「私です、戻りました」
助三郎の声がひそやかに云って、障子が開いた。いつものことながら彼は、はっとするほど美しい所作で入室して障子を閉める。
「助さん」
呼ぶと、彼はほんの一瞬格之進に視線をやって、その眼差しだけで微笑した。
このところ、助三郎は少し痩せたように見える。筋肉質だが、脱がないとわからないのは、その身体が無理なく理想的に鍛えられているからだ。もともとぱっと見た感じは、どちらかと云えば線が細い体格だったが、それでも最近、少し痩せたと格之進は思う。
「ご苦労さまです」
ご老公が微笑した。
「なにか、わかりましたかな?」
「はい」
と助三郎が着物の裾を押さえてご老公の前にすわったとき、彼についてきた冬の外気が、格之進に匂った。冷気すらがふっと漂った。
「外、寒いんだな」
格之進は云った。
「ああ?」
助三郎は少し不思議そうな顔をして格之進を見たが、静かな微笑で付け足した。
「からっ風が強くて、かなり寒いぞ」
それから助三郎は、調べてきたことをご老公に報告しはじめる。
事実の列挙と冷静な状況分析。
俺だったらこうはいかないな、と格之進は思う。多分に感情的な報告になるだろう。どちらがいいというのではないと知っている。それでも、助三郎の如才なさ、冷静さに、格之進は苛立ちと憧憬の双方を感じて戸惑った。
「よく、わかりました」
難しい顔のご老公が、しかし助三郎を労わる眼差しを浮かべてうなずいた。
「明日、それとなく大黒屋を探りに参りましょう」
「はい」
助三郎と格之進は同時にうなずいた。
「風呂にでも入ってきたらどうですかな、助さん」
と、微笑のご老公が助三郎に云う。
「その間に、夕餉を用意していただきましょう」
「いやしかし、ご隠居は?」
助三郎が反問した。主の前に風呂はいただけない。
「わたしはついさっきいただきましたからな」
「格さんは?」
「俺はまだだ。でも俺が焚いてやるよ」
云いながら格之進はすでに立ち上がっていた。
「お前、すっかり冷え切っているようだから」
助三郎の声がひそやかに云って、障子が開いた。いつものことながら彼は、はっとするほど美しい所作で入室して障子を閉める。
「助さん」
呼ぶと、彼はほんの一瞬格之進に視線をやって、その眼差しだけで微笑した。
このところ、助三郎は少し痩せたように見える。筋肉質だが、脱がないとわからないのは、その身体が無理なく理想的に鍛えられているからだ。もともとぱっと見た感じは、どちらかと云えば線が細い体格だったが、それでも最近、少し痩せたと格之進は思う。
「ご苦労さまです」
ご老公が微笑した。
「なにか、わかりましたかな?」
「はい」
と助三郎が着物の裾を押さえてご老公の前にすわったとき、彼についてきた冬の外気が、格之進に匂った。冷気すらがふっと漂った。
「外、寒いんだな」
格之進は云った。
「ああ?」
助三郎は少し不思議そうな顔をして格之進を見たが、静かな微笑で付け足した。
「からっ風が強くて、かなり寒いぞ」
それから助三郎は、調べてきたことをご老公に報告しはじめる。
事実の列挙と冷静な状況分析。
俺だったらこうはいかないな、と格之進は思う。多分に感情的な報告になるだろう。どちらがいいというのではないと知っている。それでも、助三郎の如才なさ、冷静さに、格之進は苛立ちと憧憬の双方を感じて戸惑った。
「よく、わかりました」
難しい顔のご老公が、しかし助三郎を労わる眼差しを浮かべてうなずいた。
「明日、それとなく大黒屋を探りに参りましょう」
「はい」
助三郎と格之進は同時にうなずいた。
「風呂にでも入ってきたらどうですかな、助さん」
と、微笑のご老公が助三郎に云う。
「その間に、夕餉を用意していただきましょう」
「いやしかし、ご隠居は?」
助三郎が反問した。主の前に風呂はいただけない。
「わたしはついさっきいただきましたからな」
「格さんは?」
「俺はまだだ。でも俺が焚いてやるよ」
云いながら格之進はすでに立ち上がっていた。
「お前、すっかり冷え切っているようだから」
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