三部構成

April 30 [Sun], 2017, 21:34
 「ラブ・プレッシャー」は、目下のところ三部構成にする予定です。序章として「ラブコメ編」と「ホームドラマ編」、そして、本編「虫退治編」となります。「ラブコメ編」は前回で終わりまして、次回からは「ホームドラマ編」に入ります。「ラブコメ編」は一章で終わりかって? まあ、主人公たちが結ばれてしまったらもう、ラブコメはおしまいでいいんじゃないでしょうかね。

ラブ・プレッシャー 2

April 09 [Sun], 2017, 18:50
ラブ・プレッシャー   ──ラブコメ編──


   (2)

 彼女の第一声。
「あなたなんて大っ嫌いっ!」
 高校生活の初日、新しいクラスで出会った葉月咲乃(はづき・さきの)に、並木次郎(なみき・じろう)は一瞬にして熱烈な恋に落ちた。ところが、その咲乃は帰宅時間、彼に向っていきなりそう叫び、自分の学生鞄を引っ掴んで教室を飛び出した。
 その場にいた全員が呆気に取られる中、次郎は奈落の底に突き落とされ、絶望に打ちひしがれた。それはもう見るだに同情を禁じ得ないほどの落ち込みようだった。
「無理もない……」
 中学時代からの親友・浜田陽樹(はまだ・はるき)が慰め顔で呟いた。
「あれほどの美人に大嫌いとか言われたら……」
「いや……信じられん……」
 
 アラン・パークスが小首を傾げた。席順が「並木」、「パークス」、「浜田」と続くため、次郎と浜田の間に挟まれて座るアランは、午前中のうちに速やかに二人と意気投合していた。
「サキコは初対面の人にあんな態度を取るような奴じゃないんだが……」
 アランは両親ともにアメリカ人で、金髪碧眼の持ち主だが、日本生まれ日本育ちのおかげで話す日本語には全く訛りがない。因みに、「サキコ」というのは葉月咲乃のニックネームだ。
「アランは彼女と知り合いなんだな」
 と、浜田。
「ああ。小学校からずっと、何ちゅうか、身内みたいなもんだが」
 頷くアラン。
「だけど、あんなサキコは初めてだよ。マジでびっくり仰天だ」
「おい……次郎……」
 席を立ってふらふらと歩き出した彼を、浜田は心配げに目で追った。次郎はがっくりと肩を落としたままよろけるようにして教室を出て行った。
「おい、次郎! 鞄忘れてるぞ!」
 二人分の荷物を抱え、慌てて後を追いかける浜田。
「うわー、可哀想」
「あたし慰めてあげようかな」
 三人を取り囲んでいた数人の女子生徒のうち、何人かが顔を見合わせた。

 数時間後、アランが咲乃の家を訪れると、彼女は自室の勉強机に突っ伏していた。
「サキコ、一体どうしたってんだよ? お前らしくもない」
 鈍重な仕草で顔を上げた咲乃は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
「どうしよう、アラン……わたし、とんでもないことしちゃった……」
「まあ確かに初対面でいきなりアレはちょっとって感じだが、次郎はお前に一目惚れしちまってたから、その気がないんならはっきりそう言ってやった方が親切ではあるだろうな、しかも早めに」
「え……?」
 ティッシュペーパーを大量に箱から取り出して目と鼻を拭っていた咲乃の動きが止まってアランを見つめた。
「それ本当……?」
 狼狽えていながら同時に歓喜で口元が緩んでいた。
「本当さ。だからお前に大っ嫌いって言われて即死した……明日あいつちゃんと学校来るかな?」
「うそ……どうしよう……ねえ、アラン、どうすればいいの、あたし……?」
 途方に暮れた風の咲乃はまたぞろ大粒の涙を溢れさせた。
「素直に自分の気持ちを伝えればいいんじゃないか。そうすりゃあ、あいつは一瞬で生き返るさ」

