JOKER

2006年10月27日(金) 1時10分
 A joker in the pack.
  ―将来の影響は予測しにくい―

 昔、ジョーカーと名付けられた男がいた。彼は、どちらかといえば頭脳明晰な性格の持ち主だった。ただし、彼が自分で思う「頭の良さ」と、実際の「頭の良さ」は違っていた。
 彼は成長し、大人になった。だんだん彼の中の微妙なズレは蓄積されて、大人になる頃には、大きな隔たりが感じられるようになった。
 でも、ジョーカーは必死で取り繕った。辻褄の合うように、必死で努力した。
 帳尻を合わせるためには、少しの嘘と巧みな話術が必要だった。彼は、少しずつ少しずつ、嘘を重ねていった。そういう日々が、彼にとっての日常になった。
 
 嘘をつく。
 冗談を言う。
 道化になる。
 彼自身の言動は、彼自身を蝕み続けた。彼は自分自身に疑心暗鬼になり、なにをするにも緊張するようになった。
 しかし、彼の虚勢は止まらなかった。
 
 嘘をつき続ける。
 冗談を言い続ける。
 道化になり続ける。
 
 ジョーカーは、殻に閉じこもった。トランプの中へ。トランプの中は安全だった。色々な意味で、彼は特別な存在になった。

 もう涙も出ない。なにも感じない。なにも考えなくていい。
 ジョーカーは、そんな生き方を選んだ。

 イギリスの諺…“A joker in the pack.(将来の影響は予測しにくい。)”。この言葉は、ジョーカーの悲しい人生を語った言葉である。

コブタのぶー

2006年10月27日(金) 1時09分
 あるところにコブタが一匹いた。名前は、『ぶー』。

 ぶーが散歩をしていると、バイクの『モーター』に会った。「こんにちは、モーター君。」「やぁ、ぶー。君はいつもトロトロ歩いてるね。そんなんじゃ日が暮れちゃうよ。ボクはこの自慢のエンジンで、どこでも行けるんだよ。まぁ、君には関係ないことだけどね。」そんなことを言われても、ぶーはただ一言。「へぇ、すごいね。」
 しばらく歩くと、おしゃべり好きのコマドリの『ロビン』に会った。「こんにちは、ロビンさん。」「こんにちは、ぶーちゃん。今日はいい天気ね。ホントいい天気だわ。いい天気よね?あら、今散歩してるの?どこへ行くの?なんで一言もしゃべらないの?こんなに話しかけているのに。つまらないブタね。これだからブタっていやねぇ。あー忙しい忙しい。」ロビンは一気にまくし立てた。でもぶーは一言、言うだけ。「ロビンさん、体に気をつけて。」
 ある時ぶーがベンチで休んでいると、宝石の『ダイヤ』に会った。「こんにちは、ダイヤさん。」「あら、誰かと思えば、ブタのぶーじゃない。気安く話しかけないでくれる?あたしは宝石よ?価値が違うの。あんたみたいなその辺にいるただのブタじゃないの。分かる?」そんなダイヤの態度にも、ぶーはただ一言。「そうだね、ダイヤさんキレイだもんね。」

 ぶーは家に帰り、温かいココアを飲んで、空を見上げた。ふうっと一言。「ボクはボク。それでいいんだ。」
 その夜ぶーは、ふかふかなふとんにくるまって眠り、幸せな夢を見た。

 その後の話。バイクのモーターは、スピードの出しすぎで事故を起こし、二度と走れなくなった。コマドリのロビンはしゃべりすぎがたたって狩人に撃たれた。宝石のダイヤは、その輝きと傲慢さゆえ人々を魅了し、金が飛び交い、奪い合い、血が流れ、ダイヤにも一生ぬぐいとれない血のシミがついた。

 あなたは、この話をどう思いますか?
 あなたは、どんな生き方をしていますか?
 あなたは、どんな生き方を望みますか?

もうひとつの話

2006年10月27日(金) 1時04分
 げき−りん【逆鱗】(名)
   帝王の怒り。
 「韓非子(かんぴし)」の故事による。竜(りゅう)ののどの下に逆さに向いた鱗(うろこ)があり、人がこれに触れるとたちまち怒ってその人を殺すという。天子を竜にたとえて言ったもの。
…広辞苑より抜粋。


 昔、まだ人々が文字を持たず、言葉だけで意思を伝達していた頃の話。
人々が生活を営む場所から、かなり離れた切り立った崖ばかりの山があった。そこに、ひっそりと一匹の竜がいた。人々は竜を恐れ敬い、祠を建て、祭った。時には邑の実りを、時には武運を、祈っていた。
 竜は、何もしなかった。いや、正直に言えば、毎日邑を見守っていた。竜は邑を襲うことはないし、実りの神へ邑の幸福を願うことはなかった。なぜなら、竜は内に秘められた三つの力を使うことしかできなかったからだ。三つの力は、一生に三度しか使えない。三度目の力を使った瞬間、永遠を約束されていた竜の命は尽き果てるのだ。
 だから、竜は祈った。邑の幸福を、人々の幸せを。そして、世界の平和を…。
 幸い邑は平和で、竜は長い間秘密の力を使うことはなかった。

