最終話 ─遠くへ、涙の尽きた場所に─ 

2005年12月20日(火) 21時00分


─お母さんから亜也へ─


『亜也へ

 あなたと会えなくなってもう1年が経ちました。
 亜也、歩いていますか。
 ご飯が食べられますか。
 大声で笑ったり、お話ができていますか。
 お母さんがそばにいなくても、
 毎日ちゃんとやっていますか。
 お母さんは、ただただそれだけが心配でなりません。

 「どうして病気は私を選んだの?」

 「何のために生きているの?」

 亜也はそう言ったよね。
 苦しんで苦しんで、
 たくさんの涙を流したあなたの人生が何のためだったか、
 お母さんは今でも考え続けています。
 今でも答えを見つけられずにいます。

 でもね、亜也。
 あなたのおかげで、
 たくさんの人が生きることについて考えてくれたのよ。
 普通に過ごす毎日がうれしくて、
 あったかいものなんだって思ってくれたのよ。
 近くにいる、誰かの優しさに気づいてくれたのよ。
 同じ病気に苦しむ人たちが、
 ひとりじゃないって思ってくれたよ。
 あなたが、いっぱい、いっぱい涙を流したことは、
 そこから生まれた、
 あなたの言葉たちは、
 たくさんの人の心に届いたよ。

 ねえ、亜也。
 そっちではもう泣いたりしていないよね。
 …お母さん、笑顔のあなたに、
 もう一度だけ会いたい…』


最終話 ─遠くへ、涙の尽きた場所に─ 

2005年12月20日(火) 21時00分




「家族みんなで洗濯物を干した。
 空が青くて、きれいだった。
 風は少し冷たかったけど、気持ちよかった。
 冬の匂いがした」
 








「20歳。
 病気になって、もう5年が過ぎた。
 一つ一つ失って、残されたのはわずかなものだけ。
 昔の私を、もう思い出せない…」














「来て良かった。 
 思い出したから。
 15才の私は、ここで確かに生きていた」













「花びらが、一枚一枚開いていく。
 花も一度に、ぱっと咲くわけじゃないんだ。
 昨日がちゃんと今日につながっていることがわかって、嬉しかった」















「おかあさん…。
 もう…歩けない…」





















『お母さん わたし
 何の為に生きているの?』

















「みんなの泣き顔が、涙でぼやけた。
 きっと私は、こんな些細なことで…死ぬのだろう」


















「でも…もし…もしも……
 あたしの体、使ってね。
 病気の原因、見つけてね。
 同じ病気の人の、役に立ちたい」



「先生の役に立ちたい」













「見捨てないよという一言が、どんなに心強いか。
 先生ありがとう。私を見捨てないでくれて」









「ずっとあるからね、亜也姉。
 亜也姉が帰ってくる場所、
 これからも変わらないで、
 ここにずっとあるから」















「胸に手を当てる。
 ドキドキ音がする。
 嬉しいな。
 私は生きている。」
 























「生きるんだ!」














最終話 ─遠くへ、涙の尽きた場所に─ 

2005年12月20日(火) 21時00分


─亜也に届いた手紙─

 死んじゃいたいと思っていました。
 私も亜也さんと同じ病気です。
 先生に治らないといわれたときはいっぱい泣きました。
 うまく歩けなくなって、学校でもジロジロ見られて、
 付き合っていた彼氏も離れていきました。
 何で私がこんな目に合うのって、毎日毎日お母さんに当たっていました。
 でも、亜也さんの文章を読んで
 辛いのは私だけじゃないんだって思いました。
 私は病気になってから、俯いて、
 地面ばかり見ていたことに気付きました。
 亜也さんみたいに強くなりたい。
 これからは、辛くていっぱい泣いても、
 その分ちゃんと前に進みたい。
 亜也さんのお陰でそう思えました。






































─亜也が亜湖たちに書いた手紙─

『ごめんね亜湖。
 最近、昔の服ばっかり着てるよね。
 私がパジャマばっかりだから、
 新しいの欲しいって言えなかったんでしょう?
 亜湖はおしゃれ大好きだったのにごめんね。
 ごめんね弘樹。
 小学校から同じスポーツバッグ使ってるね。
 中学生になったら、やっぱりカッコイイのを持ちたかったでしょう?
 遠慮させちゃってごめんね。
 理加もごめんね。
 私に絵を描いてくれるために、
 絵の具ぎゅっと絞っても
 出なくなっちゃうまで使ってくれて。
 亜湖、ヒロ、理加、いつもありがとう。
 ずっとお母さんをとっちゃって、ごめんね。』






