おもちゃ倉庫

August 05 [Sun], 2007, 22:40

おもちゃ倉庫…この倉庫には絶対に足を踏み入れてはいけない…




2007年春休み・・・。



つい先日のこと・・・。


俺は春休みをむかえ学校からも一時開放され、テンションがあがりウキウキしていた・・・。



しかし楽しいことばかりではない。

春休みまえには別れもあった。


離任式・・・。



高校生活2年間一緒だった先生と何人もお別れをした。


そしてこの春休みも別れがくる・・・。


そう、俺の姉が一人暮らし始めるため家をでていくのだ・・・。


このお話は俺が家族で姉の生活準備を手伝いに福岡の久留米に行ったときの話である・・・。







このお話はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。


生活準備の予定はこうだ。




1日目


姉の住むことになる寮へ行き近所のドンキなどで雑貨を買い物


1日目は寮から車で1時間ほどの親戚の家に泊まる


2日目


昨日ドンキで買ったものをかたづけ、家具屋に行き家具を購入し寮で組み立て

家へ帰宅







1日目は予定どうりにすすんでいた


ちゃんと雑貨を買い親戚の家へ行き泊まっていき…






だが2日目…







俺、いや家族の歯車が狂った…






全然予定どうり事がすすまないのだ…






「母さんこれ今日じゅうに間に合う?」




「まにあわないかもね…」






俺の両親は2日目の泊まりは勘弁してほしいようだ…


親戚の家へまた泊まりにいっても迷惑だし車のガソリン代かかるし、姉の寮は男立ち入り禁止だし(ただでさえ部屋の手伝いでこっそり立ち入ってんのに泊まりなんて…)ホテルに泊まってもいらないお金がかかる…




でも内心俺は泊まりがよかった

深夜に家に時間かけて帰るのも面倒だしこの調子じゃ寮も親戚の家も無理だし久しぶりにホテルで旅行気分を味わえるからだ…



そしてみるみるうちに時間がすぎていき、家具さえ買いにいってもないのに夜8時に…


(やった…これで泊まり確定だな…)

俺は内心ほっとした





あの出来事が待ち構えているとは知らずに…







「もうこれは泊まるしかないね」


俺は両親に言った



「そうね…」

母親もしぶしぶ承諾




そして家族全員で車に乗り泊まるところをさがしに



母と妹は金ももったいないし、女は立ち入りOKなので寮に泊まるそうだ



ってことは俺と父がホテルか…



ホテルを探し始めてどれだけの時間がたっただろうか…





一向にホテルが見つからない…



いや、正確にいうとホテルはあるんだがどれもこれも高級ホテルばかりでとまれるはずなかった…


俺達が探しているのはビジネスホテル…



本当に寝るだけのホテル…



なんか虚しいな…




「もう高級ホテルでいーじゃん」




「ダメ!高いんだから」



「ぢゃぁこのままホテル見つかんなかったらどうすんの?」




「車で寝るしかないな…」


(車かよ…キャンピングカーでもないのに…)


(はぁ…)



俺は真底落ち込んだ


(これなら家に無理してかえったがよかったぢゃん…)







その時!母親が看板を指差して叫んだ。





「見つけた!」




俺はすぐさま母の指差した看板を見た。










「………は?…………ハアァァァァ!!!?」



そこで俺が見たものとは!!!

しんのすけのいない夏

June 22 [Fri], 2007, 21:03


海に行って海水浴をしよう。
山に行って探検をしよう。
リアルおままごとの長編をやろう。
三輪車でとにかく遠くへ行こう。

夏休み、何をするかみんなで決めた計画だった。
毎日遊んで、とにかく遊んで、遊んで笑って。
案だけはやたらと思いつくくせにどれも実現性のないものばかりなものを言っていたあいつは、そこにはいない。



しんのすけのいない夏。



第一章 風間とひまわり


第二章 十三年前 (1)


第二章 十三年前 (2)


