不安と安らぎ 

April 05 [Wed], 2006, 16:29
『力』
それは私にとって,此処に来て初めての白姫との違いだった。
上達の早い白姫。そして今になっても時々戸惑ってしまう私。
明らかに読み込むスピードが異なっていた。
そしてその不安は次第に,私から『自信』を奪っていった。

―――その夜は,月明りがとても美しかった。
「私,駄目なのかなぁ?」
寂しく問いかける私に,メィルは頬を添えた。
メィルは,いつも私を元気付けてくれる。優しい,私の親友だ。
「大丈夫。黒姫ゎ十分強いよ。」
会話が出来る用になってから,メィルは時に私の姉の様であった。
「ありがとう。なんだか元気が出てきたわ。」
私がそういうとメィルは微笑んだ。
メィルの薄い桃色の毛の一筋一筋が,美しく月明かりに煌いた。

「黒姫,ここにいたの?」
「白姫。ええ。見て,月明りがとても綺麗。」
ふいに声をかけられた私は,そう言って白姫から目をそらした。
「…何か思ってるでしょう?」
「え?何も無いわよ。白姫も座ったら?」
何も無い事は無い。本当は,不安で不安で仕方なかった。でも言えなかった。私が此処で一番信用し,頼りにしているのは白姫だ。だからこそ「疑ってる」なんて言えなかった。
「…黒姫。私分かるのよ。ずっと一緒にいたんだもの。私は黒姫の事,すごく大事なのよ?私には,言えない事なの…?」
白姫の優しい言葉に,私は口を開いた。
「実は,ちょっと不安な事があって…」

話を終えて,白姫の言った言葉は意外なものだった。
「そうね。そう言われればそうよね…。黒姫,別に隠してた訳じゃないの。認識の違いよ。私がカィンを気絶させてしまった日。あの『気絶させた』という事柄そのものが『力』なのよ!私は,その事を詳しく聞かれたから,自然に簡単な理解をしていたけど,貴方はそんな事知らないから,漠然と『力』の存在を教えられて驚いてしまっただけよ。私達は元々『力』は持っているのだから,それを認識出来ていたか出来ていなかったかという違いしか其処にはないの。ごめんなさいね。言う必要なんて無いと思ったから…でもね,ちょっとスタートが違っただけなのよ。ほんの少しね!」
白姫は,疑っていた私に少しも激する事なく,優しくその過程を説明してくれた。
いつも白姫は私に安らぎを与えてくれる。
「ごめんね。黒姫。」
「ぁ…私こそごめんね!」
私達は互いに微笑みあった。その後,まさかあんな事になるなんて知らずに…。

7 十四歳の祝福 

March 03 [Fri], 2006, 16:59
此処へ来て,約十ヶ月が経った。メィルとカィンは大分成長し,少しは喋るようになっていた。
カィンは美しい純白のピープバウルに成長した。ピープバウルは,幼児期の生活環境等で一生をどのような「色」で過ごすかが変わってくる。その色は無機色で,一番悪い場合は「黒い毛に赤い目」一番良い場合は「白い毛に青い目」となる。
カィンの場合,黒姫が保護した時点ではどちらかと言えば毛も目も黒かった。かなり悪い状態に染まっていたカィンを,此処まで素晴らしい状態に,この短期間で育て上げた白姫の愛情は,かなりのものだっただろう。カィンを白姫に譲って,本当に良かったと私は思っていた。

そして今日,私達は記憶の中では初めての誕生日を迎えた。今まで「誕生日」の記憶は無いのに,私達は十四歳になった。初めて誕生日を祝ってもらったはずなのに,『初めて』と言う感覚は全く無かった。
「おめでとう。黒姫,白姫。」
「おめでとうございます。姫君様。」
私達は,天龍城の大広間の一室で,沢山の祝福の言葉を浴びた。
両親は,私達にペット達とおそろいのアクセサリーをくれた。私達にはネックレスのようなものを。そしてメィルとカィンにはネックレスのような首輪のような…どちらにしろ素敵なアクセサリーだった。

十四歳を迎え,私達は正式に,「力」というものを授けられた。「気」と言うのだろうか?「魔法」と言うのだろうか?何か,とても不思議で魅力的な物だった。
国の中でもこの力を使えるのは数少ないと言う。私は,自分がそんな力を持っていたなんて全く思いもよらなかったし,うまく使えるようになるまで3日程かかった。しかし白姫は,その話を聞いた時も,まるでその前から知っていたかのような身振りを見せたし,力を上手く使えるようになるのには私の半分ともかからなかった。私は少し気にはなったが,あまり考えないように心がけ,自然に振舞っていた。

