A.ヘミングウェイ『移動祝祭日』読書感想

March 29 [Thu], 2018, 12:06
先日のフランス語の授業で「牡蠣を食べた・・・」という話から
真っ先に頭に浮かんだのがこの本。
短い話(ヘミングウェイがパリに住んでいた頃の思い出、1920年代)をいくつかまとめたもの。
散文調で、どこからでも読める。
年老いた彼の記憶は、きっと(もちろん)美化だってされていて、
どこまでが本当かもわからない。
エッセイとは言い切れない、やはり『小説』なのだろう。
かといって、ふんわりした話ばかりでもない。

『サンミッシェル広場の良いカフェ』は一番最初の、6.7頁の文章。
無駄のない、印象深い話。これといった事件も起こらないけれど、
若い小説家の日常とその日の彼の心の動きが鮮明に描かれていて
初めて読んだ時から心をつかまれた文章だった。

牡蠣を一ダースと白ワインを注文。
その日は震えるような秋の雨の午後。
カフェに入ってきた女の肌はコインの表面のようにすべらかだ。

彼は仕事を終え
家に帰って妻に「旅に出よう」と話しかける。

自分の才能だけを頼りに、異国の街で
暮らす若い夫婦。

このなんの混じり気もない気持ちが
ヘミングウェイの心の原風景なんだろう。




読書 感想 『藤田嗣二 「異邦人」の生涯』

February 26 [Mon], 2018, 11:04
2002年に刊行された本が文庫化されたもの。
『手紙の森へ』がカラーの図版が多い、
きれいな読みやすい本だったし、
藤田の描く絵手紙が今の時代から見ても、
おしゃれで、ユーモアがあって・・・
明治生まれの人、ということを忘れてしまうほどだった。
この本の内容と重なる部分がもちろんたくさんあって、
読み始めは気楽だったのに、藤田と「日本」との関係が
戦争を挟んでこじれにこじれていく様子が読んでいて辛い。
「日本人」の嫌な面を見せつけられているような、
私も同時代に生きていたら、美術雑誌に載せられた
藤田のイメージをそのまま受け取って
嫌いになっていたかもしれないほどに徹底している。
西洋への強烈な憧れと、その裏返しのような
劣等感。それを西洋にさらりと馴染んでいる(ように見えた)
藤田に背負わせ、ぶつけていた。
美術には、いつも評価、がつきまとう。
主流にいて、権威に認められていれば安泰。
でもそれが本物として後世に残るか、人の心を
本当に揺らすか、はまた別のもの。
彼の戦争画に感じた私の感情(戦意を高揚させようとしている?)
に対して、この本の中で「軍部の意図とは違い、
彼には「残酷画」好みのようなものがあった・・・」
という部分にそうか!と思ったし、自分の力試し、
離れていた故国への思い、それは尊敬していた
父や出自へのプライド、にも思えた。
『手紙の森へ』で図版で紹介されている大量の手紙を、
夫人の家を何度も訪ね、丹念に読み込んだ著者の
丁寧な取材が伝わってくる本。

読書 感想 『手紙の森へ』

February 13 [Tue], 2018, 14:49
藤田嗣治の没後50年の今年。
夏には東京で展覧会が開かれる。
きっとまたすごい人出、だろう。

『アッツ島・・・』などの戦争画の迫力。
いつか直に見た記憶。
それは、戦意を高揚させる?と思った。

この本の中の画家は、筆まめ、エネルギッシュな
何でも描けてしまう、手紙すらも絵を添えた芸術品のように
できる人。
ただ、そばに妻(愛する人)がいないと、いてもたってもいられない。
一番強烈だったのは、妻が自分のもとに到着したことを知らせる
電報の文面。
ありがとう!って気持ちが前に押し出ている。
私はこの人の書く筆記体のアルファベットが好き。
インクをつけて書く文字が美しい。
その文章の書き方がとても自分に近いなあと勝手に思い入れたりして。

父親は軍医で立派過ぎたけれど
その存在の大きさへの反発が
彼の精神を強靭にした。
自由に絵を描ける環境と自分らしくいられる自由、と。
日本を離れたかったわけではない・・・

