オマモリビト

May 17 [Thu], 2012, 12:18


高層ビルが立ち並ぶ都会の中にひっそりと生い茂る森の中に一軒不思議な露店が佇んでいる。


その店にはオマモリと呼ばれる不思議なモノが売っている。そのオマモリには様々な効果があるらしい。その上、そのオマモリビトは「人間」にもなれるそうで。店がある森の中で自由に過ごしているらしい…

そして今日も、オマモリの一人がこの森の中を散策する…



人とオマモリとの出逢いのあるこの森で―――





    オマモリビト




「今日も清々しい朝ですね…」

太陽の光が差し込む木々の中、鮮やかな色合いの、まるで深海の中の様な色彩の衣を纏い、額に不思議な模様と瑠璃色の石を嵌めた長身の男がゆったりと歩いている。

彼の名は蒼飛(そうひ)といい、この生い茂る森の中に一軒だけある露店で売られている「オマモリ」の一つ、厄払いの効果を持つ人ならざる者で。本体は店にある、数珠型のブレスレットである。


蒼飛は長年、オマモリを売る不思議な店に置かれている。だがそれは誰にも買われた事が無いというわけではなく、効果が強い為直ぐに「奉納(かえ)」されるからである。しかも蒼飛のオマモリは普通の人、カタギな人間向きではなく、裏家業等の人間向きなので傲慢な者が多い…効果が現れ、厄が祓われたと思い込んでしまい、皆彼を奉納してしまうのだ。


厄はそう簡単に祓えるモノでは無いと思うんですけどね…


と傲慢で強欲で自分本位な人間達に彼がいくら言っても耳を貸さず、要らないと奉納された蒼飛。そんな扱いを受けた彼は人間をあまり快く思っておらず、自分が守ってきた人間の事を覚えない事にしてそして守る相手に必要以上に踏み込まない様にしているらしい。その理由はどうせ直ぐに奉納されるのなら踏み込む必要は無いだろうという考えからだそうだ。彼の人間に対するささやかな抵抗である。


「…このまま、人間に仕えずずっと此処で暮らす、というのも悪くはないかもしれませんね…」

フフっと自傷的に笑いながら森の中を蒼飛は歩いていると…


ゴゴゴッ


空が急に暗くなり、雲が出始め、雷が鳴り始めた。


「…おやおや、これは一雨来そうですね…」


雨宿りしなくては…と彼は近くに生えている一際大きい木の下に移動し、下から空を見上げると…


ザザザァァァッ…


大粒の雨が一気に降り出した。

「―――今日はツいてない……先程まであんなに晴れていたというのに」


厄払いのマモリである自分が不運に見まわれるとは……と木に寄りかかりながら溜め息を零して、雨が止むのを待っていた。

その時



ハァハァハァ……うわぁっ!


ズベシャッ!!

雨宿りしている彼の目の前で黒い塊が滑ってぬかるんだ地面に滑り込んでは泥を被っていた。

「…………」

何です?今のは…と蒼飛は目の前で滑り込んで来た黒い塊を静かに様子を窺っていると……


「いててて……」

泥を被って汚れた黒い塊はゆっくりと起き上がり、泥で汚れた黒い上着を手で払い、そして、あーまたついてネェ…と呟きながらこちらを向いた。

「…………」

「…………」

黒い塊だったモノは若く、恐らくまだ子供であろう……茶色の短髪の少年だった。


「……っ!!」

少年は私の姿に驚いて一歩、後ろに下がる。どうやら彼は此処に来たのは初めてらしい…… でなけれはあんな化け物を見た様な反応はしないだろうから。

そして逃げ出そうとする事も……


「……お待ちなさい」

蒼飛は慌てて逃げ出そうとする少年に声を掛けた。この雨に濡れている子供を無視する訳にもいかないと思ったからだ。

「……?」

「この雨は直に止みます……此処で雨宿りした方が得策かと思いますが」

木に寄りかかりながら蒼飛は少年に提案した。


「…………」

少年は暫く考えたが、提案に同意したのか、雨と泥で濡れた身体のまま蒼飛がいる大きな木の下に歩み、木に寄りかかる蒼飛の隣にしゃがみ込んで膝を抱え、無言のまま前を見つめていた。

