聴覚記憶 *こいものがたり3* 

January 01 [Tue], 2008, 3:02
「えぇ〜。じゃんけん?いきなりどうしたの。」



「えっと、んーまぁいいじゃん。俺とじゃんけんしよ。



俺とじゃんけんしてお前が勝ったらいいものやるよ。」



「え、いいもの?」



さりげなく切り出した彼。でもいつもより伏し目がちであたしの顔を見ようとしない。



あたしの感情を見透かされたようで



悪いことなんてしてないのに 嘘を見抜かれた子供のように あたしの体は固まってしまった。



「もし、あたしが負けたら?」



「そしたら、お前が勝つまでやってやるよ。」





そして3回目でようやく勝ったあたし。最初から決まっていた勝敗。






「よっしゃ。じゃぁクリスマスにいいものやるよ!」



彼は満足そうに微笑むと、何事も無かったかのように技術室から出て行った。











**************




あたしの耳には 買ったばかりのMP3 プレーヤーから「涙がキラリ☆」が流れ込んでいる。



あの頃のテープのように音が割れることの無い安定したベース音が 逆にあたしを不安にさせる。



もう10年も経つのに この曲を聴くたびに 彼を クリスマスを 技術室を思い出す。



この10年の間に起こった出来事はなにひとつ この曲とこのエピソードの繋がりを切り離すことは出来なかった。



そう、確かにあの時 あたしは彼が好きなんだって確信した。



じゃんけん騒動の後、ちょうど席替えで隣同士になって もっと良く話すようになった。



他愛も無い話ばっかり。



学ランの裏ボタンがかっこいいとか、近くのサティのジェラートがおいしいだとか。



いつかお弁当を食べていた時、目の前でハンバーグをほお張る彼をじっと見てしまったことがあったっけ。



やっぱりどこから見てもかっこいい絵じゃなかったけど 目が離せなかった。



アイコンタクトってやつをやってみたかったのかも。そういうのってちょっと大人な感じがしてたし。



あたしの目線に気付くと 彼は思いっきりむせて真っ赤になってしまった。



またしても あたしは「可愛いなぁ」って思ってしまった。



決して見下すとか馬鹿にする類の可愛さではなく。



まだ未発達の母性をくすぐられるような感覚。悪くなかった。



でもそんな彼からあたしは逃げてしまった。




***************

















クリスマス当日は二学期の終業式と重なっていた。



ちょうどうっすら雪が待って 微妙ながらもホワイトクリスマスだねーなんて言いながら



あたしたちは各々通知表を覗き込んでいた。



彼の予告した「いいもの」に不安と期待を抱きつつ でももしそれが告白ならば、あたしはどうしたらいいんだろうと真剣に悩んでいた




何事も無いまま昇降口へ。



その時彼と彼の友人の浩介がやってきた。



あまりにも不自然すぎるタイミング。



なんでふたりでいるんだろ。



ちょっと怖くなったあたしは早く友達のいる外へ出ようとした。



そのとき



「ねぇ!ちょっと待ってよ。」



浩介があたしを呼び止めた。



「え?なぁに?」



「あ、これあいつから。」



片手をポケットに突っ込んだ浩介は 大きな袋を持った右手をぐいっとあたしの方に突き出した。



「お前がじゃんけんに勝ったから、 あいつがやるってさ。受け取ってやってよ」



あたしの足元にぽんと置くと 幸太は少し照れたように笑い、風のように消えてしまった。



彼の姿も無い。



あたしはなんか虚しくなってしまった。



あたしたちの秘密の約束を友達に頼むなんて。



ちゃんと気持ち、伝えてほしかったのに。



好きになってたのに。



悔しくて悔しくて涙が出てきた。



大人になったあたしになら 彼の不器用さは痛いほどわかる。



彼がどれだけ勇気を振り絞ったかも。



でもあたしはプレゼントをもらった恥ずかしさと



浩介たち男友達に知られてしまった恥ずかしさと



彼と二人っきりで話せなかった切なさで



パニックになってしまった。













それっきり。



あたしは彼とまともに話せなくなってしまった。



怒りにも悔しさにも羞恥にも似た感情のせいで。



そして あたしはそれからすぐ 転校してしまった。









別れの日、彼から貰った「向こうでも頑張って。こんな奴がいたってどっかで覚えててください」という手紙。



「あなた、何も言ってないじゃない。ちゃんと気持ち伝えてほしかったんだよ。




でもあたし 意地張ってごめん。」




言いたくても言えなかった言葉を あたしは彼の文字が書かれた便箋にむかってつぶやいた。
















*****************





彼から貰ったオレンジ色のチェックのマフラーは 今でもあたしの思い出箱に眠っている。



もったいなくて1回しか使えなかった。



「ありがとね。嬉しかったよ。」

聴覚記憶 *こいものがたり2* 

January 01 [Tue], 2008, 3:01
薄暗い技術室は、独特の木の香りが漂っていて、いくら掃除しても消えない木のくずが散らばっていた。



「えっと・・ ドライバー、ドライバー・・」



「うーん、この箱かな。」



「見てみようぜ!」



同時に小さな箱を覗き込むあたしたち。


1センチでも距離が近づくことが ただ嬉しかった。

だってちょっと非日常的で刺激的じゃない?