「白姫だけ」なんてありえない。私達は此処に来て,ずっと一緒に居たのだから。
私達は,ずっと一緒だ。今までも,これからも…。

6 白姫とピープバウル 

March 01 [Wed], 2006, 18:49
白姫が目覚めた時,黒姫は眠っていた。両親は,心配そうに白姫を見つめていた。
「白姫…大丈夫だったか?」
「どこも痛くない?気分は?あら,黒姫ったら眠ってるわ。」
両親は心配して白姫に話しかけた。
「うん。大丈夫。…あ。」
両親に軽く返事をした白姫の目に飛び込んできたのは,あの黒い鳥獣だった。それは,申し訳なさそうに頭を低く構えながらこちらを見つめていた。白姫が鳥獣を見つめているのに気付き,王はまた口を開いた。
「あやつか?あやつは黒姫が連れてきた鳥獣だが…あやつがやったのか?」
「…ちがうわ。私があの子を気絶させてしまったの。」
辺りは一瞬しんとなった。つぎに口を開いたのは王妃だった。
「どうしたの?何で気絶してしまったの?」
「ただ手を向けて必死で「やめて!」って叫んだだけよ。メィルに襲い掛かろうとしたから。」
両親は顔を見合わせた。
「力だ…まだ教えていないというのに…。」
「力……?」

私が目覚めたのは,その,二時間も後だったという。
そして,白姫が部屋に戻ってきたのは,その翌日だった。

「おかえり!ごめんね,あの時寝てて」
「来てくれて嬉しかったわ。それより黒姫,お願いがあるの。」
「お願い?」
白姫が頼みごとなんて,初めてだった。私は何だか嬉しかった。白姫はにっこり笑って言った。
「あの子,私にちょうだい?」
「あの鳥獣??」
私は思わず聞き返してしまった。
「鳥獣じゃないわ。ピープバウルっていう名前がちゃんとあるのよ。」
「でも何で?あの鳥獣の仲間が貴方を襲ったのに。私,嫌がるかと思ってたわ。」
「襲ってきたのは,私が邪魔したから怒っただけよ。でもね,三匹居た中でこの子だけは瞳がちがったわ。私を呼んでるみたいで…」
白姫はこのピープバウルを猛烈に欲しがった。
「ええ,いいわよ!可愛がってあげてね」
「ありがとう,黒姫!」
白姫はとても嬉しそうに微笑んでいた。こちらに来て,始めてこんな笑顔を見せたのではないだろうか。もしかしたら,私がメィルを飼い始めたときから,ずっと自分のペットが欲しかったのではないだろうか。だったら,白姫の役に立てて,本当に良かったと私は思った。
「じゃぁ名前,カィンってのはどう?カィンでも良い?」
白姫は小さな子供のピープバウルに語りかけた。
ピープバウルはカィンという名前を気に入ったのか,照れたように笑った。

5 メィルと姫君達 

March 01 [Wed], 2006, 11:06
あれから一月程が経った。私達は,再開の日に聞いたあの話の事は,もう考えないようにしていた。
この一ヶ月程で,私達は日々,たくさんの事を学んでいた。
王家やこの世界のしきたりや,馬に乗ったり,本当にいろいろな事を学んでいた。
この世界では,人間の能力が開放されていたり,人間以外に多種多様な生物が存在したり。人間で無い生物で会話が出来る者が居たりと,私達二人にとっては驚きの連続だった。
私達二人には,ある程度の学習能力は備わっていた様であったが,この世界で生活する物が常識としていることは何一つ知らなかった。そして私は最近,ある生き物を拾った。
「キュゥキュゥッ!」
「あ,待っててメィル!」
メィルは,ピープラビフォックという,人間と会話の出来るウサギのような小動物だ。メィルの場合まだ生まれて間もないため,会話は出来ないが。でも少し言葉を喋ろうとしている。
私達が馬に乗って庭を駆けていた時,低い茂みの中にメィルが居た。鳥獣に襲われたらしく,つつかれたりした後が沢山残っていた。
「このピープラビフォック,まだ生まれて間もないのにこんなになって…ちゃんと生きられるか分かりませんね…」
獣医にそう言われた時,黒姫は必死にお願いした。「助けてあげて」と。

メィルは顔はそっくりなのに白姫にはあまり懐かなかった。
メィルは黒姫が大好きでいつも甘えてばかりだった。この時も,黒姫がちょっと離れたので甘い泣き声を出していたのだった。
メィルと黒姫はいつも一緒にいた。メイルは寝る時もお風呂の時も,一日中黒姫から離れなかった。

