すごくすごく今更ですが。スザク誕生日。1期。

November 01 [Sun], 2009, 13:54
あ、今すごく、愛の言葉を聞きたいかもしれない。

枢木スザクは、不意に自分の頭に浮かんだ恥ずかしい台詞に頬を染めた。
向かいに座る幼馴染の秀麗な男、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、彼の微妙な変化に気付いたのか、視線を訝しげに向けた。
高貴な紫色の少し切れ長なそれは、怜悧な印象が垣間見える。
しかし、その後ふっと笑みを浮かべ、細められた瞳は、驚く程優しい。

「どうしたんだ、スザク」
世間でいうところのギャップ萌えなのかもしれない。酷薄な印象を与える薄めの唇から発せられた声は柔らかく甘い。
ルルーシュに密かに想いを寄せている友人のシャーリーを思い出しながら、スザクは首を左右に振った。
緊張のあまり他のところにシフトしていく思考を元に戻すためだったのだが、ルルーシュは違うように受け取ったらしい。

「あまり、口に合わなかった?」
「そんなことない!」

目を伏せるルルーシュに対し、スザクは慌てて否定をした。目の前にある数々の料理は、全て自炊経験の長いルルーシュが作ったものだ。
スザクには到底思いつかないようなレシピの、カタカナの長ったらしい名前、ついでに〜風とかついているみたな料理がこれでもか、というほど並んでいる。
どれも美味しそうで目移りしてしまう。

「そうか?日本食の方がよかったかとちょっと思ったんだが」
「だいじょうぶ!本当に美味しいよ。このお肉とか、ソースとか」
「よかった、たっぷり食えよ」

必死の主張が伝わったのか、ルルーシュはようやく安心したように微笑んだ。お世辞ではなく本当においしいのだけれど、ルルーシュにちゃんと伝わっているのかちょっと不安になる。
態度で表そうとして、前菜的なサラミとチーズや、サラダ、ちょっと遠くに置いてあるメインのパイ包み焼き、どんどん掻っ込もうとする。
けれど、ルルーシュと話すのも久しぶりなので、そっちにも集中したい。ああ、目がぐるぐるしてきた。

「スザク、慌てなくていい」

ルルーシュはそんなスザクの様子に気付いたのか、くすくすと笑った。行儀よく肉を小さく切り分けている様子は、まさに元・皇子だ。
軍の仕事で長い間、このクラブハウスか遠ざかっていたが、この日に時間を合わせて会うことが出来て、本当によかった。
スザクは都合をつけてくれた上官のロイドとセシルに感謝しながら、フォークとナイフを皿に置く。

「ごめん、だって、本当に美味しいから。」
「ありがとう。でも、当然だ。今日は大事な日なんだからな」
「覚えててくれただけでも、うれしいのに」
「そういうことを言うな。ナナリーも、生徒会の皆も、明日学校で祝いたいと言っていた」
「うん。ナナリーは明日帰ってくるのかい?」
「そう。今日は残念だったけどな。」

ルルーシュのいるところにナナリーがいないというのは、なんとも不思議なことだが、ちょうど学園の修学旅行で留守だということだった。
ルルーシュも当然、足と目が不自由な彼女を一人で行かせるのを心配していたが、中等部に彼女の仲のよい信頼の出来る友人がいるらしく、それで納得が出来たらしい。
いつもべったりだったこの兄妹にも、なんらかの変化が生じてきているのかもしれない。いいことなのか、悪いことなのか、スザクには判断しかねた。

「でも、明日会えるんだったら。今から楽しみにしてるよ」
「今日も楽しんでいってくれ。なんせ、二人っきりだからな」
「なに、その含みのある言い方」

スザクはカラカラと笑う。ルルーシュもつられたように、薄く微笑んだ。
ユーフェミア殿下の計らいで、アッシュフォード学園に入学してからの生活は、まさに夢のようだった。
それはルルーシュと再会したから、というのが大きい。
変わらず一緒に過ごしていた兄妹を見て、スザクは救われた気がした。