表紙の『カフェ』は本当にどこからどこまで
かっこいい作品だなあ。
美意識、当たり前に日本人の、と
この作品はすみずみまで主張している気がする。



BS プレミアムカフェ ベルギー アントワープ王立芸術院

February 09 [Fri], 2018, 10:09
もともとモードの世界って興味があり、とても遠いのに憧れている。
この番組も引き込まれ最後まで見てしまった。10年以上前の再放送。

若さ、や情熱にスポットが当たっていたのではなく、
あたらしいものを生み出す、作り上げる、そんな人になる覚悟と努力ができる人間かどうか、
自分の中に何か今この世にない、自分だけの作りたいものがあるか、
それを試される四年間なんだな、と気づいた。
だから、若さとか妙な熱とかは全く感じなくて、ただただひたすら寝る間も惜しんで打ち込む、
自分の内部をのぞきこむ作業が続く。
まず、自分の中に表現したいものが本当にあるのか、それを伝える手段が本当にファッションなのか、

若さなんて全然テーマじゃないから、教えている先生や卒業生たちがとてもすがすがしく写った。
ファッションってとても平和なメッセージを伝えているんだなあ。
装い、装えること、個々に違うこと、優しい色、形・・・
見る者の心へすっと入る平和なメッセージ。
受け取るも、受け取らないも自由って感じがいい。
知性を試す、ようないやらしさもない
ただ見て、感じて、って感じが上品だな
見せつけるって感じがあってもそれがその人の主張ならそれもいい
言葉なき、パントマイムのような、静かな自己主張
お金、清潔さ、まじめさ、人は装いで何かを語っているな。
いろんなことを感じさせてくれる良い番組だった。

映画 感想 『日曜日が待ち遠しい』 

January 19 [Fri], 2018, 9:38
DVDにて『Vivement dimanche! 日曜日が待ち遠しい』を再見。
「この映画に最も大切なのは、リズムだ」とトリュフォーが語っていた、と
主演のファニー・アルダンはインタビューの中で答えていた。
途中少し間延びしているような部分があって、
何度も見ながら寝てしまった経験が。
今回初めて最後まで通して見ることができた。
トリュフォー映画を初めて見る人には、薦めない・・・かな。
モノクロで、サスペンスで、コメディータッチな、を狙った。
大好きなJ.L.トランティニャンには
ケーリー・グラントのような軽妙さはない。
今回見ていて一番いいなと思ったのは、
それぞれの役の俳優の顔、表情が濃いこと。
エデン座の女。売春宿のオーナー。弁護士。刑事etc・・・
全員の顔が見終わった後もしっかりと
記憶に残る。
トリュフォーの人間観察の鋭さ、か。
「写真家のようだった」と言ったF.アルダンの言葉通り、だ。
きっと彼は見直すこともなく「撮り直したいな」と思っているのかも。

読書 感想『ノボさん 上下巻 伊集院静 著』

January 15 [Mon], 2018, 6:40
最初、文体に慣れるのに時間がかかった。
ドラマのシナリオを読んでいるような印象で
週刊誌の連載をまとめたもの、と知り納得。

TVドラマで正岡子規を演じた俳優さんの演技の
インパクトがいまだ残っていて読みながら、
気が付くと彼の顔が浮かんでいる状態。
私の持っていた、正岡子規についての浅い知識の中の、
写実主義、漱石との友情、東大卒…からの
取っ付きにくい文人というイメージとは真逆で、
熱い、エネルギー満載、身内からの期待、母からの強烈な愛 、
思い立ったら即行動、という「愛されキャラ」。

複雑な幼少時代を過ごしたという漱石とは対照的。

壮絶な死の間際の様子、そして有名な3つの辞世の句、その意味。
何度も読み返してみると、子規の無念に混じる自虐や
ユーモアの表現にさえも感じられ…
「きっと最後まで少年のままでいられた人、
自分がどれほど愛されていたかを自覚していた人」
との思いが何故か心の中に押し寄せてきた。
私には計り知れないような、天才的な資質を持ちながらも、
病を得て若くして死んでゆく自分を客観視できている。
「愛し愛された人」
愛とは熱であり、最後まで人を内側から支えるもの。

