エピローグ:二人の未来に幸あれ

April 16 [Mon], 2012, 6:00


日曜日の朝いつものようにジョギングをする石田。町を走りながら見渡す。
「この町が俺の青春ドラマのステージだ。」
新広山駅近くからUターンして家に戻る。
川岸駅鉄道跡地で立ち止まった。
「あいつと一緒にいて色々あったなあ」
夏の思い出がよみがえってくる。後にしようとすると、
「終点2010年、2010年。お出口は左側です。」
「ええ!このアナウンスは!?」
駅のアナウンスが終わった後、武志が高校時代の友達を連れてまた現れた。
「クリアンサ。久しぶり」
「Quando tempo!」
「2010年の田沢君。よろしくお願いします。」
「ええ?!後藤さんに神野さん!?それに矢部君。こりゃあサプライズだな。どうしたんだ。」
「あの後、また中沢さんたちとあってね。時間鉄道の回数券を売ってくれたんだ。それで矢部君たちを連れて行こうと思いついたんだ。」
「よし。それじゃあ今から21世紀の観光だ。ようこそ21世紀へ。今からアパートに向かいます。」
そういうと縄跳びの電車ごっこのマイムをする。
「出発進行」そういうとアパートへ向かう。
武志たちを見て中沢たちが、
「楽しそうですね。この仕事は本当に夢を与える仕事ですね。人生を変えられる。」
「そうだろう過去と未来はつながっているもの。良い未来は心がけひとつで作れるんだ。」
「我々もお客さんと同じで夢を与えられますね。」
「われわれも21世紀観光しようか。インドカレー店に案内してくれ。」
突然後ろから社長の声がした。驚く3人。
「社長。いらしたのですか。」
「皆がどう仕事しているか見たいのと常連のお客さんの様子が知りたくてな。」
「本当は来たかったんじゃないですか?」
「図星ですね。」
「それもあるよ。でもお客様の喜ぶ顔が見たいんだよ。」
武志たちを見ながら談笑する四人。
「何か変わった事はあったか?」
「俺の方は学校行くのがより楽しくなったよ。元気ない様子を周りに見せる事が無くなったからか、皆がより俺に親しく接してくれるようになった。学校生活が充実しているよ。クリアンサは?」
「おれは就職が決まったんだ。お互いにいいことがあったんだな。再会を祝して、うちでパーティーやろうか。」
「やりましょうよ。」

「タイムトラベルは人に良い時間を過ごしてもらうためにあるんだな。」
「これからも田沢君たちが良い未来を迎えられるようになってもらいたいな。」
「はい」
「これからの2人の未来に幸あれ。」

〜完

その後の二人

April 09 [Mon], 2012, 6:00
「高校時代の俺がいなくなってから二ヶ月後バイトと就職活動を続けてやっと内定がもらえた。貯蓄が尽きそうで親に泣き寝入りするところだった。この2年間長い間仕事に就けなかった、不遇だった。粘りに粘って就職してつかんだこのチャンス。絶対モノにしてやる。」
背広を着て電車に乗り込む石田。
「あいつに見られてもはずかしくない自分になるんだ。」

「21世紀の自分と出会いあれから2カ月が過ぎた。いろんな面で自分が変わった。将来の夢を持って勉強ができるようになった。そのせいかそれが成績が良くなる要因になった。自分の人生を、学生生活を楽しめるようになった。勉強はステータスの為に有るんじゃないって教わったけどいい成績を取れたらじぶんの頑張りが認められたようでうれしい。大学には自分がやりたい事、かなえたい事がいっぱいある。未来には感動的、画期的な技術が数多く存在する。そういうものを駆使して社会により良い未来を与えたい。その為に俺は理工学部で電機を専攻したいんだ。未来さんや中沢さんは技術者としての夢を持っている人たちだったな。そこが俺には輝いて見えた。クリアンサ。俺を変えてくれてありがとう。」
武志は今までの自分と代わる事が出来た事を思った。
「修学旅行、文化祭、校内模試で好成績、いろんな学校のイベントが楽しく思えてきた。周りの人もいい意味で俺の見方が変わったように思えた。」
「田沢君!元気。」
「あ!後藤さんに神野さん。それに矢部君。」
「田沢君。模試の成績良かったみたいだね。なにかあったの?」
「まあね。驚かないで聞いてよ。実は21世紀のじぶんにあってきたんだ。」
「は?何それ。」
「この切符を皆にあげるよ。良かったら一緒に21世紀に行かないか?」
「それ遊園地のアトラクション?」
「クリアンサをちょっと驚かせてやるか。」
「誰それ?」
「向こうの時代の友達さ。」
「次の連休田沢君と一緒に遊ぼうか。」
「行きましょう行きましょう。」
「21世紀ってどんな世界なの?」
「ミュージックビデオが見放題だったりいろんな技術があるんだ。それにね・・・。」
久しぶりの21世紀へのタイムスリップあれから石田がどう変わったか武志は楽しみであった。

一方石田は
内定後初のカポエイラ練習に行く。皆に吉報を伝えるのが楽しみだ。
「クリアンサ久しぶり。」
「どうもtakeoさん、mikaさん。」
「就職決まったんだってね。おめでとう。」
「ありがとうございます。またここで練習ができるようになりました。」
「また電機に挑戦するんでしょ?」
「また再挑戦します。」
「次こそうまくいくといいね。健闘を祈るよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「ところでクリアンサの親戚はどうしてるの?」
「あのあと2泊してから家に帰りました。本人は修学旅行をエンジョイしたようです。カポエイラをまた習いたいと言ってました。」
「それは良かった。また来てくれるといいね。」
「受験が終わったら団体探して習いに行こうと思っているようですよ。」
「そうか。また一緒にカポエイラやりたいね。」
「それじゃあ皆練習やるよ。」
カポエイラの練習が始まった。ウォーミングアップやセクエンシア(カポエイラの連続技)の練習を行う。
「あれクリアンサ。ケーダジヒン上手くなったじゃん。」
「ありがとうございます。実は家で練習したんです。」
仕事の方は派遣先が決まり勤務が始まった。
「今の会社ではやりたい仕事ができる。CADで回路図面や基板図面を作るのはSim Cityみたいで面白い。この仕事が俺は好きなんだな。」
仕事も夢中になってやれる自分に幸せを感じるようになった石田。
「武志。元気にしているか?俺は今、仕事にカポエイラに公私ともに夢中になっている。お前と出会えてよかったよ。また会うときはお互いに良い未来を送ろうな。」
「田沢さん。この図面作成お願いします。」
「はい。やっておきます。」

「明日久しぶりの21世紀に向かう。友達3人を連れて。未来に行くのは本当に遊園地のアトラクションのようにわくわくする。高校時代の仲間を見てクリアンサはどんな反応をするのかな。」
武志は再び21世紀に向かうことを楽しみにしていた。

8日目 別れの日

April 02 [Mon], 2012, 6:00


 リングイッサを食べ、ガラナジュースを飲みながらおしゃべりが尽きない。
「俺さ、現代に帰ったらやりたい事がいっぱいできたよ。」
「ほう。どんな事だ?」
「親に頼んで家族旅行とか、ブラジルについて調べたり、いろんな本を読んだり、大學に行ってからもやりたい事が出来たよ。」
「ここにきてから夢中になれるものをいっぱい見つけたんだな。」
「この未来に来てわかった事がある。広い世界に目を向けることで答えが見つかる。今まで俺は受験勉強の事しか考えていなかった。勉強の仕方も視野が狭かった。」
「自分から進んで行動を起こせば良い未来を迎えられるようになる。勉強はその為にしてほしい。」
「いろんな事を教えてくれてありがとうクリアンサ。」
「なんか湿っぽくなっちまったな。昼までまたDVDみて過ごすか。」
昔好きだったアニメを一緒に見ることにした。当時の思い出やこの作品で記憶に残っているシーンの事を話していた。
「時代が経つと失うものはあるけど新しい出会いがある。」
「小さいころ好きだったものと再会する時だってある。時は戻らなくても未来のどこかで過去とつながっているんだ。」
「アニメはその一例だったんだね。あ!この話、運動会で見られなかったやつだ。」
「7,8年越しで見れたってわけか。昔のアニメでまだDVD化されていないようなものもある。これから先見れるんじゃないかな。何かのふしで思い出し、見たくなる。そうやって過去の思い出と再会できるんだ。当時出来なかった事も未来になったら出来るようになるんだ。まあゆっくりと見ていてよ。」
昼御飯の支度をする石田。昨晩から水につけていた黒インゲン豆。圧力なべに入れて煮込む。大量に出てきた灰汁を取り、肉やニンニク、ベーコンをいためたものを入れる。長時間煮込んで豆が柔らかくなったところで火を止める。
「よし出来た。」
炊き立てのご飯をプレートにのせる。そしてその上に煮込んだものをかける。
「フェイジョアーダお待ちどうさま。」
「これがフェイジョアーダかあ。」
「プチ送別会だ。現代に帰ったらブラジル料理店行ってみな。吉祥寺近隣を探したらブラジル料理店あるから。」
ガラナジュースをつけてランチを済ました。
食後は車に乗り、待ち合わせ場所へと向かう。
音楽をかけながら21世紀になってからのエピソードを語る。石田が自分の非力に涙したことや仲間に支えてもらってうれしかった事、社会人になってからの経験談などまだ話していない事を話した。
待ち合わせ場所、鉄道跡に付いた。車を降りると中沢たちが待っていた。
「はじめまして田沢武志さん。昨日電話させていただきました中沢未輝男と申します。」
「未来駆と申します。」
2人の名刺をもらう。そして
「ホストみたいな名前ですねえ。」
「良くそう言われます。でも本名なんです。」
「失礼いたしました。」
「田沢君。楽しんでもらえて何よりです。この一週間お疲れさまでした。さあ、電車に乗ろうか。」
「おっと、その前に荷物点検をさせていただきます。」
「税関があるんだな。タイムトラベルって。」
「そうです。過去の世界全体を変えないように取り締まっております。未来のモノを持ち込み損害を加える事がないよう点検させていただきます。ご理解のほどよろしくお願いします。」
「・・・・それじゃあこのCDは渡せないんだな。」
「でもいいよクリアンサ。楽しみは後で取っておくからさ。」
「この手紙とジュースなら渡してもいいですか?」
「それならいいでしょう。」
「武志。電車の中でこの手紙を読んでくれ。」
「田沢さんお見送り良いですよ。中へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
駅のフォームに入る。過去と未来のお金を両替できる。
「海外旅行に行くみたいだなタイムトラベルって」
「2010年の旅の記念にお土産はどうですか。」
「ああ。あなたは?インドカレー店のウェイトレス・・・の方ですよね。なぜここに。」
「申し遅れました。時間鉄道購買部兼車掌の在原加奈子と申します。田沢さんのことを調べたく、インドカレー店でバイトをしていました。」
「それじゃああなたが僕の携帯番号を調べたという事ですね。」
「驚かせてしまい、申し訳ありませんでした。個人情報の保護はさせていただきますのでご安心ください。」
「お土産どんなものがあるんですか?」
見慣れないお土産があり、購買意欲をそそられる。
「これは全て弊社の製品です。これも収入源の一つです。」
「どれが欲しい。俺が金を出すよ。」
「良いの?買ってもらって。それじゃあこの列車のキーホルダーとW杯躍進の絵。・・」
「ありがとうございます。」
「田沢さん。そろそろ出発の時間ですのでホームまでお越しください。」
ホームに向かう二人。武志は列車に乗る。窓越しで石田が近付いた。
「武志。元気でな。お前と一週間過ごせて楽しかったよ。」
「クリアンサ。一期一会だったけれど未来の世界で色々な経験が出来て楽しかったよ。それに絶望している俺を助けてくれてありがとう。」
「あえなくなったとしても心の中でつながっている。向こうに帰っても元気でな。」
列車が動き出した。
「さようならクリアンサ。」
「Ate a proxima!また会おう。」
遠ざかっていく電車を見届ける石田。
「受験の事しか考えていなかった高校時代。でも良い思い出だった。明るい未来を信じて頑張って勉強に打ち込む昔の自分に会えた。何時も明るい未来を信じていたんだな。」

手紙を開ける武志
「どの時代でも未来や今の事を絶望的に思う時がある。石油が枯渇して文明の力が使えなくなる。ノストラダムスの予言で地球が消滅する、温暖化で地球の多くの場所が水没する。テロ事件、大恐慌。そう言われても未来の世界はある。
お前の思い通りの未来像にはならない事の方が多いと思う。それでも良い事があったり、何とか自立が出来たり、素晴らしい出会いがあったり、未来も悪いことばかりじゃないと思う。生きていていたら嫌なことがあっても幸せを感じられるときもある。嫌な事があっても下を向かずに素晴らしい未来が来る事を信じて、やりたい事を見つけて前に進んでほしい。受験に成功して良い企業に入り高収入の仕事に就くのだっていい未来の一つかもしれない。お前にそういう考えを捨てろとは言わない。でもそれは良い未来の一例でしかない。お前が本当に望むような未来を送ってほしい。これがお前に送るメッセージだ。
PSドラゴンボールのトランクスみたいに違う未来を創る事が出来ると思う。今の俺見たくなるんだとは思わないでほしい。お前のやりたい事で毎日が充実した未来であってほしい。良い未来を作るのはお前次第だ。お前ならできるよ。

21世紀の田沢武志改めクリアンサ」
武志はこの一週間の事が走馬灯のように蘇ってくる。
「間もなく1996年、96年です。お出口は右側です。忘れものなどなさいませんようご支度願います。」
電車を降りた。他のお客さんたちもいた。
「皆どんなタイムトラベルをしたのかなあ。良い未来を送れるかどうかは俺次第か。」
そして1996年8月3日17時。
元の新富市に戻った。
「ただいま」
「武志。何処行ってたの?」
「心配したんだぞ。捜索願出したんだぞ。」
「ごめんちょっとね」
「近くにいてこんなにいないわけがないだろう。」
「あのさ、お父さん、お母さん。今度家族旅行しない?」
「はあ何言ってるんだい、この子は。」

七日目:広い世界を知れ

March 26 [Mon], 2012, 6:07
「今日は何がしたい?」
「図書館で勉強してそのあとカラオケに行きたいな。」
「わかった。それじゃあ朝ドラをみてしばらくしたら家を出よう。」
朝食を食べ終えたら、いつも通りゲゲゲの女房をみる。子供のころから身近な存在であった鬼太郎。血と汗と涙の結晶。それを見て育ったことを実感した。
「鬼太郎はこの時代でもやっているんだ。10年に一度アニメ化されるんだ。」
「時代を映す鏡だね。」
「そうだ。鬼太郎を見ると時代が分かる。それに20世紀と21世紀を結ぶ架け橋だ。」
「違う時代を結ぶ架け橋かあ。」
「小学校の時はダンプ松本さんならぬダンプ松竹というキャラが出ている。お前の時代ではルーズソックスはいた女子高生がでている。」
「21世紀の鬼太郎は?」
「メイド喫茶というものがこの時代で流行っているんだがそれが出ていたり、DSが出てきたりする。」
「時代によって違う鬼太郎に会えるんだね。」
「そういうことだ。この作品の誕生秘話は不況で苦しんでいる日本に活力を与えてくれる。」
「水木先生は貧しい環境に耐えに耐えてこの名作を作ったんだね。」
「いろんな人たちとの出会い、協力があって作られたんだ。何かを成し遂げるのも人の和がいるんだってことを教えてくれるね。」
ゲゲゲの女房を見た後、図書館に行く支度をする。ペットボトルにコーヒーを詰めて、かばんには本、筆記用具、ノートを入れ支度をする。開館時間の9:30に着くように家を出た。行き途中に変わったお店がある。そのうちの一店に近づくと、
「ここが、俺がよく行くブラジル雑貨店だ。帰りに行ってみるか?」
「うん。行く。ブラジル雑貨店ってどういうものが売られているの?」
「ガラナジュースというアマゾンでとれるガラナという木の実をすりつぶして作ったジュースからブラジルのコロッケ、リングイッサというブラジルのウィンナーがあるんだ。」
「何それ?どれも聞いたことがないものばかり。食べてみたいなあ。川岸はいろんなお店があるんだね。同じ埼玉にこんなお店があるなんてしらなかったよ。」
「ここに引っ越してきて見つけたんだ。愛知にはいっぱいあるぞ。」
「昨日の話を聞いて俺もいろんなところに行ってみたくなったよ。」
話をしながら図書館に向かう。
「ここの図書館は本当にいろんな本がある。本当に別世界に来たように思える。」
「お前が悩んでいることの答えが何か見つかるかもしれない。この図書館は本の品ぞろえがいい。」
「中学時代は国語の成績を上げるために読書をしていたけど、本にはいろんな物事のヒントがあるね。本屋で俺が行くコーナーは参考書しかない。もっと色んなコーナーを見た方がいいんだね。」
「そうだよ。普通に参考書を読んでいるだけじゃわからないことも見つかると思うよ。」
「違う世界に足を踏み入れると思いもよらぬ発見がある。彼はそれを俺に教えてくれるんだな。」
未知の世界に行くことがこうも自分を大きくするものなんだと感じる。井の中の蛙ではだめだと。未来の自分と一緒にいることで学んだ。
「この図書館には良く来るの?」
「面接とバイトがない時はいつも図書館にこもって勉強しているよ。家じゃあどうしても勉強できないんだよね。嫌なことに。」
「わかる、わかる。家だとごろ寝するか、遊ぶかのどちらかだよ。静かに勉強できないし。ここはいいところだね。」
「二階に行って勉強しようか。」
「うん」
二階の空いてる席を見つけて学習する二人。石田は回路設計の勉強を武志は英語や数学、物理を勉強している。
一時間勉強したのち休憩を入れる。石田に聞いてみた。
「クリアンサ。本読んでいて上の空になったらどうしてる?」
「参考書に載っていることノートに要約して書いてみたり、問題集やったりするといいんじゃない。」
「考えて文章読むようになるからそれはいいね。次はそうやって勉強してみるね。」
「あ。俺のおせっかいじゃなかったらだけど勉強法の本などがこの図書館には置いてある。読んでみるといいよ。それと俺が今まで読んだ本でお勧めのものといいアドバイスだと思ったものを抜粋して教えるね。」
「それはありがたい。色んなこと教えてよ。」
この時代に来て、色んな知らないことを勉強できる。未来になり科学技術が進歩したから出来るという類のことではない。けれども未来になり自分より長く生きてきた経験値があるからこそわかることを武志は吸収している。生きた経験として。
石田は武志へ自分の書いた読書感想文を見せた。
「なになに」
親や教師の教育の仕方がナンセンスであったこと、今までの生き方を見つめ直すような物事が書かれていた。物事を色んな視点でみて色んな行動をすることで答えを見出すものだ。
「出来ない理由を自分の能力のせいにしないこと。・・・・自分の能力がないから出来ないんじゃない。かあ。」
これはとくに彼には感心させられることだった。
いつも成績が悪く、出来ないと才能がないと思う。IQが低いから勉強に向いてない。勉強のできる人に比べたら親の学力も低い。だから遺伝的にも劣等生だ。・・いろいろとネガティブなことを考えてしまう。そういう武志の思い込みをぶち壊すようなことが書かれていた。
子供の頃勉強が出来なくて辛い思いをしてきた武志にはトラウマゆえか出来ないことが許せなかった。それにそういう現実受け入れるのが嫌だから。ネガティブなこと考えて開き直るようにしていた。
親も上流階級のエリート揃いの家系のサルまねをさせてくるようになり関係が悪化した。親を信用しなくなり心の中では常に敵意を抱いていた。親の言うことには常に反抗心を持って接していた。
「あいつらの言うこと聞くのは敵に屈するのと同じことだ。」
心の中で常にそう思っていた。
「出来ないことは辛いかもしれない。けれども世の中は多くの選択肢があり考えがある。だから自分が出来ないんだとか思いこまないでほしい。」
武志はこの感想文を読み、求めていた答えを見つけたような気がした。この感想文から救われた気分だった。
「こんなこと考えもしなかった。でも納得がいくし自分に自信が持てる。」
「自分探しのために読書もいいものだろう?」
「自分が気付かなかったことや悩みを解決する方法までのっているんだ。」
「これは本を読んで学んだことの一部だけど、俺たちが受けられなかった教育を受けることが出来たみたいだ。」
「勉強できない=能力がないみたいな教育しかできない親や教師の方が間違っている。」
「この読書するのは3年生の時お世話になった英語の先生がすすめてくださったことなんだ。」
「来年、俺はその先生から英語を教わるんだ?」
「そうだよ。英語の教え方もうまかったけどほかにもいろんな大切なことを教えてくれる先生だった。」
「教師もピンからキリまでいるね」
「その先生の言葉で読書をしなさい。そうすれば広い視野を持てるようになるっていう教えや勉強以外のことで心の支えになるものを身つけなさい。勉強で挫折した時救われるから。とかね」
「今の俺にはピンとこないな。」
「そのうちわかるようになる。聞いたことが今は全く輝かない原石でも経験を積むことで磨かれて輝く宝石に変わる時が来る。」
「俺は将来そんな宝石を多く手に入れられるのかな?」
「できるよ。お前の心掛け次第だ。」
「一見バッドエンディングのように見えた自分の未来。だけどクリアンサは心が腐りきっていない。輝いている。」
未来の自分が輝いて見えた。
「もう一頑張りしたら、昼ごはん食べようよ。」
学習室に戻る。そして机というリングで格闘する二人であった。第2ラウンドの始まりだ。

川岸市街地
中沢達3人は観光バスに乗り市内観光を楽しんでいた。川岸巡りをしていた。
「社長にお土産買っていきません?」
「それいいねえ。地ビール、イモ焼酎でも買っていこうか。この町は地酒がいろいろ売られていていいねえ。」
「川岸の町を見ながら観光を楽しむ。江戸の風情を感じますね。」
「それにいろんなお店があってどこで買い物していいか迷いますよ。」
「お店巡りも楽しみのひとつだ。この町のいろんな場所に行こう。和菓子、地酒、昔ながらの玩具、どれも粋な職人技を思わせる。それにこのにぎわいお祭りのようだね。」
「古き良き日本の姿を見ているようです。」
「未来に来たけど、過去の日本を見ている。」
「時は線路のようにつながっているんだ。未来のどこかで古き良きものにまた会える。時間がたっても過去のものは残るんだ。」
「我々は過去と未来のかけ橋の仕事をしてるんですね。」
昔の日本の面影を見て時間を超えた旅をしてきたことを感じる3人であった。
「昼御飯は江戸の味で舌鼓だ。」
「行きましょう。」
バスを降りると、料亭に向かって行った。

