スーパーコピー財布

June 21 [Fri], 2013, 17:41
夕方、櫻の澤へ散歩がてら明(あきら)君の別莊による。當分新夫人と二人ぐらしの由。その美耶(みや)子夫人がこんなもの召上るかしらと言つてボンボンの皿を持つて出てくる。おや、おや、この人達はまだボンボンなんか食べて居るのかしらと思ひながら、そこは私のことだからそんな顏をしないで、偽物ブランド「結構。……僕はいま丁度ボンボンの味のする少年時代の小説を書きかけてゐるんだけれど、なかなかその味が出ないで弱つてゐたところだ。ひとつ頂戴するぜ。」――さう言つて私はそのボンボンを二つ三つ口に入れた。それから三人で一しよに櫻の澤を散歩する。美耶子さんが二三日前、白晝、このへんで英國大使のお孃さんが強盜に襲はれてハンド・バッグを奪られた話をする。それ以來なんだか物騷でこのへんをひとり歩きが出來なくなつたといふ。その時向うから二人づれのお孃さんが元氣よく歩いてくる。そこは徑が大へん狹かつたので私たちは傍にどいてそのお孃さん達を先きに通らせた。私はその一人が四五日前自分と一しよの汽車でこつちへ來たお孃さんであることをとつくに認めてゐたからである。私の心臟は少しばかりだがドキドキした。が、向うではこつちの顏を空氣のやうに見たきり、そのまま私たちの前をすうと通りすぎた。
「まあ可愛らしい方ね!」美耶子さんがそのお孃さんの方をふりかへりながら言ふ。私はどうも異性の年齡はよくわからないのでそのお孃さんと美耶子さんとがどのくらゐ年が違ふのか知らないけれど、その「可愛らしい方ね」にはちよつと面くらつた。美耶子さんにはそのお孃さんがよつぽど子供々々して見えるのかも知れない。そこで私も用心しいしい汽車の中のことを話した。うつかり夢中になつて話すと私まで美耶子さんに子供扱ひにされるかも知れないので。――私は明君にAといふ字の頭文字(イニシアル)のついた外交官を知つてゐるかと問うた。彼は最近歸朝したベルギイ公使がAと言やしないかと答へた。して見ると、そのA公使のお孃さんかも知れない。(私はもう何處かの外交官のお孃さんと一人ぎめにしてゐるのである。)――その時分から私の齒はかすかに痛みだした。さつきのボンボンのたたりらしい。
 晩飯(デイナア)のあとで、舌に火傷をするほど熱い出來立てのアツプルパイを頬ばつたら、私の齒の痛みが猛烈になつた。アダリンをいつもより少し餘計に飮んだらいくぶん樂になつたので、そのまま寢臺に横になつた。さうしたら疲れてゐたと見えてぐつすり寢入つた。偽物ブランド
 夜中の二時ごろだつたらう。私は急に何かにびつくりしたやうに飛び上つた。齒がとても痛み出してゐるのである。私はタオルを濡らしてそれで局部を冷やした。それでも我慢し切れないので部屋中を歩きつた。氣がついて見ると、私はいつのまにかホテルの廊下に出てゐて其處を行つたり來たりしてゐる。西洋人の體臭みたいなにほひが漂つてゐる。どこかの部屋からへんな音が洩れる。よつぽど私も寢ぼけてゐると見えて、それを一層へんなものに感ずるらしい。鼾にしては……だが西洋人の鼾といふものは、みんなこんなものかも知れない。まるでゴム風船をふくらまさうとして力んででもゐるやうな、オペラ・コミックの一節のやうな。私はそのとき不意に、一月ばかり前に讀んだラジィゲの「ドニイズ」といふコントの結末を思ひ出す。――田舍娘とあひびきの約束をする。その夜、旅籠屋の一室でその娘を待つてゐるが何時までたつても彼女は來ない。夜が明けかかる。ついうとうととする。ふと目をさまして見ると卓の上にいつのまにか娘の置き手紙が載つてゐる。「鼾なんかかく人は大嫌ひ。」……そいつも西洋人だから、その鼾もきつとこんなだつたのかも知れない。これぢや田舍娘にだつて嫌はれようさ。――私はひとりでくすくす笑つてゐる。頬にタオルを兩手であてがつて、しかめ面をしながら、そんな思ひ出し笑ひを笑つてゐる。もし誰かが私を見てゐたら、こいつもまたさぞオペラ・コミツクめいて見えたことだらう!



