片恋  第1話 サクラ

March 12 [Sat], 2011, 23:05
 この想いは絶対に報われない。このままずっと気付かないままなら良かった。
誰にも言えない、絶対に。…キミの心があたしに傾くまでは。


それを知ったのは半年前だった。いつものメンバーで集まる日、時間が空いたあたしは先に彼らと待ち合わせをしていた。
「心結〜、こっち〜」
「あ、ゆーくん!!」
見慣れた顔を見つけるとあたしは駆け寄った。
「真衣ちゃんは?」
「まだミーティング長引いてるみたいだよ、終わったら連絡くれるって」
「ミーティングか〜、あいつキチンと出てるんだな」
ゆーくんと向あわせに座っていた彼が口を開いた。
「そこは弘哉と違って真衣ちゃんはイイコだから」
笑いながらそう返すとあたしは彼のトナリの席に座った。
「先輩言いますね〜」
「だってホントのことでしょ〜♪大体弘哉はでなくていいの?」
「先輩たち引退だからそれについてのミーティングだよ。別に俺が出ても…」
「え〜、うちらが引退するのに??」
「だって真衣ちゃんはサブだしさ」
「ってか、ケータイ光ってる」
「あ、ホントだ」
そう言って彼はケータイに手を伸ばす。普段みんなで居るときにはケータイを見ない彼なのに不思議に感じた。
「…真衣ちゃん?」
「違う違う。こいつ彼女できたんだよ」
向かえに座っていたゆーくんが笑って彼を指さしながら茶化すように言った。
一瞬時間が止まったような気がした。何を言っているのか理解するのに時間すらかかった。
「…あ、そうなんだ。やったじゃん。どんな子〜?」
「え、普通の子だよ。従順な感じの。」
「あ〜、言うこと聞いてくれそうな」
気持ちを無理矢理落ち着かせながら返す。いつものあたしならそんなことしてなかった。
「だって先輩みたいな感じだと振り回されそうじゃん」
「失礼だな〜。めっちゃ尽くすし」
彼は決してモテない訳ではないし、前にも彼女がいたし、彼女ができるなんて思っていなかったわけでもなかったけれど何故だか平静を装うのがやっとで自分が何を言っているのかわからなかった。
「そういや心結の彼氏はどんな人?」
ゆーくんにふいに話を振られた。
「ふ、普通の学生だよ」
「普通って…。でも心結今の彼氏のことけっこう好きでしょ?いつも途中で帰るしね〜」
「いや〜……」
あたしは曖昧に答えて笑っていた。内心そんな自分の話をするような状態ではなかった。ただただ平静を装うのでいっぱいいっぱいだったから。
あたしはこの日、自覚してしまった。彼のことがすきだということを。
でも彼のトナリには見たこともない彼女がいて、あたしのトナリにも何にも問題ない彼氏がいた。
その事実がただ胸に深く突き刺さった。
「心結、ケータイ鳴ってるよ。真衣ちゃんじゃない?」
「あ、ほんとだ。真衣ちゃんかな〜」
音でわかる。これは彼氏からのメールだ。
でも何故かそう言えなくてあたしはケータイを開いた。
「真衣ちゃんじゃなかった〜。まだかな〜?」
そんなこと言いながらあたしはトナリに座っている彼の横顔を見た。

彼と出会ったのは去年の春。彼は新入生で入部して3日目、初めて話した。
(あれ?まだ残ってるコいたんだ?)
部室に戻ると窓から身を乗り出している子がいた。
「ここ、見晴らしいいな〜」
そう言うとその子は手を伸ばした。
学校の校庭には校門の前にある桜並木とはまた別に大きな桜の木があった。
春になると満開の桜が咲く。この部室はその桜を見るのにちょうどいいと先代の部長が校舎の端ではあったけどこの教室を部室にしたのだと聞いたことがあった。
薄紅色の花びらが伸ばした手のひらに舞い落ちる。
(確か…この子は新入生だっけ?)
彼は桜に夢中でドアの前にいたあたしのことには気付いてないようだった。
「やっぱサクラってすきだな〜」
そう言うと、視線に気付いたからか彼と目があった。
「あ、えっと…何くんだっけ?」
慌てて笑顔を作ってそう聞いた。
「1年の藤木弘哉です。…あ、サクラって佐倉先輩のことじゃないですよ」
にっこりと笑ってそう答える彼。突然のことで呆気にとられている間に彼はじゃあと言うと部室を出て行った。
「……え?何?今の…そりゃあたしは佐倉ですけど」
「あはははは。今の1年すごいね。心結にそんなこと言えちゃうなんて」
一部始終を見ていたと思われるゆーくんにそう笑われた。
「いや、いくらあたしでも桜と佐倉を聞き間違えたりしないよ!!イントネーションだって違うし…ってかあの一年なんなの」
「面白いね、あいつ。」
あたしの中での彼の印象は最悪だった。
しかしさわやかな容姿と人懐っこい彼は上下関係なく人気がでた。それでもあたしはそんな彼が苦手でずっと避けていた。同じ新入生の真衣ちゃんとは仲良くなったけど彼がいる集まりには参加しなかった。一度だけ彼からメールが届いた。でもあたしは返事もせずに消してしまった。話しかけられても必要以上のことは話さない。連絡事項を伝える時だけ話す。雑談なんて絶対に彼とはしなかった。
きっと彼はあたしの気持ちに気付いていただろう。ろくに話すことすらないまま一年が過ぎた。

三年生になったある日、あたしは付き合っていた彼氏とケンカして部室で泣いていた。そんな時にタイミング悪く彼が部室に入ってきた。泣いていたあたしを見て一瞬驚いた顔をした彼はポケットからゆず味のキャンディを出してくれると何も言わずにそのまま教室を出て行った。あたしはお礼すら言えなかった。ただそのキャンディがなくなる頃にはあんなに溢れていた涙は止まっていた。
次の日、新入生に配る冊子を部室で作っていると彼が入ってきた。他にも作業をしている子がいたのに彼はあたしのところに来た。
「先輩、何か手伝うことありますか?」
「もう終わるから大丈夫。」
今までのクセでどうしても素っ気なく返事してしまう。そうですかと言うと部室を出て行こうとする彼に気がつくと駆け寄っていた。制服の端を引っ張られて振り向く彼。
「あ、あのゆずありがとう」
「…どういたしまして」
「じゃ、じゃあ」
プリントが並んでいる机に戻ると彼の小さい声が聞こえた。
「…そういうとこがいいんだよな」
聞き間違いかなと思って振り向いたけどもう教室にはいなくてドアの向こうにいる彼は少し笑っているように見えた。
なんだかそのころから彼のことがきらいではなくなっていた。
真衣ちゃんに誘われると彼がいたとしても集まりに参加するようになっていた。話してみると笑いのつぼも波長も似ていて、年の違いも気にならなくて楽しかった。誰とでも仲良くなれる彼は気が強くてクセのあるあたしとでも自然に掛け合いができた。
そして気がつけばメールや電話を頻繁にするほど仲良くなっていた。
ただその居心地の良さは友達としてのものだった。そうずっと思っていた。だから…。

カレカノにはなれない。でも友達としてならみんなで一緒にいられる。一緒に笑いあえる。
だったらあたしはこの気持ちを誰にも言わない。そう決めた。
…彼の気持ちがあたしに傾くまでは。





プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:sweetcherry119
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 血液型:AB型
読者になる
ひまつぶしと趣味で小説もどき?をアップしていきます
あたたかい目で読んでいただければと思います
2011年03月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新コメント
Yapme!一覧
読者になる