午後1時昼御飯をコンビニで買う武志と石田。
「ラウンジで話しながら食事をしようか?」
ラウンジは小中学生のたまり場だ。任天堂DSやったり、PSPやっていたり、中には友達同士ではしゃいだり、色んな夏休みがこの空間にはある。
「この時代は大恐慌だそうだけど、クリアンサは失業期間が長いの?」
「半年かな」
「そんなに長く仕事していないんだ?お金とか大丈夫。いつも驕ってもらったりして申し訳ない。」
「不況に備えて貯蓄はある。でももっと早くいろんなアルバイトやっとくんだったな。」
「バイトもしてなかったんだ。こんなに長く仕事が出来ないことを辛く思うときはある?」
「なんで俺だけ仕事がないんだ。皆は仕事しているのに自分だけって泣きたくなるんだ。それでも相談できる仲間や友達、応援歌いろんな人や物が支えてくれている。テレビやアニメだって。」
「クリアンサ、あんたを見ていると同じ作品見ていても俺に感じ取れないものを感じ取っているように見えるよ。」
「不況で日本全体が元気がなくなった。俺自身生きているのが辛くて現実逃避したくなることがある。」
「受験が終われば人生の苦行から解放されると思ったけど、そうでもないんだね。」
「受験の時も自分の非力に嘆いたな。そして現実逃避でゲームばかりやっていた。薬に走ったり、酒におぼれたりするみたいに。」
武志は自分自身と重ねていた。ファミコン楽しむことだけが小学生時代の楽しみだったように思うことがあった。ファミコン気違い、ファミコンしか能のない奴とさげすまされていた。学校で嫌なことがあってもファミコンやっている時だけは楽しかった。中学では親のゲームを取り上げられた。憂さ晴らしが腹いっぱいご飯食べて退屈感を紛らわすことや火遊び、音楽だった。音楽だけがまともな楽しみであった。音楽から自分だけのテレビアニメを作り頭の中で上映するのが楽しかった。音楽が心の支えであることを感じた。
「一人暮らしして思うことは、親に嫌な思いをあじあわされても我慢していれば生きていける。親がいなくなり自分で収入が稼げなくなったら人生が終わりになる。それを考えると生きているのが辛くなる。」
「家出して親と一緒にいたくないって思うけど別の辛さがあるんだね。上手くいかないことがあると俺なんかいつもめそめそしてしまう。それでもあんたは耐えている。」
「俺だって高校出た後、親や友達に愚痴ってばかりだった。才能がないから不遇な人生送るんだって。」
「才能がない・・」
「トシがさあ。そんな俺に勉強は自分を活かす道具の一つにすぎない。違う道を探してみろとアドバイスをくれた。」
「それで違う道を身つけたの?」
「それで俺はある夢を追うことになった。それが心の支えだったよ。この夢があったから大学にも通うことが出来た。生きた屍では無くなったよ。」
「でもなれなかったんだよね」
「人間は夢を持っても叶えられない方が多いと思う。だけど夢中になって挑戦できるものがあることこそ幸せなんだって思う。」
「かなわないんじゃあ・・・」
「たとえかなわなくても、人間努力をしなくては夢をつかめるようにはならないし、何もしないでいることよりは良いと思うぞ。」
「この世は結果がすべてじゃん。努力しても結果が出ないんじゃやってないのと同じだよ。」
「人生は限りがある。だからこそ色んな事にチャレンジすることが大事なんだ。死ぬまでな。」
「俺にはきれいごと聞かされてるとしか思わないよ。勝てば官軍だよこの世は。」
 これを聞いて石田は急にかっとなった。
「結果にこだわるのって見栄やステータスのためだろう。本当の夢ってそんなことのためにするもんじゃないって学んだだろうが。」
キレる石田に圧倒されてしまう武志。周りの子供たちもなんだと思って驚く。
「ああしまった。」
 正気に戻り落ち着いて話す。
「お前の周りには楽して勉強していい成績を取っている奴らがいる。それを理不尽に思うのはわかる。でもそいつらが人生で成功しているとは限らないぞ。」
「え?」
「今のお前には受験で成功すること=人生の勝利っていう方程式は崩壊してないのかもしれない。大学を卒業するころに知ったんだけど学力が必ずしも職務能力とは限らないんだ。中村修二先生って言う青色LEDというものを作ったエンジニアがいてその先生は普通の人より勉強が出来るのは確かだ。でも彼より勉強が出来ていい大学、大学院出身の先生は五万といる。それでもその先生方が作れなかったものを中村先生は作った。ノーベル賞級の発明って名門大学出身の先生ばかりいるからお前の眼には受験で成功できないことは負け組だと思うかもしれない。でもこういう現実もあるんだ。」
学力が必ずしも職務能力ではない。これは武志が考えている価値観に反するものではある。でも劣等生である彼には希望を与える言葉であった。
「それに俺がお世話になった歴史の先生とうちの従兄弟の例でもある。その先生は2浪以上して中堅大卒。かたやうちの従兄弟は進学校上がりでそれなりの大学を出ている。でも夢だった考古学者はその先生はなれたけど従兄弟はなれなかった。だから学生時代の学力が必ずしも職務能力じゃないと思うんだ。」
「弱い者の立場で考えてるんだね。」
「弱い奴が強い奴に勝つ。それが勝負の楽しさだろう?」
「今までの勉強で自分より成績が上だった奴らを超えていくのが楽しみだったな。」
「受験でつらい思い出の方が多い。いい成績がとれる時のほうが少ない。絶望的な状態であっても勝利と明るい未来を信じて戦う強さ。そんなものを養う修業が受験なんだと思うよ。」
「国語の偏差値が30で高校受験が絶望的だった。それでも第一希望に近い学校に入ることが出来た。」
「がけっぷちから這い上がることを俺たちはしてきた。だから今度もそうするだけだ。」
「がけっぷちから這い上がる。・・・かあ。」
「北斗の拳でもこの世の終わりのような絶望の世界。そんな中でも生きるケンシロウの強さを学びたいと思い見ていたんだ。」
「彼らはただ強いだけじゃない。ハートも強い。」
「聖闘士星矢は勝負の厳しさを教えてくれる。」
「それはどんな所から」
「ドラゴンボールの孫悟空やケンシロウは戦ってもほぼ9割楽勝だが、星矢は戦いの90%が大苦戦だ。そんな中でも戦う彼らをみて夢をつかむことの厳しさを知ることができる。」
「夢をかなえるって辛い戦いをする事なんだね。」
「ちょっと熱くなったな。休むことも大切だ。午後は勉強を忘れて好きな本を読んでみろ。

川岸小江戸町で観光を楽しむ3人。
「この駄菓子おししいですね。」
「こういうのも俺たちの前の世代からあったんだよね。」
「子供に戻ったみたいですよ。」
「これもちょっとしたタイムスリップだな。」
昔ながらの駄菓子屋でノスタルジックな気分に浸る3人。20代ぐらいの客もいた。
「子供の頃の思い出がこの店には詰まっているんだな。」
「探せば過去の夢や思い出にであえるものだ。」
駄菓子屋を後にし、酒屋に。
「イモ焼酎や地ビール、いろんな日本酒がある。店の作りも職人の風情感じますね。」
「酒蔵があるんだ。こういうの見ないなあ。」
店主が中沢達に声をかける。
「いらっしゃいませ。なにかお決まりですか。」
「このイモ焼酎と地ビールを一本ずつ」
「このイモ焼酎はここならではのものです。観光客のみなさまから愛されております。」
「ああこれうちの会社の社長にお土産に買って行こうと思うんですよ」
「どちらかの会社の方ですか。」
「小さな町工場なんですけれども、社長は我々にとって親父みたいなものでして・・・。」
「親子で酒なんて良いですね。ぜひ。」
「これを早く飲ませたいものです。」
「ありがとうございます。」
その後も和菓子に、工芸品店、玩具店と色んなところをめぐり楽しむ3人であった。

〜図書館
昼食後学習室のある部屋に戻る。本棚を見ながらこれはと思えるタイトルの本が数多く見つかる。将来の夢、職業について考える、・・・様々な本が置いてあった。武志はある本に目を留めた。
「ピーターフランクル著!」
中学時代よく見ていた平成教育委員会を思い出した。
「秋山仁先生と同じく俺にとって学問の神様だった人。難問奇問をいともたやすく解いてるところをみて俺ももっと数学が出来るようになりたいと思った。本当に学問を楽しんでやっている先生方が輝いて見えた。」
読む本をこれにした。
一方の石田は、一心不乱に日記を書いている。
「その日記mixiのネタ?」
「そうだよ。こういうの書いていると冒険日記、RPGでいうセーブデータ作っているようだよ。」
「面白い発想だね」
「本を読んでら、感じたことやこれはと思った言葉などを書き写すといいよ。その本を読んだ記念になる。たまに読み返すと貴重な財産になるよ。」
「よし俺も読書感想文書こう。」
読書と昼寝を繰り返しながら夕方まで図書館で過ごした。石田が今まで読んできたためになる本の話をした。
「読書することで視野が広くなるんだな。」

〜駅前のカラオケ屋
観光を楽しんだ中沢達一行が入ってきた。
「子供時代に戻れたような気分だったな。」
「小学生のころを思い出しました。私、Diamondが頭の中に流れていましたよ。そうだこの曲歌おう。」
会話を楽しむ一行。中沢が受付に応じる。
「いらっしゃいませ。ご希望の機種はございますか?」
「JOYでお願いします。」
「かしこまりました」
「お時間は?」
「3時間フリータイムでお願いします。」
「かしこまりました。1階10号室になります。そちらを左に曲がったところになります。ごゆっくりどうぞ。」
4階に向かう3人。
「さてと、川岸の旅を歌で振り返ろうか?」
その10分後。
石田と武志が同じカラオケ屋に着いた。偶然にも3人と同じ店にいることに。
「夢を見たいからを歌うんだ、懐かしいな。」
「ピーターフランクル先生の著書を読んで平成教育委員会のことを思い出したんだ。」
「平成教育委員会かあ。懐かしいなあ。好きなテレビ番組だった。」
受付に石田が応じた。
「一時間半でソフトドリンク飲み放題でお願いします。それと機種はJoyでお願いします。」
「かしこまりました。一杯目の飲み物は何になさいますか?」
「じゃあ俺はホットコーヒーで。お前は?」
武志に聞く。
「それじゃあコーラでお願いします。」
「はいかしこまりました。一階11号室になります。そちらを左に曲がりまして奥になります。ごゆっくりどうぞ。」
指定された部屋に向かい、リモコンで曲を予約する。
「先に歌っていいよ。」
「いいの?じゃあ夢を見たいからを歌おう。クリアンサは何を歌うの。」
「俺の一発目もAccessにするか。Decade&XXXで。」
武志は、一曲目を歌い始めた。中学時代はこの曲を何度も何度も聞いていた。いろんなことに夢中になって挑戦できる。学生時代は夢に夢中になれる年頃だ。可能性は無限大、夢はかなうそんな気分にさせてくれる。この曲にはそんな思いが込められている。歌い終わると、拍手する石田。そして曲のBGMが流れ出した。
「未来の世界に来たような気持ちにさせてくれる。」
好きだった人との思い出がよみがえってくる。高校時代の記憶がよみがえる。
話をしたこともないのに気軽に声をかけてくれる彼女がまぶしかった。その人に彼氏がいることを知り、恋破れてしまった。それでも異性と付き合うのが苦手で女子生徒から敬遠されるようなじぶんにも気軽に声をかけてくれた。あの人のことを思い出す。カラオケに誘われた時はうれしかったなあ。近所に住んでいる同級生の女の子と相方のように良くくっつく人だった。その彼女と同級生の男子と4人で一緒にカラオケ行ったものだった。彼女は当時の女の子があこがれたMy little lover,広瀬香美、ドリカム、安室奈美恵の曲を良く歌う人だった。学校にいる時も良く口ずさんでいた。
「甘酸っぱい思い出がよみがえってきたぜ。」
笑い話にする石田とは逆に失恋を感じて気が重くなる武志であった。
「次もaccessか、find the wayかあ。いい曲だね。」
「これで失恋の記憶を吹き飛ばすよ。」
「ははは」
マイクを握り、歌い始める。すると嫌なことを忘れた。
「この曲を聞くと世の中のいろんなことが面白いことなんだって思えてくる。」
「釣り番組でながれていたよ。似合わないと思うけどね。まあ夢中になっているところはジャストフィットするかな」

一方で中沢達もカラオケに興じる。
未来はジャニーズやラップ、アニソンを、中沢はテクノ系ミュージック、ロックを、カコは女性POPメインで歌っていた。カコの番になった。
「次はドリカムのeyes to meかあ。カメラで面白い写真撮って楽しんでたなあ。」
「男の子って変な写真撮るの好きなんですよね。私は友達と旅行楽しんだ時を思い出しましたよ。」
トイレから戻る途中で、未来は武志達を見つけた。
「田沢君も楽しんでいるんだな。今行ったら驚かせるだけだ。そっとしておこう。」
武志達二人をみつけても、通り過ぎて行った。
「ハクション!!誰かが噂していたような。それに誰かが影で俺のことを見ているように感じるんだよね。」
「気のせいじゃない」
「そうかな?ならいいや。」
自分たちの隣の部屋に中沢達がいることにも気付かなかった。
「歌ってのは人生の縮図だな」
「何、急に哲学くさいこというの。」
「心のよりどころはいつも歌だった。辛い時歌うと歌に魂が込められる。」
「何それ?」
「歌っている時に感情が入るってことかな。それと病んだ心のバンドエード、治療薬になるってことさ。」
武志は未来の自分がどんな曲に励まされて、今に至ったのか。歌から自分のすすむべき未来の道標が知れると思った。
「クリアンサ、高校卒業後の思い出の曲、励ましになる曲があったら歌ってよ。」
「それじゃあsurfaceのなにしてんの。を歌おうかな。」
歌謡ショーの歌手のようなセリフを言う。
「この曲は思い立ったが吉日、即実行せよという思いのこめられた曲です。聞いてください。」
「ポジティブな気持ちになれる曲だな。」
聞いていて励まされる気分だった。これを聞いて石田はまえむきのものごとをかんがえようとしているんだろうなあって思う。
歌い終わると、
「ありがとうございました」
歌手のように終わった。
「ところでこれはどんな思い出があるの?」
「受験への未練が捨てられず再受験に挑戦したことだよ。俺からもリクエストいいかな?DANDAN心魅かれてくをお願いするよ。」
「ドラゴンボールGTのテーマ曲かあ。うちの学校でも話題の曲だった。」
「そのことは覚えている。学生時代のいい思い出の曲だよ。」
聞いていて、明るい未来、好きな人と一緒になるシーンを想像したっけ。自分がヒーローになったような気分も味わえたなあ。高望みではあるけれども、夢を与えてくれる思い出の曲であった。
「次はどんな曲歌うの?」
「For Realでも歌おうかな。これは受験の夢が破れて次の新しい夢を見つけたときの思い出の曲だ。それは何かは伏せておく。未来の楽しみの一つにしておけ。」
「クリアンサはこの曲に楽しい思い出があるんだな。」どんな夢を持ったかはわからない。だが彼がその夢に夢中になって挑戦し、心の支えになってくれたことは確かだ。
 お互いに思い入れのある曲を歌いながら過ごした。
最後はglobeのstill growing upを
「これはお前に良い21世紀を迎えてもらいたいというメッセージを込めている。」
過去と未来の大切さを感じる。過去をいい思い出を大切にし、良い未来を迎える。そのために今を精いっぱい生きることが大切だと伝えているようだ。辛くても明るい未来を信じて日々を生きている未来の自分。忘れていた子供の頃の思い出、そして未来の自分と出会うことでできた新しい人生の数ページ。』そんな出来事が一つ一つ大切に思えてきた。そろそろこのタイムトラベルが終わることを彼らは知らずにいた。
ばれないようにこっそりこの二人を見ている中沢達。
「このタイムトラベルの締めくくりのような曲だね。」
「本当に田沢君はこの旅を楽しみ、そして多くのことを学べたんですね。」
「私たちも彼と同じで良い未来と懐かしい子供ころの思い出を味わえたじゃないですか。」
「そうだな。カコにはあとで、この曲歌ってもらおうか?我々もカラオケで旅の締めくくりをしようじゃないか。」
そう言うと、部屋に戻った。
残りは旅の思い出の曲を歌おうか?
それぞれ思い思いの曲を歌った。
そして最後は、カコと未来でデュエット。
カコはこの歌にじぶんたちの仕事と重ねた。お客に過去の懐かしい思い出と再会させること、感動の未来を見せること。時間列車はまさに人に夢を与える為の仕事なんだと実感した。この曲は仕事をする上での自分達のテーマソングだ。

一足先に武志たちはカラオケで歌い終えた後、バーガーショップに向かう。
そして中沢達3人はカコがアルバイトしていたインドカレー店に向かった。
「バーガーショップで仲間と過ごすなんてやったことないなあ。どの学生たちも楽しそうだね。」
「仲間と勉強するのはいいものだね。バーガーショップはいい書斎だ。家にいる時はぐっすり眠ってしまうけど、ここでは落ち着くし。家じゃあ集中して勉強が出来ないけど、ここは自由に使える書斎だ。」
「こんなにうるさくて良く勉強ができるね。英語の長文読解とか数学の文章題、物理とかできないよ。気が散って」
「こういう数学の問題はゲームだと思ってやればいいんじゃない。」
「勉強をゲームと思えかあ。」
「俺は本屋で読んだことをノートにまとめたりするのやるな。水汲みゲームかな」
今日本屋で学んだ分布定数回路 Z=√R+jωL/√G+jωC
とか覚えた事をノートに書き留めるんだ。本屋に置いてある本から得られる情報をすべて吸収できるわけではない。器の体積の分しか水を入れらない。人間が本を読んで一度に得られる情報量は限られている。
「なにそれ?」
「本に載っている情報が水で器が自分の脳だ。覚えた事をノートに取るのが手で組んできた水を穴のない器に移すようなものだ。」
「なるほどね。楽しい勉強のやり方だね。」
武志は遊び心を学んだようだ。
「授業も本を読む学習もただ読んでいるだけじゃ頭に残らない。」
「うん。確かに。」
「でも少しは読んだり聞いたことを理解できていると思う。」
「そうだよね。その読んだ内容を本屋に出た後でメモを取る。思い出し、考えながら出来る。何かのゲームみたいじゃない」
「!!」
「子供のころにやった砂遊びで公園に水を運んで遊んだだろう。でも器が小さくてうまく運べないし、水がこぼれないように注意しなければならない。」
「それが本に書いてある知識をいかに効率良く吸収するかってことだったり、記憶力を上げること。水を入れる容器が大きく漏れにくいものなら良いわけだ。」
「なるほど」
「公園のベンチに腰をおろしてメモ取りしたり、バーガーショップでやるのはそんなところ。」
「へえ。良い勉強法だね。」
「思いつきを形に残していくにはノート書いて残すのがいい。これが水を入れられるいいバケツを作ることかな。気づいたことを記憶にするのは知識をただ単に身につけるのより大切だ。覚えたことを活用することに意味がある。」
「未来の自分と話をするのってアナザーワールドにいるみたいだよ。今までの自分の勉強の仕方とは違うし、自分一人じゃ気がつかない方法が分かったりする。」「大学受験が目的で勉強していても他のジャンルの本を読んだりすれば答えわかったりする。交流のインピーダンスの公式も物理の本じゃわかりずらく公式のように書いているが、回路の本を読むと簡単に導き出す術が載っている。高校の物理の本を読んでもこれは載っていない。公式暗記せずともこれが分かる。」
「モノの見方を変えれば別の世界が見れるんだね。」
「勉強法の本でも言っていたけど知識やネットワークを広げれば上手に活用できるんだ。」
「いつもとやり方を変えて面白い発見があるんだね。」
「俺の未来はほんの一例に過ぎない。自分の人生設計次第でお前は良い未来を得られるようになる。そのためにも広く物事を見ろ。色んな事やってみろ。」
「いろいろなものに触れて間違った考えなんかも見つけられた。良かったのは出来ない≠才能がないっていうこと。できないのは才能や能力のせいじゃなく予備知識がないからなんだって知ることが出来たのはよかったよ。」
「勉強が出来ない=才能がないって考えは間違いなんだ。これはお前に分かってもらいたい。それで自分に限界を作らないでほしい。そう思う。」
いろいろ未来の自分から学ぶことが出来た。
「俺は自分の生き方を見つめ直すために未来に来たんだ。そして間違った生き方をしていたことに気づくことが出来た。これがこの時代に来た意味なのかもしれない」

一方中沢たちは。
「あらカコちゃん、こんばんは。」
「実は私たち・・・・・」
カコはこの時代に来たいきさつを語った。
「そうだったの。あの子もカコちゃんも違う時代の人だったんだね。」
「身分を隠していてごめんなさい。」
「短かったけどカコちゃんと過ごせて楽しかったよ。またこの時代この町に来たらここに寄りなさい。いつでも歓迎するからね。」
カコは思わず涙を流した。
「短かったけどここでは楽しい思い出がいっぱいです。本当にお世話になりました。」
「実は今日この町を去る前にここで最後の晩餐会をやろうと思ってきました。」
「わかりました。それでは特別なディナーでおもてなしさせていただきます。」
そういうと、厨房に向かった。
「特別メニュー。なんだろうね?」
「私たちの鉄道も駅の構内でインドカレー食べれる店とか作りません。社長に頼んで。」
「料理でも思い出の味を食べれるのはいいよね。」
「時代によって料理も変わりますからね。良いアイディアですよ。」
「駅構内のお店も発展させましょう。」
駅構内に作る店の話をしながら、料理が来るまで話をしていた。
「お待ちどうさま。マハラジャセットです。」
「数種類のインドカレー、シシカバブ、サラダ、ナン、ラッシー、ヨーグルトのデザート、地ビールなどなど色んなものが出てきた。
三人ともおふくろの味をかみしめるようにカレーを食べた。
「この店は違う時代の故郷みたいな感じだね。」
「それでは21世紀に乾杯。素晴らしい未来が訪れますように」
そう言って3人は楽しく晩餐会をしたのであった。
「ごちそうさまでした。」
「絶対にまた来てね。」
「さよならは言いません。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
21世紀のおふくろにあいさつをした3人であった。
「またこの時代に来よう。」

