表明

July 17 [Fri], 2015, 22:20
かれこれ六年前にもなる。
身辺のバタバタやらゴタゴタから演劇引退を表明(ってもそんな大々的なもんでは無いけど)した時に、貰ったメールがある。

『お別れではなく、演劇に呼ばれたらまた会いましょう』

との内容。
素敵な言葉だと思っている。
あの時も今も変わらずにそう思っている。


今回は、久しぶりに演劇に呼ばれた、って話。



さてさて話しは四年前から。

そんなこんなありまして、演劇とおさらばしたあとの自分は、学校に通ったり資格をとったり就職したり結婚したり親になったりと忙しく過ごした。

そして晴れて病院勤務が始まる。
今日も変わらずにケースワーカーとデイケアスタッフの二刀流として、文字通り東奔西走をしている。

そんな私が病院側から最初に任された仕事は『患者さんのために演劇プログラムをやって欲しい』との内容だった。
当時は『入職の時に演劇やってた話も出したし、仕方ないか』程度の気持ちで引き受けた。

ちなみに『プログラム』とは病院内の施設が通院患者に提供する日中の活動・レクリエーション・リハビリテーションの事である。
ここ国試に出るから覚えとこうね。

さてさて。
依頼を承服したアタイ。
どちらかと言うと演劇に未練タラタラな奴に思われたくないから、後ろ向きな気持ちで取り組んでいたと思う。
『精神障害の人達に演劇が理解出来る筈がない』的なディスった気持ちもあった。
そもそも、心の根っこにそんな差別心のあるアタイがよく資格なんて取れたもんだとも思うが、、、

まぁ当時は『演劇に呼ばれている』なんて少しも感じなかった。何となくムカつく先輩職員たちに舐められない程度に後ろ向きにやっていた。


ちなみにアタイの前にも演劇プログラムをやっていた職員がいたのだが、結果としては惨敗をしていた。

・参加者がついてこない
・何を提供すれば良いか、やる事が明確にならない
・演劇が精神状況を不安定にする(かもしれない)

などなど、様々な理由が列挙されていた。

ふむふむ、然りとては前任者はどの様な仕掛けで演劇を行っていたのか?


朗読『水戸黄門』


シュールである。極めてシュール。


確かに利用者の年齢の高い病院だ。
だが『水戸イエローゲート』を朗読するとどんな効果が得られるのだろうか?
そもそも、朗読用の『水戸アスホール』ってどこで仕入れるのか?
『水戸com'on!』を読んで精神状況悪くする患者って、、、と疑問は尽きない。

アタイはそんなプログラムの後継者であった。

当然やり方を一新した。
イエローゲート的な朗読はせず、現代表現のみを扱う事にした。
アタイが現役の頃にやっていたテキストに近い、役者用の台本を作って参加者にはさながら演劇のワークショップに出ているようなレベルの表現を要求した。
老眼の人が多いので、文字はなるべく大きくしたw
そのため刷るテキストの量が多くて事務からも怒られた。
初期の効果測定として

・精神に負荷をかけ過ぎている
・思考レベルから離れている
・知能レベルのアンダーな参加者を置き去りにしている
・単純に難し過ぎる
・楽しむ、というプログラムの理念から乖離している

と、結構言われた。方々に色々言われた。ボコボコに言われた。
でも、正直なところあんま関係なかった。
だって演劇って超複雑で、難解な作業だから。

おまえらに演劇の何がわかんだよ?って。

『ひと月が経ちふた月が経ち、後ろ向きにやっていたアタイのプログラムに光が射す。
そこで気付いたね。アタイには他にはない才能がある!
これは、凄い価値があるんじゃね?誰もがそう思い始めた。
みんながみるみる元気になる!
投薬療法よりも効果が見られる!!
そして直ぐに日本精神科協会からの奨励を受ける、特別プログラムとして認められるのだった!!!』

…的なハズは全くなく。
演劇に呼ばれてる感覚もまるでなく。
協会からも認められることもなく。

地道にコツコツと地味にダラダラと、省エネながらも三年間もプログラムは続いている。

いつの頃からかアタイは、参加してくれるオバちゃん達を『女優さん』と呼ぶようになった。
小公演を病院でやってみよう、と企画して挫折したりもした。
『実は私はローズさんの味方です』って輩も現れて、、、消えた。結局大局に負けて消された。

手塩にかけて育んだ女優さんや俳優さんたちと死に別れたりもした。


この活動は三年間続いている。

この三年間、プログラム外では一言も話しをした事のない女優さんもいる。
しかし、その方のセリフは誰よりも雄弁に響き、届く。
Low IQの俳優さんは、誰よりも早くセリフを記憶出来る。彼はウチの主演俳優だ。

いつからか、アタイがみんなの相手役を演る事も少なくなった。
今はもう、俳優さん女優さん達が自分達でアタイのプログラムを回している。

アタイはずっと後ろ向きのままさ。
でも、あの人達がアタイの視界に回り込んで来てくれたんだと思う。

患者さん、病める方、精神障害者。
彼等をくくる言葉は沢山あるけど、アタイは敬意を込めて『俳優さん・女優さん』と呼んでいる。

クソ先輩からは相変わらず
『ローズさんのやってくれた、芝居?恋愛の話あったでしょ?アレのお陰で◯◯さん調子崩したんだけどw』
と嫌味は絶えない。

彼女は体調を崩したんじゃない。演劇を通して、昔の恋人を思い出し、少しノスタルジックになっているんだ。
彼女は、人間らしい感情を持って懐かしんでるだけなんだ。
分かれよクソ馬鹿。

口には出さない。
演劇を知らない奴とは語らない。

ああ、そうか。
アタイはやっぱり演劇人なんだな、と思う。
あの頃のみんなとは遠く離れた所に居るけど、アタイは何も変わっていない。

しかし効果測定も変わらないのである。
このプログラムは意味があるの?と命題は消える事はない。

演劇は目に見えないところで変化を及ぼすから。
心を扱う精神科が、心を見ようとしていないから。
アタイの愛するみんなの変化は気付いて貰えない。
P R
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