その日の午後,黒姫と白姫はメィルを連れて庭で遊んでいた。その時だった。三羽の大きな黒い鳥獣がメィルを狙って飛び込んできた。一羽がメィルを捕まえようとしたその時,白姫がその一羽に向かって手を向け,「やめて!」と叫んだ。その瞬間だった。メィルに襲い掛かっていた鳥獣が気絶すると同時に,残りの二羽が白姫を襲った。
「きゃぁぁっ!!!」
辺りに赤い血が飛び散った。
二羽の鳥獣は,気絶した仲間を置き去りにして逃げ帰っていった。
「し…白姫…?」
黒姫は白姫に呼びかけたが,返事は無かった。
「誰か!!!お医者様をお呼びして!!!はやく!!!白姫が!!!白姫が大変なの!!!」
黒姫は気絶していた鳥獣をとっさに抱きかかえ,白姫と共に医者の元へ向かった。

4 姫君の運命 

March 01 [Wed], 2006, 9:48
階段の上。大きな扉の奥に,私たちの両親は居た。私達は指示された通りに椅子に掛けて話を聞いた
「十三年前。お前達は,大いなる運命をその小さな体に抱えて生まれてきた。それは,今までの十三年間も,これからの人生にも大いに影響を及ぼす事になろう。だが,お前達はその運命から逃れる事は出来ない。お前達に限らずそうだ。人は皆,ある程度の運命は持って生まれてくると信じられている。でも,未来は決まっておる訳ではない。自分で切り開くものだ。しかしお前達の運命は,その「ある程度」と言うのが,あまりにも険しい運命での…。これは,誰もが思いもしなかった事態であった。それ故にお前達にはまだ正式な名前がないのだ…。名前はちゃんと決まっている。二人ともな…。名前はあるのだが…どちらがどちらなのか…どちらがどちらの運命を抱えているのかさえも,今の段階では定かではない。お前達には,姉とも妹ともない。だから,その運命のままに時が来るまでは二人は常に一心同体となる。すまぬの…わしらはどうする事もできんのだ…これはお前達の運命なのだ…。」
私はこの話を全く理解できなかった。
母は,目に涙を溢れさせていた。先程とは違う,悲しみにあふれた涙を。

一通り話を聞いてから,私達は用意されていた部屋へ向かった。部屋付きの女性達が入ってきて,これから夕食なので着替えて来いという事なので,と服の着付けをしてくれた。私達は着替えてから食事へと向かった。
食事はどれも素晴らしかった。前菜からデザートまで,色とりどりの食材で,見ていても楽しいほどだった。両親ともだいぶ打ち解けて『お父様・お母様』と呼べるようになっていた。しっかりしているけどちょっとお茶目な一面を持つお父様。美人で優しく,笑顔がとても素敵なお母様。白姫は私とそっくりだった。皆良い家族だと思った。これからはずっと一緒に居られると思った…。

3 二人の姫・正反対の階段 

February 26 [Sun], 2006, 18:37
私達は互いに,しばらくの間見つめあっていた。
ふいに相手が口を開いた。
「私は白姫よ。貴方は?」
「あ…私…黒姫。」
白姫という私の姉妹は,先程の沈黙の割には冷静に話しかけてきた。が、私は突然話しかけられて動揺してしまい,上手く答えることが出来なかった。白姫は,私が恥じて顔を赤めたのを見て,微かに笑った。その笑顔は,私の緊張に包まれていた心を解き放ってくれたかのようだった。気が付いた時,私達は互いに微笑を浮かべながら見つめあっていた。あの緊張はどこへ行ってしまったのだろうか?
白姫と一緒にいると,とても心が安らいだ。離れていた時間なんて私達にはもう,関係なかった。
離れていた13年間は,ほんの一瞬で埋まってしまったかのようだった。
…私にはもう,その13年間の記憶は,一欠けらも残っていないのだが…。

そうしている間に,門が開き始めた。
「お帰りなさいませ。黒姫様,白姫様。準備が出来ましたのでどうぞお入りください…。」
門に居た男の人は深くお辞儀をしながら私達に語りかけた。
そして私達二人は互いに頷き,門を潜り,家の中へ足を踏み入れた。
家の中には,中央の大きな廊下を境に二つの大きな階段があり,一階と二階の丁度中心位で合流していた。枝分かれした階段の麓の右側に,鈴花。そして反対側には鈴花に似ている女性が居た。二人とも深くお辞儀をした状態だったので,顔は見ていないのだが。
「姫様,どうぞこちらへ。」
そう言われた私たちは互いに自分をこの城まで送り届けてくれた者の元に向かった。
「上の部屋で王様と御妃様がお待ちしております」
私たちは互いに,正反対の階段を上り始めた。

