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屋内に助三郎の姿はなかった。
格之進は境内へ出てみる。すでに雪にかき消されつつある草履の跡が、うっすらと裏手の林へと続いていた。あまりの寒さに両腕を掻き抱きながら、格之進は足跡をたどっていった。
果たして助三郎は、林立する檜のなかに立っていた。
しんしんと降りくる雪と針葉樹。真っ白い雪が世界のすべてを静かに、覆ってゆく。圧倒的に無音だ。佇む助三郎も含めて、それはある一つの完璧な、まるで墨絵のような光景だった。
着物一枚で、両手を袖に入れてはいるが、そこに立つ助三郎は、まるでこの寒さが自分の錯覚かと格之進に思わせるほど、毅然としていた。真っ直ぐな背筋がなんだか痛ましいくらいだ。空を仰いでいる。吐く息が白い。髷や肩に雪がとまっている。
きれいだな、と格之進は思う。
いま助三郎はただそこに佇んでいるだけだが、まるで剣を構えたときのような静謐感に満ちた美しさがあった。しん、として、空気と一体化してしまったような。時折、格之進があやかりたいと思う精神的な美しさだ。
「格さん?」
呼ばれて、はっとした。いつのまにか格之進に気づいた助三郎がこちらを見ていた。
「なにしているんだ」
と、格之進は小走りに彼に近づき、隣に立った。
「寒くないのか」
助三郎はすっと目を細めた。
「いや、気持ちがいいよ。冬はいいな」
彼より厚着の格之進は寒さに肩を震わせながら首を傾げる。
「そうかな」
ああ、とうなずいた助三郎は再び空を見た。
「冬の寒さは人を潔くさせる。そう思わないか?」
そう云う助三郎の視線を追って、格之進も曇り空を見上げる。
檜が天空に突き出すように聳え、その向こうから綿のような雪が輪を描きながら舞い降りてくる。何か大きなものを感じる。吸い込まれそうだ。
それで、格之進は助三郎に視線を戻した。
彼はまだ空を見ていた。横顔の黒い瞳がどこまでも真摯だ。意志そのものがそこに立っているように思える、すっと伸びた背筋。その姿は彼の周囲にひっそりと立つ檜に似ていた。真冬にも色を変えず、雪の舞い降りてくる天空に向かって、高く、真っ直ぐに聳えるこの常緑樹に、そっくりだ。
「助さん」
名前を呼んで、潔いのはお前だと、格之進は思う。言葉には、しなかった。
屋内に助三郎の姿はなかった。
格之進は境内へ出てみる。すでに雪にかき消されつつある草履の跡が、うっすらと裏手の林へと続いていた。あまりの寒さに両腕を掻き抱きながら、格之進は足跡をたどっていった。
果たして助三郎は、林立する檜のなかに立っていた。
しんしんと降りくる雪と針葉樹。真っ白い雪が世界のすべてを静かに、覆ってゆく。圧倒的に無音だ。佇む助三郎も含めて、それはある一つの完璧な、まるで墨絵のような光景だった。
着物一枚で、両手を袖に入れてはいるが、そこに立つ助三郎は、まるでこの寒さが自分の錯覚かと格之進に思わせるほど、毅然としていた。真っ直ぐな背筋がなんだか痛ましいくらいだ。空を仰いでいる。吐く息が白い。髷や肩に雪がとまっている。
きれいだな、と格之進は思う。
いま助三郎はただそこに佇んでいるだけだが、まるで剣を構えたときのような静謐感に満ちた美しさがあった。しん、として、空気と一体化してしまったような。時折、格之進があやかりたいと思う精神的な美しさだ。
「格さん?」
呼ばれて、はっとした。いつのまにか格之進に気づいた助三郎がこちらを見ていた。
「なにしているんだ」
と、格之進は小走りに彼に近づき、隣に立った。
「寒くないのか」
助三郎はすっと目を細めた。
「いや、気持ちがいいよ。冬はいいな」
彼より厚着の格之進は寒さに肩を震わせながら首を傾げる。
「そうかな」
ああ、とうなずいた助三郎は再び空を見た。
「冬の寒さは人を潔くさせる。そう思わないか?」
そう云う助三郎の視線を追って、格之進も曇り空を見上げる。
檜が天空に突き出すように聳え、その向こうから綿のような雪が輪を描きながら舞い降りてくる。何か大きなものを感じる。吸い込まれそうだ。
それで、格之進は助三郎に視線を戻した。
彼はまだ空を見ていた。横顔の黒い瞳がどこまでも真摯だ。意志そのものがそこに立っているように思える、すっと伸びた背筋。その姿は彼の周囲にひっそりと立つ檜に似ていた。真冬にも色を変えず、雪の舞い降りてくる天空に向かって、高く、真っ直ぐに聳えるこの常緑樹に、そっくりだ。
「助さん」
名前を呼んで、潔いのはお前だと、格之進は思う。言葉には、しなかった。
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