「あー!あったあった。これかな。」



「意外とすんなり見つかったな。」




彼はひょいとドライバーをつかんだ。



「よかったぁ!」



そしてあたしの目の前にVサインを作る。



その屈託のない笑顔が あたしの心を溶かした。



なんでだろ。顔自体かっこいいわけじゃないのに。



背がものすごい高いわけでもないし、スタイルがモデル並みに良いわけでもないのに。



笑うと 目なんて無くなっちゃうくらい細いのに。



でも可愛かった。






一瞬見とれるあたし。



そう、いつだってお気に入りの男の子はいた。



仲良くなった男の子はたいていみんな好きだったけど



その中に「favorite」な男子という枠組みがあった。



それから「love」という枠組みも。。



「favorite」のグループには入れ替わりは激しいものの いつも何人か在籍していた。



話してて凄く話の合う子とか、ノリが最高に合う子とか。



でもちょっと険悪になったりすると、その子はすぐに「favorite」から外されてしまうのだけど・・



そういう自由きままな、心の中のランキング表 みたいなもの。



けど「love」の枠はなかなか該当する人がいなかった。



敷居が高いのだ。



友達として好きな子はたくさいい居れど



そもそも愛してるっていえる境界線が分からなかった。



どこからが男の人として好きなのか



どんな感情を本当の恋として位置づけたらいいのか



さっぱり分からなかった。




だけど、彼の笑顔を見た時のあたしの心の中に



何か新しい感情が生まれた気がしたんだ。



もしかして、「love」枠確定かも!!?



なんて、心の片隅で思って、そんな自分に照れてしまった。








「・・・って、おい!聞いてんのか!?」



はっとするあたし。



「あっ、ごめんごめん。何?」



「何じゃねーよー。さっきから言ってるじゃん。」



学ランのポケットに手を突っ込んで



彼は窓際にある木工作業台の上にひょいと腰を下ろした。



「何か寒くて・・ぼーっとしてたわぁ。」



「お前は変温動物か!!」



不安定に宙をさまよう両足をぶらぶらさせてつっこむ。



ふと目に入った上履きの大きさに 彼が男子なんだって気付かされる。



あたしは自分の上履きに目を落として 左足のつま先を右足のつま先とすり合わせた。



隣にならんだら あたしの上履きなんてちっちゃいんだろうな。



なぜだか傍に行きたい衝動に駆られて 心臓が高鳴る。



さっきからなんかあたし 変だ。



これが 好き って感情なのかな。



さすがに隣に行く勇気はなくて あたしは彼の斜め前にある 背もたれの無い四角い椅子に腰掛けた。



「なぁ」



「ん?」



「じゃんけんしない?俺と。」










つづく・・・

聴覚記憶 *こいものがたり* 

January 01 [Tue], 2008, 2:59
聴覚、嗅覚の記憶力は 視覚にまさる。



頭で考えていたことは 時間が経つにつれて感覚がだんだん麻痺して変化していく。



今覚えている17歳の感覚は 本当に経験した感覚じゃなくて、今思いだす感覚。



目に見たこともいつのまにか色あせてくる。 それに いつのまにか美化していたりする。



ほんとうの17歳なんて 今思い返すよりも ずっとずっと 埃っぽいもの。



けだるい暑さの下で、色とりどりのキャンディーが溶け出すような そんな甘く だるい感覚。





でも聴覚、嗅覚は正直だ。

ごまかしが利かないっていうか。

その時のリアルな感覚をそのまま再現してくれる。



そのせいか、あたしは音や匂いの記憶がフラッシュバックする瞬間が、

懐かしさと 照れと 数え切れないエピソードを運んでくれる 昔のアルバムを見る次 くらいに好きだ。


だから これは

感覚だけはそのままに、たくさんの尾ひれが修飾された思い出ばなし。

みたいなもの。










スピッツの涙がキラリ☆を聞くと今でも胸がきゅんとなります。



13歳のほろ苦い感覚。

寒い廊下。学ラン。紺色のタイ。

一気にフラッシュバック。



2学期が終わろうとしていたその頃、破れたカーテンを縫うように言われていたあたしたち8人は



あーでもないこーでもないと言いながら、裁縫セットを持ち出してた。



道具が足りないって気付いて、彼とふたり、技術室に取りに行った。



今にも雪が降りそうな、よどんだ冬の午後。



校舎の一番端にあったから、廊下がものすごく長く感じた。



誰もいないから、とても静かで足音だけが響くの。



何話したかなんて覚えてない。



多分他愛もないこと。


廊下に人気がなくて静か過ぎて


それが余計に変な緊張した空気を作り上げていた。





技術室到着・・・



「えーっとあれはどこだろう・・」













つづく・・・

もうすぐ 

December 31 [Mon], 2007, 22:40
2007年もいよいよ終わり。

早かった。

ここはあたしの素直な気持ちとか

ストレートな本音とか

忘れたくない記憶の欠片とか 

書き残すとこにしようと思います。
P R
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