移動と邂逅

February 20 [Mon], 2012, 8:24
私は、わりと小さい頃から遠距離通学をしていたためか、列車や飛行機などで、猛スピードで移動しながらものを考えることが好きです。
そして、なぜか、乗り物で人と出会う運も強いようです。

これまで、何度か飛行機でも、たまたま隣の席だったとか空港で話しかけられたとかで、とても素敵な出会いを経験したのですが、その中でも印象的だった方の一人が、イスタンブール出張からベルリンへ戻る飛行機で隣の席に座っていたシュミッツ先生。
シュミッツ先生はイエナ大の宗教学及び神学の先生ですが、宗教学と哲学、芸術の接点にも大変興味をもっていらっしゃり、学際的なテーマに挑戦した本も精力的に出版されている先生です。

あの日も、先生から飛行機の中で話しかけられ、お喋りしているうちに、興味をもっている分野が大変近いことが分かり、すぐに意気投合し、メールのやりとりをするようになりました。
そして先日、私の勤務先の美術館に先生が遊びに来てくださり、中央アジアの壁画や東アジア部門の展示などを見ながら、芸術の生成過程、芸術と宗教と知覚の関係、絵画性のロジック、文学及びコンテクストの暴力性などについて6時間連続でディスカッションして、素晴らしく楽しい時間を過ごさせて頂きました。

シュミッツ先生が出されている本の中でも私が特に興味を持ったのが、
Wirklicher als Wirklichkeit? (真実よりも真実らしいものとは?)
(http://www.amazon.de/Wirklicher-Wirklichkeiten-Konstituierung-Wirklichkeit-Religion/dp/3170217194)
という、シュミッツ先生と、芸術家ケーテンさんの対話により進んでゆく本。
現代芸術生成のプロセスと、各宗教における天地創造の記述が比較されていたりして、インスピレーションに富んだ一冊です。

飛行機での出会いの後、さっそくこの本を取り寄せて読み、大変面白かったというお話をしたところ、シュミッツ先生がぜひケーテンさんとも会うと良いとのことで、ご連絡を取ってくださり、
今日はケーテンさんのベルリンのご自宅のアトリエをお尋ねしてきました。
彼女もとても素敵なお人柄で、芸術家であり同時に哲学者でもある方。
彼女の美しいアトリエで、本物の作品を目の前に、自由に作品について対話したり、芸術と宗教一般などについてお話をするという、とても贅沢な日曜の午後になりました。

そしてたぶん、今度、彼女たちが出版する論集に何かエッセイを書かせていただくことになりそうです。

読んだ本の著者にすぐ会えてしまう気さくさはドイツらしい…と言えるのか分かりませんが、
シュミッツ先生は、今は天国にいらっしゃる私の某恩師をとても想起させる方で、それはそれで運命めいたものを感じます。
雲の上での、素敵な出会いに感謝です。

ミュンヘンでの追憶と、おじいちゃんの研究について

February 19 [Sun], 2012, 17:45
最近ブログの更新が停滞気味なのは、一月末くらいから公私ともに怒涛の展開があって、なかなかまとまった文章を書くに至れなかったからでした。
怒涛の勢いで押し寄せてくるものは、全て信じられないくらい喜ばしいもので、そのうちブログに書きたいことも沢山あるものですが、今日は今週後半のミュンヘン滞在について、備忘録的に書き残しておきます。

今週前半には、慶應の同級生のさちがベルリンに遊びに来て、そのまま一緒に、3日間ほどミュンヘンへ行ってきました。

ミュンヘン時代。
それは、私がいったん、赤ちゃんとして、ドイツのインド学研究という世界に生まれかわった揺籃期です。
日本ではなかなか、同じ興味を共有できる仲間に出会えなかった私にとって、ミュンヘンは、自分の存在や生き方が「あたりまえ」のものとして認められる初めての場所でした。
ミュンヘン大のインド学チベット学研究所で旧友たちに再会し、あの日々のようにいつもの道を通ってメンザにいって、いつものようなよくわからないものを食べて、いつものカフェによってお茶して帰って、いつも通り愛に溢れる司書さんにいつも通り挨拶して、いつもお世話になってた先生に会って、偶然地下鉄の駅でも知り合いに会い……。
言葉もまともに出来なかったけど、まわりの人の無償の愛情に囲まれて赤ちゃんのように過ごしたあの日々を、追憶しました。

朝起きて地下鉄に乗って、歳月を経た埃っぽい匂いのする石造りの階段を4階まで昇って、研究室の鍵の錆び付いた扉を抉じ上げる、そしていつもの仲間がそこにいる、
その一瞬一瞬を、深く愛していたし、
それらの一瞬が遠い思い出になっても、一生愛し続けるであろうことを同時に自覚していて、
そしてこれから未来にいろいろ素晴らしいことが起きるんだろうという予感はあったけど、
あの一瞬一瞬それ自体が、完全に満ち足りた至福でした。

当時の仲間が次々と卒業して、一番近しいお姉さんのような存在だった人も、博論が終わって来週にはベルリンに引っ越すので、あの日の直接の連続線上にある日々を追体験出来るもの、今回が最後のタイミングでした。
時間ってつくづく相対的なものだと思います、現実には友達もみんな精神的にも肉体的にも変化してるし、ステータスも変わってるし、追憶している私自身もいろいろ変化しているけれど、私の中であの愛しい日々は永遠。