あるとき、竜が棲む洞窟のそばに、人間の赤ん坊が麻で編まれた籠に入れられていた。赤ん坊が泣いている。山に棲む、ほかの動物達も泣き声につられて集まってきた。子がいる鹿が言った。「この児、捨て子よ。」布に包まれた赤ん坊の胸には魔除けのお札があった。「きっと何かの事情で育てられなくなって、竜の祠にきたのね。」
 竜は怒りを全身に感じた。親は児を捨てるのか。竜には親がいなかった。いや、竜は竜であり、ほかの動物のように“誰かから生まれる”ということはなかった。だが、長い間邑の営みを見守り、千里眼で人々を見守り、山の動物達の生きている姿をみていた竜は、命の尊さを知っていた。
 「私がこの児を育てる。みんな、協力してくれるね。」竜は言った。
 動物達は、代わる代わる赤ん坊の世話をした。子のいる動物は赤ん坊にミルクを与え、力もちの動物は寝床代わりになる、あたたかい木の葉をたくさん集め、動きの俊敏な動物は児が泣き出したら一生懸命あやした。その結果、赤ん坊は順調に育った。

 竜は、一つ目の力を使うことに決心した。『悪魔を除ける力』。竜は赤ん坊の顔に、そっとやさしく息吹をかけた。「世の中には人を惑わす悪魔が多い。私はこの児を悪魔から守る。」竜は誓った。
 ある日、赤ん坊がよちよち歩きで洞窟の周りで遊んでいた時。悪魔が近づいた。「人間の児だ。取って食ってやろう。」悪魔は児に魔法をかけた。しかし、魔法は赤ん坊に反射して、悪魔自身に降りかかった。竜の息吹は、児を悪魔から守った。
 竜は、二つ目の力を使うことにした。『どんな困難にも立ち向かう勇気』。竜は赤ん坊の眼を見た。とても澄んだ、綺麗な瞳。その瞳をじっと見つめ、その眼に竜の涙をひと粒、落とした。「この力は、この児が育ち、青年になった時に大いに役立つだろう。」竜は児の将来を想い、祈った。
 
 その内、赤ん坊が病気になった。うかつだった。人間の子どもは、山の動物よりもずっと弱く、脆い。赤ん坊は高熱と激しい震えに襲われた。何日も、何日も、竜は眠らずに看病した。その大きくてゴツゴツした手で小さな布を水にひたし、赤ん坊の額に乗せた。薬草も煎じて飲ませた。
 だが、児はいっこうに回復しなかった。
 竜は、最後の力を使うことにした。『竜の命を与えること』。「私はこれで死んでしまう。だが、この児には生きてほしい。たとえ悪魔が惑わせようが、困難に立ちはだかろうが、きっとこの児は生きていける。生きて、世界を見てほしい。」竜は、自らの咽喉もとにある、一枚だけ逆さに生えた鱗をはがし、児の体に触れさせた。鱗はまぶしい光を放ちながら、児の体と同化した。
 竜はドスンと大きな音を立てて倒れた。周りにいた動物達が駆け寄る。「あなた達に、最後の願いがある。この児を、邑に送り届けてほしい。そして、児が成長するのをあなた達で見守ってほしい。児が、再び捨て子にならず、立派に育つ事を祈ってほしい。」

 竜は、死んだ。
 動物達は、竜の言った通り、児を邑に送り届けた。子どものいない、優しい夫婦のもとへ。
 竜が死ぬとき、竜が倒れた衝撃で、山崩れが起きた。地面に深い爪あとを残し、死の苦しみにもがく振動が、地を揺らした。
 人々は、竜の祠が崩れ、竜の死体に鱗がないのを見て、「竜は自分の命と引き換えに、児を守った。言い伝えにある、三つの力を児のために使ったのだ。」と言った。竜の死を嘆く人、命の尊さを知った人、様々だった。

 児は、成長し、立派な青年になり、邑の長になった。邑は豊かであり、平和だった。青年は、忘れない。竜から譲り受けた、この命を。

 時間は流れ、青年は大国の王となった。素晴らしい治世だった。竜のごとく、勇敢であり、誰にも平等で、誰よりも平和を祈る、素晴らしい王だった。
 竜と児の伝説は語り継がれる内に【逆鱗】という言葉で文字に著された。
 
 でもそれは、間違っている。
 竜はとても優しく、気高かった。
 人を殺すことはなく、素晴らしい命を生かした。
 
 今では、誰が知っているのだろう。この真実を。

彩―いろどり―

2006年10月27日(金) 1時02分
 昔、鳥が一羽、ある森に舞い降りた。
 その森には、ほかにもたくさんの鳥や動物が住んでいた。新参者の鳥は、おそるおそる、他の鳥の群れに近づいた。「こ…、こんにちは」群れのリーダーらしき鳥が、応えた。「こんにちは、新入りさん。お名前は?」鳥は、元気を振り絞って言った。「私の名前は、クロハネです。どうぞよろしく。」鳥たちは、一斉に笑った。「クロハネ!?なにそれ、変な名前ね。」「そうか、あんた黒い羽だから、そうなんだ。」「あんたがくるちょっと前にいたルリさんは、とてもキレイな羽だったわね。」「そういえば、ルリさんは新しい土地でも元気にしているかなぁ。」群れは、クロハネをそっちのけで、クロハネの知らない話題で盛り上がった。
 クロハネは、頑張って群れに馴染もうとした。面白い小噺や、新しい話題、大げさな身振り、振る舞いをした。群れは、だんだん、クロハネを受け入れた。