第三章 緊急手術


第四章 しんのすけのいない夏


第五章 目覚めと別れ


第六章 兄弟


最終章 手紙

しんのすけのいない夏 8

June 22 [Fri], 2007, 20:56
しんのすけのいない夏


最終章 手紙




ひまわりは走って家に帰った。
シロの墓に簡単に手を合わせて、家に入る。

「おかえり〜」
「ただいまでしょ。夕飯できてるから早く準備しなさいよ〜」
「はーい」

ひまわりはそう言ってカバンを玄関に放ると二階へ駆け上がった。
コラー手洗いうがいしなさい、というみさえの声は聞こえているが、それでも階段を上った。
小学四年生になった時にもらった自分の部屋に入ると、脇目もふらず机の引き出しを開けた。
透明なビニールで包装されたそれを取り出し、引き出しを閉める。
部屋の中心でそれを掲げてひまわりはポツリと言った。

「お兄ちゃん」

写真で見たしんのすけの姿をそれに重ね合わせると、それの輪郭が少しぼやけた。
帰り際に風間に言われたことを思い出し、鼻をすすった。

「アタシとおにいちゃん、似てるんだってさ。風間さんが言ってたよ」

ひまわりはそれに書かれた汚い字を眺めて、笑った。
ビニールに入ったしんのすけからの手紙を抱きしめて、涙がこぼれた。

―――――
――――――――――

――――――――――――――――――――



のはらひまわりえ


ひまわりはオラのいもおとだゾ
たまにちょっとしつこいこともあるけどひまわりはオラのいもおとだゾ

ひまわりはかあちゃんみたいにさんだんばらになったりこじわをかくすためにあつげしょうしたり
おけつはでかいのにおむねはちっちゃいなんてことになっちゃダメだゾ
でもかあちゃんみたいにオラたちのためをおもってちゃんとおこったりいっしょにおふざけしたり
なんだかんだいってもとおちゃんのことをすきでいなくちゃダメだゾ

ひまわりはとおちゃんみたいにあしがすごくくさくなったりおひげがはえたり
いえでごろごろしてなにもしなくなっちゃダメだゾ
でもとおちゃんみたいにかぞくをなにがなんでもまもったりかあちゃんにないしょでおかしかってくれたり
なんだかんだいってもかあちゃんのことすきでいなくちゃダメだゾ

ひまわりはシロみたいにしろくでふわふわしてなくちゃダメだゾ
ひまわりはオラみたいにかっこよくてかわいくててんさいでなくちゃダメだゾ
ひまわりはオラみたいにいつもわらってなくちゃダメだゾ
ひまわりはおはなのひまわりみたいにいつもおげんきでいなくちゃダメだゾ
いつもワーッハッハッハッハッハッハッハッってわらってなくちゃダメだゾ

でもひまわりはやっぱりひまわりのままでいいんだゾ



                                      のはらしんのすけ




                       



                                           おしまい

しんのすけのいない夏 7

June 22 [Fri], 2007, 20:50

しんのすけのいない夏


第六章 兄弟







「その手紙の話は初めて聞いたなぁ」

風間は空となったココアの缶を両手で包むようにして掴みながら言った。
アタシも母から聞きました、とひまわり。
夏の日は長いというのにもう街は暮れなずんでいる。

「その手紙、ひまわりちゃんは読んだの?」
「……はい」

風間は突然立ち上がった。
不安げに見つめるひまわりを気にすることなく、公園のゴミ箱に空き缶を投げる。
空き缶は入らなかった。
風間は鼻で笑うとゆっくりと空き缶の元へ歩いていき、拾い上げてそっとゴミ箱に捨てた。
両手をポケットに突っ込むと風間はひまわりの所へ戻った。

