情熱あるいは中毒 

October 30 [Wed], 2013, 0:24
澁澤龍彦『推理小説月旦 ミステリー全論考』



シブタツのハードカバーが新刊で出ることを
ドラコマニアとして喜ばぬわけはないのだが
それでもこれはどうかと思わずにはいられない。

いちいち検証はしないけれども,
全集をひもとくまでもないくらいの寄せ集めで,
「深夜叢書社創立50周年記念出版」と銘打たれても,
シブタツも苦笑いしかできないだろう。
しかも,2400円って。
河出文庫の編集姿勢を見習おうよ,深夜叢書社。

それでも全部,読み直しましたけどね。
つまるところ,再読のきっかけをくれたことには感謝する,
それがドラコマニア。

大坪砂男,読まないかんね。

            (深夜叢書社 2013年10月18日)

神もそれほど迂闊ではない 

October 28 [Mon], 2013, 23:16
樋口有介『ベイ・ドリーム』



文庫版あとがきで作者自身が
「まさか文庫化されて日の目を見るとは」とつぶやくように,
本作は文庫化まで14年の年月が経っている。

舞台がお台場ということもあり,
題材や軽薄な風俗の変遷が少し痛々しい。
ミミズを専門とする助教授である主人公の語りに樋口節はあり,
わたしはおもしろく読んだ。

しかしだ。
中公文庫の編集者よ。
こんなに誤植の多い出版物は初めてだったよ。
97頁「燦然」のルビが「さんnぜん」って,どうなん。
242頁「灰皿と湯呑を流しに始末て」って,どうなん。
いちいち書かないけれど,ほかにもいくつもある。

中公文庫版『ピース』が再評価されて,
他社で放置されていた作品を掘り出してくれるのはありがたいんだけど,
お願いだから,もうちょっとちゃんと本造りをしようよ。

装画もひどくない?

(中公文庫 2012年4月25日 / 角川書店 1998年9月)

5秒の訂正
ただの恋愛が

時計仕掛けの潮流 

October 21 [Mon], 2013, 22:45
島田荘司『星籠の海』





御大は「本格ミステリ」を
幻想的な謎の提示と論理的な解明であると定義した。
そして,これまで氏の諸作の「幻想的な謎」の提示は,
もうホントにとんでもないものばかりで,
前作『アルカトラズ幻想』でもぞんぶんに炸裂,
「島田作品極私的ベスト5」を更新させられた。
いや,もうホントにメチャクチャですから。
奇想ってこれでいいと思わされた。

さて,『星籠の海』,
ひさしぶりの御手洗潔シリーズである。
いかにもホームズ的なイントロから
瀬戸内海のある小島に流れ着く複数の死体の謎が語られるも,
その謎は驚くほどいとも簡単に解明される。
それは本編の舞台への導入にすぎず,
そこから,いっけん関連のない三つの場面が同時進行的に描かれ,
物語が進められるのだが,こうした複数の視点のパートを重ねるのは,
御大がよく採用する手法であって,
その交錯点を考えながら読み進める。

本作は御大の言う「幻想的な謎」という点では弱さを感じさせる。
しかし,御手洗のキャラクター,構成の妙,
悪意が生まれる瞬間の描き方などによって,
上下巻860ページ,一気読み。
仕事は致命的なまでの停滞を強いられるも,もういいや。

村上水軍とか織田信長とか黒船とか,
知識もなく,それほど興味をもっていたわけでもないのに,
なにか積年の一大ロマンであったかのように感じさせるところに
御大の圧倒的な説得力がある。
以前も,写楽の本を買わせられたからね。

              (講談社 2013年10月3日)

居場所をなくす売国奴 

October 20 [Sun], 2013, 21:49
森 達也
『「自分の子どもが殺されても
     同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』



悲しみや怒りを共有し集団化することで,
論理的に思考することを止め,
わかりやすく単純化,簡略化されたスローガンを
声高に言葉を叫ぶ人々に,
「なあ,ちょっと考えみようよ」と語りかけるふうの森達也の言葉は,
対立する二項の立場とはまた違った立場から発せられる。

たしかに,実際のところ,
対立する二項の当事者とは無関係なところで
「世論」やら「正論」なりができあがっているのだろうと思う。
ならば,ぼくたちは多くの社会問題に対して,
被害者でも加害者でもないフラットな立場で
ものを考えることが必要だし,それこそが思考訓練だろうと思うのだ。

紙上での発表のあと,ウェブマガジンに転載され,
大変な反響というか,罵詈雑言で燃え上がったという
「加熱する領土問題 譲渡することも一つの選択だ」は,
たしかに強烈である。ぼくはこうした発言をはじめて目にした。

本書のキーワードの一つである「過度の忖度」について,
私は,職場のことを考えさせられずにはいられなかった。

四方八方に「配慮」という「遠慮」ばかりして,
すべての情報を開示できないジレンマのなかで
身動きできず,身動きできぬことを,
管理職であったり,保護者であったり,
子どもの集合体としての「教室」にとって
本質的に部外者である立場(異論承知)の人々に
正義面して,当事者面していつも批難されるのだ。

「王様は裸だ」とつぶやく少年のような森達也の言は,
「なかなかこうはいえないんだけどな」と
ちょっとした敬服の念を私に抱かせる。

こんな思いを抱かせられたのは,吉田司の文章以来である。

              (ダイヤモンド社 2013年8月22日)

