指輪が消えた夜 

September 30 [Tue], 2008, 23:00

お世辞 

September 30 [Sun], 2007, 23:00
私が彼に「ご結婚おめでとうございます」とやっと伝えられたのは、人づてに入籍したと聞いてから数ヶ月が経過していた。

「去年お相手のお母様が亡くなっているらしいから、式とか披露宴は来年予定らしいよ?」
氷の入った梅酒のグラスをぐるぐるとまわしながら、Kさんが教えてくれた。

正式に発表はしていないものの、彼の左手の薬指にはまったセンスの良いプラチナの指輪が「やっぱり美男は美女を選ぶんだな」とからかわれていた彼と彼の奥様のセンスのよさを表していた。

「喪中なので…喪があけたら色々とお知らせすることになると思うけど…」
私のお祝いの言葉に照れたような表情を浮かべ、ありがとうの言葉の後に彼はそう続けた。

飲み会は想像以上に盛り上がり、あちこちで大きな笑い声が起こる中、私と彼は、彼の新生活についてぽつぽつと話をしながらグラスをあけていた。

指輪を褒めたらブランドを教えてくれたけど、私はうといので覚えられなかった。


私は彼が、自分の隣に寝ている女性をどんな風に抱き寄せるか知っている。
優しく髪を撫でてから、とんとんと背中をたたきそれから寝入ることを知っている。


「俺たち、ひょっとしたら一緒になっていたかもしれないね」
唐突に言われ驚いた。
ほんの1秒言葉を捜していたら、Kさんがやってきて私は何も言えないままだった。

私と話したような新居のこととか、奥さんが毎日作るお弁当のこととかをまたKさんに話す彼はとっても幸せそうで、私は彼をあれほど素敵にすることは出来ないから、あなたの奥様はあなたと同じ指輪をしている美しい女性にしかつとまりませんよ。

そう心の中でつぶやき飲み干すお酒は苦い味がした。

知らないタバコ 

January 31 [Wed], 2007, 22:45
第一印象は「鋭い目をした人だな」と思った。
初対面だった私に、隣席の知人は「彼は3年前に会社を辞めて、今は独立して仕事してるんだよ」と耳打ちした。

会場は高層ビルの中の店だった。

「ここに来ると景色、よく見える」と彼は私を窓際に連れて行ってくれた。
「他の人が見たがるかも」と私がどこうとすると、「いいから」と押しとどめた。
彼が言ったとおり見事な夜景だった。
窓ガラスには、私と彼の顔が映る。
気づかれないように、私は夜景と一緒に彼が外の景色に注ぐ眼差しを盗み見ていた。

彼がタバコに火をつけたので、灰皿を彼の前にそっと差し出すと彼は驚いたように私を見た。
「どうも」と一言だけ言った。


久しぶりに飲みすぎた気がする。

店を出るときに私が段差に足をとられそうになり、彼はそれを助け自然に手を繋いだ。
心地よかったのでそのまま駅まで向かった。

前を行く集団を追いかけてゆっくりゆっくり歩いた。

緑の匂いと、自動販売機では見たことの無い彼のタバコの匂いが入り混じり、ビルの隙間から見える夜空を仰ぎ見ながら、私はこの匂いをしばらく忘れないだろうと思った。

一人暮らしの匂い 

January 27 [Sat], 2007, 23:31
一人暮らしの男の子は抱きしめると独特の匂いがすることがある。
夜通し飲んだ明け方に特に強く香る。
降り始めの雨の匂い。
こぎれいな格好をしていても、部屋を綺麗に掃除していても隠し切れない匂いがある。


彼の人並みはずれた活躍のせいで、社内で彼の名を知らぬものは一人として存在しなかった。
そのせいで謂れの無い中傷を受けたりもした。
若造の癖に、と。

彼はかなり酔ったようで正面から私にもたれかかり、背丈の違いもありかなり屈んで私の右肩に顎を乗せた。
今までよく頑張ってきたね
そう言って彼の髪をなでると彼は甘えた声で
頑張ったことなんて無いよ
と言った。

もう「男性」と呼ばないと失礼な年齢なのに、その時の彼は「少年」だった。

愛しくて可愛らしくて、私はずっと彼の髪を撫でていた。
彼からはあの、降り始めた雨の匂いがした。

うちにきて

私の耳に口付けながら彼はそういったけれど、私はまた今度ね、と笑い身をそらし、彼の額に口付けた。

 

January 25 [Thu], 2007, 22:48
喉仏から胸板に繋がる肌は若者らしく滑らかだった。

彼は遠慮がちに私の髪の中に手を差し入れ、髪を撫でたその手をそのまま背中へと滑らせた。

私が彼の胸板に額を押し当てると彼は私の背をゆっくりと撫でながら、背中綺麗だねと小声で言った。

彼のかつての恋人はとても美しい人だった。
彼女にも同じことを囁いたのかしら。

感嘆したように彼はまた小声で
すごく綺麗な肌
と言った。

私は彼に初めて美しい肌をさらした女のような気分になって、それは思いがけず気分のいいことだったので、彼と同じように小声でありがとうと言った。

彼はきっと寂しいだけ。
私と同じように。

もう片方の腕が私の体の下を通り、私達はきつく抱き締めあった。

このままでいたら私達はもう後戻りできない気がして私はわざと声を出して苦しいよと笑ってみた。
彼は力を緩めた。

私が少し身を離すと彼の唇は私の唇をとらえ、ほんの少しでも離れるのを許さないかのようにまた腕に力を込め私を抱いた。

寂しいだけ寂しいだけ寂しいだけ。

私は何度もその言葉を自分にいい聞かせるように頭の中で繰り返しながら彼の唇を受けとめていた。

私は愛されてなんかいないの。
P R
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