 ほぼ同時刻、浜田は次郎の自宅があるアパートにいた。次郎は自室のベッドに突っ伏して枕に顔を埋めている。
「おい、元気出せよ次郎」
 浜田に声をかけられても次郎は身じろぎもしない。
「告白する前にフラれちまうなんて、気の毒としか言いようがないが……でもまあ、明日はちゃんと学校へ行けよ」
「くそー」
 次郎はむくりと上体を起こした。
「これしきのことで負けてたまるか! おれは明日は何事もなかったみたいに振舞ってみせるぞ」
「そう来なくっちゃ。次郎は昔から大の負けず嫌いだもんな」
 浜田はひとまずほっとしたような表情を浮かべた。
「それでな、次郎、明日学校へ行ったら葉月さんに謝れってアランが言ってたぞ」
「おれが謝るのか?」
 次郎は眉を吊り上げた。
「だって彼女、教室を出てった時泣いてたぞ。アラン曰く、女を泣かせたら謝るのが男の役目だとさ」
「なるほど、そういう理屈か。納得した」
「それにしても、『取り敢えず謝っとけ』だなんて、アランの奴、骨の髄まで日本人じゃん」
「言えてる」

 翌日、次郎は教室に一番乗りした。昨日の今日だけに、その後次々と登校してきたクラスメートたちはみな、窺うような視線を次郎に向けてきた。
 葉月咲乃はかなり遅れてやって来た。これでクラスの全員が揃った。
「あの……葉月さん……」
 大きく深呼吸をした後、次郎は意を決して彼女の席へ歩いて行った。すると、咲乃もまたこちらへ向かってくるではないか。彼の心臓の鼓動が一層速くなった。
「あの……ごめんなさい、葉月さん……」
「わたしの方こそごめんなさい」
 二人は互いにぎごちなく頭を下げた。
「次郎くんがあまりにモテていたからムカついちゃって……それで『大嫌い』だなんて心にもないことを……」
「えっ? モテてたのはアランと浜田だよ」
 次郎は意表を突かれたように目をぱちくりさせた。
「おれ、葉月さんしか見てなかったし……」
 そう言って次郎は真っ赤な顔をして俯いた。
「じゃあこれからもわたしだけを見ていてくれる? ずっとずっと……他の女子にどんなにモテても」
「約束する。君以外の女性のことは絶対に好きにならないって」
 顔を赤らめたまま、次郎は真っ直ぐに咲乃を見つめた。彼女の方は泣きながら笑っていた。
「それならわたし、昨日言ったことは全面的に撤回します。わたしもあなたのことが大好きです、次郎くん。ここにいるみんなが証人です。みんなの前で言ってしまった失言は、みんなの前で打ち消さないと効力が半減してしまうんです」
「なるほど……それじゃあ、おれの約束もみんなが証人だ」
「おおー……」
 クラスメートたちは溜息をつき、誰からともなく拍手し始めた。
「我がクラスで成立したカップル第一号だな」

 帰路につく次郎と咲乃。何度か躊躇した後で、二人は手を繋ぎ合った。
「やべ……」
 次郎の歩く姿勢が変になった。妙に腰が引けている。
「手を繋いだだけでボッキしちまうだなんて、何たる不覚……」
 まともに咲乃の顔が見られない。後ろめたげに手を離そうとするが、逆にぎゅっと強く握り返された。
「……いいよ……」
 消え入りそうな声で咲乃は囁いた。艶めかしく頬を染め、手がじっとりと汗ばんでいた。
「しても、いいよ……」

 二人は一旦帰宅して着替えてから、小遣いをかき集めてラブホテルに向かった。高城勇とピロットの生まれ変わりである二人が結ばれるのは至極自然なことであろう。……そんなことを言うお前は誰かって? ハジャだよ。『青ずくめのハジャ』。主役を忘れてもらっちゃあ困るね。