七年前、父に刃を向けたあの日。衝動の切欠は、この二人を守りたい、それだけだった。
戦争が起こることによる犠牲者のことや、日本国の平和について、それは、全て後付けの正当化だった。
今、どうして軍にいるのか、その理由も、ルルーシュ達とまた出会えたことで変化してきている。
少しずつ、少しずつ。

「ねえ、ルルーシュ」
「ん?」
「僕も、誰かを守ることが出来るのかな」
「何言ってるんだよ」

ルルーシュは呆れた声を放った。

「お前は、皆を守ってくれたじゃないか。カワサキでも、友達を守ってくれた。天下の軍人さんが、何を言ってるんだよ?」

軽く流すような台詞と共に、隠しきれていないこちらを伺う視線が刺さる。

「うん、ありがとう」

スザクはそんなルルーシュの視線に気付かない振りをしながら、笑顔を浮かべた。
多分、みんなじゃなくて、君を。君達を。僕は守りたいんだ。
そんな自分勝手な願いは当然、ルルーシュに伝えることは出来なくて、スザクはフォークを手に取った。

「冷めちゃわないうちに、いただくね」
「スザク」
「うん?」
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう。」

多分、君がその仮面の奥の真実を、伝えてくれたら。
それが何よりの、僕にとっての愛の言葉になるんだろう。

僕自身が言えないんだから、聞けるわけないよね。

スザクは心の中で呟いて、柔らかい肉に噛み付いた。

HAPPY BIRTHDAY TO SUZAKU KURURUGI!!!

(無題)

September 11 [Fri], 2009, 8:40
「スザク」


ジノは悲痛な顔で、こちらに手を伸ばす。きっとはねのけられることなんて、なかっただろう。その自信を、めちゃくちゃに壊してしまいたくなる。その衝動が僕は怖い。


思い切りその手を振り払った。パシン、と乾いた音がした。ジノは怯むことなく、今度は笑っていた。僕はそれに舌打ちをしたくてたまらない。そうだ、こいつははねのけられても、自信をなくすことなんてないのだ。


「何が可笑しい」

「別に。ただ、お前の方が傷付いた顔をしていると、そう思ったから」

「君といると、イライラする」

「そうだろうな。お前と私は違う。」

「違い過ぎる」

「でもいいことだ。あるいは」


ジノが一歩、僕に近付く。簡単に境界線を越えて、僕の腕を掴む。

「あの仮面の男よりは」


僕は胸底に空いた穴をなぞられたような心地に、背筋がぞっとする。手は払わなかった。言い負かせられるのが嫌だった。


「大切なものを奪い奪われた。過去に執着していては、何も得ることは出来ない」


「俺は何も得ようとはしていない!俺自身は!」


「傷の舐め合いに何の意味があるのか」


「共感を求めて何が悪い!同じものに向かう意志に、迎合して何が悪いんだ!」


「それは本当にスザク自身の意志なのか?お前は本当に、何も得ようとはしていないのか?」


不意に僕の脳裏に、緑髪の魔女が浮かんだ。彼女の望み、それを具現化したギアスの力、「愛されたい」という思い。僕はそれに、少なからず共感してはいなかっただろうか?


「ジ、ノ」


「やっと名前、呼んでくれたな」

「ジノ、ごめん」


「いいよ。それが聞きたかった」

叶わなかった。伝えることが出来なかった。それが、僕の中のひとつの真実。認めて、前に進むしか出来ないんだ。




ルル誕

December 05 [Fri], 2008, 23:01
君が選んだ帰結の方法が、君の生についての執着を否定するものだったと、あの時の僕は感じていたのだろうと思う。

外に出ると、冷えた空気が肌を刺す。
暗い空には、まばらに星が輝いている。
二人で歩くのは、久しぶりだった。
何も会話はなかった。
寒いな、ぼそりと一言、君は言った。