帰りはブラジル雑貨店に向かう武志達。中に入ると常連のブラジル人達が賑やかに会話をしている。
「Boa Noite」
すると店員も
「Boa Noite」
と返してきた。
武志にとって見たこともないようなジュース、食べ物が店中に置いてある。テレビもブラジルでやっているテレビ番組がついている。この空間はブラジルの店を日本にそのまま持ってきたようだ。ブラジルのお店に入ったようだった。
「このガラナジュースというのがブラジルで流行っているんだ。」
「はじめてみるよ、どんなジュースなの?」
「炭酸ジュースで甘くすこし薬っぽい。滋養強壮の効果もあり、ブラジルのサッカー選手達も愛飲しているよ。」
「これ飲んでみたいな。あとはブラジルの料理ってどんなものがあるの?」
「リングイッサって言うブラジルのウィンナーとフェイジョアーダという黒豆と肉を煮込んだあんをご飯にかけた料理があるんだ。明日の朝ご飯に食べてみるか?」
「うん。明日初めてブラジルの料理を食べるのか。楽しみだな。」
「他にも何か食べたいものがあったら良いよ。」
「それじゃあこのコロッケを一つお願いしようかな。」
「それも朝ごはんのメニューの一つに加えようか」
大人びた格好をしたブラジル人の少女に驚く二人。
「ブラジルの小学生って大人びた格好するんだね。」
「ああ俺も驚いたよ。こんなおしゃれをする小学生は見たことがない。この御店にはよく行くけど、ああいう小学生を見たのは初めてだ。」
「川岸はブラジル人が多いんだね。埼玉は外国人が多い町だとは思わないんだけども。」
「この町で暮らして2年になるけどブラジル人が多くいる街だとは思わなかった。大学時代はここを通学路にしていたけど、住んでみて知らないことや気づくことがあるんだな。」
「近くの町でも知らないことって多くあるんだね。」
武志は異文化を味わった。どれもみたことないものばかり。
「ブラジルの料理って日本の洋食に似ているんだね。」
「ブラジルはヨーロッパの移民が多いからね。フェイジョアーダは黒人奴隷が領主の食い散らかしたものを集めて煮込んだのが起源だとされているよ。いまではブラジルの主食のひとつさ。」
「ブラジルは色んなヨーロッパの顔があり、アフリカ文化も混ざったようなところだね。」
「国も人も外とのかかわりがあって成り立っている。ブラジル文化に触れることでそれが学べたし、視野を広げることが出来た。外の世界には魅力的なものがいっぱいあるんだ。」
「外国と聞くと連想する国はアメリカ、中国、フランス、イギリスぐらいしかなかった。でも世界は広い。この地球にはいろんな国があるんだな。」
石田は店員に
「Compro sucos de guarana e linguica.ガラナジュースとリングイッサを買います。」
「mill e quinentos.千五百円になります。」
「sim,pago dois mill yeniはい。二千円払います。」
「Voce fala portugues bem!ポルトガル語上手ね。」
「Eu estudo portugues e capoeira.ポルトガル語とカポエイラを勉強してます。」
「Que bom!Voce estuda capoeira.Onde voce estuda?カポエイラやっているの凄いね。どこで習っているの?」
「Eu pertenco Nacao.Este e o grupo de capoeira no Kawagishi.川岸市の団体nacaoで習っています。」
「Voce ja conheceu o brasil?ブラジル行ったことあるの?」
「Nao mas quero ir ao brasil.いいえでも行きたいです。」
「Porque voce tem interece no brasil?なぜブラジルに興味を持ったの?」
「Eu gosto de futebol,capoeira,musica brasileira.サッカーとカポエイラ、ブラジル音楽が好きだからです。」
「Que bom.それはいいね。」
「Ate logo.それでは」
「Tchau.バイバイ」
英会話の教材でもよくある。英語と日本語で会話する。それがポルトガル語と日本語になったような会話だった。でも楽しそうにブラジル人の店員と会話をする石田。
そう言うと店を去る二人。
「クリアンサはポルトガル語が上手なんだね。」
「少しだけ習っていたから。ポルトガル語極めてブラジルがらみの仕事をしようと考えていたことがあった。」
「そういえば大学入ると第2外国語習うんでしょ?大学では習っていた?」
「ううん。これは社会人になってから習い始めた。大学の時はフランス語と中国語をやった。」
「大学ではどんな第二外国語があるの?」
「学校によりけりだけど、うちはフランス語、中国語、ドイツ語。外の学校だとスペイン語、韓国語も習えるよ。」
「英語は勉強しても話せるようにはならないね。」
「しゃべるのが難しいね。これは日本の教育が悪いこともあるんだけど。文法間違えてもいいから話をする事が大切だよ。さっきの店員のようにフレンドリーに接してくれる人もいる。
「受験のために英語の勉強していたけど、外国の人とお話しするのに役立っているね。」
「英語が出来ると楽しみが増えるよ。こうやって海外の人と話をすると会話するのが楽しいことだって思えるよね。」
突然携帯が鳴りだした。
「ん?」
「だれからだろう」
電話がなった。見慣れない携帯番号だった。とりあえずでることに。
「もしもしどなたさまでしょうか?」
「田沢武志さんの携帯でよろしかったでしょうか?私時間鉄道の未来と申します。」
「時間鉄道?いたずら電話か。」
切ろうとすると
「そちらに十四年前の田沢さんがいらっしゃいますよね?」
「え!!(何でそんなことわかるんだ)それになんで俺の携帯の番号が分かるんだよ。」
見ず知らずのどこの誰ともわからない人間が電話してきた事、そしてじぶんたちの状況が分かる事を奇妙に思う。
「あんたたちいったい何者?」
「驚かせてしまい申し訳ありません。また弊社の事故により田沢さんにご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした。弊社は時間鉄道と申しまして電車で20世紀と21世紀の架け橋をしております。今回高校生時代の田沢さんを未来の世界にご招待させていただきました。弊社の事故によりご自宅に高校時代の田沢さんが飛ばされてしまいました。ご迷惑をおかけしました。尚、弊社の情報網から田沢さんの携帯番号、ご住所を調べさせていただきました。」
「そういうことだったのですか。20世紀と21世紀の行き来が出来るのですか?」
「はい。違う時代に旅行し、懐かしい方との出会い、先の未来へのご招待。違う時代の人々との出会い、お客様の過去や未来のご自身にお会いする機会など時を越えた出会いを提供していきたいと考えています。」
「そんな会社がこの世には存在するのか。」
石田はSFの世界にでもいるような不思議な気分だった。でも、過去の自分とこうやって同じ時代で生活している現実を見ると、それも嘘とは思えない。
「異次元の世界に本社がございまして違う時代に行きたいと切に願う方に弊社のサービスを提供させていただいております。」
「高校時代の私をこの時代に連れてきたのはあなた方だったのですか?」
「そうです。高校時代の田沢さんは未来の世界に行かれる事をお望みでしたので、我々でサービスが出来ないかと考えておりました。田沢さんご自身も過去の時代に愛着を持たれていますので今回の旅行プランを実施させていただきました。」
「願っていた事がかなったのかな?」
「そうでしたら幸いです。ところで高校生の田沢さんはお近くにおいでですか?」
「はい代わります。武志、電話だ。」
「もしもし。」
「田沢君。21世紀の旅は楽しんでもらえたかな?」
「ええ楽しめましたし色々な事を経験出来ました、ありがとうございます。しかし驚きでした。本当にタイムスリップが出来るとは思わなくって。」
「まだ起業したばかりで田沢君は記念すべき最初の御客様です。」
「ドラえもんほどではないにせよ未来には驚くような技術があり、未来の自分がああも変わるものなのかと驚きました。本当に貴重な体験をさせていただきました。」
「光栄です。今後とも弊社をよろしくお願いします。早速ですが明日現代に戻りたいと考えております。川岸駅近くの鉄道跡地でお待ちしております。列車にて1996年の新富沢に向かいたいと思います。時間は13時にお願いします。」
「はいわかりました。1週間のホームステイも終わるんですね。楽しめました。」
「見ず知らずの我々のサービスをご利用いただき有難うございます。では明日よろしくお願いします。」
「おやすみなさい。失礼します。」
電話を切った。いよいよ未来の自分と別れる時が来たことをかんじる武志。
「タイムトラベルは漫画だけの世界だと思っていたけど、本当にできるんだな。」
「現実では出来ないようなことが本当に出来て楽しかったよ。」
「俺さ夏休みが欲しかったんだ。その願いがかなったんだ。」
「え!」
「失業者って毎日休日だけど休日味わえた気がしない。お金の事、仕事のこと、いろんな不安があって休めた気がしないんだ。」
「小学生の時学校が毎日休みだったらなあって考えた事があった。でも実際にそうだとしても退屈だし良い休日が過ごせているとは思えないんだよね。」
「普通に仕事が出来るなら夏休みにお金をかけて旅行したり祭りを楽しんだり、イベント行ったり色々できるけど失業者だとお金の不安でそれが出来ない。」
「当たり前の幸せが手に入らないの?」
「でも高校時代の自分いやおまえと一緒に過ごせて楽しい夏休みだったよ。」
石田には武志が自分自身じゃなく自分と違う高校生として見ていた。
「同一人物であっても俺たちは別の人生を歩むことになる。この出会いがあってお前はかつての俺とは違う人生を歩むことになる。残りの高校生活、20代、30代を俺とは違う生き方をすると思うんだ。」
「違う人生。クリアンサが体験した半生とは違う生き方をするの?」
「俺の人生はただの一例だ。お前に伝えた事をすべて受け入れられるとは思わない。でもお前がこの1週間で経験した事をヒントに良い人生を送ってほしいんだ。良い大学良い企業に入ることだって良い人生の一例かもしれない。でもそれだけが良い人生じゃないって事を分かってもらいたいんだ。それがかなわなかった時の絶望でお前に暗い人生を送ってほしくない。」
「クリアンサ。俺は色々な事を学べて未来に来てよかったよ。楽しいと思えることや出来事って、実は身近に有る事を知ったよ。」それに考えてもいなかった事、見失っていた事、多くの事を教えてもらえてよかったよ。本当にありがとう。」
彼らにとって最後の夜。たった一週間だったけれどもいろんな事があった。一夜中おしゃべりしながら夜が更けていった。
そして帰る日が来た。

六日目:武志の軌跡(多くの仲間達との出会いと別れ)

March 19 [Mon], 2012, 6:04
「おはよう翔!昨日のリサイタルよかったね。」
「翔かあ。実名で言われると変だからな。楽しかったね。一昨日に比べて元気になったな。病人には粥を食わせるとはよく言ったものだ。」
「ん?諸葛孔明の話?」
「まあそんなところだ。次は肉を食わせて鋭気を養わせるか。」
「なんでこんなに強くなれて、受験に失敗したショックから立ち直れたのか?未来の自分が知りたくなった。」
「じゃあ明日はバイト休みだから帰ってきたら高校卒業後の話をするな。」
「楽しみにしているよ。」
「それと、今日の夕方俺がやっている習い事のカポエイラをやりに行こうと思うんだけどどうかな。」
「カポエイラってロマサガの技名?」
「確かにロマサガであったけど、これはブラジルの格闘技なんだ。」
「格闘技かあ。昔強くなって自分をいじめてたやつらに仕返ししてやりたいと思ったよ。」
「小学6年、中学一年の頃、キン肉マンみて強くなった自分を想像したっけ。」
「漫画のまねしても強くなれないけど、あのとき見たキン肉マンやラーメンマンたちは今でも思い出のヒーローだよ。」
「男は強さにあこがれる。三国志、水滸伝見ていても関羽、張飛、林冲、楊志、魯智深・・・多くのヒーローたちが出てきて感動したよ。」
「カンフー極めたいって思ったこともあった。」
「カポエイラはカンフーのように華麗な技があり、TRFのダンスと融合したみたいだよ。」
「力と技二つが備わっているんだ?」
「何事もやり始めたころは青写真を思い浮かべる。」
「でも最初のうちはつまらないし、いつもできないし、練習してもうまくならないし、悔しい思いもいっぱいする。」
「夢って餌で釣られてしまう。」
「けどやった分だけ上達する。成果が感じられるようになった時に達成感を味わえるよ。数学の問題で全然解けなかった問題が解けるようになった時うれしかったし感動しただろう。それと似たような気分だよ。」
「俺にもそんな勲賞のような日があったな。」
 武志は思い出す。中学時代は数学の勉強を良くやったものだった。難しい問題を解けた時、喜びがあったし、つまらないと思った勉強がゲームのように楽しく感じられたものだった。
「格闘技はただの喧嘩の道具じゃないこともカポエイラから学んだ。」
「?」
「良く不良たちの間でけんかに強くなりたいから空手習うのが流行っていることがあった。でも格闘技をやっているとけんかの道具じゃないことが分かるようになるんだ。」
「格闘家のなんたるかだね。」
「前にいたカポエイラ団体の師匠の師匠の教えで良いことを聞いたんだ。暴力で物事を解決するのは間違いだというのをカポエイラで学んだそうだ。その有名な師範は昔友達とけんかして負けて悔しいから強くなろうと思った。それでカポエイラを習うことにしたんだって。カポエイラを習い始めて格闘技がけんかの道具じゃないことを学んだそうだ。」
「おれもけんかに勝つために格闘技習うこと考えていた。でも、親父の上には上がいる。強くなってもその上にもっと強い奴がいる。だからきりがないって話を聞かされたよ。」
「それでも強くなりたいって奴らはいるよね。師範はカポエイラに出会わなければやくざの道を歩んでいたそうだよ。それにね、歴史を振り返っても力で解決しようとする者は滅ぶというのは実証されているともいっていたんだ。」
「え?どういうこと?」
「モンゴル帝国もかつては世界最強の帝国であった。だけれどもその強さは永遠には続かなかった。そういう事象からもこのことは言える。」
「武力=強さでないんだね。学力=知力じゃないように。」
「そう。三国志でも呂布は最強であったかもしれないが関羽、張飛、趙雲の方が英雄視されているだろう。格闘技の話にもある通り、ただ強いだけでない本当の強さがこの3人にはあって呂布にはないのかも。」
「強さとは何か?それが格闘技にはあるんだ。」
「まあ話はこれくらいにして、今日は俺が帰ってくるまでまた、好きなことをやれ。」
「いま考えてみれば、小学生時代、周りは剣道、ピアノ、リトルリーグ、スイミング、色んな習い事する同級生が多かった。俺は公文と塾しか習い事がなかったな。子供の時できなかったことを大人になってからするんだな。カポエイラ。どんな格闘技なんだろう。」
「じゃあ夕方になったら車で道場まで行こう。それまで、好きなことしてろ。」
家に出ようとした時思いだした。
「あ!俺の過去についてだけど、ブログとミクシイというものがあってそれで、俺の過去について日記に書いてある。良かったら読んでみろ。」
「わかった。行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
そういうと石田はアパートを出た。

〜食品工場
 ブラジル人のバイト仲間とお話を
「ブラジルの体育の授業でカポエイラやサンバってあるの?」
「いや。やらないよ。バレー、バスケはあるけど、メインはサッカーだね。」
「意外だな。ブラジルはサッカー、バレーボールで大活躍しているから、カポエイラがトレーニングメニューであると思ったよ。カポエイラはこういうスポーツのトレーニングになると思うし。」
「そういうのって学校ではなく個人で習うんだ。」
「ブラジルって色んな踊りがあるけどそういうのも体育の授業でやるのかと思った。」
「ところで日本人は花火が好きだけど、ブラジルと日本じゃ花火のやり方が違うね。」
「何それ?」
「ブラジルじゃあ水平に花火を打ち上げるんだ。友人で家に命中させたひとがいるよ。」
「す!凄すぎる。日本じゃ考えられない。でもブラジルはセルフビルドが出来るんだっけ。」
「そうだよ。」
「それで立て直すことはできるよね。何から何までブラジル人は凄いことする人たちだよ。」
周りで作業している仲間達を見て、
「おっと話に夢中になりすぎた仕事しなくちゃ。」
夢中になって話をしていてすっかり石田は仕事のことを忘れていた。

〜一方、武志は
「今日はジョギングしてうちの高校の近くに行ってみよう。」
ジャージに着替えてジョギングをする武志。車がよく通る大通りを一直線に走る。通りにはいろんなお店がありどれも言ってみたいなあって思ってしまう。
ジョギングと歩きで1時間。すると武志が通っている高校を見かけた。
「うちの高校って付属の小学校が出来たの?十数年後の世界では学校も変わるんだなあ。」
武志の歩く道からは駅も見えた。
「新広山から高校まで行ったことないけど、結構近いんだな。皆はここを通っているのか?」
「この町はコンビニやバーガーショップがいっぱいあるんだなあ。」
スクールバスを見かけると
「ここからもスクールバスが通っているのか?」
学校の変化も見ることが出来た。
「うちの高校まで行ってみようと思ったけど、今行っても浦島太郎みたいな気分を味わうんだろうなあ。知っている友達はとっくに卒業していて、お世話になって先生方も皆やめているまたは他の学校に異動しているんだろうなあ。」
未来の自分の高校を見て、「時代は違うけど、自分の時代の建物がちゃんと残っている。だから知らない世界に来たわけではないように思えてきた。」
急に未来に来て右も左もわからない。でも、自分の知っている場所を見つけられたことにほっとする武志であった。
「ゆっくり歩きながらアパートに帰ろう。」
そう思い武志は歩いてアパートまで戻る。途中で鉄道の跡地を見つけた。
「こんなところに鉄道の跡地があったんだ。どんな列車が走っていたのだろうか?」
跡地のことでいろいろと想像する。
「どこかの町と、この鉄道がつながっているのだろう。「自分が知らない時代にこの鉄道がよその町に行っていたのかな?」
鉄道のことで思いだした。
「あの列車もこの時代のどこかで俺の居た時代とつながっているのだろうか?10年後の俺には迷惑かけるけど、このままこの時代で暮らすんだろうか?でもそのうち何とかなるだろう。わからないけど。鉄道の人たちも今頃俺のこと探しているんだろうな。」
 武志は自分を未来に連れてきた鉄道の駅のことを考えていた。
「どこにあの列車の駅があるのだろうか?」
武志は、この鉄道跡地で中沢達が電車のメンテナンスをしていることも気づかずにいた。
鉄道跡地に建っている武志をカコは見つけた。見つからないように離れた所から武志を見る。
「中沢さんと未来さんが田沢君をもとの時代に返してくれるから心配しなくていいよ。」そう思い武志を見ていた。
武志はこの鉄道跡地に時間列車の駅があることを知らなかった。
カコはアパートに帰る武志の後をつけていった。

〜食品工場昼休み
「田沢さん。お疲れ様です。」
「目黒さん。お疲れ様です。」
「ニセマッチが喫煙所で例のかっこ悪いポーズしてましたよ。」
「吉本みたいに“出た。格好悪いポーズ”とか言ってやりましょうか。」
「田沢さんが言うと面白く聞こえますよ。」
「よくそう言われます。」
「田沢さんはニセマッチの奴を目の敵にしてますね。」
「ああいう2代目バカ殿様みると腹が立ちますよ。世の中の厳しさ教えてやった方がいいですよ。」
「ハハハ」
「加地さんが言ってたカーテンコールの話は受けました。」
「カーテンコール?!」
「冷蔵室のファインダーが上に上がるのが舞台でいうカーテンみたいに見えたそうですよ。奴がコンサート開いてるみたいでカーテンコールやっているようだとか。」
「奴。ハハハ」
「本物のマッチならスタンディングオベーションですがニセマッチじゃあブーイングですよ。」
「マッチファンがこんなシチュエーション味わったらショック受けますよ。」
「カーテンが空いたらニセマッチなんて嫌ですよね。」
「座布団や湯飲みが舞台に飛んできますよ。」
「はははははは」
ニセマッチのことで爆笑する田沢と目黒。
「あいつ。また優等生面してましたよ。困った奴です。」
「何言ってきたんですか。」
「主任に麺の仕事から梱包の手伝いするように言われて僕が資材置き場に移ろうとしたら」
「「やる仕事変わったからって途中で投げ出すの、良くないよ」」って言ってきやがったんで、僕が「ハイハイわかりました。」とか言ってやりましたよ。おめえに優等生面されて説教されたって説得力ねえんだよって感じですね。」
「サボってばっかりいるくせにって感じですね。」
「はい。まったくです。」

〜アパート
武志は歩いてアパートに戻った。
「ここが田沢君の滞在しているアパートか。インドカレー店と近いんだな。よし、中沢さんに報告しよう。」
カコは携帯で連絡を取る。
「もしもし」
「在原です。中沢さん。ついに田沢君のアパートを見つけました。ファーブル楓というアパートに暮らしています。」
「よし良くやった。そのアパートの住所や地図をあとで教えてくれ。」
「了解しました。メンテナンスの方はどうですか?」
「こちらも順調にいっている。早くて明日には復旧しそうだ。」
「今日、田沢君が駅の近くで見つけました。元の時代にどうやって帰れるか考えていたようです。早く復旧して田沢君をもとの時代に帰してあげましょう。」
「ところで、田沢君はこの時代に来てどう思ったのかね?来てよかったのか、それとも。」
「突然違う時代に来て困惑しているでしょうけれども、良い体験をしているんじゃないでしょうか。来てよかったと思っていますよ。きっと。」
「そうであるといいね。田沢君をがっかりさせたら何のために連れてきたかわからないものだよね。」
「大丈夫ですよ。それでは駅に戻りますね。失礼します。」
電話を切り、駅へ戻るカコ。
「田沢君もうすぐ帰れるから心配しなくていいからね。それまでこの時代のホームステイ楽しんでね。」
そう言って、アパートをさるカコ。
「あれ?誰かの声が聞こえたような。」
時間鉄道の社員が自分を見つけたことを知らなかった。
「まあいいか。翔お勧めの愛読書でも読むか?」
石田お勧めの愛読書を読むことに。
「俺はテレビゲーム以外は無我夢中にならないのにここにある本はすんなり読めるし、共感するものがある。」
ドゥンガ著の勝者の条件、ジーコの個を活かして勝つ、中村修二著好きなことだけやればよい、自己啓発の本など。
彼にとってのバイブルをいろいろ読んだ。
「未来の俺が進んだ軌跡を歩んでいるようだ。」
色んな事に悩む彼が心の拠り所とした教えが説かれている。
勝負を捨てないこと、自分が情熱を燃やせることに全力投球、勝つためにとにかく反復練習すること、基礎を制するものが勝利を手にする。・・色んな教えが書かれていた。
「英雄たちの軌跡が分かる素晴らしい本だった。本は時に自分のバイブルとなるものだな。」
「次はCD聞いてみるか。聞いたこともないCDがいっぱいある。そういうのも聞いてみようか。何か答えが見つかるかもしれない。」
DA PUMP、嵐、TMR、モンゴル800聞いているだけで気力がわく。
「音楽も心の支えだった」
音楽で知らない未来の世界を知る。
「この時代では嵐というグループが人気のジャニーズグループなんだな。俺たちの時代はSMAPが目立っていたな。このグループの曲は応援歌が多い。ラップも入っていて聞かないような音楽だ。」
いつの時代でも音楽は人の心を支えてくれるものだと思う武志。
「昔、音楽は受験科目に入らないという理由で軽視していた。でも今は音楽の大切さを感じるな。」
色んなアニメといろんな音楽。そういうものを使っていろんな世界を空想した。それが楽しいことだった。世界を救うヒーローに自分がなったこと。当時好きだったSDガンダムのキャラになったり、自分が頑張っていることをアニメに重ねる。
「辛い時でもいろんな音楽、歌を自分のテーマ曲にしていた。自分が主人公のアニメを想像するのが好きだったなあ。こんな素晴らしい曲にぴったりなドラマのように生きたい。」
空想のアニメでは大活躍。だけれども現実はこの通りにはならない。
「いつも力不足で負け組。テストを返されるたびにいつも落ち込んでいた。・・・」
理想と現実のギャップを常に味わう、
「勝利の美酒に酔える瞬間はそうはないものだ。それでもその瞬間を味わうために頑張っている。」
歌には共感するフレーズがちりばめられている。
「高校卒業後の俺はどうやって立ち直ったんだろう?こういう音楽や本の教えによって再起を図ったのだろうか?」