結末を記さないということ 

October 19 [Sat], 2013, 20:48
米澤穂信『追想五断章』



米澤穂信は,意図的に,
作風や文体に,幅をもたせている。

私の勤務する中学校にも,
それっぽい絵柄でアニメ化された古典部シリーズや
東京創元社のスイーツシリーズといった
すこしひねくれた少年少女を描くライトノベル風のシリーズものを
愛好する生徒がいるが,かといって
『さよなら妖精』『犬はどこだ』『インシテミル』『ボトルネック』
『折れた竜骨』といった氏の諸作を気軽には薦められはしないのだ。
どうにも不吉な印象ばかり残す五つのリドル・ストーリーを配置する
本作は特にそうである。

「ミステリ」というカテゴリのコードに対して,
きわめて意識的で,たいへん巧みな作家であることは疑いえない。

              (集英社 2009年8月30日)

夕には白骨に
知識が認識を変える時 
淫してみる。
異邦人
幻惑する世界
探偵ではなく推理作家
ALL QUIET ON THE FAR EASTERN FRONT!?

定点観測 

October 12 [Sat], 2013, 23:02
出版人に聞く11『名古屋とちくさ正文館 古田一春』



前巻の内藤三津子さんに続き,
これまた渋い人選で攻めてきた「出版人に聞く」シリーズ。
ちくさ正文館の名物店長,古田一春氏の語りをたいへんおもしろく読んだ。

ちくさ正文館は,私にとっても特別な書店で,
中央線で名古屋に出る時には,
鶴舞の古書店街,千種の正文館は素通りできなかった。

1992年に,
ちくさ正文館でひらかれたフェア「澁澤龍彦著作展」には
もちろん駆けつけ,そのときのチラシは額装して飾っていた。
ちょうど,私がシブタツに最も傾倒していた時期だ。

天野天街の『高丘親王航海記』は友人と観に行った。
本書によると,その野外劇には
澁澤龍子夫人,種村季弘,四谷シモン,金子國義が来ていた
(そのあとちくさ正文館も訪れている)という。

心震える破格のニアミス。

                (論創社 2013年9月25日)

嫌がる澁澤さん
綾なす日常

コソ泥と娘 

September 30 [Mon], 2013, 1:37
長岡弘樹『傍聞き』



悪くない。
珠玉の短篇である。
読む価値は充分にある。
タイトルの「傍聞き」,
巻頭作の「迷走」が,特に心に残った。
宮部みゆきさんの短篇に似た「巧みさ」を感じさせる。
しかし,まだ表層的な「巧みさ」でしかないように感じる。

  (双葉文庫 2013年6月4日20刷/2008年10月)

人間を食べたと思い込んだり 

September 28 [Sat], 2013, 22:27
中村文則『迷宮』



「自分の新たな始まりとなる小説」と作者が言う11作目。
ちょっとしたサイコミステリ的要素をまじえている。

弁護士事務所に働く「僕」は自分を抱え込んでいる。
密室で行われた一家惨殺事件。
既に放置されていた事件の影が,まとわりつく。
事件の遺児が様々なことを抱え込んだまま,まとわりつく。

小汚い探偵事務所。
密室事件などありえないという真実。
サイコが小さな見落とされているリアルに引き戻されて,
落ち着くべき真実にまとまる。

本作にある「R」のありようは,
樋口毅宏が『ルック・バック・イン・アンガー』で
一つのオマージュを描いたところの
辻仁成『ピアニシモ』とかすかに通底する。

おもしろい。

                 (新潮社 2012年6月30日)

損なうために 

September 23 [Mon], 2013, 9:13
中村文則『悪と仮面のルール』



中村氏にとって9冊目の作品にして最長の作品であり,
『銃』や『遮光』に比べた時,
複合的な要素がからみあっている作品である。
そして,それが奏功しているかというと,そうでもない。

いや,誤解のないように言えば,
私は本作も,他の中村氏の作品同様に,
巻を措く能わず,一気読みしたのだ。
そりゃあもう,べらぼうに面白いのだ。
そう,私は本作で描かれる「邪」について,もっと読みたいのだ。
広げた風呂敷がこのページ数であってもおさまっていないと感じた。

中村氏が,それこそ春樹の
『ねじまき鳥』や『1Q84』のような複数冊にわたる長篇を書く時,
もうひとつ上のステージに行くのではと期待してしまうな。

それにしても,
仮面をもつ人物を描いた表紙画は何とかならなかったのか。
たぶん,本文を読まずタイトルだけで描いている。

                 (講談社 2010年6月29日)

ホームズ no truth 

September 22 [Sun], 2013, 20:04
高田崇史『QED〜flumen〜ホームズの真実』



2011年『伊勢の曙光』にて完結した
「QEDシリーズ」の新作。
新作の中篇「ホームズの真実」と
読者プレゼントだった
「QEDパーフェクトガイドブック」とをあわせてのリリースである。

2000年にQED三作『ベイカー街の問題』が出た時には,
『百人一首』『六歌仙』ときて,なんでホームズなの?
と当時は不審に思ったものだが,
本作を読んで,高田氏にとって,
日本の和歌も古典もベイカー街の物語も,同列なのだなと
妙に納得させられた。
だって,ホームズと紫式部をつなげちゃうんだもん。
高田氏の力業,尋常じゃないですよ。

「また違うネタがもう一つ」残っているという「QEDシリーズ」と
新シリーズ「神の時空」を,心からの楽しみにして待つ。

             (講談社ノベルス 2013年9月4日)
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