ザザザァァァッと雨の音が二人を包む。全ての音を掻き消す様……


数分後、雨の勢いが弱くなり、普通の水量になった時、静寂を破ったのは蒼飛だった。

「……貴方は此処に来たのは初めて、のようですね」

「…………」

蒼飛の問いに彼は少し顔をあげ、無言で頷いた。相変わらず表情は硬く警戒していたが。

その姿に蒼飛はやれやれと溜め息を零しつつさらに問いを重ねる。

「……さしずめ、貴方の求めるオマモリは『厄払い』ですか?」

「……!!」

彼はその問いに身体を揺らし、気を乱し、驚きで目を見開きながらこちらを見つめた。

何故それを知っているのかと―――


そんな驚かなくても貴方の姿を見れば分かるものですがね……と蒼飛は驚きで固まる少年の肩に軽く指先で触れた。すると触れた所から黒い霧状のナニカが四散していった。

彼に纏わりつく黒い霧の様なモノ…それは彼の特性により集まった負の気、所謂災厄と呼ばれるモノだ。

どうやらこの少年は稀に見る稀有な魂の持ち主のようで、その身に災いや不幸を呼び寄せてしまうらしい。生まれてから今までどれだけの不幸や不運、災厄に見まわれたのであろうか。良く今まで生きてこられたモノだ…と眉間に皺を寄せつつ、彼に纏わりつく「厄」を手で祓いのける。


「貴方は稀有な魂の持ち主…その身に災厄や不幸を呼び集めてしまうようですね……このままでは貴方はその不幸に飲まれて命を落とすでしょう……」


「……!それって……」


「…つまり、このままでは『死ぬ』という事ですよ」


「……っ!!」

少年は蒼飛の言葉に顔を青ざめて口元に手を当てて身体を震わせていた。


「……そんなに俺って危険だったのか…?なら尚更オマモリ必要じゃねぇか…っ!くそっ…何で今日休みなんだよっ!!」

と少年は唇を噛み締め、顔を歪ませ悔しそうに吐き捨てる。

…そういえば今日はオマモリを新しく入荷するとかで休みでしたか……

これも彼が特異体質が故の所為なのかと蒼飛は苦笑しながら地面に握る手を叩き落とす少年に同情する。そして、彼は少年の濡れた頭を優しく撫でた。

「……なんだ?同情してるなら、そんなのいらねぇよ…っ!」

少年は蒼飛の手を払いのけて立ち上がり、怒鳴った。

―――どうやら不興を買ってしまったようである。そんなつもりはなかったのだが…


彼は相当切羽詰まっているらしい……気が立っていて状況も把握できていないらしい。蒼飛は再び溜め息を零して自分を睨みつける少年を見た。


「同情するくらいなら…俺のこの体質をどうにかしてみろよ……!!アンタ、オマモリなんだろ?なんとかしてみせろよ!!」


とまるで毛を総立ちさせた猫の様に少年は激しくまくし立てた。しかも、吊り目にはうっすらと涙も滲んでいるではないか。

……これは、契約せざる終えないですかね…?