〜鉄道跡地
「未来君お疲れ様。きみのおかげで早く復旧できそうだね。川岸駅に行って遊んできていいよ。気分転換してきな」
「ありがとうございます。じゃあ紀伊国屋行ってきます。」
「君は電機が好きなんだね。大学院に出ていて成績も優秀だった君がうちの会社に来てくれたことはうれしかったよ。」
「社長の人々が願っている長年の夢を実現させるんだって言うスピーチが魅力的でした。アニメの世界だけの話であったタイムスリップが出来るんですから。」
「名門大学出の子たちは待遇のいい大企業に就職しようとするけど、君はステータスに縛られないんだね。」
「はい。僕は純粋にやりたい仕事のために勉強してきましたから。田沢君はいい学校入ることばかり考えているような子ですね。自分のやりたいことをやるために勉強するようになってもらいたいです。ここでの体験でそれを学んでほしいなあって思いますよ。」
「田沢君はここでの体験で大きく成長すると思うよ。」
「電車を直して田沢君がもとの時代に帰った時に来て良かったって思ってもらいたいですし、うちの会社のリピーターになってもらいたいですね。」
「社長に僕から報告しとくから君は午後休んでいていいよ。」
「はい。それではよろしくお願いします。」
未来は駅へ向かって行った。中沢は本社に連絡を取った。
「こちらゴールドアロー一号です。」
「こちら本部。中沢君かな。」
「社長。お疲れさまです。列車の方は復旧が進みました。早くて明日には列車を動かせるようになります。」
「うん。よろしく頼むよ。田沢君は見つかったかな?」
「はい、在原が見つけてくれました。」
「田沢君は未来に来てどう思ったのかな?」
「田沢君はここの生活を楽しんでくれたと思います。30になった田沢君と一緒にいるんですけどホームステイ生活を楽しんでいましたよ。」
「そうか。君たちは私の夢のために入社してくれて本当に感謝している。説明会開いても他の学生はみんな相手にもしてくれなかったけど。」
「われわれの夢ですよ。私も未来も在原も社長のスピーチ聞いてやりがいを感じたんです。人々の長年の夢をかなえるって言葉に魅せられました。」
「タイムスリップによる弊害はこれから出てくるかもしれないし、発展途上の業界ではある。でもこれはきっと人類にとっての産業になると思っている。違う時代の人同士がつながることが出来ることは人々に夢を与えることだと私は考えている。田沢君には未来に来て良かったって思ってもらいたい。」
「メンテナンスの方急いで済ませます。そして田沢君には来てよかったと思ってもらえるようにします。」
「うん。じゃあ頑張ってくれ。」
「失礼します。」
中沢はテレビ電話を切ると職場に戻った。
「よし、早くメンテナンス終わらせるぞ。」

〜昼休憩終了後
 昼休み後の2時間は仕事が多忙を極める。調味料、食材、包材色んなものを入荷するため大童。点検からハンコを押す、資材の移動、色んな作業をやることに。
「田沢さん。包材は角をもって投げるようにしておくといいですよ。」
「じゃあ。行きます。・・・あれ。」
上手くのせられず、上から転がってくる。
「これも慣れですよ。」
「どうもすいません。」
皆が忙しく働いている中、一人うろちょろするだけの社員がやってきた。
「北田の奴、こっちは忙しく働いているのにうろちょろしやがって。うぜええ。」
木田はまじめに働かない社員達に憤りを覚え、また悪口を言う。
「あの人はうろちょろする以外脳がないんですかね。」
「ここの社員は頭の悪い奴が多い。嫌になってくるよ。」
「木下さんはまだまともですよね?」
「あいつ俺がいるときに限って大量に入荷するの。ニセマッチの野郎がいるときは少なくしやがって。」
「嫌がらせじゃないですか?」
「自分がやりたくないから。俺がいると運ぶから入荷するんだよ。」
「そうだったんですか。あの人は北田さんに比べたら仕事に対して意欲のある人だと思ってたんですけどね。」
「ここの社員は頭の悪い奴らが多い。」
「バイトも変人が多いです。」
「古田も変だったけど、バイト先の人と不倫して子供作ったのまでいるから。」
「誰ですか?」
「増川って言うのがいて、そいつ、バイトのことやったんだ。」
「確か悩みの相談役に載ってた人ですよ。こんなナンパヤローにセクハラの相談したくねーって思いますよね。」
「ははは」
「それに安井さんも載ってましたよ。」
「あのおばちゃん。むかつくからやめてと相談しにいきてえ。」
悪口を言いまくる木田。目黒が言った。
「ここにいる間は深く人付き合いをしようと思わない方がいいですよ。」
「この人たちと一緒にいるとドラクエの奴隷生活を思わせるよ。囚人たちとは仲がいいけど奴隷主たちとは仲が悪いってやつ。脱獄するのは内定を取れたときってことか。」
石田はこの今の状況をゲームやアニメでありがちな囚人生活と重ねた。
「木田さん。安井さんって騒音おばさんが若くなったみたいですね。・・・」
「あいつ嫁の貰い手いないよ。あんな上から目線の態度とったらここじゃなきゃ殺されるぜ。」
「なんかこの前防塵服着てここに来てたんですよ。カメがいるかと思いましたよ。」
「亀ねえ?確かに俺もあいつ見た時誰だ?て思ったよ。ニセマッチの奴はあいつでお似合いだ。」
「ここでアイドルはあややしかいないですね。」
「ははは・・・・。」
「やつは親の会社つぶれるまではキャバクラ行きまくってたみたいよ。でも金の切れ目が縁の切れ目であいつ金がなくなったら相手にされなくなったよ。」
「奴は異性に対してセールスポイントがないですね。」
「今もキャバクラの女が俺に弁当作ってくれているとか言ってたけどハッタリだね。あいつ飲み会でも最悪だよ。」
「何やったんですか?」
「自分が驕るとか言っといて、金出さないの。店の姉ちゃんが困ってるから俺が金出した。それに酒癖悪くて、酔うと調子こいて人の頭パーンとかたたくの。」
「一緒に飲み会行きたくないですね。」
「だろ。わざわざ遠い店に行かせるし。別に川岸市でもいいじゃん。でも小宮とか、浦光とかまで居酒屋も遠出させるし。」
「わがままも度を超えていますね。あいつJoseに頼んで十字架につるして教会連れてきましょうか?それで懺悔させてやりましょう。」
「あいつはそれぐらいやんなきゃだめだね。」
「ニセマッチのような40にはなりたくないものだ。」
石田はそう思った。

〜アパート
武志は高校の友達からの手紙を見つけた。その手紙からは未来の自分と高校時代の仲間たちとの人間関係が書かれていた。
「矢部君からだ。高校卒業してからも彼とは付き合いがあったんだなあ。彼はハードなロックを聞くんだ。ちょっと意外・・・。」
「竹山君とも付き合いがあったんだ。おとなしい寡黙な人だったけど良い悩みの相談相手だったんだな。西川君とは色んなゲームを借りたりしてたんだ。高校時代はいい友達に出会えていたんだな。いろんな人たちが俺を支えてくれている。」
いろんな友達が自分の周りにいることを幸せだと思った。
「小学校中学校は友達がいなくていい思い出がないけど、高校は友達が多い。100%自分の理想にあったというわけじゃないけど小さい時に比べたらいい環境に恵まれるようになったな。学校卒業後はどんな仲間達がいたんだろうか?」
未来の自分がどんな人と付き合いがあるか気になった。
「彼が言っていたブログ、ミクシイというものを見ればわかるかもしれない。」
そう思い、武志はPCを起動させた。
「インターネットをつなげて。」
見慣れないPC画面を見ながら、未来の世界には優れた技術があることを感じる武志。色んなアニメで未来の世界を見た。メカアニメやドラえもんで見るような道具ほどではないにせよ時代が進めば優れた技術が誕生する。そんな世界を想像する。
「昔の人も未来をこんな優れた技術が存在する世界を想像していたのかも。」
ネットがつながり、早速ブログやミクシイを見た。ミクシイには彼の軌跡が載っていた。社会人になってからの苦労話や日常生活、休日のこと。心動かされた感動的な出会い。カポエイラを通じて学んだこと。将来に対する不安。未来への思い。勉強してきたこと。・・・いろいろな体験が載っている。
「色んな町に行ってたんだな。滋賀、群馬、神奈川、愛知、三重・・・・。海外も韓国、台湾。休日は観光を楽しんでいるんだ。東北、北陸、・・・それに沖縄まで。いろんな場所に行けておもしろそうだな。」
武志の知らぬ土地のことが数多く書かれていた。
「仕事場に恵まれず孤立することや情熱が湧かないこともあったんだ。工場勤めの話では不良たちとけんかが絶えなかったと書かれてある。こんな連中と一緒になりたくないから進学校に通ってたのに社会人になると一緒なのか会いたくない未来もあるものだ。」
学歴主義の名残を感じさせる経験も
「学歴で給料が決まることやそれによる争い。自分と逆の環境で育った人間と一緒になる苦痛ぶりも書かれている。大人になってからもこういうけんかが絶えないんだな。高校は何とか進学校に入ったものの勉強のできるやつらからは下に見られるし、逆に勉強が出来ない奴あらからは敵のように見られる。どっちいっても喧嘩が絶えないな。」
でもそんな中でも良かったことが書かれていた。
「工場勤めの人たちは学歴が低く勉強が出来なかった人が多いし、年の割にやることの程度が低い人は多い。でも勉強のできる人たちに比べれば工具を使いこなすのがうまいし、頭でっかちじゃなく、物事の吸収が速かったりするんだ。」
受験に失敗したからこそ得るものがあったことを知った。
「もし俺が名門大学に合格し、大企業の幹部になったらこういう人たちを馬鹿にして相手にもしなかったと思う。不良だから劣っているわけでもないし、学歴が低いから能力がないわけでもない。勉強がよくできるエリートと落ちこぼれのはざまにいるからこそわかることってあるんだな。」
大学の教育では足りないことなども書かれている。技術の世界では机上の空論名ばかり教え込まれ実物を知らなすぎること、世の中渡っていくには自主学習できることも必要だということ。社会人を経験して気付いたことが多く書かれていた。自分たちの世代が学校教育の弊害が出ていることなども書かれている。
「日本の教育の弊害がいろいろと書かれている。俺たちの世代は間違った教育を受けているんだな。もしかしたら俺は日本の間違った教育による未来への警鐘を知るために、この時代に来たのかもしれない。」
ロスト世代についても書かれている。勉強が出来るようになりいい大学に入りいい企業に就職することが正しいことという価値観が崩壊している。また、他の世代からはキレる世代などと揶揄されている。
「なになに、『あいつらはプライドばかり高くて少しプライド傷つけられるとすぐにキレるし、犯罪者が多いのもこの世代じゃないか。・・・』
図星だ。俺の中学は学力のことによる喧嘩が激しい。勉強が出来ないと馬鹿にされるが出来るようになると周りが嫉妬や妬みを持つようになる。俺に成績抜かれたやつらで見苦しい負け惜しみ言う奴も多かった。俺もそうだけど少し馬鹿にされたらすぐキレるやつ多かった。」
武志はこの世代がどうなっているか考えてもいなかった。
「10年後の俺、いや翔はおれたちが受けられなかった教育をしたいと思っている。この時代に来た意味はこういうことにあるのかもしれない。」
石田が経験してきたものの中に何か答えがあるかもしれない。そう思う武志。
「この日記の中に答えがあるのかもしれない。」
初めての転職で愛知に行った。そこでの体験談が載っている。
「彼は愛知に暮らしていたときにカポエイラを習い始めたのか?」
カポエイラの技の名前、使っている楽器のこと、魅力について書かれていた。
「本当にブラジルが好きなんだな。カポエイラとの出会いも書かれているな。」
カポエイラがやブラジル文化が石田にどんな影響を与えたのかも気になる武志。
日記にはコメントが付いているものがある。
「コメントがいろいろある。何だろう?」
そこには武志を励ます仲間達の激励、記事に共感したとの声、お礼の返信、・・・。こういうものから未来の自分には多くの友達がいることを感じた。
「いろんな出会いがある。まるでRPGの旅日記だな。」
一人孤独な戦いをする彼の日記を読んでいて夢中になる。
マイミクというのを見て彼を支えてくれる仲間が大勢いることを知った。
「俺にはこんなに多くの仲間達がいるんだな・・・・。」
見ていてうれしくなった。
10数年後、自分がこの仲間達とどのように出会い、どういう付き合いがあるのか?考える。未来が楽しくなってきた。
「仲間が増えていく。ゲームじゃなくて本当のことなんだな。」
これからの未来に希望を持つようになった。
「厳しい世の中であっても、うれしいこと、良い出会いがあるんだな・・・」
未来の明と暗二つを見ることが出来た。辛い中にもうれしいことがある。辛い中にも仲間がいて支えてくれて楽しいことがある。それを日記から読むことが出来た。
「人は生き方一つでRPGのようなわくわくする冒険のような暮らしが出来る。辛いことや困難に耐え必死に明日を生きようとするところは強いモンスターや魔王たちとの戦いのようだ。」

〜休憩時間
着信があり電話をかけ直す石田。留守電をきくと
「田沢武志様の携帯電話でよろしかったでしょうか?私エクセレントテック愛川と申します。案件のご紹介がありましてお電話させていただきました。着信を聞かれましたら折り返し電話をお願いします。失礼します。」
休憩室に行き電話をかけ直す。
「愛川様でしょうか?私、応募者の田沢武志と申します。」
「田沢さんですね。エクセレントテック愛川と申します。群馬の方で案件がございまして某通信機器メーカーで回路設計評価の仕事をされる方を応募しております。田沢さんのキャリアについてお聞かせ願います。」
「はい」
「田沢さんはスペクトラムアナライザーを使用されたことがあるそうですがどういった測定をされたのでしょうか?」
「カーレーダーの受信電波測定をしていました。ダイカストホーンというものから電波を出してレーダーガ検知した時の電力を測定し、不具合がないかどうか調べていました。」
「CADのご経験と主にどんな回路の図面を作っていましたか?」
「通信機器(衛星向け)のもの、カーレーダー、SWRメーターをモデルにした回路図面を作成しました。大まかな仕様などは上司や先輩方が決められていて、私は仕様に見合う部品の選定回路の改造提案などをしました。CADはOrCAD、CADVANCEというものを使い回路図面を基板データにする仕事もしていました。」
「かしこまりました。それでは案件先の企業から面接のお約束がいただけましたら電話させていただきます。
同時にキャリアシートを送らせていただきますので作成して私のもとに送信していただけたらと思います。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「失礼します。」
この面接案内の電話が来るのがいつも楽しみだ。
「内定とって失業生活とおさらばだ。お盆休み迎える前までに内定を取りに行く。」
石田は他の人たちが夏休みを楽しんでいるのを見ていつも自分だけブルーになっていた。近所の祭りを見て、
「ほかのみんなは仕事をして、海に行ったり、夏祭り楽しんだり、花火大会をしたり夏休みを楽しんでいる。でも俺は・・・・」
景気が安定している昔なら当たり前のように出来たことも今ではできない。
「ここ数年。夏休みはいつも失業者だ。来年こそ仕事を頑張ったご褒美に夏休みを迎えたい・・・。」そういう思いを胸に秘める石田であった。
休憩時間が終わり、倉庫整理の仕事をしに行く。
「仕事が終るまであと少しだ。頑張ろう。」
スープ置き場を整理し、冷凍庫の整理整頓を行い、掃除をする。そうしてアルバイトは終了した。
「お先に失礼します。」
「お疲れ様です。」
石田はロッカーに戻り、着替えた。
久しぶりに行くカポエイラ練習のことで頭の中はいっぱいだった。帰りのバスに乗り込む石田。読書しながら川岸駅へ向かう。窓から夕陽が注ぐ。これを見ると一日の仕事が終わったと開放感を感じる。バスの中では陽気に騒ぐブラジル人、仕事のことを愚痴るおばさん、パチンコの話をするバイト仲間・・・・。いろいろな人たちがバスの中にいる。
「明日は休みだ。どうやって過ごそうか。」
やることと言ったらカラオケ、読書、カポエイラ練習、ジョギング、ゲーム、感想文・・・・。武志とどう過ごそうかと考える。バスが川岸駅で停まった。
「ありがとうございました」
従業員たちがバスを降りる。家庭の仕事が待っている人。仕事帰りのパチンコに興じる人。いろいろなアフターファイブがある。
石田は帰り道、いつものように橋の下で倒立歩行の練習をする。
「よし、今日はこれだけ動けた。」
倒れても何回でも練習する。
「前に比べたら出来るようになった。カポエイラ道場いったらまたやろうか。」
日課の倒立歩行練習が終わると家に帰った。

「ただいま。」
「お帰りなさい。今日の仕事はどうだった。」
「今日もニセマッチの奴が優等生面すんの。『ハイハイわかりました』ってあしらってやったよ。こっちは忙しく働いてるのにただうろちょろするだけの奴がいたりと変な奴らばかりだよ。」
「変な奴らと過ごさなきゃならなくて大変だね。ところでそのカポエイラレッスンは今から行くんでしょ?」
「ああ行くよ。師匠や仲間には俺が失業していることは言わないでね。それと俺の親せきってことでうまくごまかして。」
「わかった。」
「じゃあ早速車運転するから裏の駐車場に回ってくれ。」
 
〜車の中
車を走らせ、道場へと向かう。曲は嵐のベストアルバムをかけていた。
「この時代ってラップが多いんだね。そういえば俺のいた時代じゃあEast and +Yuriが出てからラップが下火になってしまったな。少し前はmcATがラップを歌っていて・・・。」
「21世紀になるとラップ歌うアーティスト増えるよ。」
「どんなグループが人気あるの?」
「そうだなあ。DA PUMP、w-inds,Dragon Ash,・・・あたりが有名かな?」
「どれも聞いたことないアーティストだ。」
「21世紀にはいると音楽業界不景気になるし、芸能界の花形もお笑い芸人に代わってしまう。でもいろんないい歌を歌うアーティストもいるんだよ。そうそう、シーモっていうアーティストの話をするの忘れていた。」
「シーモ?どんなアーティストなの?」
「アニメっ子な人でルパンのうたをラップにした曲を歌ったり、歌詞にいろんなアニメのキャラが出てきたり。そうそう昔シーモネーターっていう名前で活動していたんだ。」
「シーモネーター?下ネタとターミネーター混ぜたみたい。ナイスネーミング。」
「CDジャケットが江田島平八とツーショット!!」
「江田島平八とツーショット!それに男塾とラップ!何かあわない。」
「あのジャケットは衝撃的で頭に雷が落ちたよ。」
「凄い人だね」
「実家近くのパルコで中古CDのバザールやっていたんだ。手に取った瞬間すぐにレジに行ったね。」
「それ聞いてみたいなあ。」
「シーモや他のラッパーたちとのコラボ作品なんだけど、彼らは名古屋出身なんだ。このアルバムが縁なのか社会人初の転職先が愛知だったんだ。」
「それミクシイでみたよ。愛知では色んな事経験したんだね。カポエイラ習い始めたり、ブラジル文化に触れたり、仕事で色んな喜怒哀楽経験したり。」
「うん。いまでも第2の故郷のように思っている。良い仲間に恵まれたし。最初は首都圏から離れて嫌だと思ったけどね。」
「愛知かあ。静岡は昔よく言っていたけど、愛知は行ったことないなあア。」
「東海地区はうちの家系に縁のあるエリアなんだ。姉貴は俺が生まれる前に愛知にいたんだ。」
「それは知らなかった。」
「姉貴も当時のことは覚えていないみたいだよ。」
「愛知のどういう町?」
「犬山って言う町があるんだ。」
「知らないなあ。」
「なんでも桃太郎生誕の地であり、犬山城という名城がある。岡山は桃太郎が鬼退治に行った場所で生誕の地はこの犬山というところなんだ。」
「へえ知らなかった。桃鉄ですら犬山でてこなかったよね。」
「意外だよね。岐阜県の県境で岐阜名物鮎も食べることが出来たよ。あとね、関羽が亡くなった樊城と姉妹都市なんだ。」
「姉妹都市?」
「日本の色んな町が海外の町と肉親のようにつながっているんだ。これからお前が行くワシントンも福井市と姉妹都市なんだ。」
「ワシントンと日本が関係してるんだ?未来の俺は色んな町に行くんだな。」
「埼玉ってこれといった観光地がないだろう。でも他の都道府県に行くといろんな出会いがあるんだ。」
「狭い日本と言われていても色んなものがあるんだね。」
「そうだ。旅行するのもRPGみたいなものだ。」
「愛知でカポエイラと出会ったんだっけ?」
「そう愛知に大須観音という町がある。秋葉原と浅草が合体した異様な街だ。そこのブラジル雑貨店でカポエイラを習えるところを見つけたんだ。」
「ブラジル雑貨店?そんなもの愛知にあるんだ?」
「愛知は日本で一番ブラジル人が多い町なんだ。他の国の人もいっぱいいるけど海外の人と言ったらブラジル人というくらいだよ。標識も英語、韓国語、中国語以外にもポルトガル語があるから。」
「本当に日本のブラジルだね。」
「ブラジル雑貨店、ブラジル料理店には良く行ったよ。」
「まるで翼君がブラジルにあこがれたみたいだ。あ!ミクシイでブラジルへの旅というのがあったね。自然のファッション、いとしい女性の話や毒蜘蛛に悩まされた話や、休日はリオ、サンパウロに行ったんだって?」
「あれはブラジルに行ったと仮定して日記書いたの。懐かしいねえ。サッカーでブラジルに興味を持ち色んな世界を知った。カポエイラをやることでいろんな人たちと友達になれた。自分の知らないブラジルのことを知った。」
「愛知にはブラジルのように広い世界があるんだね。カポエイラやってると友達が多くなるんだね。」
「ああ。いろんな職業の人がいて異業種交流が出来る。習いに来る人のほとんどは日本人だけど、ブラジル以外の海外の人も習いに来る。フランス人、コロンビア人、オーストラリア人、ルーマニア人いろんな国の人が来るよ。ああ、うちの団体はスイス人やオーストラリア人がいるんだ。」
「色んな外国の人が来るんだね。」
「ブラジルって多民族国家でしょ。その影響があるのかもよ。多くの人種が一つに混じる。アメリカみたいに人種同士でコミュニティー作るのとは対照的だ。」
「じゃあカポエイラはブラジルの国民性が表れているんだね。」
「そういうことだ。色んな違うものを混ぜて一つのものにする。そういうところがブラジルらしい。そろそろセンターに着くころだ。」
「楽しみだな。」
交差点を渡り、駐車場に入る。
「さあ着いたぞ。」
車を止めて、武志を外に出す。
「それじゃあ行こうか。」
武志達はスポーツセンターに向かった。