最終話 ─遠くへ、涙の尽きた場所へ─ 

2005年12月20日(火) 21時00分


亜也の日記より



『あせるな
 よくばるな
 あきらめるな
 みんな一歩ずつ
 歩いてるんだから』





『自分だけが苦しいんじゃない。
 わかってもらえない方も、
 わかってあげられない方も、
 両方とも、気の毒なんだ』





『花ならつぼみの私の人生
 この青春の始まりを、
 悔いのないよう、大切にしたい』





『お母さん。
 私の心の中に、
 いつも私を信じてくれているお母さんがいる。
 これからもよろしくお願いします。
 心配ばかりかけちゃって、ごめんね』





『病気は、どうして私を選んだのだろう。
 運命なんていう言葉では、
 かたづけけられないよ』





『タイムマシンを作って過去に戻りたい。
 こんな病気でなかったら、
 恋だって出来るでしょうに。
 誰かにすがりつきたくて、
 たまらないのです』





『もうあの日に帰りたいなんて言いません。
 今の自分を認めて生きていきます』





『心無い視線に、
 傷つくこともあるけれど、
 同じくらいに、
 優しい視線があることもわかった』





『それでも私はここにいたい。
 だってここが、私のいる場所だから』





『いいじゃないか、転んだって。
 また起き上がればいいんだから。
 転んだついでに空を見上げれば、
 青い空が今日も限りなく広がって微笑んでいる』





『人は過去に生きるものにあらず。
 今出来ることをやればいいのです』





『お母さん、わたし結婚出来る?』













第十話 ─ラブレター─ 

2005年12月13日(火) 21時00分




『麻生君へ
 面と向っては素直に言えなそうだから、
 手紙を書きます。
 いつもそばにいてくれて、ありがとう。
 励ましてくれてありがとう。
 自分の夢を見つけて、
 生き生きと輝いている麻生くんを見ると
 私も嬉しくなります。
 色んなことを学んで、
 色んな人と出会って、
 あなたはこれからも、
 ずっとずっと生きていく。
 あなたの未来は、
 無限に広がっている。
 でも、私は違います。
 私に残された未来は、 
 なんとかして生きる、それだけ。
 たったそのことだけ。
 この差はどうしようもありません。
 毎日、自分と戦っています。
 悩んで、苦しんで・・・
 その気持ちを押さえ込むので、精一杯です。』
 正直に言います。
 麻生くんといると、つらいです
 あんなこともしたい、
 こんなこともしたい、
 もしも健康だったら出来るのにと、
 思ってしまうんです。
 麻生くんといると、
 叶わない大きな夢を描いてしまうんです。
 もちろん、麻生君のせいじゃありません。
 でも、羨ましくて、情けなくて、
 どうしても、今の自分が
 みじめになってしまうんです。
 そんなんじゃ、前を向いて生きていけないから、
 いろいろしてくれて、ありがとう。
 こんな私のこと、
 好きって言ってくれて、ありがとう。
 何も返せないで、ごめんなさい。
 もう、会えません。』










「いつかがきたら…
 お花いっぱいに囲まれて、
 眠り続けたい」












「過去を思い出すと、涙が出てきて困る」

















『現実があまりにも残酷で きびしすぎて
 夢さえ与えてくれない
 将来を想像すると また別の涙が流れる』





第十話 ─ラブレター─ 

2005年12月13日(火) 21時00分



「とうとう卒業の時がきた。
 病気になる前に思い描いていたものとは
 違う卒業だった」













『苦しみの向こう 池内亜也
 人はみな苦しいのです
 でもきっと苦しみの後で
 その満足感が与えられる
 スポーツだって
 勉強だって
 試練だって
 人生だって
 みんなみんなそう
 苦しんで苦しみ抜けば
 その向こうには
 虹色の幸せが待っている
 それはきっと宝になるはず
 そう信じよう』

『一歩一歩 池内亜也
 自分という存在が消えそうになったら
 自分の個性を生かせる所を探そう
 これからゆっくりじっくりと
 あせるな
 よくばるな
 あきらめるな
 みんな一歩ずつ
 歩いてるんだから』










「どんな小さなことでもいいから、
 人の役に立ちたいと思っていた。」










「18歳。
 進学や就職。
 みんなそれぞれの道へ進んでいく。
 けれど私は…」









「これで……居場所…なくなっちゃった……かな…」
















「みんなの気持ちは、素直に心に染みる。
 でもねお母さん。
 過ごしやすい場所が欲しいわけじゃないの。
 これから先、どう生きていくか。
 そのことを考えていたの。
 