このまま彼に自分が何も出来ない、無能だと思われたくないですし…蒼飛は睨みつける少年に仕方がないと、こう言葉を続けた。

「……いいでしょう、私が貴方のその災厄を祓い、守って差し上げましょう」

「―――どーせ無理っ……て、え?」

「ですから、私が貴方のオマモリとなって貴方の全ての災厄から守って差し上げますと申しておるのですよ」

「え、え、いいの…か?てかアンタ、厄払いのオマモリだったのか?」

少年は蒼飛の言葉に驚きつつ、聞き返した。

「はい、私の御利益は厄払い…恐らく、強い効果のあるオマモリです……きっと貴方の御期待にそえるかと思いますが?」

如何ですか?と彼は少年に問うた。

「……」

「貴方が本気で救われたいと願うならば、この蒼飛、全身全霊を賭けて、貴方を御護りしましょう……」

蒼飛は提案に混乱している少年の前で恭しくまるで西洋の執事の様に御辞儀をしながら言葉を続けた。


「どうされますか……?ヒトの子よ」

「……っ」

少年はぐっと押し黙り、暫く俯いていた。


そして、少年の出した答えは……



「……分かった、アンタを俺のオマモリにする…だから、俺を護ってくれるか……?」

と、さっきの顔と打って変わって真摯な顔つきで蒼飛を見ながらそう答えた。彼の中でようやく決心が付いたらしい。黒曜石の様な目に迷いがなく、決意に煌めいていた。


……あぁ、なんて良い目をしているのでしょう…


蒼飛はクスリと小さく笑う。彼の様な目をした人間を見るのは何時振りであろうか…。



彼ならば……私を……


もしかしたら、ずっと傍に置いてくれるかもしれない…。今までの…身勝手な人間達の様に、直ぐ奉納(かえ)すこともないかもしれない……。


なんて、まぁ…それは分かりませんがね…

フッと彼は少年に対する自分の期待感に嘲笑しながらも彼に近づき、彼の前で膝を付き、恭しく頭を垂れて契約の言葉を口にした。


「我、厄を祓いし護り人蒼飛…彼の者を主とし、我が力の全てを持って護る事、此処に誓わん……」


―――パァァァァッ!
                                                         「……とりあえず、今日の所は帰りなさい……また明日、同じ時間に店に来るといい」

いつの間にか晴れた空の下、大木の木漏れ日の光射す中、雨に濡れ、泥で汚れた少年に蒼飛はそう告げた。

「…明日、行けば店開いてるか?」

「えぇ…開いてます。だから必ず明日、店に来なさい……そして売り子に、自分の名と「厄払い」が欲しいと一言告げればいい……そうすれば必ず私を「買う」事が出来ますから」

だから心配せず、安心して帰りなさい…と蒼飛は少年の頭を撫でた。まだ雨に濡れてしまって湿ってる。本当は拭いてあげたかったが生憎と拭くものがなかった為結局このままになってしまった。可哀想だが仕方がない。

「…ん、分かった……必ず行く…」

「……では、また明日…」

蒼飛は濡れた髪を撫でるのを止め、手を放し、そう言ってそのまま踵を返して来た道を戻る様に去ろうとした。

その時

「…待てよ!」

少年は蒼飛を呼び止め、彼に近づいた。そして振り返る蒼飛に右手の小指を差し出してきた。
そう、それは指切りをするときの形であった。


「それは……」

「必ず行くから……その約束…」


“ゆびきりげんまん、嘘ついたらはりせんぼん、のーます”


「……指切り、ですか」


「必ず守るから……アンタも俺を護るって約束―――忘れるなよ」


「……えぇ、約束しましょう」


   “ ゆびきった ”



少年の小指とオマモリの小指が絡みあい、約束が成され、縁が結ばれたのだった。






つづく…?




オマケ


「……あ、彼の名前を聞くのを忘れてしまいました…どうしましょう…売り子に確実に売って貰わなければならないのに…」
契約した少年と別れたあと、蒼飛はあっと思い出して立ち止まった。

「まぁ、姿形を説明すれば売り子でも分かりますよね……」

と彼はそう言って再びゆっくりと歩き出した。





翌日、契約者した少年が店にやってきて言われた通りにしたが買うのに10分は掛かったそうな。





プロフィール
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    ・マンガ-アーミンマンガ、夏目友人帳、flat、阿佐ヶ谷zippy、ナルト、リボーン等好きです
    ・ゲーム-アトラス系、FF、ティルズ系などRPGを主にやってます。今はDSのKHプレイしてます。
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日記以外に創作小説とかも載せる予定です。あと絵とかも・・ 手ブロ始めました。
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