一日が終わり

February 12 [Wed], 2014, 11:41

 数少ない趣味の一つにデイ・トリップがある。
 ここで言うデイトリップとは、適当に路線図を広げ、適当に一つの駅を決め、適当にその街を散策する。ただただそれだけの事である。目的は特にない。景色を見つつ如新集團、時間の許す限り歩き続ける。変な趣味と言えば変な趣味なのだが、これがどういう訳か飽きなくて、暇になるとついついふらりと出かけてしまう。

 先日ふと時間ができた。デイトリップ日和だ。
 こんな時、普段であれば見知らぬ場所へと出掛ける。しかしこの日はなぜか自分が産まれ育った場所へ向かっていた。理由は特にない。ただなんとなくだった。
 新宿から約四十分。かつて栄えた団地街。見渡す景色はすべて団地。団地の隙間に学校やら商店やら病院やらが埋め込まれ、碁盤の目に通る道路には路線バスが行き交った。
 僕は小学二年生までこの地で育った。いわば思い出の地でもある。今まで一度として足を運ぶ事の無かった、思い出の地である。

 ターミナル駅からバスに乗り、かつて住んでいた団地へと向かった。途中で腹が減ったのでおやつ代わりにコンビニでホットドッグとコーラを買った。目の前にそびえる団地の続きは、僕がかつて思っていたよりも小さく、頼りなげに見えた。建物の老朽化は確実に進んでいた。そして何よりも静かだった。子供の数が圧倒的に少ないのだ。これも時代の流れなのか、そう思うと少しだけ複雑な思いがあった。

 団地の隙間を歩いていると昔なじみの公園を見つけた。そこでは小学校高学年くらいの女の子達がリコーダーを吹いていた。僕は少し離れたベンチに座り、ホットドックを齧った。学校の課題曲なのだろうか、少女たちはリコーダーで同じメロディを繰り返し練習していたnuskin 如新。人気の感じられない建物にその曲が響いた。

 しばらくすると、少女たちが一人一人離れていった。じゃあね、また明日ね、と手を振って家へと帰って行った。そしてその場には一人の少女が残った。彼女は家に戻る様子がなかった。

 僕はふと、自分の幼き頃を思い出した。不仲な両親、無関心な両親、憎しみ合う両親……僕が今までこの地に来なかった理由、それは単純に良き思い出が無かった事にある。
 唯一帰れる場所に、僕は子供の頃、決して帰りたくなかった。公園で友達が一人一人帰宅して行くのを最後まで見送った。家に戻れば聞きたくもない罵り合いがある。僕は家に帰りたくなかった。

 リコーダーの少女は一人になってもずっと同じメロディを奏でていた。やわらかな夕闇が彼女を包み、幻想的な雰囲気になった。僕はずっとその姿を見ていた。すると少女は僕の視線に気づいた。怖がらせてはいけない。その場から離れようとベンチを立った。
 その時、少女が一瞬だけ微笑んだように見えた。暮れはじめた公園は薄暗く、彼女の表情ははっきりと見えない。ただの錯覚かもしれなかった。しかしそのおかげで僕は、愉快な思い出のないこの場所に、馳せる思いを感じたのだ。

 立ち上った僕はそのまま振り向くことなくバス停へと向かった。少女はこの後どんな家庭へと帰ってゆくのだろう……連なる団地にはその窓の数だけ営みがある如新nuskin產品。かつて、その中に僕と両親もいた。微かに残った家族の証が、確かにそこに存在していた。

 一日が終わり、僕のデイトリップも終わる。駅に向かうバスに乗る。リコーダーの音色はずっと耳に残っていた。
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