石田は荷物を持ってセンターに入った。どこの部屋で練習があるか掲示板で調べる。
「今日はD室か。よし行こう。」
練習部屋に近づくとビリンバウの音色が聞こえてくる。
「これってギターの音と違うね」武志は聞いたことない音を不思議に思う。
「ビリンバウって言うブラジルの楽器だ。カポエイラやっている人なら知らない人はいない。」
ドアを開けて部屋に入る。
「Tudo mundo!Boa noite。みなさんこんばんは」
「クリアンサ!久しぶり。元気にしていた?」
「ええ!訳あってこれませんでしたが。」
「よう!クリアンサ。」
兄弟子といつものように挨拶する。グーで合し手と手を合わせる。
「今日は従兄弟を連れてきました。」
「あ。どうもおじゃまします。」
「クリアンサが若くなったみたい。はじめまして」
「ギク!」
「よろしくお願いします」
武志に寄り添いそっと耳打ち
「ここでは田沢隼人って言う名前にしといてくれ。」
「うん!わかった。」
「じゃあ隼人。準備運動しておきな。」
「わかった。」
師範が武志達のもとに寄ってきた。
「こちら師匠のTakeoさん。でこちらが兄弟子の一人マルシオさん。」
「はじめまして。日系ブラジル人の方ですか。」
「いや違うんだ。カポエイラをやっているとアペリード、あだ名をもらうんだ。」
「ア・・・アペリード?」
「カポエイラではあだ名で呼び合う習慣がある。カポエイラやっている人の8割は皆何かしらあだ名を持っているんだ。」
「彼ならmenino.少年という意味。」
「そのクリアンサっていうのも?」
「そうポルトガル語で子供という意味。前の団体の師匠から貰ったんだ。」
「じゃあ僕ももらえるのかな。」
「長くカポエイラ続けているともらうんじゃないかな。」
他のカポエイラ仲間が次々とやってくる。
「クリアンサ。久しぶり。元気にしてた。」
「おやLuisさんご無沙汰しています。」
「そちらの彼は?」
「僕のいとこで隼人って言います。いまうちのアパートに遊びに来ているんで連れてきました。」
「かっこいい名前だね。」
「どうも田沢武・・隼人です。」
自分の本名を言いそうになりあわてた。
「んん!」
「自分の名前を間違って言っちゃう癖があるみたいで・・。」
石田はあわてて取り繕った。
「よろしく」
海外出身の仲間達が入ってきた。
「It’s been a long time!ひさしぶり。」
「久しぶり。Why were you absent from lengthy?なんでながいあいだこれなかったの?」
「Recently I was busy.最近仕事が忙しくてね。」
武志を見ると。
「クリアンサ弟いたの?How do you do?はじめまして」
「Let me introduce him to you.彼を紹介するね。」
He is my cousin,Hayato Tazawa.僕の親戚で田沢隼人だ。」
「Nice to meet you!お会いできて光栄です。」
「I’m James.I’m from Australia.僕はジェームズ。オーストラリアから来たんだ。」
「Australia is popular.Japanese students often go there as school journey and home stay.オーストラリアは人気があります。日本の学生が修学旅行やホームステイでよく行きます。」
「Crianca has been to Australia.He went to Sydney,Canberra.They are nice places.So you enjoy sightseeing.クリアンサはオーストラリアに行った事があるんだ。シドニーとキャンベラに行ったそうだよ。良い場所だ。君も観光楽しんでよ。」
「Really!I didn’t know he went to Australia.Someday I want to go there.ええ!彼がオーストラリアに行ったのは知らなかった。でもいつか行きたいな。」
続いてもう一人の西洋人と思われる仲間が
「My name is Robert.I’m from Switzerland.僕はロバート。スイスから来たんだ。」
「Switzerland!The country of Haiji.スイス!ハイジの国だ。」
「Haiji?who is she?ハイジ?だれそれ?」
「She is the heroin of the comic.This comic is about her life of Alps.彼女は漫画のヒロインなんだ。アルプスの生活を描いた漫画なんだ・」
「It’s interesting.I’ll read this comic.おもしろそうだね。読んでみるよ。」
「Let’s read this.I recommend this.是非。おすすめします。 」
武志は英語で彼らと談笑していた。来月は初めて海外に行くことになる。
「外国には楽しい出会いが待っているんだろうなあ。来月は初めて海外に行く。アメリカはどんな国なんだろうなあ。英語が出来るようになると楽しいものだな。海外の人とこうやって話が出来るんだから。」
海外に行くことに期待を膨らませた。
「さあ練習始めるよ。みんな。」
まずは準備体操。普通の準備体操がアレンジしたようなものまである。
「あんなストレッチ方法があるのか?」
続いてランニング。ただ走るもの以外に横走り、バック、足をクロスさせながらランニング、腕をクロールのように動かしながらランニング。体育の授業でもやらないような運動ばかりでスポーツで海外を味わった。
「カポエイラは準備運動も変わったことするんだね。こんな運動やったこともないよ。」
「ストレッチだけでもやったこともない動きをするんだよ。」
続いて低い体勢で運動。これがきつい。爬虫類のように地を這うように動いたり、腰を低くして動いたり。皆辛そうにやっている。武志にはこのなれない動きに参りそう。
「こんな辛いことするの?カポエイラって。」
「かっこいい技に魅せられて入ったけどやってみると辛いことばかり。足がすぐ痛くなるだろう。」
「ハードな運動だね。だから空腹で行くようにしたのか?」
「そういうこと」
「背筋と太ももが痛いなあ。」
休もうとする石田を見て師範が
「ボーラ。クリアンサ。どうしたの。」
この辛い修業はこの団体ならではのもの、石田はいつも
「ここの練習男塾並みにハードだよ」
という。彼にとっては男塾のしごきを思わせる。低い体勢の運動が終わったらまた次なるしごきが待っている。
「今度はペアになって倒立歩行。」
「こんなきつい練習した後更にあんな事まで・・・」
帰宅部の武志にはこの運動は辛いはず。ずっとカポエイラをやってきた人たちでも辛いのだから。
「うげえ。もう限界だ。休みたい。」
「隼人君!若いんだからこんなところで音を上げちゃあだめだよ。」
「腰が折れそうですよ。」
「おじちゃんだって辛いんだからね。我慢しなきゃあ。」
「勉強は頭が苦痛覚えるけど、運動は常に体に苦痛を覚えるものだ。」
「辛いのは君だけじゃないんだよ」
「はいRelax」
「うええ!吐きそう!トトイレ行ってきます。」
準備運動が終わるや否やトイレに駆け込む。
「うえええ具合悪い。」
「ここの道場で練習すると過ぎに酸欠なるんだよ。これ飲みな。」
「ありがとう」
石田もペットボトルに入れた飲み物を飲む。
「あれクリアンサ。野菜ジュースじゃあないんだ。」
「Cha vermelha!紅茶にしました。お茶の方が胃に負担がかかりませんね。」
「野菜ジュースは胃に応えるから、お茶の方がいいね。じゃあ練習再開。」
今日は紅一点、副師範と思われる女性に、師範が
「美香、クリアンサの従兄弟に技教えてあげて。」
「わかった。ケッシャーダとジンガをまずは教えることにするね。」
「それで頼む。」
打ち合わせをすると美香が
「隼人君だっけ?一緒に練習しようか。」
「よろしくお願いします。」
石田は仲間達と一緒に練習を、武志は美香と一緒に練習することになった。
「はじめまして。私は美香って言います。」
「よろしくお願いします。ところで、うちの武志兄ちゃんはここではどうですか?」
「面白いことして目立つ人だよ。」
「そうなんですか。」
「うちの団体でメストランドポポっていう師範がいて武夫は彼の弟子なの。ブラジルで修業してここで道場開いたの。」
「ミスターポポみたいな名前ですね。」
「良くそう言われるよ。クリアンサはねカブトムシのことを質問したわけよ。」
「なんでカブトムシの話を?」
「なんでも小学校の頃にヘラクレスオオカブトが欲しかったらしくそれでブラジル行きたかったんだって。」
「ああなるほど。」
子供のころを思い出す武志。武志は小学生時代。図書館で借りたカブトムシの図鑑で世界のカブトムシを興味津津に見ていた。
「おかあさん。このヘラクレスオオカブトって言うのかっこいいねえ。」
「お前、新婚旅行でカブトムシほしいから海外行くなんて言ったら奥さんに逃げられるよ。」
小学生の時の記憶がよみがえってきた。
「そんなことあったなあ。」
「え?」
「ああ。武志兄ちゃん僕とカブトムシ取りに行く時ヘラクレスオオカブトの話していたなあって。」
「ポポ大笑いしてね。クリアンサは熱を入れてヘラクレスオオカブトについて語りだしたのよ。『日本じゃあカブトムシ取りに行く時は蜂と蛇に気をつけなきゃなりませんけどブラジルじゃあ蛙にも気をつけないとだめなんですよね』とかね。あと武夫が練習後に小さいアマガエルにちょっかい出してる時も『ブラジルの蛙って猛毒持ってるんじゃないんですか。』とか質問するし。よっぽどヘラクレスオオカブト取りに行きたいんだね。だからこんな質問したんじゃない。取りに行く時のこと考えて。」
 笑いながら話す美香を見て苦笑する武志。
「ポポが彼のことを子供のような質問する奴だといってクリアンサってあだ名になったの。」
「たしかアペリードでしたっけ?」
「よく知ってるね。カポエイラやっている人は皆ほとんど持ってるんだよ。」
「このアペリードってどうやってつくんですか?武志兄ちゃんみたいに面白い子としてそれでつくんですか?」
「彼は特殊。その人の性格とか好きなものとか行動、出身地から着くことが多いね。たとえば酒好きならブラジルの酒カイピリーニャとかね。」
「武志兄ちゃんもよくあだ名つけられる人だった。」
自分の過去を考えた。がり勉君なことから「がり」ってよばれたり、班長になったから班長と呼ばれたり、田沢という人物が作ったロボット田沢28号から28号というあだ名がつけられたりしていた。
「ちなみにカポエイラの巨匠でビゾーロ、ポルトガル語でカブトムシって言う人もいるよ。」
「その人はカブトムシが好きだからついたんですか?」
「それはないよ。色が黒かったからそう呼ばれたんだと思うよ。じゃあお話はこれぐらいにしてケッシャーダというけり技を教えます。」
椅子を置いて相手に見立てる。美香が模範を見せる。地に足を踏ん張り勢いよく大股蹴り。
「おおお!」
華麗な技に驚嘆する。
「相手のあごを狙うように蹴るの。最初は足が上がらないから椅子より高く蹴るようにやってみよう。」
「はい」
武志はやってみるが体がぐらつく。
「これって体をキープするのが難しいですね。」
「慣れるまで時間はかかるよ。」
「こういうのってすぐにできるようになるわけじゃないんですね。」
「何か運動はやっていた?」
「いいえ。たまにジョギングしたり、するくらいで体育の授業以外はとくに。カポエイラって器械体操のような技が多いって聞きました。」
「ブリッジとか倒立はあるけど、練習すればできるようになる。」
「出来るといいですけどね。」
「最初はつまらなく感じるかもしれないけど続けていれば楽しく思えてくるよ。」
「楽しめるようになるには何事も練習あるのみってことですね。」
「そういうこと」
今日のカポエイラ体験レッスンで
「勉強するのはつまらないし苦痛だ。どうやったら楽しくなれるんだろうと考えたことがある。この練習で思ったことがある。努力っていうのはつまらないものを楽しめるようにするためにやる修業なんだって。」
武志はそう思った。

練習後の締めはいつも筋トレ
「それじゃあ筋トレやるよ。皆輪になって。」
皆で輪を作り仰向けになる。
「ヘマヘマ(腹筋)30回。左右それぞれ10回と正面。まずLuisから。」
「um,dois tres,quatro,cinco,seis,sete,oito,nove,dez(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10)」
聞きなれないポルトガル語の数がホールにこだまする。
次はRobert.
「um,dois・・・・」
「つぎJames」
順番に時計周りで筋トレをしていく。
「次、左側クリアンサ」
「um,dois,tres・・・」
声は出ているが腹筋が動いていない。苦しそうに腹筋する石田。
「クリアンサ、声は出てるけど体が動いてないよ。」
「quatro,cinco,seis..」
「もっと辛抱しなよ。」
「sete,oito,nove」
「ラスト。Ultimo」
「dez,やっとおわったあああ」
「はいrelax」
少し休憩を入れたら、takeoが意表をついて、
「ラスト。クリアンサJr!!正面の腹筋」
「ええ?僕ですか?」
「そうだよ。ボーラボーラボーラ」
「じゃあ1・・・,2・・・,3・・・4・・・,5・・・,6・・・,7・・・,8・・・,9・・・,10」
 腹筋が思うように動かないが何とか終えた。
「はいお疲れさま。じゃあ早速着替えて外に出ましょう。」
「本当にカポエイラって辛いねえ。クリアンサ」
「そう呼ぶようになったか。」
石田はこれを聞いて武志が別人になったように感じた。
「俺は違う自分にかわっていたんだな。」
「はあ?」
「急にクリアンサってよばれて自分じゃない別人として、俺のことを見るようになった気がしたんだ。芸能人が本名と芸名わけるみたいでさ。」
「何のことか分からないけど。」

外に出ていつものようにレッスン料を払う。
「はいありがとう。」
「クリアンサJr。今日のレッスン楽しかった?」
「ええ。楽しめました。カポエイラは見るとやるでは違いますね。模範演武のように華麗な技が使えるようになりたいです。」
「練習すればできるようになるから今後ともカポエイラ習ってみてよ。」
「練習は辛かったですけど、技が一つできるようになると楽しいですね。またやってみたいです。」
「でしょ。カポエイラ楽しいでしょ。また良かったらやりに来てよ。いろんな技を教えるからさ」
「楽しみにしています。」
石田の兄弟子の一人が
「クリアンサJr。また遊びに来てよ。」
「はい。今日はお世話になりました。」
「じゃバイバイ。チャウ」
「Tudo mundo.Ate logo(みなさんさようなら)」
「またねクリアンサ。」
グーと手をお互いの手を合わせる挨拶をして去っていく仲間達。練習後は良い汗が流せて爽快感を感じる。一日のストレスを発散させられるようだ。
「さあ帰ろうか?」
石田は車のエンジンをかける。助手席に武志を乗せて出発した。夜の暗闇を突き抜けて車が走りだした。まるで地上に輝く星のようだ。一晩寝てまた会社や仕事。仲間達と出会い騒ぐことが出来る。こういうアフターファイブが楽しい。と石田は思う。

車の中で音楽を聴きながら話をする二人
「クリアンサは色んな友達がいるんだね。」
「この団体は俺のことを仲間として受け入れてくれる。良いところだよ。団体と個人の相性がいいんだろうね。」
「小中学校は友達少なくて周りが敵だらけだった。学校行くの嫌だったなあ。」
「そう。小中学校の同窓会は絶対に行かないね。俺行ったら多分ケンカ売るような発言して険悪な空気作るぜ。」
「でも高校はいい友達が多い。ところでクリアンサは大学や大学出てから親友は多かった?」
「大学入ってからは一匹狼でいることが多かったなあ。高三の時同じクラスだった人と同じ学部だったんだ。高校時代は一度も話をしたことがなかった。大学入ってから友達としての付き合いがあるよ。たまに川岸で集まってプチ同窓会をする。高校時代の仲間達と一緒にね。」
「高校時代が一番友達が出来る時期なのかな。」
「人によるよ。ジェームズから聞いたと思うけど、大学三年生の時、学校の行事でオーストラリア行ったんだけどそこの仲間達とは今でも仲良しで長期休暇の時飲み会やるよ。」
「大学入ってからも仲間が増えたんだね。」
「出会いもあれば別れもある。」
「え?」
「付き合いのあった人たちともいつかは離ればなれになり音信不通になることがよくあるんだ。自分にとって本当に仲の良かった友達であっても。・・・」
「何だか寂しいね。」
武志は高校の友達たちといつかは別れることを考えてしまった。高校では色んな友達と遊びに行ったり話をしたり出来る。大人になったら常に孤独に耐えることになるのかって思えてきた。
「でもね。そういう人たちとの思い出が今でも大切に思えてくる。過去に縛られるのは良くないって言われても、過去の思い出だって未来と同じぐらい大切だ。仲の良かった友達と赤の他人のようにすれ違う時だってあると思う。だけれどその人と楽しく過ごした思い出は残る。」
「もしかしてあの曲を歌っていたのは・・・」
武志は気づいた。彼が歌っていた曲は未来からの自分へのメッセージだったと。
「precious memoryが今後の自分の未来を表す曲とは高校時代には思わなかったよ。そう。過去から未来に来たお前へのメッセージを込めていたんだ。」
「あの歌のように、仲の良かった友達といつか別れる日が来る。赤の他人同士になってしまう。小中学校の時みたいに一人孤独になる日が来るのか?ただ良い思い出として残るだけなのか?」
「色んなところに踏み込んでみれば友達もできるし、自分が困っている時に助けてくれる仲間に出会える時もある。TVゲームでも旅して出会った人を仲間にするだろう。」
「そうだね。」
「仮に一時的な付き合いであったとしても、困難にあった時、自分を助けてくれる人は友達なんだ。おれが受験に失敗して生きた屍になった時助けてくれたのも友達だった。だから友達を作ることやできた友達は大切にな。」
「一番の支えって友達だったんだね。」
「ある人が言っていたよ。友達は財産だって。だから相談にってくれる友達を多く持ちな。」
「時には友達や仲間がいなくて辛い時ってあるんだね。」
「孤独を感じるからこそ友達のありがたさが分かるんじゃないかな。」
「え?」
「マイナス×マイナスは」
「+」
「だろ」
「何が言いたいの?」
「小中学校の時の俺は四面楚歌だった。親も教師も同級生も敵。誰も自分を認めてくれない。自分を否定してくる。でもそんな経験があったからこそ、自分のことを認めてくれる人がいることをうれしく思う。習いごとの先生が自分のことを認めてくれたんだ。うれしくて泣きたくなったよ。ここまで自分を認めてくれる人がいたなんて。」
「辛いことがあるからこそ、うれしいときの感動が際立つってことか?」
「俺が23の時、姉貴が子供を産んだんだ。」
「姉貴、結婚するの?」
「結婚したよ。高校時代の姉貴はあまり恋愛の話をする人じゃなかったんだけどね。それでね、子供を二人産んだよ。」
「姉貴に似ているの?」
「外見は似ている。俺にとってはかわいい姪だよ。携帯の画面を見てみな」
「この子たちが俺の姪なんだ。」
「上の子は社会人一年目の時に生まれた子供だから思い入れがある。あの子が生まれた年が俺が社会人一年目ってことさ。」
「二人三脚みたいだな。」
「姪と一緒に俺も社会人生活を歩んでいるんだと思うんだ。一緒に遊んだり、おもちゃを買ってあげたりしているよ。姪がかわいいこともあるけど姉貴は俺にとって教育係だった。だからこんどは俺が姪のことを見てあげなくてはと思うんだ。」
「姉貴は口の悪いところがあるけど、両親と違い過干渉じゃないからね。家族じゃあ唯一仲良くできる人だった。教育係か」
武志は、姉貴は非情な人に思うことがある。でもよく遊んでくれる人だったことを武志は考えることがなかった。
「子供の時から姉貴は遊び相手になってくれたし、俺のことでいっぱい迷惑かけたよな。でも一緒にいてくれる人だった。そういうところ考えてもいなかったよ。」
「良く聞く音楽も姉貴の趣味が影響しているし、姉貴の趣味を知ることで女の子とコミュニケーションとるのに一役買っている。」
「姉貴からドリカムや光GENJIのCD借りてよく聞いていたな。姉貴の好きな歌の数々は俺にとって応援歌だった。」
「だから今度は俺が姪の面倒みる番だと思っている。さっきの話に戻るけどうちの姪が遊び相手がいなくてさびしがっていることがあったんだ。その時相手にしてあげられたのも一人にされる辛さを知っているからだと思うんだ。」
「辛い過去が良い方向に変わるんだね。」
武志の半生は思い通りにいかないことばかりだった。人望もない、学力もない、運動神経もない。知力武力魅力が低いと言われたようなものだった。能力がない故の辛さを味わってきた。
「能力ゆえのコンプレックスがいつかプラスに転じてくれる日が来るのかな?」
石田を見ていると、能力がない故のコンプレックスを持っていても、自分に比べたら、それをプラスに見ることが出来ている。
能力主義成果主義な世の中に揉まれて忘れていたことを見つけたような気がする武志であった。

夜のバイパスは朝とは違い静寂に包まれている。ほとんど車も走っていない。気持ちを落ち着かせてくれて一日の終わりを感じるようだ。
しかし、その裏では必死に働く者もいた。
未来と中沢はメンテナンス作業のラストスパートだった。
「ふうあと少しだ。ここの配線をつなげればと。よし」
「それじゃあ試運転してみましょうか。・・・・ん?」
なにやらカレーの匂いがする。
「お疲れ様です。御夜食作りました。」
「おやインドカレーかあの店がよっぽど気にいったんだね。いただきます。」
「そうだ中沢さん。田沢君が帰る前日にインドカレー店で打ち上げパーティーやりませんか?」
「名案だね。21世紀の味を堪能しつつビールでも飲むとしよう。」
「それと打ち上げパーティー前に私たちも川岸観光してカラオケで歌って楽しみましょうか?」
「そうなるように最後のひと仕上げをしよう。」
食べながら3人とも話をして盛り上がった。ここに来てからのこと、仕事の話や入社するまでの経緯、インドカレー店のバイト話、川岸駅で見つけた店の話など色んな事を話した。
「またこの時代に来ることがあったら社長もつれてきませんか?」
「社長は宴会や飲み会が好きだからきっと喜ぶよ。」
「我々も田沢君と同じくこの時代を旅したようですね。今後とも時代と場所を変えていろんなところに旅をしたいですね。」
「お客さん一人ひとりにドラマがある。まだ見ぬ未来に連れていく旅案内ができる。この会社入って本当によかったですよ。」
「俺たちはこの珍しい仕事が出来る選ばれし者なんだ。」
「選ばれし者。かあ。」
自分たちが特殊な仕事が出来ることに誇りを感じる3人。武志を旅案内したのちに、まだまだ多くのタイムトラベルがある。どんな旅が待っているのか常に楽しみにできる。そのことを考えるとこの仕事が本当に天職だと思う。
「このタイムトラベルを続けていくためにももう一働きだ。」
「食器は私がかたずけます。中沢さん未来さんもう一頑張りお願いします、」
「よし、もう一働きだ。いくぞ。」
「はい」
電車に乗り込む2人。チェックシートを見ながら点検を開始する。電車内のチェックから。ブレーキや動力源、駅構内、線路のチェック、いろいろなところを点検した。最後は試運転。
「最後は試運転だ。過去に行って戻ってこれるか確認だ。一年前、2009年に行ってみようか?」
「了解です。」
端の車両まで移動し合図をする。
「発車オーライ」
合図をすると列車は動きだした。2009年へと向かった。過去に戻ることはできるようだ。続いて2010年に戻ることが出来て、試運転は完了した。
「シャワーでも浴びたら寝るとしよう」
メンテナンス作業はこれで終了した。あとは武志に連絡を入れて元に時代に帰すだけだ。

