【天使の輪 リング 】 第一章〜裕香 C

February 15 [Mon], 2010, 20:26
−2−




その後、裕香が現実世界に帰ってきたのは、当然のように、陽もとうに暮れた時間だった。
と言っても、遮光カーテンで閉め切ったその小さな部屋は、いつも真夜中のようで、時間の錯覚さえ覚える。

カーテンの開け閉めなど面倒になってしまった彼女にとって、その小さな場所は、真夜中を過ぎた辺りの闇に似た暗さか、それとも、無機質な、しかしきちんと与えられた仕事をしている優秀な、蛍光灯の明りかの、どちらかの世界にしか、触れなくなっていた。


「うっわ。真っ暗。・・・てか、いま何時よ?」


ごそごそと、枕元を漁る。
しかし、獲物は釣れなかったようだ。

「は?なんでないの?ばかなの?」

再び、漁る。
が、再び、釣果は上がらず。

「むかつく!!!!!!!!!!!!」

激情にまかせて、敷布団をベッドから引っぺがした。


一瞬、目の端に、なにか長方形の物体が見えたような気がした。
見慣れた、自分愛用の携帯とまったく同じ色の、チェリーピンクの物体が。

は、と正気に戻ったときにはもう遅い。

哀れ、罪も何もない、かわいそうな小さな携帯は、その身を部屋の壁にしこたま叩きつけられ、ぐったりしたように、重力の運命のままに、その場に落ちた。
さいごにフローリングの床に当たり、軽くバウンドして、優雅なダンスでも踊るかのように、回転しながら。

「あー!あーあーあーあーあああああああああああ!!!!!!!!!」

そう、気付いたときは遅い。
物事というものは、大概そんなものである。

彼女は、ようやく気付いた。
そうだ、寝る前に、敷布団の下に、このかわいらしい携帯を押し込んだのだ。

その行為をしたのは、まぎれもなく自分。

彼女は、つくづく自分が嫌になった。




幸いなことに、そのチェリーピンクの精密機械は、その性能に見合わない、あまりの扱いを受けたわりに健康だった。
目立った外傷も見受けられず、内臓も、いたって問題なしだ。
奇跡的なことである。

「はぁああああ〜。よかったぁあああ。」

彼女は、自分の携帯が自分の恋人でもあるかのように、それまでの激情から打って変わった猫なで声で、いそいで携帯の元へ行き抱き締めた。

壊れて困るものなら、それ相応の扱いをしなければならない。
それを怠っておいて、一時の激情にまかせておいて、後で悔やむなんて、なんというバカげた話だろう。
何に於いても、である。


携帯は、優秀だ。
しっかりと冷静に働き、常に正しく時間を教えてくれる。




22時43分。



きょうは飲み会の予定があった。


ディスプレイには、何通ものメールと、着信があった。

【日記】 余分なものはさんでしまって、すみません・・・

February 14 [Sun], 2010, 10:45

書き始めたばっかりなのに、しかもまだ何も物語的に進んでいないのに、アクセスがジワリジワリと増えていることに、ニヤニヤしながら嬉しさいっぱいの、今日です。


しかし、現在わたしはまたうつ状態になっております。
具体的には、誰とも会話しない、食事を取らない。つまり拒食症です。
あとは、完全に自分の中に籠っております。
もう、誰も理解もいりません。いいこと言っても、どうせ耐えられなくなって、喚かれるだけです。

ほんとうに、もう結構です。



愚痴になりました。
本当にすみません。

そうそう、何が言いたかったかというと、自分の体調が優れないため、これから作品に影響すると思います。
文体が荒れたり、説明が省かれたり、きちんと描写できなかったり、わけのわからないことが増える恐れがあります。