君に幸多からんことを

September 25 [Sun], 2016, 9:46
 幾つになっても俺は馬鹿だ。恋なんてしてる場合じゃないのに。いい年をして呆れ返る。仕事に集中しなくちゃいけないのに、知らず知らずのうちに彼女のことばかり考えてしまう。
 こちらがこれほど彼女に夢中なのだから、彼女だって少しくらいは好意を持っていてくれるんじゃないか……なんて、馬鹿馬鹿しい。
 初めて会った時から好きだった。明るくて優しい笑顔……ちょっとした仕草……君のことを思い浮かべるだけで元気が出る。況してや顔を合わすことができたなら、もう幸せの絶頂だ。
 男と女が惹かれ合うのは自然なことだが、俺が今までに好きになった女性の中で、俺を好きになってくれた女性は一人もいない。今回も俺の片想いなのだ。大体幾つ年が離れていると思っているのだ。全くもってお笑い草だ。
 ならばせめて、彼女の幸せを願おう。君に幸多からんことを……。

 男が強く女を求めるのは、ココロとカラダがそのようにできているからだ。年齢なんて関係ない。だが、どんなに触れ合いを求めたとて、それは叶わない夢のまた夢だ。成人する前から、自分は女性に縁がないのだと諦めている。実際、告白した相手には悉く振られた。だから数十年に渡って、一人で生きていくことに心身を慣らしてきた。
 それでも恋愛感情を抱いてしまう。切ない思いを消し去ることができない。やるべきことはいつでも一杯あり、雑念に惑わされることなくそれらに専念したいというのに。
 全く、俺という奴はいつまで経っても進歩しない。想いを振り払おうとして果たせず、毎度御馴染みの堂々巡りを繰り返している。本当に成長しない。
 胸の痛みを解消する術はないものか。遣る瀬無くて遣り切れない。

 彼女へのこんな想いが、へんなプレッシャーを彼女に与えてしまわないことを心底願う。いずれは消え薄れていく感情。君が傷つくことがないように。今はただ、君が幸せでいてくれたらそれでいい。君に幸多からんことを……。

   ◇

 ただいま、少しずつ、「ラブ・プレッシャー」の構想を練っているところです。
 上のは、その中の素材の一つ。これがどのように加工されていくのか、それともボツになるのか……。
 なにせ、最近の実体験をそのまんま書いてしまったので、そりゃあそのまんまじゃ使えるわけもなく……。
まあ、これはこれとして……。

ある来訪者 ──タマミとカレン

August 31 [Wed], 2016, 20:45
 アケノ様の御屋敷の門を叩く者がいた。カレンが応対すると、帯剣した若い娘がこう叫んだ。
「突然の来訪をお許し願いたい。私の名はサラディ・カナル。『女剣士タマミ』様に弟子入り致したいので、御取り次ぎ願えないだろうか」
 細身だが、いかにも気の強そうな娘だ。
「生憎だけど、タマちゃんは弟子なんて取っていないのよ。潔く諦めて帰って頂戴ね」
「あんたひょっとして『半蛇の魔天使カレン』か?」
 サラディはギロリと睨んだ。
「そうよ」
「嘘をつくな! 『魔天使カレン』がそんなになよなよしてて堪るか!」
「あら。『なよなよしてる』だなんて言われたの初めてだわ。くねくねしてるって言われたことはあるけどね、元『イニシエのオロチ』だけに」
 カレンは興味深げに相手を見つめた。
「まあ、わたしの場合、男性成分のほとんどを“相棒”に持っていかれちゃったから、オリジナルのタミー・タッカーや蛇女ヒューラよりもおんなおんなしてるのは仕方がないのよね」
「タミー? ヒューラ? 誰だそれは? いや、そんなことはどうでもいい。大体なんなんだ、そのこれ見よがしにデカい乳は!」
「人の胸を指差さないで」
 カレンは両腕で胸部を庇った。
「なによ! 胸の大きさで女の値打ちを云々しようだなんて気に入らないわね!」
「……うむ……それについては私も全く同感だ……小さい方の代表として……いやいや、そういうことではなくてだなあ!」
「あんた、面白いわねえ」
 カレンはくすくす笑った。
「いいわ。どうせ弟子入りなんて無理だけど、一応タマちゃんを呼ぶだけ呼んであげるわね」

