キリングスラッシュ(1)

March 03 [Sat], 2012, 23:34
天薙古刀那あまなぎことなは、今日もいじめられていた。
昼休憩の教室には妙な空気が張り詰める。
それぞれが机を移動させ、食事を摂りながら友人達との談話を楽しむ憩いの時間だが、天薙古刀那の机の周りだけその空気が違うのだ。
天薙さんは今日もパンかぁ。
牛乳飲むでしょ教室の中央にぽつんと陣取られた一つの机。
その主はスーパーの袋の中から菓子パンを取り出し小さくちぎって口の中へと入れているのだが、その手にしたパンの上にパックの牛乳が逆さにされ吹き付けられた。
彼女の手が、彼女の手に握られたパンが、彼女の机が牛乳まみれになる。
その様子を見て、取り囲んでいた四人の女子達が下品な笑い声をあげた。
ぎゃははは。
ごっめーん。
牛乳にはやっぱパンかなぁと思ってさケバい格好の一人の女子が、牛乳パックを放り捨てる。
天薙古刀那は微動だにしない。
只前を見据え、暴風雨のような状況をやり過ごす事に専念していた。
ぼさぼさのボブカット。
分厚い黒縁メガネに野暮ったい白ソックス。
学校の規則に従順なんだか、オシャレに興味がないのか、とにかく天薙古刀那がこの教室で映える容姿ではない。
更に言えば、地味で卑屈で、自分の意見がない子のようにも見える。
男子である僕がそう感じるのだから、情報に目ざとい女子はもっと早く気取ったのだろうし、それ故に誰も天薙古刀那との交流を持とうとしないし、妙な奴らに目を付けられている訳だ。
目の前で行われているいじめと呼ぶべき行為に対し、僕達は空気となって無関心であり、無関係を決め込み、天薙古刀那もまた無関心で無視する事でこの患難をやり過ごそうとしていた。
当然反応がなければ、彼女等も面白みが無い訳であり。
舌打ち混じりにスーパーの袋をひったくり、ゴミ箱の中へ残りのパンを放り込んで教室から去っていく。
暴風雨の退場に一同溜息を漏らし、再び談話を再開する。
彼女一人を残して、僕達は台風一過を楽しんでいたのだ。
天薙古刀那の真実を知る、その時までは。
僕こと、島田鉄鶏しまだてっけいと、天薙古刀那との関係性は果てしなく皆無と言っても良い。
この高校に入学し、同じクラスになり自己紹介を済ませ、その名前を知った程度の関係であり、未だ会話どころか彼女がどんな子なのかすら知らない始末だ。
彼女の方も自ら友人を作ろうという性質ではないので、未だ孤独の中に生きている。
助け手がいないままにいじめの標的なっているのは、酷と思うが、正直巻き込まれるのはごめんだと思う奴の集まりなのだろう。
僕もその一員な訳だが。
彼女は談笑の渦の中、一人で黙々と汚れた机を雑巾で掃除している。
時折、可哀想という視線を送る者はいるのだが、誰も手を貸すとまではいかず、まるで昼休憩の時間に行われる寸劇を鑑賞しているような、そんな違和感さえあった。
天薙ってさ、一人で黙々と本読んでる割に、勉強出来ないらしいぜ自らの机を拭く天薙古刀那を見遣りながら、友人の一人が小声で語る。
あれだろ。
体育も動きが鈍くてなんにも出来ないから、いつも隅に立ってるんだとま、なら、安西達に目ぇつけられても仕方ねぇよどんな理由かよく分からないが、友人達は仕方ないよなと小声で連呼する。
僕は正直どちらでもよかったので、曖昧な笑みを浮かべていた。
この学校に入学し暫く経つが、特段得られたものがあるとは思えず、只悶々とした日々を送っているのも、また事実な訳であり。
だがだからといってクラスから孤立するのは相応しくないと、僕はこうして曖昧な友人関係を構築している。
安全策とも呼べる処置だが、その手を講じていなければ、今頃僕もなっていたのだろうか。
牛乳の滴る雑巾を持って教室を出ていく天薙古刀那の背を見遣りながら、僕は僅かな優越感と、ほんの些細な興味から席を立ち、彼女の後を追いかける事にした。
天薙さん教室を出て雑巾を手に廊下を歩く天薙古刀那の背中へと、声を掛ける。
彼女からの返答はない。
さっきは大変だったねそれらしい同情を口にしながら、僕は隣を歩いた。
ウェディングキューピッド彼女の視線は前を向いたままであり、黙々と歩いていく。
よかったら掃除、手伝おうか必要ないわ淡々とした拒否の言葉が発せられる。
表情は変わらず無表情で。
誰も寄せ付けない、同情を受け止めない孤独な芯の強さが発せられる。
僕は心の中でほくそ笑みながら、彼女に向かって困った表情を向けた。
でもさ、仲間がいるって見せた方が有利になるんじゃないこの一言に天薙古刀那は歩を止める。
僕は慌てて言葉を続ける。
いじめってさ、孤立している奴を排除する事から始まるらしいよ。
だからさ仲間がいるって見せつけたら、あいつ等何もしてこなくなるんじゃないかな残念ながら、これは善意ではない。
僕は然程人がいいキャラを自負している訳でもなく、自分の利益以外で活動する事はまっぴらごめんと考える人物だ。
では何故、天薙古刀那に助言をするのか。
答えは簡単だ。
面白そうだからだ。
今まで孤立して友人と呼べる者すら居らず、いじめの標的にされていた彼女が唐突に守られる立場となったら。
そんなシンデレラストーリーをプランニングして演じれば、多少は退屈な環境もマシになるのかもと考えたのだ。
その演略の為に、この野暮ったい女は必要になる。
そんな心の裏を気取られぬように、僕は偽善者の仮面を被り。
天薙古刀那に協力する、優しい男子生徒を演じた。
あのさ彼女は歩を止め、溜息混じりに語り始める。
ウゼェからそのキャラ演じるの、やめろと。
いつもようなか細い声の口調ではなく。
低く、殺意の篭った口調を前に、僕は怖気を感じ言葉を詰まらせた。
や、あの彼女から発せられた予期せぬ発言を前に、仮面が剥がれかける。
もう、ついてこないでそう述べた彼女は、突き放すように黙々と歩き出した。
そこから彼女を追う事が出来ず。
僕は歯牙を見せ、不敵に笑う事を必死に抑えていた。
天薙古刀那、彼女への興味が一際極まった瞬間だった。
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