武志達はそろそろアパートに着くころ。
「今日の夜はいろいろな思い出話が出来たな。」
「未来には楽しい出来事がいっぱい待っているんだね。未来を迎えるのが少し楽しくなってきたよ。」
「そろそろアパートに着くころだ。」
アパート裏の駐車場に車を止めた。
「さあ着いたぞ。今から風呂沸かすから、ご飯食べて風呂に入りな。」
「ありがとう。今日はいい汗がかけたよ。」
「現在に戻ったらカポエイラ団体さがしてやってみてよ。」
「受験が終わったら、考えてみる。何か習い事もしくはサークルに入ろうと思う。子供の時習いごとは公文か塾しかなかったから他のことに挑戦するよ。」
「ぜひやってみてよ。ところで晩御飯はカップラーメン+ご飯+ミックスベジタブルを炒めたもので良いかな?」
「いいよ。それで。早く食べて風呂入って寝よう。」
車から出てアパートに向かった。風呂のスイッチをおして晩御飯の支度をする。
なにかテレビ見てていいよ。
「わかった。」
石田は、冷蔵庫からミックスベジタブルを取り出す。フライパンを温めてからウインナーやミックスベジタブルと一緒に炒める。炒めている間にカップラーメンに湯を入れる。皿にご飯を盛り、炒めたものをいれる。箸を準備してカップラーメンと一緒に持っていく。
「お待ちどうさま。」
「ありがとう。いただきます。」
ご飯を食べながらビデオに撮ったテレビを見る。しばらくして風呂のベルが鳴った。
「先に入りな」
「それじゃあ行ってくる。」
「高校時代の自分と一緒にいるのも楽しいものだ。ちょっとした夏休みかな。」
石田は小学生時代に夏休みに親せきの家に出かけている時のことを思い出す。
「親せきの家に出かけることももうなくなってしまったな。あいつは自分じゃなく身内のように思えてくる。あいつには俺よりもっと良い未来を迎えてほしい。」
武志のことを昔の自分じゃなく身内の親せきみたいに思えてきた。
「風呂あいたよ。」
「わかった。入るね。」
武志もここに来たのを夏休みに親せきの家に出かけているような気分になった。
「クリアンサは未来の自分だけれどもなんだか歳の離れた親せきのように思えてしまう。本当に自分なのかなって感じたよ。ここにいるのも夏休みの思い出の一つになったよ。」
未来に来たという現実を受け入れられず戸惑ったり、自分の未来を知り、ショックを受けたりしたことが嘘のようにここの生活になじんでしまう。
石田が風呂から出てきたのち、眠りに着いた。

2010年の旅もそろそろ終わりが近づいていることを武志達は知らなかった。
武志や中沢、未来、カコこの4人は違う時代を旅してきた。1週間でいろいろな出来事があった。それもそろそろ終わりに近づいている。そのことを思いながら眠りに着く中沢、未来、カコ。
そして夜が明けた。

五日目:希望へ

March 12 [Mon], 2012, 6:00
次の朝、武志は少しだけ元気になった。それを見て石田が、
「お前に宿題を出す。俺が借りてきたDVDをみて感想文を書いておくこと。俺が帰ってきたら読ませてくれ。勉強も大切だが人生について考えることも必要だ。」
「感想文?どんなこと書けばいいの」
「世界史の授業でやらなかった?ビデオを見て思ったことを文章にしてくれ。こういうのかいていると未来の方針が見つかるかもしれないぞ。」
「未来の方針?俺は受験に勝利することが人生の勝者になることしか考えていなかった。それ以外のことが見つかるのだろうか。」
武志は考え込んだ。
「それじゃあバイトに行ってくるから、帰ってきたら話をしよう。」
そういうと石田はバスの待合所まで向かった。
 石田が去った後、武志は三国志のDVDを見ることにした。
「これは天地を喰らう、横山光輝アニメ三国志など小学生時代の思い出に残っているけど、はまったわけでは無かったな。まあ見てみよう。」
OP曲が流れるや否や、熱き男たちの戦いの幕明けに興奮した。中国に平和をもたらそうと必死に戦う劉備たち。そんな彼らを見る武志は、ヒーローにあこがれる少年であった。
「曹操、呂布、劉備懐かしいなあ。このあたりの話は覚えているよ。呂布は強かったが乱世では生き残れなかった。強いだけでは世の中渡っていけない。弱くてもそれを補うものが必要だ。それが知識だったり仲間、人望だったり・・・」
三国志を通して色んなドラマを見る。この世で生き抜くには何が必要か?彼らを通じて処世術を学べる。
「時代の先を見れる軍師、事を成すには天地人・・・」
彼らのセリフ、活躍するシーンがメッセージとして伝わってくる。人は人生で不遇を味わうときがある。でもそれを乗り越えて強くなる。劉備の生き方戦い方はそれを教えてくれるものであった。
不遇に耐え抜いた末に手に入れた劉備軍の転機。それを見届けて午前中の課外授業は終了だ。
「感想文は・・・。いろいろ書くことがあるなあ。これ終わったら昼ごはんにしよう。」

〜午前中の仕事が終わり休憩室で食事をする石田。そこに先輩の一人が、
「田沢君。俺の知り合いで人材紹介会社経営している奴がいるんだけど紹介しようか。」
「え!ありがとうございます。良いんですか。」
「俺は歳だから再就職難しいけど、田沢君はまだ若い。就職のチャンスをつかめたらいいね。」
「本当に気を使っていただきありがとうございます。」
「就職は難航しているようだね。」
「はい。書類選考は突破できるんですが、面接でいつも落ちます。」
「田沢君がやりたいと思っている電気の仕事もあると思うから、そいつから聞いてみてくれ。」
チャンス到来を予感した石田。
「いまはアルバイトで出費を抑えているが、近いうちに就職ができそうだ。早く就職しなくっちゃ。あいつも望まない未来像を見せられ絶望しているけど立ち直ろうとしている。何度でもトライだ。」
 休憩開けて木田がやってきた。
「田沢君、ジュース驕るよ。」
「え、いいんですか。ありがとうございます。」
「俺ね、昔職人やっていたんだ。でもこの不景気で仕事なくて女房と二人で仕事して家を支えているんだ。」
「大変ですね。」
「俺一人だと生活費払っていけない。」
石田は思った。
「どうして皆こんな目にあうんだろう?40代になったら俺はバイトしか仕事が出来なくなるんだろうか?昔も今も俺は常に逆境だ。未来のことはわからない。世の中どう渡って行けばいいのかわからない。でもあいつといて思ったことは、“今悩んでいることの答え”って先の未来になると分かるようになる。そのためにいろんなことを経験する必要がある。
答えは行動を起こすことでみつけられるのかも。」
「希望多い若い青年にこんな話をするもんじゃないね。じゃあ俺そこでタバコ吸ってくるね」
「ではまた職場で。」

〜インドカレー店
 中沢はインドカレー店近くを探索すれば武志達を見つけられると思い、ここを活動拠点にしようと考えている。購買部門の在原加奈子(通称カコ)をインド料理店でバイトさせることにした。
 「最初は変な服着せられると思い、インドカレー店のバイト嫌だったけど、やってみると面白い。店長は気さくで一緒にいると面白いし。」
 彼女はここのアルバイトを楽しんでいた。
 「カコちゃん。シーフードカレーセット持って行って。」
「はーい。」
 お客のところに持っていく、
「お待たせいたしました。シーフードカレーセットです。」
 常連のお客が入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
「店長。今日はウラシマ君いないね。」
「ウラシマ君?」
「あのタイムスリップしてきたような子ですよ。」
「ああ、あの子ね。彼はこの町の人じゃないだろうし、たまたま来たんでしょ。」
「それがねえ。カラオケ館の川岸駅前店で見かけたんだよ。彼と似たような青年と一緒にねえ。」
「あの子の親せきかしら?でも、だいぶ前だけど、あの子に似たような人で、20代後半ぐらいのお客さんが良くうちの店で食事しに来てたよ。」
それを聞いてカコは思った。
「もしかして21世紀の田沢君じゃあ。」
店長に怪しまれないように聞こうとした。
「そのお客さんってこの店が好きなんですね。」
「ああ、その青年は私に良くインドの話とかしてくる人なの。以前、うちの店でインド音楽のライブやったんだけど来てたわねえ。もちろん私が宣伝してきてくれんたんだけど。最高のショーですよってね。」
「そういうイベントが好きなんですね。」
その青年が何か武志を見つけるカギになることを知った。
「なんとかして、田沢君達の居場所を突き止めなくては。」
店にまたお客が入ってくる
「いら!あ!中沢さん!未来さん」
「え!知り合いなの?」
「あ!はい!大学の先輩なんですよ。ええ」
「そうなの。カコちゃんのサークル仲間とか?。」
「まあ、そんなところです。」
「どんなサークルなの。」
「が、合唱サークルです。」
「カコちゃんのあいさついいものねええ。」
「そうなんですよ。合唱サークルで練習した、たまものですよ。」
「うちのカコがお世話になってます。」
「中沢さんは兄貴ですか。」
「へえ!カコちゃんの先輩なんですか?どうです大学でのカコちゃんは?」
中沢を凝視するカコ
「授業もまじめに受けるし、合唱サークルの練習も熱心だし、本当に模範生です。我が部、いや、わが大学の鏡ですよ。」
「ううん!いい人材がうちの店に来てくれたわねえ。」
「ははは」
「今度インドの歌でも歌ってもらおうかしら、せっかくだからここでコンサートやらない?」
「私なんかがとんでもありません」
「まあ無理強いはしないけど。」
店長が去ると
「ふう。あやうく正体がばれるところだった。」
「何かわかったか?」
「田沢君はおそらくこの町のどこかに滞在しているものと思います。彼が20代後半ぐらいになった人を見かけたという声も聞きました。あとはどうやって見つけるかです。」
「田沢君をどうやったら連れてこれるのかな。」
「未来の田沢君と行動を共にしているようです。彼を導き出せば良いのではないでしょうか?」
「じゃあ、彼をどうやって来させようか?」
「インドの音楽をやるって宣伝したら来たそうです。それに、かれはこういうの好きみたいですよ。」
「それだ。インドにまつわるイベントをこの店でやればいいんだよ。」
「急に言われてもどうやって準備するんですか?」
「策はある。まあ見てな。」

〜午後 石田のアパート
「三国志では多くの人生訓が学べた。今度はドラゴン桜を見ようか。なになに、偏差値30から一年間猛勉強して東大合格!!あり得ない。」
どんなものか半信半疑で見始めることにした。勉強をグループでやるというのは彼には無い習慣だった。
「勉強って個人種目だと思っていたが、グループでやることで効果を発揮するんだな。でも、こんなんで東大いけるわけないと思うんだけど。」
 次は嫌われ松子の一生を見ることに
 「なんでこんなチンピラのために濡れ衣着なきゃならないんだ。お人好しだと悪い奴になめられるんだ。」
 「松子って勉強がよくできるのに、スーパーとか風俗とかエリートらしからざる仕事するんだよな。なんでこんな目にあうんだろう。仕事はすぐできるようになるに。」
「頭がよくて勉強が出来る割には、人のこと見下したりとかしないよな・・・不思議な人。」
「殺人犯=悪人だと思うけど、こんな奴生かす価値もない。こいつが悪いのに松子が裁かれるなんて・・・」
「松子が初めて相思相愛の恋を見つけたのにそれも引き裂かれる。」
「やっぱりチンピラの末路はやくざなんだな。こんな奴助けるためにこんなつらい目にあうなんて真面目に生きてて馬鹿を見てるみたいだよ。」
「一人でずっとさびしかったんだな・・・。」
「勉強が出来るから明るい未来が得られるわけではないんだな。俺はどうやって生きていけばいいんだろう。家にいる間は勉強して毎日学校通っていれば平穏無事に過ごせるけど学校から外に出たら・・・」
 松子を見ながら色んな事を考えさせられた。
仕事が終わって石田が帰ってきた。
「お帰りなさい。三作品見させてもらったよ。」
「そうか。どんなこと感じた。」
「三国志では、力不足に嘆くところや、耐えに耐えて勝利をつかむところが良かったかな。ドラゴン桜は一緒に頑張る仲間がいることを感じたかな?俺の勉強にかける思いも彼らに通じるものがあったよ。でもこれで本当に東大いけるのかなって思うところはある。松子は周りに仲間といえる人が少なくて、見ていてつらかった。勉強も出来て、やる仕事はどれも器用にできる。だけど続かない。何がいけないのかなって思えた。」
「それは、目標や目的がないからじゃないかな?」
「松子は本来なら大企業に入ってバリバリのキャリアウーマンとして活躍できる才能があった。でも教師になるのだって親のレールにひかれているようなもので本当に自分がやりたい仕事じゃなかった。
目標がないから進んで仕事をやろうとか情熱を注いで仕事をしようとか思わない。崔を助けたのだって他の教師に弱みを見せないための見栄だろう?勉強って競争のためにあるものじゃないんだろうね。見栄やステータスのためにやるんじゃないんだと思う。それが学生時代の俺には分からなかった。」
「力や才能があっても志がなければだめなんだ。」
「そうだ。俺たちは学力=能力っていう教育を受けてきた。でも、それが違うことだってわかった。それをお前に教えたかった。自分の希望道理の未来像じゃないかもしれないけど、あの時代に気付けなかったこと、やってもらえなかった教育をお前にやりたいと思ったんだ。」
「思った通りの未来じゃなかった。三流大学に入り、落ちこぼれサラリーマン。俺って一生負け組で終わるのかなって自分の未来に失望していた。けど、負けて挫けても・・・何度倒れても立ち直る。劉備たちからそんな強さを教わったんだ。今の俺と違って彼らは前向きでいられる。強くなれるんだなって・・・。それが分かっただけでも未来に来てよかったよ。」
「お前・・・・」
石田は苦労が報われたことを感じた。そして失敗だらけの人生であったとしても進んできた道に誇りを持てた。

「ところでインドカレー店で朗読劇をディナーショーでやるんだけど、行かないか?」
「なにそれ?行ってみたいなあ。この前俺が昼食食べた店?」
「そうだよ。もし行きたくないなら、やめて他のレストランにするか。」
「いいよ。恥はかいたけど、別に嫌だとは思ってないから。」
「じゃあインドカレーで晩御飯だ。」

インドカレー店はにぎわっている。
「いらっしゃいませ。あなたは。」
「先日はどうも」
「ああうらし・・いや先日はお越しくださいましてありがとうございました。」
「今日の当店の朗読劇楽しいですよ。是非楽しんでいってください。」
「このお店、良くリサイタルやりますね。」
「当店はカレー以外にもこういうインド文化に触れるイベントも自慢なんです。楽しいこと間違いなしですよ。」
「朗読劇もインドに関することですか。」
「インドの民話。昔話をいろいろやることになります。BGMもインド音楽です。」
「いいですねえ。そいつは楽しみです。」
「猿岩石も訪れたインド。仮想インド旅行ができますよ。」
「やっぱ帰ればよかったかな。」
「まあまあ。自慢のインド民話朗読劇見ようよ。」
中は賑やかな酒場と化している。皆がビール飲んだり、シシカバブをほおばったり楽しい宴会だ。
「未成年だから酒はダメね。まあ生真面目だからそれはないか。」
「ドラゴンクエストの酒場はこんな具合に賑やかなんだろうなあ。」
「よし俺たちはラッシーで乾杯だ。」
「ラッシーは本当においししいよね。」
ラッシーで乾杯し、テーブルに並んだカレーをナンで包んで食べ始めた。
 カレーを食べて楽しんでいるとシタールの音色が聞こえてきた。
すると仏の格好をした人と、猿のお面をつけた人がステージに現れた。二人で何やらひそひそ話をしていた。
「田沢君来るでしょうか?」
「来ているよ。ほらる」
ちらっと武志達を見る。武志たちは役者に手を振った。こちらも手を振り返す。この二人が未来と中沢であることを武志は知らなかった。
カコが武志達にアプローチ。武志は彼女のことを知らない。
「よろしければ今後のため、上演後のアンケートをお願いします。」
「ああ、はい。」
朗読劇が始まった。
猿の神ハヌマーンの格好をした役者が昔話を語り始めた。聞いていると太古のインドにタイムスリップしたような気分になる。
神々の話、大出世した薬屋、象の話、見たこともないインドの景色が広がってくるようだ。猿をかわいいわが子のように育てるおばあさんの話。西遊記の原型のようだ。
次は仏の格好をした役者が語り始めた。とうとうと流れる水、美しい夕陽、自然が描くアートの美しさを味わえる贅沢なひと時。
 神が魔法をかけているかのようだ。外の風景が神聖なものに思えてくる。
「仏さまの格好した役者さんの朗読。一日の疲れを忘れさせてくれるな。」
「うん。やさしく仏の慈悲ってやつかな。」
休憩時間になると、石田は関西にいた頃の話をしてきた。
「関西で仕事していたことがあってね。その時、日本のインドに来たような気分だったねえ。」
「関西が日本のインド?」
「関西の人って仏教を愛する人たちだし、根っからの商人なところは共通する。食べ物も甘っからいものや、カレー好きだし。」
「言われてみればそうかも。」
「それに滋賀県でインド物産展がショッピングモールでやっていたんだ。アメジストや色んな鉱物、動物の彫刻、お香などいろいろ売っていたよ。」
「それ見てみたいなあ。」
「彫刻からお香の匂いがするんだよ。それにね、象の彫刻は胴体がメッシュになっていて中に小さい子象が入っているんだ。」
 石田のインド話は興味をそそられた。
「世界は広い。学校行事で初めて修学旅行で海外に行く。こんな感動の瞬間があるのかな」
リサイタル後、石田はアンケートを記入した。そこには住所や電話番号、Eメールアドレスを記載する欄もあった。
 それをカコに渡した。
 お客たちは満足したように去って行った。武志達も家に帰った。
 「ああしまった。田沢君を呼ぼうと思ったのに。」
「いいよ。彼の滞在先と、携帯の番号が分かった。これでいつでも田沢君とコンタクトがとれる。あとは列車の復旧作業だ。」
「明日は朝から列車のメンテナンスだ。」
「はい」
「メンテナンスは僕と未来君とでやるから、カコは田沢君の動向を探ってくれ。」
「わかりました。」

四日目:失意の一日

March 05 [Mon], 2012, 6:00
「仕事に行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
武志は落ち込んでいて元気がなかった。
「今日は一日休め。楽しいゲームがあるからいっぱい遊んで嫌なこと忘れな。」
何をしてあげたらよいかわからなかった。でもこうなったら何とかして立ち直らせて元の時代に帰してあげたい。バイト先の送迎バスでも考えた。
「あいつに何をしてあげればよいのだろう」
いつものように防塵服を着て職場に向かう。問題の真藤雅彦が珍しく来ていた。サボってばっかりいるくせに優等生面するし、自分が仕事で間違いしたのに他人に説教している。
それをみた木田が
「あいつはぼんぼんなんだよ。親の会社がつぶれたからここに来たんだ。」
「二代目バカ殿様ってやつですね。」
「そう、親の会社にいたときは月給50万円貰ってたみたいよ。いっぱしの職人でもこんなにもらえないよ。」
「仕事の能力に関係なくもらえるんですね。こういう奴ら。僕が前いた会社もこういうバカ殿様いましたよ。仕事に直結しないことして金もらってるんです。」
「おまけにあいつけちなんだぜ。飲み会行って自分だけ金払わないの。それに、交通費がもったいないからって池袋から埼玉まで行くし、酒に酔った勢いで図に乗って人の頭叩いてきたり顎をなでてきたりスンの。猫じゃねーよっつうんだよ。殴り飛ばしてやろうかって思ったよ。」
「金にけちな奴って、後で金で泣きを見るとはよく言ったものです。」
「だからあいつは今こんな目にあっているんだろうね。」
「重量挙げの選手だったていうのも嘘っぱちですね。なんでこんなスープの入っている箱持ち上げるだけで腰傷めるのかわかりませんよ。」
「あいつは親に甘やかされすぎたんだよ。過保護に育ててんの。40過ぎのおっちゃんなのにあいつのおばさん「雅ちゃん」とかいうんだぜ。」
「なんすか!?それ。」
「子供を馬鹿に育てて親として恥ずかしくないのかね。いまどきの親はろくでもない奴ばっかりだ。」
「あ!そうだ。うちの親にできなかった教育があいつには必要なんだ。」
「はあ?なにそれ」
「いやいやこっちの話です。」
石田は確信した。自分の力で武志を立ち直らせることを。
「あいつには俺が受験に失敗して立ち直るまでの経緯や負けたからこそ得たことなどを伝えていこうと思う。未来に絶望して現代に帰るようなことはさせたくない。」
アフターファイブにTSUTAYAに行くことを思いついた。自分が感動した作品のDVDを借りてきて見せることにしようと思った。

〜仕事が終わり帰りのバスに乗っている間も考えていた。
「自分が感動した作品や心動かされたものから、得たものを教えていこうと思う。」

川岸駅前で降りた。帰りはレンタル屋に向かった。
「俺が観た人生の上で影響のあった作品をみせようっと。松子、三国志、ドラゴン桜、男塾・・・」
DVDレンタル屋に来るといつも何を借りるか迷う。あれもいいこれもいいと考えてしまう。
「よし、帰ったら、これらの作品とうちの家にあるDVDを見せてやろう」