 
 ほどなくして現れた珠美のメイド服姿を見て、サラディはまた目を剥いた。
「たっ、タマミ様ともあろうお方が、そんな奉公人のような恰好をなさるとは!」
「当然よ。わたしたちは『明けの光の神』、アケノ様にお仕えする身ですもの」
 珠美は例によって捩り鉢巻きに腕まくりのメイドさんだ。
「こちらの御屋敷では朝から晩までいっぱい仕事があるのよ。剣なんて振ってる暇もないくらいにね。それでもよければ、御屋敷に住まわせてあげてもいいけど、どうする?」
「そんな……私はタマミ様に剣の稽古をつけて戴きたいのです!」
 あくまで食い下がろうとするサラディ。
「お帰り戴くしかないわね。手ぶらで帰すのも何だから、御屋敷の果樹園で採れた果物の詰め合わせをお土産に差し上げるわね」
 珠美は一つ一つが非常に大振りな果物が満載された籠を手渡した。思わずよろけるサラディ。
「とおっても美味しいわよぉ。お友達にも分けてあげてね」
 くるりと踵を返す珠美。カレンも後に続く。
「あ……待って……」
「さようなら」
 サラディを一瞥した珠美の瞳の奥がキラリと強く光った。黒目勝ちでくりくりと可愛らしくて優し気な珠美の眼差しが、時折凄まじいほどの迫力を宿すことがある。可愛いタマちゃんと男前なタマちゃん……その落差に痺れを覚えるほどだ。カレンはそんな彼女のことが大好きだった。

 気圧されてしまって立ち尽くすサラディを残し、御屋敷の門が閉ざされた。

妹十兵衛ちゃんが何故モテるのか?

July 26 [Tue], 2016, 0:02

 十兵衛こと柳生厳美は、男にも女にもよくモテる。
 それは偏に彼女の共感能力に起因するものである。
 彼女に話しかければ、返ってくる答えは、
「そうだね」
「その気持ち、すっごくよくわかるよ」
 等々、肯定的なコメントばかりが返ってくるのだ。嫌われる要素が極めて少ないわけである。
 ただし、会う人毎にそうした受け答えをするので、少々気難しい人間から見れば、『誰にでも良い顔をする八方美人』という印象が拭い切れない怖れもあったりする。
 しかしまあ、自分の思考や感情を否定せずに受け入れてくれるというのは、大抵の人間にとって嬉しいことなので、今日も今日とて、十兵衛ちゃんは人に好かれるわけである。

   ◇

 柳生厳美が山本昇二や倉井仁志と一時期親しげに話しているのを目撃したインドア派のオタク連中は、「ああ、我々ネクラなオタク族も、人気者の十兵衛たんに話しかけてもいいんだ」と気付いた。彼らもやはり明るくて活発な十兵衛が好きだったのだ。
 その中に一人、勇者がいた。名前は加藤文康(かとう・ふみやす)。ゲームをプレイするのみならず、将来はゲーム製作会社で働きたいという願望の持ち主だった。彼は勇気を振り絞って厳美に近づいた。
「十兵衛たん、お願い。これから僕らが作ろうと思ってるゲームのヒロインの、モデルになってほしいんだよ」
「モデル? 何をすればいいの?」
 厳美は加藤が差し入れに持って来たシュークリームを実に旨そうに頬張っている。
「ヒロインのコスチュームを着て、十兵衛たんの得意な剣の技を披露しているところを撮影させてほしいんだ」
「いいよ」
 厳美はあっさり承諾した。共感能力により、加藤の熱意が嘘でないことをちゃんと理解できたからである。