八月一日
 ヴェランダから見てゐると、ホテルの中庭に他の山百合の群から離れて一つだけがぽつんと咲いてゐる山百合の奴が、さつきから小止みなく跳つてゐるのが、どうも目に立つのである。私はその花が何をうれしがつてゐるのかを知りたいと思つて、わざわざ其處まで下りて行つたら、そこからは庭の奧の四阿屋の中でもういい年をした一組の男女の戲れ合つてゐるのが丸見えになつた。黒眼鏡をかけた女が腰をかけて本を讀んでゐると、その前に男が膝をついてその女の足を撫でてゐるのである。食堂やサロンなどではいつも無口で寂しさうな樣子をしてゐる、あのロシア人の夫婦であつた。

スーパーコピー財布

八月二日
 午後、いつものやうにスモオキング・ルウムで原稿の手入れをすませて、それからぼんやりホテルの玄關を眺めてゐた。ホテルの玄關くらゐ私の書きものに疲れた目をまぎらしてくれるものはない。そこには二匹の七面鳥が放飼ひにされてゐた。彼等は慌しい客の出這入りを至極のんびりと監視してゐた。取次ボオイのいい標本だ。そいつが今日はどうしたのか門からはひつて來た男を見るが早いか、何處かに姿をかくしてしまつた。その男は刑事だつた。
「このホテルの雇人のうちに誰れかE屋へ夏帽子を買ひに行つたものは居らんか?」刑事が横柄に聞いた。
 あいにく其處には取次ボオイと部屋ボオイが二人きりしか居合はさなかつた。彼等は唯、まごまごしてゐた。
「分らんかね? 一體、このホテルには雇人はいくたり居るね?」
「さあ……(ボオイの一人が指折りながら答へた)……部屋ボオイが三人と、食堂ボオイが四人と、それに取次と、風呂番と、ポオタアと、それからコックが四人に、庭師が二人だから……都合十六人になります……」
「十六人か? ……それぢや、そいつを皆調べて夏帽子を買つた奴がゐたら、あとで署まで知らせてくれんか?」さう云つて刑事は歸つていつた。
 さうすると何處からともなく他の雇人達が集つてきてその二人のボオイを取り卷ながら何かがやがや喋つてゐた。そこへひよつくりホテルのポオタア君が姿を現はした。君はをととひE屋で夏帽子を買つて來たらうとボオイの一人に言はれると、彼はきよとんとした顏をして「うん買つたよ」と答へた。「ぢや刑事がいま呼びにきたぞ! すぐ警察へ行つてこいよ。」ボオイがさういふと、ポオタア君は、なあんだ、その事か、と言はんばかりの顏をした。彼はその事件はすでに知つてゐた。――さつきホテルの五島といふボオイが自轉車に乘つてゐたところを急に捕つて警察へ引つぱられて行つた。その自轉車が二三日前から紛失してゐたE屋の自轉車だつたのだ。――それでこのホテルの雇人で二三日前にE屋に夏帽子を買ひに行つたものがあつたのでその男に嫌疑がかかつたのだ。その男がE屋の自轉車を故意にか、間違へてか乘つて來たのだらうと言ふのである。それに知らずに乘つたボオイこそいい面の皮だ。しかし今しがた支配人が警察へ貰ひに行つたから直ぐ歸されるだらう。――だが俺はE屋で夏帽子は買つたがそんな他(ひと)のところの自轉車になぞ乘つてくるもんか! 大方、うちの門の前におつぽり出されてゐたのを誰かうちの奴が氣を利かして門の中に入れて置いてやつたんだ。それに知らずに乘つた五島の奴が間拔けなんだ。……とポオタア君がいきまいてゐる。
 そんないかにも避暑地の出來事らしい間の拔けた話――夏帽子、ボオイ、自轉車とまるで三題噺じみた話を聞きながら、私はひとりで微苦笑してゐた。さうして突然、それまで題をつけなやんでゐた、自分の少年時代の夏休みを主題にした製作中の小説に「夏帽子」といふ題をつける事を思ひつく。いつそのこと「麥藁帽子」といふのにしてやらうかな。……財布 コピー
 ラジィゲは彼の少年時の詩集に「休暇の宿題(ドヴオワル・ド・ヴァカンス)」と題した。私もいま少年時の思ひ出を、いやいやながら休暇の宿題を片づけて行く生徒のやうに、書き綴つてゐる。
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
http://yaplog.jp/syuii123456/index1_0.rdf