「ただいま」
「おかえりなさい」
まるで憂さはらしでもするかのようにゲームに没頭する武志。
「ゲームも飽きてきたころだろう、一緒にDVDでも見ようか」
「はい・・・」
呆然とする武志。
「なんとしてでも立ち直らせてやる」
石田はPCを起動させて、DVDを見る準備をした。そして武志に
「お前はアニメやゲームを心から愛している。あのクソ親父にゲームやっていて馬鹿にされたことを思い出せ。」
親父に対する憎悪の念がよみがえってきた。小中学校と家も学校も塾も常に周りが敵だらけ。そんな中で過ごしてきた10代前半。
続けて武志に向けて
「お前は男塾っていう漫画を知っているだろう。俺がこれを見て感じたことを言わせてもらうな。」
「え?」
「この漫画は落ちこぼれに夢を与えてくれる作品なんだ。」
武志は今の一言に何か希望のようなものを感じた。
「一号生はいじめられっ子の集まり。上級生たちにいつもいじめられていた。それでも、彼らは必死に戦った、主人公の桃はいじめられっ子達を束ね上げるリーダーだった。
椿山、田沢、松尾、秀麻呂、・・・・皆が主人公と苦楽を共にし、強くなっていく。桃みたいには強くないし、頭がいいわけでもない。それでもそんな落ちこぼれたちに自信を持たせたり、情熱を持たせてあげられる。」
 彼の言ったことを聞いて彼らの雄姿に思わず涙した。
「お前は子供のころから、今になるまでアニメ、ゲームに支えられてきた。お前が未来を信じて頑張り通せばまた大好きだったもの、失ったものに出会えるんだ。」
 武志は自分の未来に少しだけ希望が持てる気がした。
「おふくろに言われたっけ。「どんなことがあっても自殺はするな。」って。生きながらえるからこそ得られることがあるんだ。」
涙ぐむ二人。暗闇に閉ざされた彼の心に少しだけれども光が照らされたようだった。

三日目:自分の未来を知る。そして未来に対し絶望する武志

February 27 [Mon], 2012, 6:00

昨日と同じように朝ごはんを食べながら話をする武志。
「昨日はネットサーフィン夜遅くまでやったみたいだね。」
「はい。未来の世界を調べていたのと趣味に走っちゃいました。」
「おれもインターネット初めてやったころは時間を忘れるほど夢中になったよ。最初は子供の頃好きだったアニメのことやサッカー選手のことばかり調べていた。インターネットを通じて親友を増やすこともできるんだよ楽しいものだ。」
「ネットで交流ですか?」
「Eメールって言うのがあって手紙を出すこともできる。それにここ最近できたものなんだけどソーシャルネットワークとかブログというものがありこれで親友を増やすことが出来るんだ。」
「人とのつながりも持てるんですね。素晴らしい。」
「ネットを通じてビジネスもできてこれを道具に巨万の富を築き上げる人もいるんだ」
「ネットを使って勉強もできたり・・・。あ!ところで石田さん。この辺りって勉強できる場所とかあります。あと高校生向けの学習教材ってないですよね?なんか勉強していないと落ち着かなくて・・・」
「それじゃあ、あとで図書館行こうか。ここから歩いて10分のところにあるんだ。開くのが九時半だからそれまで本読んだりして待っていたもらえる。」
「近くに図書館があったんですか?」
「うん。あとね高校生向けの学習教材としては英語の参考書と英字新聞、物理、数学、化学に関連する本ならあるよ。」
「いろいろありがとうございます。TOEICってなんですか?」
「英検と同じく英語資格。世界共通の英語力を見る検定で読み書きとリスニング力を見る試験だ。全て英語で書かれているのが英検と違うかな。英文法だったら高校生でもためになる事が書かれていると思う。英検準一級の問題集も持っているよ。」
「準一級!!僕なんか準2級止まりですよ。」
「準一級でも受験に必要なテクニックを磨けると思う。英字新聞も長文読解の訓練にはなると思うので読んでみて。」
「高校2年だと物理で電気ってやるんだっけ?」
「石田さんはいろいろ勉強されてるようですが、何を専攻されたんですか。」
「電機をやっていたけど、大学に行けば技術がつくなんて言うのはただの幻想だな。本当に技術をつけたいなら独学できるようにならないとダメかな。」
「僕も受ける学科に考えています。」
「まあ電機、IT、生命工学は理系の花形だけど一つにこだわらずいろいろな学科を考えた方がいいよ。」
「いろんな学部が大学にはあるんですね。」
「そうだ。数学の問題集だったら微積分があるよ。これが分かると物理の勉強で役立てられる。例えば三角関数は電磁気学でよく使われるし、波動を理解するにはこれが必要になる。力学でも微積分は良く使われる。」
「参考書や問題集お借りします。」
「このバックを使いな。じゃあ図書館に行こうか」
歩いて図書館まで案内した。
「それじゃあ俺は仕事に行くから。」
石田はバイト先のバス待ち場へと向かった。
九時半になり図書館は開いた。
「うちの地元よりも規模が大きいし、集中して勉強が出来る。いろんな本がある。良いなあ川岸市は」
CD、Video、DVDのブースがあり驚く武志。
「嘘!Video、CD鑑賞もできるの!?」

〜食品工場
「涼しいなあ」
「田沢君。あいつまたふけやがった。本当はあいつと俺で新しく入ってきた人の面倒を見なきゃならないのに」
「その人。問題社員に載ってましたね。」
「ここはあいつ以外にも社員もバカばっかりそろってるの」
「ただうろちょろするだけしか能のない奴とかどんくさい人とかいますね」
ここで仲間と思える人は同じ部署のパート仲間ぐらいのものだろう。社員連中はうざい奴が多い。
「ここのバイトはどう?」
「肉体労働ですけど、筋力付きますし、お金のもらえるジムみたいですよ。」
「あの野郎!腰が痛いから休むとか言いやがって。」
「まるで年寄りみたいですね。」
「わざとさぼるための口実だよ。田沢君に負担をかけさせてごめんね。」

〜図書館
「英語はためになる本が多いけど、物理数学はよくわからないなあ。Log何これ?10gって書いてあるようにみえるんだが・・・?こんなものがなんであるんだろう。」
不思議そうに見たこともない記号を見ていた。訳のわからないギリシャ文字の羅列に頭が苦痛になる。
「こういうの今後勉強するようになるのか?」
物理は勉強していても訳が分からず、途中で飽きてしまう。
「こんな公式どうやって覚えるんだ?」
勉強しても続かない。周りを見回すと、中高年の人たちが色んな勉強をしていた、
経済や法律、簿記などいろいろな資格の勉強だ。
「勉強って学生だけのものじゃないんだな。そうだ、読書でもしてみるか。何かいい本があるかもしれない。」
いろんな本を味見程度に目を通す。そうしているうちに昼になる。
時計を見ると12時。
「そろそろ食事にするか」
外のレストランに向かう。
「今日はどこでごはん食べようか。」
いろいろなレストランがあり、どこを選ぼうか迷う。賑やかな通りを歩きながら街を散歩する。沖縄料理のお店があり入ることに。
青い海が広がり、幻想の世界へといざなうようだ。
「沖縄料理は初めて見るけど同じ日本とは思えないなあ」
彼の眼には新鮮に映った。
沖縄音楽を聴くとあたり一面が青く美しい海が広がるようだった。

〜食品工場
「田沢君。古田の奴、首になったみたいよ。変な奴だったけどまさかね。」
「何やらかしたんですか?」
「あいつ、上の階の洗濯室で立ち小便してんの。」
「えええ!!!」
「本当に変な奴だよ。うちの女子従業員達から煙たがられてるし。この間出没してた。」
「見た目は普通の人だと思ったんですけどね。人はみかけによらないんですね。」
「田沢君は付き合いがないからわかないだろうけど、おかしいこといっぱいしているんだよ。」
「そういえば、バスで一緒になった時、ぼくが読んでいるノートや本を覗き見してきたり、防塵マスクの下につける紙頭巾は一カ月に一回変えるとか言っていました。」
「うわあ不潔な奴。ここの工場、変な奴多いから気をつけてね。」
いろんな人たちと会話しながらアルバイトするのが毎日続く。外国人のパートとも良くお話をする。
ガーナ人、ブラジル人のバイト仲間と先輩4人で一緒に麺を上の階まで運ぶ。
「本当にいっぱいあるね」
「こりゃ定時じゃ終わらないなあ。」
「僕、ガーナから来てるんだ。」
「ガーナってミカエルエシアンの国じゃないですか。クフォー、ムンタリ、アッピアー、ギャンがいる。」
「サッカー詳しいんだね」
「今年のガーナ強かったですね。ミカエルエシアンがいなくてもベスト8。彼がいたらウルグアイに勝てたかもしれませんね。」
「彼はうちの国じゃあスターだから、CMにもしょっちゅう出てるよ。」
「でしょうね。ギャンですけどガンダムに出てくるマシーンの名前でもあるんです。」
「ガーナのようにアフリカ人は面白い名前の人が多いんだ。」
「そのうちザク、ドム、グフも出てきそうですね」
「僕ねブラジルのサッカーチームについて知っているよ。」
「最初ブラジル人だと思ったけど、道理でポルトガル語が通じないわけだ。」
「ここの工場だと外国の人はブラジル人中国人がほとんどだね。」
「日本にいる外国人でブラジル人、中国人はベスト3に入るんですよ。」
「アフリカ人は少数だね。」
「でも都内に行くとアフリカ系の飲み屋がありますし、芸能人でもアフリカ出身の人多いですよ。」

〜本屋
 昼食を取った後、本屋を探す武志。歩いていると大きな書房を見つけた。
「21世紀の川岸市には紀伊国屋があるのか?いってみよう」
中に入り、高校生向けの参考書問題集を立ち読みする武志。
「さっき出てきたlog,微積分、物理も似たようなことが書かれている。石田さんはいろんな虎の巻を持っているんだなあ。」
本屋で参考書漁りをした後、また図書館に戻る武志。勉強机が埋まっていたので近くの空いてる席に腰をおろし、読書をする事に。
図鑑、自己啓発、小説等々いろんな本を物色した。
「中学時代、国語の成績が悪くて何とかしたいと思った。それでいろんな本を読んだけど上の空になることばかりだった。」
読んでいて眠くなり、仮眠をとった。
起きてから、机が開いていたのでまた勉強をする事に。おとした本を拾って本の裏面を見ると
「田沢武志」と書かれていた。
「ええ!なんで俺の名前が書かれているの?まさか・・・・」
「石田さんが未来の俺?」
いらない紙には彼の失敗作の履歴書が入っていて未来の自分の姿に絶望する。
将来、名門大学に入る未来を信じていた彼が三流大学卒業で、仕事で不遇を味わっていることや、現在失業中であることを知ってしまった。
「嘘だ。信じたくないこんなの。」
家に帰ってから郵便物を見る。すると田沢武志様と書かれている。
水道光熱費、等の請求書、劇団の公演案内のチラシ、他には選考中の企業の通知・・・。そのすべてに田沢武志と書かれていた。
「嘘でしょ・・・・。」
ついに石田にとって恐れていた事態になってしまった。

夜、石田がアパートについた。
「あれ暗いなあ。彼は帰ってきてないのか。」
鍵を開けて中に入る。すると電気もつけず真っ暗な中武志が座り込んでいた。
「ただ今・・・」
「石田さん。これどういうことでしょうか。」
彼にとって恐れていた事態になってしまったことに気付いた。
「とうとうばれてしまったか。今まで隠していたのに」覚悟を決めた石田。
「わかった全てを話そう。」
落ち込む武志に
「一目見て高校時代の自分だと分かった。今の俺が高校時代の自分が見たらショックを受けると思ってわからないように隠していたんだ。
君がもとの時代に帰るまで隠しておこうと思った。でもすぐにばれるんだな。」
「俺30になったらこんな目にあうの?大学は三流大学卒業で社会人になっても職を転々としてみじめな思いをしなければならない。受験に成功して明るい未来が来ることを信じて頑張ってきたのに。今まで何のために勉強したかわからないよ。」
慟哭する武志を見て、どう励ましてよいかわからなかった。

二日目:未来の世界

February 20 [Mon], 2012, 21:56
「夢だったのか?なんかあり得ないことが起きていて・・・・」
「お!おはようございます・・・」
「お!おはよう。やっぱり夢じゃなかった。」

夢じゃないことに戸惑う武志。自分と似たような男と今一緒にいて、昨日の出来事が現実であることを不気味に思う。
石田がキッチンで朝食を作っていた。それを不思議そうに見つめる武志。
「どうしたの?ずっと俺のことを見て・・・・。何かおかしな所でも・・・」
「いや・・・・。すいません・・。」
「朝食作ったんで良かったら食べて。」
「いただきます。」
ソーメンがラーメンの麺の代わりに使われているこの料理に、驚く武志。
「な、何ですかこの料理?麺がソーメンだし、それにレモンがのっかっていて・・・?」
「これはベトナムの料理でフォーっていうんだ。実際はコメの麺を使うんだけど、ソーメンで代用したんだ。」
「フォーですか・・・・?そんな料理があるんですね。21世紀では日本の食事事情が変わるんですか?」
「僕の朝食は特殊だけれど、まあ珍しい料理が食べれるレストランは20世紀に比べて増えたかな。」
「へええ。」
「21世紀になると、東南アジア系のレストランは増えていると思う。タイ料理、ベトナム料理、インドカレー、韓国料理店も珍しくなくなってきたかな。」
「トムヤムクンとキムチしか想像できません。」
「日本じゃ朝から麺ってあり得ないかもしれないけど、アジアの国じゃ良くあることだよ。中国、韓国、タイ、ベトナム・・・。韓国は行ったことがあるけど、朝からラーメンが出てきたよ。」
「石田さんはいろいろな国のことをご存じなんですね。」
「社会人になってから埼玉を抜けて色んなところを旅したり、本を読んだりしたんだ。埼玉はこれといった観光名所がないし、楽しめるものかもしれないけど、外に出たら色んな観光地がある。知らない世界が狭いこの日本にもあるんだよ。」
「石田さんは埼玉出身の方なんですか?」
「まあね。・・・しまった。」
石田は自分の出生について深く知られてまずいと思った。
「このあたりにご実家があるんですか?」
「・・・行田市が実家なんだ。」
「ああ古墳群があるあの街ですか?」
「そう。良く知ってるね?」
「小学校の時、行きましたよ。」
「ふうなんとかごまかした。ああそうなんだ。・・社会人になると色んなところに行くことがあるんだよ。」
「まるでドラクエみたいに世界を旅してるみたいですね。」
「そう。社会人は学生と違い時間の自由はないけど、金の自由はあるし土日祝日はどう過ごそうが自由だ。有給休暇なるものもある。この時代は終身雇用じゃないからお金をためて会社辞めてから3カ月海外でバカンスを楽しんだりする人もいるんだよ。ドラクエの旅の扉を使っていろんなところ旅をするみたいだろ。」
「ところでドラクエってどれくらい出てるんですか?」
「9だ。この任天堂DSっていう機種でね。」
「任天堂!!僕の時代じゃSonyのプレイステーションがゲーム機種でダントツ一位で・・・任天堂は不景気で松村がマリオに扮して・・・・」
「ああ電波少年ね懐かしい。そうそう64貰うんでしょ。」
「そうなんですよ」
話がはずむ二人。
「ああ!今から仕事があるから6時〜7時まで外出するから家にある本やゲームどれを見たりやったりしてもいいから。昼はこれで何か買うもよし。冷蔵庫にあるものを食べるのもよし。自由にくつろいで。」
「ありがとうございます」
「じゃ行ってくるね。」
「いってらっしゃい。」

石田は玄関から外に出る。
「危うくばれるところだった。どうやって今後だまくらかしていこうか。」
十年後の自分に今の自分であることをばれないように気をつけなきゃならないことを考えると気が重くなる。

未来駈が新広山駅周辺で聞き込み調査をしたが有力情報は手に入らなかった。
先輩社員である中沢未輝男のもとに戻る。
「ただ今戻りました」
「田沢君の情報は何かわかったか」
「いえ、何も・・・・。」
「そうか。川岸は広い、君は本川岸駅周りを探してくれ。」
「わかりました。」
「田沢君。無事でいてくれ」
中沢と未来。この二人が必死になって探していることを武志は考えもしなかった。
「中沢さん。列車の復旧作業の方はどうですか?」
「いや、まだ直らない。メンテナンスが終わるまでまだ時間がかかりそうだ。田沢君を探すのと同時に工具売っている店があったら工具を買いそろえてきてくれ。」
「わかりました。」
「中沢さん。メンテナンスの方よろしくお願いします。」
「うん。そっちもたのんだよ。」

テレビをつけてみると、
「ゲゲゲの女房?鬼太郎と関係あるのかな??おもしろうそうだからこれ見よっと」
昭和時代の東京がテレビには映っていた。未来のはずがカコに戻ったような気分だ。
漫画に打ち込む、しげる。それを支えるフミエ。多くの人々の姿が映る。鬼太郎が出来るまでの血と汗と涙の結晶がこの番組には詰まっていた。
「鬼太郎がアニメになるまでこんなに苦労したんだな」
夢中になってみていた。
「面白い。また次が楽しみだ。」
テレビを見終えると、本棚に目を向ける。すると電機の本やポルトガル語で書かれた本、小説・・・いろいろなジャンルのものが置いてあった。
「石田さんって難しい技術の本をいっぱい持ってるんだな。他にもサッカー選手のポスターや色んなアニメのDVDBOX?VCD?なにこれ。ああこれ子供のころ好きだったアニメだ懐かしい。この時代では昔のアニメも見れるのか。でもこれどうやってみるんだろう?」
見方が分からないのでDVD見るのをあきらめた武志。CDを聞くことに。
「見たことあるアーティストもいるけど、知らないアーティストもいるんだな。Perfume?嵐?東京事変?・・・ELT?mihimaruGT聞いたことないアーティストばかりだ。・・・・」
本当に異世界に来たんだと武志は思った。
「本当に未来に来た。遊園地のアトラクションじゃなかった。」

バスに乗り込みバイト先に向かう石田。
いつも通りmixi日記を書く。
「送信と!」
「Bom dia!おはよう」
「Raul,Jose,Bom diaラウル、ホセ!おはよう。」
いつものバイト先仲間であるブラジル人コンビにポルトガル語であいさつ。
「今日はスーツ着てるけど就職活動??」
「そうだよ。今日定時来たら面接に行くんだ。」
話をしているとバスは出発した。読書しながら目的地へ向かう。
「外は暑そう。でも食品工場の中は涼しいから天国だぜ。」
町はずれの工場地帯へ向かう。たまに外を見ながら普通に会社に勤めている人たちのことを羨ましく思う。
「早く内定とってアルバイト生活からおさらばだ。」
バスは工場についた。
「ありがとうございました。」運転手にあいさつをして、パートの人たちは皆工場に向かう。紙の防塵頭巾を頭につけて工場内に入る。
いつも通り、騒音おばさん似の社員のところに行きほこり取りと手のチェックをしてタイムカードを押す。
「あれ田沢君今日は面接?」
「ええ近くで午後6時30分から面接がありますのでこのかばんとスーツあずかっていただいていいですか」
「いいよ。」
外ではあやや(仮名)がみんなにあいさつ。
「おはようございます」
「おはようございます」
同じ部署のバイト先輩達。
「田沢君おはよう」
「おはようございます。」
着替えを持って上の更衣室で着替える。

武志はCDをいろいろと聞いてみた。
「21世紀にはこういう音楽がはやっているのか?応援歌、テクノポップ、ラップ聞いたことない音楽がいっぱいある」
様々な音楽を聞きながら明るい未来の世界を想像した。でも武志はこの時代が大恐慌であることをまだ知らなかった。
「昼御飯だ。外出てみようか」
外を出て、まっすぐ歩いていくとインドカレー店を見つけたので入ることに。
「いらっしゃいませ。ナマステ」
入るやいなやお香のにおいが鼻につく。
中には象の置物や、インドの工芸品が置かれていた。まさに別世界。店員までサリーを着ている。
「この時代ではインドカレー店が身近なところにあるのか。・・・・俺の実家には無いなあ。」
席に座りメニューを見る。見たこともないような料理に好奇心がわく。
「ご注文なさいますか?」
「このマトンって何ですか?」
「これは羊の肉を使ったカレーですよ。」
「羊のカレー????カレーって牛と豚とシーフードしか聞いたことないですよ。」
「こういうカレーはインドじゃよく食べられているんですよ。」
「音楽や衣装からしてみたことないものばかりで本当にインドに来たみたいな気分です。」
「インド行ってみたいですか?」
「ええ行ってみたいです。仏様、ガンジーゆかりの地、象、タージマハルなど言ってみたいところばかりですよ。ああ!猿岩石がインド行くの見ましたよ。」
「猿岩石!なつかしい。」
オーバーなリアクションをする店長に驚く武志。
「10年以上も前なのに・・・。お客さん高校生ですよね。よく覚えてますね。」
「え・・・・ええ!!しまった今21世紀だったんだ。俺のいた時代とは違うんだな。」ここが21世紀であることを忘れていたことに気づきあわてる武志。急に取り繕って、
「あ!僕の従兄弟が「電波少年っていう番組が小さい頃はやっていたんだって。」当時のビデオを見せてくれたんですよ。」
「へーそうなんですか?当時はやっていてね。猿岩石ヒッチハイク終わった後、西武球場今でいう西武ドームで凱旋パレードしたんですよ。私も当時、見に行きましたよ。」
「せ、西武ドーム!?・・・凱旋パレード!?・・・それで今の猿岩石は・・・・」
「お客さんまるでタイムスリップしてきたみたい。あはははは。」
「あ・・・ははは。」
「有吉君はいまでも芸能界にいますが森脇君はもう引退しました。」
「そうだったんですか・・・・」
「本当に時代が違うんだな。あんな話題になっていた人が出なくなるなんて」
「ところでご注文は?」
「じゃあマトンカレーとマンゴーラッシーを。僕ラッシーって自販のジュースでしか飲んだことないんですよ。それにマンゴーのラッシーって初めて聞きますよ。」
「インドじゃこういうラッシーってあるんですよ。マンゴーはこの時代じゃ、よく食べられてる果物ですよ。」
「知っていますよ。マンゴスチンのことですよね。給食でよく食べましたよ。」
「違いますよ。あははは・・。」
「はあ!また恥かいちゃった。」
「ああすいません。」
「インドじゃよく飲まれてるんですか?」
「ええ。家庭料理で良く出てきて飲まれてますよ。」
「じゃあそれもお願いします。」
はじめて食べる料理の数々。初めて味わうインド文化に触れながらランチタイムを過ごす。
「これおいしいな!日本のカレーと違うね。」

