リック・ウェイクマンの後釜としてイエスに参加して名盤「リレイヤー」を録音、その後ムーディー・ブルーズやソロ活動でも活躍した伝説のプログレ・キーボーディスト。去年モントルーで友達になり、以来交流を続けています。彼が先週末に少し時間を取れる、というのでさっそくTGVに乗ってスイスに会いに行ってきました。最初2日間の予定が5日も滞在することになってしまいました。
パトリックの初バンド「メインホース」のベーシスト、パトリックの生涯の親友ジョン・リストリ。今はモントルー・ジャズ・フェスの録音メディアのエンジニアとして活躍しています。パトリックとともにジョンのスタジオを訪ねると、彼はライブ・イン・モントルー・シリーズのDVD化に向けて、ウェザー・リポートの1976年未発表ライブ音源テープのデジタル化の途中でした。ジャコの壮絶なベースが30年ぶりに蘇っていました。
パトリックのソロ作品に「フューチャー・メモリーズ」というシリーズがある。これはキース・ジャレットがピアノでやったように、アルバムの一切をその場で即興作曲、しかもすべてワンテイクという挑戦を何台ものシンセを使って実現したものだ。録音時に映像も同時撮影しスイス内で放映されたのだが、今になってやっとDVD発売が実現。みんなでスタジオでジョンによってリミックスされた映像を見る。スゴイ。あらためてこの人が巨人と称される訳がわかる。
今パトリックは彼の過去の10タイトル以上にもなる作品のリイシューや、関連のメディア活動に奔走しています。毎日インタビューや撮影やらミーティングの嵐。「最近はプロモーション活動だらけなのでなかなか音楽自体に集中できないんだ」とのこと。Sionという街にあるラジオ局にフォト・セッションについて行く。ここで撮る写真は、ムーグ社が記念発売するトランプ用に使われるそうだ。
ある夜、Sierreという街のカフェでみんなで飲んでいると、オーナーがパトリックに挨拶に来て、なんか弾いてよと頼む。見ると横に古いアップライトピアノが。パトリックが「じゃあ、ヒロ。一緒に何かやろう」と誘うので始まってしまった大ジャムセッション。1コーラスずつ交替でピアノに向かう。パトリックが壮絶に暴れまくる。僕も負けじと応対、弾けば弾くほどお客からお酒が回ってくる。オーナーが撮っていた写真をプリントしてくれた。裏にはありがとう、の一言。
パトリックとドライブしている間に、いろんな裏話を耳にする。若いころの話や、参加したバンド、ソロ活動・・。彼が成功した裏には、彼の常に人に会うことを怠らず繫がりを作りつづけるという性格があるのだろう、とパトリックの彼女が言う。思わず人付き合いの苦手な自分と重ね合わせて思ってしまう。でも若いころには、たまには裏切られたりといろいろな苦労があったようだ。いろいろCDを共に聴いていくうちに「ああ、このシンフォニーは一晩で書きあげたんだよ」とかって、ええっ・・?あなたはモーツァルトですかあ?彼はとにかく作曲にしろ、録音にしろ、作品を作り上げるのがメチャ早い。迷う時間を一切無駄にせず作りあげてしまうのが成功の性癖なのだろうか。
昨日モントルーでパトリックに別れをつげ、TGVに乗ってパリに帰ってきた。彼は貧乏な自分に餞別までくれた。今日はすごくポジティブな気分。彼のような天才ミュージシャンの偉大さに触れていい影響を受けているんだろうか。彼は「私が君に出来ることがどれだけあるかわからないけれど、自分をポジティブに思う心理的な効果だったらいつでも与えつづけるよ」と言ってくれた。僕の人生でこんなに精神的にプラスになることはない、と思う。逆に僕は彼に何をしてあげられるのだろう。早く自分も大きくなり、逆に彼に恩返しできるような立場に立てるようになりたい、とつくづく思うのでした。