 読書 感想『ロバート・キャパ写真集 岩波文庫2017.12刊』

January 13 [Sat], 2018, 23:29
岩波文庫が変わってきている。老舗の出版社が写真集を文庫で、という発想は、新しい試みかな。時代の変化…。
最初に、このミニサイズで写真を見ることに抵抗感。
文庫本は開きづらい。写真が2ページに渡って分かれてしまっていたり。
ただ写真の方に圧倒的な力があって、それが時系列で並べられていて、このサイズだからこそ何度も繰り返し見たくなる、そして見入る、ような時間がある。

4,5年前だろうか。横浜美術館での『タロー、キャパ写真展』に行ったことを思い出した。
その時は、残念ながら、この文庫にもある『トゥールジャルダンからの花火』の写真はなかった記憶がある。
着飾った人々が、革命記念日の夜に笑いさざめきながらレストランの大きな窓越しに見る打ち上げ花火の華やかな光。
ルノワールの絵のような、額縁の中の輝きが人生の一瞬のきらめきのよう。はかなくせつない…大好きな写真。
たとえ彼が、戦争写真家、という肩書きを持っていたとしても、恋人の横顔や、
シャンパングラスをかたむける人々の一夜の熱狂にシャッターをきる時、その写真から溢れるのは、彼の温かい人間味である。

読書 感想 『夢十夜(近藤ようこ・漫画)』

January 11 [Thu], 2018, 17:56
夏目漱石の『夢十夜』がさらりと、あっという間に漫画で読める。
文庫本で読んだときイメージが今ひとつ浮かばなかったシーンが「さあ、これですよ。」と差し出されたような感覚。
漫画によってイメージが固定されたことで、難解さが消えたのか、むしろ謎が深まったのか…得をしたのか損したか、まだよく分からない。
無表情にも見えるそれぞれの話の中の主人公たちだが、抱えている闇は相当深い…とみた。だから、こんな込み入ったストーリーの夢を見るのでは、と滅多に夢を見ない私は少し同情する。
文字で読んだ時に気に入ったのは、第七夜と第十夜。
どちらも、ここではないどこか、を夢見て居場所を求めたけれど現実味のない、地に足の付かない居心地の悪い場所だと気付いても後戻りも出来ない。
無邪気さや若さとは、一瞬先は死という狂気のような危うさをはらんでいる。
目覚めた時、「夢でよかった、私はここでいい…」と思えるのが、実は「良い夢」なのかもしれない。

映画感想『眼下の敵』

January 11 [Thu], 2018, 11:48
1/9 NHKBS13時から。
1957、ディック・パウエル監督
ロバート・ミッチャム、クルト・ユンゲルス出演
米VS独の潜水艦Uボートの対決。
見えない敵同士、なのにいつしか友情のような感情が芽生えていく。
戦争映画なのに暗くない。
ロバート・ミッチャムは良きリーダーを演じている。俳優出身という監督の第一作とか。
隠れた名作。伯父に勧められて見た。
初見は高校生くらいの時だろうか。

選択する

December 06 [Wed], 2017, 10:27
情報溢れる毎日
選択すること、そこに払う苦労を厭わないこと
簡単に手に入れられるもの
流行とは、つまりどうでもいいもの
そんなものに、自分の中の大事なものをどんどん削られて、終いには丸裸にされてしまう
自分を守る大切な皮膚のような、感覚を失わないように
昨日途中の駅から乗ってきた車椅子の人への態度、優しさって、それは当たり前の自然な振る舞いに周りの人や空気を変える力がある

当たり前、もちろん出来ないときだってある
私だって、他の人だって
でも出来る人を1人でも、出来る空間を一つでも増やさなくちゃ
ウッディ・アレンが映画『マンハッタン』の中で作っていた生きがいのリストのように、人ひとりが、大事なものなんてそんなにたくさんないんだよ
そんなにたくさん持とうとしなくていいんだな、と

持てるわけない
欲張りすぎは良くない
これも、また彼の言っていたことかな

『これが人間か』を読んで過ごそうと思った
この年末年始は…
その時間に合う音楽は何かな、考えよう

細美さん、茂木さん、内田樹さん、チキさん…
亡くなってしまった、河合隼雄さん、佐々木正美さん、など。
尊敬できる人の言葉を読みながら進もう

世俗にまみれることなく、人生は進んでゆかない

それを踏まえて、昨日の時間を振り返れば、上出来。年の差なんて、全然関係ない
結婚と人付き合いは、修行
漱石が言う『スミレのごとき』人の姿を心に浮かべて生きればきっと大丈夫
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