仕方ないって。
だって何か、もう。何なの、この子。
そこでそんなコト云いますか、普通?
これが素、で。何の計算もされてないのが、すごい。
というか、寧ろ。反則。

プライベートの俺で、いっぱい構ったげるから。
もう少し、だけ。待っててくださいな。

また、視線を感じながら。
さっきよりも断然、作業がペースアップしたのも、もう、云うまでもないでしょ。

09 放物線の翼(カレside) 

August 16 [Mon], 2004, 11:19
色素薄め、の白い肌。癖のない茶髪。
伏せられてる今は余計に目立つ、長めの睫。
かといって別に、女性的であるとかではなく。
ゴツ過ぎでも華奢でもない、綺麗に筋肉の乗った腕。
何かと触ってくる、指先。

―――あ、止まった。
上がる顔。視線が合わさる。

「……あの。何かさっきから、視線が痛いんですけど…?」
「ン。だって見てる、し」

テーブルを間に挟んで、向かい合う形で座っている俺と、アイツ。
相手はまた自作の曲でも作っているのか、さっきから書いたり消したりを繰り返し。
何やら色々と忙しそうで。
そんな姿を、テーブルに片肘を置いて頬杖をつきながら。
何をするでもなく、ぼんやりと。眺めているのが、俺。

「あー…うん。いや、そうじゃなくて、ね…?」
何処か少し困ったような、緩い苦笑交じりの声で、一度ペンを置き。
その手をテーブルの上で軽く合わせ、じっとコッチを見つめる。

「何か退屈、だよな…やっぱ。ごめん、後にするわ」
そう云っては、何か持って来ようとでもいうのか立ち上がりかける相手を、軽く首を振る事で制する。
「や、別に?いいよ続けなよ。だってさ、仕事中のお前とプライベートのお前、どっちも見れるのってさ…」
俺だけの特権、だし。

前々から思ってたことなんだけどさ。
敢えて冗談っぽく、笑みを含んだ軽めの口調で告げれば。

「……、ッ…」
一瞬の絶句の後、あー、だの、うー、だの。
中腰の状態で、はっきりとは聞こえない、呻くような声を発する相手。
視線を暫らく泳がせた末に、座り直して。
テーブルの上に置いたペンを取り、作業再開。

だから俺も、若干疑問を残しながらも、今度は直接ペタン、と顎をテーブルに乗せて。
低い視線からの、観察再開。

何か、書くペースが速くなったように見えるのは…気の所為、だよな。きっと。

04 不可視光線に手を伸ばす 

August 04 [Wed], 2004, 11:50
アイツと俺との関係は、どう名付ければいいのか。
時々、考えてしまったりする。

たとえば。
オフの時、1人で買い物してても、ふと。
あ、これアイツに似合うかもとか考えてる自分が、いたり。
ピンの仕事を終え、戻ったら携帯に、労いの言葉と。
顔文字交じりのメールが入っていたり。

些細なことなんだけど、そんな時、やっぱり。
最初に戻るのだけれど、何なんだろ、とか。

友達、と呼ぶには少し違って、まして、恋人なんか冗談にすらならず。
いや寧ろそれよりも、もっと、もっと。
深く、それでいて脆く。絶妙な、バランス。


メール本文をもう一度見つめ、笑みを小さく零す。
電波が少し不安定だから、公衆電話から。
いつの間にか指が覚えてしまっている番号をダイアルし、待つこと数コール。

「ハイ。お疲れちゃん」

何で?

相手の携帯には『非通知』と表示されているはず。だって、公衆からだし。
確立から云えば、確かに、俺からってのも有り得なくはないけど。
まだ声も発してないわけだしさ。

「……あれ、何かあった?」
思わず黙り込んでしまった俺に、不安げに掛けられる声。
「…や。何でも、ない」
すぐに込み上げて来る笑いを押さえ、やっと告げた言葉は、多分。
受話器の向こうの相手に、緩く、首を傾けさせたことだろう。

でも。
「云わないけど、ね」
驚いたと同時に、同じくらい。いや、もしかしたらそれ以上に。
嬉しかったのかも、なんて、云ってやんない、から。

「ま、理屈じゃないんだろね」
1つだけ云えることは、いままでも、これからも。きっと、絶対。
俺の隣はアイツで、アイツの隣は俺で。
同じ方向は、見てなくていいから。
ただ、隣に。居て、くれれば。それで。

1人で納得してしまった俺とは対照的に、え?え??とますます混乱している様子の相手に。
今からそっち行ってもいい?と確認とは名ばかりの、一方的な言葉を告げる。
返事が返る前に通話を終了、アイツの家へと出発。

何か、顔が見たくなった。