「僕はもう帰るよ。今日はありがとね」
「……あ、あの……手紙の中身、聞かないんですか?」

なんというかこういう所がしんのすけらしいのか、などと風間は思った。

「いいよ。その手紙、ひまわりちゃん宛てなんだろう?」
「えっ、あ……」
「なら僕が知る権利はないよ」

風間は公園の出口へ向かって歩き出した。

ひまわりは急いで空き缶を捨てた後、風間のあとを追った。
公園を出たところで再び対峙する。

「今日はありがとうございました」
「いやいや、それはこっちの台詞だよ。今日は本当にありがとね、ひまわりちゃん」



ひまわりは深々と頭を下げると、風間は軽く礼をした。
それじゃ失礼します、とひまわりは振り返り、駆け出した。

「ひまわりちゃん!」

風間は上体を少し反らしながら叫んだ。
ひまわりは急停止すると再び風間の方を向く。
風間は少し離れてしまったひまわりのためにポケットから手を出して、即席のメガホンを作った。

「ひまわりちゃん! 君はしんのすけに似てるよ!」

ハッとした表情のひまわりに少し笑って、風間は続けた。

「いつだって大切なものは何かをわかってるところなんか、そっくりさ!!」



最終章 手紙に続く





しんのすけのいない夏 6

June 22 [Fri], 2007, 20:41

しんのすけのいない夏


第五章 目覚めと別れ




季節は抜け落ちたように過ぎて秋になっていた。
ひろしは会社で一本の電話を受け取り、我を忘れて叫んだ。

「本当かみさえ! 本当にしんのすけの意識が戻ったんだな!?」

電話の向こうで嗚咽交じりに頷くみさえの声が聞こえる。
ひろしは取るものも取らずして会社を出た。

病室のドアを蹴破る勢いで開ける。
しんのすけのベッドの周りには医師看護婦が数人と、椅子に座りしんのすけを見つめるみさえがいた。
ひまわりはみさえの腕の中で静かに寝息を立てて眠っている。

「ヨッ!」
「……ヨッじゃねえよ……しんのすけええぇぇぇ!」

しんのすけに抱きつく寸前で医師に止められ、それでも泣き叫び鼻水を垂らすひろし。
事故があったことを感じさせないほどしんのすけはいつも通りだった。

「やはりまだ体は動かせませんね。まぁ意識が戻っただけでも奇跡的なことですし、気長に治療していきましょう」
「ハイ! ありがとうごじゃいます!」

ひろしは泣きながら医師達に頭を下げると、医師達は微笑んで病室を後にした。
個室には野原家だけとなった。

鼻をぐずらせながら微笑みしんのすけを見つめるみさえに、気持ち悪いゾ、としんのすけ。
もぅう〜る〜さ〜い〜、とみさえ。その顔に怒りは微塵も感じられない。

「父ちゃん、さっきの看護婦さんピッチピチのかわいこちゃんだったゾ」
「うんうん」

ひろしも涙を流しながら頷くだけでしんのすけはまた、気持ち悪いゾ、と言った。
ちょっとだけ噴き出すように笑った後、心配かけさせやがってぇ、とひろし。
久方ぶりの団欒。

しばらくして幼稚園のみんながやってきた。
園長はひろしと抱き合い、松坂先生は口では強がりながらも涙を流していた。

「しんちゃんよかった〜!」
「し〜ん〜ちゃん、こ〜れ、みんなで〜、作っ、た」

ボーちゃんが窓際に飾られた千羽鶴を指差した。
おおぅありがとみんな〜、といたって軽く、いつも通りに、感謝するしんのすけ。
まさお君は泣きすぎて何を言っているのかわからない。
そんな中、風間の表情だけが曇ってた。

「風間くん! ヨッ!」
「……ヨッじゃないだろ、しんのすけ……みんながど、どれだけ心配したかわかってるのか!」

目に涙をいっぱい溜めて、風間は叫んだ。
病室にいる全員の視線が風間に集まる。
皆一様に目を細め、それぞれの思いを噛み締める。
そんな中でもしんのすけは表情一つ変えず飄々と言った。

