彩―いろどり―

2006年10月27日(金) 1時02分
 昔、鳥が一羽、ある森に舞い降りた。
 その森には、ほかにもたくさんの鳥や動物が住んでいた。新参者の鳥は、おそるおそる、他の鳥の群れに近づいた。「こ…、こんにちは」群れのリーダーらしき鳥が、応えた。「こんにちは、新入りさん。お名前は?」鳥は、元気を振り絞って言った。「私の名前は、クロハネです。どうぞよろしく。」鳥たちは、一斉に笑った。「クロハネ!?なにそれ、変な名前ね。」「そうか、あんた黒い羽だから、そうなんだ。」「あんたがくるちょっと前にいたルリさんは、とてもキレイな羽だったわね。」「そういえば、ルリさんは新しい土地でも元気にしているかなぁ。」群れは、クロハネをそっちのけで、クロハネの知らない話題で盛り上がった。
 クロハネは、頑張って群れに馴染もうとした。面白い小噺や、新しい話題、大げさな身振り、振る舞いをした。群れは、だんだん、クロハネを受け入れた。

 クロハネは、いつも一人だった。群れにいるときでさえ、一人だった。笑っているときでさえ、群れに馴染むのに必死で、疲れ、孤独を感じた。寝る前には必ず、「明日こそ、本当の自分らしく振舞うんだ。」そう誓って、眠った。しかし、また朝になれば、群れの前で、おどけ、笑わせた。

 「おい、クロハネ。」群れで自分の名前を呼ばれるのは、とても嬉しかった。自分の話に笑ってくれる鳥がいると、嬉しかった。

 クロハネは、自分の翼の色がとても嫌いだった。黒。黒。黒。他の鳥は、黄、赤、ピンク、青、水色、銀、翡翠色…。とてもキレイだった。いつもうらやましかった。憧れていた。

 
 群れでの生活が、数年たった。クロハネはもはや新参者ではなく、完全に群れに同化した。クロハネの後に群れにやってきた鳥は、何羽もいた。みんな、クロハネがかつて『よそ者』であったことを、すっかり忘れていた。あまりにも、クロハネが馴染んでいたから。
 ある日、クロハネは仲間の鳥にこう言われた。「私、クロハネの翼の色、とても素敵だと思う。とってもいい黒だね。」クロハネは、とても嬉しかった。初めて、自分の翼の色をほめてもらえた。たとえお世辞だとしても。クロハネは、自分を少しだけ好きになれた。
 でも、クロハネの心の中にはいまだ消えない、自分が『よそ者』である気持ちがあった。自分は、いつも元気でいなくてはならなかった。いつも面白い話をしなくてはいけなかった。眠る前の誓いと祈りは、天に届かず、また実現されなかった。だから、今日、仲間にほめられた翼のことも、「なんだ、よく見れば汚い黒じゃないか。なんだよあいつ。お世辞なんか言っちゃってさ。」という気持ちが強くなり、自分を否定した。クロハネは、もっともっと自分が嫌いになった。

 クロハネは、たまらない気持ちになって、空を飛び続けた。疲れても疲れても、その黒い羽を休めることなく、飛び続けた。

 羽を痛めた。翼は汚れ、自由に動かなくなった。

 クロハネは、とぼとぼと巣に帰った。家には、仲間がいた。「どうしたの?どこへ行っていたの?心配したんだよ?」仲間は、泣きながらクロハネに抱きついた。クロハネも泣いた。翼が痛いんじゃない。自分のことを心配してくれる仲間がいたことが嬉しかった。今まで気付かなかった自分を嘆いた。自分も、仲間を心から好きだと思った。クロハネは、また泣いた。声が枯れて、頭が痛くなっても、泣き続けた。

 声が枯れて、ちゃんと聞こえたかどうかは分からないけど、クロハネは仲間に言った。

 “ごめんね、ありがとう”

 クロハネは一人じゃなくなった。仲間がいる。友達がいる。
 たまに不安になることは、たくさんあるけれども。
 それでもクロハネは、幸せだった。友達がいたから。
 
 クロハネはわかった。自分は特別じゃない。全体の一部なのだと。そして、自分がどんな自分であっても、受け入れてくれる友達がいるということを。

 
 ある森の、鳥の群れには、たくさんの羽の色がある。黄、赤、ピンク、青、水色、銀、翡翠色…そして黒。
  • URL:http://yaplog.jp/sometime-asami/archive/11
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