 しかし、本来、厳美が習熟しているのは日本刀や木刀の剣技であり、今回依頼されたのは洋風な剣士である。だが、引き受けたからには中途半端は許せない。帰宅した厳美は姉の三代に稽古相手になってくれるよう懇願した。
「えー? わたしオフの時間はデートで忙しいんだけど」
 彼氏のできた十兵衛姉は素っ気なく断った。
「うう……薄情者……」
 そう言いつつも、厳美はさほど怒ってはいなかった。自分に恋人ができたら、姉同様に家族より彼氏を優先するに決まっているからだ。
「じゃあプランBね」
 気を取り直して、厳美は諌波探偵社に駆け込んだ。
「滝口さん、剣術の稽古に付き合って下さい!」
「よし、じゃあ『南方道場』へ行こう」
「ありがとうございます。これからは滝口さんのことは『兄弟子』と呼ばせて戴きます」
 一週間後、柳生厳美は美少女剣士のモデルを見事に務め切ったのである。

 加藤が撮影した、柳生厳美のコスチューム及びアクションのデータはゲームオタク、漫画オタク、アニメオタクの仲間たちによってキャラクターデザインが起こされ、素晴らしいビジュアルが出来上がっていった。
 加藤はオタク連中の間で一躍ヒーローとなった。あの十兵衛たんのコスプレ映像を手に入れたのだから。
──十兵衛たんの美尻、パねえ! サイコー!!!!
──カワイくてエロい、ヒロインの王道だぜ!
──もー、ホントに男子ってしょうがないわねえ。十兵衛たんの最大の魅力は何と言ってもアクションの美しさでしょ?
──まあ、わたしもあんなお尻になりたいとは思うけど……。
──こうなったらわたし、美少女剣士とお姫様の禁断のラブストーリーを描いて見せるわ!
 異様なまでの盛り上がりと熱狂がオタク連中を席捲したのであった。

 加藤文康は、大学卒業後、本当にゲーム会社に就職してしまった。数年後、美少女剣士をヒロインとした『ジュベール・ソード』というゲームが発売されて、シリーズ化するほどの大人気を博すこととなる。かつての同級生たちは、そのヒロインのモデルが十兵衛こと柳生厳美であることに一目で気付くのであった。それほど忠実に、厳美の剣技と美尻がジュベールというヒロインに再現されていたのである。

 高校時代に柳生厳美にこっぴどく振られた渋沢孝登(しぶさわ・こうと)は、成人した後、普通に就職と結婚をして人並みの幸せを享受していた。
 子供たちと一緒に、『ジュベール・ソード W』に興じながら、彼ははらはらと落涙していた。
「あっ。ママー、パパがまたジュベールたん見て泣いてるよー」
「ほっときなさい。青春の甘酸っぱい思い出に浸ってるんだから」
 ママは思いの外寛大である。渋沢は鼻を啜り上げた。ジュベールというキャラクターに姿を変えてはいるものの、ゲームの中では柳生厳美はいつでもキラキラ輝いていて、決して色褪せることなく、永遠に十八歳のままなのであった。

「永遠に十八歳? それじゃあわたしたちと同じね」
 と、山下サッチーが言ったとか言わなかったとか。
こちらこちら参照──野暮な解説を加えさせて戴くと、サッチーたち諌波衆は所謂“半霊半物”という特別な存在であり、肉体年齢二十歳前後の姿を維持し続けるのである。だから、18歳で押し通すと言っても、さほど厚かましいというわけではないのだ。)

アンフェア・ディテクティブズ エピローグ

July 25 [Mon], 2016, 23:33
   (27)

