媚薬の誘惑に抗して–反媚薬と制淫剤

February 19 [Thu], 2009, 15:13
十二世紀の尼僧ヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、その著書を通じて、植物や鉱物の薬効に関する豊かな知識を後世に伝えている〔ミ.}ラー、 九八二参.照)。尼僧という身分L、彼女は性的なものいっさいを断念しなければならなかった。坐アントニウスが経験したような誘惑に遭わないためにも、彼女は媚薬と戦わなければならなかった。古典的な媚薬であり愛の魔術にも使われたマンドラゴラは、彼女にとっては悪の化身だった。彼女は大国の門を閉ざすこの邪悪な力に対抗するための薬を開発した。

それは、エニシダの著枝七本、ゼラニウムという意昧の異名がある)の葉.数枚、ゼ三アオイの葉二枚の煎じ汁から作られる膏薬で、マンドラゴラに誘惑されたらこれを体に貼るべし、と彼久は勧めている。もっとも、期待された効き[がこの膏薬にあったかどうかは疑問である.なにしろエニシダにはヒッピーの報告から判断すれば、幻覚誘発作用と媚薬的効果のあるシスティンが含まれているし〔シュルテス&ホフマン.一九八○、四一ページおよびシュタルクゼラニウムのエッセンスはアロマセラピーで性的興奮剤として使用されているつもりで、媚薬(マンドラゴラVに対して別の媚薬〔エニシダとゼラニウム)を持ってきたのかもしれない。マンドラゴラとエニシダ、ゼラニウムの相乗作用があるかどうか、一度試してみる必要があるだろう。

媚薬に対抗するための手段としては、アレクサンデル・ベネディクトゥ.スの護符というものもあった。これは、トパーズを狼の右の睾丸で磨き、ローズウォーターまたはローズオイルに浸してから指輪にして身につける、というものだった。身につけた人が性的誘感を心に感じると、この護符が働いて、その人に吐き気を催させると信じられていた。罪の意識を強める働きがあったということだろうか。

反媚薬とは、媚薬の作用を中和する、つまり媚薬の効果を消す薬剤のことである。猛毒のドクユンジン「鎮静・鎮痛・鎮痙薬、反媚薬」と見なされていた。タバコはおそらく最強の.反媚薬の一つだろう。ニコチンには強力な血答収縮作用があり、体全体の健康を損なうばかりでなく、生殖器官の血流を妨げて性的能力を低下させる.チェーンス.モーカーが若くしてインポテンツになるというケースは少なくない。タバコを吸うと、たいていはっきりと性欲の低下を感じる、習慣的スモーカーの場合には、性欲の低下融ニコチンにむしばまれた体に徐々に忍び寄ってくる。スモーカーの口臭も反媚薬と言える。タバコの反媚薬的作用が最も明確に現れるのは.タバコを大麻とともに吸った場合である。

単独であるいは他の植物〔ダミアナ、エニシダ、チ可一ウセンアサガオ、フキタンポポ)とブレンドして吸引した場合に大麻が性欲を刺激し昂進させることは広く知られているがなかには、吸ってもまったく性的興奮を感じなかったという人もいる。大麻が効果を表さなかった原因は、ほとんどの場合、大麻をタバコとブレンドして吸引したことにある。ニコチンの血管収縮作用によって、THC(テトラヒドロカンナビノール。マリファナの主成分)が体内にいき渡らなかったのである。

動物性の反媚薬も作られたヨーロッパでは.カバの皮膚やカエルを粉末状にしたものは、火照った体を冷やし性欲を抑制する薬剤と考えられていた.反媚薬は何もモノだけではない.ヴァルター・ベンヤミンは、「ほんの少し前のモードほどよく効く反媚薬はない」と述べている。思春期の男の子は、あらぬところで勃起しそうになったときなど、数学の宿題を必死になって思い浮かべる。数学の問題も立派な反媚薬になるのである。