君は僕の前を歩いていた。
君の細い首筋が、うっすらと月の光を浴びていて、寒そうだな、と思った。
僕は君を呼びとめ、自分のマフラーを君の首にかけた。

「どうした、いきなり」
「寒そうだな、と思って。風邪引くよ?」
「お前もだろ?」
「僕は大丈夫」

僕が曖昧に笑うと、君はどうでもよくなったのか、僕になすがままになった。
きゅ、っとマフラーを結ぶ。細い首に浮かぶ喉仏が目についた。

僕は覚えていた。けれど、言うか言うまいか、悩んでいた。
それを祝福するのは、終焉を選んだ君に失礼に値するのではないかと思ったのだ。
けれど、そのときの僕はまだ恐怖もあったし、覚悟も完璧ではなかった。
きっと、最後まで僕は、覚悟なんてできていなかった。けれど、それでも僕は為すことが出来たのだ。

君の方も、孤高へと立つこと、厳しさを全うすることに、ひたすらに手を伸ばしていたのかもしれないけれど、
その時点ではまだ、夜闇に浮かぶこの月とは違ったのかもしれない。僕は君に触れることが出来た。

僕たちは見詰め合っていた。
僕の逡巡に、君は気付いてないみたいだった。
君にしては抜けているな、と思った。

「ルルーシュ、あげるよ」
「何を?」
「これ」
「?」

マフラーの結び目を少し引っ張った。
ルルーシュは首をかしげながら、逆説の助詞を発しようとした。
けれどそれから、合点が行ったようで頷いた。

「なんだよ、これだけか?」
「うれしくない?」

僕が聞くと、君は静かに空を見上げた。
強い光を放つ星、ほとんど消え入りそうな星、暗闇の中で、輝くことも許されない星。
さまざまな星は、不平等なこの世界の、命の輝きに似ている。

僕が望んでいた優しい世界と、君の願ったそれはきっと、相違があったのだと思う。
僕が見ていた等しい世界は、きっと大いなる勘違いで、力あるもの、恵まれていたものの視点だったのだと思う。君は、それを指摘することはなかった。狭い箱庭の中で、憤りを押さえ込みながら、胸の中には暗い情熱を抱えて、それでも僕と手をつなぐことを求めた。
僕はそれを、とても愛しいと思う。君の終結が正しいとは、今でも言えないけれど。僕は君を、とても愛しいと思う。

「暖かいな」
「そう?」
「ああ、暖かい」

ルルーシュは、一度目を伏せてから、僕の方を見た。
そっと、僕の手にその手を重ねて、優しく笑んだ。
その指先は冷え切っていた。僕もなんだか笑ってしまった。

結局、おめでとうとは言えなかった。
けれど、この胸は満たされていた。

冬の夜、感覚が研ぎ澄まされるこの感じは、君に似ていると、なんとなく思った。


忠誠心というものがあったのだろうか。疑問だ。
刃を突き刺した瞬間は、ただ涙が止まらなかった。
最後に従ったのは、きっと君への忠誠心なんかじゃなくて、僕の中にあった僕の良心、意志からだった。

もし覚悟が強さというならば、僕はこの悩む弱さがあってよかったと思う。
君が生まれた日に、形あるものを与えられたから。暖かい、と、冷たい指で微笑んでくれたから。
君が本当に冷たくなる前に、君の指を握ることが出来て、よかった。

君が生まれてきてくれてよかったと、おめでとうと、結局言うことは出来なかったけど。
僕はよかったと思う。この弱さも、全部。
あの時、冬の寒さを理由に。君と寄り添えたから。キスすることが出来たから。




HAPPY BIRTHDAY TO LELOUCH

彼が愛した彼の記憶(ジノスザ)