***********

そして、これはまたもっと長く遠い時空を超えてしまうお話。

このブログでも何度も書いていますが、
私は中央アジアの仏教壁画を研究していて、その研究の礎を築いた人はアルベルト・グリュンヴェーデルという人です。
実はそのお孫さんがミュンヘン郊外にご在住で、ベルリンの美術館に勤めることになったことにより、お知り合いになることができて、
12月には、現在の特別展覧会にお孫さんから貴重な個人資料を沢山お借りしている関係で、お孫さん夫妻がベルリンの当時の我が家にいらして、同じ屋根の下で寝るという大変貴重な体験をさせて頂いたのですが、
今回はなんとご自宅に遊びに行かせて頂きました

ミュンヘンからSbahnで30分程度の駅で下車したところで、ルディ(お孫さん)が車で迎えに来てくれました。
前日に電話で、「おさかな好き?」と聞かれていたので、そのまま車で地元の魚市場へ。
その地元っぷりが半端なくて、さらに車で25分くらい走った湿地帯の傍にある、小さな魚屋さんで、大きなお魚を買っていたところ、
たまたまルディのご近所さんの老夫婦と遭遇。
外国人などひとりもいない地域なので、私みたいなのがいると明らかに物珍しいのですが、ルディがすかさず
「彼女は、日本から来ている学生で、僕のおじいちゃんの研究をしてるんだ」と紹介してくれたところ、
老夫婦のおじいちゃんが、「ええ、いいなあ、僕ももうおじいちゃんなんだけど誰か研究してくれないかなあ……」と羨ましがっていました(笑)

そして、魚市場から、また車でご自宅へ。
広くて素敵なおうちに入ると、まず目に入ったのが、居間にさりげなくおいてあるユーゲントスティルの美しいピアノ。
なんと、グリュンヴェーデルがベルリンの美術館勤務時代に、娘のために購入したものなのだそうです。
「1904年ベルリン製造」の銘入り。

いまは誰も使っていないということで、長いこと調律されておらず、音もめちゃめちゃになっていましたが、それでも即興で和音のメロディーを弾かせてもらったところ、「すごい!まだきれいな音が鳴る!」と喜んでくれて、まだ1歳の彼らの孫のために調律しようかなとのことです。

その横にある美しいユーゲントスティルの本棚も、グリュンヴェーデルの私物。
本棚の中にさりげなく積んである古い子供用の絵本――ドイツのメルヘン、千夜一夜物語、ミュンヘンの地元のおはなしなど――もグリュンヴェーデルから受け継がれているもので、ルディもそれを読んで育ったそうです。

天才グリュンヴェーデルは、自分の子供のために手作りの絵本を作っていて、そのうち何冊かは今美術館に展示されているのですが、一冊がまだ本棚の中に残っていました。
とってもとっても意地悪な犬……が、グリュンヴェーデル家にいたらどうなるだろうという、空想のお話。
お話も可愛らしくアイデアに富んでいるだけでなく、絵も繊細で美しく、人物描写の輪郭線の一本一本が愛情をこめて描かれているのを感じました。
幼いグリュンヴェーデル自身が絵本の中に登場していたり、意地悪な犬が自身の家系樹を空想するシーンがあったりするあたり、ただの子供向けの絵本を越えた、天才的な想像力が垣間見られます。
文字が綺麗なので、私でも読めるのですが、多くの言葉は、子供への読み聞かせ用にバイエルン方言で書かれているのと、またバイエルンの土着文化特有の語彙が登場しているので、それらを全てルディに解説してもらいながら、一冊読み遂げることが出来ました。
果たしてグリュンヴェーデルは、自分の子供用に描いた絵本を、1世紀後に日本から来た学生が、自身の孫の横で朗読するなんて状況、想像できたでしょうか。

それから、とっても美味しい手作りバイエルン料理を御馳走になり、午後は近くの教会や修道院、川などをお散歩。
バイエルンの田舎町で、子孫が至福に満ちた暮らしをしているということ自体、グリュンヴェーデルに心酔、敬愛する私にとっても、とてつもなく嬉しいことです。

グリュンヴェーデルが学んだミュンヘン大のインド学研究所で、グリュンヴェーデル系統の学者の直系の弟子の弟子を先生として、グリュンヴェーデルが館長を務めた美術館で勤務して、彼が礎を築いた研究に生涯を捧げている私にとっては、ルディと出会ったこと自体、運命的に思えるし、またかつてグリュンヴェーデルが触れた調律の狂ったピアノで、なにか美しいものを奏でることが出来たのは、とても象徴的な出来ごとのように感じられました。



おうちの近くの近くのバイエルン・バロック様式の教会にて、ルディの奥さまと。
わたしもバイエルンの田舎に住みたい!!!

壁画系女子会

January 27 [Fri], 2012, 8:23
今日は美術館で、12月にオープンした某展覧会の、学芸員さんたちによる公式な展覧会のガイドツアーがありました。
うっかりその場に居合わせたために、私も自分が携わった壁画に関して突然喋ることになり、若干焦りましたが^^;

その後は壁画修復関係や、梵語写本関係のお友達を我が家にお招きして女子会
修復家ならではの視点でのお話などを聴くことが出来て、とっても楽しかったです


うちの美術館の可愛すぎる修復家&化学者&写本研究者。
こんな可愛い女の子たちと一緒に仕事できて幸せです。笑
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