「オラわかんないぞ」
「お前――」
「でも――」

風間としんのすけの声がかぶった。
互いに黙り、風間が譲る。
どぞどぞお先に、としんのすけ。いいから言えよ、と風間。




「……でも、感謝はしてるゾ」

しんのすけのいない夏 5

June 22 [Fri], 2007, 20:37

しんのすけのいない夏


第四章 しんのすけのいない夏






海に行って海水浴をしよう。
山に行って探検をしよう。
リアルおままごとの長編をやろう。
三輪車でとにかく遠くへ行こう。

夏休み、何をするかみんなで決めた計画だった。
毎日遊んで、とにかく遊んで、遊んで笑って。
案だけはやたらと思いつくくせにどれも実現性のないものばかりなものを言っていたあいつは、そこにはいない。
公園の滑り台で風間達四人は途方にくれていた。

しんのすけのいない夏。
しんのすけ抜きで遊ぶ時とは、全く違う。
空は空しくなるほど高く、太陽は寂しくなるほど暑かった。
忘れて遊ぶことなんてできなかった。
あいつのおふざけがないと全ての遊びが味気なく感じた。

夏はただ過ぎていった。
しんのすけは眠り続けている。
毎日看病に行くみさえは気にしていた三段腹がなくなるほどやつれた。
そんなみさえを心配するひろしも仕事が手につかなくなっていた。
幼稚園も、公園も、かすかべも、どこか穴が開いてしまったように静かだった。

ひまわりだけは、気ままに笑い、怒り、膨れ、また笑っていた。


第五章 目覚めと別れに続く

しんのすけのいない夏 4

June 22 [Fri], 2007, 20:32

しんのすけのいない夏


第三章 緊急手術





すぐさま救急車で運ばれ病院で手術が始まった。
連絡を受けたひろしが病院の到着した頃、みさえは話ができないほど泣き崩れていた。
ワンワン泣くまさお君にそれを泣きながら支えるネネちゃん。
両手を力いっぱいに組んでしんのすけを無事を祈るボーちゃん。
血が出るほど両手の拳を握り締め、声を殺してなく風間。

幼稚園の先生方や子供たちの両親も駆けつけてきたが、ただオロオロするばかりだった。
泣きじゃくる吉永先生を、あの子ならきっと大丈夫だから、と松坂先生は自身の不安の色も隠さず勇気づける。
手術室の灯火は夜遅くまで点いていた。

夜も遅いと子供達やその家族は帰らせじっと待っていると手術室の灯りが落ちた。
みさえも肩を持ち立ち上がるひろしと幼稚園の先生方。
手術室から医師が出てくると、マスクをはずして、言った。

「……ひとまず、一命はとりとめました」

その一言に更に涙を流すみさえ。
幼稚園の先生方は一瞬歓喜するがすぐさま静かになり、息をのむ。
ひろしが震える声で医師に聞いた。

「し、しんのすけはどうなったのでしょうか?」
「頭部の損傷がやはり一番酷く、頭蓋骨の骨折によりわずかに脳が損傷しています。しかし、後遺症はおそらくないでしょう」
「ホントですか!? ……よかったぁ」
「……しかし、気になることが一つあります」






事故から一週間。
しんのすけは目覚めなかった。

「先生! しんのすけは植物状態から目覚めないですか!?」
「そ、それはわかりません! 明日目覚めるかもしれないし、このままかもしれません」
「どうしてアンタそんなことが平気で言えるんだ! キチンと手術したのか!」
「……あなた……もうやめて」

しんのすけの植物状態は脳の損傷によるものかのかどうかは医師達にもわからなかった。
ただ言えることは、いつか目覚めるであろうということ。
そしてもう一つ。
いつ目覚めるかは、誰にもわからないということだった。

意識のないしんのすけのお見舞いは、毎日違う人達が来た。
人も違うが、人の種類自体も違った。
性別、年齢、職業、人種……たくさんの人がお見舞いに訪れた。
どういう関係なのかはみさえ達さえわからない。
しかし、これだけ様々な人達がくるのに、みんな同じことをいうのだった。




