血縛愛 

February 18 [Thu], 2010, 23:58


「部長、これって」

「あ、有難う。あっちに片付けておいて」

「はい」




何でもない言葉が交わされて俺は絶望した






翼がこの部へ来てしばらくが経った
普段ボーっとしてばかりで別段何をするわけでもない彼女を弓道部へ誘ったのは紛れもない俺だ
一緒にいたいと言ったらベタかもしれないが実際それまで以上に同じ時を過ごせたなら良いと思ったし弓道をしている俺を見て欲しかった

翼も龍之介がいるなら良いと言ったし入部当初は俺に着いて回ってばかりだった


のに、だ


もとよりこの学園に1人だけの女ということで言わずと知れていた翼だった
だから部員も彼女と話したし仲良くなるのも早かった

ただ俺はそれが気に食わなくて
梓が彼女に先輩先輩と呼び掛けるのも
3バカが彼女に用具の説明をするのも

部長が彼女に笑いかけるのも

俺だけの翼が




翼は俺のいとこだった







「そうそう、引いて、集中して…放す」

「…ーっ…やっぱり、慣れないですねこの衝撃は」

「でも上達してきたね、筋は良いよ」

「ですかね」

「うん、でもほら、肩の力抜いて」

「難しいですね、疲れます」

「そう?構えてるときの翼ちゃんは楽しそうに見えるけど」

「………そう…です…か」


また、部長の隣に翼がいた
フォームが不安定な翼を部長が抱えるように支えて細かに指示を出す
撃ち終わった翼が一言二言言葉を発した後、照れたように顔を赤らめた
部長はそれに気付いて目を細めて翼の頭を撫でた

全てが気付いていた
2人が相思相愛なこと
付き合ってはいないだろうがそれも時間の問題だってこと

毎日
毎日毎日があの調子

毎日
毎日毎日俺はそれを握り締める






俺の










「…翼」

「龍之介、何?」

「今日話があるんだ、部屋、行っても良いか」

「うん、良いけど」


翼が俺の目を見て俺の好きな顔をした
それ、無邪気で俺しか知らない、俺しか映さない翼が好きだ


「じゃあ部活も終わったしこのまま部屋来る?ご飯の後にする?」

「お前が良ければ、今から」

「分かった、待ってて、着替えてくる」

「ああ」


昨日の夜、親に電話をした
俺にしては長い電話だった


「あれ、まだいたんだね、ご苦労様」

「部長、」

「早く帰った方が良いよ、まだ明るいけど結構な時間だから」

「ええ、ああ、はい…失礼します」

「気を付けて」


終わりだ
全てが




終わりだ







「お邪魔します」

「ん、ちょっと待ってて、着替える。あっちの冷蔵庫にお茶入ってるから飲んで良いよ」


翼はまた俺の好きな顔をした


「翼、好きな人いるの」


扉の向こうで着替えている翼に話を掛けた
小さな冷蔵庫の中の紅茶を取り出してベッドにもたれ掛かるように床に座った


「何、急に」

「や、」


ジーンズとTシャツ姿になった翼が制服をハンガーに掛けながら隣の部屋から出て来て応えた


「昨日親に電話したんだ」


翼は冷蔵庫を開けてロールケーキを出してきた
ひとつのそれに2本のフォーク
昔からこう
仲が良くて
おやつを分け合って

どさりと翼が横に腰掛けた


「結婚することにしたって言ったんだ、おばさんちにも電話した」

「…結婚?え?うちにも?結婚って龍之介…誰と」








「翼と、」






血縛愛
世界を裏返してみればいい
(夢を壊すなら今だと)
(俺はどこに行った)







P R
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