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「助さん!」
元気よく呼ばれて振り向くと、竹林の細い路を稽古着姿の格之進が走ってくるのが見えた。
木刀を片手に袴をひるがえし、頬を高潮させて駆けてくる格之進を、助三郎はある種の感動をもって眺める。
ガキみたいだな…
そうは思うのだが、そこには羨望に近いものがあった。幾つになっても、また旅でどんなに汚いものや悲しいものを見ても決して変わらない、汚れることのない格之進の清々しさ、その無垢な魂はどこか気高く、そして美しい。
「助さん」
と、肩で息をしながら格之進は助三郎の前に立った。明快な瞳が強く輝いている。
「どうしたんだ?」
尋ねながら助三郎は、格之進が眩しくて目を細めていた。輝くような笑顔も、井戸の底のように深い、澄んだ黒い瞳も、そこに宿る少年のような眼差しも、稽古着から伸びる長い四肢も、額の汗も、なにもかもが健やかに眩しい。
「城に江戸から使者が来ているらしい。山野辺兵庫殿がご老公に会いにみえられた」
そこまで一気に云って、格之進は息をついた。
「近々、江戸へ行くことになりそうだぞ」
「そうか」
助三郎はうなずいた。いずれにせよ、そろそろご老公の旅心が疼きだす頃だと思っていた。
「それを云うためだけに、そんなに息せき切って走ってきたのか?」
むっ、と格之進がふくれた。
「悪いか?」
「そうは云っていない」
助三郎は思わず微笑んでしまう。そこが格之進の魅力でもあるのだが、まったく正直と云おうか、単純明快な男だ。
格之進は太陽の陽射しのようにまっさらで、すくすくと伸びていこうとする健やかなエネルギーに満ち満ちている。この青々とした真竹のようでもあった。しなやかに、真っ直ぐに。そして撓まぬ節の強さも持っている。
「しっかし熱いな!」
格之進は眩しそうに目を細めて空を見た。
「うれしそうだな」
やはり助三郎は微笑してしまう。夏が、格之進は好きなのだ。隣にいると彼のわくわくする気分が伝わってくる。
気づいたら、夏はもうはじまっていた。強い陽射し、さらさらと揺れ光る緑。きっかりと硬い、群青の空はどこまでも高い。熱い空気がじっとりと汗ばんだ全身を包んでいる。こうして立っていると、日に焼けていくのを感じるようだ。
「あ、風だ…!」
格之進が歓声を上げた。
まるで答えるように笹がさらさら音を立てた。真夏の熱がすっと遠のく。
「気持ちいいな!なんて爽やかなんだ…」
目を閉じ、空を仰いだ格之進が深呼吸をする。日に透ける竹の葉の緑が美しく、格之進の整った顔、理知的な額や通った鼻筋にもその木漏れ日が落ちていた。
「格さん」
名前を呼んで、爽やかなのはお前だと、助三郎は思う。言葉には、しなかった。
「助さん!」
元気よく呼ばれて振り向くと、竹林の細い路を稽古着姿の格之進が走ってくるのが見えた。
木刀を片手に袴をひるがえし、頬を高潮させて駆けてくる格之進を、助三郎はある種の感動をもって眺める。
ガキみたいだな…
そうは思うのだが、そこには羨望に近いものがあった。幾つになっても、また旅でどんなに汚いものや悲しいものを見ても決して変わらない、汚れることのない格之進の清々しさ、その無垢な魂はどこか気高く、そして美しい。
「助さん」
と、肩で息をしながら格之進は助三郎の前に立った。明快な瞳が強く輝いている。
「どうしたんだ?」
尋ねながら助三郎は、格之進が眩しくて目を細めていた。輝くような笑顔も、井戸の底のように深い、澄んだ黒い瞳も、そこに宿る少年のような眼差しも、稽古着から伸びる長い四肢も、額の汗も、なにもかもが健やかに眩しい。
「城に江戸から使者が来ているらしい。山野辺兵庫殿がご老公に会いにみえられた」
そこまで一気に云って、格之進は息をついた。
「近々、江戸へ行くことになりそうだぞ」
「そうか」
助三郎はうなずいた。いずれにせよ、そろそろご老公の旅心が疼きだす頃だと思っていた。
「それを云うためだけに、そんなに息せき切って走ってきたのか?」
むっ、と格之進がふくれた。
「悪いか?」
「そうは云っていない」
助三郎は思わず微笑んでしまう。そこが格之進の魅力でもあるのだが、まったく正直と云おうか、単純明快な男だ。
格之進は太陽の陽射しのようにまっさらで、すくすくと伸びていこうとする健やかなエネルギーに満ち満ちている。この青々とした真竹のようでもあった。しなやかに、真っ直ぐに。そして撓まぬ節の強さも持っている。
「しっかし熱いな!」
格之進は眩しそうに目を細めて空を見た。
「うれしそうだな」
やはり助三郎は微笑してしまう。夏が、格之進は好きなのだ。隣にいると彼のわくわくする気分が伝わってくる。
気づいたら、夏はもうはじまっていた。強い陽射し、さらさらと揺れ光る緑。きっかりと硬い、群青の空はどこまでも高い。熱い空気がじっとりと汗ばんだ全身を包んでいる。こうして立っていると、日に焼けていくのを感じるようだ。
「あ、風だ…!」
格之進が歓声を上げた。
まるで答えるように笹がさらさら音を立てた。真夏の熱がすっと遠のく。
「気持ちいいな!なんて爽やかなんだ…」
目を閉じ、空を仰いだ格之進が深呼吸をする。日に透ける竹の葉の緑が美しく、格之進の整った顔、理知的な額や通った鼻筋にもその木漏れ日が落ちていた。
「格さん」
名前を呼んで、爽やかなのはお前だと、助三郎は思う。言葉には、しなかった。
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