「こいつは絶対、死にはしない」


第四章 しんのすけのいない夏に続く

しんのすけのいない夏 3

June 22 [Fri], 2007, 20:24

しんのすけのいない夏


第二章 十三年前 (2)




そんなオバサンの珍態をしんのすけが見つける。

「お!?」

次の瞬間、なけなしのバランスが崩れた。
しんのすけとひまわりはベビーカーから放り出されてしまった。

空中で笑うひまわり。
さすがに危ない状況だと判断したしんのすけ。

「ひまわり! あぶない!」

器用に空中で体勢を変え、ひまわりを抱きかかえるしんのすけ。
重力が二人を引っ張る。
地面が二人を乱暴に抱きとめる。

しんのすけが下になり着地した道路の上。
ひまわりはキャッキャキャッキャとはしゃぎ、しんのすけは背中の激痛にもだえている。
みさえは二人の姿が見えるところまで来ていた。

「しんのすけー! ひまわりー! 大丈夫!?」

ひまわりもみさえを見つけ無邪気に手を振っている。
そんなひまわりを恨めしそうに、しかし、安堵を浮かべて見るしんのすけ。

しかし何故だろう。
風間の胸中でうごめく不安が消えないのは……。


半ズボンについた砂を払いながら立ち上がるしんのすけ。
そんなしんのすけやひまわりの姿を見てみさえは自然と笑顔になった。

「おぉ!」

ひまわりが声をあげた。
視線の先にはベビーカーの中で静かにしているようみさえがひまわりに与えた金のネックレスが落ちていた。
頂上を少し過ぎた太陽がそれを照らし、ネックレスとひまわりの心を輝かせる。

「テッテッテッテッテッテッテッテッ!」
「あっ! ひまわりぃ!」

ひまわりは頬を赤らめ高速ハイハイでネックレスの元へ向かった。
も〜しょうがないなぁ、としんのすけが両手を腰に当てて溜め息をつき、太い眉毛を八の字に顰める。

最後尾でモタモタ走っているまさお君が、待ってよぉ〜みんなぁ〜、といいながら懸命に走っている。
しんのすけ達の様子を見て風間はもうさすがに大丈夫だろうと思い、その場に止まってまさお君が来るのを待った。
まだ嫌な予感がするのだって今回はひまわりちゃんがいたからいつもより余計に心配してしまっただけであって
それがまだ尾を引いているだけなんだ、と風間は思った。
まさお君が風間に追いつく。
ありがとう、とまさお君。うん、と風間。

十字路の中心でひまわりを待つ金のネックレス。

「テッテッテッテッテッテッ!」
「ひまわりぃ、そんな所に行っちゃだめだゾ〜」

しんのすけは小さな黄色い背中を追いかけた。
黄色い車は彼氏との待ち合わせ時間を追いかけた。

ひまわりはネックレスの元へとつくとそれを手に取り、えへへぇ〜へぇ〜、とだらしなく笑う。
時間と彼氏との甘い夜しか見えていない女は更にアクセルを踏み込む。
その音がしんのすけの耳に届いた瞬間、しんのすけは視界の端で黄色のバケモノがひまわりを食おうと突進してくるのが見えた。

「ひまわりいいいぃぃぃ!!!」

両手両足に力がこもる。


蹴り出すつま先が怒号を上げる。
運転手の女は悲鳴を上げ、混乱が更にアクセルを踏ませる。
風がしんのすけを援護する。
早く。速く。ひたすら、はやく。
もう一度妹の名前を叫び、全力で駆ける。
ひまわりが笑っている。

しんのすけは、跳んだ。



しんのすけのいない夏 2

June 22 [Fri], 2007, 20:11

しんのすけのいない夏


第二章 十三年前 (1)




十三年前。
この公園の少し先の場所であの事件は起こった。

「かすかべ防衛隊〜……ファイヤー!」
「「「「ファイヤー!!!!」」」」

しんのすけを先頭に歩く幼稚園児五人。公園を出て向かうは風間の住むマンション。
梅雨も明けこれから本格的な夏の到来を予感させる、空の高い日曜日。
遠くの陽炎に揺らめく見慣れたお尻。