October 23 [Thu], 2008, 2:34
枢木スザクと言う人間を想う時、いつも思い浮かぶ言葉がある。


『彼が愛した彼の記憶』


ジノ・ヴァインベルグはマントを翻し、彼の墓石に背を向けた。青々と茂る草原が風に揺られる。その様子に目を奪われ、立ち止まった。

振り向くことはしなかった。墓石の上には、彼が好きだと言った小さな菫の花束。ジノの好きな薔薇の花束なんかを捧げたら、彼はきっと冷めたように笑うと思ったのだ。と、言ってもたとえ彼が好きな花でも、―彼が実際にジノに言ったわけではない―彼が本当の笑顔を浮かべてくれることはないと知っていた。きっと、驚いた顔をして、それから照れたように眼を逸らす。そんな彼の表情は、嫌いじゃなかった。

「にゃあ」

小さく、猫の鳴き声がした。ジノはとうとう振り返った。それを拒絶していたのは、思いのままに感情をぶつけてしまうと思ったからだ。彼がナイトオブゼロとして葬られたことも納得出来ないし、もっと以前、彼が新皇帝についたところから理解の範疇を超えていた。それを咎めたくなるのだ。もう、彼はいないというのに。墓に向かってそんな無意味な投げ掛けをするのは惨めで、悲劇だ。ジノはそれがいやだった。しかし、猫が邪魔をした。

「アーサー…」

スザクがかわいがっていた猫だ。だが、彼がその猫と接するときは、どこかその瞳には闇が浮かんでいた。大切な人との思い出が詰まっていると彼は言った。きっと、亡くなられた皇女殿下なのだろうと予想がついた。ジノは神妙な顔つきで片膝を着き、アーサーに向かって手を伸ばす。

「お前は、無事だったんだな」
黒猫は小さく鳴き、ジノの体に飛びついた。滑らかな毛を撫でつけながら、ジノは急激な感傷に見舞われる。彼の残した、彼が愛していたその黒の細い猫を、ぎゅっと抱きしめる。

「にゃあ、」

苦しい、というように、猫はじたばたと喘ぐ。けれど、すぐにおとなしくなった。ジノの空色の瞳から、とめどなく流れ出る涙を、黒猫の毛並みを濡らしていく。その意外性に、アーサーは気づいているように、そっと目を瞑り体を揺らした。

ジノ・ヴァインベルグは嗚咽を溢すことはなかった。ただ静かに、その両の目から涙をあふれさせるだけだった。彼と闘うことを、ジノは決意していた。彼のせいで、ジノは自身の国家という確固たる支えを失った。彼のせいで、ジノは初めて闘いを否定した。すべて、枢木スザクの残した傷跡だ。彼は意図せず残すだけだった。話し合うこともなく、終わってしまった。
ジノは静かに、しかし止まることを知らないそれを流し続けた。悲しみを拒絶するような捩れは、ジノの中にはなかった。ジノはスザクを愛していた。それは闘うことを選んだときも、同じだった。彼を否定したわけではなかった。彼を止めたいのだと思った。彼がしたことは、きっと、許されることではなかった。

「君がそれを言うのか」

スザクの声が聞こえる。まるで小馬鹿にしたように、こちらを見下す。君は痛みなど経験したことないのだろう、というように。ジノは皮肉な笑みを返す。

「スザクがわたしに教えたのだろう?闘いの中の罪悪を、力による裁判を。」

スザクは一瞬、すまなそうな顔をする。本当にジノに対し責任を感じているのかは定かではない。が、彼の後悔の対象に自分が入っているとしたら、それはとんでもなく幸福で、そして胸が痛い。ジノは何か言おうと、スザクに向かって手を伸ばす。しかし、彼にかける言葉は見つからない。それもそのはずだった。彼らはいつも、言葉を交わさなかった。情欲の交わし合いが一番のふれあいだった。そんなことで、不意に言葉が浮かぶわけがない。伸ばした手は空を切った。触ることが出来なかったら、スザクが感じていることが分かるわけがない。手おくれだった。