 クロハネは、いつも一人だった。群れにいるときでさえ、一人だった。笑っているときでさえ、群れに馴染むのに必死で、疲れ、孤独を感じた。寝る前には必ず、「明日こそ、本当の自分らしく振舞うんだ。」そう誓って、眠った。しかし、また朝になれば、群れの前で、おどけ、笑わせた。

 「おい、クロハネ。」群れで自分の名前を呼ばれるのは、とても嬉しかった。自分の話に笑ってくれる鳥がいると、嬉しかった。

 クロハネは、自分の翼の色がとても嫌いだった。黒。黒。黒。他の鳥は、黄、赤、ピンク、青、水色、銀、翡翠色…。とてもキレイだった。いつもうらやましかった。憧れていた。

 
 群れでの生活が、数年たった。クロハネはもはや新参者ではなく、完全に群れに同化した。クロハネの後に群れにやってきた鳥は、何羽もいた。みんな、クロハネがかつて『よそ者』であったことを、すっかり忘れていた。あまりにも、クロハネが馴染んでいたから。
 ある日、クロハネは仲間の鳥にこう言われた。「私、クロハネの翼の色、とても素敵だと思う。とってもいい黒だね。」クロハネは、とても嬉しかった。初めて、自分の翼の色をほめてもらえた。たとえお世辞だとしても。クロハネは、自分を少しだけ好きになれた。
 でも、クロハネの心の中にはいまだ消えない、自分が『よそ者』である気持ちがあった。自分は、いつも元気でいなくてはならなかった。いつも面白い話をしなくてはいけなかった。眠る前の誓いと祈りは、天に届かず、また実現されなかった。だから、今日、仲間にほめられた翼のことも、「なんだ、よく見れば汚い黒じゃないか。なんだよあいつ。お世辞なんか言っちゃってさ。」という気持ちが強くなり、自分を否定した。クロハネは、もっともっと自分が嫌いになった。

 クロハネは、たまらない気持ちになって、空を飛び続けた。疲れても疲れても、その黒い羽を休めることなく、飛び続けた。

 羽を痛めた。翼は汚れ、自由に動かなくなった。

 クロハネは、とぼとぼと巣に帰った。家には、仲間がいた。「どうしたの?どこへ行っていたの?心配したんだよ?」仲間は、泣きながらクロハネに抱きついた。クロハネも泣いた。翼が痛いんじゃない。自分のことを心配してくれる仲間がいたことが嬉しかった。今まで気付かなかった自分を嘆いた。自分も、仲間を心から好きだと思った。クロハネは、また泣いた。声が枯れて、頭が痛くなっても、泣き続けた。

 声が枯れて、ちゃんと聞こえたかどうかは分からないけど、クロハネは仲間に言った。

 “ごめんね、ありがとう”

 クロハネは一人じゃなくなった。仲間がいる。友達がいる。
 たまに不安になることは、たくさんあるけれども。
 それでもクロハネは、幸せだった。友達がいたから。
 
 クロハネはわかった。自分は特別じゃない。全体の一部なのだと。そして、自分がどんな自分であっても、受け入れてくれる友達がいるということを。

 
 ある森の、鳥の群れには、たくさんの羽の色がある。黄、赤、ピンク、青、水色、銀、翡翠色…そして黒。

輪廻

2006年10月27日(金) 1時00分
生まれ変わったら、絶対、ポメラニアンになりたい。
コロコロとした足に、フワフワした毛。
毎朝きちんと同じ時間に散歩へ連れて行ってもらう。
首輪は、あたしとご主人が好きな赤い色。
あたしが苦しくないように、緩めすぎないように、絶妙なポイントで留め具をしめる。
朝露に濡れたアスファルトをひたひたと歩く。
きっと冷たいだろうけど、あたしの肉球には少し気持ちがいいはず。
工事現場に近づけば、ご主人はあたしを抱えて危なくない場所まで運んでくれる。
あたしたちの姿を後ろから見てる大学生は微笑み、ご主人と工事の人は挨拶をするだろう。
キャンキャンとよく通る声は、あたしとご主人の合言葉。
人間だった頃のあたしの記憶は、これで消える。
ポメラニアンなら、あたしの声が、あなたに届くでしょう?
人間だった頃には決して届かなかった、あたしの声が。思いが。
散歩して、撫でてもらって、愛される。
生まれ変わって、ポメラニアンになって、幸せに暮らすのが、あたしの夢。
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