「あっ、母ちゃん!」

しんのすけが走り出すと後ろの四人も遅れまいと走り出す。
最下位はいつもトロいボーちゃんではなく、おむすびよろしくスッテンコロリンと転んだまさお君だった。
公園でリアル鬼ごっこをしてあれほど走ったのにもかかわらず、しんのすけは息を切らすこともなく
ベビーカーを押すみさえの所までたどり着いた。

「母ちゃん母ちゃん!」
「あらしんちゃん、あっみんなお揃いねぇ」
「オバサンこんにちわ〜」
「今日はお暑いですねおばさん」
「こ〜ん〜に〜ち〜わ〜、おばさ〜ん」

着いた順に挨拶をするが、しんのすけはなにやらニヤついている。

「母ちゃん、おばさんおばさん言われまくってるゾ」
「ハァハァ……あっ、コンニ――」
「うるさい〜!」

やっとついたまさお君の挨拶はみさえの怒りによってかき消されてしまった。
自分のことを言っていると勘違いしたまさお君は涙ぐんだがみさえはすぐにごめんねと謝り、これだから母ちゃんは〜、と
しんのすけが口をはさむとゲンコツが一発しんのすけの頭に降ってきたのだった。


「これからみんなでどこ行くの?」
「今から風間君のお家でビデオ見るんだゾ。この前の豚足のビデオだゾ」
「豚足ぅ?」
「それを言うなら遠足だろ」

風間の訂正に、そうとも言う、としんのすけはいつもの調子で答える。
みさえと風間の苦笑いがシンクロした。

「母ちゃんはどこ行くの?」
「ひまわりと一緒にお買い物に行くの」
「ほぉほぉ。んじゃチョコビ買ってきてね」
「はいはい……あっホラみんな、車来たわよ」
「「「「「は〜い」」」」」

遠くからでも聞こえるバイクの爆音に気付き、みさえはしんのすけ達を一列に並ばせた。
片手を挙げてそれに応じる園児達。

「あぅ〜ぁ〜う〜」
「どうしたひまわり?」

手足をバタつかせて喘ぐひまわりの前にしんのすけはまわりこんだ。
白い柔肌に手を伸ばし、しんのすけはひまわりの頬を伸ばしこねる。
えへへ〜、としんのすけ。あうぁ〜、とひまわり。

「こ〜らやめなさいしんのすけ! ひまがかわいそ――」

しんのすけのいない夏 1

June 22 [Fri], 2007, 20:02


しんのすけのいない夏


第一章 風間とひまわり



青年は使い古された座布団の上に正座している。
おろしたてのスーツに身を包み、お茶を出すというその家の母親の申し出を丁寧に断り、
夫婦が寝室として使っている部屋の一角に置かれた仏壇をじっと見つめていた。
ひざの上に置いた拳を軽く握り締めると、風間は口を開いた。

「しんのすけ、僕たちはこの春から大学生になるんだ。もう車の免許だって取れちゃうんだぜ」

彼の口調は幼稚園の時とほとんど変わっていない。
ただ少し、お高いプライドを振りかざすようなとげのある喋り方ではなくなった。ホンの少しだけだが。

「ボーちゃんは北海道の大学で農業を勉強するんだ。"これからの時代は農業がくる"んだって。
 ネネちゃんは服飾の専門学校。まさお君は一浪してなんとか国立大学に入るってさ」

仏壇に置いてある写真の中で彼は屈託のない笑顔をしている。
僕達はこれからもずっと一緒にいるんだろうなぁと信じて疑わなかった頃の写真だ、と見る度に風間は思う。

「僕は東京の一流大学さ。……推薦では落ちたけど、まぁ普通に受験しても僕の頭じゃ受かるんだけどね。だからな、東京の大学に行くから、僕引っ越すんだ。東京で一人暮らしだよ。お金はママが仕送りしてくれるからいいんだけど、ここに来られるのは夏休みと冬休み、それと春休みぐらいしかないんだ」