スザクは肩をすくめて、笑った。それは見たことのない微笑みだった。ジノはそれだけで救われた気がした。彼は少なくとも、ずっと背負ってきた何かからは解放されたのだと感じた。彼は死ぬことを望んでいた。罰せられることを望んでいた。だからきっと、これでよかったのだ。きっと。


「ジノ、」
「スザク?」
「僕はきっと、君に許されたいとか、肯定されたいとか、そんな風に思ったことはなかったんだと思う」
「スザク、」
「でも、だからこそ。僕は唯一君と一緒にいて、救われていたんだと思うよ」
「スザク、待て!」
「ありがとう、」
「スザク!」

ジノは叫んだ。風が草原を吹き抜けた。気付くと何も、聞こえなくなっていた。腕からするりと、黒猫が逃げて行った。

感謝の言葉など、聞きたくなかった。そんな寂しそうな、申し訳なさそうな笑顔で、言われたくなかった。勝手に悩んで、勝手に消えて、勝手に印象を残して。勝手に興味を持ったのは、勝手に好きになったのは、もちろんジノの方だ。けれど酷い仕打ちだと思った。一生、忘れられない傷を植え付けられた。彼の笑顔の陰りにだって、負けないくらいの酷い経験。ジノは濡れた頬を強くぬぐって、それから立ち上がる。

「アーサー、待て」
「にゃあ?」
「一緒に行こう」

ジノは声をかけた。彼との思い出に。とうとう、彼から聞くことは出来なかった、彼の過去を知る、気まぐれな黒猫に向かって。

それは自虐につながるのかもしれない。スザクが摂り付かれていたような、自責につながるループの切欠になるような、危険性を孕んでいる。それでもジノは、アーサーに声をかけた。スザクがジノを慕っていた唯一の面は、スザクを形作る背景を知らなかったということなのだと思う。ジノは確かに、彼の過去を執拗に問うことはなかった。今の彼が大切だったのだ。でも、もう今の彼はいない。もちろん未来の彼も。だったら過去に縋ってやろう。半ば投げやりにそう思う。猫は何も言わない。けれど答えるように、足を止めた。ジノは満足して、歩みを進めた。

「お前はいい子だな。頭もいい。」
「にゃあ」

横を歩く黒猫は、得意げに鳴き声を上げた。
彼はジノに、肯定されたかったわけではないと言った。きっと何も言わずにそばにいる、その姿勢が正しかったのだと思う。やすらぎだったのだろう。ジノは感じていた。彼が無言の中で拒絶している面と、反面ひどく安心して心を開いているところがあることを。その瞬間はジノも幸福だった。大切な時間だった。変えたい、壊したいとは思わなかった。

それを後悔することはない。ただ。
彼はもういない。そう認識することが、なんだか苦しかった。ジノはひたすらに、現状からの逸脱を求めた。過去からの、彼との思い出の解放を求めた。ジノが知らない彼の過去と触れ合いたいと思ったり、彼のことをただ想いのままに否定したいと思ったり、そういう感情の発露がある種の現実逃避だった。

結局本当に彼の笑顔を見ることは出来なかった。
ジノは思い出す。一歩先に進もうとも、思いを届けようともしなかったその関係の中でも、ジノはしきりにスザクにかけた言葉があった。
「笑って、スザク。笑ってよ。」

そういうとたちまち彼はしかめっ面をする。ジノが要求すればするほど、彼の眉間には皺がよるばかりだった。そのパラドクスはジノにますますの苦悶を生んだ。言わないときも、彼の表情をじっと観察する。けれども、ジノが望んでいた笑顔は終ぞ見ることは出来なかった。ジノは困難に立ち向かうときほど情熱を燃やす性質だったが、さすがにしびれを切らしていた。どうしたら笑ってくれるのだろうか。どうして笑ってくれないのだろうか。心から、楽しそうに、幸せそうに、陰りなく。