稚拙な文ながら、読んでくださる方へ。

すみません。
そして、本当にありがとうございます。



以上、報告でした。

【天使の輪 リング 】 第一話〜裕香 B

February 13 [Sat], 2010, 19:23

薄々気付いてはいたであろう、できごと。

しかしそれを実際に言われると、どんな気分なものだろうか。


裕香は、胸糞悪い、と心の中で言った。



「ふーん。じゃ、お兄の状態が少しでも変わったら、またメールでも電話でも、連絡して?あたし、いちおうこれから学校だから」

嘘。いや、本当か。
実際、学校はある。授業も入っている。

けれども、彼女には学校に行く気など、まったく無かった。
ただとりあえず、この会話を終了したいだけだった。

「ああ、そうだね。ごめんごめん、いきなり電話しちゃって。っていま家なの?」

ああ、目ざとい。うっとうしい。

「うん、そ。家。きょう午前の授業がいきなり休講になってさぁ〜。」

いいえ、ただのサボリです。

「ふーん。じゃ、裕香、学校がんばってね。単位は足りてんの?しっかりやってね。」

うん、うん、と、いちおう相槌は打つことは大切だ。そして、そのとき、いかにもしっかり聞いている、といったような声色であることも。

「うん、じゃあね。」

ようやく母は電話を切ってくれた。




携帯の終話ボタンをプッシュ。
折りたたみ式携帯を閉じて、無造作に伸ばした腕の先の力をダラリと抜いて、そのまま、それを放った。

と同時に一呼吸して、裕香はようやく自分の世界に戻ってこれたような気がした。


頭がガンガンする。
吐き気もある。
しかし吐くべきものは、もう昨日のうちに、みな吐き出してしまった。
それでも吐き気は止まらない。

ああ、これがスコッチ一気飲みの代償か、と彼女は思った。


とりあえず寝よう。
頭が痛いから。

携帯は敷布団の下へ。マナーモードにもしたし、完璧である。


13時16分。


彼女は再び、眠りの世界に落ちていった。

【天使の輪 リング 】 第一話〜裕香 A

February 12 [Fri], 2010, 11:50

眠気が吹き飛んだ、とか、そんなことは無かった。
意外にも冷静に、事を受け止めることができた。


自分の身に、いま、起こったこと。



それは2つ上の兄、幸則(ゆきのり)が、先ほどER(緊急救命室)に救急車で運ばれて、ICU(集中治療室)に入った、という一つの揺ぎ無い事実だ。



正直、そこまで動揺はしていない、と自分で思った。
特に関心がない、とかそういうことではない。

むしろ、関心はあった。興味もあった。
「救急車」、「ER」、「ICU」という単語、一つ一つに。

そしてそれは、なにか素敵なものにでも憧れるような感情でもあった。
興味、というものは、もしかしたら、そういうものなのかもしれない。もちろん、違うもかもしれない。

知ってか知らでかは別として、ただ事実として、このとき彼女は、間違いなくはっきりと、わくわくとした感情を内包していた。



「びっくりせんの?」


母の声が、そう聞いてきた。少し、怯え気味に感じるのは、自分の探りすぎだろうか。

「びっくりしてるよ、んなもん。当たり前じゃん。
だってお兄、救急車って・・・。しかもいま、病院なんでしょ?」

若干、わざとらしい声色だった感じは、否めない。
人の心配をするときの声色は、少々暗く、そして”いかにも”心配しているかのようにしなければならない。

友達ならまだしも、身内のことは、こうも冷静で淡々としていられるのいか、と、無意識のうちに、自分自身に辟易した。


「容態は?意識とか、あるの?」
「うん。命に別状はないって。それは大丈夫だって」

先ほど少々緩んだが、さすが私のお母さんだ、と彼女が思うほど、母は少し前の様子など微塵も見せず、いつもどおりのしゃきしゃきとした会話をした。


「じゃ、いまはそのICUとかってとこにいるんだ。」
「うん、そ。」
「ICUって、よくテレビとかで見るけどさ、重篤な人が入るとこじゃない?」
「だからお母さん、それにもびっくりしちゃって。そんなことだって思わなくって。それに、そんなに悪いことだって、思わなかったのよ、お薬のイッキ飲みなんて。」

薬のイッキ飲みとは母よ、なかなかおもしろいことを仰る。

不謹慎ではあるが、二日酔いの頭痛に響くほどおもしろかった。
電話越しに、向こうに分かられないように、枕に窒息するほど頭を押し付けて、なんとか笑い声を抑え殺した。


「お母さん・・・ププっ・・・ひい・・・あたしも頭痛いよ。」

笑いを堪えると、こんなにも頭にくるのか。
怒りを堪えても頭にくるし、笑いを堪えても頭にくる。
人体というものは、なかなかにやっかいなものだ。

「え?!裕香、ちょっと、あんたもどっか悪いの?」
「あ、いや、そうじゃないそうじゃない・・・。その、寝過ぎただけ」

うん、嘘は言っていない。事実ではある。言い訳ではあるが。


しばらくわざとらしく、う〜ん、だとか、うう〜、だとか言いながら伸びをした。
しかし確かに、スっとして気持ちがいい。

始めは胸の辺りから、腕へ、そして足へ。全身の血管が一気に膨らんでいく感覚がする。
いま、自分の体の中で、血管という超高速道路を、赤血球と白血球と血小板たちが、心臓という上司から加速を受けて、ものすごいスピードで走り出したのが分かった。

