「ああ、そういえば」

April 12 [Fri], 2013, 23:50
「ああ、そういえば今日誕生日だっけ、おめでと」

なんて白々しくあなたは言うけど。
日付が変わる少し前に珍しく電話を掛けて来て、何かと思えば別に今度でもいーじゃんみたいな話で。
ついに明日の天気のことまで言い出したから切ってやろうと思った直後に。

何でもないふうを装ったつもりだろうけど、時計の針がてっぺんを指した完璧なタイミングだ。
これが笑わずにいられるかって。

「なんだよ、去年のやり方じゃ笑われたから正反対を狙ってみたのに」

そりゃね、誕生日祝いたいんだけど電話していい? とか律義にメールしてくるなんてまじめにも程があるでしょ。
サプライズもうれしいなーってその時確か言ったんだっけ。
覚えててくれたんだな、あなたはそういう人だから。
だからほんとはケータイが鳴った時からわかってた。

うれしくて、うれしくて、笑いが止まらない。

こんなに幸せな気持ちなのに、変だな、
まだ足りない。
どうしよう、言いたいけど、こんな時間だし、困ったな。
でも今日はあなたの方が一枚上手だったみたい。

「今行くよ」

金木犀-ちょっと早めの-

September 30 [Fri], 2011, 1:34
どれだけ待ち続けていたとしても、
何の前触れもなくそれは突然やってくるもの。

秋のはじまり。



軽快に自転車で遊歩道を走り抜けながら、
ああ、そろそろあのコが帰って来るんだなぁと胸を躍らせる。

台風が過ぎて、あんなに暑かった夏が終わり、
心地の良い風が正面から季節の変化を教えてくれていた。

気温が落ちて空気も澄んでいるのか、輝くいくつもの星。
一緒に見れたらいいな、なんて。


……え?


すれ違った歩行者に違和感を感じて、何メートルか過ぎたところでブレーキをかける。
振り返ると、相手もこちらに気付いたのか、自分の方に向き直るところだった。

そんな…

「なんで…?」

思わず出た声が、ひどく情けなくて恥ずかしくなったけど、
それどころじゃない。

だって目の前に、
あのコが、

「ただいま」

ふわりと、やわらかい微笑みと、声をくれる。

どうしよう、頭、真っ白で、状況が把握できない…っ

「え? 確かまだ9月…金木犀だってまだ…」

「咲いたよ。ほら」

その声と同時に、ずっと待ち望んでいた香りが、した。

―――おかえりっ!!!!」

まさかこんなに早く会えるなんて。
いつもあのコの誕生日が過ぎて、金木犀が咲いてから、
捜しに走りまくってやっと会うことが出来ていたのに。

落ち込んでやけになって叫んであいつに殴られることもなく、
今、もう。

感動の余り抱き着きそうな衝動に駆られたけど、
ブレーキを掛けた手を握り締めて耐える。

「……っ、早かったんだね」

「うん。今、着いたとこ。そしたらちょうどキミが来たからびっくりしちゃった」

そっかぁ、誰よりも早く、会えたんだと思って誇らしげな気持ちになる。

「背、伸びたね。一瞬わかんなかった」

「え? あ、うん。10センチくらいかな、急に…」

そう言えば見てる感じがちょっと違うような…
少し見上げるようにする顔がかわいすぎてまともに見れやしない。

ああ、しあわせ。

カミサマありがとう!!!!

胸の内で両手を合わせて、これで死んでも文句言わない、と宣言しつつ、
あのコの声をひとつひとつ受け取った。

夏と秋の、その。

September 20 [Tue], 2011, 1:18
夏の終わりを何が告げるのか、

俺はまだ知らずにいる―――


「おや」

雨の止み間、虫の音に誘われてフラフラと外を出てみたら、ご近所さんがそこにいた。

こんな時間に誰もいないだろうと思っていたんだけれど。

「奇遇ですねぇ、もしかしてあなたも」

「この音に?」

「はい」

やっぱり、というようにお互い笑みをこぼす。

梅が咲く頃に出会ったあの後も何度か顔を合わせた。

よほど縁があるのだろう、待ち合わせることは一度もなく、今日みたいにばったりと。

それも決まってこんな、何かに誘われるように出て来た時ばかりだ。

「この間の満月は見事でしたねぇ。さすがに今日は雲に隠れてしまっていますが…」

「あの時はちょうど飛行機雲が近くに見れて、珍しいお月見になりました」

お団子を買って来ればよかった、なんて言って笑い合ったんだっけ。

虫の音はもう聴こえていた。

「秋、みたいですねぇ」

「ですねぇ……季節の変わり目って、何が決め手なんでしょうね」

未だ昼間は太陽が眩しい残暑厳しい毎日だが、日が落ちれば転じて涼しい風が吹く。

それはまるで秋を連れて来たかのような。

徐々に迫って来てはいる、のだけれど。

「夏と秋の境目、ですか…難しいですねぇ」

「どの季節もわからないんですけどね」

はは、と笑い冗談ぽくしてみたが、内心真剣に考えてくれることに嬉しくなる。

こんな、誰も気にしないようなこと。

そして、答えは出ないのだ。

「もう少ししたら、その瞬間に出会うかもしれませんよ」

「今来ている台風が過ぎれば、また変わるかもしれないですね」

そうすればまた、顔を合わせることになるだろうな。

なんとなくそう思ったのは、予感か、願いか。
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