   エピローグ

「やはり、ちゃんと正式に結婚すべきだ」
 山野立と源出美は、双方の両親の、真っ当な大人としての意見を素直に受け入れ、高校卒業後、役所に届け出をして入籍した。
 浜嶋モータース店長の金谷修造が二人と両親たちのためにささやかなお祝いをしてくれた。知人が経営するレストランを半日貸し切りにして、立食形式の肩の凝らないパーティーに立と出美の親しい人々を招待したのだ。
 多くの友人が駆け付けた。諌波探偵社の鈴木三郎、正兼真治、滝口義介、山下佐知恵。板倉珠美、永原カレン、本中楽美、林みみなのエンジェル探偵団。フィアンセと一緒に柳生三代刑事、妹の厳美も。先輩ファイターの築山浩輔。添野博士に藤枝教授。地元サッカーチームの小学生たち。そして……。
「ふうちゃん!」
 目敏く見つけた出美が歓声を上げた。仲木風香は天次律志と手を繋いでいた。駆け寄ってくる彼女はピンク色の可愛いワンピースがよく似合っている。
「おめでとう、出美ちゃん! よかったね。本当によかったねぇ……!」
 泣きながら風香は出美の手を握り締めた。
「ありがとう、ふうちゃん!」
 出美も感涙を溢れさせながら風香の手を握り返した。こんなに表情豊かな風香を見ることができてとても嬉しかった。

「それでふうちゃん、子守りでもしてるの?」
 出美は律志を見やりながら尋ねた。
「ええ? なんで?」
 きょとんとする風香。
「だって、この子……」
「やあねえ。律志はわたしの彼氏。恋人よ」
 風香はデレデレと笑み崩れて律志の腕を抱え込んだ。
「駄目じゃない、ふうちゃん……子供に手を出したら……」
「ええー? 律志は子供じゃないよ。わたしより三十歳くらい“年上”だよ?」
「うそ……」
「まあ、そういうこともあるかもしれないね」
 と、立。
「じゃあ、ふうちゃんもおめでとう、ってことだね」
「うん、ありがとう」
 誰もが幸せな気分に浸っていた。
                                          (終)

アンフェア・ディテクティブズ その26

July 24 [Sun], 2016, 14:35
   (26)

「ようこそ、諸君」
 錦野統が薄笑いを浮かべて言った。
「どちらがクロウヴィアンか、わかるかね?」
「ううっ。どっちだ?」
「わかんないよ」
 戸惑う士紀と厳美。
「男にも女性ホルモンがあり、女にも男性ホルモンがあるのとちょうど相似象で、サヌキである男にもアワがあり、アワである女にもサヌキがある。だからアワ量の多いなよなよしたアワ男やサヌキ量の多い男勝りなサヌキ女というのも、巷にはごくありふれて存在しているが……この場合はしかし……」
 士紀が困惑を隠そうともせずに長台詞を口にした。
「こんなのはどうだ?」
 錦野と鈴木は顔を寄せ合い、唇を重ね合わせた。
「うげっ! 気持ち悪っ! 何やってんだよ、あんたらっ!」
 身震いする厳美。彼女にはBLを楽しむ素養は欠片もなかった。
「今、クロウヴィアンは、さっきまでの俺と同じように霊体と化しているみたいだな。その状態で錦野と鈴木の間を行ったり来たりしてるんだろう。だから、両者共に同じくらいクロウヴィアンの気配が感じられるんだ」
 士紀はそう解釈した。
「それで今はどっちなの、士紀くん? 相方さんの波動なら、士紀くんの方がより的確に感じ取れる筈でしょ?」
「わからん……」
「ええい、面倒臭えな。両方ともブッ倒しちまうか?」
 滝口が気短に拳を構えた。

「うぐっ!?」
 突如、鈴木友吾が呻き声を上げた。顔を押さえる左手がぶるぶる震え、苦痛に表情が歪んでいる。
「あれは……“塞ぎの虫”だ!」
 士紀が叫んだ。鈴木の左目の辺りから黒いモヤモヤした煙状もしくは霧状のものがおどろおどろしく湧き起っているのだ。それは、かつて『スペインの魔導士』と呼ばれたアルマンド・アルテリオ・ガルシアを取り込んだ際に一緒に継承してしまった、かの魔導士の魂に巣食ったカルマであった。