ジノは思い出す。枢木スザクを想い浮かべるときはいつも。ついて出てくる、彼の表情がある。
彼は、上目づかいで、不遜に、だが心底不可解そうに、ジノに言う。低い、押し殺したような声で。

「なんで君は、僕に笑ってほしいんだ?」
ジノはその時に気付いたのだ。彼のことが好きだということを。
ジノは当然彼の笑顔から、彼のことを好きになったわけではなかった。彼のどこか鬱々とした、けれど力と意志を放っている、そんな危うげな様子に興味を持った。もっと柔らかな声と、かわいらしい笑顔が彼には似合うと思った。それが彼の根本で、本質だと、ジノは信じていたかった。夢見ていたかったのだ。

ジノ・ヴァインベルグは思い出す。彼の言葉を。ジノが彼を好きだと告げた、その時の言葉を。

「そうだ、そうだよスザク。わたしは君のことが好きなんだ!」
「今更気付いたのか、君は?」

スザクの冷めた声。ジノは驚きを隠せなかった。

「すごい自信だな。」
「なっ、そういう意味じゃない」

スザクは動揺を見せる。彼によると、好意という感情を後々に自覚する、という順序が、スザクにとっては理解できなかったらしい。

ジノは思い出す。彼の冷めた、馬鹿にするような、低い響き。

「今更気付いたのか、君は?」

誰かを愛したいと希った、誰かに愛されたいと望んだ、人間らしい素直な感情を探していた彼の中に、見つけ出したその傲慢。愛されているという自覚、愛されることによる自信、それが彼の本質、一部分であると、そう理解するならば。

ジノはそのあと、照れたように眼を逸らし否定した彼の様子を思い出して、空を見上げた。雲が走る。風が頬をくすぐる。

あれがスザクの本質ならば、根幹にある自己の肯定性ならば。

今もどこかで、彼は生きているのではないか。生きることにしがみついているのではないか。みっともなく、自己の罪の所在を画策しながら、贖罪の方法を模索しながら、それでも日々のちょっとした生活の中で、たとえばジノと一緒にいたときみたいな、安らぎを感じながら。
悲痛に悲劇的に、それでもどこか揺るぎない強さを持って、生きているのではないか。

根拠はないけれど、そう思い浮かんだジノだった。


おわり

僕は恐くない

October 19 [Sun], 2008, 18:33
僕は君を殺して、君になるから


大丈夫、恐くないよ


君も。


僕が生きるから。背負うから。


ルルーシュ、





『断罪』

ギアスキャンセラーネタ

October 17 [Fri], 2008, 22:17
「お前にかけたギアスをキャンセルしてもいい」

「いいよ、しないで」

ルルーシュは意外といった表情をした。僕はいらついた声を上げた。

「君が言ったんじゃないか。ギアスは願いだって。僕は、君の願いを受け取ると覚悟した。それでこその、ゼロレクイエムだ。」

「でも、お前はずっと、生きることに苦しんでいたじゃないか。何かに殉じて死ぬことを望んでいたじゃないか」

「そうだよ」

僕はまっすぐにルルーシュを見て、告げる。

「そうだ。僕は、死を望んでいた。でもそれは幻影の死だ。名誉ある死、幸福な死、痛みはあっても、安らかで温かな死。でも、そんなものはない。死ぬときはいつだって悲しいし、誰だって孤独だ」

ルルーシュが顔を歪める。僕はふっと笑う。

「君は優しい。でもそれは、君の弱さでもある。僕は君のその、弱い部分を取り除く。そのためだ、僕が君の呪を背負って行くのは。」

示しがつかないだろう?僕は続ける。ルルーシュは泣きそうな顔をする。しかしすぐに、不敵に笑う。

「優しさにおける強さというものも、確かに存在する」

「君がそれを言うのか。僕に選択させた、君が。」

「あぁ。言うよ。強さというのは、優しさから生まれる。だからこそ、希望がある。永久に続く戦いの中における、救いが。」

ルルーシュは言う。僕は分かっていた。けれど、肯定するのが億劫だったのかもしれない。僕以外に優しい彼に、あるいは戸惑っていたのかもしれない。僕が選択した狂気の道を、あるいは後悔していたのかもしれない。僕の無力さを証明されているようで、頷くことが出来なかったのかもしれない。