 今の私は、ただみんなの世話になるばかり。
 足がフラつく。
 言葉が上手く話せない。
 それでも、自分の体だから、
 自分が諦めちゃいけないんだ。
 18歳。
 私にだって、私なりの未来があるはず。」











「自分の足で歩くこと、まだ諦めたくないんです」













「お母さん…」

「どうしたの?」

「眠れなくって…
 目閉じるのが、怖くって…
 家に電話かけたの。
 何度もしたのっ。
 お母さんの声が、聞きたかったから。
 でも…上手く押せなくってぇ」

「…//」

「助けて…お母さん…
 なくなっちゃうよ…
 あたしに出来ること、一つも…
 なくなっちゃうよ…」









「私には、書くことが、ある!」






第九話 ─今を生きる─ 

2005年12月06日(火) 21時00分




「今日、ね、夢、見たんだ」

「夢?」

「うん。
 …いつも見る、夢の中ではね、
 歩いたり、走り回ったり、自由に動けるの。
 初めて麻生君と出会った頃みたいに。
 でもね、今日の夢は、違った。
 私…車椅子に、乗ってた。
 …夢の中でも、私は、 
 身体が、不自由、だった。
 …自分の体のこと、認めてるつもりでも、
 心の底では、認めてなかったのかも。
 …これが、私なのにね」

「…俺の今の気持ち、言っていいか?
 …ずっと先のことなんてわからない。
 けど、今の気持ちなら、00%嘘がないって、
 自信持って言える。
 俺、お前が話すなら、どんなにゆっくりでも、ちゃんと聞く。
 電話で話せないなら、こうやって直接会いに来る。
 俺イルカじゃねぇし、お前もイルカじゃねぇし。
 お前が歩くなら、どんなにゆっくりでも、一緒に歩く。
 今は頼りにならないかもしれないけど、
 いつか、お前の役に立ちたい。
 昔みたいにいかなくても、
 そういう気持ちでつながっているから、
 住む世界が違うとは思わない」

「…」

「俺…
 お前のこと…
 好き…なの?
 …好きなのかも…
 多分」

「…あり、がと」






















『朝の光』
 この学校の玄関前に
 壁が立っている。
 その壁の上に朝の光が白んで見える。
 いつかは 見上げて
 そっとため息をついた壁だ
 この壁は 私自身の障害
 泣こうがわめこうが 消えることはない 
 けれど この陽のあたる瞬間が
 この壁にもあったじゃないか
 だったらわたしにだって
 見つけ出そう
 見つけに行こう











「足を止めて、今を生きよう。
 いつか失ったとしても、諦めた夢は
 誰かにゆだねたっていいじゃないか」


『人は過去に生きるものにあらず
 今できることをやればいいのです』














『マ行、ワ行、パ行、ンが言いにくくなってきた。
 声にならず空気だけが抜けていく。
 だから相手に通じない。
 
 最近、独り言が多くなった。
 以前は嫌だったけど、口の練習になるから
 大いにやろう。
 しゃべることに変わりはない。』



第九話 ─今を生きる─ 

2005年12月06日(火) 21時00分






「春がきた。
 誰もが心を弾ませる季節なのに、
 今の私には、養護学校のコンクリートの壁が
 目の前に立ちふさがっているように見える。
 それでも季節は何も知らないような顔をして
 私の前を通り過ぎていく」






「正直、まだ養護学校の生徒だという実感はないけれど、
 …頑張ろう。
 今日からここが私の居場所なんだから」









「及川明日美さん。
 笑顔が可愛くて素敵な人。
 なのに私は…どうしても彼女の姿に、
 症状が進んだ自分を見てしまう…」











「先生の言うことはわかるけど…怖い。
 車椅子に頼るようになったら、
 もう歩けなくなっちゃうような気がして…」












「どれだけの覚悟があって、
 あの子と関わっているのかと聞いているんだ。 
 今が楽しいからそれでいい。
 そんな自分勝手な考えではすまないんだ」
















「もう…前みたいにはいかないんだね。
 車椅子押してもらうことはあっても、
 もう一緒には歩けないし、
 雨に濡れたくらいで大騒ぎさせちゃうし。
 きっと…そのうち話せなくなって、
 電話も出来なくなっちゃうんだろうね。
 もう…全然違うね。
 東高にいた頃とは…。
 …麻生君とはもう…住む世界が違っちゃったのかも…」