「クロウヴィアンは鈴木の方だ! さすがはソレダドニアの姐さん! これ以上わかりやすいメッセージはないぜ!」
「痛い! 痛い痛いっ!」
 鈴木(=クロウヴィアン)はのた打ち回って悲鳴を上げ続けた。
「どうしたよ、クロウヴィアン? ソレダドニアを吸収して支配しているのなら、“塞ぎの虫”が湧いた時の対処法だってわかる筈だろ? さっさと『治療』したらどうなんだ?」
──凄え! 本当に凄えよ、ソレダドニアの姐さん!
 感動のあまり、士紀のうなじの毛が逆立っていた。
──ギリギリのところで抵抗して、クロウヴィアンの完全支配から逃れているんだ! さすがは俺のソレダドニアだ! 待ってろ、姐さん、今すぐ俺が力を貸すぞ!
「ぶった斬れ、十兵衛! 遠慮は要らん! 首を刎ねろ!」

 士紀の要請に呼応して、厳美は木刀内部の仕込み刀を引き抜いた。刃入れはされていないが、“半霊半物”と化している鋼の刀身は、同じく“半霊半物”の生き物には多大な威力を発揮する。厳美のように強い霊力を持つ者が使えば尚更である。

 厳美の心には恐怖心も罪悪感もなかった。ただひたすら、『何としてもソレダドニアを取り戻す』という士紀の断固たる意志に純粋に共感していた。一切の雑念を払い除けて、無念無想の境地で刀を横薙ぎに振るった。
 鈴木友吾の頭部が飛んだ。大量の血と“塞ぎの虫”を撒き散らしながら。
 長沢士紀の肉体が形状を失ってどろどろの液状になり、鈴木の首と胴体を接着した。そのまま、鈴木の肉体も溶けたように崩れていった。しばらくはぐずぐずぐにゃぐにゃとのたくるように起伏を繰り返していた肉塊が、くねくねとうねる大蛇の姿になっていた。
──士紀!
──姐さん!
 大蛇の内部で、ソレダドニアと士紀の手が重なり合った。
──どうした、クロウヴィアン? 何を怯んでいる? これが、初代『イニシエのオロチ』から伝授された、“塞ぎの虫”を祓う技法さ。『明けの光の神』……アケノ様のイメージに導かれて“塞ぎの虫”を“諌波の光”に変換する。この技法を使いこなせることこそ、『正統派』の証なんだ! いくらあたしらの肉体を乗っ取ろうとも、所詮お前は紛い物さね。ほら、あんたのパワーもどんどん“諌波の光”に変わっていくよ。さよなら、クロウヴィアン……我らの一部となって消えておしまい。
 やがて大蛇は人の形態に移行して、黒木京子の姿になった。滝口は全裸の彼女に詰襟の上着を掛けてやった。

──馬鹿だねえ、お前さん。これじゃあ、もう二度とえっちできないじゃないか。
──離れ離れになるよりはマシさ。
──そうだね……。
 ソレダドニアと長沢士紀は完全に融合して一体化した。以後、二代目『イニシエのオロチ』は、『一つ首の大蛇』という異名を持つようになる。


「世話になったな、十兵衛」
 校門の前で、ソレダドニアは柳生厳美の頬に触れた。ソレダドニアは滝口の同僚の山下佐知恵が持って来た女物の服を身に着けていた。

「本当にありがとう」
 ソレダドニアの手から長沢士紀の心が伝わってくる。

「うん……」
 厳美は静かに微笑んだ。
「それじゃあ、元気でね」
 ソレダドニアは去っていった。
プロフィール
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  • ニックネーム:八点荘七(はづき・そうしち)
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誕生日に因んで、ペンネームは「八月十七」改め「八点荘七」です。

オッサンの顔を出してもしょうがないので、小女神ちゃんの笑顔で皆様の開運・招福を祈願致します。
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