「それが、君の選択なんだろうな」


「俺たちの、だ」

ルルーシュは笑う。きっと分かろうとしている。僕の気持ちも。けれどそれでも、ルルーシュは選ぶ。僕はそれに従う。結局は、頷く。
だからだろうか。最後の抵抗に、最後の復讐に。僕は最後まで彼に言わなかったことがある。
僕は絶対に手放さない。君にかけられた「生きろ」というギアス。君の優しさ、弱さ、願い。それら全て、なかったことになんてしない。
この呪いと、僕は死ぬまで一緒にいる。
僕は死ぬまで、君と一緒にいる。
僕はずっと、永遠に。

君のことを愛して、憎んでいる。

さよなら優しい人

October 15 [Wed], 2008, 22:56
君にとっての幸福ってなんだったんだろうか
定義もしないまま、あがいて、戦って、傷ついて
まるで、幼い頃の俺みたいだ
そんな風に、思っていた

「ルルーシュ?」
「ただいま」

今日も大量の処刑をした。
昨日も沢山の兵士にギアスをかけた。
明日も世界の領土を拡げる。
性急に進める世界征服に、ルルーシュも疲れを見せる。
スザクにで迎えられて、ほっと安心した。

「君、そうとう疲れているね。お風呂に入りなよ」
「その前に」

スザク補給、なんて戯言をこぼしながら、ちゅ、と上唇を吸う。
スザクの方はやれられ、とため息をついた。

「大丈夫か?」
「何が?」
「大丈夫なわけ、ないよな」

スザクが悲しそうに笑う。ルルーシュがさせているのだと、胸が痛む。
ずっと罪の意識にさいなまれてきたスザクだから、余計に。
それらすべてをぬぐい去ることは出来ないのだと、背負うことは出来ないのだと、ルルーシュは胸が痛んだ。

大きな荷物を持って、ルルーシュは一足先に旅に出ることを決めた。
最善の方法だと思ったのだ。もしかしたら、罪の責任を取ることに意識が向いたのかもしれない。
スザクがずっと考えていたことだ。だから、間違っているはずはなかった。間違いだとしても、良かった。
スザクがその道を選ばなければ、ルルーシュは良かったのだ。
ルルーシュは、スザクに幸せであってもらいたかった。

それから最初の疑問に戻る。
スザク、お前の幸せって、なんだったんだろうか?

ルルーシュは怖くて聞けない。それはきっと、ルルーシュが壊してしまった、殺してしまったあの人、だから。
スザクを、ルルーシュよりも先に、肯定して、包み込んでくれた、あの女性に違いないから。
ルルーシュは聞けなかった。