風間は月に一度、必ずここに来ていた。
話す内容は松坂先生はまだ結婚できないとか、まさお君のドジ話などの他愛もない話。
しかし欠かすことなく、月に一度は絶対に仏壇の前で手を合わせ、話をしているのだった。
あの日から、ずっと。

「だから次来る時は七月位になるのかな? 今度来た時、東京で洗練された僕のカッコ良さに腰抜かすなよ?」

わかってはいるが、返事はない。

「じゃあな、しんのすけ。お土産は買ってきてやるから心配するなよ」

風間は立ち上がり、みさえに一礼して家を出た。



今年は春の訪れが遅い。
春一番はとっくに吹いたのだが、それから温かくなることもなく桜はつぼみを半分もつけていない。
風間はママに買ってもらったお気に入りのコートの襟をぐいと引き締め、歩き出した。
生垣の隙間からは去年死んだシロのお墓が寂しく見える。
幼い頃あれだけ広いと思っていた道路だが、車が一台通るだけで路肩に身を寄せなければならないほど実は狭く、三輪車で走っていた頃はよく事故に遭わなかったな、と風間は思う。


帰る途中にある公園はその装いをほとんど変えていない。
数年前に小学生が時計に石を投げて壊してしまい、時計が新しくなったこと以外変わってはいなかった。
公園は変わっていないがそこで遊ぶ子供の姿をあまり見かけなくなった。
季節が季節なのだが、それでも少ない。

ふと前を見ると制服を着た女の子が二人、なにやら怯えているようだった。

「うへへへへ〜」

女の子の前に男が立っていた。
雑に禿げた頭に汚れたジャンパー、寒気がするような笑みを浮かべながら女の子達ににじり寄っている。
時折変質者が出没するなんて話を聞いたなぁ、と風間は思った。
男と女の子達の距離は徐々に縮まっている。
悠長にそんなこと思っている場合ではない、風間は男に向かって駆け出した。

「おい! そこの――」
「ゆうちゃーん! あっちゃーん! 待ってぇ〜!」

意を決した風間の声よりも大きな声がした。
道の向こうから走ってくる女の子が一人。
くせっ毛の前髪をモフモフ揺らし、オレンジのマフラーをなびかせながら再び友人達の名前を叫んでやってきたのは、ひまわりだった。



「もぉ、トイレ行くから待っててって言ったじゃんか〜」
「だってひまわりトイレ終わったらなんか変な歌歌って踊ってたんだもん」
「そうだよ。また長くなりそうだったから先帰っちゃおうと思って……」

友人達の言い訳にひまわりは膨らませた頬を緩めない。
あれはトイレから出てきた時リクエストされたのだ、とひまわり。
もうそんなことにイチイチ応えなくてもいいんだよ〜、と友人二人。

盛り上がる女の子達に取り残された風間と、変質者。

「ところでおじさん誰?」

ひまわりにいきなり話を振られ一瞬戸惑った変質者だが、再び気味の悪い笑みを浮かべる。
怖気立つ友人達の前でひまわりは仁王立ちして男を睨んだ。

「まさかおじさん……あっちゃんのお父さん?」
「んなわけないでしょ!」

友人の一人、あっちゃんが叫んだ。
ゆうちゃんは、またいつもの調子か、と溜め息をついている。

「じゃあ血は繋がってないけどパパって呼んでる人?」
「違ーう! 私とこいつは全く関係ないの!」
「んもう照れちゃって〜」
「照れてないぃ!」

風間の中で何かがじわりと滲んできた。
あっちゃんという子に共感し、共鳴したせいだった。

「お姉ちゃん達かわいいね〜。おじさんと一緒に遊ぼうよ〜」
「え〜でもアタシこれから帰ってテレビ見ないといけないし〜」
「ひまちゃんそんな真面目に答えなくていいの! こいつ最近噂の変質者だよ!」
「うへへへ〜」

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