会計を済ませるためレジへ。
「ごちそうさまです。」
「はい、今行きます。」
店長がレジを打ち、
「1000円になります。」
武志は夏目漱石の千円を出す。
「夏目漱石なつかしい。」
「え!千円って夏目漱石じゃないんですか?!」
「何言ってるんですか?今の時代、野口英世ですよ。」
周りのお客さんからも笑いの声が。
五千円札と二千円札を見かけると・・・・
「五千円札が樋口一葉!!!新渡戸稲造じゃないんですか?それに二千円札って!!」

「お客さんからかわないで下さいよ。本当に芝居が上手なんだから・・・。」
複雑な気分の武志。時代が違うという現実を味わった。それと悪目立ちしてしまった。
他のお客さんから
「兄ちゃん面白いねえ。本当にタイムスリップしてきたんじゃないの。」
「・・・・ごちそうさまでした」
「ありがとうございます。また、いらしてくださいね。」
なんだか気分が悪かった。
「本当に時代が違うんだな。このままこの時代にいるのか?それとも・・・・」
レシートを見て驚く
「ええ!ここは川岸市!!!」

一方、未来駈が川岸駅繁華街で情報収集していた。すると、通りすがりの若い大学生達が
「インドカレー店に変な兄ちゃんがいたんだよ。」
「ええどんな人?」
「千円札が夏目漱石だとか、五千円が新渡戸稲造じゃないのとか驚いてんの!」
「はあ、何それ。まるでタイムスリップしてるんじゃないの」
その話を未来は聞いた。
「もしや田沢君?やはりこの近くにいるのか?」
そして尋ねる。
「あのすいません。そのインドカレー店はどちらにあるんですか?」
「はあ?」

ランチタイムで石田はいつも通りカップラーメン+ご飯。
「田沢さん。お疲れさんです」
「ああお疲れ様です。目黒さん」
「バイトなれましたか」
「梱包材を置くのがうまくいきません。力がないもので」
「慣れです。やっていればうまくなりますよ。木田さんにきついこと言われたかも知れませんが気にしないでくださいね。麺グループのリーダーやらされてイライラしているんだと思いますよ。」
「私が悪いんですよ。仕事覚えるの遅いんで。」
「いつも助かってます。真藤さんもまじめに来てくれればこんなに大変にならないんですけどね。」
「問題児の一覧にのっていましたよ。その人。」
「ははは。やっぱりそうですか。あ、先に職場に戻ってますのでごゆっくり」
「はい」
バイト先の先輩と話をした後、アフターファイブのことを考える石田。
「あいつも突然、右も左もわからない未来の世界に来て気が参っていることだろう。今日は少し早めに帰って、カラオケに連れていくとしようか。少しは気が晴れるだろう。」
カップラーメンをすすりながらいろいろと計画を練る。
何の歌を歌おうかな。サーフェースの何してんの、サムスィングエルス「さよならじゃない」w-indsの「try your emotion」「long road」
DA PUMPの応援歌をいろいろと・・・・。
あいつにとって励ましになるような曲歌ってやりたいな。
「おっとそろそろ時間だ。職場に戻るか」

家に帰ってきた武志。そのまま仮眠をとる。
起きた後、また何かCDを聞こうと思い本棚を見る。
すると自分が持っているCDがほとんどそろっている。B’z,ZARD,WANDS,TWO-MIX・・・・。
「何だか石田さんって俺にとって全くの別人じゃないように思える。でも俺にない趣味があったり俺のことを知っているような・・・・何なんだろう?子供のころ好きだったアニメグッズまで持っている。一体何者?」
 インドカレー店で世の中を知らず恥をかいたことを思い出した。
「とりあえずニュースでも見ようか?ここにいるときに見た電車の車窓から見えた景色のこともわかるかもしれない」
ニュースでは大恐慌時代であることや、サッカー日本代表の躍進、アラブ圏、BRICsのことなど時代が違うことを感じた。IT技術関連など武志の知らない世界がTVから流れていた。
「日本や世界がこんなことになっていたのか?未来がよいのか悪いのかわからない。そのインターネットを使えばもっといろいろなことが分かるかもしれない。石田さんに頼んで使い方を教えてもらおう。」
ニュースを見ながら気になることを一つ一つメモに取った。

夕方。石田が帰ってきた。
「ただ今!昼は楽しく過ごせた?」
「ええ。見たこともないテレビドラマを見れたり、聞いたことない音楽が聞けたりして楽しめました。この時代と僕がいた時代の間で何が起きたかいろいろ知りたくなりました。あとでインターネットの使い方を教えてください。」
「いいよ。その前に右も左もわからないこんなところに来て、気が参っていると思うんだ。気晴らしにカラオケでも行かないか?」
「え!連れて行ってくれるんですかありがとうございます。」
「ちょうど二人以上いることだし。」
「二人以上?はて?」
「俺、二人以上でカラオケ行くの久しぶりでね。」
「じゃあ一人ってことですか?」
「そうなんだ。一人カラオケも悪くないんだけど、二人以上でカラオケに行くのもこれはこれで楽しい。」
「一人カラオケなんていうのはじめて聞きました。そんな習慣があるんですか?」
「まあね。ヒトカラって言って一人でカラオケ行くのはやっているんだ。」
「21世紀は変わった習慣があるんだな。じゃあ行きましょう。」

カラオケ館まで歩いて行く二人
「21世紀の流行りの曲をいろいろ聞かせてください。」
「20代の時好きだった曲をいろいろ歌おうかな。」
「それはそうと、VCD、DVDってどうやってみるんですか?」
「それじゃあ帰ったら教えるね。そこがよくいくカラオケ屋なんだ。行こう。」
カラオケ屋に入る武志たち。
「いらっしゃいませ。ご希望機種はございますか?」
「ジョイでお願いします。」
「お時間の方は一時間半飲み放題でお願いします。」
「一杯目のお飲み物は何になさいますか?」
「俺はホットコーヒー。君は」
「僕はコーラでお願いします。」
「かしこまりました。終了連絡は差し上げておりませんのでご確認お願いします。一階111号室でお願いします。」

指定された部屋に移動する二人。
「ソフトドリンク飲み放題でこの金額は安いですね。」
「だろ。安く長く歌えるカラオケボックスがこの時代にはあるんだよ」
「今年の冬、川岸のカラオケボックスに行きましたけどこんなに安くありませんでしたよ。」
「店によるんじゃない。このカラオケ館って地方にはあまりないんだけど、安いしサービスがいいんだ。まあいろいろ歌ってやなこと忘れよう。」
武志は一曲目B’zの90年代の曲を歌う。これを聞きながら学生時代を思い出す石田。
「次、石田さんの番ですよ。」
「あ?ああ。」
石田は高校卒業後に夢中になった歌を歌い続けた。それは武志へのメッセージのようだった。
「いろいろな人生訓。経験この人の歌にはそんなものが込められているようだ。」
「聞き入っちゃった?21世紀もいい曲が多いだろ。」
「はい。いやあ、いい歌が多い。こっちまでモチベーションが上がります。歌お上手ですね。」
「ありがとう。」
「次、田沢君の番だよ」
「それじゃあまたTKミュージックを。Globeのsweet painでも」
過去から未来へ希望を持ちながらタイムスリップしてくる人のことを想像する石田。それが過去から来た自分のことだと思ってもいなかった。
「高校時代の俺はTKミュージック聞きながら明るい未来が来ることを想像していたな。でも今は・・・・俺も世の中も真っ暗だな。」
当時の希望と現実の大きな違いを感じて暗くなりそうな石田。そんな彼とは反対に未来に希望を持つ武志。
「高校時代の俺には失望して帰したくはないな。たとえ後に絶望的な未来が待っていようとも。」
いろいろと考え込む石田。
「次、石田さんの番ですよ。なにか考え事でもしていらしたんですか?」
「ああちょっとね。じゃあ俺もglobeでいこう。Precious memoryで。」
石田は当時仲の良かった友達との別れていくことを思いながら歌った。
「今だって色んな友達が支えてくれたことを思いだす。いまは一人不況とたたかっているけれど・・・。みんな今頃どうしてるのかな?俺だけがこんなみじめな思いしているんだろうか?みんな社会で活躍しているんだろうな。」
武志は何かを感じていた。
「なんだか数年後の自分を見ているような。電車の外から見えた一人の人物。あれは俺なんだろうか?・・・・」
歌い終わると石田から提案が、
「最後は一緒にフリーダムを歌わないか?俺がマークのところ、君がKEIKOのパートを歌うんだ。どう?」
「いいですね。じゃあ歌いましょうか。」
「学生時代は自由がほしいと思い続けていた。何をやるにも親から束縛を受けるのが嫌だった。」
「大学に入ったら自由が待っている。色んな事をして遊ぶことが出来る。そのためにも今頑張っているんだ。」
二人ともこの言葉にいろんな思いを込める。幼少のころから親や学校や教師に束縛されて育ってきた。教師たちの自己満足なやらせを押しつけられたり、行きたくもないのに無理矢理、塾行かされたり、大好きなアニメ見たりゲームをやる自由も奪われた。家にいることが牢獄にいるような気分だった。自由に込める思いは二人とも共通だった。
「社会人になっても好きな勤務地を選び長く仕事をする自由も得られない。不景気に縛られず俺は仕事とプライベートを両立させたい。」
「俺は受験でいい成果を残し、大学では自由をつかむ。好きなだけテレビゲームしたり、仲のいい友達と遊んだり、好きな人と恋愛したり、いろんなことがしたい。」
この歌にこめる自由への思いを爆発させた。
「いやあいい気分だった。違う人とカラオケ行くのって楽しいものだよ」。
「歌を歌うのって一人の世界に入るところがあるから楽しいものかもしれませんね。一人カラオケも。カラオケって皆で行くものだと思ってましたけど」
「好きなだけ長く歌って楽しめるよ。多人数のカラオケもこれはこれで楽しいよ。」
「さっきの石田さん、precious memory歌っている時、何だか孤独感を感じましたよ。昔の思い出が輝いていてそれを懐かしむようでした。」
「社会人になってから気の合う仲間と一緒にいることがなくなって孤独を感じることが多くなったんだ。高校の頃はテストで嫌なおもいして落ち込んでること多かったけど気の合う仲間も多かった。もちろん嫌な奴らもいっぱいいた。裏切ったり裏切られたり・・・そんなこともあった。高校時代の仲間と今でもたまに電話するんだ。でも時間がたつにつれて付き合いがなくなっていくんだ。高校生活は楽しいか?」
「嫌なことやけんかも多くて嫌になることが多いですけど、一緒にいて楽しめる相手もいます。小中学校は周りが全員、敵でしたけどね」。
「高校時代の友達は貴重な仲間になると思う。だから大切にね。」
「石田さんも高校時代のご親友に助けてもらっているんですか。」
「悩みや愚痴はほとんど彼らに聞いてもらっていたよ。今でも友達の何人かとは付き合いがあるんだ。」
「高校時代の友達は大切ですね。」
石田のことを考えた。
「この人はどんな友人がいて、支えてもらっているんだろう?」
石田の友達づきあいが気になる武志であった。
「今日は帰りにスーパーによって行かないか。肉でも買って、焼き肉にしようか?」
「ありがとうございます。気を遣っていただいて。」
スーパーに行く。武志の実家とは大違いで規模もでかい。
「うちの家のスーパーじゃあ買えないようなものまで置いてある。ラム肉が売ってるんですね。」
「ああ。ここのスーパーはいろいろな食材が買えるんだ。」
肉やジュースいろいろ買い込んで大荷物だった。
武志たちは家路に向かった。
武志が昼御飯にしたインドカレー店の近くを通って昼の話をした。
「ははは。それは大変だったね」
「いつも人から笑われても平気な僕でも、あんなに驚かれたり笑われて恥ずかしかったですよ。」
「怪しまれないようにこの時代について学ばないとな。ご飯食べたらインターネットで未来の世界を勉強しよう。」
「はい。」
彼らが通り過ぎて10分後、未来駈と中沢未輝男がインドカレー店近くに来た。
「この近くで武志君を見つけたんだね。」
「はい」
もう少し来るのが早ければ、武志を見つけることが出来たことをこの二人は知らなかった。

アパートでは焼肉パーティーが開かれていた。
「おいしそうだな。いただきます。」
「いただきます」
「カラオケにまで連れて行ってくださり、おまけにこんなごちそうまでありがとうございます。」
「いいって、いいって。夏休みに親せきの家に来たと思ってくつろいでいってよ。」
ビデオに撮ったゲゲゲの女房を見ることに。
「ああこれ朝見ましたよ」
「面白いでしょう。これ鬼太郎の作者水木茂先生の奥さんが書いた作品なんだ。」
「こういう作品があったなんて知りませんでした。」
「君が来た時代にもゲゲゲの鬼太郎やってたでしょ?確か憂歌団が主題歌歌っていて。
「そうです」
「憂歌団のCD持っているんだ。これを見終わったら聞いてみる?」
「はい。お願いします。」
じゃあネットみるのとDVDとVCDみるのどっちから先に見る。
「このDVDって言うのはどうやってみるんですか。」
PCを起動させてここに入れれば見れるよ。
「あああ。なるほど。簡単に見れるんですね。PS2からもDVDは見れる。但しVCDはPC使わないと見れないよ。」
ついでだから一話だけ見ようか。
「はい。」
DVDを見ながら思い出話をした。ますます武志は石田が自分と似すぎていることを感じた。
DVDのアニメを一話だけ見た後、
「じゃあインターネットの使い方を教えるね。」
「はい。お願いします。」
「メモとらせてもらっていいですか?」
「ああいいよ。」
説明をしていることを必死になりメモする武志を見て石田は
「いつもメモに頼らないと仕事が出来ないなあ俺。」
仕事でのダメぶりを思い出す石田。
「こんなにいろんなものが見られるんですね。インターネットって。」
「趣味のページとか色んなものが見れるよ。テレビゲームの攻略法とか、音楽はミュージックビデオが見られるから感動するよ。お勧めはYoutube,wikipediaかな。」
「それはどういうものなんですか?」
「Youtubeは動画で、ミュージックビデオや昔のバラエティー番組からアニメのシーンまで色んな動く画像が見れるもの。Wikipediaは有名人のことから、勉強していてわからないことから色んな事を調べられる百科辞典だ」
例えば君の時代の音楽でも
検索のところに文字を入力した。
「よし!これで検索と」
ライブシーンがPC画面上に広がる
「凄い!これが21世紀の技術なの!!」
この見たこともないIT技術の世界をしり、驚きと同じく感動する武志。
「何か調べてみたいことってある?勉強のことから芸能人のことからいろいろいよ。」
「猿岩石のことを」
Wikipediaを開き猿岩石について検索する。
「はい、これ」
「詳しく載っている。あのインドカレー店の店長が言っていたことは本当だったんだ。」
「まあ色んな事調べてみな。俺はもう寝るから。好きなだけネットサーフィンして、好きな時に寝ていいよ。」
そういうと石田は網戸にして隣の部屋で眠った。
武志は夜遅くまでインターネットに夢中になっていた。
世界の動向について調べてみると、あの電車の中から見た光景は未来に起きた出来事であることを知った。
「苦悩する青年は・・・・?」
これだけはわからない。謎であった。

小説 時間列車 第一話

May 28 [Sat], 2011, 16:13
一日目:タイムトラベル(2010年7月26日)

「あの頃は輝かしかった。明るい未来が来るものと思っていた。」
青年は昔の夢を思いだしていた。
「今頃はいい大学に入り、いい企業に就職し、好きな人と結婚して優秀なエンジニアになることばかり考えていた。」
Sweet painを聞きながら明るい未来を信じていた高校時代の自分のことを考えていた。ノスタルジックな気分に浸っていた。
「高校時代のおれは輝かしい未来を夢見ていた。でも今のおれって何なんだろう。高校時代のおれが今のおれを見たらどんな気持ちになるだろう。絶望して生きる気力がなくなるんだろうな。」
ふがいない自分の今を嘆く。突然家がガタガタゆれた。まぶしい光があたり一面に放たれた。
「何、今の?」
すると同じくらいの背丈の少年が気を失っていた。
「嘘だろう!高校時代のおれだ。なぜこんなところに・・・・・」

黄金の列車が事故のため止まっている。
「中沢さん。大丈夫ですか!」
「僕は大丈夫だ。それより田沢君は?」
「いない、先程の事故でどこかへ行ってしまったのでは。」
「このプロジェクトは社運がかかっている。何としても田沢君を見つけるぞ。」
「はい」

一人の高校生が下校途中に、駅員の格好をした二人組に声をかけられた。
「この黄金のチケットを買わないか?」
「なんですかこれ」
「未来へ向かう電車さ。21世紀にタイムスリップしてみないか?」
「それ遊園地のアトラクションですか?」
「もし来てくれるなら、この南武園の森林地帯に来てくれ。未来にご招待するよ。」
二人の20代ぐらいのどこかの駅員からチケットを買う少年。
「未来の世界に行けるっていう宣伝文句に負けてしまった。どんなところなんだろう?まあ遊園地のアトラクションだから本当に21世紀に行けるわけはないと思うけどね。」

次の日曜日の朝、
「お母さん。南武園に友達と出かけてくるね。」
「何時ぐらいに帰ってくるの?」
「多分8時ぐらい」
「わかった。行ってらっしゃい」
「行ってくるね。」
バスに乗り電車に乗り、南武園に向かう。
「ただのアトラクションのはずなのになんだかわくわくしてくるよ。」
南武線に揺られえること40分、南武園につく。
「ここは小学校の卒業旅行以来だ。確かこの辺に・・・?」
昔と街の雰囲気が変わり驚く少年。
「時代が変わったんだな。バブルの名残があったあのころが懐かしい。イッチーとウッチーと一緒にここに来たっけ。」
小学生の卒業旅行代わりにここで遊んだころを思い出す。この二人とももう音信不通だ。歩くこと数分、教えてもらった場所にたどり着く。すると
「ようこそ時間列車に。来てくれてありがとう」
二人の駅員が待っていた。
「よろしくお願いします」
「じゃあ早速未来へ行きましょう。さあ中へ。」
自動改札に切符を入れて中に入る。すると黄金の列車が止まっていた。
「アトラクションにしては凄い。」
「これが未来へといざなう時間列車です。さあ乗って。」
昨日会った駅員の一人が言った。
「疑うこともなくこの人たちの誘いを受けてしまった。」
列車内には他にも色んな人がいた。
「皆同じ未来に行くのだろうか?」
車内からアナウンスが
「間もなく21世紀へ向かいます。電車が動きますのでご注意ください。」
アナウンスが終わるとドアが閉まった。
「いよいよだ。まだ見ぬ世界へ行けるんだ。」
カップル二人が
「未来の世界だって楽しみだね。」
「なんだ、やっぱりアトラクションか。遊園地のジェットコースター乗るのと同じじゃん」
カップルを見て、遊園地のアトラクションを想像した。
列車が動き出した。外の樹木が生い茂る森林地帯を抜けてトンネルの中に入った。しばらくすると車窓からは・・・・。

気絶している高校時代の自分を見て。
「俺が未来の田沢武志だとはいえない。どうやってだまくらかして元の時代に戻そうか?とりあえずばれないようにするぞ。」
 すると高校時代の武志が目を覚ました。
「あの。ここどこでしょうか?」
「ああ。気がついた?」
「30歳の田沢武志とは言えないなあ。どうしようか?」
「この人なんか俺に似てるなあ。」
「ああ僕は石田翔っていうんだ。僕に似てて驚いたよ。」
「田沢武志と申します。助けていただきありがとうございます。
「はじめまして」

こうして高校時代の武志と21世紀の武志との共同生活が始まった。
「パソコンがあったり、見慣れないものがいろいろある。どこなんだろうここ。」
「DVDやプレステが置いてあるのをみたら違う時代だってわかるだろうな。」
心の中でそう思う石田。時代が違うことを隠さず伝えることにした。
「驚かないで聞いてよ。今は21世紀、2010年なんだ。」
「21世紀!!冗談を・・・」
「ここにある電子機を見て何とも思わない?」
「パソコン、小さな電子機器に、見慣れないゲーム、CD?に似たもの、いろんなアニメや映画のジャケットが載ったものが・・・・いっぱいある。凄い!どれも見たことがないものばかりだ。あの二人が言ったことは本当だったんだ。」
「あの二人って?」石田は不思議そうに聞いていた。
武志は今までのいきさつを語った。
下校途中に見知らぬ二人から黄金のチケットを買い、黄金の列車に乗せてもらうところから話した。
車窓からはこれからの未来の様子が見えた。W杯日本代表初出場。そして、多くの英雄たちの神話、・・夢のことで悩む青年の姿。9・11テロ事件、イラク戦争、北朝鮮問題、オーストラリア、韓国、台湾の景色。様々なバラエティー番組、アニメ、TVドラマの数々、・・。武志はこの時何の景色かわからなかった・・・・・。

この話を聞き石田は高校出てからの今までの自分を振り返る。
「そうか大変なことがあったんだね。今日はもう疲れただろう。今から風呂沸かすから風呂入って早く寝な。」
「ありがとうございます。」
風呂洗い終わってから、出かける準備をする。
「着替え置いておくから。風呂出たら着て」
「それでは着させてもらいます。」
「今から買い物行って来るね。」
そういうと、石田はコンビニまで駆けていき、新しい歯ブラシなど過去からやってきた武志向けに買い物をしてくる。
「今の俺だとばれないように過去に帰してやりたい。どうすればいいんだろう。彼の言う2人組というのを見つけなければならないなあ。」
玄関を開けて家に入り、
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ごめんね俺のパジャマで」
「いえ、別に気にしていません。」
二人は思う。
「俺だってばれそうだな」
武志は気まずく思った。
「他人のパジャマ着ている割には自分のものを着ているような感じがする。この人って一体何者?」
不思議そうに石田のことを見ている。
「これ、田沢君の洗面用具。良かったら使って。」
「ありがとうございます。泊めていただけるだけでなくここまでしていただいて。」
「こんな見ず知らずの場所に着て困っているだろう。気にするな。早く元の世界に帰れるといいな」

プロフィール
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  • アイコン画像 ニックネーム:一人GENJI
  • アイコン画像 性別:男性
  • アイコン画像 誕生日:9月10日
  • アイコン画像 血液型:A型
  • アイコン画像 職業:専門職
  • アイコン画像 趣味:
    ・音楽-光GENJI、TRF、シーモ、カリート、TMRevolution etc
    ・スポーツ-サッカー,capoeira
    ・クッキング-イタリア、中華、和食等
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養成所の仲間たちに光GENJI誰と組むのって突っ込みをされました。僕がクラスメイトに組もうぜと言ったら拒まれました。そこで思い付いた芸名が”一人で光GENJI”略して一人GENJI。
これを芸名にしようと思います。
僕のクラスにはすでにNYCや少年隊もいます。
負けないように頑張ります。
yapme申請どなたでもOKです。興味を持たれた方々ぜひお願いします。
2012年04月
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