「話すときに大切なのは、
 伝えたいというこちら側の気持ちと、
 受け取りたいという相手側の気持ちだ。
 伝えることを諦めちゃいけない。
 聞く気持ちがある人には、必ず伝わるから」










「私、亜也姉の代わりに東高を卒業したい。
 亜也姉の叶わなかった夢だから。
 私なんかが亜也姉のために出来ること、
 今はこれくらいしかないんだけどね。
 出来ることあるのにしないでぼーっとしているなんて、
 そんなの私、絶対イヤだから!」

第八話 ─1リットルの涙─ 

2005年11月29日(火) 21時00分
亜也の最後の挨拶。




「知ってる人もいると思いますけど…
 私の病気は治りません。
 治療法がないみたいです。
 いつか…歩くことも、立つことも、話すことも出来なくなると
 お医者さんに言われました。
 この一年で、当たり前に出来ていたことが、 
 一つ一つ出来なくなっていきました。
 夢の中では友達としゃべりながら歩いたり、
 バスケをしながら思いっきり走ったり出来るのに、
 目が覚めると、もう自由には動かない身体がそこにあるんです。
 毎日が変わってしまいました。
 転ばないためにどう歩いたらいいのか。
 どうすればお弁当を早く食べれるのか。
 どうすれば人の視線を気にしないでいいのか。
 一つ一つ頭の中で考えなきゃ、生きていけません。
 高校に行って、大学に行って、仕事をして、
 そんな風に思い描いていた未来が、
 …ゼロになっちゃいました。
 生きていく道がみつからなくて、
 小さな希望の光も見えなくて、
 病気になったせいで、
 私の人生は壊れてしまったって、
 何度も思いました。
 でも…でも…悲しいけどこれが現実です。
 どんなに泣いても病気からは逃げられないし、
 過去に戻りたくても時間は戻せないし。
 だったら、自分で今の自分を好きになってあげなくっちゃって、そう思いました。
 だって、この身体になってから初めて気付いたことが、沢山あるから。
 そばにいてくれるだけで、家族ってありがたいんだなぁとか、
 さりげなく支えてくれる、友達の手がすごく温かかったりとか、
 健康なことが、それだけですごく幸せなこととか、
 病気になったからって、失うばかりじゃありませんでした。
 この身体の私が…私だって。
 障害っていう、重荷を背負っている私が、
 今の私なんだって。
 胸を張って生きていこうと思いました。
 だから…養護学校に行くことは、自分で決めました。
 みんなとは生きる場所が違うけど、
 これからは自分で選んだ道の中に、一歩一歩、光を見つけたいから…
 …そう笑って言えるようになるまでに、
 私には…少なくても1リットルの涙が必要でした。
 だからもう私は、この学校を離れても
 何かが終わってしまうだなんて絶対に思いません。
 みんな…今まで親切にしてくれて…本当にありがとう…」



第八話 ─1リットルの涙─ 

2005年11月29日(火) 21時00分




 
「なんか言ってよ!
 ペンギンの話とか、魚とか、犬とか、そういうのもうネタ切れ?
 この際、作り話でいいから…
 嘘ついても、もう怒んないから…」

「…なんも出来ない。
 あいつらに偉そうに言って…
 俺だってあいつらと同じだよ。
 お前の病気知ってて、
 お前がツライの、ずっと近くで見てて…
 でも、結局なんも出来なかった。
 頭でっかちで、口先ばっかで!
 …親父の言うとおりだよ。
 ただのガキだよ!」



「…そんなことないよぉ。
 いつも励ましてくれた。
 誰にも言えないような話、聞いてくれた。
 沈んでいる時に、笑わせてくれた。
 …そばにいてくれた。
 私が辛い時は、いつも一緒にいてくれた」





「ありがとう。麻生君」



「バイバイ!」



















「いいじゃないか、転んだって。
 また起き上がればいいんだから。」


 『転んだついでに空を見上げれば
 青い空が 今日も
 限りなく広がってほほえんでいる
 あたしは 生きてるんだ』












『終業式まであと4日。
 みんなが私の為に千羽鶴を折ってくれているようだ。
 一生懸命折ってくれている姿を
 まぶたの裏に焼き付けておこう。
 たとえ別れても、決して忘れないために。
 でも───
 「亜也ちゃん、行かないで」
 と言ってほしかった』




P R
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