2 黒い運命と白い運命 

February 22 [Wed], 2006, 14:16
「……ぇ……?」
私は,もう何がなんだか分からなくなっていた。そんな私の横には,一人の髪の長い綺麗な女性がひざまづいていた。その女性が私に語りかけるように喋りだした。
「私は,黒姫様をお迎えに参りました,鈴花(リンファ)と申します。城には私がご案内いたします。詳しい説明は後ほど城の方で…」
「…」
「どうなさいましたか?黒姫様…」
「私は『黒姫様』なんかじゃない…私は…!?」
私は,自分の名前を思い出せなかった。
「黒姫様,落ち着いて下さい。黒姫様は,こちらでの記憶は,もう覚えていらっしゃらないと思います。ですから,一度城のほうに戻り,そちらで詳しいお話をしようという事になっておりますので…。」
「城…?」
「はい。天龍城にございます。」
私は,その話を全く信じていなかった。…というより「信じられなかった」という事に近い。
でも今の私には,選択肢など無かった。
「分かりました…。」

城に向かう途中,鈴花という女性は,私に少しだけ此処の話をしてくれた。
私の父は国王だと言う事。私の母はとても美人だと言う事。…そして私は双子の一人で,もう一人も今,城に向かっている所だということ。何もかもが嘘に聞こえた。その話が本当だとしたら,私達は,何のために今まで離れ離れに暮らしていたのだと言うのだろう。その話が本当なら,私は…どんな顔をして実の親に会えばいいのだろう?
そして私達は,ようやく城に着いた

城…というよりも山のように見えるのは,私がおかしいのだろうか…?確かに城だ。城なのだが…それはあまりにも高すぎた。城は,空へ向かって,高く高く聳え立っていた。

私が驚きのあまり出した
「すごい…」
と言う一言が誰かの声と被った。
「へ???」
同時にそう呟いた私達の瞳は、その瞬間,初めて触れ合った。其処に立っていた女の子は,私にそっくりだった。この子が私の双子の姉妹なのだと,一瞬にして悟った。

1 夢の扉 

February 21 [Tue], 2006, 20:06
突然今,一粒の雪が私のこの頬に落ちてきた。
「雪…?」
もうすぐ春を迎えようというこの季節。段々と暖かさが増している。そんな中でも,今日は一段と暖かく感じられた。
もう半月ほど雪など降っていないのに…どうしてまた,こんな冬にしては暖かみのあるような日に…。
そう思いつつ開いてみた手のひらで,雪は儚く溶けて行く…。消えていく。。


暖かい日差しに透き通る白い粉雪たち。とても神秘的な時間の中を,私はゆっくりと歩んでいた。
「綺麗だなぁ…。」
ぽつりと呟いたその瞬間,私は大変な事に気が付いた。いつも人で溢れてい大通りに出たときだった。いつものざわめきが聞こえなかった。辺りを見回すと,誰も居なかった。周辺のビル…いつもなら窓越しに明るいオフィスが微かに見えているのに,今日は明りは一欠けらも見当たらない。

この大通りに,人も,車も,他のあらゆる音さえも…何もかもが無くなってしまうなんて,一般常識ではありえない現象だった。いつもここにいる,たくさんの人達が,私を除いてみんな居なくなったりするだろうか?車やバイクのあのエンジンの音。鳥達の囀り。人々の話し声。全ての音が消え去るなんてありえるだろうか?
今此処にあるのは,私という人間と,太陽の光,そしてこの粉雪だけだった。
そう思うと,先程まで神秘的だと感じていたこの日差しや粉雪。この状況の全てが,危地であるかのようにも感じられた。


此処に立ち尽くして,どれほどの時間がたっただろうか。私はまだ,動けずにいた。をのあいだにも,雪はしんしんと降り続いていた。
「これは…夢なのかな…??」
私は,この神秘的な現状を,純粋に「美しい」と思う気持ちと,この奇妙な現実に対する大きな不安とに,板ばさみになっていた。もう,何も考えられなかった。皆何処へ行ったの?私は何故此処にいるの?その時だった。
『ヵッヵッヵッ…』
音の無い世界に,音が響き渡った。
『ヵッヵッヵッ…』
その音は,段々と,私に向かって大きくなっていった。

今にも私を押しつぶしてしまいそうだった,透き通る白に,一筋の黒が細く走った。
私は夢中でその『黒』を手繰り寄せた。必死の思いだった。


「お帰りなさいませ。黒姫様」


白い世界の外には,私が今まで思い描いた事のない…
幻想的かつ神秘的な世界が広がっていた……。
メロメロパーク
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