いままで活動を抑えていた体が、ようやく動くべき体勢に入った。


「お母さん、それ、ODっていうんだよ。」

スッキリした頭で、教えてあげた。


「おーでぃー?」
「うん。オーバードーズ。大量服薬。」
「オーバードーズ・・・。」

「なんであんた、そんなこと知っとるん?」

うっ。
別にやましい思いがあるわけではないのだけれどもなぜか、妙に焦った。

「ま、豆知識だよ・・・。」
「ふーん。ま、裕ちゃんはほんと、いろいろと変なこと知っとるでねえ。お母さんは聞いてて楽しいけど。」

「ふーん。じゃ、豆知識ついでに、ODするのって、自殺目的なんだって。」

「じさ・・・」























しまった。
















母をいじめるつもりではなかった。

【天使の輪 リング 】 第一章〜裕香 @

February 11 [Thu], 2010, 19:56
−1−





それは、ある日突然、知ったことだった。




いつもなら、携帯電話の「母親」というディスプレイを見ただけで、いつものように、そのまましばらく放置しておいたかもしれない。
いつもなら、寝ているところを叩き起こされた気分がして、非常に不愉快な着信音をマナーモードに切り替えたかもしれない。
いつもなら、いや、いつものように、昨晩、いや明け方まで泥酔していたので、そのまま気付かず、夕方まで爆睡していたかもしれない。


「かもしれない」を数えたら、キリがない。


いつも、そして、すべてのことが、「かもしれない」の連続で、無限の連鎖を見えない空間に、目の前に広がっていく。

しかし起こっている事はいつも、角膜のある人なら誰でもが見えることのできる、ただのたった一つの現実で、ただのたった一つの出来事なのだ。



「・・・もしもし」

酒枯れして、声が掠れて、うまく喋れない。
けれど不思議にも、寝てるところを電話で何度も何度も、何度も起こされた割には、平静な感情で話せた。


またどうせ、風邪ひいたの?とか、こんな時間までいつまで寝てんのよ、とか、学校は行ってんの、とか、部屋は掃除してるの?とか、そんな類のことを言われるのだろう。

こんな朝っぱらから。人のことも知らないで。

と、内心ちっっと毒付いた。
こんなことなら、電話なんか、いつもどおり出なきゃ良かった、とも。



しかし母は、予想という名の期待に反して、もしもし、とコール時に言っただけで、突然黙り込んだ。


これは予想外だった。
はっきり言って、拍子抜けした。

そして、ただでさえ二日酔いでガンガンしている頭が余計にガンガンしてきた。

「・・・なんなん?」

「・・・・・・」

それでも黙っている母。
キレてやりたい気も大有りだが、少し、不審を感じた。

「なんなん。なんかあるんでしょ?」

こちらから譲歩することも大切である。
いくらこちらの体調が悪いとはいえ、相手は自分よりももっと、更に体調が悪い、という場合も世の中あるのだ。
それに本心は、サボリのことや、飲み会のことについて、言及されたくないからでもある。

それは表裏一体、臨機応変、安心立命・・・。



「あのね、」

ようやく母が口を開いた。なんだ、強盗にでも襲われて、ガムテープでも張られてはいないのか。

しかしその口調は、いつもどおりのようであり、いつもどおりではない。
いつもの声色のようで、微妙に、軽く上擦り、そして、揺れていた。
意識して抑圧している声である。

ようやく本気で聞く気になった。




「ゆっくりでいいから、なにかあったん?」

「・・・・・」

まただんまりか。お前は焼けかけのハマグリか、と言ってやりたいのを、なんとか堪える。
急いては事をなんちゃらら。自分から口を開かない貝なんて、むりやり食べてはいけない。
焦ってはいけないのだ。







「・・・・・・・・・・・・」










やや間があったのち、ついに観念したのか、ハマグリはその口を開いた。








「あんね、幸ちゃん、うつ病だったんだって。

きょう、起きてこんと思って見に行ったら、顔真っ青で。
お母さん、本当に死んでるんかと思った。
うちらの知らん真夜中に、なんかよく分かんないけど、とにかく薬飲みまくったんだって。
いま、病院。幸ちゃん、ICUだって。」





わずかに聞こえる、定期的に抑えながら息を吸うのを聞いて、母が息を殺して泣いているのが、分かった。
プロフィール
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  • アイコン画像 ニックネーム:のりたま
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 誕生日:1986年11月1日
  • アイコン画像 趣味:
    ・クラシック音楽全般-シンフォニックメタル
    ・ビーズアクセ作り-デコぬいぐるみ作り
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