今。スザクは何を以て幸せとしているのか。
それはきっと。過去にとらわれててもおらず、大義名分に盲目しているわけでもおらず、きっと彼は定義していた。

ルルーシュ、ナナリー、君たちが笑って暮らしていてくれれば。
それは、幼いころとなんら変わっていない、スザクの中の一本の信念。

ルルーシュは聞けなかった。

ゆらゆら

October 15 [Wed], 2008, 22:31
「どうしてだろう」

枢木スザクはつぶやいた。
背中を向けながら、腑に落ちない表情を浮かべる。
ルルーシュはけだるげに彼を背後から抱きしめる。

「どうした?」

「……ちょっと自己嫌悪」

「お前が自己嫌悪しないときなんてあるのか」

「ひどいな、ルルーシュ」

最近、スザクの口癖になっている言葉に、ルルーシュは面白くない表情をする。
確かにひどいかもしれない。けれどそれは、スザクも同意の上だった。

「よくなかったか?」

「そうじゃない」

苛立っている様子。一年間の空白があったせいか、スザクの変化には随分驚かされる。
それも全てルルーシュが原因と言ってもいいから、何も口出せないのだが。

「なんか、結局いつも流されてしまうから。」

「なんだ、そんなことか」

「重要なことだろう」

スザクがぼそぼそと言う。
ルルーシュはぎゅっとスザクを抱きよせた。スザクが言いたいことも分かる。
ゼロレクイエムまでの時間もあまりない。こんなこと、ばかりをしているわけにもいかない。
スザクは柔らかな髪をぴくぴくと動かしながら、ちょっとずつ体をこちらに移動させてくる。
ルルーシュは彼の首筋に顔を埋め、太陽の香りがするそこに吸いついた。

「ん……」

「俺にとっては、これも重要」

「ねぇ、ルルーシュ」

「ん?」

怖くないの?スザクはじっとこちらを見る。そう聞きたがっているように感じた。
けれど、彼も、ルルーシュも、覚悟しているから。聞くのは失礼だ、とか思っているのかもしれない。

ルルーシュはずっと夢見ていてたことがある。
罪を重ねたあの日々から、ぼんやりと。
償いは後でと決めてから、はっきりと。

出来ることなら、スザク、お前に。

ルルーシュは思うが、言うことはなかった。それはどんなにひどいことであるか、分かっていたから。
罪を重ねる覚悟。仮面をかぶる覚悟。生きる覚悟。

ルルーシュの方が、聞きたかったかもしれない。
スザクにその覚悟があるのか。
怖くないのか。
ルルーシュを、憎まないのか。

「なんだよ?」

「別に」

スザクはふっと微笑む。諦めにも達観にも似た、表情。ルルーシュもつられる。
再び、シーツの海に二人沈んでいく。
今はたゆたって、肯定した仮面を張り続ける。
それは幸せなのか?後に自問することになろうと、構わない。

ゆらゆらと、ゆらゆらと。
ともすれば崩れて行く地面から逃れるように、二人指を絡めた。


君は優しく僕を葬る

October 15 [Wed], 2008, 22:20
突き刺された剣に、微笑みが浮かんだ。
約束は叶えたぞ、とどこか誇らしい気持ちだった。


ルルーシュは思い返していた。
自身の罪と、犠牲となった人々。
手に入れたギアスの力。再会した友の笑顔。

今はその顔を仮面に包み、自らを贖罪の輪廻に飛びこませる。
その、覚悟。
仮面に隠れていても、見てとれた。

血が滴る。
痛みが拡がる。
ルルーシュは微笑みかける。
目前の彼の仮面を、指先でたどる。

ゼロ、という存在。
正義の味方。
反逆を果たした英雄。

彼、スザクの、憎しみの、対象。

「これは、お前にとっても罰だ」

囁いた。
スザクの表情はうかがえない。けれど。

正義には悪。問題には正解。それと同じように、
対の存在。罪には、罰。

心地よいな、スザク。
出来れば、お前も。
開放されてくれることを願う。

憎悪の対象から。
生きる恐怖から。
死への憧憬から。

本当に、本当に。

ありがとう、スザク。

許しは請わずに。
十字架を背後に、悪帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは階段を無様に転げ落ちた。

平和な世界に、大好きな人たちが微笑んでいる世界。
ルルーシュは思い浮かべ、静かに瞳を閉じた。

今までありがとうギアス!

September 28 [Sun], 2008, 22:27
本当に、最善の方法だったのだろうか。

僕は弱いから、未だにそう考えてしまう。

大切な、守りたかった人。

憎しみのままに討てるわけがなかった。

君がいてくれればいいとさえ、思っていた。

この肉の感触は、一生忘れない。

出来ればまた、黄泉の国で逢おう。

それまでは、さよなら。

約束は守るから。

おやすみ、ルルーシュ

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